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それからどれくらいの時間がたっていただろうか。
とりあえずとばかりに出された紅茶をすすり、整理するほども無い自分の頭を探り、
シュアはもくもくと染み一つ無い天井を見上げていた。
さすが、上流階級の家、だろうか。
天井なんてものは、木でできて、雨漏りのしみが一つや二つある程度がちょうどいいというのに。
雨が降れば桶を急いでかき集めて…
そこまで思いながらふっと口元を緩めて、すぐにハッとしたシュアは椅子を倒す程の勢いで慌しく立ち上がる。
今のは何だろう…。
記憶?自分の知らない、自分の本当の生活?
意味も無く辺りを見回して再び天井に目を向けた頃、大分前にゼロスの出て行った扉が数時間ぶりに開いて、すぐさまゼロスがその姿を現した。
「?なーにしてんの?」
「あ……おかえり」
「…!…あ、あぁ…俺様居なくて寂しくなかった?」
一瞬、拍子抜けしたようなゼロスの表情に首を傾げながらも、すぐにおちゃらけて笑う彼に、シュアはすぐさま呆れたように首を振る。
「何、言って…」
「あ、そーそー。ちょいと話があるんだけど」
「え?」
そしてシュアの隣の椅子を引いたゼロスは、そこに腰掛けるや否やシュアを見上げてなんて事のないように言葉を紡いだ。
「俺様、しばらく帰れそーにないわけ」
「…え?」
「ちょーっと、旅にね。で、シュアちゃんは、どーするよ?」
どーするって…
呟いたシュアに、ゼロスは相変わらず大したことでもなさそうに笑う。
「一緒に行くか、それとも、俺様が帰ってくるまで健気ーに俺様のことを待ち続けるか」
「そ、そんなの今…決め…?」
「あぁ、悪いけどあんま時間無ぇんだわ。さくっと。どっちがい?」
選べといわれても。
もちろん、ゼロスに関わることなく、最初に考えていたようにどことも分からない場所へ1人で旅立ってもいい。
けれど、
「…メリットは?」
「んー、俺様と一緒に居られるだろー?俺様の日常垣間見るどころか見放題。あと、俺様の美しー勇姿も見放題。他にも行く奴居んだけど、まぁついでに世界も見放題?」
「世界…」
「ま、メインはおれさ…」
「たくさん、回る…?」
「…まー、今の所はわかんねぇけど」
「行こう……かな」
そう呟いたシュアに、ゼロスはもちろん、一番に驚いたのはシュア自身だった。
そう、記憶を取り戻すため。世界を見て回るなら1人で旅立ったっていいんだ。
けれど、なぜだろう…
こんなにも、誰かに関わりたいと思う気持ち。
自分が誰も知らないから?
それとも、こんなにも空っぽの自分自身だけじゃ不安だから?
理由は分からないけれど、ゼロスに単純に興味を持っている自分もいる。
だからといって、帰ってくるまで健気に待つ、なんてのは最も御免だけれど。
「……じゃ、用意…は、できてっか。俺様だけだな。すぐ用意してくっから、そこで待っといて」
「…うん」
ゼロスが2階へと上がっていくのを見守ってから、もう一度だけ天井を見上げたシュアは、ティーカップに残っていた紅茶を飲み干してからそっと小さく息をついた。
旅立ち。ゼロ同然の自分は、この旅で一体どれくらいを取り戻せるだろう。
まだ見ぬ世界に思いを馳せながら、シュアは椅子を2つ元に正して力強く足元の荷物を手に取った。
「いよっ!ロイド。ようやく来たか」
マーテル教会大聖堂。
名前だけを聞いてもシュアにはよく分からなかったが、実際訪れて、旅に同行する一行を待っているだけの時間眺めていれば、なんとなく建物の趣旨を理解するには容易な場所だった。
そしてようやく訪れた一行。
ゼロスが声を飛ばす方に目を向ければ、5人の‐こう言っては何だが‐女子供が、歩み寄ってくるなり眉根を寄せる。
「えっと…ゼロスだっけ?」
「そうそう。俺様はゼロス・ワイルダー。で、」
赤い少年の質問に答えてから、ゼロスは隣のシュアの腕を引くと、座っていた礼拝用の椅子から立ち上がらせて全員の前に一歩差し出す。
「こっちがシュアちゃん。ちょーっと訳ありで、悪いけど連れてってやってくんねぇ?」
