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どうして、彼はこんなやり方しか選べないのだろう。
頭の中で、そんな彼のことを、彼の4千年を思い返しながらそう思っていた。
向かい合う仲間たちから視線を落として、シュアは自分の泥で汚れた靴先を見つめる。
トレントの森、そこで待ち受けていたクラトスは今自分の隣に立っている。
結局ロイドはクラトスに勝利し、オリジンも解放し、そのオリジンと契約も済ませることもできた。
ただ、それと同時に再びコレットが攫われてしまった。その輝石に宿ったまま、意思を持ち続けていたミトスによって身体を乗っ取られて。
ミトスは。ミトスはどうしてこんな風にしか動けないのだろう。
彼はいつでも彼を見守り続けた仲間に声を掛けることもせず、そうやって突き進む。
それが彼のいいところでもあったのかもしれないけれど…
「私が生まれたのはだいたい4千年前」
ダイクの家。墓石が1つぽつんと立てられた川べりの一軒家の中では、ロイドの父親ダイクがエターナルリング作りにいそしんでいる。
エターナルソードをロイドが扱えるようにするため、それを頼むためにシルヴァラントにやってきたが、今はただ待つだけの時間。それは、シュアが今まで仲間に話さずにきていた全てを話す為に与えられていた。
あれ以来、ゼロスとはまともに視線すら交わしていない。
「古代大戦が終結して、彗星デリスカーラーンがこの星に近づく好機を待ってる時期だった。マーテルは、二度と戦争が起きないよう、誰もが自分らしく生きられる時代がやってくるよう、願いを込めて私を生んだの」
「え、じゃあ…」
「マーテルは、私の母さん。でも、それは普通に生んだわけじゃない…母さんは、マナの力を最大限に使って私を作った。誰もが持ってる繁殖能力を、母さんは自分のそれを犠牲にして私を作ったの。そして、生んだ」
「、なんだか…途方もない話だな」
上手く理解ができなように表情を歪めるロイドにシュアは笑う。
「そう?マーテルは私の母さん。ユアンは母さんと婚約してたから、私にとってはユアンが父さんだったし、ミトスは私の叔父」
「…ミトスが…」
「あのミトスが、でしょ?」
驚いたままに思わず呟いたジーニアスにシュアがそう返すと、ジーニアスは小さくうん、と呟いた。
「でも私はそう思ったことはほとんどなかった。ミトスは…あまり私を可愛がらなかったから。ミトスにとっては大好きな姉さまを取っちゃうやな奴、ぐらいだったのかもね」
「でも私はそれが耐えられなくて…ふらふらと出歩くようになった」
「ちょっと待って。シュアが今の姿まで成長する頃にはマーテルはもういなかったのではないの?」
「あぁ…それは」
疑問に思わず口を挟んだリフィルに、横からクラトスが付け加えるべく口を開く。
「シュアは極端に成長が早かったのだ。マナの子とも呼べる…マナ、そのものだからな。どんどん辺りのマナを吸収して1月で今より少し幼いくらいにはなっていた」
「そう。あまりにも早いから、その成長をコントロールするために仕方なく母さんたちは私を天使化させた」
「え?じゃあシュアは…」
「…天使だよ」
言葉と共に、シュアの背後にふわりと広がる萌黄色の羽。
すでにその存在を知っていたゼロスは、静かに目を伏せた。
「ごめんなさい。黙っていて…」
「シュア…」
「しいな。天使の親友は嫌だったら、言ってね」
眉尻を下げて、苦笑するように言ったシュアにすぐにしいなは大きく首を振る。
「何言ってんのさ!そんなこと、関係ないよ!」
「…ありがとう」
微かに微笑み返してから、シュアは小さく深呼吸して再び口を開いた。
「でも、成長が早かったのは身体だけ。頭も付いてこなかったし、心も幼いままだった。だからその時の私はミトスと顔を合わせるのが嫌ってだけで、何も考えずに外を出歩くようになった。まだまだ、世界は戦後間もなかったせいもあって治安も良くなかったのに」
そう。子供だったんだ。その一言ですべてが片付けばいいのに。
そんな私さえいなければ、マーテルは今も元気で、こんな事態にはなっていなかったかもしれないのに。
「案の定、ある日私は…戦争の終結にいい想いをしていなかった人間に絡まれて…。言葉もろくに話せなかった私は、どうにもできなかった。そんな時に私を助けてくれたのがルビで、それが私とルビの出会いだった」
「ルビ?」
「あ、みんなに話したわけじゃなかったんだっけ。ルビは、私の昔の恋人。4千年も前のことだから…もちろん今はいないけどね」
けれどそれは時の流れのせいではない。
彼がこの世からいなくなったのは…
「ここからは、話してもややこしくなりそうだね…。みんなに、私の記憶、見せるから」
目、閉じて。
そう言ったシュアに戸惑いながらも仲間たちが目を閉じるのを確認すると、シュアは自分のマナを空間に放出し始めた。
微かな光がきらきらと仲間たちを包む。
「シュア…」
「大丈夫。マナだらけの身体なんだから、これくらい平気だよ」
