ラタトスク編2
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セレスは今、どうしているだろうとシュアは思っていた。
エミルとマルタと出会い、そしてかつての旅の仲間たちとも出会い、2人の旅に同行してからしばらく経つ。
今はしいなやリーガル、コレットまでもが行動を共にしている。
あの時ひどかった頭痛も、今ではだいぶ落ち着いてきている。
ゼロスに早く会いたいと思っていたのは確かだったけれど、今ではセンチュリオンやコア、そして幾度も会ったにもかかわらず何も話をしようとしてくれないロイドが、気になって仕方がなかった。
もちろんロイドを追えば、そのロイドを追っているゼロスにも会えるかもしれないとも、シュアは思っていた。
まだ遥か先に小さくメルトキオを捉えて、シュアはその義妹を思い浮かべた。
ゼロスを探しに行きたいと飛び出したはいいけれど、それきり一度も戻らないままでいた。
変わりはないだろうか。任されたにも関わらず飛び出してきてしまったことが、どうしてもシュアの中で罪悪感として残っていた。
その眉間に皺を寄せてメルトキオを見つめたままのシュアに、気付いたしいながその隣に並ぶと、声を掛けた。
「シュア?どうかしたかい?」
「え、あ、ううん」
「メルトキオ、久々に戻ってくるんだろ?それにしても、新婚生活はどうだい?」
すぐにからかうように笑ったしいながそう距離を詰めてくる。
「ど、どうって…」
なんと答えていいのか分からずシュアが返答に困っていると、ふいに声を上げたのは自分たちの後ろを歩いていたマルタだった。
「え、シュアさん結婚してるんですか!?」
心なしか、その瞳がきらきらと輝いているような気がして、シュアは少しだけそれを不思議に思いながらも頷いた。
「う、うん。そうだけど…?」
「ええー!どうして今まで教えてくれなかったんですか!それも新婚だなんて!」
どうして、と言われても…思わず返答に詰まったシュアには気付かないように、マルタは相変わらず興味津々とシュアの顔を覗き込んでいる。
その横では、エミルがそんなマルタに驚くでもなく苦笑していた。
「シュアさんの旦那さんなら、きっと素敵な人なんだろうなー…どんな人ですか?やっぱり毎日、ラブラブなんですか?憧れちゃうー!」
結局返答が欲しいのかそうでないのか、それでも最後の一言になんとなくその意味を納得して、シュアは苦笑した。
「うーん、素敵な人…そうだね、マルタがどう思うかはわからないけど、私にとっては…」
少しだけ思い出すようにその顔を浮かべて、シュアは続ける。
「信頼出来て、頼りになって、いつだって私を助けてくれる…かっこいい旦那さん、かな」
その名前を言ったところで今のマルタには、つい正直に零したようなこの本音が伝わることはないだろう。
そう思って答えた言葉に、今度は隣のしいなが呆れたように首を振った。
「シュアさん…旦那さんのことすっごく愛してるんですね!そんなかっこいい旦那さんが居て、羨ましいなー…」
「な、なんか大袈裟だけど…そうだね、私は幸せ者だと思うよ」
「わたし、会ってみたいです!シュアさんの旦那さんに!」
ふいに、そう言って一層その目を輝かせながら詰めよるマルタに、シュアはう、と言葉を詰まらせた。
会ったことあるんだよとその名前を告げてもいいけれど、このきらきら輝いた瞳はきっとそうしたら一気にその色を変えるだろう。
「う、うん。その内、ね。きっと会えるよ」
結局、なんとなくそう誤魔化したシュアにも気づかないように、マルタは楽しみだと相変わらずの上機嫌で自分の世界に入り込んでいる。
それに苦笑してから、シュアは先ほどよりも少し大きく映るメルトキオを視界に捉え、はっとしたように仲間たちを振り返った。
「あ、みんな、ごめん。ちょっと個人的な用があるから…先にメルトキオ行ってるね!」
「え?先にって…」
突然のシュアの言葉に、エミルが不思議そうに言葉を返す。
「後で、町の入口で合流しよう」
「しょうがないね、いっといで」
結局エミルのその疑問に答えることはなく、背中を押してくれたしいなに笑いかけて、シュアはすぐに駆け出した。
そのまま3メートルは進んだだろうというところで、ふいにその背中に羽を広げて飛び立つシュアを、エミルと正気に戻ったマルタが呆然と見守る。
萌黄色の軌跡を少しずつ残しながら、シュアはすぐに久しい屋敷の庭へと、下り立っていった。
