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孤島の修道院。波の打ち寄せる崖に、そのまま建てられた小さな建物。
そこは穏やかな雰囲気が漂っているというのに、どこか物悲しいものさえ感じられる。
そんな修道院の中へと足を踏み入れながら、シュアは先頭を歩くゼロスを窺うように見つめていた。
今朝、起きてから出発をする前の出来事。
何気なく声をかけたゼロスは、なんだか憂鬱そうに笑っていた。
『ね、セレスちゃんってどんな子なの?やっぱりゼロスに似てる?』
『んー?どうかねぇ…妹っつっても腹違いでな。俺さまと違って生真面目なお嬢様よ』
『そう…なの?』
『おまけに文武両道ときたもんだ。どうよ?似てるか?』
『…自分で言うかなぁ』
そう言ったシュアにゼロスはいつものように笑っていたけれど。
どこかいつもよりも明らかに笑っていなかったのだ。いつもとも違って自分自身に、思い悩んでいるような。
階段を上りセレスの部屋だという室内に足を踏み入れると、そこには一人の少女がいた。
大きな帽子をかぶる少女は、こちらに気づいて振り返ると、すぐにゼロスの方へと向き直る。
「…お兄… 神子さま」
その目に確実に喜びを表しているのに、
「…またふらふらしていらっしゃいますのね」
素直でないのか、すぐにそう言い放って複雑そうに表情をゆがめる。
「よーう。おまえに預けといたクルシスの輝石が必要になったんだ。返してくれ」
「…ご勝手に!」
簡潔に用事を述べたゼロスに、苦しそうに返したセレスがすぐに小さく咳きこみながら言葉を続けた。
「どうせそれは元々神子さまのものですわ」
「悪いな」
「用事がお済みならお帰り下さいませ。さあ、早く!」
「へーいへーい。あいかわらず嫌われまくってるなぁ。俺さまかわいそー」
いつもの調子でそう言いながらも、立ち去ろうとセレスに背を向けたゼロスの目にはどこか力がない。
ただただ二人のやり取りを見ているしかできなかったシュアにも、それだけは窺うことができた。
セレスは明らかに、ゼロスと会えたことを喜んでいるのに。
「あ…お兄さ…」
「ん?何かな、かわいい妹よ」
「…何でもありませんわっ!」
「あっそ」
すれ違うことさえ、スムーズでない。
お互いの気持ちがデコボコして、なにかを引っかけたまま置いて通り越すこともできずにいる。
ついにそのまま出て行ってしまったゼロスを視線で追いつつも、振り返ったセレスが悲しそうに眉をしかめているのを見て足が出なかった。
「お気をつけて…」
「…聞こえなかったぞ、今の」
ぼそりと呟いたセレスに、言い聞かせるようなロイドの声色が響く。
「べ…別に何も言ってませんわ!ですからお兄さまに聞こえなくてもいいんですの!」
「あ、お兄さまって言った」
「い、言ってませんわ!あんな人、兄なんかではありませんっ!お帰りになって!」
ついからかうように言ったジーニアスに顔を赤くして、セレスは必死に怒鳴りつけて言った。
仲間たちが小さく笑いながら階段を下りていく後ろで、シュアはセレスを振り返り、その赤くなった頬を見とめて口を開く。
「…あんまり大きな声出すと、また咳出ちゃうよ。それに…」
「な、なんですの!」
「兄なんかじゃない、はダメ。ゼロスね、セレスちゃんのこと、自慢してたよ」
それが皮肉であったとしても、それに彼がなにか苦しんでいたとしても。
驚いたように、それでもより一層顔を赤くするセレスに背を向けて、シュアも階下へと降りて行った。
と、その先で、仲間たちはゼロスを中心に集まっている。
「どーよ。俺さまなかなか愛されてるだろ」
「ずいぶんひねくれた妹だな」
「そう言うなって。昔から体が弱くてな。それでもあいつのおふくろは…いや、何でもない」
ロイドに返すゼロスの声はいつもよりも落ち着いている。
思い出したように微笑みながら、そんなゼロスにコレットが口を開いた。
「セレスさん、気をつけてってゼロスに言ってたよ」
「…そっか。まあいいや。じゃあ行くんだろ、救いの塔に」
「…ああ!」
敵地へと乗り込む気合いの表れか、強くそう言ったロイドから足を進めて修道院を出ていく。
「ゼロス」
「ん?」
