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何度訪れてもいい感覚のする場所ではない。
数多くの棺が並び、その空気は無機質にも凍っている。
救いの塔、内部。
ユアンの協力を得て足を踏み入れたロイドたちは、もう何度目かのその空間をそれでも力強く踏み進めていく。
そこに、いつものような会話はない。
ふと、ゼロスが誰よりも前へと踏み出し、仲間たちを振り返った。
「…ここは俺にまかせとけ」
いつものゼロスと変わらないような、この雰囲気に多少なりとも神妙なような、そんな面持ちで。
「まかせとけって、どうするんだよ」
「こんなこともあろうかと、前にここへ来たときにちょっとした細工をしておいたんだ」
すたすた歩き進めて広場に出ると、再び仲間たちを振り返る。
そして彼は不思議そうに自分を見つめる仲間たちの中からコレットに視線を向けると、おもむろに彼女を呼んだ。
「コレット、ちょっとこっちにきて」
「え?うん…」
エターナルソードが2人の後ろにそびえる。
そんな、彼らの姿を仲間たちが見つめる。
ふいに、その視界は舞い降りた何かによって遮られた。
見えなくなる仲間たち。舞い降りたそれは、天使。
瞬時に警戒を見せるロイドたちの耳に、さらには無機質な音が響く。
同時にエターナルソードの上には怪しげな陣が現れ、姿を現したのはプロネーマだった。
「ご苦労じゃったな、神子ゼロスよ。さあ、コレットをこちらに…」
「…はいよ」
耳を、疑ったのはロイドだけでもシュアだけでもない。
その場にいる仲間達には、誰にも瞬時に状況を読み取ることが許されない。
コレットの足元にはプロネーマと同様の陣が現れ、瞬時に彼女の身体はプロネーマの元へ転送される。
エターナルソードを背に立っているのは、確かに仲間のはずの男、ただ一人。
「…ゼロス!?」
ついに声を絞り出したのは、しいなだった。
「あんた、何するんだよ!」
「…うるせーなー。寄らば大樹の陰ってしらねーのか?お前らのしてることは無駄なんだよ。いいじゃねぇか。コレットちゃんだって生贄になりたがってただろ」
薄く笑いながら背後にいるコレットを振り返って、ゼロスはすぐに飛んでくるロイドの言葉に静かに視線を仲間たちに向けた。
「ゼロス!裏切るのか!」
「裏切るとは笑止。ゼロスは最初からわらわたちの密偵としておまえたちの仲間になったのじゃ。のう、ゼロス?」
本人が答えを返す前に、プロネーマから飛んでくる裏付けの言葉。
「…本当なのか?」
「俺さまは強い者の味方だ。レネゲードとクルシスとおまえら、はかりにかけさせてもらったぜ」
それに何の反応を見せることもなく、ゼロスは淡々とそう言い放つ。
「レネゲードにまで情報を流してたのか!あんたって奴は…!いいかげんだけどいいところもあるって思ってたのに…」
「おほめの言葉あーりーがーとー」
今までなら有り得ないようなしいなのほめ言葉にも、彼らしい反応が返ってくることなくゼロスは静かに背を向ける。
「結局、マナの神子から解放してくれるってミトスさまが約束してくれたんでこっちにつくことにしたわ」
「…うそだ!俺はおまえを信じるからな!信じていいって言ったのはおまえなんだぞ」
「ばっかじゃねーの。プロネーマさま、さあ、早くコレットを」
その時シュアは。
シュアは、それまで何も言えずにただゼロスの言葉を耳に拾っていた。
悔しさからか、苦しさからか、静かに震えるロイドの肩越しにゼロスをただ、見つめるだけ。
「後はまかせたぞ」
嘲笑するようにそう言うプロネーマの声を、
「ロイド…ロイド!ロイドー!」
こちらに手を伸ばすコレットが静かに消えていく姿も、
その目に、耳に刻んではいるのになんの言葉を返すこともできない。