「セレスちゃん」
その扉をノックし、聞こえてきた返事にゆっくりと扉を開きながら、シュアはその名前を呼んでいた。
「!お義姉さま…!」
窓際に立ったままこちらを振り返るセレスに気づいて、すぐにシュアは目の前の義妹に微笑みかける。
「ただいま。…ごめんね、急にいなくなったまま、しばらく帰ってこられなくて」
「お義姉さま…いいえ、おかえりなさいませ」
微笑み返してくれたセレスにも、そしてなにより家を出た時から特に変わりも無さそうなことにほっとしながら、シュアはその扉を閉めてセレスの方へと歩み寄る。
「調子は、どう?変わりない?」
「はい。それよりお義姉さま…お兄様を探しに行かれたのでしたよね」
「え?あ、うん」
「会われましたか?」
「…ううん」
そう、ゼロスとは結局これまで会えず仕舞いでいた。
素直にそう返すと、向かいでセレスが小さく苦笑いしてるのが分かる。
「お兄様なら…少し前に一度戻られましたわ」
「え、…え!?」
「すれ違ってしまいましたのね。お義姉さまのことを話したら、相変わらずだなぁって、呆れてましたわ」
思い出して小さく笑うセレスに、すぐにシュアは恥ずかしくなって苦笑した。
なんだ、ということは、ゼロスに会うならこの屋敷で大人しく待っているのが一番だったわけだ。
すぐに少しだけ空しくなりながらも、シュアはそれを隠すようにセレスの前では変わらず笑ってみせた。
「そっか。大人しくしてればよかったかな?」
「ふふ、そうですわね」
「あ…それでね、セレスちゃん。私、もう少し旅を続けたいの。だから、すぐにまた行かなくちゃならないの」
その手を拾いながら話したシュアに、すぐに向かいのセレスの顔からふっと笑みが消える。
そっと目を伏せたその表情に、シュアはちくりと胸が痛む気がしたけれど、セレスはそれでもすぐにその顔に笑みを浮かべた。
「そう、なんですのね。分かりましたわ。わたくしは大丈夫です」
「セレスちゃん…」
「大人しく待ってます。だから…どうか気を付けて」
その手を握り返されて、シュアははっとしてセレスを見上げた。
その先で、優しい眼差しが自分を見つめていることにシュアはそっと、笑い返す。
少しの寂しさは、確かに隠されていたけれど。
この屋敷に暮らし始めた頃とは違う、そんなセレスの目や表情が、今はとても嬉しかった。
初めのころはよくも知らない人間がこの屋敷に共に暮らしていることに…戸惑いも、疑問も、抵抗もあっただろう。
それでも次第に心を開いてくれていたのは分かっていたし、結婚式のその日からは自分のことをお義姉さまとも呼んでくれている。
ゆっくりとその身体を包んで腕に抱きしめると、セレスの静かな鼓動が伝わってきてシュアはまた少しだけ、安堵した。
「旅立つ前に、少しだけ時間があるから…お昼でも一緒に食べよっか」
身体を離して覗き込んだ先で、セレスが嬉しそうに頷く。
「じゃあすぐ材料買ってきて私が直接作るから、ちょっと待ってて」
味は保証できないけどね、と片目を瞑ったシュアに、すぐにセレスが小さく笑った。
慣れないことはするものじゃない、とシュアは思っていた。
屋敷の厨房、一般家庭の台所の2倍はある空間で、一人シュアは切磋琢磨している。
料理はともかく普段あまりしない食材の買い物にも、思ったより手間取ってしまった。
料理に関してもそこまで苦手というわけではなかったけれど、だからといって得意というわけでもない。
こればっかりはマナの力でどうこう出来ないなと思ってシュアは一人苦笑した。
と、
「―――!!」
なにやら騒がしい声と物音がして、今まさにタマネギを切ろうとしていた手を止めた。
気のせいかな?と思ったところで再び乱暴に扉を閉めたような、バタンと物音がしてようやく包丁を手放す。
すぐに厨房を出たシュアはエントランスへと辿り着くなり、その眉間にしわを寄せた。
そこにはほぼ屋敷中の、使用人たちが集まっていた。
いつもは広く感じるエントランスも、今はそう思えないくらいに。
それぞれの表情が深刻そうで、それを疑問に思いながらも、シュアは少し先にすぐにセバスチャンを見つけて声を掛けた。
「みなさん、どうしたんですか?」
「シュアさま。実は…セレス様が…」
セバスチャンの濁した言葉の続きを催促すると、その話を聞いたシュアは考える間もなくすぐさま屋敷を飛び出した。
ロイドが…セレスちゃんを攫った?
