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暗雲たちこめる空間。
辺りは少し湿っぽいが、雰囲気のせいかひんやりと冷たい空気がロイドたちを包む。
デリス・カーラーン。未だ訪れたことのない他の星へ来ているというのに、それを楽しむ余裕も時間も、彼らにはない。
今は、このどこか奥でミトスと戦っているであろうコレットを探し出すこと、そしてすべてを終わらせ新たな世界の仕組みを作ること。それだけが、彼らの前には見えていた。
この星へ訪れて、どれくらいもう歩いただろう。
モンスターやクルシスの刺客を退け、しばらくの間こうして歩き続けている。
「デリス・カーラーン…マナが、すごく溢れてる」
「大丈夫かい?シュア」
「うん…濃すぎるぐらいに澄んでるマナだから、私にはかえっていいぐらい」
「シュアもここには来たことないのか?」
「そうだね…救いの塔自体造りが複雑だったからよく分からないけど…多分」
問いかけたロイドにシュアが返事を返した、その瞬間。
「な、何だ?」
「いけない!罠だわ!」
足元から光が放たれ、仲間たちを包む。
それを外から見守るしかできないロイドの顔に、焦りが浮かぶ。
「みんな!」
よく見ると、足元にはなにやら複雑な紋章が刻まれている。
自分は何事もなく通過したのに、目の前の仲間たちは身動きが取れないようにもがいている。
「助けて、ロイド!」
声を発するや否や、恐怖の色を浮かべたジーニアスの顔が目前から、消えた。
「私たちのことより、このわなを回避する方法を…」
そう言いかけた、リフィルも。
「あたしのことは気にするな!それよりミトスを!」
「そうか…こいつが例の… ロイド!デリスエンブレムだ!そいつがあれば…」
「ロイド、すぐ追いつくから!先に…」
1人1人、しいな、ゼロス、シュア…
「この仕掛けに殺傷能力はありません。心配…しないで」
「ロイド。おまえが無事ならまだ間に合う。大いなる実りを…」
そしてプレセア、リーガルも消え去った瞬間、光は収まり辺りが静まり返った。
誰の姿も、声も音も聞こえない空間にただ1人、残されたロイド。
「みんなっ…くそっ!どういうことなんだ…みんなは…どうなっちまったんだ」
「大丈夫だ」
そこに、ふと応えを返す声がどこからか響いてくる。
「おまえの仲間の命のきらめきが感じられる。彼らは、この都市のどこかにいる」
エターナルソード。マテリアルソードに宿ったその力が、そこから、そう声が聞こえてくる。
「…よし。みんなを探しにいく!」
どうか無事でいてほしい。それだけはとにかく不安だけれど、本当に頼もしい剣が自分には付いているようだ。
強くこぶしを握ったロイドは、そう言うとすぐに紋章に背を向け、歩き出した。
その先で探しに探した仲間へと、ロイドはようやく再会を果たすことができるのだった。
しん、と静まり返った空間。
ふいに、隣に気配を感じて振り向くと、そこには見なれた仲間、しいなが立っていた。
2人の間に静かに、不気味な魔法陣が光っている。
「こりゃまた変な場所にとばされたな…」
ロイドは無事だろうか?自分たちはバラバラに飛ばされ、ロイドだけが1人取り残されたようだった。
隣から届く相槌を聞きながら、ゼロスは気ばかりが焦って仕方が無かった。
今やシュアとも引き離されてしまった…
「ちょっとまっとくれ。変な音がしないかい?」
「変な音?」
ふいに、足元に光っていた魔法陣が、暗闇と混ざり小さな渦を形成し始める。
と、だんだんと大きくなっていく渦に足元が少しづつ引きずられていくのが分かった。
「魔法陣に飲み込まれるよ!」
「冗談じゃない!逃げるぞ!」
とにかく飲み込まれまいと、魔法陣とは逆の方向に駆けてはみるものの、全く身体が前進していく気配が無い。
それどころか、少しずつ、少しずつ身体が後退していくのが分かる。
こめかみを、嫌な汗が伝う。
ふいに、足元に痛みを感じてゼロスが俯くと、自分の足首に黒い波がからみついているのだけが分かった。
「いってぇ!」
「なんだい…こいつは…!」
「下を見ろ!あれは…」
真っ暗なはずの空間に、床を越えたその先が透けて見える。
ここは、どこかの階上なのか?それとも、これを落ちればその先はただの奈落か。
そんな奈落の世界には、大きなクモの怪物が、自分たちを食そうと待ちわびていた。
「冗談じゃねぇ…」
早いとこロイドの元へ合流して、他の仲間も探さなければならないのに。