ただただ、信じられなかった。どこかにそうではないと感じれるなにかを必死に探していた。
静かに、ゼロスは腰の両刃剣を引き抜いてこちらに構える。
「…どうしてだ!仲間だったじゃないか!」
そう必死に訴えかけるロイドの言葉に答えるより先に、ふいに歩き出したシュアにゼロスは視線を向ける。
今のやり取りの間、一度も目を向けることのできなかったシュア。
どうしてかはわからないけれど、シュアに目を向けたら最後、昨晩固めた自分の決意がぐらりと揺らぐような気がしていたから。
ロイドの腕に触れると、そんな仲間の横を通り抜けて自分の向かいに立ち止まるシュア。
「ゼロス…その剣も、本気なの?」
「…いくら俺様でもそこまでくだらねぇことはしねーよ」
「…ロイド」
ふいに仲間たちを振り返ったシュアから放たれる言葉には、思わずゼロスも小さく反応を見せた。
「みんなは先に行って。一刻も早くコレットを見つけてあげて」
「先に…って、シュアはどうするんだい!」
「この先、何度も足止めされる。その度にみんなが何かに直面させられると思う。だからここは、私がみんなの道を開く」
淡々と返されて言葉に詰まるしいなに、シュアは小さく笑みを向ける。
「お願い。まだワープは生きてる。コレットは多分…地下の、大いなる実りの間にいるから」
「…シュア?どうして…」
「…ごめん。私もみんなに隠してることがある。でも今はお願い…行って。後できちんと、全部話すから」
ゆっくりと再びこちらを振り返るシュアに、ゼロスは訝しげな視線を向ける。
それでもシュアはただただ、その眉間に皺を寄せてこちらを見つめている。
「ロイド」
「…だめだ。シュアもゼロスも、大事な仲間だ」
「…ありがとう。だったら、お願い。私を信じて」
自分の腰からも両刃剣を引き抜くシュアはもうこちらを振り返ることもなく、彼女も譲る気はないのだとロイドは悟った。
そこまでする位だ。ただ迎え撃つつもりじゃない。
そう、信じても…やはり不安はたくさんあるけれど…いいだろうか。
「…分かった」
「ロイド!?正気かい!?」
「シュアがそう決めたんだ」
「…そうね…それを動かせるとしたら、あそこで向かい合ってる彼くらいかしら」
まっすぐと立っているシュアに視線を向けるロイドとリフィルには、しいなももう何も言葉を返せなくなってしまった。
走り出したロイドに付いて、自分も渋々と足を動かす。
まだまだ心配でたまらないけれど、今は…どうか無事に再会したい。
できるなら、仲の良かったあの3人で。
ワープの音が人数分響いたのを耳だけで確認すると、シュアはゆっくりと口を開いた。
「始めよっか」
「…なに考えてんだよ?せめて自分の手で、とでも思ってんのか?」
「…言ったでしょ?みんなの道を開くって。“みんな”って言いきったからには…ゼロスも同じ」
これが、これから剣を交えようとする人間のする表情だろうか。
とてもリラックスしたような表情。
ただ、どこか悲しそうにその表情を歪ませてしまっているのが、ゼロスの胸をちくりと痛めた。
「やるからには…、本気でいこうや」
「…分かった。なら私は全力で、ゼロスを止める」
その言葉に微かに眉尻を下げたゼロスは、それでも静かにその掌をクルシスの輝石に触れた。
光が彼を包んで、その直後には彼の背後に黄昏の色が広がる。
それを目に捉えた一瞬。
シュアはすべての感覚を、失った。
その目に映る黄昏が、あの日、ルビナスが自分を庇って死んだ頃、木々の隙間から窺えたあの夕陽と同じものに思えた。
どこか冷たい夕日。鳥肌の立つような、決して温かくはない夕日。
自分のいるこの場の空気、自分の血液をようやく感じれるほどに感覚が戻って初めて、シュアにはそれが羽だと、分かった。
ミトスにも、ユアンにも、クラトスにも、コレットにも、そして…
