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「…そんな…ボクが負けるわけがない…姉さまと…還るんだから…」
それがミトスの、最期の言葉だった。
静まり返った大いなる実りの間。
輝石だけをその場に残し、今は亡くなったミトスの言葉だけが響いている。
「シュア!…シュア!?」
はっとしたようにシュアの元に駆け寄ってきたしいなは、けれどその直後に驚いたように目を見開いた。
シュアが、泣いている。
今まで一度も見たことのなかったシュアの涙。
思わず声を掛けられなくなって、傍に座り込んでいるゼロスを問いかけるように見つめると、ゼロスは珍しく困ったように首を振った。
何があったのだろう。
とにかく無事に自分を取り戻してはくれたみたいだけれど。
そんな3人を遠くから見つめたまま、ロイドはちいさく呟いた。
「…終わった」
「それは、どうかな」
ふいに、どこからか聞こえた声にロイドがぐるりと視線を巡らせると、そんな彼の前に突然クラトスが現れた。
ミトスがもういないのは知っているのだろう。けれど、彼の目は揺らぐことなく真っすぐにロイドを見つめている。
「まだ世界は引き裂かれたまま。大樹も発芽していない。何が終わったのだ?」
「…ちょうどいい。あんたに聞きたかった。あんたはミトスの何に共感したんだ?どうしてオリジンの封印に協力したんだ?」
問いかけられたクラトスは一度視線を落とすと、静かにその言葉に返した。
「ミトスは…私の剣の弟子であり、私のかけがえのない仲間だった。それで…十分ではないか?」
「仲間だったら、そいつのしていることがどんなひどいことでも許すって言うのか!」
「…これ以上話すことはない。オリジンの封印を解きたければ、私を倒すがいい」
その中に思うことはいくらでもあるだろうに、クラトスはそれだけを返すとロイドを通り越して歩きだす。
「クラトス!待て!」
思わず掛けたロイドの声に一度立ち止まるも、ちらりと涙を流し続けているシュアを見やってから、クラトスは再び歩き始めた。
「…オリジンの封印の前で待つ」
それだけの言葉を残して。
「…ロイド、一度帰ろう?ね?」
彼の顔を覗き込みながらそう言ったコレットに、あぁ…と小さくうなずいたロイドもシュアに視線を向ける。
今はしいなに肩を抱かれているシュアの元へ歩み寄ると、彼の周りにいた仲間たちもその後に続いた。
「シュア」
「!…ごめ、ん…っ」
自分のせいで仲間たちが困っている。
それにようやく気付いたようにシュアは涙を拭うと、ゆっくりとおぼつかない足取りで立ち上がる。
泣いている場合じゃない。自分を取り巻くあれこれはあるけれど、まだ全てが終わったわけではないのだから。
「もう、大丈夫…だから。お願い…一緒に行かせて」
「シュア…」
「もう、みんなに剣を向けたりしない…。だから」
懇願するようにそう言うシュアに小さく笑んでから、ロイドはいつものように言葉を返す。
「当たり前だ。シュアがしたくてそうしたわけじゃないことくらい、分かってる」
「ロイド…」
「ただ、何があるんだ?シュアとクルシスには」
「…そうだね。それも、もう話さなくちゃね…」
これ以上、仲間に余計な心配や迷惑もかけないためにも。
それを聞いた上でこれからも一緒にいてもいいかは、彼らが決めることだから。
「…ヘイムダール、行くんでしょ?」
「あぁ」
「ならそれが終わってから…話すよ」
「え?」
「ロイドは今、私のことよりもっと考えなきゃいけないことがある。それなのに私の話なんて、とてもじゃないけど聞かせられない」
混乱してしまうだろう。
あまりに話が突然すぎて。
どうして今まで言わなかったのかと。だからこそ話はややこしくなってしまったのだと。
「クラトスは…ロイドが考えてるとおりの人だよ。だから、ロイドはそれにロイドらしく応えたらいい」
「…シュア」
いこっか。
そう小さく、無理に笑うように笑みを零したシュアが入口へと向かっていく。
ロイドはしいなと視線を交わすと、痛々しそうに顔を歪めているしいなは小さく、こちらへと頷き返した。
