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ここは…どこだろう。
確か、変な紋章の上で光に包まれて…
真っ白で何もない。そんな不思議な空間の中で頭を働かせると、はっとしてシュアは辺りを見回した。
そうだ、早くロイドに合流しなくちゃ…
そう、思い何気なく振り向いたその先に、
「………っ…!!?」
あるはずのない姿を見て、シュアは呼吸も忘れて立ち尽くした。
「…る、……び…?」
指先が、震える。
「…っは……!」
自分が呼吸をしていなかったことに気付いて、慌ててシュアは呼吸を繰り返した。
「シュア」
柔らかく、シュアに向かって微笑みかける、ルビナス。
その声が、その名前を呼ぶ声が、直接耳を刺激するのはもう、どれくらいぶりだろうか。
数えるのも難しいほど遥か昔のことで、それだけでシュアは涙が容赦なくこみ上がってくるのを感じる。
「ルビ…」
「シュア、なに泣いてんだよ?」
「だって…ルビ…」
「…悪かったな。4千年も、留守にしちまって」
そう、4千年だ。記憶の中で再生するのとは違う、確かにそこにある気配と声。
「でもこれからはずっと一緒にいられる。何があっても会えるように、そう望んだだろ?」
「うん…ルビ、私…」
「…話したいことは山ほどあんだろうな」
「当たり前だよっ!」
「悪かったって。だから、一緒に行こう」
何もないこの空間で、ルビナスがそっとこちらに手を差し伸べてくる。
行く?行くって…
「どこに…」
「俺たちと一緒に行こう。クルシスに戻ってくるんだ。そして、この戦いを…全部終わらせよう」
「クルシス…?」
目の前の恋人が、何を言っているのか分からない。
俺たち?クルシス?終わらせる?
ルビが…クルシスに?どうして…
「ルビ…ルビがどうしてクルシスに…?」
「…俺がここにいるのも、お前の叔父さんのおかげなんだよ」
「…!ミトス…?」
「あぁ…。そしてこれからもこうやっていられる。クルシスで、お前とずっとだ。ただ俺たちとロイドを倒せばいい。それだけで、ずっと俺とお前は…今度こそ一緒にいられる」
ただ立ち尽くしてルビナスの言葉を聞いていたシュアには、その全てが上手く理解できなかった。
ミトスがルビナスを…蘇らせた?
だからクルシスに戻れば…一緒にいられる?
その為にはすべてを終わらせるために…ロイドを倒す?
言っていることは分かるのに、上手く理解ができない。
それでも、耳から入って頭に響く愛しい人の声が…すべてを麻痺させる。
「疲れただろ?だからもう、全部終わらせるんだ。そんで俺と一緒に…ずっと一緒に生きてこうぜ?」
もう一度、改めて伸ばされるルビナスの腕。
差し出される、懐かしい手のひら。
「…うん…」
そうだね。もう、疲れたかな…。
ルビナスと一緒なら、どこへ行ってもいいかな…
一歩、シュアは彼の元へと足を踏み出した。
コレットに案内されたのは、二枚の大きなガラスが並ぶ絶壁だった。
一枚のガラスの中には、リフィルとジーニアス。
そして、もう一枚のガラスには…
「!ジーニアス!先生!」
「シュア!」
しいながその名前を呼びかけているのが耳に届く。
ゼロスは、そんなしいなの見つめるガラスへとゆっくり歩み寄った。
シュア…
ガラス、いやマジックミラーだろう。
こっちからははっきりとその姿が見えるのに、シュアにも、リフィルもジーニアスにも、こちらの姿は見えないようだ。
そしてこちらに気付くことのないシュアが見つめる先に、一人の男の姿を見つけた。
やっぱりな…
ゼロスは、心の中で呟きながらぎりっと奥歯を噛み締めた。
「シュア…こっちが、見えてないのかい?」
「ああ…ま、見えてたとしても…気付かねーだろうな」
向かい合う男は、シュアの記憶の映像で見たことがある。
自分と同じ髪の色を持つ男、ルビナスだとゼロスにはすぐに分かった。
そのルビナスは、シュアに向かって真っ直ぐに手を差し伸べている。
当のシュアは涙で頬を濡らしたまま、少し困惑したようにルビナスの話を聞いているだけだ。
「そしてこれからもこうやっていられる。クルシスで、お前とずっとだ。ただ俺たちと共にロイドを倒せばいい。それだけで、ずっと俺とお前は…今度こそ一緒にいられる」