「な、にして…」
「なにをそんなに驚いてんのよ。羽なんて、いつも見てんだろ?」
「ばか…!天使化することがどういうことか…」
「こーなっちまったら、これで決着…だからな」
「…どういうことか。…分かってないんだよ、ゼロスは…」
その語尾がどんどん弱くなっていくシュアは、俯くなり自分の左胸にその手を触れる。
「シュア…?」
「ばか…」
そう、彼らにも、そして…自分にもある…。
「……は…?」
「ゼロスがそこまで本気なら、私も本気を出さなくちゃ…」
「ゼロスを、止められない」
ゆっくりと視線を上げたシュアの背後に、今は広がる萌黄色の大きな羽。
自分よりも1回りは大きなその羽に、意識も視線も奪われたゼロスの視界を埋め尽くす。
「はじめようか」
「……は…はは、シュアちゃんはほんと、予測もつかねぇよ…」
再び剣を構えたシュアに、ゼロスもゆっくりとその剣を持ち上げた。
「理由なんざ、今さら聞いても仕方ねぇよな?」
「大丈夫。後できちんと聞かせてあげる。…みんな一緒に」
ふ、と小さく笑ったゼロスが走り出す。
それに応えるように、シュアも小さく地を蹴る。
ふわり、と2色の羽が空間に揺れて、直後にはキン、と金属のぶつかる音が響いた。
刀身がぎちぎちと音を立てて、交わる刃越しに相手の瞳の色を捉える。
「なに考えてるの?」
「なーにがよ」
「こんなことして。ゼロスが本気でクルシスなんかに付くとは思えない」
「…どーかな」
「…それに、本気だったらゼロス、…大ばかだよ」
強く刀身を押して距離を取るなり、シュアは空いている掌をゼロスに向ける。
「ジャッジメント」
言葉だけが響いて、すぐに強烈な光がゼロスの周囲を襲う。
それをひらひらと器用に交わしながらも、ゼロスの顔からはすでに余裕が消えていた。
ただでさえ、未知数だったシュアの戦闘能力。
天使化した状態なら…その能力はさらに計り知れない。
出来るか?自分に…
「集中して」
光の柱を抜けた瞬間、すでにこちらまで踏み込んできていたシュアの刃が自分に向かってくる。
それをすんでのところで受け止めたが、完全に戦況は押されていた。
ただ。
ただ、仲間たちに危険を冒させないつもりだった。
ある程度、仲間たちの足止めができれば、後は1人ワープを使いアイオニトスを取って戻るつもりだった。
それで仲間に傷を負わせてしまっても。それで自分の命が尽きても。戻る場所がなくなってしまっても。
それが、仲間たちに自分ができることであり、今までしてきたことへの償いのつもりだった。
簡単に挑発にのってくれる予定だった。
どこまでも熱く返される予定なんかじゃなかった。
シュアと対峙することになった時も、驚きはしたがそのままの予定で行くはずだった。
けれどこれは、
…どうも逆になりそうだな。
軽く傷を負わされて、仲間の元に連れ戻されるだけ。
戻りたくないわけじゃない。だけど、
「戻れねぇよ…シュア」
「!?」
距離を保ち、再びお互いに向けあった剣を、けれどゼロスはその寸前で下ろした。
反応しきれなかったシュアの剣が、鈍い感覚を伝える。
その柄を握るシュアの掌に。
「ゼロ…ス…?」
グローブをはめたその手が、自分の背中に回される。
ふわりと抱きしめられたと思った瞬間には、ぐっと力が込められる。
それと同時に耳元で聞こえる苦しげな声。
こらえきれなかった、ぐっ、という声が耳の中で充満する。
「ゼ…」
妙に温かな感覚が手に触れて、思わずシュアは剣を手放していた。
その正体を確かめようと自分の掌に視線を落とすと、真っ赤な血がするすると自分の手をつたっていく。
頭が、もう完全にその機能を失っていた。
今の一瞬に何が起きたのか、まったく理解ができずにいる。
ただ、身体だけはがたがたと震えているのに。