全てを思い出してみると、この空間ですらすごく不思議なものだった。
ヘイムダール。自分はかつてここを訪れたことが何度か、あった。
あの古の大戦について多くを知っている族長だからこそ、以前この仲間でここを訪れた時、彼はああ言ってくれたのだ。
思い出さない方がいいこともある。
でも、それは逃げでしかない。
その結果、自分は大変なものに多くの人たちを巻き込んでしまった。
それがミトスの思惑だったとしても。負けてしまった自分はただただ、弱かったのだ。
ヘイムダールは、相変わらずハーフエルフが入ることを頑なに拒んでいた。
だが、ロイドの熱い訴えかけにより、この時だけ、リフィルやジーニアスが入村することも許されている。
各々が散らばって想いを巡らせる日中。
明日の父親との決戦へと臨むため、ロイドが心の準備をする為と設けられた時間。
シュアにとっても、ここまでの多くの出来事を整理するにはちょうどいい時間だった。
川べりに腰掛けて、シュアは想っていた。
ミトスのこと、マーテルのこと、ユアンの、クラトスのこと。
ルビナスの、ゼロスの、ロイドの…みんなのこと。
昔から、自分はミトスを恨んでいた。
思えば彼に好意的に接してもらった覚えは一度もない。
けれど、この気持ちはなんだろう…。
彼がいないのだと、今になってようやく実感がわいてくる。
あとはオリジンを開放し、エターナルソードを使って実りを発芽させ、世界を統合させる。
そうしたら、何事もなかったかのように再び世界は時を刻み始める。
彼が救おうとしたこの世界は、彼を忘れて。
なんだか無性に、悲しくなった。
彼をこんな風に想うのは、初めてだった。
夜の静けさに、小さな虫の声が響く夜。
シュアは、おもむろに自分の元を訪ねてきたゼロスに呼び出されて、寝所を抜け出していた。
今は、出来れば彼と二人で話すことを避けたかった。
自分はどんなふうにゼロスに接すればいいのかが分からないから。
彼を彼として考えればいいのか、それとも…。
「悪ぃな。こんな時間に」
「…ううん、どっちみち寝付けなかったから」
宿に用意されていた寝間着に着替えていたシュアの胸には、月明かりを受けて2つの指輪が光っている。
それをほんの少し視界にとらえて、ゼロスは近くにあったベンチにシュアを促した。
「それで、どうしたの?」
「…俺は、ずっと決めかねてたんだ。クルシスとも、レネゲードとも通じながら結局自分がどうしたいのか。どうするべきなのか。神子から逃げ出したいっていう想いに、どう決着をつけるか」
「…うん」
おもむろに話しだすゼロスの横顔を見上げながら、シュアはちいさく頷き返す。
「シュアが前に言ったろ。世界を切り離そうとした時、シルヴァラントに行くって言った俺に、ゼロスは逃げないで勝ち取るんだね、って…。それを思い出した時、俺はようやく決めたんだ。俺に出来ることをやる為に、アイオニトスを手に入れること」
「そんなこと…言ってたね。私、偉そうなことばっかり言って…」
「いや、おかげで決心したんだ。それすら甘かったけどな…。シュアに勝てないって気付いた時、ならいっそ、ここで身をもってけじめをつけるべきだと思った」
だから、シュアの剣を自分に食い込ませた。
後悔も、望むことも山ほどあるくせに。それでいいんだと自分に言い聞かせていた。
「悪かったな。シュアがどんな思いをするのか、死ぬ直前まで忘れてたんだ。自分のせいで…シュアはそう責めるだろ?」
「…ゼロス…」
「悪かったよ」
あぁ、ゼロスはこんなにも自分の人生に一生懸命なんだ。
シュアは真剣に語りかけてくるゼロスの言葉を聞きながら、そう思った。
誰かの生まれ変わりだなんて、そんなこと考えていたらいけないのに。
こんなにもゼロス・ワイルダーを生きているのに。
それでも、自分には彼の紅が、今はもう…。
「…ゼロスは、ゼロスを生きるのに一生懸命なだけだよ。だから、こうして…もうすぐそれも本当になる」
「それ、…?」
「逃げないで勝ち取る。…世界が統合されれば、神子制度はもう廃止になる。自分の想いにも本当の決着がつく。…でしょ?」
