その3:ありがとう、そしてよろしく
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サク、サクと自分の足音しか聞こえない静かな場所。
辺りには少しずつ雑草や花たちが生え始めている。
「父さん、いる?」
いくらか大きくはなったものの、まだ幼い実りの前で私はひとり、呟いた。
「……シュアか」
すぐに同じように足音がして、聞こえた方を振り返る。
その先で、父さんがいつもの外套を翻しながらゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。
「うん。久しぶり」
「あぁ…どうした?」
今はまだ幼い世界樹の守り人として地上に残っているのは知っていた。
だとすれば父さんに会えるのはこの世界樹のある所だと、足を向けたのは正解だったみたいだ。
「うん…父さんにね、報告があって」
「報告?」
「私…… 結婚するの」
口にするのもなんだか気恥ずかしかったけれど、そう言ってまっすぐに父さんへと視線を向けた。
その先で、あぁ…やっぱりさすがの父さんも驚きが隠せないみたいだ。
「…結、婚だと?」
「うん。ゼロスとね。…知らなかった?」
クラトスにはあったけれど、そういえばゼロスの話を父さんにしたことはなかったかもしれない。
相手の名前を告げると少しだけその眉をしかめて、すぐに小さくああ、と答えた。
「うん。それでねその挨拶というか、報告に来たんだけど…さすがに父さんが居ることもこの場所も…公に出来ることじゃないでしょ?だから、1人で来たこと、許してね」
本来ならゼロスと2人で来るべきだったんだろう。それでこその挨拶だったんだと思う。
そう話した私に相変わらず、いや…とだけ小さく答えて、父さんはすぐにその腕を組んだ。
その腕組みは、昔からずっと見慣れた父さんの癖だ。
なんだか懐かしくなって思わず顔がほころぶ。
「それだけなんだけど…許してくれる?」
「許す?何をだ」
「結婚。ほら、一応結婚するのに親の許可は必要かなって…」
「…好きにすればいい」
言って、すぐに父さんは私に背を向けた。
歩き出すことはせず、きっと不器用な父さんなりの許可なんだってことはすぐに分かった。
だけど、
「父さん…」
「まだ、なにかあるのか?」
「…ううん。ごめんなさい」
「!」
はっとしたように振り返る父さんに、今度は背を向けるしかできなかったのは私。
「全部勝手だって分かってる。いきなり来て、いきなり許可してくれなんて…私は父さんに何もできてないのに、こんな時だけ父親扱いしてるみたいで…ごめんなさい」
だけど、本当は父さんにひと言だけでも掛けてほしかった。
良かったな。
幸せになれ。
おめでとう。
「シュア」
サク、サクと再び歩き出したその後ろから、声が届いた。
その声はいつもと違う、父さんのマナのような…優しい声だ。
「…謝る、必要はない。私はむしろ…お前に、感謝している」
「父さん…?」
「それこそ結婚もできないまま、何の繋がりもなかった私を、父と呼び慕ってくれていたお前に…感謝しているのは私の方だ」
「だから、お前がそうしたいのなら、好きにすればいい」
「私は、こうしてまた私を父と思い、わざわざ報告に訪ねてくるだけで…それだけで十分だからな」
今は癖になってる腕組みも解いていたけれど、なによりも父親らしいその言葉にあぁ、やっぱり私の父さんだと、そう思った。
ルビナスが亡くなり、クルシスに戻った私をしきりに気にかけてくれていたのは誰よりも父さんだった。
自分こそ、母さんを…婚約者を失った悲しみは大きかったなんてものじゃないだろうと、思うのに。
相変わらずの不器用な態度だったけれど、私が自分の足で立てるよう支えてくれたのは間違いなく父さんだったから。
「父さん」
今は少し離れたところで向き合う父さんの顔を、しっかりと見つめる。
「私、生きるよ。幸せに…なるから」
父さんからの返事はなかったけれど、そのまま背を向けてその場を後にした。
涙も、笑みも零れそうで、どっちつかずの不思議な気分のまま。
それでも、そのままでいいと思えた。今は、そんな気分をとても甘酸っぱく感じていた。
「私の分も、マーテルの分も…幸せになれ、シュア」
暖かい風が、背中をゆったりと、撫でた。
「ゼロス、みんな集まったぞ」
ルビナスの家。その庭は、今までの静かな雰囲気を一転し花や真っ白な椅子、テーブルなどで賑やかに彩られている。
着替えをして小屋から出てきた俺を捕まると、ロイドがそう言った。
「って、ロイド君…まさかその服で出席すんじゃ…ねーよな?」
「え?なんかまずかったか?」
