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「そういえばミトスが怪我したって言ってたけど、シュアは大丈夫だったのかい?」
サイバック。
これが何度目の訪れになるだろうか、今回はコレットの病気を治すため、ミトスとともに資料館へと足を運ぶ。
その道中で、しいなにふと話しかけられたシュアは、そんな親友の声に妙に嬉しくなりながらしいなを振り返った。
「大丈夫だよ。私は…安全な所にいたから」
「安全な所?」
「うん。…だから、地震が収まってからミトス達が心配になって、様子見に行ったんだ」
「…シュア」
「ん?」
「…安全な所って、どこだい?」
明らかに話題を逸らそうとしたシュアに、しいながそう怪訝そうに話を引き戻した。
隠し事をされているのは分かっているけれど、だからといって放っておくのも気持ちが悪い。
お願いだから、隠し事はないでほしい。親友だと思っているのは、自分だけのような気がしてしまうから。
「…ルビの、家」
「…!シュア…」
「ううん。全部、戻ったわけじゃないの。でも、ルビのこと…みんなと別れる前日に少しだけ思い出した」
「…それで、シュア…」
「うん…話さなくて、ごめんね」
理由くらい、と言ってくれていたしいなだけれど、あまりに確かでなかったから話さないでおこうと思った。
ルビは、ルビナスはもうこの世の人ではないだなんて、話したらきっと余計に一緒に行こうと言ってくれるだろうと思ったから。
けれど今、苦笑いしかできないままそう言ったシュアに、しいなはふいに顔を背けて視線を落とす。
そんな反応をされても仕方ないとは思いながらも、少しの後悔が自分を包んでいるのはどうにも誤魔化しがきかないようだった。
「…ホントだよ」
「…しいな」
「これからは…隠し事なんかするんじゃないよ?」
「…うん!」
溜息をつきながら、それでも笑いかけてくれるしいな。そんな親友に、シュアも思わず声を張ってそう頷くと、すぐ後ろからそれを見計らったかのように声が掛けられた。
「なるほどなるほどねー。これにて一件落着ってか」
ふいに掛けられた声に振り向いたそこで、うんうん頷きながらシュアの横にゼロスが並んで歩く。
「ちょっとゼロス!あんた盗み聞きなんてしてたのかい!」
「聞こえちまったんだからしょーがねーだろー?」
「…いいよ、しいな。ゼロスにも話すべきだったから。ゼロスのおかげで思い出したんだし」
「へ?」
「そうなのかい?」
「…う、うん。ゼロスと話してた時…にね」
そう言いながら、シュアは一度もゼロスの方を見ることができないでいた。
たった1日、別れていただけで、もしかしたら自分は彼のことを好きだったんじゃないかと思うほどゼロスのことを思い出していた。
だから、そんな気がしてしまったんだ。
自分は、ゼロスのことを拾ってくれた恩人以上に、好きなんじゃないかって。
そう思ったら、なんだか顔さえ見れないくらい、照れくさくなってしまった。
そんな自分が、恥ずかしくなってしまった。
そしてそんなシュアにもちろんゼロスは気づいて、訝しく思っていた。
自分は何かしただろうか。どうしてこっちを見ようとしないのか。
なんだか無性に腹が立って、こうなると意地でもこっちを振り向かせようとしたくなる。
「シュア」
「な…なに?」
「…」
「?ゼロス?」
振り向くのは嫌だと思っているのに、言葉を続けようとしないゼロスを思わず振り返る。
そしてその先で、ゼロスはなんてこともないように、ただ自分を見つめていた。
罠にかかったな、とでもいうような視線を送られながら、シュアもすぐその意図に気付いて顔をしいなの方に背ける。
「なんなんだい?ゼロス……シュア?」
みるみる赤くなっていくシュアの顔を、驚いたようにしいなが見つめる。
ゼロスに視線を移しても、ただ面白がったように笑っているだけだ。
何が起きて何が恥ずかしくてどう面白いのか。自分だけが分からない中で、それでもさっきのようには問いかけられないまま、しいなだけが首を傾げて歩いていた。
