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学園都市、サイバック。
それはメルトキオとは違った雰囲気を持つ、一言で言えば清潔な街だった。
道が綺麗だとか、色合いが無難だとかの理由だけではない。
学生、研究員たちは、それぞれ自分の領域に溺れんばかりに力を注ぎ、そしてそれを支えるような商人もまた、彼らのそれを掻き乱すことなく、清潔なその雰囲気を守っている。
そんなサイバックへと、ロイドたち一向は足を踏み入れていた。
最初こそ、その見事な景色に目を奪われながら歩いていたグランテセアラブリッジは、シュアやシルヴァラント組の想像を遥かに超えて長く、渡り終える頃にはすでに彼らの表情を飽き飽きとしたそれへと変貌させていた。
もちろん、誰よりも先に、一番に長いだ飽きたと文句をたれていたのは他の誰でもない、ロイドなのだが。
そんなこんなで辿り着いたサイバックには、目標としていた王立研究院がある。
しかし、辿り着いた時にはもう、すっかりと日も暮れていた。
この時間では、研究院などとても開いている訳が…もしかしたら、研究熱心な研究員が居れば、開いているかもしれないが。
とにかく、翌日出直すことにした一行は、街の宿屋に部屋を取って一晩を明かす事にした。
隣のベッドでプレセアが眠っているのをちらりと見やって、シュアが胸元からチェーンを取り出すと、そこに通された1つの指輪は窓から差し込む月の光を浴びて、銀色に輝く。
それは先程シュアが湯を浴びようと、服を脱いだときに気付いた物だった。
ただのアクセサリーだろう。そう思ってあまり気にはしなかったのだが、やはり放っとこうという気にもならないのだ。
何かを知っているような…そんな気がしてならない。
だからと言って考えたって分からないのは、今日一日でいやというほど思い知らされた。
明日ゼロスにでも聞こう、そう思って再びそれを襟元から服の中にしまう。
そしてただ天井を見上げると、今日一日に起きた出来事…というよりは、もはや自分の記憶の全てである時間を、シュアは一つ一つ、ゆっくりと思い返し始めた。
やはりどんなに思い出そうとしても、今日…いや、もう日付は変わったかもしれないから昨日か。そんな以前の事が何も思い出せない。
野宿をしていたのだと、なんら疑う事が無かったのはどうしてだろう。
目が覚めて、簡単な朝食を摂って、支度をして出発をして。
魔物に何度か出会い、魔術を使えば眩暈が起こる事を悟り、そしてちょうどその症状に襲われていた時、ゼロスに出会い。
どこに向かっていた訳でもなかった気がする。歩いて、魔物に会えば退治して、そんな事をしている内にゼロスに助けられて、記憶のないことを知って。
たった一日で色々な事が起きた。空っぽだった記憶に、色が付いた。
そしてそんな自分に、これからの旅に、シュアは酷くワクワクしていた。
突然飛び込んできた世界の話やシルヴァラントというもう一つの世界の話。
そんな難しい話や、知らない単語に頭がぐちゃぐちゃになりそうでも、それでもゼロス達と居る事が自分には無性に魅力的で。
きっとそんな事を感じているのは自分だけなんだろうな、と思わず小さく微笑んでから、シュアはゆっくりと瞼を下ろす。
そしていつともなく眠りに付いたシュアは、その夜、夢を見ていた。
昔の夢、無くした記憶の欠片。
うなされる様に何度も寝返りを打って、汗をびっしょりと掻いたシュアが目を覚ます頃には、
そんな記憶は何一つとして、シュアの記憶に留まっている事は無かった。
翌朝。
バザーや資料館に散々目移りさせられながらようやく辿り着いた研究院は、街全体よりももっと、もはや潔癖な印象さえ与えられるような場所だった。
彼らはきっと、何より自分たちの研究が邪魔される事を一番に嫌うだろう。
仕方が無くも当然なその印象が、全ての研究員に当てはまらないという事は、現時点での彼らには知りえない事だったのだが。
コレットの症状こそ分かっていても、散々自分の知らない言葉が飛び交う会話を聞きながら、研究室の一室でシュアは必死に頭を働かせていた。
だがそれも結局分からないまま、要の紋‐最もそれもなんなのかシュアはいまいち理解していなかったが‐を探すために一度研究院の外へと、一行は足を運ぶ事になった。
先を歩く、ロイド、ジーニアス、コレット、プレセア、シュア。
そのまた後ろを歩くゼロスを、一番後ろを歩いていたリフィルはなるべく小さな声でと呼び止める。
「ゼロス」
「…はーいなんでしょ、リフィル様」
その深刻そうな表情を受け止めたゼロスは、何かを悟ったようにそっと歩みを遅くして、リフィルの隣へと並ぶ。
「…シュアの、ことなのだけれど」
「…はいはい?」