シュアにはもう幻覚だという考えもないのだろう。
ただまっすぐとルビナスを見つめ、眉根を寄せたままにその目に力はない。
「疲れただろ?だからもう、全部終わらせるんだ。そしたら俺と一緒に…これからずっと生きてこう」
それに続く言葉を、同じようにゼロスは待っていた。
シュアがルビナスに返す言葉を。
どうか、まさか、そう祈りながら。
「…うん…」
けれど、耳に飛び込んだのは小さなシュアの頷きだけだった。
どこかで分かっていたのに。シュアにとってのルビナスという男の大きさに。
それがシュアに向けた、最大の切り札だということにも。
ゼロスは、一歩を踏み出したシュアに向かって半ば無意識に、声を荒げていた。
「シュア!!」
ぴくり、とガラスの中のシュアが足を止める。
「あ、反応した!?ゼロス、シュアが…」
「本っ当ーにそれでいいのか!?ロイドを倒すなんてこと、本気でできると思ってんのかよ!」
ゆっくりと、辺りを見回すシュアには、その声がどこから聞こえてくるものかも分からない。
何も見えなければ、誰の声だったか…ジンと胸が熱くなるのに、それさえも分からない。
ガラスをその拳で叩きながら訴えるゼロスに、しいなが誰よりも驚いてゼロスを見つめていた。
「どうした、シュア?ほら、行こうぜ」
「でも、ルビ…何か、聞こえたよ」
「幻覚だ。幻聴だよ。ほら、早く行こうぜ」
昔の表情のまま笑うルビナスに、惹かれるように足はまっすぐとルビナスを目指す。
それでも、さっき聞こえた言葉がシュアの中で小さく響いていた。
ロイドを倒すなんてこと、
ロイドを倒すなんてこと、
ロイドを…
「こらぁ無視すんな!ふざけんなよ!一緒に居たいんじゃなかったのか!ロイドたちと居たいって言ってたのは嘘っぱちか!」
「!?」
「だいたい人の気も知らねーで一方的に突き放しやがって!俺は、俺だっつーの!他人様の気持ちなんて預かってたまるか!」
今度こそぴたりと足を止めたシュアが再び辺りを見回す。
やはりその目には何も映らないけれど、
「…ゼロス…?」
そう、声の主の名前だけは意識するでもなく呟いていた。
「シュア?どうした?」
「ゼロス…そうだ。ゼロスが…。ルビ、今はゼロスとして生きてる筈だよね…あなたは…」
幻覚…。
そう、思えはするのに目の前の彼が悲しそうに表情を歪めている。
「…シュア…その、ゼロスって奴のほうがいいのか?俺よりも?」
「ルビ…あなたは幻覚、なんだよね。だってあなたは今…」
「俺はここにいる。言ったろ?ミトスの力だって。なら選べばいい。お前…俺を、裏切るのか?その指輪で、誓い合ったのに?」
「ルビ…」
幻覚…でも、もしかしたら本当に、いるのかもしれない。
自分が彼の存在を否定することなんて、したくない。
どうしても、できない。
「指輪…、うん…」
「シュア。今、だけなんだ。俺はずっと、お前と一緒に居たい」
「…ごちゃごちゃうるせー」
「幽霊、だなっ!」
バリィン…ッ!と、大きな音が近くでして、シュアは反射的に振り返った。
その先に今まで何もなかったはずの、世界。
割れたガラスと、ゼロスの姿。
そしてその後ろには、しいなの姿も見える。
「シュア!」
「…ゼロス…」
「分かってんだろ?幻覚ってことぐらい。そうじゃなきゃ、なんでシュアは4千年も苦しんできたんだ。お前はもう、傷ついた仲間も救える、仲間を守れる力だってある!そんでなんで気持ちだけ…4千年前に戻されてんだよ?」
「シュアは、俺とずっと一緒に居ることを望んでる。そんな力が無くても、ただあの頃と同じように戻れればいい。そうすりゃ、どんな苦しみからも解放される」
シュアに話してるっつーのに…口を挟まれたことにムッとしながら、ゼロスはルビナスへと向き直った。
「今更言ってんじゃねーよ。散々苦しんで強くなってんだ。そんな解放もいらねーし、シュアを今更お前に戻す権利はねーな」
言いたいことを反論し終えると、ゼロスは再びシュアに向きなおった。