また、ロイドだ、と思った。
そして聞こえてくる話は全て、それが本当にロイドなのかと思うものばかりだ。
まだこの辺りにいるだろうか。
注意深く辺りを見回しながら、シュアは走り続ける。
と、
視界を見慣れたなにかが横切って条件反射に目を向けた。
そしてその先には、見慣れた赤。
結婚式の時ですら、変わらず着ていた…ロイドのいつもの服。
目の前でどんどん離れていこうとするそのロイドが、同じく見慣れた服を着た人物を担いでいるのが分かる。
それは、セバスチャンの言っていた通りのその姿、セレスだった。
屋敷での話が一気に現実味を帯びて、思わず足を止めたシュアの先で、ロイドはセレスを抱えたままどんどん離れていく。
それにすぐにはっとしたシュアは再び足を動かし、とにかくとその2人の後を追った。
メルトキオを二分するように走る町の中央の階段を駆け下りる。
そのシュアの先を行くロイドたちを見失わないよう、気を付けていたシュアの視界に、またもや見慣れた姿を見つけて目を向けた。
それから数秒、シュアは視線を完全に奪われた。
ゼロスだ。声の出ないまま呟き、変わらず足は動かしたまま、今度は喉の奥から声を引き上げてその名前を呼んだ。
「ゼロス!!」
ゼロスが、振り返る。
そしてシュアの姿を見つけると、すぐにいつもよりも大きくその目を見開いた。
「シュア!?」
そこにはゼロスだけではない。改めて気づくとエミルやマルタ、そしてしいな達もすでに到着していたのかそこでゼロスに向かい合っている。
「ゼロス……、っとにかく、私はセレスちゃん達を追う!事情はみんなに聞いて!」
「はあ?おい、シュア、」
ずっと会いたくて探しにまで出たゼロスがそこにいる。
けれど、と視線を強引にセレスたちの方へと引き戻したシュアは、その先で今やメルトキオを出ようとしている2人の姿を捉え、そのままに足を動かす。
今や自分から視線を外してそのまま目の前を通り過ぎようとするシュアを、けれどゼロスはすぐにその腕を掴んで引き留めた。
走り続けていた反動か、そのまま体が持って行かれそうになってすぐにゼロスは両足に力を込めた。
「っ、ゼロス!」
すぐに反論を唱えようとするシュアを、その言葉を。
そのまま文字通り、ゼロスは塞いだ。
乱暴に、ぶつかるように合わさった唇同士が離れて、すぐに離したシュアが今は立ち止まって驚いたようにゼロスを見つめる。
「…頼んだぜ」
そしてそれだけ言うとすぐに向けられた自分への視線を、シュアは捉えて1秒、すぐに頷いて再び階段を駆け下りていった。
ほんの一瞬の再会の挨拶だったけれど。
それだけで焦りやもどかしさが、どこかに消えていくような気がした。
そのままメルトキオの門をくぐり、走り続ける姿が見えなくなるまで…シュアを見つめ続けるその時のゼロスを、エミルは驚きを貼りつけたままに見つめていた。
目の前で交わされた一瞬のキス。見ているだけなのにそれ自体にも妙に恥ずかしく感じて、すぐに隣のマルタを振り返る。
あれだけマルタの会いたがっていたシュアの旦那さんは、もしかして…
けれど、マルタは気付いていないようにただこの状況に真剣に眉根を寄せているだけで、エミルはなんだかそれにほっとしたような、もどかしく思うような、そんな気がしていた。
エミルとマルタと出会い、そしてかつての旅の仲間たちとも出会い、2人の旅に同行してからしばらく経つ。
今はしいなやリーガル、コレットまでもが行動を共にしている。
あの時ひどかった頭痛も、今ではだいぶ落ち着いてきている。
ゼロスに早く会いたいと思っていたのは確かだったけれど、今ではセンチュリオンやコア、そして幾度も会ったにもかかわらず何も話をしようとしてくれないロイドが、気になって仕方がなかった。
もちろんロイドを追えば、そのロイドを追っているゼロスにも会えるかもしれないとも、シュアは思っていた。
まだ遥か先に小さくメルトキオを捉えて、シュアはその義妹を思い浮かべた。