「あなたは知り合いなのでしょう?何も、知らないのかしら?」
それは予想したとおりの内容で。
一度伏目がちに視線を落としたゼロスは、それでも何も考えていないかのように答えを返す。
「いやいや、俺様に聞かれても」
「…エルフ、でないとしたなら…」
その言葉の続きを濁したリフィルは、ごめんなさい、と謝ると少しだけ歩みを早くしてゼロスの前を歩き始める。
そんなリフィルを、そしてすぐに視線を動かしたゼロスは、ジーニアスに要の紋の説明を受けるシュアを、じっと見つめた。
ハーフエルフか…と、言いたかったのだろう。
シルヴァラントの人間でさえ居ても、やはりハーフエルフには抵抗があるのだろうか。
いやしかし、シュアがハーフエルフなわけ…
そこまで考えて、しかし自分は彼女の何も知らない事に気づいて、ゼロスは一気にその考えに対する自信を失った。
むしろなぜ、自分は今まで何の疑問も持たずに居たのだろう。
シュアといえば、記憶をなくす前から、自分の住んでいる場所さえ明かさなかった位なのに。
再び動かした視線の先で、なにやらロイドがバザーの商人と言い争っている。
こういった小競り合いなら、テセアラでは丸く収めることなど自分にとってはお手の物だ。
ゼロスは、胸の内を支配した考えを振り払うように、やれやれと呟いてからゆっくりとその場に足を進めていった。
かつてはこんな生き物が、モンスター以上に悠々と世界を歩き回っていたのだろうか。
戻ってきた研究院のホールで、シュアはその巨大な化石を見つめながら、仲間達は思い思いの行動を取りながら、ロイドが要の紋を完成させるのを待ちわびていた。
ガチャ。
待ちわびた扉が開いて、仲間達は一斉にそちらから入ってくるであろうロイドに目を向ける。
完成したのだろうか。入ってきたロイドは、真っ直ぐにコレットに向かって歩み寄った。
「こんな形でおまえに誕生日プレゼントをやるとは思わなかったな」
手に持った首飾りを、ロイドはそっとコレットの首に回してやる。
離れてしばらく様子を伺うが…
…コレットの様子に、変化は少しも見られなかった。
「…どうなの?」
聞くまでもないのは分かっていても、聞かずにいられないのだろう。
ジーニアスは問いかけるが、しばらくした後にリフィルが溜息を吐いて、ジーニアスもその視線をゆっくりと落とす。
黙ってしまった仲間達の内で、けれど何かを思いついたのか、顔をあげたリフィルは提案をするべく口を開いた。
「ダイクに力を借りに…シルヴァラントに戻るのはどうかしら」
「おいおいちょっと待てよ。俺様はお前達の監視役なんだぜ?シルヴァラントに帰るなんて許すわけないだろーが」
しかし、立場はそんなにも自由なものではない。
仲間のほとんどがゼロスのここに居る理由を忘れかけていたが、リフィルはそれにも臆することなく、強気の表情でゼロスに語りかける。
「…監視役なら、ついて来ればいいじゃない。あなたはフェミニストなのでしょう?」
「そうだよ、ゼロス。私、本当のコレットに、会ってみたい」
ついでよくも事情が分かっていないシュアが懇願するようにそう言葉を発すれば、完全に悪者扱いになりそうなゼロスは、もうイエスと言うしか道が残されていないかのように溜息を吐いて。
「…ハニー達にそう言われたら、チクるわけにはいかないでしょーよ」
少しの間黙った後、ゼロスは観念したようにそう、リフィルの提案を飲み込んだ。
シルヴァラント。
それはシュアには知らないものの中でも想像さえつかない未知の世界。
すこしの不安と多くの期待に、不謹慎ながら胸を躍らせるシュア。
そして、まだ希望は捨てられないと、誰もがシルヴァラント行きに希望を抱いたのは、ほんの束の間だった。
ガシャン、ガシャン…
突如、広いホールに鉄のぶつかり合う音が響く。
それから間もなくして、嫌な予感を抱く仲間達の前に、見計らっていたかのように兵士たちは姿を現した。
「…神子さま。聞かせて頂きましたぞ。テセアラの滅亡に手を貸した反逆者として、神子さまとその者達を反逆罪に認定します」
「…ちっ、随分とタイミングが良すぎるじゃねぇか」
まさにゼロスの言葉通りだ。
この限られたホールの中では抵抗する間もなく、兵士達は1人1人の傍に、散り散りになって一行を囲んでいく。
「取り押さえて、サンプルを取れ」
全員が全員ガッチリと押さえられる中、手の空いている兵士はまずコレット以外のシルヴァラント組3人を、暴れないよう拘束して妙な機械を取り出した。
言葉どおりなら、サンプルとやらを採っているのだろう。
なに…と、小さく零すシュアに、傍に居たゼロスは観念したのか淡々と、表情一つ変える事なくその疑問に答えを渡す。
「生態検査だ。テセアラには身分制度があるからな」
生態検査?
