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太陽が、照り返す。
すぐそこにあるかのように感じるその光は、シュアと、そしてシュアの向かいで彼女を睨み付ける男へと降り注いでいた。
青い髪を持った、長髪の男性。
その髪は後ろで1つに纏められ、彼の纏う長いマントは、彼の不審さを際立てるのにもまた一役かっている。
最も、ロイドたちシルヴァラント組は彼の事を知っているようで、その名前をユアン、と呼んでいただろうか。
フウジ山岳、その頂上。
ロイドたちがテセアラを訪れるときに使用したという、レアバードを回収しにやって来た一行を待ち受けていたのは、その青い男と、宙に浮いた謎の女‐プロネーマと呼ばれていただろうか‐そして彼らの設置した罠だった。
一度は罠にはまったものの、心と記憶を取り戻したコレットのドジに助けられ、一行はプロネーマへと武器を向ける。
そして仲間たちがどんどん彼女に向かっていく中、何の気も無い様に歩みを進めたユアンは、正にシュアの目の前でピタリとその足を止めていた。
「…な、なに…」
「…どうして、ここにいる?」
…どうして?だなんてこっちが聞きたい。
なんだってこの人は、私の目の前で足を止めたのか。
質問の意味も、相手の意図も分からずただ警戒を強くするシュアに、今度はユアンが訝しげにシュアを見る疑いの目を強くした。
「ロイド達と居るなど、聞いていないぞ」
「…あ、あなたは…誰、なんですか?」
もしかして自分はこの不審な男と知り合いのはず、なんだろうか。
より一層機嫌を害したかのように見えるユアンに十分に距離を置いてから、腰の剣を抜いたシュアは、一瞬だけユアンの奥へと視線を向けて仲間たちの戦いが今正に終わったのを確認した。
そしてすぐにこちらの様子に気づいたロイドが、駆け寄りながらその剣でユアンを狙う。
「…ユアン!丁度いい!お前ともここで決着をつけてやる!」
そしてその片方の剣が、ユアンへと正に振り下ろされる瞬間。
ふわり、と舞い降りて、軌跡も残さずその間に割り込んだものを、シュアは一瞬だけその目にはっきりと捉えた。
キンッ!と金属のぶつかり合う音が、何も妨害することの無い、山の頂上に響く。
「…クラトス!」
そしてロイドの剣が誰かに止められていた、更にそれがユアンではない、という事にシュアが気づいた時には、ロイドはそう相手の名前を叫んですぐさま一歩距離を置いていた。
クラトスとは、誰なのだろう。
ユアンと同じ、ロイドたちの顔見知りだろうか。
茶色っぽい髪を持ったその男は、目の錯覚か…いや、確実にコレットと同じで、背中から羽が生えている。
ただし彼のはもっと、コレットのとは違い澄んで青いものだ。
「…!クラトス、貴様何をしにきた…!」
「退け、ユアン。ユグドラシル様が呼んでいる」
頭ごなしに噛み付くユアンに、顔さえ振り向くことなく答えるクラトス。
「…なら、これはどういうことだ?」
「…これ、とは?…全て、ユグドラシル様の意向だ。お前が気にすることがどこにあるという」
ちら、とユアンの視線がシュアの方へと振り返ったその瞬間。
少しだけ、やはりユアンの言いたい事が分かっていたかのように、クラトスは同じくシュアの方を一瞬だけ振り返った。
「くっ…!ロイド、勝負は預けたぞ!」
そして言葉を吐いたユアンの背中からもまた、コレットと同じように半透明に輝く羽が現れる。
すぐに地面を蹴って、ユアンが正に上空へと飛び上がると、シュアはその羽が本物であることに驚き、そして自然とクラトスの傍になっていたことに気づいて、すぐさま彼との距離を置いた。
「シュア、大丈夫だったかい?」
「うん…あ、そっち、参加しなくって、ごめん」
「…しなかったんじゃなくて、できなかったんだろ?」
すぐさま駆け寄ってくれたしいなが、そう言ってシュアに向かって呆れたように微笑む。
