25
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ゼロスは、シュアを見つめていた。
悲しそうに歪められた眉。その瞳にはうっすらと涙の幕が滲んでいる。
「シュアは…シュアに何をしたんだ!」
「それはこっちのセリフだな。これがこの女の本当の姿だ。何も知らないなら最期に教えてやろう」
ただ、立ちすくんで実りを見上げているシュアを見やって、ユグドラシルは淡々とロイドにそう返した。
「クルシスの犬。言われれば何でもやるような、かわいそうな奴だ。お前たちも疑問に思っただろう?エルフでもハーフエルフでも人間でもないこいつが、一体何なのか」
「それは…」
「姉さまに作られた人形だ。マナを食して生きる人形。愚かなこいつにぴったりだろう?」
ちらりと視線を向けてミトスを睨みつけながら、それでもシュアの表情は今にも泣きそうに歪んでいる。
「シュア、仕事だ」
「…なに」
「こいつらを始末しろ」
「……」
答えは返さない。
それでも、了承したかのように、シュアは心底面倒そうに腰から剣を抜く。
「シュア…!」
「シュア!嫌だよ!正気にかえっとくれよ!」
「なに…」
「気にすることはない。こいつらの言っている戯言などな」
「…」
仲間の、しいなの呼びかけにもシュアが心を取り戻すことは、ない。
ゆっくりとロイドたちの方へ歩き出したシュアを確認すると、ユグドラシルは再度実りを振り返って力を注ぎ始めた。
「…ロイド」
ゼロスが、ゆっくりと口を開いた。
「ゼロス…まさか、だめだ!」
「分かってるよ。シュアの力がものすげーことぐらいな。けど、今度は俺がシュアを止める番だろ?」
「ならあたしだって!シュアにはいっぱい助けられたんだ…今度はあたしが助ける番だよ!」
思わず口を挟んだしいなに少しだけ視線を向けて、ゼロスは続けた。
「言ったろ、ここで実りを失ったらぜーんぶ終わりだ」
「ゼロス…!」
「ロイド。お前らはミトスを止めるんだ」
言うだけ言ってそのまま歩みを進めるゼロス。
言葉を返せなくなった仲間たちを背に、ゼロスはシュアの正面で足を止める。
「…紅い」
「どうした?シュアちゃん」
「…ルビ…」
彼の紅を、シュアはかつての恋人の髪の色と重ねていた。
大好きだった、それしかなかった自分の、かけがえのない紅。
少しだけ持ち手に汗が滲むのを感じながらも、シュアはゆっくりと剣を構える。
「…ゼロス!…っ死ぬなよ!」
ゼロスの背中にそう言葉を飛ばすと、すぐにロイドはユグドラシルの方へと駆け出した。
それに気づいたユグドラシルが、実りに向けていた力を止めて振り返る。
「…邪魔はさせない」
同じく戦闘態勢に入ったユグドラシルに、ロイドだけでなく仲間たちも続いた。
しばらくの間躊躇っていたしいなも、リーダーの援護をすべく、実りの方へと駆け出して行った。
「さーて、こちらもやりますか」
「……」
シュアは、何も答えない。
それでも小さく詠唱を開始して、その数秒後には天から光が降り注いだ。
それらをなんとか交わしながら、ゼロスは想っていた。
これ以上シュアに、同じ苦しみを与えるわけにはいかない。
そうしたら、きっと…たとえ正気を取り戻しても、シュアは今と変わらない表情を、これからも抱え続けなければいけないのだろう。
自分のせいで…そんな想いは、きっと今でも完全に彼女の中から拭い去れていないのだろうから。
もう一度、笑って欲しい。
もうそんな、泣き顔なんか捨てて。
「勝てるわけがねーよなぁ…」
そう零しながらも、ゼロスは真っすぐとシュアの懐へ飛び込んで行った。
その両刃剣を振りかざして、シュアへと振り下ろす。
キンッと金属の音が響いて、シュアと数秒、見つめあった。
相変わらず薄く張られた水の膜が、その瞳を覆っている。
「思い出せ!」
「…?」
「思い出せねーなら、これぐらい覚えてんだろ!?」
言って剣を振りかざしてから、ゼロスは再び向かってくるシュアの刃を受け止めた。
力強く震える、その掌で。
ぐっと、自分の脇腹までそれを引っ張りながら、掌から伝わる鋭い痛みに、ゼロスは思わず顔を歪める。