「シュア、あいつの手を取れば、また4千年前に戻れるとでも思うか?一つも傷がつかない4千年が良かったか?しいなとも会わない、ロイドとも、あいつらとも誰とも会わない…そんな4千年が良かったのか?そいつがずっと横にいて、生まれ変わらない…俺が生まれない、出会わない、その方が良かったってのかよ?」
「…ゼロス…」
捲くし立てながら、どんどん悲しそうに歪めていくゼロスの表情に、ちくりと胸が痛む。
そんな、ことはない。
そんなことが、あるはずがない。
ロイドにも、しいなにも、ゼロスにも…コレットやジーニアスや、仲間だけじゃないアルテスタさんもタバサもセレスちゃんも、この旅で出会ったみんなに、出会わない方が良かったなんて…言えるわけがない。
「私は…」
「シュア。お前はもう、1人じゃないだろーが…捨てられないもんがあるだろ」
「1人じゃ…ない」
「そーだよ。シュアが言い出したんだ…だから、俺もお前を信じるよ。お前が決めることだ」
それきりそこでただ待つように立ち尽くしているゼロスから視線を落とし、真っ白な足元を見つめる。
それでも、いいんだろうか。
1人でないと、そう思っても。
自分がどんなに、みんなと違う存在だとしても。
「……」
黙ったまま、ただ静かに歩き出したシュアの姿をゼロスは見つめる。
ルビナスの方へ向かって歩いていくシュアを、その行動を見守るように黙って見つめている。
「ルビ」
「シュア、」
差し伸べられた手も通り越して、歩きついたルビナスの首にシュアはそのまま腕を回して抱き着いた。
「…あは、幻覚なのに触れるんだね」
「シュア、俺は…」
「私ね、ルビがいなくなってから…どうして生きてるのか分からなかった。毎日何のために生きてるのか…どうして母さんが私を産んだのか」
大いなる実りの間で、毎日のように語りかけていた。
あの森でしいなに出会うまで。
あの草原でゼロスに出会うまで。
「でもね、今はそんなことどうだっていいの。理由じゃなくて、誰かの許しでもなくて、将来の結果じゃなくて」
「今、どうしたいかが大事なんだって」
「不思議なの。今ね、こうしたいってことが毎日いっぱいあるんだ。だから、意味なんて考えてる暇もないみたい」
みんなが異端な自分をどう思うかじゃない。
私が一緒に居たいと思うことが大事なんだって。
そう、ルビの家でゼロスに教えられたから。
それが私の本心で、そうしたいんだってこと。
「わがまま言うならルビともみんなともずっと一緒に居たい。でも…あなたはもうここにいないはずで、私はルビの言うロイドを倒すってこともできないはずなの」
「だから…分かって」
そっと腕をほどいて、シュアは正面からルビナスを見つめる。
訝しそうに、不愉快そうに、シュアを見つめていたルビナスがシュアの腕を掴み…そして一歩、引き離した。
「…ありがとう」
彼の最期の時と同じ、穏やかに微笑む表情に、今度は微笑み返すことが出来る。
そうだよね。最期に笑ったルビは、きっと私に笑い返してほしかったんだ。
シュアはまた一歩近寄ると、別れの意味を込めて…彼のその唇に触れるだけのキスをした。
「今度こそ…さようなら」
そのまま背を向けたシュアは、振り返ることなく割られたガラスの方へと歩いていく。
その姿を少しの間だけ見つめて、ルビナスは静かにその姿を消した。
「…シュア!」
呼びかける仲間の声に顔を上げて、シュアは抱き着いてきた親友を受け止めた。
「しいな…私、また迷惑かけちゃったかな」
「そんなことどうだっていいさ!それだって一緒に居なきゃ、わからないんだ」
「…うん、そうだね」
しいなの肩越しに顔を上げて、ゼロスを見つめる。
少しだけ不機嫌そうな顔をしたゼロスは、けれどおもむろにシュアへと手を伸ばして。
「…泣き虫だなーもー」
本人の気づかぬ間に零れていた涙を拭って、苦笑した。
「ゼロス…ありがとね」
「ほんっとだぜ。俺さまの美しー声が枯れちゃったらどうしてくれんのよ?」
「はは、いーっぱいファーストエイドしてあげるよ」
そんだけかよーといつも通りに項垂れる彼に、シュアは静かに微笑んでゼロスを見つめていた。
冗談めかしているけれど、あれだけ真剣に声をかけてくれたゼロスの表情を思い出す。
『俺もお前を信じるよ』
とくん、とくんと急ぐ胸を抑えて、シュアはしばらくの間、変わらず静かに微笑んでいた。
Next.
