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「コレットを返せ!」
目前にユグドラシルの見えるようになった瞬間、ロイドは一層走る速度を速めてそう叫んだ。
立ち止ったロイドの後ろに自分も立ち止まって、シュアはユグドラシルを見つめる。
大いなる実りの間。
そこにいるのは、ユグドラシル、プロネーマに、装置に入れられたままのコレット、マーテル…そして大いなる実り。
かつて自分はここを訪れたことが何度もある。
ほぼ毎日のようにここにいて、その大いなる実りを…マーテルをじっと、見上げていた。
小さく膝を抱えて。
ひたすら彼女に問いかけていた。
『自分はどうしてここにいるのか』
「ロイド!?きさまどうやってこの部屋へ…ここのカギはクルシス幹部にしか…。…お前か…」
「……」
ユグドラシルの視線を感じる。
昔はここだけが安らげる場所だった。
けれど今は、ここにはもうピリピリとした嫌な空気しか感じられない。
「そんなことどうだっていいだろ!どのみち、おまえの身勝手な千年王国の夢はここでつぶされるんだ」
「無駄なことを…」
気付くと、ユグドラシルはすでにその手をロイドへとかざしている時だった。
いけない…!
なんとか先に止めようとシュアもまた、その手をユグドラシルへと向ける。
けれどそれは、すぐに必要のないものへと変わった。
「ぐっ!」
鈍い声とともに、ユグドラシルの身体が傾ぐ。
それとともに彼の攻撃も間一髪のところで止められた。
彼の元に飛んできたそれは、ファイアーボール。
思わず飛んできた方を見上げた2人の目に、飛び込んできたのは。
「ロイドは傷つけさせないよ!」
剣玉を掲げて頼もしくほほ笑むジーニアス。
その後ろではしいな、リーガル、リフィル、プレセアもまたこちらを見下ろしている。
「みんな…!」
「み…みんなっ!?どうして…無事だったのか!?」
「言ったろ。メインイベントまでには間に合ってみせるって」
「私を同じ苦しみを背負いたくなかったのだろう?」
「せっかく新しい世界ができようとしているのに、それを見逃す手はないわ」
「まだ…戦えます。戦えるかぎりあなたのそばにいます」
「へへーん、どう?見直した?」
ロイドの目に、うっすらと涙がにじむ。
何があったかは、分からない。
けれど、ロイドはきっとそれらもこらえてみんなと別れてきたのだ。
一筋縄ではいかないような罠が、ここには数多く待ち受けていたのだろうから。
仲間たちの佇む高台を見上げるロイドは、すぐに心から嬉しそうに、頼もしそうに叫んだ。
「みんな…!よし、一緒に戦おう!」
その声にこたえるように、みんなが高台を飛び降りてくる。
シュアは近くまで走り寄り立ち止まったしいなと、大きく笑みを交わした。
再会、できたね。
だからね、あのときは無茶を言ったかもしれないけれど、私はちゃんとみんなの元へ帰ってくるよ。
帰ってきたいから。
ゼロスが…それを気付かせてくれたから。
「やれやれ、雑魚共が。プロネーマ、お前の不始末だ。やれ!」
「は、はい!」
「みんな、いける?」
「もちろんだよ!シュアにばっかりいいかっこさせないからね!」
「ジーニアス…はは、了解!」
「いくぞ!みんな!」
いつものロイドの声が、みんなを奮い立たせる。
すぐに戦闘態勢へと構えたプロネーマに、それぞれが武器を取りだして彼女を見据えた。
シュアはすぐに、ぐるぐると空間を歩き出した。
ぶつぶつと言葉を零しながら、仲間と、プロネーマの周りを歩いて回る。
それを、ミトスは黙って見つめていた。
彼女がしようとしていることを分かって、ただそれを待っていた。
瞬間、ふっと空間が揺らぐ。
それはほんの一瞬。
今はもう何もなかったかのように、中心で仲間たちがプロネーマとその手下を相手に戦っている。
シュアがその一瞬で施したのは、バリアだった。
大いなる実りに、マーテルに、そしてコレットに。攻撃の被害が及ばないように。
仲間たちがその想いを全力でぶつけることができるように。
それでも彼女たちを守りたかったから。
すぐにシュアはプロネーマへと向き直ると、戦闘へと参加すべく走り出した。
プロネーマがその膝を折るのは、それからすぐのことだった。
「ユグドラシル様…苦しい…お助け下さい…」
這いつくばり自分に手を伸ばすプロネーマを、ミトスは気付いてすらいないようだった。
マーテルへと注がれる光はだんだんと強くなり、ふいにマーテルの姿が空間を去る。
直後、コレットの装置がゆっくりと開きだした。
「成功だ!!姉さまが目覚める!」
いけない!