小さくほほ笑むシュアに、ゼロスは思わず驚いたようにシュアを振り返った。
昔のようなシュア。記憶を取り戻す前の、自分が一番好きだったシュア。
いつでもこうしてシュアの言葉は自分の中に響いて、ゆっくりと自分の中の塊を溶かしていく。
「逃げたって良かったのかもしれないけど…。あ、そうそう。私、みんなと離れてテセアラに残った時、ルビナスの家を掃除してたの。そこに住もうと思って」
「…は?」
「その時ね、思い出してたんだ。どこか森の奥、静かに暮らそっかって、それで逃げちゃおうよってゼロスに言ったこと。こういうところで静かに暮らしたら、少しはゼロスも楽になるのかなって…ずっとそんなこと考えてた」
「……シュア」
「そのせいで、あぁ私、ゼロスのこと特別好きなのかなって、勝手に思ってた時期もあったんだ」
ふふ、と小さく笑うシュアは懐かしそうにその目を細めている。
「でも、とにかくそんな森の奥で暮らす必要ももうないね。ゼロスは自由に、ゼロスを…生きて」
これが終わったら、私はみんなから離れたところへ行こう。
ゼロスも、私とは何も関係なく…ゼロスとしての人生を生きられるはずだから。
「おめでとう。少し早いけど」
そう、心からほほ笑みかけたシュアを見下ろしながら。
ゼロスは、気付く間もなくそっと手を伸ばしていた。
ふわりと、ゼロスの髪が闇の中を揺れる。
その毛先がシュアの頬をくすぐる。
肩に、暖かな掌を感じたのが最初だった。
それからようやく気付いた、感触。
唇に柔らかな感触を感じたシュアの目が、すぐに大きく見開かれる。
キスをされているのだと感じたのは、それからさらに数秒。
「…っ」
思わず身体を捻って、逃れようとした。
けれどそれをしたことで余計に、ゼロスのその腕に抱きすくめられる身体。
力強い腕に、マナすら流れ込んできそうなキス。
ゆっくりと身体が離れた時には、シュアはゼロスの顔を見上げることができなかった。
俯いたままの視線を地面に張り付けるシュアに、真剣な目を向けるゼロスが口を開く。
「シュア、」
「どうして…」
「え、?」
「どうして、こんなこと…」
「どうしてって、んなの…」
その言葉の続きを聞きたくないかのように突然立ち上がったシュアが、ゼロスを追い越してその後ろで止まる。
「ゼロスは、違うよ…」
「…は?」
「それ、ゼロスの気持ちじゃない。それは…」
「それは、ルビナスの気持ちだから」
「…なんだよ、それ?」
思わずその手を掴んで、振り向かせたシュアは今にも泣きそうに顔を歪めている。
はっと息を飲み込んだゼロスの向かいで、シュアはそれでも振り絞るように口を開いた。
「ゼロスは、ルビナスなの。ルビナスの、生まれ変わりなの」
「……は…?何言ってんだよ?んなこと…」
「その痣。脇腹の、痣。私がつけたものなの。何があっても、必ず2人が会えるようにって、私がルビナスに付けたものなの」
何を言っているのか、意味は分かるのにまったく飲み込むことができない。
ゼロスの頭では言葉だけがぐるぐると回って、ただただ騒がしい。
「もともと私が持ってた葉型の痣。それを、私がつけた。何があっても消えないように、マナの力で。だから私にも全く同じものがあるし、その痣があるってことは…」
「あなたが元々、ルビナスだったってこと」
言いながらシュアは寝間着の裾を捲って、脇腹にあるそれを晒す。
そこには、ゼロスも幼いころからよく見なれている痣。
自分と、まったく同じ形をした痣があった。
「は…、んなの…」
「私だって…、無理に言ってるわけじゃない。でも、それが本当だし、だから…」
「ゼロスは、私を恨むべきなの」
「私が会えるようになんて、願ったから…ゼロスはこんなことに巻き込まれて、苦しんできたの。出会う運命にしてしまったのは、私だから」
何も言葉を返すことができない。
何に対してかも分からない、無性な憤りがゼロスの中で沸々と沸き上がっている。
ごめんなさい、というシュアの言葉が夜のヘイムダールにぽつりと響く。
しばらくの間、どちらもお互い視線を交わすこともなく、ゼロスとシュアはその場に立ち尽くしていた。
Next.