「なに、勝手に決めてんだよ!」
「喚くなガキんちょ。シュアちゃんはなー、今一切の記憶を無くしてんの。可哀想だと思わねぇの?」
「記憶を…?」
納得のいかなそうにする銀髪の男の子。
同じく銀髪の、おそらくこの中で最年長の女性はそう呟いて、シュアを興味深げに見つめるとなにやらブツブツと独り言を言い始める。
仕方なく、この中で一番まともに喋れそうな人物を探したシュアは、結局最初の赤い少年へと向き直って、軽く頭を下げてから簡単な自己紹介をした。
といっても、紹介だなんてむしろ、自分の事は人に聞きたいぐらいだったのだけれど。
「シュアです。他の事は…分かりません。ゼロスの、友人…らしいです。事情もよく分からない上に迷惑かもしれないんですが、よろしくお願いします」
あ、あぁ…と、畏まった自己紹介に一瞬恐縮した少年は、けれどすぐに思い出したように、仲間たちを次々に紹介していく。
「俺はロイド。これは、ジーニアス。先生…あ、リフィル先生」
これって何だよ!と噛み付いたジーニアスを余所に、リフィルと呼ばれた銀髪の女性は、我に帰ったのかよろしく、と小さく微笑む。
「こっちがコレット。今は…えっと、」
「あぁ、細かい事は行きながら話しゃいーでしょ」
「あ、あぁ。で、こっちが、プレセア」
何の話だろう。
ゼロスが口を挟んだことに僅かに首を傾げるが、すぐに次の紹介をされてシュアはロイドの言葉に耳を傾けた。
「えっと、ロイド、ジーニアス、リフィルさん…コレット、プレセア。と、ゼロス」
「あぁ!すっげーな!シュアって覚えんの早ぇーんだな!」
「ロイドだってドワーフの誓い全部覚えてるんだから大したものだよ」
「そ、そうか?」
「ドワーフの誓いだけね」
なんだよ!と興奮するロイドを、からかうジーニアスがリフィルに叱られている。
旅は思ったより賑やかになりそうだ。
初めこそ旅をする仲間がこのメンバーでいいのかと見た目に少々不安を覚えたけれど、それでもきっと楽しい旅になる。
「早速だけど。王立研究院には連絡つけといてやったぜ」
「王立研究院に行くのはいいけれど、プレセアは解放してもらえるのかしら?」
「もっちろん。プレセアちゃんの故郷はオゼットなんだろ?王立研究院も海の向こうだし、ついでに送ってってやろうや」
ゼロスとリフィルの口から飛び出す、自分には知りえない単語の数々。
とりあえずと耳だけは傾けたものの、結局最後までシュアが話の中身を理解することはほとんどなかった。
記憶の無かった自分が、ゼロスに出会う前、気づいた時には歩いていた草原。
メルトキオは確かにあのときの自分の目にも映っていたが、今の自分はそこから旅立ち、1人ではない。
一行の後ろの方をついて歩くシュアは、なんだかそんな状況が僅かにでも嬉しいような気がしてふっと口元を緩めた。
ちょうどそんな時、ふと振り返ったリフィルが立ち止まってシュアを見つめる。
一行も立ち止まって訝しげにリフィルを見つめると、すぐにリフィルはシュアに向かって口を開いた。
「そういえば、シュアは戦えるのかしら?」
「…あ、はい」
「そう。ならいいのだけれど」
「私…戦えなさそうですか?」
「いいえ。戦い方までは忘れていないのなら、いいの。ごめんなさいね」
「なぁ、シュアはやっぱ、その腰の剣で戦うのか?」
シュアが答えてリフィルが謝ると、会話の区切れに口を開いたロイドが興味深げにシュアの剣を見つめる。
「あ、うん。基本は、そうかな」
「へー。俺も…」
「敵、確認。攻撃態勢に入ります」
ふと、ロイドの声を遮って脇から聞こえた声に振り返れば、プレセアがその無相応な斧を構えてシュアの方を見つめている。
慌てて反対側に振り返ると、そこには少し離れたところにモンスター。それも、一見可愛らしいウサギのような形をしたモンスターが、5匹もこちらに狙いを定めていた。
「お手並み拝見、だってよ。シュアちゃん」
すぐにからかう様にゼロスが言って、シュアもすぐさま剣を抜く。
「…そーだね。いい機会かも」