確か、変な紋章の上で光に包まれて…
真っ白で何もない。そんな不思議な空間の中で頭を働かせると、はっとしてシュアは辺りを見回した。
そうだ、早くロイドに合流しなくちゃ…
そう、思い何気なく振り向いたその先に、
「………っ…!!?」
あるはずのない姿を見て、シュアは呼吸も忘れて立ち尽くした。
「…る、……び…?」
指先が、震える。
「…っは……!」
自分が呼吸をしていなかったことに気付いて、慌ててシュアは呼吸を繰り返した。
「シュア」
柔らかく、シュアに向かって微笑みかける、ルビナス。
その声が、その名前を呼ぶ声が、直接耳を刺激するのはもう、どれくらいぶりだろうか。
数えるのも難しいほど遥か昔のことで、それだけでシュアは涙が容赦なくこみ上がってくるのを感じる。
「ルビ…」
「シュア、なに泣いてんだよ?」
「だって…ルビ…」
「…悪かったな。4千年も、留守にしちまって」
そう、4千年だ。記憶の中で再生するのとは違う、確かにそこにある気配と声。
「でもこれからはずっと一緒にいられる。何があっても会えるように、そう望んだだろ?」
「うん…ルビ、私…」
「…話したいことは山ほどあんだろうな」
「当たり前だよっ!」
「悪かったって。だから、一緒に行こう」
何もないこの空間で、ルビナスがそっとこちらに手を差し伸べてくる。
行く?行くって…
「どこに…」
「俺たちと一緒に行こう。クルシスに戻ってくるんだ。そして、この戦いを…全部終わらせよう」
「クルシス…?」
目の前の恋人が、何を言っているのか分からない。
俺たち?クルシス?終わらせる?
ルビが…クルシスに?どうして…
「ルビ…ルビがどうしてクルシスに…?」
「…俺がここにいるのも、お前の叔父さんのおかげなんだよ」
「…!ミトス…?」
「あぁ…。そしてこれからもこうやっていられる。クルシスで、お前とずっとだ。ただ俺たちとロイドを倒せばいい。それだけで、ずっと俺とお前は…今度こそ一緒にいられる」
ただ立ち尽くしてルビナスの言葉を聞いていたシュアには、その全てが上手く理解できなかった。
ミトスがルビナスを…蘇らせた?
だからクルシスに戻れば…一緒にいられる?
その為にはすべてを終わらせるために…ロイドを倒す?
言っていることは分かるのに、上手く理解ができない。
それでも、耳から入って頭に響く愛しい人の声が…すべてを麻痺させる。
「疲れただろ?だからもう、全部終わらせるんだ。そんで俺と一緒に…ずっと一緒に生きてこうぜ?」
もう一度、改めて伸ばされるルビナスの腕。
差し出される、懐かしい手のひら。
「…うん…」
そうだね。もう、疲れたかな…。
ルビナスと一緒なら、どこへ行ってもいいかな…
一歩、シュアは彼の元へと足を踏み出した。
コレットに案内されたのは、二枚の大きなガラスが並ぶ絶壁だった。
一枚のガラスの中には、リフィルとジーニアス。
そして、もう一枚のガラスには…
「!ジーニアス!先生!」
「シュア!」
しいながその名前を呼びかけているのが耳に届く。
ゼロスは、そんなしいなの見つめるガラスへとゆっくり歩み寄った。
シュア…
ガラス、いやマジックミラーだろう。
こっちからははっきりとその姿が見えるのに、シュアにも、リフィルもジーニアスにも、こちらの姿は見えないようだ。
そしてこちらに気付くことのないシュアが見つめる先に、一人の男の姿を見つけた。
やっぱりな…
ゼロスは、心の中で呟きながらぎりっと奥歯を噛み締めた。
「シュア…こっちが、見えてないのかい?」
「ああ…ま、見えてたとしても…気付かねーだろうな」
向かい合う男は、シュアの記憶の映像で見たことがある。
自分と同じ髪の色を持つ男、ルビナスだとゼロスにはすぐに分かった。
そのルビナスは、シュアに向かって真っ直ぐに手を差し伸べている。
当のシュアは涙で頬を濡らしたまま、少し困惑したようにルビナスの話を聞いているだけだ。
「そしてこれからもこうやっていられる。クルシスで、お前とずっとだ。ただ俺たちと共にロイドを倒せばいい。それだけで、ずっと俺とお前は…今度こそ一緒にいられる」
シュアにはもう幻覚だという考えもないのだろう。