そう思ったときには、もう遅かった。
その装置の中で、コレットはゆっくりと目を覚ます。
「ユグドラシル様…ミトス様…どうか…」
「私をその名前で呼んでいいのは私のかつての同士だけだ!消えろ!」
それでも自分を呼び続けるプロネーマに、ふいに気づいたようにそう言うと、ミトスはすぐにプロネーマへとその魔術の刃を向けた。
とどめを刺されたプロネーマは、クルシスの輝石一つ残ることなくその空間から消える。
「ひ…ひどい…」
プレセアの呟きだけが、空間に揺れた。
「姉さま…!やっと、目覚めてくれましたね」
「うそだろ…コレット…うそだろ!」
装置からゆらりと立ち上がったコレットが、こちらへと歩み寄り切なげにゆれる瞳をミトスに向ける。
「ミトス…。あなたは、なんということを…」
「姉さま?ああ、この体のことですか?クルシスの指導者としてふさわしく見えるように成長速度を速めたんです。待ってください。今、昔の姿に戻りますから」
ミトスは高揚する気持ちをそのままに、微かな光に包まれるとすぐにその姿を変えた。
ロイドたちの一番見知った姿。
勇者と呼ばれていたころの、彼の姿に。
「ミトス…。そうではないのよ。わたしはずっとあなたを見てきました。動かぬ体で、ただなすすべなくあなたがしてきた愚かな行為を…。忘れてしまったの?私たちが古の大戦をくい止めたのは、人とエルフと狭間の者とが皆、同じように暮らせる世界を夢見たからでしょう?」
「なにを言っているの、姉さま?せっかく新しい体を用意したのに。やっぱりそれでは気に入らなかったんだね」
けれどコレットの口から零れるマーテルの言葉も、今はその言葉の意味すら飲み込めないようにミトスはただ真っすぐと、マーテルを見つめている。
マーテルはその眉根に小さく、皺を刻んだ。
「ミトス。お願いです。私の言葉を聞いて。あなたのしてきたことは間違っている。少なくとも、私たちが目指してきたものとは違います」
「…間違ってるって?姉さまがボクを否定するの?」
「違うわ。思い出して欲しいの。こんなことはやめて、もう一度昔のあなたに…」
「姉さままでボクを…否定するの?姉さまがそんなこと言うはずない…」
今はロイドたちがここにいることなどすっかり忘れているのだろう。
心から悲しそうにその目を揺るがせたミトスは、直後にはその顔を俯かせて小さく震えだした。
「はは…ははは、あはははははは!」
「そんなこと……許さないからな!!」
破裂しそうな心を解き放つように叫んだミトスから、大きく光が漏れる。
瞬間、ぐらぐらと揺らぎだす空間。
このままじゃ、最悪の事態が起きてしまう。
思わず冷や汗が頬を伝ったシュアに、訪れたそれは感覚。
ふわりと、黄昏の温かさが自分を包む。
「大丈夫か、ロイド!」
高台から投げられた声。
見上げることをせずとも、すぐに彼は高台から飛び降りて目前のコレットへと走り寄った。
すぐにコレットの要の紋へと細工を施す。
「ゼロス…!」
良かった。
無事が確信へと変わった。
そして彼は一番の大仕事を、すべて必死にこなしてくれた。
その手には、きっと…
「何をするんだ!」
我に返ったミトスが魔術を放つ。
