ONE
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暗い地下室に、何度目かもわからない実験の痛みが響いていた。
ミカは鉄製の椅子に拘束され、冷たい機械の音が鳴り響く中、瞳を閉じて耐えている。
いつものことだ。叫べば無駄だと、どれだけ痛みに屈しても、誰も助けてはくれない。
「もう少しだ……あの
白衣を着た研究者がそう言いながら、装置の調整を続けている。
だがその言葉も、ミカにとってはどうでもいいことだった。
彼女の心はすでに疲弊しきり、この暗い世界で希望という言葉は消え失せていた。
ただひとつ、施設の小窓の隙間から見上げた青空だけが、彼女の記憶に鮮明に残っている。
「いつか空を見たい……あの雲に触れたい……」
それだけが彼女の唯一の願いだった。
その日、実験は突然変化を見せた。
ミカの体が徐々に霧のように薄れ、まるで空気に溶け込むかのように揺らぎ始めたのだ。
「成功だ……成功の兆しだ!」
研究者たちは歓声を上げた。
しかし、ミカにとっては喜びどころか恐怖だった。
「消えてしまう……?」
身体が霧散し、自分の存在がこの世から消え失せるような感覚。
それでも彼女は、ひとつの夢を諦めきれなかった。
「どうせ消えてしまうなら……あの空を見てからでも遅くない」
その夜、研究施設の警備が緩んだ瞬間を見計らい、ミカは動き出した。
自分の体を霧化させ、錠を抜け、窓の外へと滑り出る。
冷たい夜風が彼女の頬を撫でる。
「……空だ」
広がる星空と雲。
それは彼女が夢見ていたものそのものだった。
だが、感傷に浸る間もなく、研究者たちが警報を鳴らし、彼女を追い始めた。
「捕まえろ!逃がすな!」
必死に走るミカの体は、まだ雲の力を完全に操ることができない。
転びながら、必死に前へ進む。
森の中に逃げ込むも、息が上がり、体は悲鳴を上げる。
それでも彼女は止まらない。
「ここで捕まるくらいなら……いっそ……!」
だが、追手のひとりがその腕を掴む。
「このクソガキが!逃がすか!」
力強く髪を引っ張られ、彼女はその場に倒れ込む。
「い、痛っ……やだ、離して!」
研究員のひとりはミカの腹を殴り、気絶させようとする。
意識が薄れる中で、研究者たちの会話が耳に入ってきた。
「このガキが魔水晶実験の成果だってのに、手間ばっかりかけやがって」
「まさかこんなにも早く"雲の滅竜魔導士"を創り出すことに成功するとは。
しかし、まだまだこのガキには研究に付き合ってもらわねぇとな」
その言葉に、彼女の意識は完全に途切れた。
場面は変わり、街道。
夜の静けさを切り裂くように、追手たちの叫び声が響いている。
その遠くの物陰に立つのは、ラクサス・ドレアー。
ギルドを破門され、放浪の日々を送る彼だった。
「……雲の滅竜魔導士、だと?」
ラクサスはぼそりとつぶやき、その場を通り過ぎようとするも、言葉が彼の心に引っかかる。
魔水晶。研究。自分の過去を呼び起こすような響きだった。
「ちっ……面倒だな」
ため息をつきながらも、ラクサスは追手たちのいる方向へ歩みを進める。
追手たちの視界に現れた彼に、研究者たちは不快そうに顔を歪めた。
「なんだお前は」
「…そのガキ、どうするつもりだ?」
ラクサスは無表情で問うたが、返事を待つことも無く、雷鳴とともに拳を振り上げた。
研究者たちは抵抗も出来ず倒され、周囲は静寂を取り戻す。
意識を失っているミカを見下ろし、ラクサスはしばらく無言でその顔を見つめていた。
彼女の傷だらけの姿に、どこか自分のかつての姿を重ねたのかもしれない。
「……ふん。仕方ねえな」
ラクサスはミカを抱き上げ、その場を後にした。
それが、二人の長い物語の始まりだった――。
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