ラタトスク編4
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「ゼロス、私行きたいところがあるの」
メルトキオに戻ってきたシュア、ゼロスとそして仲間たち。
ラタトスクを孵化させるというエミルとマルタ、そしてしいなたちは2人に同行することになり、ゼロスはロイドだけを追いかけることにしたという…自分がセレスの元にいた間に纏まった話を、シュアは聞いていた。
そして少しの間悩んだ挙句、シュアはゼロスと行動を共にすることを選んだ。
なによりも、これ以上ゼロスに心配を掛けたくないと思ったからだ。
それでも自分はゼロスと一緒に行くと告げた時、ゼロスはとても憂鬱そうな顔をしていた。
『その身体で、また行くって…?』
それでももう安定してるはずだからと、頭痛も気分が悪くなることも最近ではさほどないのだと伝えると、渋々というように了承してもらえた。
なによりゼロス自身が、これ以上シュアと離れ…そしてまた彼女がいなくなってしまうことが、一番に怖いと感じていたからだろう。
「行くって、どこに」
「…父さんのとこ」
「って…」
「うん。実はね、結婚する前にも一度その報告に行ってるの。だから今回も父さんに報告と…それからね、エミルとマルタの言っていたラタトスク。ずっと昔に聞き覚えあるんだ。だから父さんなら何か知ってるかもしれない」
行ってきたい、という思いを込めてゼロスを見つめると、少しだけ考えるようにしたゼロスが小さくため息を吐く。
「しょーがねーなー。明日、出発すんだ、…早く帰ってこいよ」
「うん。ありがとう」
納得してくれたゼロスに微笑んで、シュアは素早く屋敷を後にした。
そして約1年ぶりの父親の元へと、シュアはその翼を広げて飛び立っていった。
変わらず静かな空間。
自然の声だけが時折聞こえて、シュアは1年前と同じように少しだけ成長した世界樹へと向かい合うと、声を掛ける。
「父さん。いる?」
そしてかつてと同じように、足元の草を微かに踏み鳴らしながら、呼ばれた人物がシュアの後ろから歩み寄る。
シュアはその気配を感じ、すぐに嬉しそうにそちらを振り返った。
「久しぶり」
「シュアか」
「うん。ちょっと、聞きたいことがあって」
歩み寄ってくるユアンにシュアも近寄っていくと、その先でユアンはシュアの言いたいことが分かっていたように視線を落とす。
「…なんだ?」
「ラタトスク。って…なに?昔聞いた覚えはあるんだけど、なんだったかまで思い出せなくて。それと、ロイドが関わってるみたいなの」
問いかけたシュアの視線の先で、ユアンはシュアから視線を外して黙っている。
その沈黙を少しの間待ち続けると、やがてユアンが口を開いた。
「…悪いが、それを聞きに来たのなら答えられることは何もない」
「父さん…」
「用件はそれだけか?」
そこでようやく向けられた視線に、シュアは小さく息を飲みこむ。
それでもすぐにいつものように表情を切り替えて微笑むと、シュアは小さく頷いた。
「そっか。…でも、安心した」
「安心?」
「うん。父さんが私に話せないってことは、だからロイドもきっとそうなんだなって」
話さないんじゃない。きっと、何らかの理由で話せないだけだと。
改めてそれが分かっただけでも、自分が代わりに何を追いかければいいのかが分かったような気がする。
「…そうか」
「うん。でもね、聞きたかったことはそれだけじゃないの」
そう。ゼロスにも言わなかったけれど…とシュアは思っていた。
自分が妊娠していると分かった時、その日から改めて疑問に思ったこと。
それを知っているとすれば、今向き合っているこの父親だけだろう。
「母さんのこと…」
「…!」
「今まで、あんまり訊いたことなかったよね」
その名前を口にすると、向かいのユアンがピクリと小さく反応したのが分かった。
今まではその胸中を考えるとどうにも話題に出来なかったこと。
マーテルの話題は、ひとつ間違えると彼の傷をどこか抉ってしまうような気がしていたから。
「その前に、ひとつ報告しなきゃね」
「…報告…?」
「うん。あのね、父さん」