その間にもロイドは、ひたすら質問責めにするように、クラトスに向かって声を荒げ続けていた。
「ふ…せいぜい頑張ることだな」
いやな笑みが、空間を冷やす。
何度か会話を交わした後そう軽くあしらって、躊躇することなくロイドに背中を見せたクラトスは、仲間たちが睨む様に彼を見つめる中をすでに敗れたプロネーマの元へと近寄ってゆく。
「申し訳ありません、クラトス様…」
「私に謝ってどうする。行くぞ」
ユアンと同じように、地面を蹴る。
そしてプロネーマを連れたその姿が山から離れていく間の、一瞬。
その鋭い瞳が自分を捉えたと、確かにシュアはそう感じた。
それは単純に敵意ではない、隠し切れない哀れみのような。
2人が見えなくなりホッとしたのか、肩の力を抜く仲間たちがそれぞれに溜息をつく。
そして、ハッと気づいたようにロイドがコレットに振り返ると、コレットもまた訝しげにロイドを見つめ返した。
「コレット」
「どしたの?ロイド」
心と記憶を取り戻しても、今まで落ち着くことができなかった。
そしてようやく緊張の解けた今、ロイドはコレットに向かって、こうして声を掛ける事が出来る。
「…おかえり」
「…うん!ただいま!」
一瞬意表を突かれたようにして、けれどコレットは、そのロイドの言葉に心から嬉しそうに笑った。
そんな2人を見て、それぞれがそれぞれの、柔らかに祝福するような表情を仲間たちが浮かべて。
それはもちろんシュアも例外ではなく。
キン…ッ!!
そうした謎の痛みに始まって、不思議な感覚がシュアの頭を巡ったようになるまでは。
『…お、おかえ、り…』
『…!ただいま!言えるじゃないか、シュア!』
グシャグシャと頭を撫でて、ギュッと容赦なく抱きしめてくる温もり。
照れくさくて、恥ずかしくて、それでも嬉しくて、とてもいとお…
「シュア?」
ふっ、と。現実に引き戻す声。
ハッとしてシュアが首を動かせば、ゼロスが動かないシュアを、その長身で訝しげに見下ろしている。
声?聞き覚えのあるようで、記憶に無い。
なんだっただろう。今の感覚。
なんなんだろう。今の心地よい感情。
言葉が頭の中に響いて、感覚が身体を巡って、感情が胸の奥から湧き出てきて。
記憶のような気もする。
でももっと不確かで、もっとリアルで、もっと…儚い。
自分の妄想でしかないような、すごく不確かな何か。
「…なんでもないよ。それで、次はどこに行くの?」
「ん?あぁ、大陸を渡る方法にしいなが心当たりがあるとかで。メルトキオだってよ」
「え?だって今…」
「んー、俺様もそう思ったんだけどな。ま、行かねぇことにはなんにもなんねぇし」
そっか。
話を変えて、シュアはゼロスに向かって無理矢理とそう微笑んではみるが、それでもその中に渦巻くその“何か”を、しばらくは手放せないまま。
シュアは前を歩くゼロスの髪の紅を、不思議と穴が開くほどじっと見つめていた。
「海…海なのね」
3度目のグランテセアラブリッジ。その脇にある、今までは気にさえしなかった桟橋。
そこから大いに離れた場所で、リフィルは先に広がる海を、呆然と見つめながらボソリと呟く。
顔色は悪い。蒼白どころか、もはや土気色になって、彼女の体調自体が心配になってくる程だ。
「リフィルさん、大丈夫…ですか?」
「えぇ、シュアは優しいのね…シュアは…」
「たらいが平気だったんだから平気だろ、先生」
反対側の大陸へと渡るべく用意され、海水にぷかぷかと浮いた状態の水上用エレカー。
ようやく意を決して乗り込もうとするリフィルをシュアがなんとか支えて、先に乗っていたロイドの何気ない一言は、そうしてようやく乗り込んだリフィルの八つ当たりを見事に引き出すことに成功した。
「いてっ!なんで殴るんだよ先生!」
「なんとなくです」
鉄拳を食らって悶絶しているロイドを横目に笑いながら、最後に乗り込もうとするシュアにしいなが中から手を貸す。
「ほら、シュア」
