馴れ初め
名前を教えてください<(_ _*)>
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(君 視点)
その日も私は、馴染みの商店街にある八百屋さんで夕食の材料を選んでいた。仕事帰り、こうして静かに買い物をする時間が、私にとって小さな安らぎだった。
「あの、山崎さん、今日も一日お疲れ様です」
レジを済ませ、店を出ようとしたところで、私は道の向かい側に立っている人物に小さく声をかけた。
彼は、真選組の監察――山崎退さん。
生活圏が重なっているせいか、この商店街や駅の近くで彼を見かけることは少なくない。最初は「ああ、真選組の人だ」と少し緊張していたけれど、何度か目が合い、私も思い切って挨拶をするようになってからは、たまに穏やかな会話を交わすようになった。
山崎さんは私の声に気づき、少し驚いたようにしながら、すぐに会釈を返してくれた。
「ああ、君さん。お疲れ様です。お早いお帰りなんですね」
山崎さんは少し困ったような、それでいて親切そうな、独特の表情を浮かべる。手に持っていたのは、おそらく隊士たちの夜食用なのだろう、大量の食材とマヨネーズが入った袋だった。
「はい。今日は定時で上がれたので。山崎さんは……お仕事帰り、というわけではないですよね?」
「ええ、まあ、ちょっとした用事で」
彼は買い物袋を軽く持ち上げながら苦笑した。その食材の量が、彼の「ちょっとした用事」が、隊士の胃袋を満たすという、真選組特有の「用事」なのだと察してしまう。
私はふふ、と小さな笑みをこぼした。
「相変わらず、大変なお仕事ですね」
「はは……慣れましたんで。でも、こうして葵さんとご挨拶させてもらうと、なんかちょっと、ホッとします」
山崎さんはそう言って、心底安心したような顔をした。彼の言葉はいつも飾りがなくて、妙に素直で、それが私には心地良かった。
「そうですか……私も、山崎さんとお会いできると、少しほっとします」
そう返すのが精一杯だった。本当は、私にとって彼の存在が、日々の穏やかなリズムの一部になっているのだと伝えたいけれど、そんなことは言えるはずもない。
「じゃあ、私はこれで失礼します。どうぞ、お気をつけて」
「はい、君さんも。また」
私と山崎さんは、軽く会釈を交わし、それぞれの家路についた。私達の交流は、いつもこうして、商店街の隅っこで交わされる、ささやかで穏やかな挨拶で成り立っている。
🌙 その日の夜、路地裏にて(山崎 視点)
「まったく、まだ量が足りないってか…副長、ほんとに人使いが荒いんだから……」
路地裏の自販機で缶コーヒーを買い、一人毒づく。昼間の「ちょっとした用事」から解放され、ようやく一息つける時間だ。
隊服の襟を緩め、熱いコーヒーを啜る。昼間、商店街で会った君さんの顔が頭に浮かんだ。
「私も、山崎さんとお会いできると、少しほっとします」
あの時の、彼女の控えめな笑顔と、ふわりとした優しい声。あの人は本当に、周囲の殺伐とした空気とは無縁の場所にいる人だ。
君さんとは、もう半年くらいになるだろうか。最初はただの街の住人だった。真選組の監察という立場上、俺は常に警戒心を張っている。表情も崩さないように気をつけている。
でも、彼女は最初から、俺がどんな顔をしていても、いつも穏やかに挨拶をしてくれた。その声を聞くと、張り詰めていた心が自然と緩んでいくのを感じる。
俺にとって、彼女との数分間の会話は、隊務から完全に切り離された、一種の休息だ。彼女が俺の仕事の過酷さを察して「大変なお仕事ですね」と言ってくれた時、それが心からの労いだとわかった。
ホッとする、か。
いつも落ち着いていて、言葉遣いも丁寧。俺が32歳で、未だにアンパンとバドミントンに青春を捧げているのが馬鹿らしくなるくらい、しっかりした大人の女性だ。
俺の仕事柄、いつ誰に命を狙われるか分からないし、恋愛なんて考えてもいなかった。土方さんや近藤さんのように、誰かを幸せにできる柄じゃない。
だから、今の関係が一番良いのだ。
ただの、生活圏が重なった穏やかなご近所さん。
時々会って、挨拶と軽い世間話をして、お互いの心が少しだけ温かくなる。それ以上でもそれ以下でもない、静かな交流。
そう自分に言い聞かせながらも、次は何曜日の何時頃、彼女に会えるだろうかと、つい考えてしまう自分がいる。
「……ま、また明日も頑張るか」
缶コーヒーを一気に飲み干し、俺は再び、喧騒の待つ屯所へと足を向けた。