結婚の報告をした時と同じ、やはりなんだか口にするのに少しの勇気を呼び起こしながら、
「私、子供が出来たんだ」
シュアは、やはり一息にそう言った。
目の前の父親が、それだけで普段では見られないほどの驚きを隠せないでいるのが分かる。
その目を見開いて、呼吸を忘れたようにしているユアンに、シュアは向かいで小さく笑った。
「シュア」
「うん?」
「それは…今、お前の中に…」
「うん。赤ちゃんが居るんだ」
少しの間、瞼を下ろし黙っていたユアンが再びその目をシュアへと向ける。
それにほんの少しだけ緊張しながら、シュアは次のユアンの言葉を待った。
「…それで、聞きたいことはなんだ」
「え、あ、うん…」
相変わらず、素直に言葉をくれないんだなと心の中で苦笑しながら、シュアは今は自分の背後にある世界樹を振り返った。
「…母さんのこと。ねぇ父さん、これから生まれてくるこの子は、私に似てるのかな。ゼロス?母さん?それとも…父さん?」
ゆっくりと、視線を戻した先でユアンはただ静かに自分の視線を受け止めている。
「母さんが自分の生殖機能を犠牲にして私を作ったって聞いていたから余計に、私に子供が出来ることなんて考えもしなかった。出来ないかもしれないと思ってた。だけど…こうして出来るなんて、なんだか話がデキすぎてるって思ったの。それで初めて疑問に思った」
「ねぇ、私は父さんの娘なんでしょう?」
最も訪ねたかったその一言を訪ねると、ユアンは少しの間黙ったまま…やがて小さく息を吐いた。
「その質問にも…悪いが答えられんな」
「父さん!」
「だが…仮説なら立てたことはある。マーテルは、何も言わなかったからな」
え、とシュアが驚きを零す先で、ユアンはいつものようにその腕を組んで、シュアから視線を外した。
「おそらくお前が考えているのと同じだろう。マーテルが私に伝えたのはいつかお前に伝えたのと同じものだった。だが、私はお前が生まれてすぐ、疑問に思っていた。あのマーテルがゼロからヒト一人を作り出そうと本当に考えたのか。ある種、命を簡単に考えるような…そんなことを彼女が本当に望んだのか、とな」
「…そうだね、母さんはとても優しくて清いヒトだった…」
「…ああ…そこで私は仮説を一つ立てた。もしかしたら…シュアは、ゼロから作り出したんではない、イチだけでもそこにあったんではないかとな」
イチ…そう、自分は単純に母さんと父さんの子なんじゃないのか。そう、シュアもまた仮説を立てていた。
ゼロから作られた人形じゃない。もしかしたら、ヒトなんじゃないのかと。
「理由は今でも分からない。だが、私は…おそらく、マーテルは自分の死期を悟っていたのではないかと考えている」
「しきって…あの死期?」
「あぁ。そもそもゼロから命を作れるのかすら疑問に思っていたが、それぐらいであればマーテルが悟っていたとしても…おかしくないからな」
「うん…そうだね」
「命を宿したが、それを誕生させるまでの時間が自分には無いと悟った。そして、そこで初めてマナの力を…使ったのではないか」
「…うん。私は、そこにエターナルソードの力でも借りたのかなって…思ったけど」
「あぁ。私も考えた。だがその為にエターナルソードを利用するかは…マーテルに限って、考えづらいようにも思えた。どちらにしろ、それを知っているとすればミトスだっただろうが…」
そう、ミトスはもうこの世に居ない。
シュアもまた、その仮説を立てた時久しぶりに、彼のことを思い出していた。
「…とにかく、そうしてシュアを産んだ。ゼロからマナを使ったわけではないが、マナの力を使っているのであれば今のシュアの体質にも頷けるからな」
「…うん。そうだね」
「…だが」
自分から視線を外したままのユアンが、そこでほんの少しだけ、視線を落としたのが分かる。
「どうしてそれを私に伝えなかったのか。…それだけは分からなかった」
「父さん…。聞こうとは、確かめようとはしなかったの?」
「…仮説を立てたはいいが、結局それもお前のせいで必要なくなってしまったからな」
「…え…?」
