ONE
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目が覚めたとき、ミカの視界には見慣れない木造の天井が広がっていた。
薄暗い光の中、何かが焼ける香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「……ここ、どこ?」
体を起こそうとするが、全身の痛みがそれを阻む。
そのとき、ドアが音を立てて開き、金髪の大柄な男が顔を覗かせた。
「やっと起きたか」
見知らぬ男の登場にミカは怯えながらも、あの研究員たちでは無いことにホッとした。
「お前、名前は?」
「…… ミカ。」
ラクサスは彼女の答えを聞くと、テーブルに置かれた椅子に腰掛けた。
その仕草には緊張感がなく、ミカを監視するというよりは、ただ興味本位で話しかけているようだった。
「ミカ、なぜ追われてた?」
唐突な質問に、ミカは言葉を詰まらせた。
追手たちの怒声や実験室の冷たい空気が頭をよぎる。
「……わからない。ただ……逃げたかっただけ」
ラクサスはしばらく沈黙し、彼女の顔をじっと見つめた。
嘘をついているわけではないことが、その瞳から伝わったのかもしれない。
「そうか。それならそれでいい」
それだけ言うと、彼は無造作にテーブルの上に置かれていたパンとスープを指差した。
「腹が減ってんだろ。食え」
ミカは少し躊躇したが、空腹には勝てず、そっとパンを取った。
硬めのパンを噛みしめると、どこか温かい気持ちが胸の奥に広がる。
「お前の力、なんなんだ?」
パンを口に運ぶ手が止まった。
ミカは戸惑いながらも、自分が雲を操る力を持つ滅竜魔導士であることを話した。
研究所での実験のこと、自分が「雲の滅竜魔導士」と呼ばれていたこと、そして力を完全にコントロールできないこと――。
話し終えた頃には、ミカの目には涙が浮かんでいた。
自分が何者かもわからないまま、ただ生き延びるために逃げ続けてきた彼女にとって、ラクサスに話すことは勇気のいる行為だった。
ラクサスは黙って話を聞いていたが、彼女が涙を拭うと、ようやく口を開いた。
「滅竜魔導士か……だったら、俺の知り合いにもいるな」
「え……?」
「ナツってバカがよ。炎の滅竜魔導士だ。俺も雷だが、こいつはよく暴れまわってる」
ラクサスの話にミカは少し驚いた。自分と同じ力を持つ人間がいる――。
それは、孤独だった彼女にとって一筋の光のように感じられた。
「……滅竜魔導士って、私だけじゃないんだ」
「当たり前だろ。ただ、雲ってのは聞いたことがねえ。珍しいな」
ラクサスは腕を組み、考え込むような表情を見せた。
「お前がどうしたいかは知らねえが、その力、使いこなせねえとまた追われるぞ」
その言葉に、ミカの心がざわついた。
逃げ続けるだけの人生――それが嫌だという思いが、心の奥底から浮かび上がってくる。
「……力を使いこなしたい。でも……どうすればいいのか」
ラクサスはふっと笑みを浮かべた。
それは冷たいようで、どこか温かみのある笑顔だった。
「俺が教えてやるよ」
「……え?」
「俺も滅竜魔導士だ。使い方くらいなら教えてやれる。ま、気が向いたらだがな」
ミカは彼の言葉に驚きながらも、胸の中に小さな希望が芽生えるのを感じた。
自分の力と向き合う機会が訪れるかもしれない――。
「ありがとう……」
その夜、ラクサスとミカは簡素な約束を交わした。
彼女が力を使いこなせるようになるまで、ラクサスはその手助けをする。
そして、ミカは自分の生きる道を見つけるために歩き続ける。
外には、雲ひとつない夜空が広がっていた。
星明かりが、二人の未来を照らしているかのようだった。