もはや会話などどうでもいいのか、すでに皮切りとなって手前の敵に向かっていったロイドを追って、シュアも奥の敵へと走り出した。
繰り返される打撃。
それらを全て剣で受け止めてから、すぐに間合いを詰めて相手の喉元を深く剣で切り込む。
返り血を浴びないよう僅かに角度をつけたせいか、血はシュアにかからない方向へと勢いよく噴き出して、モンスターはすぐさま地へとその身体を伏した。
「へー!シュアって強いな!」
「ロイド、左から来てるよ」
「うわわっ!」
くつり、とロイドが慌てたのを見て小さく笑ったシュアは、すぐさまジーニアスの横に引き返して、剣を両手で掲げならブツブツと呪文の詠唱を開始する。
「…!?」
そして思わず、隣のジーニアスの詠唱が、止まった。
ぶわっと、巻き起こる風。
いや、ジーニアスにはすぐにそれが風でないと分かった。これは風なんかじゃない、踊るようにマナがシュアの周りで溢れ返っている。
「姉さん…!」
「えぇ…これは…」
「シュアから、直接マナが溢れてる!」
「…イラプション!」
それは、先程ロイドを驚かせた魔物だった。
丁度ロイドが間合いを取った頃、一瞬にして地面から沸き起こった炎が魔物を包む。
ついでとばかりに、近くに居た魔物をもう一匹、巻き込んで。
そしてその規模は、半端ではなかった。
危うくも、ロイドが巻き込まれそうになる位。
当然のように、威力もまた、残された2匹の魔物を見事真っ黒に焼き尽くしている。
「…シュア…?」
離れた所で、丁度魔物の息の根を止めたゼロスが、誰にも聞かれず小さく呟いた。
「シュア!凄過ぎるよ!どうして…」
「…え?なに、が…、…」
「シュア!!」
ふらり、と。
その身体を僅かに揺らしたシュアは、直後、膝を折って地へと座り込んでいた。
魔物を一掃して一息、駆け寄って声を掛けていたジーニアスが慌ててリフィルを呼ぶが、けれどリフィルの見る限り、シュアに特に外傷はないようだった。
「怪我は…。やっぱり、ないみたいね」
「あ、の、大丈夫ですから…。魔術を使うと、こうなるみたいなんです」
「魔術…。そう、そうだわ!あなたの魔術は一体…」
「…え?」
ゆっくりと、引いた眩暈に立ち上がるシュア。
何かおかしなところでもあるのだろうか、と言わんばかりのその表情に、リフィルは言葉を止めてゆっくりと首を振る。
「なぁ、シュアもエルフなのか?」
「エルフ?…あ、あぁ、私は…」
「先生とジーニアスはエルフなんだ!だからシュアもあんなすごい魔法が使えるんだろ?」
ロイドの好奇に満ちた目にも申し訳なさそうに首を振ったシュアは、けれどすぐにハッとして返そうとした言葉を詰まらせた。
私はエルフじゃない。
…じゃぁ、何者なの?
どうしてこんな、魔術が使えるの?
突然黙りこくってしまったシュアに、ロイドは訝しげに首を傾げる。
そしてリフィルもジーニアスもゼロスも、シュアと全く同じことに頭を悩ませて、残されたロイドは静かになってしまったパーティに、困ったように頭を掻いた。
息の詰まるような沈黙を、無理矢理裂くように声を掛けたのはロイドだった。
なんだって仲間たちはこんなに黙ってしまったのか、彼は未だによく分かっていない。
「な、なぁ!シュアは…その、コレットのこと、知らないよな!」
「あ…え?えっと」
「…そーいや、まだ話してなかったな。お前等の事、コレットちゃんの事、この旅の事」
会話を引き継いでくれたゼロスにホッとしながら、ロイドは自分たちの事を話し出す。
大まかなそれにリフィルが補足しながら、シルヴァラントの事、自分達のしてきた旅の事。
この世界のマナの事、コレットの状態の事。プレセアがここに居る理由。そして、ゼロスが同行する事になった理由。
信じられないような言葉にいちいち驚く事も忘れたシュアは、ただ一言一句聞き逃す事の無いよう、ひたすらに仲間たちの話に耳を傾けた。
時々モンスターに会話を邪魔されながら。
そして全てを話し終えただろうかと思えた頃、一行の目の前にはとても視界に納め切れない程に大きな、グランテセアラブリッジが広がっていた。
Next.