「…はぁ。コレットちゃんだってこーんな可愛い天使のようだってのに」
「う、うるさいなぁ。俺はこれしか持ってないんだよ」
結婚式当日。
城の人間や政治の関係まで呼んだらキリがないだろうとなるべく小さく催すことにした、その会場はシュアがかつて住んでいた、ルビナスの家になった。
ほんとに小さくていいからと言って聞かなかったシュアの希望に応えるには、メルトキオの聖堂なんか使えるわけもなく。こっそり催そうと決まったのが結局ここだっただけだ。
そして招待した旅の仲間たち、それからアルテスタやロイドの父親といった旅で関わった面々を連れてくる役割を、今目の前で弁明しているリーダーに頼んでいた。
無事、招待客は揃ったようだけど。
白いワンピースに身を包んだコレットの横で、ロイドはいつもの赤い服を着たままそこに立っていた。
「言ってくれりゃー用意したのによ」
「いいんだよ。俺は、これで」
「それにしても見違えたわね。服のせいかしら、それともシュアのせいかしら?」
ふいに聞こえた声に振り返ると、こっちに向かって歩み寄る人物が、2人。
「そりゃないぜリフィル様ー。俺さま元々が美しーって知ってるでしょーに」
「これでも姉さん褒めてるんだけどね」
「お、お前もいたのかがきんちょ」
「がきんちょって言うな!」
リフィルも、ジーニアスも当然のようにそれなりの服を着ている。
このタイミングになって、ようやくリフィルの服を褒め逃した自分に気づいて、すぐに失敗したなと思った。
結局俺の頭の中には、今着替えの最中のシュアのことしか頭にないわけだ。
「なんだいみんなもう集まってたんだね。ゼロス、シュアは?」
更に割り込んできた声の先でしいながきょろきょろと辺りを見回している。
その後ろにはプレセアとリーガル。いつの間にか揃った旅の面々に、柄にもなく緊張していた自分が少しずつ解れていくのが分かった。
「シュアちゃんは準備中だよ」
「そうかい。式が始まる前にちょっと声かけてこようかな」
「あーー、待った。シュアちゃんのドレス姿は乞うご期待。ってことで、入室禁止な」
「なんだいそれ!?いいじゃないかちょっとぐらい」
「ダメだっつってんだろー?ったくしいなは…俺さまだってまだ見てねーんだぜ?」
「ははーん。あんたって、意外とあれだね」
「ゼロスは独占欲が強いのだな」
「そうそうそれだよリーガル!」
「ゼロス君はシュアさんを1番に見ないと、嫌…なんですね」
次々と畳み掛けられる言葉に思わず言葉に詰まった。
それを見てからかうジーニアスが…一番むかつくな。
「ゼロスそんなんでシュアに逃げられても知らないよー?」
「うるせーがきんちょ。なんたって俺さまのかわいーかわいーシュアちゃんだしなー。さって、そんじゃそんなハニーの様子でもそろそろ見てくるかな」
相変わらずなんだか笑われているような気がしたけれど、どうにも弁解の言葉が見つからない。
結局間違いじゃないんだから弁解もあったもんじゃないってことだ。
逃げるようにひらひらと手を振って背を向けても、背中の視線がなんだかむず痒かった。
「シュアが準備できたら始まりだ。お前ら大人しく席着いとけよー?」
「あ、それからロイド。助かった、さんきゅーな」
後ろから、ああ!と返事をするロイドの懐かしい声が聞こえる。
それを背中で捉えながら、進む先の小屋の扉を一つ息をついて、そっと開いた。
「シュアちゃーん、準備できたか?もう全員集まったってよ」
「あ、うん今…。…うん、大丈夫だよ」
その小屋の真ん中に立てられた簡単なついたて。
俺とシュアとの間で区切られていたその脇から、準備に当たっていた使用人が顔を出し、俺に向かって一礼した。
「たった今お着替え終了いたしました。どうぞ、ゼロス様」
ついたてを半分ほど退かしてその通路を作ると、すぐに使用人は下がっていった。
1人になったついたての前、逸る胸を抑えてついたての向こうへと、足を延ばす。
そしてその先に、俺さまの大事な2人の人物を見つけた。
シュアと一緒に準備をし、小さな純白のドレスに身を包んだセレス。
そして、
「…ゼロス…」
少しだけ驚いたように、小さく口を開いてこっちを見つめているシュア。
「…ん?」
「…素敵、だね」
シュアの視線が上下して、そこでようやく俺の格好に対しての発言だということに気が付いた。
それにしたって、褒め言葉にはもっと色々あるだろうに。
かっこいいとか、そんなもんでいいだろうに。
…随分と堪らないことを言ってくれるんだからな。
そんな自分の胸を誤魔化すように、先にセレスの方へと歩み寄った。