「どうしてお前が生まれたのか、自分がその子の血の繋がった父親であるか、それも大した問題ではないように思えた。…お前が、私を父と呼び始めた時から」
「!!」
視線の先で、ずっと昔、遥かマーテルが生きていた頃の昔にしか見たことのないような、ユアンはわずかに口元を緩めた柔らかい表情をしている。
それを捉えて、すぐさま自分が言葉通り責められているのではないと気付いて、それでもシュアは微かに驚いていた。
ユアンの中に、自分に対するそういった思いがあったこと。
いつだって素直じゃないのは分かっていたけれど、以前報告に来た時に聞いた彼の気持ちにも、嬉しくはあっても今ほど実感を得ることは無かった。
けれど向かいで薄く笑んでいるような父親の表情に、なんだかシュアはものすごく安心するような、それでいて言葉が出ないほど胸が詰まるような、そんな気がしていた。
「…そっか」
「あぁ…」
「…でもその時、母さんがどうして嘘をついたのか。本当のことを言わなかったのか。今の私には、分かる気がする」
「なに?」
「多分ね、父さんの事が大好きだったから、すごく大切だったから、嘘を吐いたんだと思う」
少しだけ驚いたようなユアンに視線を向けながら、シュアは思っていた。
母さんも、ふつうの女の人だったんだということ。
勇者の一味でも、もともとマナには敏感で少しだけ特殊だったとしても、それでも母さんは、マーテルはただ大切な人の前ではただの女性だったのだということ。
「子供を産んだとして、その子が父さんの子だって正直に告げたら、その後になって自分が死んでしまったときに…それが相手の負担に、重みに、障害になるんじゃないかって」
「…何を言っている。そんなわけが…」
「分かるの。だって私がもしこの子を産んだとして、それでもすぐに死ぬんだって分かっていたら…きっと私もゼロスに何も言わない。母さんのように嘘をつくか、ゼロスの前から黙っていなくなると思う」
自分の中に湧き上がってくる思いをぶつける様に話すシュアに、今度はユアンは黙ったままでその話を聞いていた。
「だからきっと母さんもそう。それでも父さんは私を娘だと思って接してくれていたけれど…それでも成長を速めてでも産みたいっていう自分のわがままで、この先父さんを縛り付けたくない、負担にはしたくないって、そう思ったんじゃないかな…」
仮説、だけどね。と付け足したシュアをユアンはまっすぐと、見つめる。
ずっと、聞くことのできなかったマーテルの意思。マーテルの想いを、ようやく今になって、初めて聞くことが出来たような、そんな気がしていた。
そしてただ見守るしかできなかった自分の娘が、こんなにも強く成長していたことにも。
ユアンはシュアを見つめながら、なんだか久しぶりに自分の中で沸々と湧き上がってくるものを感じていた。
「…そうか」
「うん。だってそれがわがままでしかなくても、産みたいの。会いたいの」
そしてだからこそゼロスが産んでくれと言ってくれたことが嬉しくて仕方がなかったのだと、シュアはその時ゼロスのことを思い浮かべていた。
そしてもう躊躇もする必要はないんだと。自分はこの子を産んでもいいのだと。
「父さん、ありがとう…」
「…いや、それはこっちの台詞だ」
今はまっすぐとこちらを見つめてくるユアンに笑いかける。
「ううん、本当に。仮説でも、それでも知れてよかった。私、父さんを信じるよ。私もただのヒトだって。だからこの子を躊躇せずに産んでいいんだって」
「…そうか。悪かったな、私がマーテルに確かめていれば、お前がそのことを悩む必要はなかった」
「ううん。だって、その気を無くさせたのは私なんでしょ?」
そう言ってはにかむシュアにユアンがふっと息を吐く。
「…シュア」
「うん?」
「元気な子を、産めばいい。いつか、顔でも見に行こう…」
「…うん」
それきり、いつもの外套を翻しシュアに背を向けたユアンが、歩き出す。
段々と自分から離れていくユアンを、シュアが見つめる。
ラタトスクのことも、ロイドのことも分からなかった。
それでも、それなら自分たちの目で真実を見つければいいのだと、今はそんな勇気すら少しずつ湧いてくるのをシュアは感じていた。