「どうして、ケイトさんを処刑しようとしたの!あんたの娘なんでしょ!」
「…う、うるさい。おまえに何が分かる」
「分かんないよ!分かんないから聞いてんだ。ばっかじゃないの!」
珍しく、大荒れの天気が、このパーティーに訪れていた。
滅多になく怒鳴り散らすジーニアスにも、仲間たちはさして驚くでもなくそれに賛同するように教皇を見つめている。
メルトキオ、マーテル教会大聖堂。その教皇の部屋で、一行は教皇を取り囲むようにしてジーニアスを見守っていた。
サイバックの資料館で集めた情報は有力ではなく、結局古代大戦というキーワードの下、勇者ミトスと色々と因縁のあったテセアラ王家に今度こその期待を込めて飛んできた。
ハーフエルフの悲しみというものは、結局ハーフエルフにしか分からない。
それでも父親に疎まれる悲しみなら、父親を持つ者には、想像くらいはできるだろう。
自分には父親も分からないけれど、とシュアは思っていた。
ユアンが送ってくれた記憶…イメージの中には、父親らしき人はそこにいたけれど…これだけ世界を旅して何も分からないんだ。ルビナスと同じように、もうこの世にはいないのかもしれない。
ハーフエルフと同じように、迫害はされない。けれど、それ以上に得体の知れない存在だ。
疎まれないし、虐げられない。けれど、マナを駆使することに長けている自分がいつ何をするか、分からない。
どちらがいいということもないんだろう。どちらの方がマシだなんて、決められることでもない。
「わしは…自分の娘がハーフエルフだからこそ彼らを虐げる者の気持ちが分かる。恐ろしいのだよ、娘が!」
叫んだ教皇は、一瞬の隙をついて脅しに向けていたプレセアの斧を抜け出した。
その足で机の裏に向かうと、なにやらごそごそと手を動かして、すぐに止まる。
「今、兵を呼んだ。ここで神子が死ねば教会は名実ともに私の配下となる」
神子、それはきっとコレットのことではない。ゼロス、のことだ…
「神子無しでマーテル教会が保てるものか」
「ふん。セレスがおるわ!」
リーガルの言葉にも怯むことなく教皇が返した瞬間、話題の中に引っ張り出されているゼロスが、隣で拳を強く握っているのを、シュアは見た。
表情は瞬間、本当に彼のものかと疑うほど激しい嫌悪に襲われていたのに、すぐにそれも控えられたかと思えば、軽く口端をあげて冷たく怒りを含んだ声を吐き出す。
「…やっぱり妹を巻き込むつもりだったか。このひひじじいめ」
「神子がいけないのだ!お前のようないい加減な男が何故神子なのだ!お前さえいなければ…私のハーフエルフ追放計画を邪魔する者は居なくなったのに!」
「…っむ…!」
ふざけるな、と。そう思わず叫ぼうと開いたシュアの口が、ふいに覆われて小さな声だけがそこから漏れてしまった。
それをした隣の彼は、変な声を零したシュアに、少しだけ困ったように笑んでいる。
それでも、何も言うなと。そう、言い聞かせるように確かに訴えている。
しんとなってしまった部屋で、ジーニアスの小さな呟きが、ふいに響いた。
「人間は…どうして僕たちを邪魔にするの…」
「異端の者は排除される」
さも当たり前のように言う教皇。
それには、もう口を押さえられずとも、シュアもなにも言うことはできそうになかった。
誰よりも自分が異端だと思っていたのは、自分だったから。
ふと、突然に後ろの扉が慌ただしく開かれて数人の兵士が入り込んでくる。
「私が払います」
言ってプレセアが斧を振り回した隙に、隠し扉から逃げ出した教皇を追うべく仲間たちが走り出した。
それを慌てて追いかけながら、それでもすっきりとしない感情に、ただシュアは考えるでもなく走ることしかできないでいた。
国王の寝所。教皇によって服毒させられていた国王は、たった今リフィルが解毒を施したことで意識を取り戻していた。
言葉を交わしている仲間たちと国王の様子を眺めながら、思ったよりも教皇の言葉を自分のどこかで引っかけてしまったシュアは、何も言うことができずに立ち尽くしている。
一度思ってしまうと、それはもうどうにも拭い去れようがなかった。
自分は異端なんだ。排除される…確かに、そうあるべきなのかもしれない。