その日も私は、馴染みの商店街にある八百屋さんで夕食の材料を選んでいた。仕事帰り、こうして静かに買い物をする時間が、私にとって小さな安らぎだった。
「あの、山崎さん、今日も一日お疲れ様です」
レジを済ませ、店を出ようとしたところで、私は道の向かい側に立っている人物に小さく声をかけた。
彼は、真選組の監察――山崎退さん。
生活圏が重なっているせいか、この商店街や駅の近くで彼を見かけることは少なくない。最初は「ああ、真選組の人だ」と少し緊張していたけれど、何度か目が合い、私も思い切って挨拶をするようになってからは、たまに穏やかな会話を交わすようになった。
山崎さんは私の声に気づき、少し驚いたようにしながら、すぐに会釈を返してくれた。
「ああ、君さん。お疲れ様です。お早いお帰りなんですね」
山崎さんは少し困ったような、それでいて親切そうな、独特の表情を浮かべる。手に持っていたのは、おそらく隊士たちの夜食用なのだろう、大量の食材とマヨネーズが入った袋だった。
「はい。今日は定時で上がれたので。山崎さんは……お仕事帰り、というわけではないですよね?」
「ええ、まあ、ちょっとした用事で」
彼は買い物袋を軽く持ち上げながら苦笑した。その食材の量が、彼の「ちょっとした用事」が、隊士の胃袋を満たすという、真選組特有の「用事」なのだと察してしまう。
私はふふ、と小さな笑みをこぼした。
「相変わらず、大変なお仕事ですね」
「はは……慣れましたんで。でも、こうして葵さんとご挨拶させてもらうと、なんかちょっと、ホッとします」
山崎さんはそう言って、心底安心したような顔をした。彼の言葉はいつも飾りがなくて、妙に素直で、それが私には心地良かった。
「そうですか……私も、山崎さんとお会いできると、少しほっとします」
そう返すのが精一杯だった。本当は、私にとって彼の存在が、日々の穏やかなリズムの一部になっているのだと伝えたいけれど、そんなことは言えるはずもない。
「じゃあ、私はこれで失礼します。どうぞ、お気をつけて」
「はい、君さんも。また」
私と山崎さんは、軽く会釈を交わし、それぞれの家路についた。私達の交流は、いつもこうして、商店街の隅っこで交わされる、ささやかで穏やかな挨拶で成り立っている。
🌙 その日の夜、路地裏にて(山崎 視点)
「まったく、まだ量が足りないってか…副長、ほんとに人使いが荒いんだから……」
路地裏の自販機で缶コーヒーを買い、一人毒づく。昼間の「ちょっとした用事」から解放され、ようやく一息つける時間だ。
隊服の襟を緩め、熱いコーヒーを啜る。昼間、商店街で会った君さんの顔が頭に浮かんだ。
「私も、山崎さんとお会いできると、少しほっとします」
あの時の、彼女の控えめな笑顔と、ふわりとした優しい声。あの人は本当に、周囲の殺伐とした空気とは無縁の場所にいる人だ。
君さんとは、もう半年くらいになるだろうか。最初はただの街の住人だった。真選組の監察という立場上、俺は常に警戒心を張っている。表情も崩さないように気をつけている。
でも、彼女は最初から、俺がどんな顔をしていても、いつも穏やかに挨拶をしてくれた。その声を聞くと、張り詰めていた心が自然と緩んでいくのを感じる。
俺にとって、彼女との数分間の会話は、隊務から完全に切り離された、一種の休息だ。彼女が俺の仕事の過酷さを察して「大変なお仕事ですね」と言ってくれた時、それが心からの労いだとわかった。
ホッとする、か。
いつも落ち着いていて、言葉遣いも丁寧。俺が32歳で、未だにアンパンとバドミントンに青春を捧げているのが馬鹿らしくなるくらい、しっかりした大人の女性だ。
俺の仕事柄、いつ誰に命を狙われるか分からないし、恋愛なんて考えてもいなかった。土方さんや近藤さんのように、誰かを幸せにできる柄じゃない。
だから、今の関係が一番良いのだ。
ただの、生活圏が重なった穏やかなご近所さん。
時々会って、挨拶と軽い世間話をして、お互いの心が少しだけ温かくなる。それ以上でもそれ以下でもない、静かな交流。
そう自分に言い聞かせながらも、次は何曜日の何時頃、彼女に会えるだろうかと、つい考えてしまう自分がいる。
「……ま、また明日も頑張るか」
缶コーヒーを一気に飲み干し、俺は再び、喧騒の待つ屯所へと足を向けた。
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