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先が伺えないほどではない。けれど、確実に視界を悪くする霧の立ち込める、ラーセオン渓谷。
その奥地までは今の辺りでいかほどだろう。大分昇ってきたような気もするが、辺りに咲く花に変わりはなく、自分たちが確実に進んでいるのかさえ分からなくなってくる。
それでも誰かが使っている形跡のある道を踏み進めて一歩、シュアは息を吐きながら誰にというわけでもなく言葉を零した。
「…もう、大分登ったんじゃない?」
「あぁ…さすがに、疲れるな」
「よく言うよ、さっきまでソーサラーリングではしゃいでたくせに」
ジーニアスに呆れ声で返されてムッとするロイドが、だって楽しいだろー?とジーニアスを説得にかかっているのを横目に見ながらシュアは笑う。
そしてその自分の少し後ろを歩くゼロスの隣まで歩調を緩めて、シュアは黙ったまま歩き続けているゼロスに声を掛けた。
「どうかした?疲れちゃった?」
「なーに言ってんの。シュアちゃんこそ、俺さまの言った言葉、変に気にしちゃって」
「…え?」
ゼロスに言われた言葉?
訳も分からず歩調の自然に緩まったシュアにふっと笑いながら、ゼロスはその言葉を再び同じ口から紡ぎだす。
「シュアちゃんてばすーぐ心ここにあらずになっちゃうから」
「!」
「それ、気にしてんだろ?だからって、無理にアンテナ立てなくってもいいっつーのに」
あぁ、そう言えば気にしてたな。ううん。気にしていたかもしれない。
ぼーっとなんてしていられない。時間を惜しんで二手に分かれたわけだし、こっちばかり遅れているわけにもいかない。
みんなに、ゼロスにすごく嬉しい言葉ばかりを貰ったのだから、そんな風な自分では絶対にいけない。
確かに、自分のどこかがそう思っている。
思いながら、シュアはゼロスに向かって小さく苦笑した。
励まそうとしてくれただけなのに、そんな好意さえプレッシャーに変えてしまう自分が、本当に情けない。
「…ゼロスはさ、私の過去、どう思う?」
「んー?どうって、」
「その、思い出さない方がいい記憶?って…どんなんだと思う?」
無理にしまい込む必要がないなら、少しだけ解いてもいいかな。
なるべく何気ない風を装って声を掛けた後に、反応を窺うようにその顔をのぞき見る。
そしてその先で、ゼロスは意外にも真剣に頭を悩ませるようにしばらく黙ってから、口を開いた。
「シュアはな…記憶無くす前、自分の住んでるところも明かさなかったんだ」
「え…」
「だから、俺が思うに…」
いつものゼロスと違う、トーンの低い話し声。
思わず構える様にその顔を見つめながら次の言葉を待つ。
「田舎娘、だな」
「…は?」
「すっげー田舎。もう片田舎飛び越してド田舎生まれのド田舎育ちでー、恥ずかしくって明かせなくって?だからこんだけ世界回ってもなんも思い出さないし、知ってる人もいないわけだ」
「はぁ…」
「どうよ?なかなか辻褄が合うと思わねぇ?」
一転して、いつもの様に笑いながらゼロスは得意げな顔をシュアに向けた。
もちろん、本当にそう思っているわけではない。それは呆れ顔を零すシュアにだって、分かっている。
本当のところでは、はっきり言って、想像がつかなかった。
生まれも、身分も、関わっている人間さえ分からない中で、思い出さない方がいい記憶。
そしてそうかと思えば、シュアには確かに恋人であっただろう人物がいる。
例えその彼が、今は亡き者だとしても。
「やっぱゼロスに聞いたのが間違いかなー」
「ちぇー、俺さませっかく一生懸命考えたのに」
「ま、説の一つとして受け取っておきます」
言いつつ再びゼロスの前を歩き始めたシュア。
そしてその後ろ姿を見守るゼロスがその先に目にしたのは、ひっそりと佇む一軒家だった。