ドサッという鈍い音を捉えると、自分の足元に仰向けに倒れるゼロスがいた。
彼の服には自分の掌と同じ鮮血の赤。
脇腹あたりを深く突き刺しているのは、他でもない自分の剣。
ようやく、そろそろと頭が動き出した。
「ゼロっ…ゼロス!」
「は…わりぃ、な…。嫌な思い、させちまって…」
「ゼ…だ、だめ!しゃべらないで!」
「でもお前のせいじゃない…シュアのせいじゃ、ねぇよ…」
「ゼロス…!」
ルビナスの家での言葉を、ゼロスは繰り返した。
跪くシュアの目からは完全に栓を失くしたように涙があふれ出す。
「どうして…!」
「俺にはシュアを傷つけらんないみたいだからな…」
「そんなの私だって…!」
「初めっから、俺様の負けだった、ってことよ…」
ひゃひゃ…と力なく笑うゼロスの表情が、涙で霞む。
どうして…ダメ…
だってゼロスまで…ダメだ…
私が関わったから…
そうじゃない、もっと…
そんなことよりもっと、自分にはやるべきことがある…
今度こそ、失いたくない。
「ゼロス、ごめん…っ」
「っ…!」
その身体に刺さった自分の剣を引き抜く。
ゼロスの身体からは鈍い声と共により一層血が溢れ出て、それに比例するようにシュアの涙もより一層かさを増す。
「シュア…?」
「しゃべっちゃダメ!」
「は…もう、無理だって…」
「うるさい!」
両掌を傷口にかざすと同時に温かな光が空間を包んだ。
それでも鮮血は、無情にも水たまりを床に広げていく。
「どうにかなる…傷じゃ…ね…よ」
「うるさいうるさい!」
泣き叫ぶ子どものようにそう繰り返して、ただがむしゃらにシュアは掌にすべてを集中させた。
眩い光に傷口の様子は窺えない。
それでもシュアは必死にゼロスの傷口に処置を施す。
泣いているくせに、強気な目をして。
曇っているのに、その奥にはいつもどこか芯がある。
そんなシュアをゆったりとした気持で眺めながら、
ゼロスは霞んでゆく視界に、そっと瞼を下ろしていった。
Next.
数多くの棺が並び、その空気は無機質にも凍っている。
救いの塔、内部。
ユアンの協力を得て足を踏み入れたロイドたちは、もう何度目かのその空間をそれでも力強く踏み進めていく。
そこに、いつものような会話はない。
ふと、ゼロスが誰よりも前へと踏み出し、仲間たちを振り返った。
「…ここは俺にまかせとけ」
いつものゼロスと変わらないような、この雰囲気に多少なりとも神妙なような、そんな面持ちで。
「まかせとけって、どうするんだよ」
「こんなこともあろうかと、前にここへ来たときにちょっとした細工をしておいたんだ」
すたすた歩き進めて広場に出ると、再び仲間たちを振り返る。
そして彼は不思議そうに自分を見つめる仲間たちの中からコレットに視線を向けると、おもむろに彼女を呼んだ。
「コレット、ちょっとこっちにきて」
「え?うん…」
エターナルソードが2人の後ろにそびえる。
そんな、彼らの姿を仲間たちが見つめる。
ふいに、その視界は舞い降りた何かによって遮られた。
見えなくなる仲間たち。舞い降りたそれは、天使。
瞬時に警戒を見せるロイドたちの耳に、さらには無機質な音が響く。
同時にエターナルソードの上には怪しげな陣が現れ、姿を現したのはプロネーマだった。
「ご苦労じゃったな、神子ゼロスよ。さあ、コレットをこちらに…」
「…はいよ」
耳を、疑ったのはロイドだけでもシュアだけでもない。
その場にいる仲間達には、誰にも瞬時に状況を読み取ることが許されない。
コレットの足元にはプロネーマと同様の陣が現れ、瞬時に彼女の身体はプロネーマの元へ転送される。
エターナルソードを背に立っているのは、確かに仲間のはずの男、ただ一人。
「…ゼロス!?」
ついに声を絞り出したのは、しいなだった。
「あんた、何するんだよ!」