それがミトスの、最期の言葉だった。
静まり返った大いなる実りの間。
輝石だけをその場に残し、今は亡くなったミトスの言葉だけが響いている。
「シュア!…シュア!?」
はっとしたようにシュアの元に駆け寄ってきたしいなは、けれどその直後に驚いたように目を見開いた。
シュアが、泣いている。
今まで一度も見たことのなかったシュアの涙。
思わず声を掛けられなくなって、傍に座り込んでいるゼロスを問いかけるように見つめると、ゼロスは珍しく困ったように首を振った。
何があったのだろう。
とにかく無事に自分を取り戻してはくれたみたいだけれど。
そんな3人を遠くから見つめたまま、ロイドはちいさく呟いた。
「…終わった」
「それは、どうかな」
ふいに、どこからか聞こえた声にロイドがぐるりと視線を巡らせると、そんな彼の前に突然クラトスが現れた。
ミトスがもういないのは知っているのだろう。けれど、彼の目は揺らぐことなく真っすぐにロイドを見つめている。
「まだ世界は引き裂かれたまま。大樹も発芽していない。何が終わったのだ?」
「…ちょうどいい。あんたに聞きたかった。あんたはミトスの何に共感したんだ?どうしてオリジンの封印に協力したんだ?」
問いかけられたクラトスは一度視線を落とすと、静かにその言葉に返した。
「ミトスは…私の剣の弟子であり、私のかけがえのない仲間だった。それで…十分ではないか?」
「仲間だったら、そいつのしていることがどんなひどいことでも許すって言うのか!」
「…これ以上話すことはない。オリジンの封印を解きたければ、私を倒すがいい」
その中に思うことはいくらでもあるだろうに、クラトスはそれだけを返すとロイドを通り越して歩きだす。
「クラトス!待て!」
思わず掛けたロイドの声に一度立ち止まるも、ちらりと涙を流し続けているシュアを見やってから、クラトスは再び歩き始めた。
「…オリジンの封印の前で待つ」
それだけの言葉を残して。
「…ロイド、一度帰ろう?ね?」
彼の顔を覗き込みながらそう言ったコレットに、あぁ…と小さくうなずいたロイドもシュアに視線を向ける。
今はしいなに肩を抱かれているシュアの元へ歩み寄ると、彼の周りにいた仲間たちもその後に続いた。
「シュア」
「!…ごめ、ん…っ」
自分のせいで仲間たちが困っている。
それにようやく気付いたようにシュアは涙を拭うと、ゆっくりとおぼつかない足取りで立ち上がる。
泣いている場合じゃない。自分を取り巻くあれこれはあるけれど、まだ全てが終わったわけではないのだから。
「もう、大丈夫…だから。お願い…一緒に行かせて」
「シュア…」
「もう、みんなに剣を向けたりしない…。だから」
懇願するようにそう言うシュアに小さく笑んでから、ロイドはいつものように言葉を返す。
「当たり前だ。シュアがしたくてそうしたわけじゃないことくらい、分かってる」
「ロイド…」
「ただ、何があるんだ?シュアとクルシスには」
「…そうだね。それも、もう話さなくちゃね…」
これ以上、仲間に余計な心配や迷惑もかけないためにも。
それを聞いた上でこれからも一緒にいてもいいかは、彼らが決めることだから。
「…ヘイムダール、行くんでしょ?」
「あぁ」
「ならそれが終わってから…話すよ」
「え?」
「ロイドは今、私のことよりもっと考えなきゃいけないことがある。それなのに私の話なんて、とてもじゃないけど聞かせられない」
混乱してしまうだろう。
あまりに話が突然すぎて。
どうして今まで言わなかったのかと。だからこそ話はややこしくなってしまったのだと。
「クラトスは…ロイドが考えてるとおりの人だよ。だから、ロイドはそれにロイドらしく応えたらいい」
「…シュア」
いこっか。
そう小さく、無理に笑うように笑みを零したシュアが入口へと向かっていく。
ロイドはしいなと視線を交わすと、痛々しそうに顔を歪めているしいなは小さく、こちらへと頷き返した。
全てを思い出してみると、この空間ですらすごく不思議なものだった。
ヘイムダール。自分はかつてここを訪れたことが何度か、あった。
