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静かなウィルガイアを緊張感のある面持ちで歩いていく。
ミトスの城へと続く道を案内しながら、それでもしっかりと一歩一歩を踏みしめて、シュアは仲間たちの足音を感じていた。
仲間たちは、またこうして元の9人揃うことができた。
シュアが白い空間から出た頃、隣で助け出されたリフィルとジーニアス。
そしてコレットの情報をもとにすぐに向かった先で、プレセアとリーガル。
みなと再会できたことを十分に喜び合う時間はなかったけれど、それでもこうして9人分の足跡を聞いているだけでも、シュアはそれを心地よく感じていた。
ふと、入った時と同じような紋章の前で、シュアはぴたりと足を止めた。
「シュア?どうしたんだ?」
「ロイド…この先が、ミトスの城だよ。この紋章、見たことあるでしょ?」
一歩脇へ避けて、その足元の紋章をロイドに見せると少しだけ驚いたようにしながらもロイドは頷く。
「これは…俺たちをバラバラにした、罠か!?」
「うん。だけど、もう大丈夫。デリスエンブレムが完成されるはず」
「デリス…なんだって?」
「…とにかく!みんな、この上に乗って」
なんだかんだと説明するよりもこの方が早いだろう。
相変わらずのリーダーに少し呆れながら、シュアは仲間たちを紋章の上へと誘導した。
自分を含めた全員がその上に立ち、瞬間、紋章はあの時と同じように眩い光を放つ。
「な、なんだ?」
「今のは…」
けれどすぐに消えたそれにコレットが小さく呟くと、すぐに隣のロイドのもとに小さくなった紋章が舞い降りてきた。
「これは…」
「それが、デリスエンブレム。ミトスの城に続く道を塞いでた鍵だよ」
「じゃあ…」
「うん。もうバラバラになることはない。あのワープを抜けた先がミトスの城だよ」
シュアの説明を今度こそ理解したロイドは、その言葉を聞いた瞬間きりりとその表情を引き締めた。
「この先に…ミトスがいるんだな」
「大いなる実りも一緒にあるはずだよね」
隣から声をかけるコレットにロイドが頷く。
「みんな…多分これが最後だ。準備はいいか?」
そして彼の見回した先で、仲間たちはそれぞれに頷いた。
「私は問題なくてよ。これから起こる戦いをあるがままに受け入れる。…そして勝つわ」
「ああ、勝つよ。ミズホの里のみんなやコリンや…臆病だったあたしを信じてくれたみんなのためにも」
「そして…自分のためにも。もう誰も、私みたいな間違いは繰り返して欲しくないから。自分が犠牲になれば…それでいいなんて歪んだ考え方は駄目だから」
「誰だって、みんな当たり前に暮らしていいんだよね。この世界にいてもいいんだよね。人もエルフも…ボクたちも」
「その通りだ。だから我々は、この戦いでミトスから大いなる実りを取り戻し、大樹を甦らせなければならぬ。それがなければ、異種族の間のしこりを取り除くことはおろか…」
「世界は…滅亡します。それは、悲しいことです。私たちは世界を統合して、新たな世界に、新たな約束を結びましょう」
「俺さまが好きな奴も、俺さまが嫌いな奴も、俺さまの住む世界に居ていいってことだ。それが“当たり前”なんだからなぁ。だから俺も…逃げないぜ」
「人々が生きたいと思う世界を生きるために。みんなの居場所があるこの世界を、守らなきゃ」
一人一人の想いを確認しながら、仲間同士大きく頷きあう。
そしてやはり自分たちには、この一声がなによりもの力になる。
「…よし、行こう!」
「誰もが生きていることが当たり前の世界を取り戻すために!」
いつものロイドの掛け声を聞きながら、仲間たちは力強くお互いの視線を交わした。
そしてその先でドラゴンの門番を倒した一行は、ミトスの城へと繋がる扉をゆっくりと開いていった。
扉の先でワープへと飛び乗った一行は、目前にすぐさまその姿を確認することが出来た。
玉座に腰かけたその姿は、かつての勇者ではない、指導者としてのユグドラシルの姿だ。
「…かえる…私は…還る…」
どこを見つめるでもなく、そう繰り返すユグドラシルにジーニアスが一歩前へと踏み出す。