そしてまた、二度目の旅立ちの日と同じように、シュアは無性にゼロスを恋しく感じていた。
メルトキオに戻ってきたシュア、ゼロスとそして仲間たち。
ラタトスクを孵化させるというエミルとマルタ、そしてしいなたちは2人に同行することになり、ゼロスはロイドだけを追いかけることにしたという…自分がセレスの元にいた間に纏まった話を、シュアは聞いていた。
そして少しの間悩んだ挙句、シュアはゼロスと行動を共にすることを選んだ。
なによりも、これ以上ゼロスに心配を掛けたくないと思ったからだ。
それでも自分はゼロスと一緒に行くと告げた時、ゼロスはとても憂鬱そうな顔をしていた。
『その身体で、また行くって…?』
それでももう安定してるはずだからと、頭痛も気分が悪くなることも最近ではさほどないのだと伝えると、渋々というように了承してもらえた。
なによりゼロス自身が、これ以上シュアと離れ…そしてまた彼女がいなくなってしまうことが、一番に怖いと感じていたからだろう。
「行くって、どこに」
「…父さんのとこ」
「って…」
「うん。実はね、結婚する前にも一度その報告に行ってるの。だから今回も父さんに報告と…それからね、エミルとマルタの言っていたラタトスク。ずっと昔に聞き覚えあるんだ。だから父さんなら何か知ってるかもしれない」
行ってきたい、という思いを込めてゼロスを見つめると、少しだけ考えるようにしたゼロスが小さくため息を吐く。
「しょーがねーなー。明日、出発すんだ、…早く帰ってこいよ」
「うん。ありがとう」
納得してくれたゼロスに微笑んで、シュアは素早く屋敷を後にした。
そして約1年ぶりの父親の元へと、シュアはその翼を広げて飛び立っていった。
変わらず静かな空間。
自然の声だけが時折聞こえて、シュアは1年前と同じように少しだけ成長した世界樹へと向かい合うと、声を掛ける。
「父さん。いる?」
そしてかつてと同じように、足元の草を微かに踏み鳴らしながら、呼ばれた人物がシュアの後ろから歩み寄る。
シュアはその気配を感じ、すぐに嬉しそうにそちらを振り返った。
「久しぶり」
「シュアか」
「うん。ちょっと、聞きたいことがあって」
歩み寄ってくるユアンにシュアも近寄っていくと、その先でユアンはシュアの言いたいことが分かっていたように視線を落とす。
「…なんだ?」
「ラタトスク。って…なに?昔聞いた覚えはあるんだけど、なんだったかまで思い出せなくて。それと、ロイドが関わってるみたいなの」
問いかけたシュアの視線の先で、ユアンはシュアから視線を外して黙っている。
その沈黙を少しの間待ち続けると、やがてユアンが口を開いた。
「…悪いが、それを聞きに来たのなら答えられることは何もない」
「父さん…」
「用件はそれだけか?」
そこでようやく向けられた視線に、シュアは小さく息を飲みこむ。
それでもすぐにいつものように表情を切り替えて微笑むと、シュアは小さく頷いた。
「そっか。…でも、安心した」
「安心?」
「うん。父さんが私に話せないってことは、だからロイドもきっとそうなんだなって」
話さないんじゃない。きっと、何らかの理由で話せないだけだと。
改めてそれが分かっただけでも、自分が代わりに何を追いかければいいのかが分かったような気がする。
「…そうか」
「うん。でもね、聞きたかったことはそれだけじゃないの」
そう。ゼロスにも言わなかったけれど…とシュアは思っていた。
自分が妊娠していると分かった時、その日から改めて疑問に思ったこと。
それを知っているとすれば、今向き合っているこの父親だけだろう。
「母さんのこと…」
「…!」
「今まで、あんまり訊いたことなかったよね」
その名前を口にすると、向かいのユアンがピクリと小さく反応したのが分かった。
今まではその胸中を考えるとどうにも話題に出来なかったこと。
マーテルの話題は、ひとつ間違えると彼の傷をどこか抉ってしまうような気がしていたから。
「その前に、ひとつ報告しなきゃね」
「…報告…?」
「うん。あのね、父さん」
結婚の報告をした時と同じ、やはりなんだか口にするのに少しの勇気を呼び起こしながら、