ゼロスを探しに行きたいと飛び出したはいいけれど、それきり一度も戻らないままでいた。
変わりはないだろうか。任されたにも関わらず飛び出してきてしまったことが、どうしてもシュアの中で罪悪感として残っていた。
その眉間に皺を寄せてメルトキオを見つめたままのシュアに、気付いたしいながその隣に並ぶと、声を掛けた。
「シュア?どうかしたかい?」
「え、あ、ううん」
「メルトキオ、久々に戻ってくるんだろ?それにしても、新婚生活はどうだい?」
すぐにからかうように笑ったしいながそう距離を詰めてくる。
「ど、どうって…」
なんと答えていいのか分からずシュアが返答に困っていると、ふいに声を上げたのは自分たちの後ろを歩いていたマルタだった。
「え、シュアさん結婚してるんですか!?」
心なしか、その瞳がきらきらと輝いているような気がして、シュアは少しだけそれを不思議に思いながらも頷いた。
「う、うん。そうだけど…?」
「ええー!どうして今まで教えてくれなかったんですか!それも新婚だなんて!」
どうして、と言われても…思わず返答に詰まったシュアには気付かないように、マルタは相変わらず興味津々とシュアの顔を覗き込んでいる。
その横では、エミルがそんなマルタに驚くでもなく苦笑していた。
「シュアさんの旦那さんなら、きっと素敵な人なんだろうなー…どんな人ですか?やっぱり毎日、ラブラブなんですか?憧れちゃうー!」
結局返答が欲しいのかそうでないのか、それでも最後の一言になんとなくその意味を納得して、シュアは苦笑した。
「うーん、素敵な人…そうだね、マルタがどう思うかはわからないけど、私にとっては…」
少しだけ思い出すようにその顔を浮かべて、シュアは続ける。
「信頼出来て、頼りになって、いつだって私を助けてくれる…かっこいい旦那さん、かな」
その名前を言ったところで今のマルタには、つい正直に零したようなこの本音が伝わることはないだろう。
そう思って答えた言葉に、今度は隣のしいなが呆れたように首を振った。
「シュアさん…旦那さんのことすっごく愛してるんですね!そんなかっこいい旦那さんが居て、羨ましいなー…」
「な、なんか大袈裟だけど…そうだね、私は幸せ者だと思うよ」
「わたし、会ってみたいです!シュアさんの旦那さんに!」
ふいに、そう言って一層その目を輝かせながら詰めよるマルタに、シュアはう、と言葉を詰まらせた。
会ったことあるんだよとその名前を告げてもいいけれど、このきらきら輝いた瞳はきっとそうしたら一気にその色を変えるだろう。
「う、うん。その内、ね。きっと会えるよ」
結局、なんとなくそう誤魔化したシュアにも気づかないように、マルタは楽しみだと相変わらずの上機嫌で自分の世界に入り込んでいる。
それに苦笑してから、シュアは先ほどよりも少し大きく映るメルトキオを視界に捉え、はっとしたように仲間たちを振り返った。
「あ、みんな、ごめん。ちょっと個人的な用があるから…先にメルトキオ行ってるね!」
「え?先にって…」
突然のシュアの言葉に、エミルが不思議そうに言葉を返す。
「後で、町の入口で合流しよう」
「しょうがないね、いっといで」
結局エミルのその疑問に答えることはなく、背中を押してくれたしいなに笑いかけて、シュアはすぐに駆け出した。
そのまま3メートルは進んだだろうというところで、ふいにその背中に羽を広げて飛び立つシュアを、エミルと正気に戻ったマルタが呆然と見守る。
萌黄色の軌跡を少しずつ残しながら、シュアはすぐに久しい屋敷の庭へと、下り立っていった。
「セレスちゃん」
その扉をノックし、聞こえてきた返事にゆっくりと扉を開きながら、シュアはその名前を呼んでいた。
「!お義姉さま…!」
窓際に立ったままこちらを振り返るセレスに気づいて、すぐにシュアは目の前の義妹に微笑みかける。
「ただいま。…ごめんね、急にいなくなったまま、しばらく帰ってこられなくて」
「お義姉さま…いいえ、おかえりなさいませ」