次の瞬間、バッとシュアが飛び退いた。
そのゼロスの行動に驚き、ゼロスの掌から、脇腹にある掌から血が滴り落ちるのを…見つめ、動きを止めた。
服の隙間から、微かに覗く葉型の痣。
ぐるりと、暗転したようにシュアの目の色が変わる。
脇腹から零れおちる鮮血。
どこかで見たような光景に、あの時のように体がガタガタと震えだす。
直後、ゼロスは仰向けに倒れこんでいた。
冷たい床の上にその紅を散らして、シュアを見つめながら優しくほほ笑んでいる。
カラン、と。寂しくシュアの剣が床を叩いた。
取り落とした剣を拾うこともなく、シュアはそれを驚き見開かれた目で見つめている。
それが、彼の最期と同じだったから。
青く茂る草の上で、ルビナスはその髪の紅を散らして、柔らかに笑んでいたから。
「る……び…………」
その目から涙をボロボロと零して、シュアはゼロスの傍らに跪いた。
そっと手を伸ばして、ゼロスの頬を震える手で撫でる。
「シュア」
「あ…」
「…なーにやっちゃってんの」
笑ったような声。
そうして目の前の紅がふわりと舞い降りるのを、何度自分は見ただろう。
「ゼロ…ス…」
「シュア…」
「私…あれ…?…私…っ!」
「は…気にすんな。ちーっと、手ぇ怪我しただけだから」
ひたひたと血の流れだす掌を見つめ、その脇にある痣を見つめ、シュアはぎゅっとその瞼をきつく閉じた。
どこまで弱い自分なんだろう。
ミトスに何かをされたことまでは覚えている。けれど、それから私は?もしかしなくても、仲間に剣を向けた?
自分がクルシスに所属していたことはとっくに思い出していた。
だから彼らの元を離れようとしたし、なんとしてでも、彼らを守り通すつもりだった。
それが自分にできることのはずだったのに。
ミトスの力なんかに、負けてはいけなかったのに。
また…助けられてしまった。ルビナスに、そしてゼロスに。
「シュア。気にすんな」
「ゼロス…」
「ここにいたいんだろ?いなくちゃ困るんだ、お前は…」
「な、んで…」
「渡すもんがある」
自分の掌にファーストエイドを唱えて、ゼロスはゆっくりと体を起こした。
「これ…ルビってやつのもんだろ?」
「…!」
ポケットからふいにそれを取り出して、ゼロスはシュアの方へと差し出す。
「どうして…」
「どっかで見たことあると思ったんでな…。なんでかは知らねーが、親父の形見でセレスが預かってた」
「セレス、ちゃんが…?」
「あぁ。昨日、取ってきたんだよ」
ゼロスの掌からそれを拾い上げて、シュアはその内側を眺めた。
自分の首から下がる、銀色のそれと同じ指輪。内側には確かに刻まれた、自分とルビナスの名前。
確かに彼の指輪はどこかに消えてなくなっていた。彼がいなくなった後も…指輪だけはどうしても見つからなかった。
それが、どう巡っていたのだろう。
そうしてゼロスの元に辿り着くなんて。
「…シュア?」
「はは…ごめんね、ゼロス」
「は…?」
「ゼロスがこんなに振り回されてるの、全部私たちのせいだね…」
そもそもクルシスが存在したことで、ゼロスは辛い人生を送ってきたんだ。
そしてゼロスがあの痣を持っているということは…彼がルビナスだということ。
巡り巡って、ゼロス・ワイルダーとして生まれたということ。
それゆえに、自分があんな痣を残したがゆえに…また私と出会うことになってしまった。そうしてこんな、大きな出来事に巻き込んでしまった。
何があっても会えるように、なんて、願ってしまったから。
「ごめんね…!」
何かを吐き出すようにそう絞り出して、それきり子供のように泣きじゃくるシュアを、ゼロスは何もできずに茫然と見つめていた。
私たちのせい、とはどいうことなのか。
クルシスに所属していたから?自分の所属していた組織が、神子を作ったから?
それすら、シュアを責めるつもりなんてこれっぽっちもなかったのに。
何も分からないまま、シュアの頭を撫でることすらできないまま。
ゼロスはただ、茫然とその零れる涙を数えるしかできなかった。
離れたところでは、激しく鳴り響いていた仲間たちの健闘の音が、まさにぴたりと止んだところだった。
Next.