とりあえずとばかりに出された紅茶をすすり、整理するほども無い自分の頭を探り、
シュアはもくもくと染み一つ無い天井を見上げていた。
さすが、上流階級の家、だろうか。
天井なんてものは、木でできて、雨漏りのしみが一つや二つある程度がちょうどいいというのに。
雨が降れば桶を急いでかき集めて…
そこまで思いながらふっと口元を緩めて、すぐにハッとしたシュアは椅子を倒す程の勢いで慌しく立ち上がる。
今のは何だろう…。
記憶?自分の知らない、自分の本当の生活?
意味も無く辺りを見回して再び天井に目を向けた頃、大分前にゼロスの出て行った扉が数時間ぶりに開いて、すぐさまゼロスがその姿を現した。
「?なーにしてんの?」
「あ……おかえり」
「…!…あ、あぁ…俺様居なくて寂しくなかった?」
一瞬、拍子抜けしたようなゼロスの表情に首を傾げながらも、すぐにおちゃらけて笑う彼に、シュアはすぐさま呆れたように首を振る。
「何、言って…」
「あ、そーそー。ちょいと話があるんだけど」
「え?」
そしてシュアの隣の椅子を引いたゼロスは、そこに腰掛けるや否やシュアを見上げてなんて事のないように言葉を紡いだ。
「俺様、しばらく帰れそーにないわけ」
「…え?」
「ちょーっと、旅にね。で、シュアちゃんは、どーするよ?」
どーするって…
呟いたシュアに、ゼロスは相変わらず大したことでもなさそうに笑う。
「一緒に行くか、それとも、俺様が帰ってくるまで健気ーに俺様のことを待ち続けるか」
「そ、そんなの今…決め…?」
「あぁ、悪いけどあんま時間無ぇんだわ。さくっと。どっちがい?」
選べといわれても。
もちろん、ゼロスに関わることなく、最初に考えていたようにどことも分からない場所へ1人で旅立ってもいい。
けれど、
「…メリットは?」
「んー、俺様と一緒に居られるだろー?俺様の日常垣間見るどころか見放題。あと、俺様の美しー勇姿も見放題。他にも行く奴居んだけど、まぁついでに世界も見放題?」
「世界…」
「ま、メインはおれさ…」
「たくさん、回る…?」
「…まー、今の所はわかんねぇけど」
「行こう……かな」
そう呟いたシュアに、ゼロスはもちろん、一番に驚いたのはシュア自身だった。
そう、記憶を取り戻すため。世界を見て回るなら1人で旅立ったっていいんだ。
けれど、なぜだろう…
こんなにも、誰かに関わりたいと思う気持ち。
自分が誰も知らないから?
それとも、こんなにも空っぽの自分自身だけじゃ不安だから?
理由は分からないけれど、ゼロスに単純に興味を持っている自分もいる。
だからといって、帰ってくるまで健気に待つ、なんてのは最も御免だけれど。
「……じゃ、用意…は、できてっか。俺様だけだな。すぐ用意してくっから、そこで待っといて」
「…うん」
ゼロスが2階へと上がっていくのを見守ってから、もう一度だけ天井を見上げたシュアは、ティーカップに残っていた紅茶を飲み干してからそっと小さく息をついた。
旅立ち。ゼロ同然の自分は、この旅で一体どれくらいを取り戻せるだろう。
まだ見ぬ世界に思いを馳せながら、シュアは椅子を2つ元に正して力強く足元の荷物を手に取った。
「いよっ!ロイド。ようやく来たか」
マーテル教会大聖堂。
名前だけを聞いてもシュアにはよく分からなかったが、実際訪れて、旅に同行する一行を待っているだけの時間眺めていれば、なんとなく建物の趣旨を理解するには容易な場所だった。
そしてようやく訪れた一行。
ゼロスが声を飛ばす方に目を向ければ、5人の‐こう言っては何だが‐女子供が、歩み寄ってくるなり眉根を寄せる。
「えっと…ゼロスだっけ?」
「そうそう。俺様はゼロス・ワイルダー。で、」
赤い少年の質問に答えてから、ゼロスは隣のシュアの腕を引くと、座っていた礼拝用の椅子から立ち上がらせて全員の前に一歩差し出す。
「こっちがシュアちゃん。ちょーっと訳ありで、悪いけど連れてってやってくんねぇ?」
「なに、勝手に決めてんだよ!」