時々自分の魔術がどこまで強力になるのだろう、と思う。きっとやろうと思えば時を止めることすら容易な気がする。時を戻すことさえ、もしかしたら…
そんな自分が、この力を自分の意志でも、誰かに利用されたとしても、悪いことに使わないでいられるだろうか。時に世界をめちゃくちゃにしてしまったり、しないだろうか。
だったら排除すら、されたって当然なんじゃないだろうか。
ハーフエルフは、もちろんその対象じゃなくて。だってエルフも人間も認められている存在なのに、そのハーフというだけで異端であるわけがない。
心ここにあらず、自分の中の何かを見つめているようで決して話も聞いていないシュアに気付いたゼロスが、隣からふいにその左耳を引っ張った。
それにふっと現在の状況に戻されたシュアの耳には、すぐに弱々しい国王の声が流れ込んでくる。
「資料の閲覧なら好きにするがいい…。しかしもう二度と、わしの前に姿を見せるな。わしは…疲れた。教会との権力争いはもうごめんだ」
…なんて、勝手な国王だろう。
「勝手なことを!」
まさに、思ったことを代弁してくれたジーニアスに、シュアもそっと口を開く。
「ほんと、あなたも教皇も勝手なことばかり…ゼロスだって好きで神子やってるわけじゃない。権力争いだってそう!疲れたなんて…ずっと床に伏してただけのくせに馬鹿なこと言わないで。民よりも近い神子のことも見ようとしないで、なにが国王…」
「シュア、もういーって」
今の今までぼーっとしていたシュアが、まさかここまで言い倒すとは思わなかったんだろう。
ほんの少し、動揺したままゼロスがそうしてシュアを止めると、すぐにシュアは口を噤んで国王に背を向ける。
「…じゃあ陛下、勝手に見させてもらいますよ」
ゼロスが背を向けて、シュアの背中を押す。
そうして国王の部屋を出ていくと、すぐに仲間たちもその後に続いた。
「ゼロス…お前…」
扉を閉めて一秒、すぐにロイドがボソッとゼロスに声を掛ける。
それでもゼロスはいつものように、ただ全てを遮断するような、笑顔をその顔に張り付けて言った。
「俺様のことはともかく、だ。急いでんだから、とっとと資料閲覧しちまおうぜ」
「でも…」
「ハニーはー、コレットちゃんのことだけ考えてりゃいいのよ」
いつもの笑みの中に、有無を言わさない声の力強さ。
…分かった。と頷いたロイドがすぐに資料室へと足を進める。
「…ゼロス」
そこでようやく、口を噤んでいたシュアが口を開いた。
ただ申し訳なさそうにゼロスを見つめて、今ではもう、ゼロスと話すことに何かを感じることすら、忘れていた。
「みんなの前で…ごめん」
「…謝んなよ。ま、ビックリしたけどな」
「ごめん…」
思っていたことをジーニアスが言い出してくれたことが、自分の中にもやもやと積み重なった気持ちを吐き出す皮切りになってくれていた。
悔しくて。自分のことも、ゼロスがあんな風に言われることも。
そして何より負のマナで満ちてしまっているあの部屋で、それが自分に流れ込んでくる中で、どうにかしてしまいそうな自分を抑えるには吐き出すしかなかった。
「…まぁ、シュアが言ってくれて良かったかも…な」
「ゼロス…」
「全く不快に感じなかったわけじゃねぇし、俺の代わりに吐き出してくれんのも…スッキリした」
口にはしてこなかった、積み重なってきたものが。
ほんの少しだけでも、解消できたような気がした。
それだけで、今まで生きてきた意味があるような気がした。
どこかで、なにかが、報われたような気分になった。
だからゼロスは、その時にはもうシュアになにか…特別ななにかを感じていた。
シュアを見る時には、特別な目を使ってシュアを見て、シュアの話を聞くときには、特別な耳をもってその話を聞き。シュアと話をするときには、
…なにも特別じゃない自分で、話をした。
「…行こっか。ロイド達もう、行っちゃったよ」
「…だな」
確実に距離は近くあり、近くなる。
お互いにこの人は、というものを感じている。
けれどそれを直視するには、いろんな弊害が多すぎた。
並んで歩く、二人の間には。
Next.