悲しそうに歪められた眉。その瞳にはうっすらと涙の幕が滲んでいる。
「シュアは…シュアに何をしたんだ!」
「それはこっちのセリフだな。これがこの女の本当の姿だ。何も知らないなら最期に教えてやろう」
ただ、立ちすくんで実りを見上げているシュアを見やって、ユグドラシルは淡々とロイドにそう返した。
「クルシスの犬。言われれば何でもやるような、かわいそうな奴だ。お前たちも疑問に思っただろう?エルフでもハーフエルフでも人間でもないこいつが、一体何なのか」
「それは…」
「姉さまに作られた人形だ。マナを食して生きる人形。愚かなこいつにぴったりだろう?」
ちらりと視線を向けてミトスを睨みつけながら、それでもシュアの表情は今にも泣きそうに歪んでいる。
「シュア、仕事だ」
「…なに」
「こいつらを始末しろ」
「……」
答えは返さない。
それでも、了承したかのように、シュアは心底面倒そうに腰から剣を抜く。
「シュア…!」
「シュア!嫌だよ!正気にかえっとくれよ!」
「なに…」
「気にすることはない。こいつらの言っている戯言などな」
「…」
仲間の、しいなの呼びかけにもシュアが心を取り戻すことは、ない。
ゆっくりとロイドたちの方へ歩き出したシュアを確認すると、ユグドラシルは再度実りを振り返って力を注ぎ始めた。
「…ロイド」
ゼロスが、ゆっくりと口を開いた。
「ゼロス…まさか、だめだ!」
「分かってるよ。シュアの力がものすげーことぐらいな。けど、今度は俺がシュアを止める番だろ?」
「ならあたしだって!シュアにはいっぱい助けられたんだ…今度はあたしが助ける番だよ!」
思わず口を挟んだしいなに少しだけ視線を向けて、ゼロスは続けた。
「言ったろ、ここで実りを失ったらぜーんぶ終わりだ」
「ゼロス…!」
「ロイド。お前らはミトスを止めるんだ」
言うだけ言ってそのまま歩みを進めるゼロス。
言葉を返せなくなった仲間たちを背に、ゼロスはシュアの正面で足を止める。
「…紅い」
「どうした?シュアちゃん」
「…ルビ…」
彼の紅を、シュアはかつての恋人の髪の色と重ねていた。
大好きだった、それしかなかった自分の、かけがえのない紅。
少しだけ持ち手に汗が滲むのを感じながらも、シュアはゆっくりと剣を構える。
「…ゼロス!…っ死ぬなよ!」
ゼロスの背中にそう言葉を飛ばすと、すぐにロイドはユグドラシルの方へと駆け出した。
それに気づいたユグドラシルが、実りに向けていた力を止めて振り返る。
「…邪魔はさせない」
同じく戦闘態勢に入ったユグドラシルに、ロイドだけでなく仲間たちも続いた。
しばらくの間躊躇っていたしいなも、リーダーの援護をすべく、実りの方へと駆け出して行った。
「さーて、こちらもやりますか」
「……」
シュアは、何も答えない。
それでも小さく詠唱を開始して、その数秒後には天から光が降り注いだ。
それらをなんとか交わしながら、ゼロスは想っていた。
これ以上シュアに、同じ苦しみを与えるわけにはいかない。
そうしたら、きっと…たとえ正気を取り戻しても、シュアは今と変わらない表情を、これからも抱え続けなければいけないのだろう。
自分のせいで…そんな想いは、きっと今でも完全に彼女の中から拭い去れていないのだろうから。
もう一度、笑って欲しい。
もうそんな、泣き顔なんか捨てて。
「勝てるわけがねーよなぁ…」
そう零しながらも、ゼロスは真っすぐとシュアの懐へ飛び込んで行った。
その両刃剣を振りかざして、シュアへと振り下ろす。
キンッと金属の音が響いて、シュアと数秒、見つめあった。
相変わらず薄く張られた水の膜が、その瞳を覆っている。
「思い出せ!」
「…?」
「思い出せねーなら、これぐらい覚えてんだろ!?」
言って剣を振りかざしてから、ゼロスは再び向かってくるシュアの刃を受け止めた。
力強く震える、その掌で。
ぐっと、自分の脇腹までそれを引っ張りながら、掌から伝わる鋭い痛みに、ゼロスは思わず顔を歪める。
次の瞬間、バッとシュアが飛び退いた。
そのゼロスの行動に驚き、ゼロスの掌から、脇腹にある掌から血が滴り落ちるのを…見つめ、動きを止めた。