「…うるせーなー。寄らば大樹の陰ってしらねーのか?お前らのしてることは無駄なんだよ。いいじゃねぇか。コレットちゃんだって生贄になりたがってただろ」
薄く笑いながら背後にいるコレットを振り返って、ゼロスはすぐに飛んでくるロイドの言葉に静かに視線を仲間たちに向けた。
「ゼロス!裏切るのか!」
「裏切るとは笑止。ゼロスは最初からわらわたちの密偵としておまえたちの仲間になったのじゃ。のう、ゼロス?」
本人が答えを返す前に、プロネーマから飛んでくる裏付けの言葉。
「…本当なのか?」
「俺さまは強い者の味方だ。レネゲードとクルシスとおまえら、はかりにかけさせてもらったぜ」
それに何の反応を見せることもなく、ゼロスは淡々とそう言い放つ。
「レネゲードにまで情報を流してたのか!あんたって奴は…!いいかげんだけどいいところもあるって思ってたのに…」
「おほめの言葉あーりーがーとー」
今までなら有り得ないようなしいなのほめ言葉にも、彼らしい反応が返ってくることなくゼロスは静かに背を向ける。
「結局、マナの神子から解放してくれるってミトスさまが約束してくれたんでこっちにつくことにしたわ」
「…うそだ!俺はおまえを信じるからな!信じていいって言ったのはおまえなんだぞ」
「ばっかじゃねーの。プロネーマさま、さあ、早くコレットを」
その時シュアは。
シュアは、それまで何も言えずにただゼロスの言葉を耳に拾っていた。
悔しさからか、苦しさからか、静かに震えるロイドの肩越しにゼロスをただ、見つめるだけ。
「後はまかせたぞ」
嘲笑するようにそう言うプロネーマの声を、
「ロイド…ロイド!ロイドー!」
こちらに手を伸ばすコレットが静かに消えていく姿も、
その目に、耳に刻んではいるのになんの言葉を返すこともできない。
ただただ、信じられなかった。どこかにそうではないと感じれるなにかを必死に探していた。
静かに、ゼロスは腰の両刃剣を引き抜いてこちらに構える。
「…どうしてだ!仲間だったじゃないか!」
そう必死に訴えかけるロイドの言葉に答えるより先に、ふいに歩き出したシュアにゼロスは視線を向ける。
今のやり取りの間、一度も目を向けることのできなかったシュア。
どうしてかはわからないけれど、シュアに目を向けたら最後、昨晩固めた自分の決意がぐらりと揺らぐような気がしていたから。
ロイドの腕に触れると、そんな仲間の横を通り抜けて自分の向かいに立ち止まるシュア。
「ゼロス…その剣も、本気なの?」
「…いくら俺様でもそこまでくだらねぇことはしねーよ」
「…ロイド」
ふいに仲間たちを振り返ったシュアから放たれる言葉には、思わずゼロスも小さく反応を見せた。
「みんなは先に行って。一刻も早くコレットを見つけてあげて」
「先に…って、シュアはどうするんだい!」
「この先、何度も足止めされる。その度にみんなが何かに直面させられると思う。だからここは、私がみんなの道を開く」
淡々と返されて言葉に詰まるしいなに、シュアは小さく笑みを向ける。
「お願い。まだワープは生きてる。コレットは多分…地下の、大いなる実りの間にいるから」
「…シュア?どうして…」
「…ごめん。私もみんなに隠してることがある。でも今はお願い…行って。後できちんと、全部話すから」
ゆっくりと再びこちらを振り返るシュアに、ゼロスは訝しげな視線を向ける。
それでもシュアはただただ、その眉間に皺を寄せてこちらを見つめている。
「ロイド」
「…だめだ。シュアもゼロスも、大事な仲間だ」
「…ありがとう。だったら、お願い。私を信じて」
自分の腰からも両刃剣を引き抜くシュアはもうこちらを振り返ることもなく、彼女も譲る気はないのだとロイドは悟った。
そこまでする位だ。ただ迎え撃つつもりじゃない。
