第1章
夢小説設定
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湿った石畳の上に、乾いた血の匂いが漂っていた。地下街に太陽が差し込むことはない。光の届かない場所で、人は生きるために何でもする。
それが 地下 での生き方だった。
ミカはその夜も、いつものように 小さな家に出入りする子供たち を寝かしつけていた。
布団と呼ぶにはあまりにも薄い布きれの上で、子供たちは静かに目を閉じている。
彼らにとって、ここは「家」だった。
バタバタバタッ――!
それは突然のことだった。扉が勢いよく開き、小さな影 が転がり込んできた。
「……っ!」
ミカはすぐに立ち上がる。
足元にしがみつくように蹲ったのは、ひとりの少年。
肩で息をし、顔には うっすらと擦り傷 があった。
「何かあったの?」
ミカは小さな声で問いかけ、少年の肩にそっと手を置く。
「……誰かに追われてるの?」
少年は 震えながら頷いた。
その瞬間――
ドンッ!!
扉が 乱暴に開かれた。
冷たい風とともに、ひとりの男が踏み込んでくる。
黒いシャツ、銀色の瞳。
地下街に似つかわしくないほど 鋭い眼光を持つ男。
「……てめぇか。このガキの親は」
低く、冷たい声が響く。
ミカは少年を背に庇うように立ち上がった。
意図的に 彼の視線を遮るように。
「……何の用?」
「そいつが俺の金を盗んだ」
ミカの指先が、ピクリと動いた。
――そういうことか。
この地下では、金は命と同じ。
少年たちは、生きるために盗むしかない。
だが、それが 免罪符にはならない。
ミカはそっと少年の背に手を添え、静かに言った。
「……ポケットの中のものを出しなさい」
少年はびくっと肩を揺らしたが、言われるまま ポケットを探る。
そして、小さく くしゃくしゃの紙幣と硬貨 を取り出した。
ミカはそれを受け取り、そっと握りしめる。
「……子供がしたことです」
そう言いながら、ミカはリヴァイの前に歩み寄る。
彼の手元に、その金を差し出した。
リヴァイは無表情のまま、それを受け取る。
「……足りねぇな」
硬貨を指で弾きながら、ぼそりと呟く。
ミカは息をつくと、背後の子供たちを振り返った。
奥では、他の子供たちがまだ眠っている。
この場で 大声を出すわけにはいかない。
ミカは 静かに扉の方を示した。
「あなたと二人で話したいわ。いいかしら?」
男は目を細め、あっさりと外へ出た。
ミカも後を追い、扉をそっと閉める。
地下街の 冷たい空気 が、肌を刺した。
男は腕を組み、壁に寄りかかる。
「で? どう償うつもりだ」
「私があなたの金を返す」
ミカは即答する。男は即答に気に食わなかったのか、追い込むように問うた。
「……それだけで済むと思ってんのか?」
男の声は低く、鋭い。
「俺の財布を盗むようなガキを放置すりゃ、また同じことを繰り返す。親なら、ちゃんとケツを拭いてやれ」
ミカは表情を変えずに男の瞳をまっすぐに見た。
「……分かった」
すっと、服の襟元に手をかける。
ミカの眉が わずかに動いた。
「……おい」
「あなたが償えと言った」
滑り落ちる布の気配。
だが、次の瞬間――
男の手がミカの手首を掴む。
冷たい指が肌に触れる。
だが、それ以上の力は込められなかった。
「……女にそこまでさせるほど、俺は腐っちゃいねぇよ」
男は低く呟くように言った。
その瞳には、僅かに苛立ちが混じっている。
ミカはふっと 笑う。
「……あなたは思ったより、甘いのね」
「……チッ」
男は舌打ちし、ミカの手を振り払う。
「ガキにしっかり教育しておけ」
それだけ言い残し、男は くるりと踵を返した。
冷え切った空気の中、静かに去っていく。
だが、ミカはその背中を じっと見つめていた。
「……待って」
男は足を止める。
「名前を、教えて」
ミカの声に、男は 一瞬だけ振り返る。
そして、低く呟いた。
「……リヴァイ」
それが、二人の出会いだった。
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