あの怪物を、自分1人で倒せるだろうか?倒せるなら、まだしも…
「ゼロスさま。無様な格好ですわね」
「っ…幻だろ…」
ふ、と気配と共に届いた声に顔を上げると、そこにはよく見知った顔が静かに佇んでいた。
セレスがなぜここに?幻だと、そう思いはするのに。
「バカな人。現実から目を背けてばかりいるから、何が真実か見えないんですわ。かわいそう。神子にふさわしくないものが神子になどなってしまうから、仲間を裏切るようなろくでなしになるのですわね」
隣では、しいなの同胞くちなわが、しいなの前に佇んでいる。
「仲間を裏切ってしゃあしゃあと戻ってきた者に、お似合いの末路ですわ」
幻の割に、確かに気配を感じる。
そう、冷静に考える自分がいる反面、セレスの言葉を確かに飲み込んでいる自分もいる。
裏切り者の末路。
確かにあの時自分はアイオニトスを持って戻ってくることができた。仲間も…ロイドも、それを許してくれた。
それでも俺は今までの分を、情報を他に流し裏切ってきた行動を、償うことはできていない。裏切り者には…変わりないのに。
「っ、くそ…!このままじゃ、あの化け物に食われちまう」
「助けてあげましょうか、ゼロスさま?」
「俺たちに許しを請え」
「そしてクルシスに忠誠を誓いなさい」
セレス、そしてくちなわから放たれる言葉には、反発を感じるのに。
そんなもの必要ないと、そう思うのに。
ふと、セレスの後方に音もなくミトスが現れた。
これも幻覚だとそう感じるのに、激しく動悸する自分の心臓が、恐怖する。
「あの怪物は、おまえたちに永遠の苦しみを与えてくれる。奴に食われれば、生かさず殺さず未来永劫、真の闇の中で孤独にさいなまれるだろう」
「未来…永劫…」
ミトスの言葉に、震えるようなしいなの言葉が小さく響く。
「私が助けてやろう。我らに協力し、ロイドたちを倒せ。それですべてが終わる」
「神子の力もその地位も責任も、すべて私に譲ってくださるそうですわ」
「…セレスに神子の力を?」
ロイドを倒すだなんて、話にならない。
あいつは、あの時…フラノールで自分の話をした時。
俺に生きていて欲しいと言った。これが終わったら好きなだけ逃げてもいいんだとも言ってくれた。どこのリーダーよりも、俺はこいつについていこうと思った。道を開いてくれた、そのリーダーを…俺がどうして倒すことができる?
そう、思うのに。やはり自分のことを可愛く思う自分がいる。
セレスの言葉に、魅力を感じてしまう自分がいる。
「ええ!私が一番望んでいた、神子としての力ですわ!譲ってくださるでしょう?そうしたらあなたにも、生まれてきた価値ができるというものですわ」
「それを望むなら、私に忠誠を誓え。その時、影の触手は動きを止め、おまえたちは助かる」
「セレスが神子に…」
ミトスの言葉をどこかで捉えながら、セレスの発した“価値”という言葉に、小さな光を感じる。
裏切り者の俺に、与えられる価値。
母親を犠牲に生きている俺に、生まれてきた理由ができる。
死なずに償わなくともいい、その価値があれば…俺はこの世で生きることを許されるだろうか。
誰にも負い目を感じることなく、シュアとも、笑って生きていくことができるだろうか。
足元の怪物に視線を落とした。
ふいに、その怪物は歩き出すと同時に自分たちの真下でこちらを見上げ、
「2人とも!迎えにきたよ。俺は下にいる。」
頼もしいリーダーの声で、そう言った。
「…おいおいおい…下にはあの化け物しかいねぇぞ」
「ロイド、まさかあんたその化け物に食われちまったのかい…」
幻覚?幻聴?なにがなにやら、どれが本物なのか、どれが本当の自分の望みなのか。
ここには自分を混乱させるものばかりで、すべてがよく見えない。
「そのロイドこそまやかし。怪物の聞かせる幻聴だ」
ミトスがそう言った瞬間、再び怪物は身振りでもするように動いてみせた。
「俺は幻なんかじゃない!ミズホの民は無期生命体の千年王国に残った方がいいのか?いつか生贄になるかも知れない神子にセレスがなってもいいのか?」
「…俺は…」
「…だけど…」
「決めるのは2人だ。でも俺は信じてる。俺たちのやろうとしていることは大変かも知れないけど、2人は逃げないって!忘れるなよ。2人とも生きてそこにいるってだけで価値があるんだ!」
「生きているだけで…価値が?」
「…裏切り者の俺さまに、価値?」
セレスに神子の座を譲らなくとも、ただ生きているだけで?