それにはっと気づいたように振り返ると、ゼロスはコレットを守るべく突き飛ばして、自分も後ろへ飛び退いた。
すぐに怒り狂ったようなミトスの声が響く。
「どういうつもりだ!マナの神子から解放して欲しいんだろう?」
「わりぃな。…それ、もういいわ。おまえらを倒しちまえば、そんなこと関係なくなるしな」
『ゼロスは逃げないで戦って、自分の自由を勝ち取るんだね。』
かつてシュアがそう言ってくれていた。
それを、自分はそれすら最後の最後まで決められずにいた。
でも今はゆるぎなく思える。
それを共に勝ち取りたい仲間たちがいるのだと。
すぐにロイドから飛んできた声に、ゼロスは振り返った。
「ゼロス!やっぱり戻ってきてくれるのか!」
「悪かったな。こうでもしないと、これが手に入らなかったんだ。…ほらよ」
その手から弧を描いて投げられたものを、ロイドがキャッチする。
「それをドワーフの技術で精製するんだ。人間でもエターナルソードを使えるようになるらしいぜ!」
「おまえ、まさかこれを手に入れるためにわざと…」
驚きを張り付けたまま零したロイドに、隣にいたしいなが付け足すように言った。
「そうさ。そのアホ神子があたしたちをトラップ地獄から助け出してくれたんだよ。シュアと戦ったあの場から、どうしたのかは知らないけどね」
「変わらないよ。ゼロスは、その鉱石、アイオニトスのために裏切ったふりをしてただけ。必死で、けじめをつけようとしてただけ」
「…でも、だましてたのはホントだ。今までさんざん足をひっぱってきたからな。これぐらいはやらねーと、許してもらえねーだろ」
ははっ…と小さく笑ったロイドが、また滲みそうになる涙をこらえて力強く、笑う。
「許してほしかったら、さっさと一緒に戦え!」
「了解~!」
「くそ!姉さまを返せ!」
「さようなら、ミトス。私の最後のお願いです。この歪んだ世界を元に戻して」
「イヤだ、姉さま!…いかないで!」
ミトスの声がもうマーテルには届かないように、マーテルはゆったりとその瞼を閉じた。
変わってしまった弟の言葉をもうこれ以上聞くのが辛いかのように、変わらずその眉根に小さく皺の刻まれたままで。
「こんなことになるのなら、エルフはデリス・カーラーンから離れるべきではなかったのかもしれない。そうしたら、私たちのような狭間の者は生まれ落ちなかったのに…」
コレットから零れだす光がゆっくりと大いなる実りへと戻っていく。
瞬間、すぐにコレットは意識を手放したように床へと倒れこんだ。
「…そうか。そうだったんだ。あは…はははは…」
「ミトス…?」
誰もが見つめる中を、ミトスはゆっくりと実りへ近づいてその花を見上げる。
「姉さまは、こんな薄汚い大地を捨てて、デリス・カーラーンへ戻りたかったんだ。そうだよね。あの星はエルフの血を引く者すべてのふるさとだものね」
「わかったよ、姉さま。こんな薄汚い連中は放っておいて、二人で還ろう。デリス・カーラーンへ」
彼が両手を広げると、実りはゆっくりと天を昇り始める。
それと同時にふいに意識を取り戻したコレットがおぼつかない足取りで立ち上がると、力一杯に叫んだ。