声には出さなかったものの、まだそれがいかにこの世界で普通の出来事であるかを知らないシュアにしてみれば、そんな非人道的なこと、馬鹿げてるとしか思えない。
「そんなもの検査して…」
「…た、大変です!適合しました!」
「…お前たち、ハーフエルフだったのかっ!」
そしてシュアの言葉はゼロスに届くことなく、そんな兵士たちの声にかき消された。
当のジーニアスもリフィルも、何も言い返すことなく俯いている。
ハーフエルフ…とは、なんだっただろうか。
エルフ…そう、エルフと人間のハーフ。
この世界で、人々がまるで魔物のごとく忌み嫌っている存在。
記憶でない、最低限の知識の一つとしてシュアの頭でも理解の出来るこの状況。
2人はそんなハーフエルフなのだ。
けれど自分には、2人に対する恐怖など、微塵にも無い。記憶のない自分には、忌み嫌う理由など一つも無い。
「分かるか?シュア。…ハーフエルフは身分制度の最下層。おまけに…ハーフエルフの罪人は、例外なく死刑だ」
「そんな馬鹿な!」
シュアに語りかけたゼロスの言葉が聞こえたのか、横でロイドが騒ぎ立てるのが分かった。
ずっと2人と一緒に居たロイドだ。死罪だなんて認められないに決まっている。
そしてそれは、シュアにとって、自分も変わらない。
ハーフエルフが何だというのだろう。
いや、ハーフエルフだからこそ…
…罪の無い彼らを、殺したくは無いんだ。
自分で気付く間もなく、シュアはブツブツと言葉を唱え始めていた。
彼女を押さえる兵士がその異変に気付いたときには、もう遅い。
先程から一番偉そうに命令を下していた兵士の鉄仮面めがけて、炎の玉が一つ舞い降りて。
「う、うあぁぁ!」
当てられた本人でさえ、一瞬何をされたのか分からなかった。
けれど、まさか。今のはシュアの仕業?
兵士たちがようやく騒ぎ立てた頃、ゼロスはすぐにそれを悟ってシュアに驚いたような視線を向ける。
そしてそんな視線の先で、シュアは腹を括った様に薄く口元を緩めていた。
「誰だ!貴様か!」
「…っ、やっぱりファイアーボールじゃ、どうにもならない、か…っ」
ギリギリと拘束された腕を捻り上げられて、その表情を歪めながらシュアが言う。
「…私はエルフじゃない」
「なにっ!」
「……でも魔術が使える」
「まさか…お前もハーフエルフか!」
シュアは何も答えない。
「シュア!」
今まさにジーニアス達と同じように連れて行かれんとするシュアの名をロイドは必死に叫ぶが、シュアは抵抗する事も無くその手を大人しく縄で括られている。
理解のできないシュアの行動に、ゼロスも黙ったままシュアを見つめる。
と、ふと振り向きもせずに動いたシュアの口元。
「ゼロス。絶対に、捕まらないで」
「…な」
そしてゼロスがその意味を聞き返す暇も無く、シュアは出口に向かって乱暴に引っ張られていった。
開かれた扉のくぐり抜けざま、一瞬だけゼロスのほうを振り返って。
何も言う事はしない。
けれど、ゼロスには僅かにでもシュアの声が、聞こえるような気がした。
「絶対に」
信頼と、切望の眼差し。
まだ、彼女の記憶の中でたいした時間も一緒に居ない、自分に対する。
思わず眉根を寄せたゼロスの頭から、暫くの間、そんなシュアの表情が離れる事は無かった。
Next.