何を償うでもなく、生きていていい?
「価値などない。ただ生きているだけで価値などない」
ミトスの声が冷たく響くとともに、それに相反するようなロイドの声が、再び足元から響いてくる。
「うるせー!生まれてきたってことに意味があるんだ!それでも価値がないって言い張るなら、俺が価値があるって決めてやる!2人とも俺の大事な仲間だ!それが価値だ!」
ロイドの声だけじゃない。ロイドの言葉。
今は確実にそう思える。あれは怪物なんかじゃない。俺を未来永劫閉じ込めたりしない、むしろ好きに逃がそうとすらしてくれる…俺たちのリーダーだと。
「…まいったなぁ。ずいぶんしょぼい価値だけど、まあそれでいいか」
「私の誘いを蹴るのか?」
「私の望みを知っていて、妨害するのですね!」
そして目の前のセレスやミトスが幻覚かなんて、そんなこと問題じゃあなかった。
いつか、メルトキオや爵位や…そんなものから逃げる日が来たとしても、今だけは、逃げちゃいけないんだな。ロイド。
「しょうがねーよ。俺さまの価値を決めた奴が、俺さまを信じて逃げるなって言うんだもんよ」
償うどころか、罪を重ねるところだった。
ロイドを殺して、シュアと笑って生きていけるはずがなかった。
「信じてるぜ、ロイド。今、価値あるゼロスさまがそっちに行くからな!」
ついていこうと決めたんだった。そんなことすら、自分は忘れてしまうところだった。
ついていくということがどういうことか。
このリーダーだけは信じて共に進むということだった。
意を決して瞼を閉じ、足を止めるとすぐに後方の渦へと身体が飲み込まれていくのが分かった。
身体がすとんと落ちる感覚がして、ようやく目を開き受け身を取る。
明るい空間。ここは…ウィルガイアだっただろうか。
すぐにしいなも自分の隣に降り立ち、前方にはロイドがいつもの笑みを浮かべてそこに立っている。
自分の認めたこの男、ロイド・アーヴィング。
「2人とも、おかえり」
「…生まれてきたことから逃げ出しても、どうにもならないしね」
しいながそう言って髪を照れくさそうに掻いた。
「そうそう。せっかくしょぼい価値をいただいたんで、根性据えて試練に立ち向かってやるさ」
「ああ。でなきゃ何も始まらないもんな」
『呪われた血を背負って生きる者にどんな価値があるのさ。時には逃げることが救いになることだってある。人間は…傲慢だね』
どこからか流れる悲歌のような声を微かに捉えながら、力強いリーダーのツンツンに尖った前髪を見つめる。
と、ふいに光が3人の間にひらりと舞い降りてくる。
「…なんだ?」
「クモのミニチュア?」
「でも半分に割れてるよ。気味が悪いねぇ」
しいなの言うとおり、半身のクモの形をした、その欠片のようなミニチュア。
ロイドの掌で受け止められたそれは、相変わらず微かに光を放っている。
「逃げるなって戒めかもよ」
「ぐはー。そうきたか」
「でも確かにそうだね。戒めに持っておこう」
「ロイド!」
ふいに、離れた所から声が届いて振り返ると、そこには探してきたコレットがふわりと羽根をしまって舞い降りてきていた。
「コレット!?」
「しいな、ゼロス」
「コレットちゃん、無事だったのか~!」
いつの間にリーダーは仲間まで救出して…いやそれよりも、特に何事もなかったようで、とにかく良かった。
「コレット、どこに居たんだ?」
「ん、ロイドが見当たらなくなって…辺りを見てきたの。ロイドや、他のみんなを」
「先生たちは見つかったか?」
「うん、でも…なにか様子が変なの。早く来て!」
コレットが見つけたというジーニアスとリフィル、そしてシュアの元へ向かいながら、ゼロスは今の罠について、考えを巡らせていた。
自分やしいなに見えた幻覚…同じような罠が、仲間たちを待っているのなら…
「あいつだろうな…」
ゼロスはたった今、シュアが受けているであろう苦しみを想像し、そう呟いた。
Next.