「私、子供が出来たんだ」
シュアは、やはり一息にそう言った。
目の前の父親が、それだけで普段では見られないほどの驚きを隠せないでいるのが分かる。
その目を見開いて、呼吸を忘れたようにしているユアンに、シュアは向かいで小さく笑った。
「シュア」
「うん?」
「それは…今、お前の中に…」
「うん。赤ちゃんが居るんだ」
少しの間、瞼を下ろし黙っていたユアンが再びその目をシュアへと向ける。
それにほんの少しだけ緊張しながら、シュアは次のユアンの言葉を待った。
「…それで、聞きたいことはなんだ」
「え、あ、うん…」
相変わらず、素直に言葉をくれないんだなと心の中で苦笑しながら、シュアは今は自分の背後にある世界樹を振り返った。
「…母さんのこと。ねぇ父さん、これから生まれてくるこの子は、私に似てるのかな。ゼロス?母さん?それとも…父さん?」
ゆっくりと、視線を戻した先でユアンはただ静かに自分の視線を受け止めている。
「母さんが自分の生殖機能を犠牲にして私を作ったって聞いていたから余計に、私に子供が出来ることなんて考えもしなかった。出来ないかもしれないと思ってた。だけど…こうして出来るなんて、なんだか話がデキすぎてるって思ったの。それで初めて疑問に思った」
「ねぇ、私は父さんの娘なんでしょう?」
最も訪ねたかったその一言を訪ねると、ユアンは少しの間黙ったまま…やがて小さく息を吐いた。
「その質問にも…悪いが答えられんな」
「父さん!」
「だが…仮説なら立てたことはある。マーテルは、何も言わなかったからな」
え、とシュアが驚きを零す先で、ユアンはいつものようにその腕を組んで、シュアから視線を外した。
「おそらくお前が考えているのと同じだろう。マーテルが私に伝えたのはいつかお前に伝えたのと同じものだった。だが、私はお前が生まれてすぐ、疑問に思っていた。あのマーテルがゼロからヒト一人を作り出そうと本当に考えたのか。ある種、命を簡単に考えるような…そんなことを彼女が本当に望んだのか、とな」
「…そうだね、母さんはとても優しくて清いヒトだった…」
「…ああ…そこで私は仮説を一つ立てた。もしかしたら…シュアは、ゼロから作り出したんではない、イチだけでもそこにあったんではないかとな」
イチ…そう、自分は単純に母さんと父さんの子なんじゃないのか。そう、シュアもまた仮説を立てていた。
ゼロから作られた人形じゃない。もしかしたら、ヒトなんじゃないのかと。
「理由は今でも分からない。だが、私は…おそらく、マーテルは自分の死期を悟っていたのではないかと考えている」
「しきって…あの死期?」
「あぁ。そもそもゼロから命を作れるのかすら疑問に思っていたが、それぐらいであればマーテルが悟っていたとしても…おかしくないからな」
「うん…そうだね」
「命を宿したが、それを誕生させるまでの時間が自分には無いと悟った。そして、そこで初めてマナの力を…使ったのではないか」
「…うん。私は、そこにエターナルソードの力でも借りたのかなって…思ったけど」
「あぁ。私も考えた。だがその為にエターナルソードを利用するかは…マーテルに限って、考えづらいようにも思えた。どちらにしろ、それを知っているとすればミトスだっただろうが…」
そう、ミトスはもうこの世に居ない。
シュアもまた、その仮説を立てた時久しぶりに、彼のことを思い出していた。
「…とにかく、そうしてシュアを産んだ。ゼロからマナを使ったわけではないが、マナの力を使っているのであれば今のシュアの体質にも頷けるからな」
「…うん。そうだね」
「…だが」
自分から視線を外したままのユアンが、そこでほんの少しだけ、視線を落としたのが分かる。
「どうしてそれを私に伝えなかったのか。…それだけは分からなかった」
「父さん…。聞こうとは、確かめようとはしなかったの?」
「…仮説を立てたはいいが、結局それもお前のせいで必要なくなってしまったからな」
「…え…?」
「どうしてお前が生まれたのか、自分がその子の血の繋がった父親であるか、それも大した問題ではないように思えた。…お前が、私を父と呼び始めた時から」