思わず心配そうに言ったクラトスに笑いかけて、シュア自身も静かに目を閉じた。
それは、ルビナスと出会った後の記憶。
そして、あの日空っぽのままでゼロスと会うまでの記憶。
自分でそれらを眺めながら、シュアはそれを懐かしく感じていた。
決していい記憶ばかりではないけれど…それでもこれだけ時間がたてば、それはやはりただの記憶ではない、思い出なのだ。
あの日、ルビナスに助けられた後。ルビナスは自分の家に私を招いた。
「お前、あんなとこでなにやってたんだよ?」
「… …?」
「?なんだ?俺なんか変なこと言ったか?」
「…。…め、なさ…」
ぶっきらぼうな言葉。けれどそれとは裏腹に表情はとても優しくて。
出してくれたお茶は初めての味だったけれど、少し苦くてほっこりと暖かかった。
ごめんなさい。ミトスによく使っていたその言葉を辛うじて紡いだ私にルビナスは眉をひそめて私を見つめて。
そしてなにを思ったのか、ふいに私の頭にポンとその大きな掌を載せたんだ。
「…?」
「俺はルビナス。ルビ、でいい。お前の名前は?」
シュア。
母さんのつけてくれた、父さんやクラトスが呼んでくれるのが好きなその名前。
思わず声を張って告げたその名前を彼は繰り返して、直後にはニカッという効果音の似合いそうな満面の笑みを返してくれた。
それが、初めてのルビだった。
こちらがなにも与えなくても、100の幸せをくれるような、そんな人だった。
言葉すら満足に話せない私に最初こそ戸惑っていたけれど、自分の帰る場所すら示せない…示そうとしない私に気付いて、結局彼は何も言わずに私を置いてくれた。
ご飯の作り方も、洗濯の仕方も、さまざまな遊びも言葉も教えてくれたのはルビナスだった。
外出先から帰った彼に初めて「おかえり」を言えたあの日、彼はそれはひどく喜んで私を抱きしめてくれた。今でも思いだせる、その温もり。
ゼロスと同色の紅い髪を短く切り揃えていた彼の、それを切るのもいつしか私の仕事になっていたし、私はルビナスが笑う度その毛先が微かに揺れるのが好きだった。
時間はゆったりと過ぎていた。デリス・カーラーンがこの星に近づいていることなんて知る由もない私にはさらに。
気付けば言葉も十分に話せるようになっていたし、相変わらず母さん達の元には一切帰らなかったけれど、それでよかった。私にはその時間が十分に幸せだった。
よく笑うルビナスの笑顔を見ていることも。自分がよく笑っている時間も。
雨漏りする天井に世話を焼いて、雨が降るたびあちこち桶を集めて二人で駆け回って笑いあって…そう、初めてゼロスの家に入った時に感じたあの感覚は、この記憶のせいだったんだ。
そこに、小さな転機が訪れた。
ある日ひどく嬉しそうに家に帰ってきたルビナスが私に見せたのは、2つの指輪だった。
“ルビ” “シュア”と内側に刻まれたそれを私の指にはめると、彼は一層嬉しそうに笑っていた。
恋人同士になるのに大それた言葉はいらなかった。
その日の内に私とルビは初めて結ばれた。
その時に、彼が私につけた小さな痣。
その鬱血を彼はキスマークと呼んで、私のことを“俺のもの”と言っていた。
それが、私にはたまらなく嬉しかった。
だから私は4千年後のことなんて考えるわけもなく、彼にただただ仕返しをした。
自分の脇腹に生まれたときからあった葉型の痣。それをそっくりそのまま彼の脇腹に刻んだんだ。
それがマナの力だなんて知ることもなく。ただやろうと思ったことが、出来てしまっただけ。そんなことは、私にとってみれば日常茶飯事なことだった。
けれど、何があっても離れないように。そんな絆を彼に残して数日のうちに、あの事件が起きてしまった。まるで、もう充分に幸せは味わっただろとでも言うように。
私がどこにいるかなんてこと、ミトスも母さん達もとうに知っていることだった。
あの日、ふいに私の元を訪れたクラトスは、その口から信じられないような言葉を紡いだ。
「マーテルが死んだ」
急いでその場に飛ぶと、父さんが母さんを抱えて泣いていた。
すぐ傍には、人間の死体。どこかで見たことのあるヒト。
頭を、金槌で殴られたような衝撃が走って、それでも冷静に事態を判断することのできる自分。
その人間は、確かにルビナスと交流を持っていた人たちだったから。
あぁ、私がマーテルたちと繋がってることを知って…居場所を突き止めたのか。
「…ミトス、は…」
「…わからない。ただ、許さない、と…」
何気なく問いかけた言葉に、すぐにはっとした。
ルビナスが、危ない。
急いで飛んで戻る間も、頭の中はただただぐちゃぐちゃで。どうすればいいかなんて分からなくて、ただただ必死でルビナスの家まで急いで。
その途中でふいに届いた大きな爆発の音と、上がる火の手。
行き先を変えて駆け付けたそこは、今のオゼットがあった場所。マーテルを殺したであろう人間たちの住んでいた村。燃え盛る炎が木々を焼いて家を焼いて。辺り中悲鳴が響きわたって。
どうしてこんなことが起きているの?