「ミトス…ボクの話を聞いて!戦うなんてやめよう。世界を統合するために、大いなる実りを返して」
「…かえる…私は…還る…」
「…おかしい。まるで人形みたいだ…」
それでも反応を示さない姿に思わずロイドが呟くと、その隣でコレットが小さく声を上げた。
「な、何?」
ふわりと浮きあがったコレットの身体から、光を纏った輝石が現れたかと思うと、すぐさまユグドラシルの身体へと入り込んでいく。
そしてゆっくりと顔を上げたユグドラシルは、コレットを見据えると、小さく笑った。
「…わざわざ運んでくれてありがとう。ようやく融合できたよ。ご苦労だったね」
役目を終え突然に投げ出されたコレットの体は、そのままどさりと地面に倒れこんだ。
「コレット、大丈夫かい?」
「うん、だいじょぶ。ありがとしいな」
「…くそ!そういうことだったのか」
ロイドがそう拳を握った横で、もう一歩、ジーニアスはユグドラシルへと歩み寄った。
「ミトス…。マーテルはもう、亡くなったんだよ…」
「嘘をつくな!姉さまは生きている。ボクがこうしてクルシスの輝石に宿っているように…」
敵意や不快感をむき出しにしたまま、ユグドラシルは自らの輝石にその手を宛てた。
今度はロイドが一歩、前へと踏み出してユグドラシルに向き直る。
「それは生きているんじゃない、無期生命体に身体を奪われてるだけだ!」
「それの何がいけないんだ」
「何…!」
「どうせこの体に流れているのはボクたちを差別する人間とエルフの血だ。そんな汚らわしいものは捨てて、無期生命体になった方がマシだよ」
「本気で…言ってるのか?」
「そうだ。見ろ!無期生命体になれば、姿形や成長の促進も思うがままだ」
言うとユグドラシルはすぐに光に包まれ、その姿を勇者だったころの彼の姿…ミトスへと変えた。
「みんなが無期生命体になればいい。前にも言っただろう。差別をなくすには全ての命が同じ種族になるしかないのさ」
「おまえは根本的に間違ってるぜ、ミトス。差別ってのは…心から生まれるんだ」
眉根を寄せ悲痛そうな表情を浮かべたロイドがそう語ると、すぐに仲間たちが一歩一歩、前へと踏み出してミトスに語りかけていく。
「そうだよ、ミトス。相手を見下す心、自分を過信する心。そういう心の弱さが差別を作るんだと思う。」
「おまえだってそうだろ。人やエルフを見下して、家畜扱いしてさ。それは心の弱さだ」
「このままでは無期生命体になっても…変わらんな。差別はいくらでも生まれる。」
ジーニアス、しいな、そしてリーガルの言葉にピクリと反応すると、ミトスは下から睨むようにそっと視線を上げた。
「…じゃあハーフエルフはどこに行けばいい?どこに行っても疎まれる。心を開いても、受け入れてもらえなかったボクたちはどこで暮せばよかったんだ?」
「どこでもいいさ」
「…ふざけるな!」
「ふざけてなんかいない。どこだっていい。自分が悪くないのなら、堂々としてればいい」
静かな声で語り続けるロイドに、シュアはそっと視線を向けた。
ロイドは、もしかしたら、もっといい出会い方をしていれば…
ミトスとも、よく理解しあえた仲間になれたのかもしれない。
そんな風に思える希望が、魅力が、このリーダーには詰まっているんだとその言葉に改めて思い知らされる。
「…それが…出来なかったから。ボクは…ボクらは、ボクらの居場所が欲しかった!」
「おっと。被害者面はよくないぜ。…そのお題目でおまえがやったことは…到底相殺しきれない」
「あなたのしたことで…数えきれない人々が無意味な死に苦しめられた。その人たちの痛みを…あなたは…感じていますか?」
「人は変わるものよ。たとえ今日が変わらなくても、一ヶ月後、一年ごと時間が経つうちに必ず変化が訪れる」
「全ては許されないかもしれません。でも償うことはできます。あなたの中にも神さまはいるでしょう?良心っていう神さまが…」
ゼロス、プレセア、リフィル、コレットの言葉をそれでも一つ一つしっかりと聞きながら、ミトスはごつごつとした地面へと視線を向け、そしてやがて口を開いた。