「喚くなガキんちょ。シュアちゃんはなー、今一切の記憶を無くしてんの。可哀想だと思わねぇの?」
「記憶を…?」
納得のいかなそうにする銀髪の男の子。
同じく銀髪の、おそらくこの中で最年長の女性はそう呟いて、シュアを興味深げに見つめるとなにやらブツブツと独り言を言い始める。
仕方なく、この中で一番まともに喋れそうな人物を探したシュアは、結局最初の赤い少年へと向き直って、軽く頭を下げてから簡単な自己紹介をした。
といっても、紹介だなんてむしろ、自分の事は人に聞きたいぐらいだったのだけれど。
「シュアです。他の事は…分かりません。ゼロスの、友人…らしいです。事情もよく分からない上に迷惑かもしれないんですが、よろしくお願いします」
あ、あぁ…と、畏まった自己紹介に一瞬恐縮した少年は、けれどすぐに思い出したように、仲間たちを次々に紹介していく。
「俺はロイド。これは、ジーニアス。先生…あ、リフィル先生」
これって何だよ!と噛み付いたジーニアスを余所に、リフィルと呼ばれた銀髪の女性は、我に帰ったのかよろしく、と小さく微笑む。
「こっちがコレット。今は…えっと、」
「あぁ、細かい事は行きながら話しゃいーでしょ」
「あ、あぁ。で、こっちが、プレセア」
何の話だろう。
ゼロスが口を挟んだことに僅かに首を傾げるが、すぐに次の紹介をされてシュアはロイドの言葉に耳を傾けた。
「えっと、ロイド、ジーニアス、リフィルさん…コレット、プレセア。と、ゼロス」
「あぁ!すっげーな!シュアって覚えんの早ぇーんだな!」
「ロイドだってドワーフの誓い全部覚えてるんだから大したものだよ」
「そ、そうか?」
「ドワーフの誓いだけね」
なんだよ!と興奮するロイドを、からかうジーニアスがリフィルに叱られている。
旅は思ったより賑やかになりそうだ。
初めこそ旅をする仲間がこのメンバーでいいのかと見た目に少々不安を覚えたけれど、それでもきっと楽しい旅になる。
「早速だけど。王立研究院には連絡つけといてやったぜ」
「王立研究院に行くのはいいけれど、プレセアは解放してもらえるのかしら?」
「もっちろん。プレセアちゃんの故郷はオゼットなんだろ?王立研究院も海の向こうだし、ついでに送ってってやろうや」
ゼロスとリフィルの口から飛び出す、自分には知りえない単語の数々。
とりあえずと耳だけは傾けたものの、結局最後までシュアが話の中身を理解することはほとんどなかった。
記憶の無かった自分が、ゼロスに出会う前、気づいた時には歩いていた草原。
メルトキオは確かにあのときの自分の目にも映っていたが、今の自分はそこから旅立ち、1人ではない。
一行の後ろの方をついて歩くシュアは、なんだかそんな状況が僅かにでも嬉しいような気がしてふっと口元を緩めた。
ちょうどそんな時、ふと振り返ったリフィルが立ち止まってシュアを見つめる。
一行も立ち止まって訝しげにリフィルを見つめると、すぐにリフィルはシュアに向かって口を開いた。
「そういえば、シュアは戦えるのかしら?」
「…あ、はい」
「そう。ならいいのだけれど」
「私…戦えなさそうですか?」
「いいえ。戦い方までは忘れていないのなら、いいの。ごめんなさいね」
「なぁ、シュアはやっぱ、その腰の剣で戦うのか?」
シュアが答えてリフィルが謝ると、会話の区切れに口を開いたロイドが興味深げにシュアの剣を見つめる。
「あ、うん。基本は、そうかな」
「へー。俺も…」
「敵、確認。攻撃態勢に入ります」
ふと、ロイドの声を遮って脇から聞こえた声に振り返れば、プレセアがその無相応な斧を構えてシュアの方を見つめている。
慌てて反対側に振り返ると、そこには少し離れたところにモンスター。それも、一見可愛らしいウサギのような形をしたモンスターが、5匹もこちらに狙いを定めていた。
「お手並み拝見、だってよ。シュアちゃん」
すぐにからかう様にゼロスが言って、シュアもすぐさま剣を抜く。
「…そーだね。いい機会かも」
もはや会話などどうでもいいのか、すでに皮切りとなって手前の敵に向かっていったロイドを追って、シュアも奥の敵へと走り出した。