「みんな、ミトスを止めて!私の中にいたマーテルが、私に呼びかけるの!マーテルは…ミトスを止めて欲しいのよ!」
癇に障ったようにピクリと反応を見せたミトスが、振り返り言葉を返す。
それに伴うようにして、実りは一度動きを止めた。
「ふざけるな。姉さまがそんなこと言うわけないだろう。このできそこない!」
「言ってたもん!これ以上、人やエルフを苦しめないでって、泣いてたもの!」
今度はその言葉すら気にとめないように、ミトスは実りへと向き直ると再びその手を広げた。
再び、実りはゆっくりと上昇を開始していく。
「ロイド、わかってんだろーな。ここで大いなる実りを失ったら、レネゲードの期待を裏切るんだぜ」
「あれは…あれがないと、大樹は二度とこの世界に芽吹かない。マナも生まれない。世界は、枯れるし統合も叶わない…」
状況を冷静に見つめて零すゼロスとシュアの言葉が、ロイドの胸に直接流れ込んでくる。
「分かってる。ミトスを止める!全力でな!…いくぞ!」
次々と武器を構えるロイドたちに、もう一度ミトスは動きを中断させるとゆっくりと振り返った。
「ボクの邪魔はさせない…」
小さな光が、彼の身体から零れる。
瞬時に、ミトスは再び指導者としての身体に戻ると、シュアを振り返った。
「いい加減、役に立ってみせろ。そのために…お前を送り込んだんだ」
「…ミトス。私は、もう…逃げられないし、逃げないよ。あなたから」
「そんなことはどうでもいい。ただ記憶を戻してやるとでも思ったのか?」
「な…」
そろりと、ユグドラシルの掌がシュアに向けられる。
直後、目に見えないマナがシュアの中を、叩いた。
ドクンと、全身がただ一つの大きな鼓動に震える。
瞬間、シュアは全てを見失った。
全てを、強引に奪い取られた。
意識も、心も、視覚も聴覚も全て。
「シュア…?」
思わず声を掛けたゼロスの声にも、シュアは反応すら忘れたようにただ、その場に立ち尽くしていた。
彼女の目は、かつてこの空間を想っていたその時のように、悲しげに小さく揺れていた。
Next.
目前にユグドラシルの見えるようになった瞬間、ロイドは一層走る速度を速めてそう叫んだ。
立ち止ったロイドの後ろに自分も立ち止まって、シュアはユグドラシルを見つめる。
大いなる実りの間。
そこにいるのは、ユグドラシル、プロネーマに、装置に入れられたままのコレット、マーテル…そして大いなる実り。
かつて自分はここを訪れたことが何度もある。
ほぼ毎日のようにここにいて、その大いなる実りを…マーテルをじっと、見上げていた。
小さく膝を抱えて。
ひたすら彼女に問いかけていた。
『自分はどうしてここにいるのか』
「ロイド!?きさまどうやってこの部屋へ…ここのカギはクルシス幹部にしか…。…お前か…」
「……」
ユグドラシルの視線を感じる。
昔はここだけが安らげる場所だった。
けれど今は、ここにはもうピリピリとした嫌な空気しか感じられない。
「そんなことどうだっていいだろ!どのみち、おまえの身勝手な千年王国の夢はここでつぶされるんだ」
「無駄なことを…」
気付くと、ユグドラシルはすでにその手をロイドへとかざしている時だった。
いけない…!