あの古の大戦について多くを知っている族長だからこそ、以前この仲間でここを訪れた時、彼はああ言ってくれたのだ。
思い出さない方がいいこともある。
でも、それは逃げでしかない。
その結果、自分は大変なものに多くの人たちを巻き込んでしまった。
それがミトスの思惑だったとしても。負けてしまった自分はただただ、弱かったのだ。
ヘイムダールは、相変わらずハーフエルフが入ることを頑なに拒んでいた。
だが、ロイドの熱い訴えかけにより、この時だけ、リフィルやジーニアスが入村することも許されている。
各々が散らばって想いを巡らせる日中。
明日の父親との決戦へと臨むため、ロイドが心の準備をする為と設けられた時間。
シュアにとっても、ここまでの多くの出来事を整理するにはちょうどいい時間だった。
川べりに腰掛けて、シュアは想っていた。
ミトスのこと、マーテルのこと、ユアンの、クラトスのこと。
ルビナスの、ゼロスの、ロイドの…みんなのこと。
昔から、自分はミトスを恨んでいた。
思えば彼に好意的に接してもらった覚えは一度もない。
けれど、この気持ちはなんだろう…。
彼がいないのだと、今になってようやく実感がわいてくる。
あとはオリジンを開放し、エターナルソードを使って実りを発芽させ、世界を統合させる。
そうしたら、何事もなかったかのように再び世界は時を刻み始める。
彼が救おうとしたこの世界は、彼を忘れて。
なんだか無性に、悲しくなった。
彼をこんな風に想うのは、初めてだった。
夜の静けさに、小さな虫の声が響く夜。
シュアは、おもむろに自分の元を訪ねてきたゼロスに呼び出されて、寝所を抜け出していた。
今は、出来れば彼と二人で話すことを避けたかった。
自分はどんなふうにゼロスに接すればいいのかが分からないから。
彼を彼として考えればいいのか、それとも…。
「悪ぃな。こんな時間に」
「…ううん、どっちみち寝付けなかったから」
宿に用意されていた寝間着に着替えていたシュアの胸には、月明かりを受けて2つの指輪が光っている。
それをほんの少し視界にとらえて、ゼロスは近くにあったベンチにシュアを促した。
「それで、どうしたの?」
「…俺は、ずっと決めかねてたんだ。クルシスとも、レネゲードとも通じながら結局自分がどうしたいのか。どうするべきなのか。神子から逃げ出したいっていう想いに、どう決着をつけるか」
「…うん」
おもむろに話しだすゼロスの横顔を見上げながら、シュアはちいさく頷き返す。
「シュアが前に言ったろ。世界を切り離そうとした時、シルヴァラントに行くって言った俺に、ゼロスは逃げないで勝ち取るんだね、って…。それを思い出した時、俺はようやく決めたんだ。俺に出来ることをやる為に、アイオニトスを手に入れること」
「そんなこと…言ってたね。私、偉そうなことばっかり言って…」
「いや、おかげで決心したんだ。それすら甘かったけどな…。シュアに勝てないって気付いた時、ならいっそ、ここで身をもってけじめをつけるべきだと思った」
だから、シュアの剣を自分に食い込ませた。
後悔も、望むことも山ほどあるくせに。それでいいんだと自分に言い聞かせていた。
「悪かったな。シュアがどんな思いをするのか、死ぬ直前まで忘れてたんだ。自分のせいで…シュアはそう責めるだろ?」
「…ゼロス…」
「悪かったよ」
あぁ、ゼロスはこんなにも自分の人生に一生懸命なんだ。
シュアは真剣に語りかけてくるゼロスの言葉を聞きながら、そう思った。
誰かの生まれ変わりだなんて、そんなこと考えていたらいけないのに。
こんなにもゼロス・ワイルダーを生きているのに。
それでも、自分には彼の紅が、今はもう…。
「…ゼロスは、ゼロスを生きるのに一生懸命なだけだよ。だから、こうして…もうすぐそれも本当になる」
「それ、…?」
「逃げないで勝ち取る。…世界が統合されれば、神子制度はもう廃止になる。自分の想いにも本当の決着がつく。…でしょ?」
小さくほほ笑むシュアに、ゼロスは思わず驚いたようにシュアを振り返った。