辺りは少し湿っぽいが、雰囲気のせいかひんやりと冷たい空気がロイドたちを包む。
デリス・カーラーン。未だ訪れたことのない他の星へ来ているというのに、それを楽しむ余裕も時間も、彼らにはない。
今は、このどこか奥でミトスと戦っているであろうコレットを探し出すこと、そしてすべてを終わらせ新たな世界の仕組みを作ること。それだけが、彼らの前には見えていた。
この星へ訪れて、どれくらいもう歩いただろう。
モンスターやクルシスの刺客を退け、しばらくの間こうして歩き続けている。
「デリス・カーラーン…マナが、すごく溢れてる」
「大丈夫かい?シュア」
「うん…濃すぎるぐらいに澄んでるマナだから、私にはかえっていいぐらい」
「シュアもここには来たことないのか?」
「そうだね…救いの塔自体造りが複雑だったからよく分からないけど…多分」
問いかけたロイドにシュアが返事を返した、その瞬間。
「な、何だ?」
「いけない!罠だわ!」
足元から光が放たれ、仲間たちを包む。
それを外から見守るしかできないロイドの顔に、焦りが浮かぶ。
「みんな!」
よく見ると、足元にはなにやら複雑な紋章が刻まれている。
自分は何事もなく通過したのに、目の前の仲間たちは身動きが取れないようにもがいている。
「助けて、ロイド!」
声を発するや否や、恐怖の色を浮かべたジーニアスの顔が目前から、消えた。
「私たちのことより、このわなを回避する方法を…」
そう言いかけた、リフィルも。
「あたしのことは気にするな!それよりミトスを!」
「そうか…こいつが例の… ロイド!デリスエンブレムだ!そいつがあれば…」
「ロイド、すぐ追いつくから!先に…」
1人1人、しいな、ゼロス、シュア…
「この仕掛けに殺傷能力はありません。心配…しないで」
「ロイド。おまえが無事ならまだ間に合う。大いなる実りを…」
そしてプレセア、リーガルも消え去った瞬間、光は収まり辺りが静まり返った。
誰の姿も、声も音も聞こえない空間にただ1人、残されたロイド。
「みんなっ…くそっ!どういうことなんだ…みんなは…どうなっちまったんだ」
「大丈夫だ」
そこに、ふと応えを返す声がどこからか響いてくる。
「おまえの仲間の命のきらめきが感じられる。彼らは、この都市のどこかにいる」
エターナルソード。マテリアルソードに宿ったその力が、そこから、そう声が聞こえてくる。
「…よし。みんなを探しにいく!」
どうか無事でいてほしい。それだけはとにかく不安だけれど、本当に頼もしい剣が自分には付いているようだ。
強くこぶしを握ったロイドは、そう言うとすぐに紋章に背を向け、歩き出した。
その先で探しに探した仲間へと、ロイドはようやく再会を果たすことができるのだった。
しん、と静まり返った空間。
ふいに、隣に気配を感じて振り向くと、そこには見なれた仲間、しいなが立っていた。
2人の間に静かに、不気味な魔法陣が光っている。
「こりゃまた変な場所にとばされたな…」
ロイドは無事だろうか?自分たちはバラバラに飛ばされ、ロイドだけが1人取り残されたようだった。
隣から届く相槌を聞きながら、ゼロスは気ばかりが焦って仕方が無かった。
今やシュアとも引き離されてしまった…
「ちょっとまっとくれ。変な音がしないかい?」
「変な音?」
ふいに、足元に光っていた魔法陣が、暗闇と混ざり小さな渦を形成し始める。
と、だんだんと大きくなっていく渦に足元が少しづつ引きずられていくのが分かった。
「魔法陣に飲み込まれるよ!」
「冗談じゃない!逃げるぞ!」
とにかく飲み込まれまいと、魔法陣とは逆の方向に駆けてはみるものの、全く身体が前進していく気配が無い。
それどころか、少しずつ、少しずつ身体が後退していくのが分かる。
こめかみを、嫌な汗が伝う。
ふいに、足元に痛みを感じてゼロスが俯くと、自分の足首に黒い波がからみついているのだけが分かった。
「いってぇ!」
「なんだい…こいつは…!」
「下を見ろ!あれは…」
真っ暗なはずの空間に、床を越えたその先が透けて見える。
ここは、どこかの階上なのか?それとも、これを落ちればその先はただの奈落か。
そんな奈落の世界には、大きなクモの怪物が、自分たちを食そうと待ちわびていた。
「冗談じゃねぇ…」
早いとこロイドの元へ合流して、他の仲間も探さなければならないのに。
あの怪物を、自分1人で倒せるだろうか?倒せるなら、まだしも…