「!!」
視線の先で、ずっと昔、遥かマーテルが生きていた頃の昔にしか見たことのないような、ユアンはわずかに口元を緩めた柔らかい表情をしている。
それを捉えて、すぐさま自分が言葉通り責められているのではないと気付いて、それでもシュアは微かに驚いていた。
ユアンの中に、自分に対するそういった思いがあったこと。
いつだって素直じゃないのは分かっていたけれど、以前報告に来た時に聞いた彼の気持ちにも、嬉しくはあっても今ほど実感を得ることは無かった。
けれど向かいで薄く笑んでいるような父親の表情に、なんだかシュアはものすごく安心するような、それでいて言葉が出ないほど胸が詰まるような、そんな気がしていた。
「…そっか」
「あぁ…」
「…でもその時、母さんがどうして嘘をついたのか。本当のことを言わなかったのか。今の私には、分かる気がする」
「なに?」
「多分ね、父さんの事が大好きだったから、すごく大切だったから、嘘を吐いたんだと思う」
少しだけ驚いたようなユアンに視線を向けながら、シュアは思っていた。
母さんも、ふつうの女の人だったんだということ。
勇者の一味でも、もともとマナには敏感で少しだけ特殊だったとしても、それでも母さんは、マーテルはただ大切な人の前ではただの女性だったのだということ。
「子供を産んだとして、その子が父さんの子だって正直に告げたら、その後になって自分が死んでしまったときに…それが相手の負担に、重みに、障害になるんじゃないかって」
「…何を言っている。そんなわけが…」
「分かるの。だって私がもしこの子を産んだとして、それでもすぐに死ぬんだって分かっていたら…きっと私もゼロスに何も言わない。母さんのように嘘をつくか、ゼロスの前から黙っていなくなると思う」
自分の中に湧き上がってくる思いをぶつける様に話すシュアに、今度はユアンは黙ったままでその話を聞いていた。
「だからきっと母さんもそう。それでも父さんは私を娘だと思って接してくれていたけれど…それでも成長を速めてでも産みたいっていう自分のわがままで、この先父さんを縛り付けたくない、負担にはしたくないって、そう思ったんじゃないかな…」
仮説、だけどね。と付け足したシュアをユアンはまっすぐと、見つめる。
ずっと、聞くことのできなかったマーテルの意思。マーテルの想いを、ようやく今になって、初めて聞くことが出来たような、そんな気がしていた。
そしてただ見守るしかできなかった自分の娘が、こんなにも強く成長していたことにも。
ユアンはシュアを見つめながら、なんだか久しぶりに自分の中で沸々と湧き上がってくるものを感じていた。
「…そうか」
「うん。だってそれがわがままでしかなくても、産みたいの。会いたいの」
そしてだからこそゼロスが産んでくれと言ってくれたことが嬉しくて仕方がなかったのだと、シュアはその時ゼロスのことを思い浮かべていた。
そしてもう躊躇もする必要はないんだと。自分はこの子を産んでもいいのだと。
「父さん、ありがとう…」
「…いや、それはこっちの台詞だ」
今はまっすぐとこちらを見つめてくるユアンに笑いかける。
「ううん、本当に。仮説でも、それでも知れてよかった。私、父さんを信じるよ。私もただのヒトだって。だからこの子を躊躇せずに産んでいいんだって」
「…そうか。悪かったな、私がマーテルに確かめていれば、お前がそのことを悩む必要はなかった」
「ううん。だって、その気を無くさせたのは私なんでしょ?」
そう言ってはにかむシュアにユアンがふっと息を吐く。
「…シュア」
「うん?」
「元気な子を、産めばいい。いつか、顔でも見に行こう…」
「…うん」
それきり、いつもの外套を翻しシュアに背を向けたユアンが、歩き出す。
段々と自分から離れていくユアンを、シュアが見つめる。
ラタトスクのことも、ロイドのことも分からなかった。
それでも、それなら自分たちの目で真実を見つければいいのだと、今はそんな勇気すら少しずつ湧いてくるのをシュアは感じていた。
そしてまた、二度目の旅立ちの日と同じように、シュアは無性にゼロスを恋しく感じていた。