「許しを請うと…思っているのか?馬鹿馬鹿しい。神様なんていないよ。だからボクは…ボクの理想を追求し続ける。ボクの居場所が大地になく、無期生命体の千年王国すらも否定するのなら、ボクはデリス・カーラーンに新しい世界を作るだけだ。姉さまと二人の世界を!」
瞬間、ミトスから大きなマナが放射状に広がった。
思わず目を瞑った彼らが再びその目を開くと、ミトスの背中には大きく、澄んだ羽が広がっている。
「…ミトス…」
何も声をかけることのできなかったシュアが、小さくポツリとその名前を零した。
そして強大な重圧をかけてくるミトスを前に、仲間たちは各々に武器を手に取った。
その後ろでシュアもゆっくりと、その腰から剣を抜き取り、前を見据えた。
「ミトス…さよならだ」
「…なんだか悲しいね」
「ああ…でも俺たちは勝ったんだ。前を向こうぜ」
叔父が少し前までそこにいた場所。そこにきらりと光る輝石を見つめて、ロイドとコレットがそう呟いているのをシュアは少し離れて見ていた。
決して甘くはなかった戦い。その痕跡が、少し見渡しただけでも物々しく辺りに残っている。
「アリシアと同じです…クルシスの輝石がある限り、ミトスは生き続けます」
プレセアがその光を見つめたまま口を開くと、すぐに響くような声がロイドたちを包んだ。
「そして…いずれは輝石に支配される」
「ミトス…」
「もうお前たちの正義ごっこに付き合うのはごめんだ さっさと輝石を…壊せ。でないとデリス・カーラーンは離れていく」
「ミトス…おまえ…」
その声は確かに輝石から響くミトスの声だった。
今は輝石となった叔父をシュアはじっと見つめ、そしてそこから消えるのはもう容易いのだと悟る。
彼の言うとおりにそう、輝石を壊した瞬間にこの世を去るんだ。
「…早くしろ!ボクも…ボクではなくなる」
「ロイド!ミトスを…助けて。ミトスのまま…逝かせてあげて」
「シュア…」
「…ふん、最期にお前に情けをかけられるとは思わなかったよ」
その表情は見えないのに、いつもの、眉間にしわを寄せたミトスの姿が目に浮かぶ。
幼いころの自分はそんなミトスが怖かったのだと、シュアはそっと思っていた。
「ミトスの…馬鹿。私はあなたを許さない。いつまでだって…忘れないんだから」
片方の剣を構えたロイドが、ミトスの輝石へと近づく。
そして最期の彼の声はこの空間すべてに響き渡り、そっと消えていった。
「さよならだ、ボクの影。ボクが選ばなかった道の最果てに存在する者。ボクはボクの世界が欲しかった。だからボクは後悔しない。ボクは何度でもこの選択をする。
…この選択をし続ける!」
ガキィィ…ン!!
砕かれた輝石は光となり、ロイドを包んだ。
「ここに…俺たちの世界にいてもよかったのに。バカやろう…」
そしてロイドの絞り出すようなその声が、滲むように空間を濡らした。
「…ロイドたちなら、大丈夫だよね」
「あったりめーだろ。ロイド君だからな」
いつもの調子で言ったゼロスに、そうだねとシュアは小さく笑う。
ミトスの城を離れ、ロイドとコレットを除いた仲間たちは救いの塔の外れ、小高い丘で彼らの帰りを待っていた。
二人は実りを、大樹カーラーンを目覚めさせるためにデリスカーラーンの付近…大気圏まで向かって行った。
そしてかつてその大きな塔がそびえていた場所。目覚めの光だろうか、大いなる光が溢れ出したのを、仲間たちは見ていた。
大樹は目覚めたのだろうか。
それは、ここからでは確認しがたいけれど。
「大丈夫さ」
「…うん」
しいなとジーニアスがそう零すのを見やり、シュアは再び少し遠く、彼らがいるであろう場所へと視線を戻す。
「これで…終わったんだね」
「…ああ…」
「うん…」
小さく相槌を打ってくれたゼロスの声を聴きながら、シュアはミトスのことを思い浮かべていた。
きっと、どこかで見ているだろう。
彼とは違う選択をした世界の形を。
けれども世界はあるべき姿に戻り、そしてそこにこれ以上天使が関わっていくこともない。
そう、しなければならない。
戦いは終わったけれど、また新たな時代が始まるのだろう。
今は、それ以上誰も言葉を交わすことはなかった。
To the end.