それはメルトキオとは違った雰囲気を持つ、一言で言えば清潔な街だった。
道が綺麗だとか、色合いが無難だとかの理由だけではない。
学生、研究員たちは、それぞれ自分の領域に溺れんばかりに力を注ぎ、そしてそれを支えるような商人もまた、彼らのそれを掻き乱すことなく、清潔なその雰囲気を守っている。
そんなサイバックへと、ロイドたち一向は足を踏み入れていた。
最初こそ、その見事な景色に目を奪われながら歩いていたグランテセアラブリッジは、シュアやシルヴァラント組の想像を遥かに超えて長く、渡り終える頃にはすでに彼らの表情を飽き飽きとしたそれへと変貌させていた。
もちろん、誰よりも先に、一番に長いだ飽きたと文句をたれていたのは他の誰でもない、ロイドなのだが。
そんなこんなで辿り着いたサイバックには、目標としていた王立研究院がある。
しかし、辿り着いた時にはもう、すっかりと日も暮れていた。
この時間では、研究院などとても開いている訳が…もしかしたら、研究熱心な研究員が居れば、開いているかもしれないが。
とにかく、翌日出直すことにした一行は、街の宿屋に部屋を取って一晩を明かす事にした。
隣のベッドでプレセアが眠っているのをちらりと見やって、シュアが胸元からチェーンを取り出すと、そこに通された1つの指輪は窓から差し込む月の光を浴びて、銀色に輝く。
それは先程シュアが湯を浴びようと、服を脱いだときに気付いた物だった。
ただのアクセサリーだろう。そう思ってあまり気にはしなかったのだが、やはり放っとこうという気にもならないのだ。
何かを知っているような…そんな気がしてならない。
だからと言って考えたって分からないのは、今日一日でいやというほど思い知らされた。
明日ゼロスにでも聞こう、そう思って再びそれを襟元から服の中にしまう。
そしてただ天井を見上げると、今日一日に起きた出来事…というよりは、もはや自分の記憶の全てである時間を、シュアは一つ一つ、ゆっくりと思い返し始めた。
やはりどんなに思い出そうとしても、今日…いや、もう日付は変わったかもしれないから昨日か。そんな以前の事が何も思い出せない。
野宿をしていたのだと、なんら疑う事が無かったのはどうしてだろう。
目が覚めて、簡単な朝食を摂って、支度をして出発をして。
魔物に何度か出会い、魔術を使えば眩暈が起こる事を悟り、そしてちょうどその症状に襲われていた時、ゼロスに出会い。
どこに向かっていた訳でもなかった気がする。歩いて、魔物に会えば退治して、そんな事をしている内にゼロスに助けられて、記憶のないことを知って。
たった一日で色々な事が起きた。空っぽだった記憶に、色が付いた。
そしてそんな自分に、これからの旅に、シュアは酷くワクワクしていた。
突然飛び込んできた世界の話やシルヴァラントというもう一つの世界の話。
そんな難しい話や、知らない単語に頭がぐちゃぐちゃになりそうでも、それでもゼロス達と居る事が自分には無性に魅力的で。
きっとそんな事を感じているのは自分だけなんだろうな、と思わず小さく微笑んでから、シュアはゆっくりと瞼を下ろす。
そしていつともなく眠りに付いたシュアは、その夜、夢を見ていた。
昔の夢、無くした記憶の欠片。
うなされる様に何度も寝返りを打って、汗をびっしょりと掻いたシュアが目を覚ます頃には、
そんな記憶は何一つとして、シュアの記憶に留まっている事は無かった。
翌朝。
バザーや資料館に散々目移りさせられながらようやく辿り着いた研究院は、街全体よりももっと、もはや潔癖な印象さえ与えられるような場所だった。
彼らはきっと、何より自分たちの研究が邪魔される事を一番に嫌うだろう。
仕方が無くも当然なその印象が、全ての研究員に当てはまらないという事は、現時点での彼らには知りえない事だったのだが。
コレットの症状こそ分かっていても、散々自分の知らない言葉が飛び交う会話を聞きながら、研究室の一室でシュアは必死に頭を働かせていた。
だがそれも結局分からないまま、要の紋‐最もそれもなんなのかシュアはいまいち理解していなかったが‐を探すために一度研究院の外へと、一行は足を運ぶ事になった。
先を歩く、ロイド、ジーニアス、コレット、プレセア、シュア。
そのまた後ろを歩くゼロスを、一番後ろを歩いていたリフィルはなるべく小さな声でと呼び止める。
「ゼロス」
「…はーいなんでしょ、リフィル様」
その深刻そうな表情を受け止めたゼロスは、何かを悟ったようにそっと歩みを遅くして、リフィルの隣へと並ぶ。
「…シュアの、ことなのだけれど」
「…はいはい?」
「あなたは知り合いなのでしょう?何も、知らないのかしら?」