サイバック。
これが何度目の訪れになるだろうか、今回はコレットの病気を治すため、ミトスとともに資料館へと足を運ぶ。
その道中で、しいなにふと話しかけられたシュアは、そんな親友の声に妙に嬉しくなりながらしいなを振り返った。
「大丈夫だよ。私は…安全な所にいたから」
「安全な所?」
「うん。…だから、地震が収まってからミトス達が心配になって、様子見に行ったんだ」
「…シュア」
「ん?」
「…安全な所って、どこだい?」
明らかに話題を逸らそうとしたシュアに、しいながそう怪訝そうに話を引き戻した。
隠し事をされているのは分かっているけれど、だからといって放っておくのも気持ちが悪い。
お願いだから、隠し事はないでほしい。親友だと思っているのは、自分だけのような気がしてしまうから。
「…ルビの、家」
「…!シュア…」
「ううん。全部、戻ったわけじゃないの。でも、ルビのこと…みんなと別れる前日に少しだけ思い出した」
「…それで、シュア…」
「うん…話さなくて、ごめんね」
理由くらい、と言ってくれていたしいなだけれど、あまりに確かでなかったから話さないでおこうと思った。
ルビは、ルビナスはもうこの世の人ではないだなんて、話したらきっと余計に一緒に行こうと言ってくれるだろうと思ったから。
けれど今、苦笑いしかできないままそう言ったシュアに、しいなはふいに顔を背けて視線を落とす。
そんな反応をされても仕方ないとは思いながらも、少しの後悔が自分を包んでいるのはどうにも誤魔化しがきかないようだった。
「…ホントだよ」
「…しいな」
「これからは…隠し事なんかするんじゃないよ?」
「…うん!」
溜息をつきながら、それでも笑いかけてくれるしいな。そんな親友に、シュアも思わず声を張ってそう頷くと、すぐ後ろからそれを見計らったかのように声が掛けられた。
「なるほどなるほどねー。これにて一件落着ってか」
ふいに掛けられた声に振り向いたそこで、うんうん頷きながらシュアの横にゼロスが並んで歩く。
「ちょっとゼロス!あんた盗み聞きなんてしてたのかい!」
「聞こえちまったんだからしょーがねーだろー?」
「…いいよ、しいな。ゼロスにも話すべきだったから。ゼロスのおかげで思い出したんだし」
「へ?」
「そうなのかい?」
「…う、うん。ゼロスと話してた時…にね」
そう言いながら、シュアは一度もゼロスの方を見ることができないでいた。
たった1日、別れていただけで、もしかしたら自分は彼のことを好きだったんじゃないかと思うほどゼロスのことを思い出していた。
だから、そんな気がしてしまったんだ。
自分は、ゼロスのことを拾ってくれた恩人以上に、好きなんじゃないかって。
そう思ったら、なんだか顔さえ見れないくらい、照れくさくなってしまった。
そんな自分が、恥ずかしくなってしまった。
そしてそんなシュアにもちろんゼロスは気づいて、訝しく思っていた。
自分は何かしただろうか。どうしてこっちを見ようとしないのか。
なんだか無性に腹が立って、こうなると意地でもこっちを振り向かせようとしたくなる。
「シュア」
「な…なに?」
「…」
「?ゼロス?」
振り向くのは嫌だと思っているのに、言葉を続けようとしないゼロスを思わず振り返る。
そしてその先で、ゼロスはなんてこともないように、ただ自分を見つめていた。
罠にかかったな、とでもいうような視線を送られながら、シュアもすぐその意図に気付いて顔をしいなの方に背ける。
「なんなんだい?ゼロス……シュア?」
みるみる赤くなっていくシュアの顔を、驚いたようにしいなが見つめる。
ゼロスに視線を移しても、ただ面白がったように笑っているだけだ。
何が起きて何が恥ずかしくてどう面白いのか。自分だけが分からない中で、それでもさっきのようには問いかけられないまま、しいなだけが首を傾げて歩いていた。
「どうして、ケイトさんを処刑しようとしたの!あんたの娘なんでしょ!」
「…う、うるさい。おまえに何が分かる」
「分かんないよ!分かんないから聞いてんだ。ばっかじゃないの!」