なんとか先に止めようとシュアもまた、その手をユグドラシルへと向ける。
けれどそれは、すぐに必要のないものへと変わった。
「ぐっ!」
鈍い声とともに、ユグドラシルの身体が傾ぐ。
それとともに彼の攻撃も間一髪のところで止められた。
彼の元に飛んできたそれは、ファイアーボール。
思わず飛んできた方を見上げた2人の目に、飛び込んできたのは。
「ロイドは傷つけさせないよ!」
剣玉を掲げて頼もしくほほ笑むジーニアス。
その後ろではしいな、リーガル、リフィル、プレセアもまたこちらを見下ろしている。
「みんな…!」
「み…みんなっ!?どうして…無事だったのか!?」
「言ったろ。メインイベントまでには間に合ってみせるって」
「私を同じ苦しみを背負いたくなかったのだろう?」
「せっかく新しい世界ができようとしているのに、それを見逃す手はないわ」
「まだ…戦えます。戦えるかぎりあなたのそばにいます」
「へへーん、どう?見直した?」
ロイドの目に、うっすらと涙がにじむ。
何があったかは、分からない。
けれど、ロイドはきっとそれらもこらえてみんなと別れてきたのだ。
一筋縄ではいかないような罠が、ここには数多く待ち受けていたのだろうから。
仲間たちの佇む高台を見上げるロイドは、すぐに心から嬉しそうに、頼もしそうに叫んだ。
「みんな…!よし、一緒に戦おう!」
その声にこたえるように、みんなが高台を飛び降りてくる。
シュアは近くまで走り寄り立ち止まったしいなと、大きく笑みを交わした。
再会、できたね。
だからね、あのときは無茶を言ったかもしれないけれど、私はちゃんとみんなの元へ帰ってくるよ。
帰ってきたいから。
ゼロスが…それを気付かせてくれたから。
「やれやれ、雑魚共が。プロネーマ、お前の不始末だ。やれ!」
「は、はい!」
「みんな、いける?」
「もちろんだよ!シュアにばっかりいいかっこさせないからね!」
「ジーニアス…はは、了解!」
「いくぞ!みんな!」
いつものロイドの声が、みんなを奮い立たせる。
すぐに戦闘態勢へと構えたプロネーマに、それぞれが武器を取りだして彼女を見据えた。
シュアはすぐに、ぐるぐると空間を歩き出した。
ぶつぶつと言葉を零しながら、仲間と、プロネーマの周りを歩いて回る。
それを、ミトスは黙って見つめていた。
彼女がしようとしていることを分かって、ただそれを待っていた。
瞬間、ふっと空間が揺らぐ。
それはほんの一瞬。
今はもう何もなかったかのように、中心で仲間たちがプロネーマとその手下を相手に戦っている。
シュアがその一瞬で施したのは、バリアだった。
大いなる実りに、マーテルに、そしてコレットに。攻撃の被害が及ばないように。
仲間たちがその想いを全力でぶつけることができるように。
それでも彼女たちを守りたかったから。
すぐにシュアはプロネーマへと向き直ると、戦闘へと参加すべく走り出した。
プロネーマがその膝を折るのは、それからすぐのことだった。
「ユグドラシル様…苦しい…お助け下さい…」
這いつくばり自分に手を伸ばすプロネーマを、ミトスは気付いてすらいないようだった。
マーテルへと注がれる光はだんだんと強くなり、ふいにマーテルの姿が空間を去る。
直後、コレットの装置がゆっくりと開きだした。
「成功だ!!姉さまが目覚める!」
いけない!