それは予想したとおりの内容で。
一度伏目がちに視線を落としたゼロスは、それでも何も考えていないかのように答えを返す。
「いやいや、俺様に聞かれても」
「…エルフ、でないとしたなら…」
その言葉の続きを濁したリフィルは、ごめんなさい、と謝ると少しだけ歩みを早くしてゼロスの前を歩き始める。
そんなリフィルを、そしてすぐに視線を動かしたゼロスは、ジーニアスに要の紋の説明を受けるシュアを、じっと見つめた。
ハーフエルフか…と、言いたかったのだろう。
シルヴァラントの人間でさえ居ても、やはりハーフエルフには抵抗があるのだろうか。
いやしかし、シュアがハーフエルフなわけ…
そこまで考えて、しかし自分は彼女の何も知らない事に気づいて、ゼロスは一気にその考えに対する自信を失った。
むしろなぜ、自分は今まで何の疑問も持たずに居たのだろう。
シュアといえば、記憶をなくす前から、自分の住んでいる場所さえ明かさなかった位なのに。
再び動かした視線の先で、なにやらロイドがバザーの商人と言い争っている。
こういった小競り合いなら、テセアラでは丸く収めることなど自分にとってはお手の物だ。
ゼロスは、胸の内を支配した考えを振り払うように、やれやれと呟いてからゆっくりとその場に足を進めていった。
かつてはこんな生き物が、モンスター以上に悠々と世界を歩き回っていたのだろうか。
戻ってきた研究院のホールで、シュアはその巨大な化石を見つめながら、仲間達は思い思いの行動を取りながら、ロイドが要の紋を完成させるのを待ちわびていた。
ガチャ。
待ちわびた扉が開いて、仲間達は一斉にそちらから入ってくるであろうロイドに目を向ける。
完成したのだろうか。入ってきたロイドは、真っ直ぐにコレットに向かって歩み寄った。
「こんな形でおまえに誕生日プレゼントをやるとは思わなかったな」
手に持った首飾りを、ロイドはそっとコレットの首に回してやる。
離れてしばらく様子を伺うが…
…コレットの様子に、変化は少しも見られなかった。
「…どうなの?」
聞くまでもないのは分かっていても、聞かずにいられないのだろう。
ジーニアスは問いかけるが、しばらくした後にリフィルが溜息を吐いて、ジーニアスもその視線をゆっくりと落とす。
黙ってしまった仲間達の内で、けれど何かを思いついたのか、顔をあげたリフィルは提案をするべく口を開いた。
「ダイクに力を借りに…シルヴァラントに戻るのはどうかしら」
「おいおいちょっと待てよ。俺様はお前達の監視役なんだぜ?シルヴァラントに帰るなんて許すわけないだろーが」
しかし、立場はそんなにも自由なものではない。
仲間のほとんどがゼロスのここに居る理由を忘れかけていたが、リフィルはそれにも臆することなく、強気の表情でゼロスに語りかける。
「…監視役なら、ついて来ればいいじゃない。あなたはフェミニストなのでしょう?」
「そうだよ、ゼロス。私、本当のコレットに、会ってみたい」
ついでよくも事情が分かっていないシュアが懇願するようにそう言葉を発すれば、完全に悪者扱いになりそうなゼロスは、もうイエスと言うしか道が残されていないかのように溜息を吐いて。
「…ハニー達にそう言われたら、チクるわけにはいかないでしょーよ」
少しの間黙った後、ゼロスは観念したようにそう、リフィルの提案を飲み込んだ。
シルヴァラント。
それはシュアには知らないものの中でも想像さえつかない未知の世界。
すこしの不安と多くの期待に、不謹慎ながら胸を躍らせるシュア。
そして、まだ希望は捨てられないと、誰もがシルヴァラント行きに希望を抱いたのは、ほんの束の間だった。
ガシャン、ガシャン…
突如、広いホールに鉄のぶつかり合う音が響く。
それから間もなくして、嫌な予感を抱く仲間達の前に、見計らっていたかのように兵士たちは姿を現した。
「…神子さま。聞かせて頂きましたぞ。テセアラの滅亡に手を貸した反逆者として、神子さまとその者達を反逆罪に認定します」
「…ちっ、随分とタイミングが良すぎるじゃねぇか」
まさにゼロスの言葉通りだ。
この限られたホールの中では抵抗する間もなく、兵士達は1人1人の傍に、散り散りになって一行を囲んでいく。
「取り押さえて、サンプルを取れ」
全員が全員ガッチリと押さえられる中、手の空いている兵士はまずコレット以外のシルヴァラント組3人を、暴れないよう拘束して妙な機械を取り出した。
言葉どおりなら、サンプルとやらを採っているのだろう。
なに…と、小さく零すシュアに、傍に居たゼロスは観念したのか淡々と、表情一つ変える事なくその疑問に答えを渡す。
「生態検査だ。テセアラには身分制度があるからな」
生態検査?