微笑み返してくれたセレスにも、そしてなにより家を出た時から特に変わりも無さそうなことにほっとしながら、シュアはその扉を閉めてセレスの方へと歩み寄る。
「調子は、どう?変わりない?」
「はい。それよりお義姉さま…お兄様を探しに行かれたのでしたよね」
「え?あ、うん」
「会われましたか?」
「…ううん」
そう、ゼロスとは結局これまで会えず仕舞いでいた。
素直にそう返すと、向かいでセレスが小さく苦笑いしてるのが分かる。
「お兄様なら…少し前に一度戻られましたわ」
「え、…え!?」
「すれ違ってしまいましたのね。お義姉さまのことを話したら、相変わらずだなぁって、呆れてましたわ」
思い出して小さく笑うセレスに、すぐにシュアは恥ずかしくなって苦笑した。
なんだ、ということは、ゼロスに会うならこの屋敷で大人しく待っているのが一番だったわけだ。
すぐに少しだけ空しくなりながらも、シュアはそれを隠すようにセレスの前では変わらず笑ってみせた。
「そっか。大人しくしてればよかったかな?」
「ふふ、そうですわね」
「あ…それでね、セレスちゃん。私、もう少し旅を続けたいの。だから、すぐにまた行かなくちゃならないの」
その手を拾いながら話したシュアに、すぐに向かいのセレスの顔からふっと笑みが消える。
そっと目を伏せたその表情に、シュアはちくりと胸が痛む気がしたけれど、セレスはそれでもすぐにその顔に笑みを浮かべた。
「そう、なんですのね。分かりましたわ。わたくしは大丈夫です」
「セレスちゃん…」
「大人しく待ってます。だから…どうか気を付けて」
その手を握り返されて、シュアははっとしてセレスを見上げた。
その先で、優しい眼差しが自分を見つめていることにシュアはそっと、笑い返す。
少しの寂しさは、確かに隠されていたけれど。
この屋敷に暮らし始めた頃とは違う、そんなセレスの目や表情が、今はとても嬉しかった。
初めのころはよくも知らない人間がこの屋敷に共に暮らしていることに…戸惑いも、疑問も、抵抗もあっただろう。
それでも次第に心を開いてくれていたのは分かっていたし、結婚式のその日からは自分のことをお義姉さまとも呼んでくれている。
ゆっくりとその身体を包んで腕に抱きしめると、セレスの静かな鼓動が伝わってきてシュアはまた少しだけ、安堵した。
「旅立つ前に、少しだけ時間があるから…お昼でも一緒に食べよっか」
身体を離して覗き込んだ先で、セレスが嬉しそうに頷く。
「じゃあすぐ材料買ってきて私が直接作るから、ちょっと待ってて」
味は保証できないけどね、と片目を瞑ったシュアに、すぐにセレスが小さく笑った。
慣れないことはするものじゃない、とシュアは思っていた。
屋敷の厨房、一般家庭の台所の2倍はある空間で、一人シュアは切磋琢磨している。
料理はともかく普段あまりしない食材の買い物にも、思ったより手間取ってしまった。
料理に関してもそこまで苦手というわけではなかったけれど、だからといって得意というわけでもない。
こればっかりはマナの力でどうこう出来ないなと思ってシュアは一人苦笑した。
と、
「―――!!」
なにやら騒がしい声と物音がして、今まさにタマネギを切ろうとしていた手を止めた。
気のせいかな?と思ったところで再び乱暴に扉を閉めたような、バタンと物音がしてようやく包丁を手放す。
すぐに厨房を出たシュアはエントランスへと辿り着くなり、その眉間にしわを寄せた。
そこにはほぼ屋敷中の、使用人たちが集まっていた。
いつもは広く感じるエントランスも、今はそう思えないくらいに。
それぞれの表情が深刻そうで、それを疑問に思いながらも、シュアは少し先にすぐにセバスチャンを見つけて声を掛けた。
「みなさん、どうしたんですか?」
「シュアさま。実は…セレス様が…」
セバスチャンの濁した言葉の続きを催促すると、その話を聞いたシュアは考える間もなくすぐさま屋敷を飛び出した。
ロイドが…セレスちゃんを攫った?