「ゼロスさま。無様な格好ですわね」
「っ…幻だろ…」
ふ、と気配と共に届いた声に顔を上げると、そこにはよく見知った顔が静かに佇んでいた。
セレスがなぜここに?幻だと、そう思いはするのに。
「バカな人。現実から目を背けてばかりいるから、何が真実か見えないんですわ。かわいそう。神子にふさわしくないものが神子になどなってしまうから、仲間を裏切るようなろくでなしになるのですわね」
隣では、しいなの同胞くちなわが、しいなの前に佇んでいる。
「仲間を裏切ってしゃあしゃあと戻ってきた者に、お似合いの末路ですわ」
幻の割に、確かに気配を感じる。
そう、冷静に考える自分がいる反面、セレスの言葉を確かに飲み込んでいる自分もいる。
裏切り者の末路。
確かにあの時自分はアイオニトスを持って戻ってくることができた。仲間も…ロイドも、それを許してくれた。
それでも俺は今までの分を、情報を他に流し裏切ってきた行動を、償うことはできていない。裏切り者には…変わりないのに。
「っ、くそ…!このままじゃ、あの化け物に食われちまう」
「助けてあげましょうか、ゼロスさま?」
「俺たちに許しを請え」
「そしてクルシスに忠誠を誓いなさい」
セレス、そしてくちなわから放たれる言葉には、反発を感じるのに。
そんなもの必要ないと、そう思うのに。
ふと、セレスの後方に音もなくミトスが現れた。
これも幻覚だとそう感じるのに、激しく動悸する自分の心臓が、恐怖する。
「あの怪物は、おまえたちに永遠の苦しみを与えてくれる。奴に食われれば、生かさず殺さず未来永劫、真の闇の中で孤独にさいなまれるだろう」
「未来…永劫…」
ミトスの言葉に、震えるようなしいなの言葉が小さく響く。
「私が助けてやろう。我らに協力し、ロイドたちを倒せ。それですべてが終わる」
「神子の力もその地位も責任も、すべて私に譲ってくださるそうですわ」
「…セレスに神子の力を?」
ロイドを倒すだなんて、話にならない。
あいつは、あの時…フラノールで自分の話をした時。
俺に生きていて欲しいと言った。これが終わったら好きなだけ逃げてもいいんだとも言ってくれた。どこのリーダーよりも、俺はこいつについていこうと思った。道を開いてくれた、そのリーダーを…俺がどうして倒すことができる?
そう、思うのに。やはり自分のことを可愛く思う自分がいる。
セレスの言葉に、魅力を感じてしまう自分がいる。
「ええ!私が一番望んでいた、神子としての力ですわ!譲ってくださるでしょう?そうしたらあなたにも、生まれてきた価値ができるというものですわ」
「それを望むなら、私に忠誠を誓え。その時、影の触手は動きを止め、おまえたちは助かる」
「セレスが神子に…」
ミトスの言葉をどこかで捉えながら、セレスの発した“価値”という言葉に、小さな光を感じる。
裏切り者の俺に、与えられる価値。
母親を犠牲に生きている俺に、生まれてきた理由ができる。
死なずに償わなくともいい、その価値があれば…俺はこの世で生きることを許されるだろうか。
誰にも負い目を感じることなく、シュアとも、笑って生きていくことができるだろうか。
足元の怪物に視線を落とした。
ふいに、その怪物は歩き出すと同時に自分たちの真下でこちらを見上げ、
「2人とも!迎えにきたよ。俺は下にいる。」
頼もしいリーダーの声で、そう言った。
「…おいおいおい…下にはあの化け物しかいねぇぞ」
「ロイド、まさかあんたその化け物に食われちまったのかい…」
幻覚?幻聴?なにがなにやら、どれが本物なのか、どれが本当の自分の望みなのか。
ここには自分を混乱させるものばかりで、すべてがよく見えない。
「そのロイドこそまやかし。怪物の聞かせる幻聴だ」
ミトスがそう言った瞬間、再び怪物は身振りでもするように動いてみせた。
「俺は幻なんかじゃない!ミズホの民は無期生命体の千年王国に残った方がいいのか?いつか生贄になるかも知れない神子にセレスがなってもいいのか?」
「…俺は…」
「…だけど…」
「決めるのは2人だ。でも俺は信じてる。俺たちのやろうとしていることは大変かも知れないけど、2人は逃げないって!忘れるなよ。2人とも生きてそこにいるってだけで価値があるんだ!」
「生きているだけで…価値が?」
「…裏切り者の俺さまに、価値?」
セレスに神子の座を譲らなくとも、ただ生きているだけで?