声には出さなかったものの、まだそれがいかにこの世界で普通の出来事であるかを知らないシュアにしてみれば、そんな非人道的なこと、馬鹿げてるとしか思えない。
「そんなもの検査して…」
「…た、大変です!適合しました!」
「…お前たち、ハーフエルフだったのかっ!」
そしてシュアの言葉はゼロスに届くことなく、そんな兵士たちの声にかき消された。
当のジーニアスもリフィルも、何も言い返すことなく俯いている。
ハーフエルフ…とは、なんだっただろうか。
エルフ…そう、エルフと人間のハーフ。
この世界で、人々がまるで魔物のごとく忌み嫌っている存在。
記憶でない、最低限の知識の一つとしてシュアの頭でも理解の出来るこの状況。
2人はそんなハーフエルフなのだ。
けれど自分には、2人に対する恐怖など、微塵にも無い。記憶のない自分には、忌み嫌う理由など一つも無い。
「分かるか?シュア。…ハーフエルフは身分制度の最下層。おまけに…ハーフエルフの罪人は、例外なく死刑だ」
「そんな馬鹿な!」
シュアに語りかけたゼロスの言葉が聞こえたのか、横でロイドが騒ぎ立てるのが分かった。
ずっと2人と一緒に居たロイドだ。死罪だなんて認められないに決まっている。
そしてそれは、シュアにとって、自分も変わらない。
ハーフエルフが何だというのだろう。
いや、ハーフエルフだからこそ…
…罪の無い彼らを、殺したくは無いんだ。
自分で気付く間もなく、シュアはブツブツと言葉を唱え始めていた。
彼女を押さえる兵士がその異変に気付いたときには、もう遅い。
先程から一番偉そうに命令を下していた兵士の鉄仮面めがけて、炎の玉が一つ舞い降りて。
「う、うあぁぁ!」
当てられた本人でさえ、一瞬何をされたのか分からなかった。
けれど、まさか。今のはシュアの仕業?
兵士たちがようやく騒ぎ立てた頃、ゼロスはすぐにそれを悟ってシュアに驚いたような視線を向ける。
そしてそんな視線の先で、シュアは腹を括った様に薄く口元を緩めていた。
「誰だ!貴様か!」
「…っ、やっぱりファイアーボールじゃ、どうにもならない、か…っ」
ギリギリと拘束された腕を捻り上げられて、その表情を歪めながらシュアが言う。
「…私はエルフじゃない」
「なにっ!」
「……でも魔術が使える」
「まさか…お前もハーフエルフか!」
シュアは何も答えない。
「シュア!」
今まさにジーニアス達と同じように連れて行かれんとするシュアの名をロイドは必死に叫ぶが、シュアは抵抗する事も無くその手を大人しく縄で括られている。
理解のできないシュアの行動に、ゼロスも黙ったままシュアを見つめる。
と、ふと振り向きもせずに動いたシュアの口元。
「ゼロス。絶対に、捕まらないで」
「…な」
そしてゼロスがその意味を聞き返す暇も無く、シュアは出口に向かって乱暴に引っ張られていった。
開かれた扉のくぐり抜けざま、一瞬だけゼロスのほうを振り返って。
何も言う事はしない。
けれど、ゼロスには僅かにでもシュアの声が、聞こえるような気がした。
「絶対に」
信頼と、切望の眼差し。
まだ、彼女の記憶の中でたいした時間も一緒に居ない、自分に対する。
思わず眉根を寄せたゼロスの頭から、暫くの間、そんなシュアの表情が離れる事は無かった。
Next.