そう思ったときには、もう遅かった。
その装置の中で、コレットはゆっくりと目を覚ます。
「ユグドラシル様…ミトス様…どうか…」
「私をその名前で呼んでいいのは私のかつての同士だけだ!消えろ!」
それでも自分を呼び続けるプロネーマに、ふいに気づいたようにそう言うと、ミトスはすぐにプロネーマへとその魔術の刃を向けた。
とどめを刺されたプロネーマは、クルシスの輝石一つ残ることなくその空間から消える。
「ひ…ひどい…」
プレセアの呟きだけが、空間に揺れた。
「姉さま…!やっと、目覚めてくれましたね」
「うそだろ…コレット…うそだろ!」
装置からゆらりと立ち上がったコレットが、こちらへと歩み寄り切なげにゆれる瞳をミトスに向ける。
「ミトス…。あなたは、なんということを…」
「姉さま?ああ、この体のことですか?クルシスの指導者としてふさわしく見えるように成長速度を速めたんです。待ってください。今、昔の姿に戻りますから」
ミトスは高揚する気持ちをそのままに、微かな光に包まれるとすぐにその姿を変えた。
ロイドたちの一番見知った姿。
勇者と呼ばれていたころの、彼の姿に。
「ミトス…。そうではないのよ。わたしはずっとあなたを見てきました。動かぬ体で、ただなすすべなくあなたがしてきた愚かな行為を…。忘れてしまったの?私たちが古の大戦をくい止めたのは、人とエルフと狭間の者とが皆、同じように暮らせる世界を夢見たからでしょう?」
「なにを言っているの、姉さま?せっかく新しい体を用意したのに。やっぱりそれでは気に入らなかったんだね」
けれどコレットの口から零れるマーテルの言葉も、今はその言葉の意味すら飲み込めないようにミトスはただ真っすぐと、マーテルを見つめている。
マーテルはその眉根に小さく、皺を刻んだ。
「ミトス。お願いです。私の言葉を聞いて。あなたのしてきたことは間違っている。少なくとも、私たちが目指してきたものとは違います」
「…間違ってるって?姉さまがボクを否定するの?」
「違うわ。思い出して欲しいの。こんなことはやめて、もう一度昔のあなたに…」
「姉さままでボクを…否定するの?姉さまがそんなこと言うはずない…」
今はロイドたちがここにいることなどすっかり忘れているのだろう。
心から悲しそうにその目を揺るがせたミトスは、直後にはその顔を俯かせて小さく震えだした。
「はは…ははは、あはははははは!」
「そんなこと……許さないからな!!」
破裂しそうな心を解き放つように叫んだミトスから、大きく光が漏れる。
瞬間、ぐらぐらと揺らぎだす空間。
このままじゃ、最悪の事態が起きてしまう。
思わず冷や汗が頬を伝ったシュアに、訪れたそれは感覚。
ふわりと、黄昏の温かさが自分を包む。
「大丈夫か、ロイド!」
高台から投げられた声。
見上げることをせずとも、すぐに彼は高台から飛び降りて目前のコレットへと走り寄った。
すぐにコレットの要の紋へと細工を施す。
「ゼロス…!」
良かった。
無事が確信へと変わった。
そして彼は一番の大仕事を、すべて必死にこなしてくれた。
その手には、きっと…
「何をするんだ!」
我に返ったミトスが魔術を放つ。
それにはっと気づいたように振り返ると、ゼロスはコレットを守るべく突き飛ばして、自分も後ろへ飛び退いた。
すぐに怒り狂ったようなミトスの声が響く。
「どういうつもりだ!マナの神子から解放して欲しいんだろう?」
「わりぃな。…それ、もういいわ。おまえらを倒しちまえば、そんなこと関係なくなるしな」
『ゼロスは逃げないで戦って、自分の自由を勝ち取るんだね。』
かつてシュアがそう言ってくれていた。
それを、自分はそれすら最後の最後まで決められずにいた。
でも今はゆるぎなく思える。
それを共に勝ち取りたい仲間たちがいるのだと。
すぐにロイドから飛んできた声に、ゼロスは振り返った。
「ゼロス!やっぱり戻ってきてくれるのか!」
「悪かったな。こうでもしないと、これが手に入らなかったんだ。…ほらよ」
その手から弧を描いて投げられたものを、ロイドがキャッチする。
「それをドワーフの技術で精製するんだ。人間でもエターナルソードを使えるようになるらしいぜ!」