「ありがと、しいな」
そしてそんな2人の間に、もう以前のような気まずさは微塵も無かった。
しいなに言わせればまだまだなのかもしれないが、それでもゼロスから見る分には、2人は以前と同じくらい、仲の良いようにも見える。
本人こそ気付いていないだろうが、周りのシルヴァラント組にしてみればゼロスだって、また同じだ。
「よ、い…しょ。…あ」
「あ、これは!これ、シュアなんだか覚えてるかい?」
乗り込む際に前屈みになったシュアの襟元から、零れたネックレス。
無事にエレカーへと降り立ってから、シュアは以前、旅が始まって最初の夜に気付いたこのネックレスを、そっと掌で掬い上げる。
「え?ううん。しいな知ってるの?」
「いや、知ってるって程の事じゃあないんだけど…」
「少しでいい。教えて?」
「そうだねぇ。とにかくそれを大切にしてたね、シュアは。お風呂入る時も外さないんだとか」
その割には綺麗だ。まじまじと掌に乗ったネックレス、そこに通された1つの指輪を、シュアもしいなも真剣に見つめた。
「…指輪、ねぇ。ちょーっと俺様に貸してみ?」
そしてふと、どこに居たのかそこに急に割り込んできたゼロスは、シュアの掌から彼女の首を引っ張らない程度に指輪を持ち上げると、指で挟んで色々な角度からそれを見つめる。
「…この指輪…どっかで…」
「え?」
「あーいや、中に文字が彫られてんだけど…俺様にはちっと読めねーな」
「…あ!あたし、これと同じ文字…確か、」
ゼロスの指から今度はしいなが取り上げて、なにを思ったのか、不意に奥に居たコレットに向かって大きな声で呼びかける。
「コレット!!コレット!ちょっと来とくれよ」
「なにー?しいな」
「あ、そんな走ったら…」
呼ばれて急いで駆けつけるコレットが、案の定、しいなの心配通りに思いっきりと転んだ。
失敗しちゃったー、と能天気に笑いながら立ち上がって、今度は走ることなくゆっくりとしいなの元へ歩み寄る。
「これ、コレットなら読めるんじゃないかい?」
「…あ、うん。これ、天使言語だね。えっと…」
そして手渡された指輪をまじまじと見つめながら、コレットはその内側、文字の彫られた部分をすぐさま読み上げた。
「すごく読みやすい。…ルビ。それと、シュアの名前」
「シュアの名前はいいとして、ルビって何なんだい?」
「うーん…。天使言語だけの言葉とかじゃ、ないと思うんだけど…」
コレットの読み上げた言葉をコレット自身も分からないで居る中で、けれどゼロスだけは何かを悟っているような表情で、自信満々と口を開く。
「こーいうもんは、愛のリング。って相場は決まってんだよ」
「あ、愛のリング!?」
そしてゼロスのその言葉に、その場の誰よりも驚いたのが、当人であるシュアだった。
愛、だなんて。
よく分からないけれど、そんな大それたものを、自分が持っていただなんて。
なんだか、急に大人になった様な気がして居た堪れないのだ。
第一自分はまったくそれを覚えてさえ居ないのだから、本当かどうかは分からないけれど。
「シュア、あんた顔赤いよー?」
「う、うるさいなー」
「ルビ、かぁ。どこに居るんだろうねぇ」
ようやく自分の手元に帰ってきた指輪を見つめながら、シュアはしいなのそんな言葉をぼんやりと聴いていた。
指輪に、自分に対する疑問が増えていくばかりの中で。
綺麗過ぎる指輪。
天使言語という、特殊な言葉で彫られた文字。
謎の、ルビという…恐らく人物である人。
フウジ山岳で自分の中に沸きあがった光景が、もしも自分の妄想で無いとしたならば、あの、自分を抱きしめてくれた暖かな温もりが…
ルビなのかも、しれない。
「しいな!頼む!」
「はいよ!」
船の奥から、叫ぶロイドがしいなに呼びかける。
それに答えて隣のしいながすぐに駆けていくと、それから間もないうちに、精霊の力を借りたエレカーは桟橋をゆっくりと出航していった。
Next.