と、シュアはその寸前にゼロスを呼び止めて、ゼロスを追い越しながら、小さく笑った。
「ほんと、ゼロス、愛されてるよ」
「…あぁ」
どうあっても。二人の間に何があるかはわからないけれど。
セレスはどう見たって、ゼロスのことが好きなのは一目瞭然だった。
その中で、そのシュアの一言でゼロスの気持ちに整理がつくわけではなかったけれど。
やはり、自分は嫌われているのだと、邪魔ものでしかないのだと、そう思ってさえいたけれど。
不思議と苦笑いを零しながら、先を歩いて行くシュアの後ろ姿をゼロスはしばらく見つめたままでいた。
救いの塔。
かつてシルヴァラント側のこの場所で、コレットたちが世界再生のために訪れた場所。
天を見上げてもその終わりは見えず、どこまで続いているのかも予想がつかない。
入口の手前は断崖になって一見入れないように見えるが、そこに宝珠を持ったゼロスが近付くと、ふいに階段が現れた。
「何だか思い出しちゃうな。世界再生の旅のこと」
「今度はおまえの病気を治すために来たんだ。前とはちがうよ」
「テセアラの救いの塔はどのような構造なのだろうか。さあゼロス。早く開けるのだ!」
「もー!おっかねーなー」
各々が言葉を交わしているのをなんとなく聞きながら、シュアは目の前にそびえるこの塔をただじっと見上げていた。
シルヴァラントよりもテセアラの方が、今はマナが濃いことは肌で感じられた。けれど、それもここに比べればどんぐりの背比べのようなものだ。
ここには、ものすごく濃いマナが凝縮されている。そんな気配がする。
そして、マナで出来た自分の身体の中にある、ありとあらゆるモノのマナの内どれか一つが、この中の何かに共鳴している…
扉のわきにある石板に、リフィルに急かされたゼロスが手に触れる。
それに伴って、現れる扉。この塔へといざなう、入口。
「ひゃー。どうよどうよ!俺さまって今、輝いてる?神子って感じ?」
不思議とはしゃぐように、自ら選んだように声をあげて騒ぐゼロスにロイドが呆れたようにため息を吐く。
「はいはいはい。とにかく行こうぜ」
「ひゃひゃひゃ。りょーかい」
「下品な笑い声だな…」
ぼそりと呟いたリーガルの、その隙間を縫うような小さな声で、足を進めるでもなくシュアはすぐにゼロスに声をかけた。
「ゼロス…?…どうかした?」
「何がよ」
「ん、なんかいつもより…もっと」
「うるさいってんだろ。こいつはいつもこうだよ。ほっときなって」
すぐに脇からシュアの声を遮ったしいなに言われて、ゼロスはただ笑っている。
気のせいだろうか。確かに、何かを取り繕うような、無理をしているそんな態度だったような気がしたのだけれど。
マナのせいで神経質になっているのだろうか。そう、小首を傾げるシュアが踏み出していく後ろで、ゼロスはひとり小さく呟いていた。
「…鋭いねぇ」
デリス・カーラーン―
デリス・カーラーンはエターナルソードが発する力場に守られている。この力場が消滅した場合、デリス・カーラーンは惑星の引力から解放され再び彗星として宇宙を巡ることとなる。
大地延命計画―
マナの消費量を最低限に抑え、大樹の種子と世界を維持するためには世界を二つに分ける必要があった。さらに精霊の力によって楔を守護させマナの流れを調整することで、世界が必要以上に繁栄をすることも抑えられる。大きな繁栄は魔科学の発展と無意味な戦争を引き起こす可能性がある。指導者ユグドラシルによって提唱、実行されたこの大地延命計画は世界を維持するシステムとして大変優れたものとなっている。エターナルソードを有し、力としているユグドラシルだからこそ為しえたといえるだろう。
エターナルソード―
オリジンが契約者である指導者ユグドラシルに与えた魔剣。その力は強大で時間と空間を操る力を有し、指導者ユグドラシルの力の源といえる。指導者ユグドラシルが世界を二つに分けることができたのもエターナルソードの力によるものである。もしこの剣が失われれば指導者ユグドラシルの力は大きく低下し、ウィルガイアも崩落の危機を迎えることだろう。
なんだか途方もない物語だ。
救いの塔内部、天使たちの集まる都市ウィルガイアにて集めた情報は、けれど理解すると同時にそれによって多くのことに説明がつく。