不安定に揺れる照明。忙しく回る歯車。
おそらく語り部であろう人物の家を訪れたロイド達を、ローブをまといフードを被った男が出迎える。
「…人間?それにハーフエルフか?…いや…ハーフエルフもいるが…」
「あぁ、あんたが語り部だな。マナリーフをわけてほしいんだけど…」
「長老の証は…持っているな。必要なだけ持っていけ…と言いたいのだが…」
「?何かまずいのか?」
「少し難しい場所にあるのだ。おまえたちが取ってこられるかどうか…」
そう言い言葉を濁した語り部に、ゼロスがなんて事のないように言葉を返す。
「俺さまたち、一応ここまで登ってきたんだぜぇ。どんな場所にあっても、なんとか取ってくるって……ロイド君が」
「…おまえなー」
「むぅ…分かった。ついて来なさい」
仕方ないという風に溜息を零した語り部が、そう言いつつゆったりとした歩調で外へと歩き出した。
それについていくようにロイド、ゼロス、シュア、ジーニアス、リフィルも家を出て語り部の待つ柵の前へと集まっていく。
「この先の洞窟に薬草がある。気をつけなさい」
「よし、行こうぜ、みんな!」
いつもの、ロイドの掛け声が仲間たちの間に響く。
そうして歩き出したその先には、さっきまで登っていたような、断崖の景色がまたまた広がっていた。
滝の裏の洞窟。
入りこむなり目に飛び込んだ、差し込む一筋の光にあたっている黄色い葉を持つ植物。
おそらくマナリーフであろうそれに近づこうとしたロイド達の前で、ふいに地響きが響き、あたりの壁から小さな岩が崩れ落ちていった。
「な、なんだ?」
「なにかいる!」
シュアのその声すら遮る低い地鳴りが急にあからさまな音となって、目の前ではじけた。
そしてすぐにマナリーフの目の前、土は盛り上がり謎の大きな蕾が顔を出す。
ぼろぼろと崩れていく地表。そしてそれがすべて姿を現した時、目の前には羽や触手を携えた巨大な怪物が物々しく佇んでいた。
「番人ってことかよ!」
「難しい場所というのはこのことだったようね」
「まぁどっちみち、答えも同じでしょ」
「みんな、いこう!」
「しょうがねぇなあー、気持ち悪いのは専門外だぜ」
それぞれが言葉を交わしながら、武器を構える。
戦力はいつもより落ちているが…そう仲間たちを見まわして、セイジ姉弟を確認したシュアは詠唱を開始せず、その剣を片手に怪物へと走り出していった。
「無事に戻ってきたな」
「やっぱ知ってたんだな。マナリーフを守る巨大植物のこと」
「うむ。最もそれを教えていたところでお前たちの行動は変わらなかっただろう。非常に強い意志を感じた」
「当たり前だ。大事な仲間のためだからな」
語り部の家。
無事番人を撃破し、マナリーフを手に入れたロイド達は再び誰一人欠けることなくここへと戻ってくることができた。
それだけでも十分だが、当初の目的も果たせている今は、なんだか物事が順調に進んでいるようにさえ感じる。
「ところで…あなたはずっとここに住んでいるんですか?」
ふいにリフィルがそう零して、語り部はそのフードの中で小さく頷いた。
「そうだ。私はエルフの里の伝承を次代に受け継がせる者。ここでマナリーフの織物を作りそこに様々な物語を編みこんでいるのだ」
物語…
小さく呟いたシュアに目を向けて、語り部はそのまま口を開き続ける。
「空から飛来したエルフの伝承や、人の誕生。バラクラフ王朝の繁栄と衰退。天使の出現、大樹カーラーンとカーラーン大戦。…そして勇者ミトスの物語」
「おいおいおい。勇者ミトスの話ってのはヘイムダールじゃ厳禁なんだろ」
「ここはヘイムダールではない。私はヘイムダールの掟に縛られないようにここに住み、伝承を残している」
なるほどね…。半ば上げ足のようなその理由を呆れ半分で納得しながら、ゼロスは思わず乗り出した姿勢をすぐに戻した。
「勇者ミトスって何者なんだ?俺たちの旅にはいつもミトスの名前が付いて回るな」