すぐそこにあるかのように感じるその光は、シュアと、そしてシュアの向かいで彼女を睨み付ける男へと降り注いでいた。
青い髪を持った、長髪の男性。
その髪は後ろで1つに纏められ、彼の纏う長いマントは、彼の不審さを際立てるのにもまた一役かっている。
最も、ロイドたちシルヴァラント組は彼の事を知っているようで、その名前をユアン、と呼んでいただろうか。
フウジ山岳、その頂上。
ロイドたちがテセアラを訪れるときに使用したという、レアバードを回収しにやって来た一行を待ち受けていたのは、その青い男と、宙に浮いた謎の女‐プロネーマと呼ばれていただろうか‐そして彼らの設置した罠だった。
一度は罠にはまったものの、心と記憶を取り戻したコレットのドジに助けられ、一行はプロネーマへと武器を向ける。
そして仲間たちがどんどん彼女に向かっていく中、何の気も無い様に歩みを進めたユアンは、正にシュアの目の前でピタリとその足を止めていた。
「…な、なに…」
「…どうして、ここにいる?」
…どうして?だなんてこっちが聞きたい。
なんだってこの人は、私の目の前で足を止めたのか。
質問の意味も、相手の意図も分からずただ警戒を強くするシュアに、今度はユアンが訝しげにシュアを見る疑いの目を強くした。
「ロイド達と居るなど、聞いていないぞ」
「…あ、あなたは…誰、なんですか?」
もしかして自分はこの不審な男と知り合いのはず、なんだろうか。
より一層機嫌を害したかのように見えるユアンに十分に距離を置いてから、腰の剣を抜いたシュアは、一瞬だけユアンの奥へと視線を向けて仲間たちの戦いが今正に終わったのを確認した。
そしてすぐにこちらの様子に気づいたロイドが、駆け寄りながらその剣でユアンを狙う。
「…ユアン!丁度いい!お前ともここで決着をつけてやる!」
そしてその片方の剣が、ユアンへと正に振り下ろされる瞬間。
ふわり、と舞い降りて、軌跡も残さずその間に割り込んだものを、シュアは一瞬だけその目にはっきりと捉えた。
キンッ!と金属のぶつかり合う音が、何も妨害することの無い、山の頂上に響く。
「…クラトス!」
そしてロイドの剣が誰かに止められていた、更にそれがユアンではない、という事にシュアが気づいた時には、ロイドはそう相手の名前を叫んですぐさま一歩距離を置いていた。
クラトスとは、誰なのだろう。
ユアンと同じ、ロイドたちの顔見知りだろうか。
茶色っぽい髪を持ったその男は、目の錯覚か…いや、確実にコレットと同じで、背中から羽が生えている。
ただし彼のはもっと、コレットのとは違い澄んで青いものだ。
「…!クラトス、貴様何をしにきた…!」
「退け、ユアン。ユグドラシル様が呼んでいる」
頭ごなしに噛み付くユアンに、顔さえ振り向くことなく答えるクラトス。
「…なら、これはどういうことだ?」
「…これ、とは?…全て、ユグドラシル様の意向だ。お前が気にすることがどこにあるという」
ちら、とユアンの視線がシュアの方へと振り返ったその瞬間。
少しだけ、やはりユアンの言いたい事が分かっていたかのように、クラトスは同じくシュアの方を一瞬だけ振り返った。
「くっ…!ロイド、勝負は預けたぞ!」
そして言葉を吐いたユアンの背中からもまた、コレットと同じように半透明に輝く羽が現れる。
すぐに地面を蹴って、ユアンが正に上空へと飛び上がると、シュアはその羽が本物であることに驚き、そして自然とクラトスの傍になっていたことに気づいて、すぐさま彼との距離を置いた。
「シュア、大丈夫だったかい?」
「うん…あ、そっち、参加しなくって、ごめん」
「…しなかったんじゃなくて、できなかったんだろ?」
すぐさま駆け寄ってくれたしいなが、そう言ってシュアに向かって呆れたように微笑む。
その間にもロイドは、ひたすら質問責めにするように、クラトスに向かって声を荒げ続けていた。