何を償うでもなく、生きていていい?
「価値などない。ただ生きているだけで価値などない」
ミトスの声が冷たく響くとともに、それに相反するようなロイドの声が、再び足元から響いてくる。
「うるせー!生まれてきたってことに意味があるんだ!それでも価値がないって言い張るなら、俺が価値があるって決めてやる!2人とも俺の大事な仲間だ!それが価値だ!」
ロイドの声だけじゃない。ロイドの言葉。
今は確実にそう思える。あれは怪物なんかじゃない。俺を未来永劫閉じ込めたりしない、むしろ好きに逃がそうとすらしてくれる…俺たちのリーダーだと。
「…まいったなぁ。ずいぶんしょぼい価値だけど、まあそれでいいか」
「私の誘いを蹴るのか?」
「私の望みを知っていて、妨害するのですね!」
そして目の前のセレスやミトスが幻覚かなんて、そんなこと問題じゃあなかった。
いつか、メルトキオや爵位や…そんなものから逃げる日が来たとしても、今だけは、逃げちゃいけないんだな。ロイド。
「しょうがねーよ。俺さまの価値を決めた奴が、俺さまを信じて逃げるなって言うんだもんよ」
償うどころか、罪を重ねるところだった。
ロイドを殺して、シュアと笑って生きていけるはずがなかった。
「信じてるぜ、ロイド。今、価値あるゼロスさまがそっちに行くからな!」
ついていこうと決めたんだった。そんなことすら、自分は忘れてしまうところだった。
ついていくということがどういうことか。
このリーダーだけは信じて共に進むということだった。
意を決して瞼を閉じ、足を止めるとすぐに後方の渦へと身体が飲み込まれていくのが分かった。
身体がすとんと落ちる感覚がして、ようやく目を開き受け身を取る。
明るい空間。ここは…ウィルガイアだっただろうか。
すぐにしいなも自分の隣に降り立ち、前方にはロイドがいつもの笑みを浮かべてそこに立っている。
自分の認めたこの男、ロイド・アーヴィング。
「2人とも、おかえり」
「…生まれてきたことから逃げ出しても、どうにもならないしね」
しいながそう言って髪を照れくさそうに掻いた。
「そうそう。せっかくしょぼい価値をいただいたんで、根性据えて試練に立ち向かってやるさ」
「ああ。でなきゃ何も始まらないもんな」
『呪われた血を背負って生きる者にどんな価値があるのさ。時には逃げることが救いになることだってある。人間は…傲慢だね』
どこからか流れる悲歌のような声を微かに捉えながら、力強いリーダーのツンツンに尖った前髪を見つめる。
と、ふいに光が3人の間にひらりと舞い降りてくる。
「…なんだ?」
「クモのミニチュア?」
「でも半分に割れてるよ。気味が悪いねぇ」
しいなの言うとおり、半身のクモの形をした、その欠片のようなミニチュア。
ロイドの掌で受け止められたそれは、相変わらず微かに光を放っている。
「逃げるなって戒めかもよ」
「ぐはー。そうきたか」
「でも確かにそうだね。戒めに持っておこう」
「ロイド!」
ふいに、離れた所から声が届いて振り返ると、そこには探してきたコレットがふわりと羽根をしまって舞い降りてきていた。
「コレット!?」
「しいな、ゼロス」
「コレットちゃん、無事だったのか~!」
いつの間にリーダーは仲間まで救出して…いやそれよりも、特に何事もなかったようで、とにかく良かった。
「コレット、どこに居たんだ?」
「ん、ロイドが見当たらなくなって…辺りを見てきたの。ロイドや、他のみんなを」
「先生たちは見つかったか?」
「うん、でも…なにか様子が変なの。早く来て!」
コレットが見つけたというジーニアスとリフィル、そしてシュアの元へ向かいながら、ゼロスは今の罠について、考えを巡らせていた。
自分やしいなに見えた幻覚…同じような罠が、仲間たちを待っているのなら…
「あいつだろうな…」
ゼロスはたった今、シュアが受けているであろう苦しみを想像し、そう呟いた。
Next.