トレードマークの帽子も外し、代わりに髪飾りが付けられたその髪の毛を崩さない程度に撫でる。
「…見違えたな、セレス」
「お、お兄様…」
「ずいぶんと可愛くなっちゃって。お兄様は妹の将来が心配だぜー…変な奴に引っかけられんなよー?」
いつもの調子で笑うと、セレスはすぐに
「お、お兄様!髪が乱れてしまいますわ!」
そう言って逃げるように、それとも気を使ったのか、衝立の向こうへと駆けていった。
走るなって言っても…今日は元気そうだから、まあ大丈夫だろう。
セレスの背中を見て笑うと、すぐに口元を引き締めてシュアの方へと振り返った。
「シュア」
「…ゼロス…」
「でもやっぱ今日の主役が、シュアが一番綺麗だな」
「!ぜ、ゼロス…」
肩が大きく露出したビスチェタイプのデザインに、ふわりとしたスカート部にはスパンコールが散りばめられた、プリンセスタイプのドレス。
ドレスのデザインに関しては、当日のお楽しみということで俺は全く知らされていなかった。
それが、全く…正解だよ。
「悪いな…なんて言ったらいいか分かんねーけど…」
一歩一歩シュアに歩み寄りながら、言葉を探しながら、それでも見つからずにシュアの前まで来て、名前を呼んだ。
呼びかけに応えるように顔を上げたシュアに、今だけはその顔を、その目をまっすぐと見つめながら。
「ホントに、綺麗だよ」
たまらなく、抱きしめたくなったけれど。
綺麗に飾られた髪の装飾に気を遣って今は、我慢しておくことにした。
「ゼロス…!」
「ん…?」
「は、恥ずかしい、よ…」
「…なんでだよ?褒めてるだけなのによー」
素直に笑った俺を見て、シュアはますます俯きながら、それが恥ずかしいんだよ…と小さく零した。
「参ったなー」
「…ゼロス?」
「あーあいつらに見られんのやだなーこのシュア見せるなんて、勿体ねぇよなー」
いつもの調子でうなだれると、ようやくシュアが俺に向かって小さく笑う。
「もー、またそういうこと言う」
シュアも緊張してたんだろう。いつもと違う格好をしているからこそ尚更。
いつもの笑顔がようやくその顔に戻って、俺は一つ小さく息をついた。
「…じゃ、行きますか」
「あ、うん」
エスコートをするように片手を差し出すと、シュアは俺のその手に再び緊張した面持ちでそっと手を乗せた。
その手を引っ張りすぎない程度にシュアを支えて、シュアが座っていた椅子から立ち上がるのを待つ。
横に並んで露出された肩に、思わずドキリとして。
ゆっくりと歩き出してから、すぐに思い直して俺はぴたりと足を止めた。
不思議そうに向けられるシュアの視線を捉えたまま、その目の前に一歩踏み出す。
「シュア」
「…ゼロス?」
「幸せにするとか、俺についてこいとか、そういうのは俺らしいと思うか?」
「……ううん」
「…だよな。じゃ、俺さまらしく」
小さく首を振ったシュアの両手を拾って、同じく俺の両手でしっかりと握った。
「ずーっと一緒に居ようぜ?それこそ、飽きるくらい、だ。飽きたって、飽きたって、それでもだ」
「…うん」
「俺はそうしたい。だから、ずっと一緒に居てくれ」
「決め台詞一つ言えない俺を、見守ってちょーだい」
「ハニー?」
目の前で、すぐに小さく笑ったシュアがしっかりと、首を縦に振る。
そうだ、だから、これからだってきっと問題ない。
例えばお互いに緊張してる俺たちを、こうやって解し合って、2人で笑いあえるように。
これからずっと傍にいて、いつまででもそうやって乗り越えればいい。
この選択に、俺自身も、シュアにも、絶対に後悔はさせない。
それだけは自分の胸に誓いながら、俺はシュアをそのまま、扉の先へと促した。
「…じゃ、セレス、呼んできて」
「うん。待ってる」
スカートの裾を軽く持ち上げたシュアが、小屋を出ていく。
そして程なくして小屋に入ってきたセレスとともに、俺はバージンロードを歩いた。
そう。バージンロードを歩いたのは俺で、それは、シュアの提案だった。
自分には、一緒に歩きたい人はいないからと。だから、俺にセレスと共に歩いてほしいと。
どんなにバージンロードの意味を力説しても折れなかったシュアに、結局俺たちの結婚式は前代未聞のものとなった。
新婦が待っている中を、新郎が歩み寄っていくなんて。
けれど仲間たちにも招待客にも好評を博したそれに、シュアはとても満足そうにしていて、結局そうやって笑われちゃ、俺にはもう何も言えなくて。
華やかなフラワーシャワーを、そして仲間たちの祝福の言葉を浴びながら。
俺は、俺たちはただ笑い合っていた。
いつまでだってそうして。そして、これからも変わらずに。
だから、
そんな君に、 『ありがとう』
そしてこれからもずーっと、 『よろしく』