「ふ…せいぜい頑張ることだな」
いやな笑みが、空間を冷やす。
何度か会話を交わした後そう軽くあしらって、躊躇することなくロイドに背中を見せたクラトスは、仲間たちが睨む様に彼を見つめる中をすでに敗れたプロネーマの元へと近寄ってゆく。
「申し訳ありません、クラトス様…」
「私に謝ってどうする。行くぞ」
ユアンと同じように、地面を蹴る。
そしてプロネーマを連れたその姿が山から離れていく間の、一瞬。
その鋭い瞳が自分を捉えたと、確かにシュアはそう感じた。
それは単純に敵意ではない、隠し切れない哀れみのような。
2人が見えなくなりホッとしたのか、肩の力を抜く仲間たちがそれぞれに溜息をつく。
そして、ハッと気づいたようにロイドがコレットに振り返ると、コレットもまた訝しげにロイドを見つめ返した。
「コレット」
「どしたの?ロイド」
心と記憶を取り戻しても、今まで落ち着くことができなかった。
そしてようやく緊張の解けた今、ロイドはコレットに向かって、こうして声を掛ける事が出来る。
「…おかえり」
「…うん!ただいま!」
一瞬意表を突かれたようにして、けれどコレットは、そのロイドの言葉に心から嬉しそうに笑った。
そんな2人を見て、それぞれがそれぞれの、柔らかに祝福するような表情を仲間たちが浮かべて。
それはもちろんシュアも例外ではなく。
キン…ッ!!
そうした謎の痛みに始まって、不思議な感覚がシュアの頭を巡ったようになるまでは。
『…お、おかえ、り…』
『…!ただいま!言えるじゃないか、シュア!』
グシャグシャと頭を撫でて、ギュッと容赦なく抱きしめてくる温もり。
照れくさくて、恥ずかしくて、それでも嬉しくて、とてもいとお…
「シュア?」
ふっ、と。現実に引き戻す声。
ハッとしてシュアが首を動かせば、ゼロスが動かないシュアを、その長身で訝しげに見下ろしている。
声?聞き覚えのあるようで、記憶に無い。
なんだっただろう。今の感覚。
なんなんだろう。今の心地よい感情。
言葉が頭の中に響いて、感覚が身体を巡って、感情が胸の奥から湧き出てきて。
記憶のような気もする。
でももっと不確かで、もっとリアルで、もっと…儚い。
自分の妄想でしかないような、すごく不確かな何か。
「…なんでもないよ。それで、次はどこに行くの?」
「ん?あぁ、大陸を渡る方法にしいなが心当たりがあるとかで。メルトキオだってよ」
「え?だって今…」
「んー、俺様もそう思ったんだけどな。ま、行かねぇことにはなんにもなんねぇし」
そっか。
話を変えて、シュアはゼロスに向かって無理矢理とそう微笑んではみるが、それでもその中に渦巻くその“何か”を、しばらくは手放せないまま。
シュアは前を歩くゼロスの髪の紅を、不思議と穴が開くほどじっと見つめていた。
「海…海なのね」
3度目のグランテセアラブリッジ。その脇にある、今までは気にさえしなかった桟橋。
そこから大いに離れた場所で、リフィルは先に広がる海を、呆然と見つめながらボソリと呟く。
顔色は悪い。蒼白どころか、もはや土気色になって、彼女の体調自体が心配になってくる程だ。
「リフィルさん、大丈夫…ですか?」
「えぇ、シュアは優しいのね…シュアは…」
「たらいが平気だったんだから平気だろ、先生」
反対側の大陸へと渡るべく用意され、海水にぷかぷかと浮いた状態の水上用エレカー。
ようやく意を決して乗り込もうとするリフィルをシュアがなんとか支えて、先に乗っていたロイドの何気ない一言は、そうしてようやく乗り込んだリフィルの八つ当たりを見事に引き出すことに成功した。
「いてっ!なんで殴るんだよ先生!」
「なんとなくです」
鉄拳を食らって悶絶しているロイドを横目に笑いながら、最後に乗り込もうとするシュアにしいなが中から手を貸す。
「ほら、シュア」
「ありがと、しいな」