ただまっすぐとルビナスを見つめ、眉根を寄せたままにその目に力はない。
「疲れただろ?だからもう、全部終わらせるんだ。そしたら俺と一緒に…これからずっと生きてこう」
それに続く言葉を、同じようにゼロスは待っていた。
シュアがルビナスに返す言葉を。
どうか、まさか、そう祈りながら。
「…うん…」
けれど、耳に飛び込んだのは小さなシュアの頷きだけだった。
どこかで分かっていたのに。シュアにとってのルビナスという男の大きさに。
それがシュアに向けた、最大の切り札だということにも。
ゼロスは、一歩を踏み出したシュアに向かって半ば無意識に、声を荒げていた。
「シュア!!」
ぴくり、とガラスの中のシュアが足を止める。
「あ、反応した!?ゼロス、シュアが…」
「本っ当ーにそれでいいのか!?ロイドを倒すなんてこと、本気でできると思ってんのかよ!」
ゆっくりと、辺りを見回すシュアには、その声がどこから聞こえてくるものかも分からない。
何も見えなければ、誰の声だったか…ジンと胸が熱くなるのに、それさえも分からない。
ガラスをその拳で叩きながら訴えるゼロスに、しいなが誰よりも驚いてゼロスを見つめていた。
「どうした、シュア?ほら、行こうぜ」
「でも、ルビ…何か、聞こえたよ」
「幻覚だ。幻聴だよ。ほら、早く行こうぜ」
昔の表情のまま笑うルビナスに、惹かれるように足はまっすぐとルビナスを目指す。
それでも、さっき聞こえた言葉がシュアの中で小さく響いていた。
ロイドを倒すなんてこと、
ロイドを倒すなんてこと、
ロイドを…
「こらぁ無視すんな!ふざけんなよ!一緒に居たいんじゃなかったのか!ロイドたちと居たいって言ってたのは嘘っぱちか!」
「!?」
「だいたい人の気も知らねーで一方的に突き放しやがって!俺は、俺だっつーの!他人様の気持ちなんて預かってたまるか!」
今度こそぴたりと足を止めたシュアが再び辺りを見回す。
やはりその目には何も映らないけれど、
「…ゼロス…?」
そう、声の主の名前だけは意識するでもなく呟いていた。
「シュア?どうした?」
「ゼロス…そうだ。ゼロスが…。ルビ、今はゼロスとして生きてる筈だよね…あなたは…」
幻覚…。
そう、思えはするのに目の前の彼が悲しそうに表情を歪めている。
「…シュア…その、ゼロスって奴のほうがいいのか?俺よりも?」
「ルビ…あなたは幻覚、なんだよね。だってあなたは今…」
「俺はここにいる。言ったろ?ミトスの力だって。なら選べばいい。お前…俺を、裏切るのか?その指輪で、誓い合ったのに?」
「ルビ…」
幻覚…でも、もしかしたら本当に、いるのかもしれない。
自分が彼の存在を否定することなんて、したくない。
どうしても、できない。
「指輪…、うん…」
「シュア。今、だけなんだ。俺はずっと、お前と一緒に居たい」
「…ごちゃごちゃうるせー」
「幽霊、だなっ!」
バリィン…ッ!と、大きな音が近くでして、シュアは反射的に振り返った。
その先に今まで何もなかったはずの、世界。
割れたガラスと、ゼロスの姿。
そしてその後ろには、しいなの姿も見える。
「シュア!」
「…ゼロス…」
「分かってんだろ?幻覚ってことぐらい。そうじゃなきゃ、なんでシュアは4千年も苦しんできたんだ。お前はもう、傷ついた仲間も救える、仲間を守れる力だってある!そんでなんで気持ちだけ…4千年前に戻されてんだよ?」
「シュアは、俺とずっと一緒に居ることを望んでる。そんな力が無くても、ただあの頃と同じように戻れればいい。そうすりゃ、どんな苦しみからも解放される」
シュアに話してるっつーのに…口を挟まれたことにムッとしながら、ゼロスはルビナスへと向き直った。
「今更言ってんじゃねーよ。散々苦しんで強くなってんだ。そんな解放もいらねーし、シュアを今更お前に戻す権利はねーな」
言いたいことを反論し終えると、ゼロスは再びシュアに向きなおった。
「シュア、あいつの手を取れば、また4千年前に戻れるとでも思うか?一つも傷がつかない4千年が良かったか?しいなとも会わない、ロイドとも、あいつらとも誰とも会わない…そんな4千年が良かったのか?そいつがずっと横にいて、生まれ変わらない…俺が生まれない、出会わない、その方が良かったってのかよ?」