「おまえ、まさかこれを手に入れるためにわざと…」
驚きを張り付けたまま零したロイドに、隣にいたしいなが付け足すように言った。
「そうさ。そのアホ神子があたしたちをトラップ地獄から助け出してくれたんだよ。シュアと戦ったあの場から、どうしたのかは知らないけどね」
「変わらないよ。ゼロスは、その鉱石、アイオニトスのために裏切ったふりをしてただけ。必死で、けじめをつけようとしてただけ」
「…でも、だましてたのはホントだ。今までさんざん足をひっぱってきたからな。これぐらいはやらねーと、許してもらえねーだろ」
ははっ…と小さく笑ったロイドが、また滲みそうになる涙をこらえて力強く、笑う。
「許してほしかったら、さっさと一緒に戦え!」
「了解~!」
「くそ!姉さまを返せ!」
「さようなら、ミトス。私の最後のお願いです。この歪んだ世界を元に戻して」
「イヤだ、姉さま!…いかないで!」
ミトスの声がもうマーテルには届かないように、マーテルはゆったりとその瞼を閉じた。
変わってしまった弟の言葉をもうこれ以上聞くのが辛いかのように、変わらずその眉根に小さく皺の刻まれたままで。
「こんなことになるのなら、エルフはデリス・カーラーンから離れるべきではなかったのかもしれない。そうしたら、私たちのような狭間の者は生まれ落ちなかったのに…」
コレットから零れだす光がゆっくりと大いなる実りへと戻っていく。
瞬間、すぐにコレットは意識を手放したように床へと倒れこんだ。
「…そうか。そうだったんだ。あは…はははは…」
「ミトス…?」
誰もが見つめる中を、ミトスはゆっくりと実りへ近づいてその花を見上げる。
「姉さまは、こんな薄汚い大地を捨てて、デリス・カーラーンへ戻りたかったんだ。そうだよね。あの星はエルフの血を引く者すべてのふるさとだものね」
「わかったよ、姉さま。こんな薄汚い連中は放っておいて、二人で還ろう。デリス・カーラーンへ」
彼が両手を広げると、実りはゆっくりと天を昇り始める。
それと同時にふいに意識を取り戻したコレットがおぼつかない足取りで立ち上がると、力一杯に叫んだ。
「みんな、ミトスを止めて!私の中にいたマーテルが、私に呼びかけるの!マーテルは…ミトスを止めて欲しいのよ!」
癇に障ったようにピクリと反応を見せたミトスが、振り返り言葉を返す。
それに伴うようにして、実りは一度動きを止めた。
「ふざけるな。姉さまがそんなこと言うわけないだろう。このできそこない!」
「言ってたもん!これ以上、人やエルフを苦しめないでって、泣いてたもの!」
今度はその言葉すら気にとめないように、ミトスは実りへと向き直ると再びその手を広げた。
再び、実りはゆっくりと上昇を開始していく。
「ロイド、わかってんだろーな。ここで大いなる実りを失ったら、レネゲードの期待を裏切るんだぜ」
「あれは…あれがないと、大樹は二度とこの世界に芽吹かない。マナも生まれない。世界は、枯れるし統合も叶わない…」
状況を冷静に見つめて零すゼロスとシュアの言葉が、ロイドの胸に直接流れ込んでくる。
「分かってる。ミトスを止める!全力でな!…いくぞ!」
次々と武器を構えるロイドたちに、もう一度ミトスは動きを中断させるとゆっくりと振り返った。
「ボクの邪魔はさせない…」
小さな光が、彼の身体から零れる。
瞬時に、ミトスは再び指導者としての身体に戻ると、シュアを振り返った。
「いい加減、役に立ってみせろ。そのために…お前を送り込んだんだ」
「…ミトス。私は、もう…逃げられないし、逃げないよ。あなたから」
「そんなことはどうでもいい。ただ記憶を戻してやるとでも思ったのか?」
「な…」
そろりと、ユグドラシルの掌がシュアに向けられる。
直後、目に見えないマナがシュアの中を、叩いた。
ドクンと、全身がただ一つの大きな鼓動に震える。
瞬間、シュアは全てを見失った。
全てを、強引に奪い取られた。
意識も、心も、視覚も聴覚も全て。
「シュア…?」
思わず声を掛けたゼロスの声にも、シュアは反応すら忘れたようにただ、その場に立ち尽くしていた。
彼女の目は、かつてこの空間を想っていたその時のように、悲しげに小さく揺れていた。
Next.