そう、信じても…やはり不安はたくさんあるけれど…いいだろうか。
「…分かった」
「ロイド!?正気かい!?」
「シュアがそう決めたんだ」
「…そうね…それを動かせるとしたら、あそこで向かい合ってる彼くらいかしら」
まっすぐと立っているシュアに視線を向けるロイドとリフィルには、しいなももう何も言葉を返せなくなってしまった。
走り出したロイドに付いて、自分も渋々と足を動かす。
まだまだ心配でたまらないけれど、今は…どうか無事に再会したい。
できるなら、仲の良かったあの3人で。
ワープの音が人数分響いたのを耳だけで確認すると、シュアはゆっくりと口を開いた。
「始めよっか」
「…なに考えてんだよ?せめて自分の手で、とでも思ってんのか?」
「…言ったでしょ?みんなの道を開くって。“みんな”って言いきったからには…ゼロスも同じ」
これが、これから剣を交えようとする人間のする表情だろうか。
とてもリラックスしたような表情。
ただ、どこか悲しそうにその表情を歪ませてしまっているのが、ゼロスの胸をちくりと痛めた。
「やるからには…、本気でいこうや」
「…分かった。なら私は全力で、ゼロスを止める」
その言葉に微かに眉尻を下げたゼロスは、それでも静かにその掌をクルシスの輝石に触れた。
光が彼を包んで、その直後には彼の背後に黄昏の色が広がる。
それを目に捉えた一瞬。
シュアはすべての感覚を、失った。
その目に映る黄昏が、あの日、ルビナスが自分を庇って死んだ頃、木々の隙間から窺えたあの夕陽と同じものに思えた。
どこか冷たい夕日。鳥肌の立つような、決して温かくはない夕日。
自分のいるこの場の空気、自分の血液をようやく感じれるほどに感覚が戻って初めて、シュアにはそれが羽だと、分かった。
ミトスにも、ユアンにも、クラトスにも、コレットにも、そして…
「な、にして…」
「なにをそんなに驚いてんのよ。羽なんて、いつも見てんだろ?」
「ばか…!天使化することがどういうことか…」
「こーなっちまったら、これで決着…だからな」
「…どういうことか。…分かってないんだよ、ゼロスは…」
その語尾がどんどん弱くなっていくシュアは、俯くなり自分の左胸にその手を触れる。
「シュア…?」
「ばか…」
そう、彼らにも、そして…自分にもある…。
「……は…?」
「ゼロスがそこまで本気なら、私も本気を出さなくちゃ…」
「ゼロスを、止められない」
ゆっくりと視線を上げたシュアの背後に、今は広がる萌黄色の大きな羽。
自分よりも1回りは大きなその羽に、意識も視線も奪われたゼロスの視界を埋め尽くす。
「はじめようか」
「……は…はは、シュアちゃんはほんと、予測もつかねぇよ…」
再び剣を構えたシュアに、ゼロスもゆっくりとその剣を持ち上げた。
「理由なんざ、今さら聞いても仕方ねぇよな?」
「大丈夫。後できちんと聞かせてあげる。…みんな一緒に」
ふ、と小さく笑ったゼロスが走り出す。
それに応えるように、シュアも小さく地を蹴る。
ふわり、と2色の羽が空間に揺れて、直後にはキン、と金属のぶつかる音が響いた。
刀身がぎちぎちと音を立てて、交わる刃越しに相手の瞳の色を捉える。
「なに考えてるの?」
「なーにがよ」
「こんなことして。ゼロスが本気でクルシスなんかに付くとは思えない」
「…どーかな」
「…それに、本気だったらゼロス、…大ばかだよ」
強く刀身を押して距離を取るなり、シュアは空いている掌をゼロスに向ける。
「ジャッジメント」
言葉だけが響いて、すぐに強烈な光がゼロスの周囲を襲う。
それをひらひらと器用に交わしながらも、ゼロスの顔からはすでに余裕が消えていた。
ただでさえ、未知数だったシュアの戦闘能力。
天使化した状態なら…その能力はさらに計り知れない。
出来るか?自分に…
「集中して」