服の隙間から、微かに覗く葉型の痣。
ぐるりと、暗転したようにシュアの目の色が変わる。
脇腹から零れおちる鮮血。
どこかで見たような光景に、あの時のように体がガタガタと震えだす。
直後、ゼロスは仰向けに倒れこんでいた。
冷たい床の上にその紅を散らして、シュアを見つめながら優しくほほ笑んでいる。
カラン、と。寂しくシュアの剣が床を叩いた。
取り落とした剣を拾うこともなく、シュアはそれを驚き見開かれた目で見つめている。
それが、彼の最期と同じだったから。
青く茂る草の上で、ルビナスはその髪の紅を散らして、柔らかに笑んでいたから。
「る……び…………」
その目から涙をボロボロと零して、シュアはゼロスの傍らに跪いた。
そっと手を伸ばして、ゼロスの頬を震える手で撫でる。
「シュア」
「あ…」
「…なーにやっちゃってんの」
笑ったような声。
そうして目の前の紅がふわりと舞い降りるのを、何度自分は見ただろう。
「ゼロ…ス…」
「シュア…」
「私…あれ…?…私…っ!」
「は…気にすんな。ちーっと、手ぇ怪我しただけだから」
ひたひたと血の流れだす掌を見つめ、その脇にある痣を見つめ、シュアはぎゅっとその瞼をきつく閉じた。
どこまで弱い自分なんだろう。
ミトスに何かをされたことまでは覚えている。けれど、それから私は?もしかしなくても、仲間に剣を向けた?
自分がクルシスに所属していたことはとっくに思い出していた。
だから彼らの元を離れようとしたし、なんとしてでも、彼らを守り通すつもりだった。
それが自分にできることのはずだったのに。
ミトスの力なんかに、負けてはいけなかったのに。
また…助けられてしまった。ルビナスに、そしてゼロスに。
「シュア。気にすんな」
「ゼロス…」
「ここにいたいんだろ?いなくちゃ困るんだ、お前は…」
「な、んで…」
「渡すもんがある」
自分の掌にファーストエイドを唱えて、ゼロスはゆっくりと体を起こした。
「これ…ルビってやつのもんだろ?」
「…!」
ポケットからふいにそれを取り出して、ゼロスはシュアの方へと差し出す。
「どうして…」
「どっかで見たことあると思ったんでな…。なんでかは知らねーが、親父の形見でセレスが預かってた」
「セレス、ちゃんが…?」
「あぁ。昨日、取ってきたんだよ」
ゼロスの掌からそれを拾い上げて、シュアはその内側を眺めた。
自分の首から下がる、銀色のそれと同じ指輪。内側には確かに刻まれた、自分とルビナスの名前。
確かに彼の指輪はどこかに消えてなくなっていた。彼がいなくなった後も…指輪だけはどうしても見つからなかった。
それが、どう巡っていたのだろう。
そうしてゼロスの元に辿り着くなんて。
「…シュア?」
「はは…ごめんね、ゼロス」
「は…?」
「ゼロスがこんなに振り回されてるの、全部私たちのせいだね…」
そもそもクルシスが存在したことで、ゼロスは辛い人生を送ってきたんだ。
そしてゼロスがあの痣を持っているということは…彼がルビナスだということ。
巡り巡って、ゼロス・ワイルダーとして生まれたということ。
それゆえに、自分があんな痣を残したがゆえに…また私と出会うことになってしまった。そうしてこんな、大きな出来事に巻き込んでしまった。
何があっても会えるように、なんて、願ってしまったから。
「ごめんね…!」
何かを吐き出すようにそう絞り出して、それきり子供のように泣きじゃくるシュアを、ゼロスは何もできずに茫然と見つめていた。
私たちのせい、とはどいうことなのか。
クルシスに所属していたから?自分の所属していた組織が、神子を作ったから?
それすら、シュアを責めるつもりなんてこれっぽっちもなかったのに。
何も分からないまま、シュアの頭を撫でることすらできないまま。
ゼロスはただ、茫然とその零れる涙を数えるしかできなかった。
離れたところでは、激しく鳴り響いていた仲間たちの健闘の音が、まさにぴたりと止んだところだった。
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