エターナルソードの力を使った大地延命計画、そうして別れた二つの世界。
そして
『魔科学は巨大な戦争を産み落とした。戦争はマナをいたずらに消費し、樹は枯れた。大樹がよみがえったとしても、戦いが起これば再び樹は枯れる。戦争は対立する二つの勢力があるから起こるのだ。だから私は世界を二つに分けた。あの愚かなカーラーン大戦を引き起こした二つの陣営を、シルヴァラントとテセアラに閉じ込めるために』
『人は異端のものに恐怖し、それを嫌悪する。自分と違う者が恐ろしいのだ。ならば、皆が同じになればいい。エクスフィアを使い、体に流れる人やエルフの血をなくせば、この地上の者は全員、無機生命体化する。差別はなくなる。それが私の望む千年王国だ』
救いの塔を脱出する際、ユグドラシルはそう言っていた。シュアたちテセアラ組にとって、初めて対面するクルシスの指導者ユグドラシル。
善も悪もなく、ユグドラシルにはユグドラシルなりの考えがある、ということだろう。
だからといって今まで自分たちの見てきたもの、聞いてきたものを考えるととても賛成できる計画ではない。
「…差別されなくなるの?本当に?」
ジーニアスがそう呟いていたことが、シュアの頭から離れずにいた。
自分とは違う、もっとリアルな感情。異端であろうと差別のされたことのない自分とは違う。自分には分からない悲しい過去が、ジーニアスには…そしてきっとリフィルにも、あるのだろう。
一気に注ぎ込まれたたくさんの情報が、声が、頭の中で飛び交っている。
それらを整理し、繋げながら、シュアは…シュアたちはアルテスタの家、そのリビングでコレットの治療が終わるのを待っていた。
目的だったマナのかけらを手に入れ、救いの塔を脱出し、今はようやく揃った材料を使いリフィルとアルテスタでコレットの病、永続天使性無機結晶症の治療にあたっている。
待つしかできない自分たちの目の前にはたくさんの食事が並べられているが、なかなか手を出す気分にもなれず、仲間たちも手をつけてはいない。向かいでゼロスがしきりにロイドに食事を進めているくらいだ。
ジーニアスも先ほどのことが引っ掛かっているのか、ミトス相手ですら元気がないように見えた。
と、治療に使われていた寝室の扉が開いて、タバサ、アルテスタ、リフィルがようやくそこから顔を出す。
「治療は完了シまシた」
「コレットは!?」
「今は眠っておる。次に目覚めたときにはコレットの体は元通りだ。クルシスの輝石も完全に要の紋によって管理されるだろう」
アルテスタにそう言い切られて、ようやく安堵したように仲間たちが次々と息を吐く。
プレセアとロイドは思わずといったように安心を言葉にして零していた。
「…よかった」
「そっか…これでコレットはもう苦しまなくてもいいんだな」
「よーし!んじゃまーコレットちゃん全快のお祝いにメシにしようぜ」
「…さっきからメシメシってうるせーなー」
「だってよ、俺さまたち親友だろー。ロイドくんが疲れてるんじゃないかと思ってさ」
そんな、何気ない会話を聞きながら、壁に寄りかかったシュアは先のことに想いを馳せていた。
コレットの治療は済んだ。あとは世界を元に戻すだけだ。
それから、ヘイムダールの族長にあとで聞きに行こう、とロイドの言ってくれていた自分の記憶。
それを思い出すのは怖い。異端である自分には、ジーニアスのように…思わず千年王国に心揺るがされてしまうような…それほどの、今は知らない辛い過去があるのだろうか。
知らない方がいい記憶。忘れたままにしておく方がいい記憶。
そして、大事な人を失う時の記憶。
思い出したいことがいっぱいあったはずなのに…しいなやゼロスとの記憶、ルビナスとの記憶、それから…自分を教えてくれたユアンについての記憶。
ヒト一人の人生の記憶だ。楽しいことだけじゃないことも分かっていたはずなのに、今はとにかくこの、心地の良い仲間との今を見失ってしまわないことを、シュアはただただ願うばかりだった。
もしもそれほどの記憶なら、戻らなくてもいいとすら…肌に触れる指輪の感触にも気を留めることのないシュアは、ただそう思っていた。
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