珍しく、大荒れの天気が、このパーティーに訪れていた。
滅多になく怒鳴り散らすジーニアスにも、仲間たちはさして驚くでもなくそれに賛同するように教皇を見つめている。
メルトキオ、マーテル教会大聖堂。その教皇の部屋で、一行は教皇を取り囲むようにしてジーニアスを見守っていた。
サイバックの資料館で集めた情報は有力ではなく、結局古代大戦というキーワードの下、勇者ミトスと色々と因縁のあったテセアラ王家に今度こその期待を込めて飛んできた。
ハーフエルフの悲しみというものは、結局ハーフエルフにしか分からない。
それでも父親に疎まれる悲しみなら、父親を持つ者には、想像くらいはできるだろう。
自分には父親も分からないけれど、とシュアは思っていた。
ユアンが送ってくれた記憶…イメージの中には、父親らしき人はそこにいたけれど…これだけ世界を旅して何も分からないんだ。ルビナスと同じように、もうこの世にはいないのかもしれない。
ハーフエルフと同じように、迫害はされない。けれど、それ以上に得体の知れない存在だ。
疎まれないし、虐げられない。けれど、マナを駆使することに長けている自分がいつ何をするか、分からない。
どちらがいいということもないんだろう。どちらの方がマシだなんて、決められることでもない。
「わしは…自分の娘がハーフエルフだからこそ彼らを虐げる者の気持ちが分かる。恐ろしいのだよ、娘が!」
叫んだ教皇は、一瞬の隙をついて脅しに向けていたプレセアの斧を抜け出した。
その足で机の裏に向かうと、なにやらごそごそと手を動かして、すぐに止まる。
「今、兵を呼んだ。ここで神子が死ねば教会は名実ともに私の配下となる」
神子、それはきっとコレットのことではない。ゼロス、のことだ…
「神子無しでマーテル教会が保てるものか」
「ふん。セレスがおるわ!」
リーガルの言葉にも怯むことなく教皇が返した瞬間、話題の中に引っ張り出されているゼロスが、隣で拳を強く握っているのを、シュアは見た。
表情は瞬間、本当に彼のものかと疑うほど激しい嫌悪に襲われていたのに、すぐにそれも控えられたかと思えば、軽く口端をあげて冷たく怒りを含んだ声を吐き出す。
「…やっぱり妹を巻き込むつもりだったか。このひひじじいめ」
「神子がいけないのだ!お前のようないい加減な男が何故神子なのだ!お前さえいなければ…私のハーフエルフ追放計画を邪魔する者は居なくなったのに!」
「…っむ…!」
ふざけるな、と。そう思わず叫ぼうと開いたシュアの口が、ふいに覆われて小さな声だけがそこから漏れてしまった。
それをした隣の彼は、変な声を零したシュアに、少しだけ困ったように笑んでいる。
それでも、何も言うなと。そう、言い聞かせるように確かに訴えている。
しんとなってしまった部屋で、ジーニアスの小さな呟きが、ふいに響いた。
「人間は…どうして僕たちを邪魔にするの…」
「異端の者は排除される」
さも当たり前のように言う教皇。
それには、もう口を押さえられずとも、シュアもなにも言うことはできそうになかった。
誰よりも自分が異端だと思っていたのは、自分だったから。
ふと、突然に後ろの扉が慌ただしく開かれて数人の兵士が入り込んでくる。
「私が払います」
言ってプレセアが斧を振り回した隙に、隠し扉から逃げ出した教皇を追うべく仲間たちが走り出した。
それを慌てて追いかけながら、それでもすっきりとしない感情に、ただシュアは考えるでもなく走ることしかできないでいた。
国王の寝所。教皇によって服毒させられていた国王は、たった今リフィルが解毒を施したことで意識を取り戻していた。
言葉を交わしている仲間たちと国王の様子を眺めながら、思ったよりも教皇の言葉を自分のどこかで引っかけてしまったシュアは、何も言うことができずに立ち尽くしている。
一度思ってしまうと、それはもうどうにも拭い去れようがなかった。
自分は異端なんだ。排除される…確かに、そうあるべきなのかもしれない。