繰り返される打撃。
それらを全て剣で受け止めてから、すぐに間合いを詰めて相手の喉元を深く剣で切り込む。
返り血を浴びないよう僅かに角度をつけたせいか、血はシュアにかからない方向へと勢いよく噴き出して、モンスターはすぐさま地へとその身体を伏した。
「へー!シュアって強いな!」
「ロイド、左から来てるよ」
「うわわっ!」
くつり、とロイドが慌てたのを見て小さく笑ったシュアは、すぐさまジーニアスの横に引き返して、剣を両手で掲げならブツブツと呪文の詠唱を開始する。
「…!?」
そして思わず、隣のジーニアスの詠唱が、止まった。
ぶわっと、巻き起こる風。
いや、ジーニアスにはすぐにそれが風でないと分かった。これは風なんかじゃない、踊るようにマナがシュアの周りで溢れ返っている。
「姉さん…!」
「えぇ…これは…」
「シュアから、直接マナが溢れてる!」
「…イラプション!」
それは、先程ロイドを驚かせた魔物だった。
丁度ロイドが間合いを取った頃、一瞬にして地面から沸き起こった炎が魔物を包む。
ついでとばかりに、近くに居た魔物をもう一匹、巻き込んで。
そしてその規模は、半端ではなかった。
危うくも、ロイドが巻き込まれそうになる位。
当然のように、威力もまた、残された2匹の魔物を見事真っ黒に焼き尽くしている。
「…シュア…?」
離れた所で、丁度魔物の息の根を止めたゼロスが、誰にも聞かれず小さく呟いた。
「シュア!凄過ぎるよ!どうして…」
「…え?なに、が…、…」
「シュア!!」
ふらり、と。
その身体を僅かに揺らしたシュアは、直後、膝を折って地へと座り込んでいた。
魔物を一掃して一息、駆け寄って声を掛けていたジーニアスが慌ててリフィルを呼ぶが、けれどリフィルの見る限り、シュアに特に外傷はないようだった。
「怪我は…。やっぱり、ないみたいね」
「あ、の、大丈夫ですから…。魔術を使うと、こうなるみたいなんです」
「魔術…。そう、そうだわ!あなたの魔術は一体…」
「…え?」
ゆっくりと、引いた眩暈に立ち上がるシュア。
何かおかしなところでもあるのだろうか、と言わんばかりのその表情に、リフィルは言葉を止めてゆっくりと首を振る。
「なぁ、シュアもエルフなのか?」
「エルフ?…あ、あぁ、私は…」
「先生とジーニアスはエルフなんだ!だからシュアもあんなすごい魔法が使えるんだろ?」
ロイドの好奇に満ちた目にも申し訳なさそうに首を振ったシュアは、けれどすぐにハッとして返そうとした言葉を詰まらせた。
私はエルフじゃない。
…じゃぁ、何者なの?
どうしてこんな、魔術が使えるの?
突然黙りこくってしまったシュアに、ロイドは訝しげに首を傾げる。
そしてリフィルもジーニアスもゼロスも、シュアと全く同じことに頭を悩ませて、残されたロイドは静かになってしまったパーティに、困ったように頭を掻いた。
息の詰まるような沈黙を、無理矢理裂くように声を掛けたのはロイドだった。
なんだって仲間たちはこんなに黙ってしまったのか、彼は未だによく分かっていない。
「な、なぁ!シュアは…その、コレットのこと、知らないよな!」
「あ…え?えっと」
「…そーいや、まだ話してなかったな。お前等の事、コレットちゃんの事、この旅の事」
会話を引き継いでくれたゼロスにホッとしながら、ロイドは自分たちの事を話し出す。
大まかなそれにリフィルが補足しながら、シルヴァラントの事、自分達のしてきた旅の事。
この世界のマナの事、コレットの状態の事。プレセアがここに居る理由。そして、ゼロスが同行する事になった理由。
信じられないような言葉にいちいち驚く事も忘れたシュアは、ただ一言一句聞き逃す事の無いよう、ひたすらに仲間たちの話に耳を傾けた。
時々モンスターに会話を邪魔されながら。
そして全てを話し終えただろうかと思えた頃、一行の目の前にはとても視界に納め切れない程に大きな、グランテセアラブリッジが広がっていた。
Next.