また、ロイドだ、と思った。
そして聞こえてくる話は全て、それが本当にロイドなのかと思うものばかりだ。
まだこの辺りにいるだろうか。
注意深く辺りを見回しながら、シュアは走り続ける。
と、
視界を見慣れたなにかが横切って条件反射に目を向けた。
そしてその先には、見慣れた赤。
結婚式の時ですら、変わらず着ていた…ロイドのいつもの服。
目の前でどんどん離れていこうとするそのロイドが、同じく見慣れた服を着た人物を担いでいるのが分かる。
それは、セバスチャンの言っていた通りのその姿、セレスだった。
屋敷での話が一気に現実味を帯びて、思わず足を止めたシュアの先で、ロイドはセレスを抱えたままどんどん離れていく。
それにすぐにはっとしたシュアは再び足を動かし、とにかくとその2人の後を追った。
メルトキオを二分するように走る町の中央の階段を駆け下りる。
そのシュアの先を行くロイドたちを見失わないよう、気を付けていたシュアの視界に、またもや見慣れた姿を見つけて目を向けた。
それから数秒、シュアは視線を完全に奪われた。
ゼロスだ。声の出ないまま呟き、変わらず足は動かしたまま、今度は喉の奥から声を引き上げてその名前を呼んだ。
「ゼロス!!」
ゼロスが、振り返る。
そしてシュアの姿を見つけると、すぐにいつもよりも大きくその目を見開いた。
「シュア!?」
そこにはゼロスだけではない。改めて気づくとエミルやマルタ、そしてしいな達もすでに到着していたのかそこでゼロスに向かい合っている。
「ゼロス……、っとにかく、私はセレスちゃん達を追う!事情はみんなに聞いて!」
「はあ?おい、シュア、」
ずっと会いたくて探しにまで出たゼロスがそこにいる。
けれど、と視線を強引にセレスたちの方へと引き戻したシュアは、その先で今やメルトキオを出ようとしている2人の姿を捉え、そのままに足を動かす。
今や自分から視線を外してそのまま目の前を通り過ぎようとするシュアを、けれどゼロスはすぐにその腕を掴んで引き留めた。
走り続けていた反動か、そのまま体が持って行かれそうになってすぐにゼロスは両足に力を込めた。
「っ、ゼロス!」
すぐに反論を唱えようとするシュアを、その言葉を。
そのまま文字通り、ゼロスは塞いだ。
乱暴に、ぶつかるように合わさった唇同士が離れて、すぐに離したシュアが今は立ち止まって驚いたようにゼロスを見つめる。
「…頼んだぜ」
そしてそれだけ言うとすぐに向けられた自分への視線を、シュアは捉えて1秒、すぐに頷いて再び階段を駆け下りていった。
ほんの一瞬の再会の挨拶だったけれど。
それだけで焦りやもどかしさが、どこかに消えていくような気がした。
そのままメルトキオの門をくぐり、走り続ける姿が見えなくなるまで…シュアを見つめ続けるその時のゼロスを、エミルは驚きを貼りつけたままに見つめていた。
目の前で交わされた一瞬のキス。見ているだけなのにそれ自体にも妙に恥ずかしく感じて、すぐに隣のマルタを振り返る。
あれだけマルタの会いたがっていたシュアの旦那さんは、もしかして…
けれど、マルタは気付いていないようにただこの状況に真剣に眉根を寄せているだけで、エミルはなんだかそれにほっとしたような、もどかしく思うような、そんな気がしていた。