オモダカさんと秘書
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夕方、そろそろ終業の気配に各々が何処か活気付いてくる頃合い、チャンピオンリーグでの用事を済ませたアオキは、長居は無用とばかりに、早々にチャンプルジムへ戻るべく廊下を歩いていた。
「……ですね」
その時、上司であるオモダカの声が廊下の先から聞こえ、思わず足が止まる。アオキはオモダカに対して少々苦手意識を持っていた。若く情熱家の一面が自分には合わないのである。彼女は才能のある原石は、研 かれるべきであり、その個性を以って世界で輝く事を是 とするが、アオキは無個性もまた一つの個性という地味主義にあり、朴訥と過ごしていたい性質も相まって、オモダカとは水と油のような性質の違いがあった。アオキのように才能があれども、静かに無難に生きたい男には、毒に近いのである。
とはいえ彼女がいるからといって廊下を引き返して別の道を行くほど子供でもない。とにかく、出会い頭に、新たな業務を思い付かれないことを祈るばかりである。アオキは再び歩き出した。
「……では、そちらの件、本日中に任せてもかまいませんね」
「はい」
「では後ほど。頼みましたよ」
そこにはオモダカと秘書のロッカスの姿があった。例の如く、見てるだけでうんざりしそうな仕事を文字通り抱えている。オモダカは何やら新しい依頼をしたようだが、アオキにすれば、それが本日中といって任せる量に相応しくないのは一目瞭然だった。
なんだか流石に見ていられず、オモダカを見送るロッカスに、アオキは声をかけた。
「あなたも苦労しますね」
「アオキさん! お疲れさまです」
「お疲れさまです。……そちら、今日中に終わらせるには、かなりな量に見えますが」
お人好しを思わせる相合で、ロッカスが「お気づかいありがとうございます」といった。アオキは彼女ぐらいの時分の己の苦労を思い起こして、なんだか放って置けなかった。
「頼まれたことを無理に全て引き受ける必要はありません。あの人 も鬼じゃありませんから。いえばきっと理解してくれるでしょう」
業務をなんでも抱え込んでパンクする前に、一度きちんと断ることも覚えたほうがいい、と、アオキはらしくないなと思いながらも、社会人の基本をロッカスに伝えた。思い起こせば、随分前、彼女が秘書になって暫くの時も、その無理をする傾向があったように見えたが、まだそれが続いていたとは。
いつになく歳上らしい忠告を施したアオキに対し、ロッカスは何故か、変に照れた顔になった。
「あ、いえ、そのこれは……確かに多いんですけども」
「?」
「あの……がんばって終わらせたら、トップにほめていただけるので……」
この上なく嬉し気に頬を赤くするロッカスを見て、アオキは目を瞬かせた。成程とも、そうですかとも答えにくい。アオキからすると意味のわからない答えだった。
アオキは言葉少なに返事をすると「それじゃ、頑張ってください」と、形式ばかりの励ましを送り、その場を離れた。
よくわからないがあれはあれで、一つの形式として上手くいっているらしい。ノー残業を信望に、あらゆる煩雑な事を避けたいアオキからすれば、全く度し難い。仮に上司に褒めてもらえるとしても、残業代が跳ね上がることも、有給の数が増えることもない。
ロッカスも己に似て、平凡そうにみえる、常識家だと思っていたが、あれはあれで、触らないほうがいい人種だな、とリーグ外の青空を眺めて、アオキは結論づけた。
「……ですね」
その時、上司であるオモダカの声が廊下の先から聞こえ、思わず足が止まる。アオキはオモダカに対して少々苦手意識を持っていた。若く情熱家の一面が自分には合わないのである。彼女は才能のある原石は、
とはいえ彼女がいるからといって廊下を引き返して別の道を行くほど子供でもない。とにかく、出会い頭に、新たな業務を思い付かれないことを祈るばかりである。アオキは再び歩き出した。
「……では、そちらの件、本日中に任せてもかまいませんね」
「はい」
「では後ほど。頼みましたよ」
そこにはオモダカと秘書のロッカスの姿があった。例の如く、見てるだけでうんざりしそうな仕事を文字通り抱えている。オモダカは何やら新しい依頼をしたようだが、アオキにすれば、それが本日中といって任せる量に相応しくないのは一目瞭然だった。
なんだか流石に見ていられず、オモダカを見送るロッカスに、アオキは声をかけた。
「あなたも苦労しますね」
「アオキさん! お疲れさまです」
「お疲れさまです。……そちら、今日中に終わらせるには、かなりな量に見えますが」
お人好しを思わせる相合で、ロッカスが「お気づかいありがとうございます」といった。アオキは彼女ぐらいの時分の己の苦労を思い起こして、なんだか放って置けなかった。
「頼まれたことを無理に全て引き受ける必要はありません。
業務をなんでも抱え込んでパンクする前に、一度きちんと断ることも覚えたほうがいい、と、アオキはらしくないなと思いながらも、社会人の基本をロッカスに伝えた。思い起こせば、随分前、彼女が秘書になって暫くの時も、その無理をする傾向があったように見えたが、まだそれが続いていたとは。
いつになく歳上らしい忠告を施したアオキに対し、ロッカスは何故か、変に照れた顔になった。
「あ、いえ、そのこれは……確かに多いんですけども」
「?」
「あの……がんばって終わらせたら、トップにほめていただけるので……」
この上なく嬉し気に頬を赤くするロッカスを見て、アオキは目を瞬かせた。成程とも、そうですかとも答えにくい。アオキからすると意味のわからない答えだった。
アオキは言葉少なに返事をすると「それじゃ、頑張ってください」と、形式ばかりの励ましを送り、その場を離れた。
よくわからないがあれはあれで、一つの形式として上手くいっているらしい。ノー残業を信望に、あらゆる煩雑な事を避けたいアオキからすれば、全く度し難い。仮に上司に褒めてもらえるとしても、残業代が跳ね上がることも、有給の数が増えることもない。
ロッカスも己に似て、平凡そうにみえる、常識家だと思っていたが、あれはあれで、触らないほうがいい人種だな、とリーグ外の青空を眺めて、アオキは結論づけた。
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