第1章
夢小説設定
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「取引よ」
借金じゃない。
そう言い切ったミカの表情は、どこか複雑だった。
リヴァイはミカを見つめる。
「……どういう取引だ」
ミカは 少しの間、沈黙する。
だが、やがて静かに口を開いた。
「……私は、この子たちを地上へ送るの」
リヴァイの眉がピクリと動いた。
「まさか……売ってんのか?」
「……」
気まずそうに目を逸らしたミカのその行動は、肯定を意味していた。
「憲兵と交渉して、地上の貴族たちに子供を引き取らせてる」
リヴァイは、瞬時に嫌な予感がした。
「……お前、本気でそれが正しいと思ってんのか」
ミカは、まっすぐリヴァイを見た。
「ここにいるよりは、ずっといいと思ってる」
リヴァイは 舌打ちをかみ殺した。
「それで、ガキどもが本当に幸せになれる保証はあるのか?」
ミカは、静かに 首を横に振った。
「保証はない。危ない選択ということは重々承知している。……尽くせる限りの交渉はしてるわ」
リヴァイの 眉間に皺が寄る。
「……交渉?」
ミカはゆっくりと話し始めた。
憲兵団との交渉。
地下の人間を地上へ出すことは、普通ならありえない。
だが、地上の貴族たちは 「地下の子供を安く引き取りたい」 という欲を持っていた。
そこで、ミカは 憲兵に取引を持ちかけた。
「貴族に安く子供を渡すことが出来る。
ただし、条件がある――」
1. 一年に一度は、子供たちに直接会わせること。
2. これを最低五年間は続けること。
3. もし子供たちを苦しませたら、武力行使も辞さない。
憲兵たちは、最初は笑った。
「女が何言ってんだ?」
「武力行使って……お前、たかが地下のゴミのくせに何様だ?」
だが、ミカは 動じなかった。
「言葉が通じないなら、力で示すだけよ」
彼女は、テーブルの上に ナイフを突き立てた。
「私が取引を持ちかけてるのは、あなたたちだけじゃない。
地下には、あなたたちにとって 厄介な連中 もいるわよね?」
憲兵たちの顔色が 微かに変わる。
地下には、憲兵たちが目をつぶっている 「裏の組織」 も多い。
ミカがそこと繋がっているのであれば、彼らにとって 面倒なことになる。
「お前……どこまで知ってる?」
憲兵の声が低くなる。
ミカは、ただ 微笑んだ。
「知ってるかどうかは、関係ないわ。
でも、私は この子たちを守るつもりで動いてる ってことだけは……理解してもらいたいわね」
結局、憲兵たちは 折れた。
「……チッ。
まあいい。好きにしろ」
「……お前、それで本当に子供たちが守られると思ってんのか?」
リヴァイは低く呟いた。
ミカは、静かに微笑む。
「……そう信じてる」
リヴァイは、ミカのその表情に違和感を覚えた。
まるで 「自分を納得させるための笑顔」 に見えた。
「……子供を渡す時、金を受け取ってるのか」
リヴァイの問いに、ミカは 少しだけ表情を曇らせた。
「……ええ。それも……決して少なくない金額を貰っているわ」
「それで自分とガキ共を食いつないでるのか」
ミカは 何も言わなかった。
答えは イエス だ。
リヴァイは 奥歯を噛みしめた。
「……お前、それを正しいと思ってんのか?」
ミカは静かに 目を伏せた。
「……正しいとは思ってない」
「……は?」
「でも、他に方法がないの」
ミカは、淡々と言った。
「この子たちは、生きるために盗むしかない。ここでは、それ以外の選択肢がない。太陽の光も浴びられず、やがて腐って死にゆくのみ。でも、地上に行けば……」
リヴァイは、言葉を失った。
ミカは 現実を見ていた。
感情論ではなく、生き延びるための選択をしていた。
それでも――
「……お前、本当にそれでいいのか」
リヴァイの問いに、ミカは一瞬 何かを言いかけて、やめた。
そして、ゆっくり笑った。
「……あなたはやさしい人ね」
リヴァイは、何も言えなかった。