光の柱を抜けた瞬間、すでにこちらまで踏み込んできていたシュアの刃が自分に向かってくる。
それをすんでのところで受け止めたが、完全に戦況は押されていた。
ただ。
ただ、仲間たちに危険を冒させないつもりだった。
ある程度、仲間たちの足止めができれば、後は1人ワープを使いアイオニトスを取って戻るつもりだった。
それで仲間に傷を負わせてしまっても。それで自分の命が尽きても。戻る場所がなくなってしまっても。
それが、仲間たちに自分ができることであり、今までしてきたことへの償いのつもりだった。
簡単に挑発にのってくれる予定だった。
どこまでも熱く返される予定なんかじゃなかった。
シュアと対峙することになった時も、驚きはしたがそのままの予定で行くはずだった。
けれどこれは、
…どうも逆になりそうだな。
軽く傷を負わされて、仲間の元に連れ戻されるだけ。
戻りたくないわけじゃない。だけど、
「戻れねぇよ…シュア」
「!?」
距離を保ち、再びお互いに向けあった剣を、けれどゼロスはその寸前で下ろした。
反応しきれなかったシュアの剣が、鈍い感覚を伝える。
その柄を握るシュアの掌に。
「ゼロ…ス…?」
グローブをはめたその手が、自分の背中に回される。
ふわりと抱きしめられたと思った瞬間には、ぐっと力が込められる。
それと同時に耳元で聞こえる苦しげな声。
こらえきれなかった、ぐっ、という声が耳の中で充満する。
「ゼ…」
妙に温かな感覚が手に触れて、思わずシュアは剣を手放していた。
その正体を確かめようと自分の掌に視線を落とすと、真っ赤な血がするすると自分の手をつたっていく。
頭が、もう完全にその機能を失っていた。
今の一瞬に何が起きたのか、まったく理解ができずにいる。
ただ、身体だけはがたがたと震えているのに。
ドサッという鈍い音を捉えると、自分の足元に仰向けに倒れるゼロスがいた。
彼の服には自分の掌と同じ鮮血の赤。
脇腹あたりを深く突き刺しているのは、他でもない自分の剣。
ようやく、そろそろと頭が動き出した。
「ゼロっ…ゼロス!」
「は…わりぃ、な…。嫌な思い、させちまって…」
「ゼ…だ、だめ!しゃべらないで!」
「でもお前のせいじゃない…シュアのせいじゃ、ねぇよ…」
「ゼロス…!」
ルビナスの家での言葉を、ゼロスは繰り返した。
跪くシュアの目からは完全に栓を失くしたように涙があふれ出す。
「どうして…!」
「俺にはシュアを傷つけらんないみたいだからな…」
「そんなの私だって…!」
「初めっから、俺様の負けだった、ってことよ…」
ひゃひゃ…と力なく笑うゼロスの表情が、涙で霞む。
どうして…ダメ…
だってゼロスまで…ダメだ…
私が関わったから…
そうじゃない、もっと…
そんなことよりもっと、自分にはやるべきことがある…
今度こそ、失いたくない。
「ゼロス、ごめん…っ」
「っ…!」
その身体に刺さった自分の剣を引き抜く。
ゼロスの身体からは鈍い声と共により一層血が溢れ出て、それに比例するようにシュアの涙もより一層かさを増す。
「シュア…?」
「しゃべっちゃダメ!」
「は…もう、無理だって…」
「うるさい!」
両掌を傷口にかざすと同時に温かな光が空間を包んだ。
それでも鮮血は、無情にも水たまりを床に広げていく。
「どうにかなる…傷じゃ…ね…よ」
「うるさいうるさい!」
泣き叫ぶ子どものようにそう繰り返して、ただがむしゃらにシュアは掌にすべてを集中させた。
眩い光に傷口の様子は窺えない。
それでもシュアは必死にゼロスの傷口に処置を施す。
泣いているくせに、強気な目をして。
曇っているのに、その奥にはいつもどこか芯がある。
そんなシュアをゆったりとした気持で眺めながら、
ゼロスは霞んでゆく視界に、そっと瞼を下ろしていった。
Next.