…あぁ、私のせいだ。そう思っていた。
目の前に広がる光景、悲惨な現実。全部全部、私が関わったせいだ。私が外を出歩いたりしなければ…ルビナスに出会ったりしてしまったから…
そこまで考えて、すぐにはっとした。ルビナスは無事だろうか?頭には重く警告音が鳴り響く。
彼だけは…お願いだから彼だけは…。
飛んで向かう間も、涙が止まらなかった。
急いで彼の家に戻った時、思わず名前を叫んだ私に聞こえたのは「来るな」、の声だった。
その制止の声を聞きもせず扉を開いた私を抱えながら、もつれるようにして生い茂る草の上に転がる。
直後、彼は家の中から出てきた自分の叔父に…ミトスの手によって殺された。忌々しそうな視線だけを残してすぐにミトスが去った時、残されたのは血を流して横たわるルビナスと、その傍に座り込む自分だけ。
「ルビ…!っや…だよ!死んじゃ、やだ!いなくならないで…!」
「…は…泣く、な… 俺は、へーき、だよ…」
「そんな…!わけ…っ」
「シュア。……無事で、よかった…」
こちらを見上げて私の頬を撫でて。そう柔らかくほほ笑んだルビナスはそのまま眠りについた。
辺りの草原は彼から流れ出る血で真っ赤に染まって、彼の紅い髪もまた、重力に従って草原を横たわっていた。
私には、何もできなかった。
マナの使い方一つ、知らないままだった。
大切な人1人守れないこの力を、そんな自分を、ひどく疎ましく思った。
そして最期の彼の笑顔だけが、不思議でならなかった。
ルビナスを失った私が、帰る場所はただ一つ。父さんや叔父のいる場所だった。
ただただ思っていたことは、強くなりたい。それだけだった。
何のためか分からない、それもミトスへの反抗心だったのか、とにかくとにかく強くなりたかった。
だから私は魔術を父さんに、剣術はクラトスに習い。
気付いた時には、クルシスの一員としてミトスの言うことをただただこなしていた。
力をつけてもなお何をすればいいのか分からないまま、なぜ自分を作ったのか母さんに問いかけながら、何千年もの時が過ぎていた。
それから4千年。
それは、任務の帰り。
森の中で足を引きずり今にもその命を手放しそうな少女に出会った。
どうして自分でもそうしたのか分からない。
それでも自分は彼女を助けられると、そう思った。
今の自分なら人の命すら助けられるのか、単純に試してもみたかったのかもしれない。
ついに足を止めて倒れこんだ彼女の傍に舞い降りて、癒しのマナを全力で注ぐ。
次第に、彼女はみるみる息を吹き返していった。私に気がつくなり、訝しそうにしながらも、彼女は屈託なく笑ってくれた。
そう、それがしいなだった。
事件のせいで誰もが自分には一線を置いている、そう言っていたしいなは自分の存在をとても大事にしてくれたし、自分もそんな彼女と過ごす時間に初めて友達というものを知った気がした。
彼女と過ごすようになって得たのは、初めての感覚。
ゼロスとも出会って、他愛もないことを言い合う楽しさ。
自分もこんな世界で生きられるのだと、そんな感覚を知ってしまったような気がした。
それからいくつかの季節が過ぎ、ついに時は来てしまった。
シルヴァラントの神子が世界再生に失敗し、テセアラを逃げている。
そこでミトスが知らない内に私に課していたものは、彼らの中に爆弾として潜むこと。
母さんの眠る空間にミトスによって呼び出された私は、その直後からの記憶が、ない。
次に意思を持った時からの記憶は、今までのものがぷっつりと途切れたものになる。
「なーにやっちゃってんの」
どこかで見た紅い髪が、空間を舞った。
Next.