昔のようなシュア。記憶を取り戻す前の、自分が一番好きだったシュア。
いつでもこうしてシュアの言葉は自分の中に響いて、ゆっくりと自分の中の塊を溶かしていく。
「逃げたって良かったのかもしれないけど…。あ、そうそう。私、みんなと離れてテセアラに残った時、ルビナスの家を掃除してたの。そこに住もうと思って」
「…は?」
「その時ね、思い出してたんだ。どこか森の奥、静かに暮らそっかって、それで逃げちゃおうよってゼロスに言ったこと。こういうところで静かに暮らしたら、少しはゼロスも楽になるのかなって…ずっとそんなこと考えてた」
「……シュア」
「そのせいで、あぁ私、ゼロスのこと特別好きなのかなって、勝手に思ってた時期もあったんだ」
ふふ、と小さく笑うシュアは懐かしそうにその目を細めている。
「でも、とにかくそんな森の奥で暮らす必要ももうないね。ゼロスは自由に、ゼロスを…生きて」
これが終わったら、私はみんなから離れたところへ行こう。
ゼロスも、私とは何も関係なく…ゼロスとしての人生を生きられるはずだから。
「おめでとう。少し早いけど」
そう、心からほほ笑みかけたシュアを見下ろしながら。
ゼロスは、気付く間もなくそっと手を伸ばしていた。
ふわりと、ゼロスの髪が闇の中を揺れる。
その毛先がシュアの頬をくすぐる。
肩に、暖かな掌を感じたのが最初だった。
それからようやく気付いた、感触。
唇に柔らかな感触を感じたシュアの目が、すぐに大きく見開かれる。
キスをされているのだと感じたのは、それからさらに数秒。
「…っ」
思わず身体を捻って、逃れようとした。
けれどそれをしたことで余計に、ゼロスのその腕に抱きすくめられる身体。
力強い腕に、マナすら流れ込んできそうなキス。
ゆっくりと身体が離れた時には、シュアはゼロスの顔を見上げることができなかった。
俯いたままの視線を地面に張り付けるシュアに、真剣な目を向けるゼロスが口を開く。
「シュア、」
「どうして…」
「え、?」
「どうして、こんなこと…」
「どうしてって、んなの…」
その言葉の続きを聞きたくないかのように突然立ち上がったシュアが、ゼロスを追い越してその後ろで止まる。
「ゼロスは、違うよ…」
「…は?」
「それ、ゼロスの気持ちじゃない。それは…」
「それは、ルビナスの気持ちだから」
「…なんだよ、それ?」
思わずその手を掴んで、振り向かせたシュアは今にも泣きそうに顔を歪めている。
はっと息を飲み込んだゼロスの向かいで、シュアはそれでも振り絞るように口を開いた。
「ゼロスは、ルビナスなの。ルビナスの、生まれ変わりなの」
「……は…?何言ってんだよ?んなこと…」
「その痣。脇腹の、痣。私がつけたものなの。何があっても、必ず2人が会えるようにって、私がルビナスに付けたものなの」
何を言っているのか、意味は分かるのにまったく飲み込むことができない。
ゼロスの頭では言葉だけがぐるぐると回って、ただただ騒がしい。
「もともと私が持ってた葉型の痣。それを、私がつけた。何があっても消えないように、マナの力で。だから私にも全く同じものがあるし、その痣があるってことは…」
「あなたが元々、ルビナスだったってこと」
言いながらシュアは寝間着の裾を捲って、脇腹にあるそれを晒す。
そこには、ゼロスも幼いころからよく見なれている痣。
自分と、まったく同じ形をした痣があった。
「は…、んなの…」
「私だって…、無理に言ってるわけじゃない。でも、それが本当だし、だから…」
「ゼロスは、私を恨むべきなの」
「私が会えるようになんて、願ったから…ゼロスはこんなことに巻き込まれて、苦しんできたの。出会う運命にしてしまったのは、私だから」
何も言葉を返すことができない。
何に対してかも分からない、無性な憤りがゼロスの中で沸々と沸き上がっている。
ごめんなさい、というシュアの言葉が夜のヘイムダールにぽつりと響く。
しばらくの間、どちらもお互い視線を交わすこともなく、ゼロスとシュアはその場に立ち尽くしていた。
Next.