そしてそんな2人の間に、もう以前のような気まずさは微塵も無かった。
しいなに言わせればまだまだなのかもしれないが、それでもゼロスから見る分には、2人は以前と同じくらい、仲の良いようにも見える。
本人こそ気付いていないだろうが、周りのシルヴァラント組にしてみればゼロスだって、また同じだ。
「よ、い…しょ。…あ」
「あ、これは!これ、シュアなんだか覚えてるかい?」
乗り込む際に前屈みになったシュアの襟元から、零れたネックレス。
無事にエレカーへと降り立ってから、シュアは以前、旅が始まって最初の夜に気付いたこのネックレスを、そっと掌で掬い上げる。
「え?ううん。しいな知ってるの?」
「いや、知ってるって程の事じゃあないんだけど…」
「少しでいい。教えて?」
「そうだねぇ。とにかくそれを大切にしてたね、シュアは。お風呂入る時も外さないんだとか」
その割には綺麗だ。まじまじと掌に乗ったネックレス、そこに通された1つの指輪を、シュアもしいなも真剣に見つめた。
「…指輪、ねぇ。ちょーっと俺様に貸してみ?」
そしてふと、どこに居たのかそこに急に割り込んできたゼロスは、シュアの掌から彼女の首を引っ張らない程度に指輪を持ち上げると、指で挟んで色々な角度からそれを見つめる。
「…この指輪…どっかで…」
「え?」
「あーいや、中に文字が彫られてんだけど…俺様にはちっと読めねーな」
「…あ!あたし、これと同じ文字…確か、」
ゼロスの指から今度はしいなが取り上げて、なにを思ったのか、不意に奥に居たコレットに向かって大きな声で呼びかける。
「コレット!!コレット!ちょっと来とくれよ」
「なにー?しいな」
「あ、そんな走ったら…」
呼ばれて急いで駆けつけるコレットが、案の定、しいなの心配通りに思いっきりと転んだ。
失敗しちゃったー、と能天気に笑いながら立ち上がって、今度は走ることなくゆっくりとしいなの元へ歩み寄る。
「これ、コレットなら読めるんじゃないかい?」
「…あ、うん。これ、天使言語だね。えっと…」
そして手渡された指輪をまじまじと見つめながら、コレットはその内側、文字の彫られた部分をすぐさま読み上げた。
「すごく読みやすい。…ルビ。それと、シュアの名前」
「シュアの名前はいいとして、ルビって何なんだい?」
「うーん…。天使言語だけの言葉とかじゃ、ないと思うんだけど…」
コレットの読み上げた言葉をコレット自身も分からないで居る中で、けれどゼロスだけは何かを悟っているような表情で、自信満々と口を開く。
「こーいうもんは、愛のリング。って相場は決まってんだよ」
「あ、愛のリング!?」
そしてゼロスのその言葉に、その場の誰よりも驚いたのが、当人であるシュアだった。
愛、だなんて。
よく分からないけれど、そんな大それたものを、自分が持っていただなんて。
なんだか、急に大人になった様な気がして居た堪れないのだ。
第一自分はまったくそれを覚えてさえ居ないのだから、本当かどうかは分からないけれど。
「シュア、あんた顔赤いよー?」
「う、うるさいなー」
「ルビ、かぁ。どこに居るんだろうねぇ」
ようやく自分の手元に帰ってきた指輪を見つめながら、シュアはしいなのそんな言葉をぼんやりと聴いていた。
指輪に、自分に対する疑問が増えていくばかりの中で。
綺麗過ぎる指輪。
天使言語という、特殊な言葉で彫られた文字。
謎の、ルビという…恐らく人物である人。
フウジ山岳で自分の中に沸きあがった光景が、もしも自分の妄想で無いとしたならば、あの、自分を抱きしめてくれた暖かな温もりが…
ルビなのかも、しれない。
「しいな!頼む!」
「はいよ!」
船の奥から、叫ぶロイドがしいなに呼びかける。
それに答えて隣のしいながすぐに駆けていくと、それから間もないうちに、精霊の力を借りたエレカーは桟橋をゆっくりと出航していった。
Next.