「…ゼロス…」
捲くし立てながら、どんどん悲しそうに歪めていくゼロスの表情に、ちくりと胸が痛む。
そんな、ことはない。
そんなことが、あるはずがない。
ロイドにも、しいなにも、ゼロスにも…コレットやジーニアスや、仲間だけじゃないアルテスタさんもタバサもセレスちゃんも、この旅で出会ったみんなに、出会わない方が良かったなんて…言えるわけがない。
「私は…」
「シュア。お前はもう、1人じゃないだろーが…捨てられないもんがあるだろ」
「1人じゃ…ない」
「そーだよ。シュアが言い出したんだ…だから、俺もお前を信じるよ。お前が決めることだ」
それきりそこでただ待つように立ち尽くしているゼロスから視線を落とし、真っ白な足元を見つめる。
それでも、いいんだろうか。
1人でないと、そう思っても。
自分がどんなに、みんなと違う存在だとしても。
「……」
黙ったまま、ただ静かに歩き出したシュアの姿をゼロスは見つめる。
ルビナスの方へ向かって歩いていくシュアを、その行動を見守るように黙って見つめている。
「ルビ」
「シュア、」
差し伸べられた手も通り越して、歩きついたルビナスの首にシュアはそのまま腕を回して抱き着いた。
「…あは、幻覚なのに触れるんだね」
「シュア、俺は…」
「私ね、ルビがいなくなってから…どうして生きてるのか分からなかった。毎日何のために生きてるのか…どうして母さんが私を産んだのか」
大いなる実りの間で、毎日のように語りかけていた。
あの森でしいなに出会うまで。
あの草原でゼロスに出会うまで。
「でもね、今はそんなことどうだっていいの。理由じゃなくて、誰かの許しでもなくて、将来の結果じゃなくて」
「今、どうしたいかが大事なんだって」
「不思議なの。今ね、こうしたいってことが毎日いっぱいあるんだ。だから、意味なんて考えてる暇もないみたい」
みんなが異端な自分をどう思うかじゃない。
私が一緒に居たいと思うことが大事なんだって。
そう、ルビの家でゼロスに教えられたから。
それが私の本心で、そうしたいんだってこと。
「わがまま言うならルビともみんなともずっと一緒に居たい。でも…あなたはもうここにいないはずで、私はルビの言うロイドを倒すってこともできないはずなの」
「だから…分かって」
そっと腕をほどいて、シュアは正面からルビナスを見つめる。
訝しそうに、不愉快そうに、シュアを見つめていたルビナスがシュアの腕を掴み…そして一歩、引き離した。
「…ありがとう」
彼の最期の時と同じ、穏やかに微笑む表情に、今度は微笑み返すことが出来る。
そうだよね。最期に笑ったルビは、きっと私に笑い返してほしかったんだ。
シュアはまた一歩近寄ると、別れの意味を込めて…彼のその唇に触れるだけのキスをした。
「今度こそ…さようなら」
そのまま背を向けたシュアは、振り返ることなく割られたガラスの方へと歩いていく。
その姿を少しの間だけ見つめて、ルビナスは静かにその姿を消した。
「…シュア!」
呼びかける仲間の声に顔を上げて、シュアは抱き着いてきた親友を受け止めた。
「しいな…私、また迷惑かけちゃったかな」
「そんなことどうだっていいさ!それだって一緒に居なきゃ、わからないんだ」
「…うん、そうだね」
しいなの肩越しに顔を上げて、ゼロスを見つめる。
少しだけ不機嫌そうな顔をしたゼロスは、けれどおもむろにシュアへと手を伸ばして。
「…泣き虫だなーもー」
本人の気づかぬ間に零れていた涙を拭って、苦笑した。
「ゼロス…ありがとね」
「ほんっとだぜ。俺さまの美しー声が枯れちゃったらどうしてくれんのよ?」
「はは、いーっぱいファーストエイドしてあげるよ」
そんだけかよーといつも通りに項垂れる彼に、シュアは静かに微笑んでゼロスを見つめていた。
冗談めかしているけれど、あれだけ真剣に声をかけてくれたゼロスの表情を思い出す。
『俺もお前を信じるよ』
とくん、とくんと急ぐ胸を抑えて、シュアはしばらくの間、変わらず静かに微笑んでいた。
Next.