時々自分の魔術がどこまで強力になるのだろう、と思う。きっとやろうと思えば時を止めることすら容易な気がする。時を戻すことさえ、もしかしたら…
そんな自分が、この力を自分の意志でも、誰かに利用されたとしても、悪いことに使わないでいられるだろうか。時に世界をめちゃくちゃにしてしまったり、しないだろうか。
だったら排除すら、されたって当然なんじゃないだろうか。
ハーフエルフは、もちろんその対象じゃなくて。だってエルフも人間も認められている存在なのに、そのハーフというだけで異端であるわけがない。
心ここにあらず、自分の中の何かを見つめているようで決して話も聞いていないシュアに気付いたゼロスが、隣からふいにその左耳を引っ張った。
それにふっと現在の状況に戻されたシュアの耳には、すぐに弱々しい国王の声が流れ込んでくる。
「資料の閲覧なら好きにするがいい…。しかしもう二度と、わしの前に姿を見せるな。わしは…疲れた。教会との権力争いはもうごめんだ」
…なんて、勝手な国王だろう。
「勝手なことを!」
まさに、思ったことを代弁してくれたジーニアスに、シュアもそっと口を開く。
「ほんと、あなたも教皇も勝手なことばかり…ゼロスだって好きで神子やってるわけじゃない。権力争いだってそう!疲れたなんて…ずっと床に伏してただけのくせに馬鹿なこと言わないで。民よりも近い神子のことも見ようとしないで、なにが国王…」
「シュア、もういーって」
今の今までぼーっとしていたシュアが、まさかここまで言い倒すとは思わなかったんだろう。
ほんの少し、動揺したままゼロスがそうしてシュアを止めると、すぐにシュアは口を噤んで国王に背を向ける。
「…じゃあ陛下、勝手に見させてもらいますよ」
ゼロスが背を向けて、シュアの背中を押す。
そうして国王の部屋を出ていくと、すぐに仲間たちもその後に続いた。
「ゼロス…お前…」
扉を閉めて一秒、すぐにロイドがボソッとゼロスに声を掛ける。
それでもゼロスはいつものように、ただ全てを遮断するような、笑顔をその顔に張り付けて言った。
「俺様のことはともかく、だ。急いでんだから、とっとと資料閲覧しちまおうぜ」
「でも…」
「ハニーはー、コレットちゃんのことだけ考えてりゃいいのよ」
いつもの笑みの中に、有無を言わさない声の力強さ。
…分かった。と頷いたロイドがすぐに資料室へと足を進める。
「…ゼロス」
そこでようやく、口を噤んでいたシュアが口を開いた。
ただ申し訳なさそうにゼロスを見つめて、今ではもう、ゼロスと話すことに何かを感じることすら、忘れていた。
「みんなの前で…ごめん」
「…謝んなよ。ま、ビックリしたけどな」
「ごめん…」
思っていたことをジーニアスが言い出してくれたことが、自分の中にもやもやと積み重なった気持ちを吐き出す皮切りになってくれていた。
悔しくて。自分のことも、ゼロスがあんな風に言われることも。
そして何より負のマナで満ちてしまっているあの部屋で、それが自分に流れ込んでくる中で、どうにかしてしまいそうな自分を抑えるには吐き出すしかなかった。
「…まぁ、シュアが言ってくれて良かったかも…な」
「ゼロス…」
「全く不快に感じなかったわけじゃねぇし、俺の代わりに吐き出してくれんのも…スッキリした」
口にはしてこなかった、積み重なってきたものが。
ほんの少しだけでも、解消できたような気がした。
それだけで、今まで生きてきた意味があるような気がした。
どこかで、なにかが、報われたような気分になった。
だからゼロスは、その時にはもうシュアになにか…特別ななにかを感じていた。
シュアを見る時には、特別な目を使ってシュアを見て、シュアの話を聞くときには、特別な耳をもってその話を聞き。シュアと話をするときには、
…なにも特別じゃない自分で、話をした。
「…行こっか。ロイド達もう、行っちゃったよ」
「…だな」
確実に距離は近くあり、近くなる。
お互いにこの人は、というものを感じている。
けれどそれを直視するには、いろんな弊害が多すぎた。
並んで歩く、二人の間には。
Next.