「ミトスは…ヘイムダールに生まれ、カーラーン大戦が始まると村を追放された哀れな異端者。村に帰るために三人の仲間と共にカーラーン大戦を終結させた」
「…異端者ってことはまさかハーフエルフ…?」
信じられない、そんな口調のまま零したリフィルの言葉に、ゼロスが思わず反応を零して語り部を見る。
「ミトスがハーフエルフだと?そんなバカな!」
「いかにも。ミトスはハーフエルフだった。ミトスの仲間もハーフエルフで、人間だったのはただ一人だけだ。彼らは異端視されながらそれを乗り越え戦いを終結させたのだ」
「…じゃあどうしてそんなミトスの名前がヘイムダールでは禁忌なの?」
「きっと…ハーフエルフだからだ」
シュアの問いにジーニアスがそう零すが、すぐに語り部は小さく首を横に振りながら言葉を補った。
「…それは、違う。オリジンに愛されし、勇者ミトス。それは堕ちた勇者の名前だからだ」
「?堕ちた勇者?それはどういうことだ?」
ロイドの言葉に、一度だけ、語り部は間を置いて呼吸をした。
「オリジンを裏切り、オリジンから与えられた魔剣の力を利用して、世界を二つに引き裂いたのは他ならぬミトスとその仲間たち。ミトス・ユグドラシルとその姉マーテル。そして彼らの仲間ユアンとクラトス。4人の天使が世界を変質させた。故に、ヘイムダールでは禁忌なのだ」
誰もが、一瞬言葉を忘れるほどに驚愕し、それぞれの顔を見合わせる。
「クルシスのユグドラシルが…勇者ミトス?その仲間がマーテルにユアンにクラトス?そんなバカな!」
「クラトスが四千年前の勇者の仲間…?」
「でも、エルフだってそこまで長命じゃ…」
荒げられたロイドの声をよそに、リフィルとシュアが小さく言葉を交わす。
それにこたえるように、語り部は再び口を開いた。
「天使とは、カーラーン大戦で開発された戦闘能力の一つだ。これは体内のマナを使い一時的に体を無機化することで体内時計を停止させる。おかげで天使は年を取らない。エルフよりも長命となった訳だ…」
再び静まり返る屋内。歯車の音だけが、静かに響きわたる。
その沈黙を壊したのは、小さく口を開いた、ロイドの言葉だった。
「もう何が何だか…俺にはわけが分からない」
「そうか?…はっきりしたことがあるじゃねぇか。世界を二つに分けたのはオリジンの力が影響してるってな。魔剣…それがキーワードだ」
「その通りだわ。私たちは本質を見失わないようにしなければ。私たちの最終的な目的は二つの世界を救うことだったはずよ」
珍しく真剣な声で零すゼロスに、はっきりと言い切るリフィル。
「そうそう。大樹カーラーンを発芽させることには失敗したけど、世界をあるべき姿に戻せれば…」
「少なくともマナを搾取しあう関係だけは、なんとかなるかも」
そしてジーニアスの言葉に、シュアの言う希望。
「…そうだな。みんなの言うとおりだ」
『下手の考え、休むに似たり』
「…ひでぇな」
ジーニアスとゼロスにハモられ、それでもどこか安心したように笑うロイドをリフィルとシュアが見つめる。
さぁ、今度はこれを今は分かれている仲間たちに伝えなければ。
そして、今は何よりコレットを治すための材料を、あと一つ手に入れればいい。
「次へ、向かいましょう」
そう言ったリフィルの言葉に誰もが頷いて、すぐに語り部に向かってシュアが口を開いた。
「ありがとうございました。いろいろ教えてくださって」
「…あなたたちに大樹カーラーンの加護がありますよう」
そうか。マーテルの加護じゃないんだ。
そんな風に思いながら、先に出ていく仲間の後をシュアはついて歩く。
語り部のそんな言葉に送り出されながら、ロイド達はラーセオン渓谷を出発し、仲間たちの待つアルテスタの家へと向かっていった。
大きな、情報という土産をその腕にしっかりと抱えながら。
Next.