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マナが、自分の周りをぐるぐると纏っている感覚がした。
心地の良いそれに身体を預けながらも、はっきりと覚醒してしまった意識にシュアはゆっくりと目蓋を開く。
見慣れた、一軒家。
いや、見慣れたはずがないのに、そんな感覚がするのだ。
だってこの家は、昨日初めて見た彼の、ルビナスの家。
視界ははっきりとしているのに、ほんの一段階色を薄くしたようなぼんやりとした景色。
ぐるりと視界を回して、そこでようやく部屋の端に置かれた木製のベッドに誰かがいる事に気が付いた。
その誰か、は二人の人物。
なにも羽織っていない上半身だけを掛け布団から出して、こちらには全く気が付いていないように談笑している。
か、とシュアは自分の頬が熱く赤くなっていくのを感じた。
その二人も、紛れも無く見慣れた人物だったから。
自分と、この家の持ち主の彼。自分は少し幼いように見えるけれど、それでも確かに自分であるその少女は、つまり彼…ルビナスと、そういう関係だったという事だろうか。
「ルビ、これ…なに?」
全体的に色素の薄い、幼い自分がそう、自分の胸元を指しながら彼に声を掛ける。
「なにって、キスマーク」
「キスマーク?」
「んーだなぁ…俺のモノって、証?」
「!!」
「お、顔真っ赤」
彼の言うとおり顔を目に見えて赤くした自分を見て、彼が楽しそうに笑う。
その、表情を。
初めて見たはずの、いや初めて見たシュアは、捉えると同時にぎゅっと心臓を掴まれたような苦しさに陥るのが分かった。
頬が、濡れていく。
自分の意思にはないのに、目から次々と涙が溢れていく。
ただ初めてじっくりと見た彼が、笑っている“だけ”なのに。
ただ、その笑顔はつい最近、どこかで見たような気がするだけなのに。
「…しも、」
「…シュア?」
「私も…つける」
内気…だったのだろうか。
ぼそりとそう呟いた幼い自分が、自分の脇腹にある大きめの痣に触れる。
はっとして、シュアは自分の脇腹に触れた。
同じ痣は、今も自分のそこにある。疑っていたわけではないけれど、確かに彼女は自分なんだと思い知らされる。
そして目線先の自分は、自分に触れるのとは逆の手で、ルビナスの同じ位置に掌を触れた。
「シュア?くすぐった…」
「これで、ルビは…私のもの…?」
そっと、彼女がその手を退けたその場所には。
彼女も、自分も持っているものと同じ、大き目の痣がはっきりと残されている。
写した?自分と同じ痣を…どうやって?
ここに来てからずっと驚くしか出来ないシュアは、それでももはや動揺する事も無く、二人の様子を黙って見守っている。
決して邪魔してはいけない、壊してはいけないもののように。
そしてその先、驚いて幼い自分を見つめるルビナスの視線の先で、自分は顔を真っ赤にして彼の次の反応を待っている。
「…可愛い事、言ってくれちゃって」
「…!」
「照れんなよ」
「照れてない!」
「ったく…自分でつけてそれか?お揃いの葉型の模様。中々洒落てると思うよ」
宥めるでもなくそれでも呆れたように、優しく言い聞かせるようにそう言う彼に益々顔を赤くする幼い自分。
なんて幸せそうなんだろう。いやそれよりも、この光景はシュアも前に見た事があった。
記憶が戻ったわけじゃない。確か、ミズホの里で、ゼロスとの会話の最中に思い出された光景…。
ということは、この光景は全て自分の記憶、という事でいいんだろうか。
まだ生きていた頃の、ルビナス。そしてその隣にはほんの少し幼い自分。
「お揃いの葉型の模様。中々洒落たこと思いつくな」
「…気に入った?」
「気に入った!」
どれくらい前かは分からない。それでもかつての自分は、こんな時間の中を生きていた。
「ずっと…消えないから」
「そうなのか?」
「うん。何があっても…会えるように」
何があるんだよ。
そう笑ったルビナスに、記憶の中の自分はぐしゃぐしゃと頭を撫でられている。
それでもその“何”は起きてしまったんだろう。
そして会えるようにと繋ぎとめたはずの彼にはもう、会えない。
何も知らずに笑い合う二人を、シュアは今はもう涙を流す事も無く黙って見つめていた。
視界はぐらぐらと揺れて更に色を淡くしていく。
一時の夢に区切りを付けるように、シュアはそっと目を瞑った。
意識がまた、飲み込まれていく。
そして次に目を覚ましたときにはきっと、もう彼に会えることもない今の自分の朝が来る…。
僅かな眩しさに、シュアはそっと目蓋を上げた。
妙なマナを少しも感じる事の無い普通の朝が、今はなんだかやけに爽やかなそれに感じる。
「あ、シュアさん。起きた?」
「!ミトス…」
急に脇から聞こえた声に驚きながらも振り返れば、ベッド脇に立ったミトスがこちらを見下ろしている。
「ごめんなさい、なかなか起きてこないから…」
「ううん。ミトス、もう身体は平気なの?」
「はい。シュアさんのおかげで…僕に何度も魔法唱えてくれて…だから余計に心配で」
「…大丈夫。それぐらいでね、もう倒れたりしないの」
少しだけ眉を吊り下げるミトスにそう言い聞かせるようにしながらも、シュアはユアンの顔を思い出していた。
そう、彼のおかげで今はこんなにも元気だ。
彼の事も、まだよく分からないまま…もっと知りたい事はいろいろあったのだけれど。
彼は今、どちらにいるのだろう。…テセアラに、いてくれているだろうか。
「そう…それならいいんだ」
「ごめん、今…」
「もうお昼前だよ。いい夢でも、見てたの?」
お昼前…なんて長い時間、自分は眠りについてしまったんだろう。
にっこりと微笑んでそう言ってくるミトスから視線を外して、慌てて目を向けた窓の外ではもう、確かに差す日は短くなっている。
「夢…。そうだね、そうかもしれない…」
「そう…それは、良かった」
いや、いい夢…なのだろうか、あれは。
どうして急に記憶が、夢として自分の中に戻ってくる事になったのかは分からない。
けれどその記憶は確かにとても幸せそうで、甘くて…無防備で儚い。
だってその幸せはすぐに終わりを迎えてしまったんだ。
未来を信じていた恋人たちも裂かれてしまった。彼の死に、よって。
どうして彼は、死んでしまったのだろう。
その瞬間を見つめている記憶がある、自分の目の前で。
自身の流す血に似つかわしくないほど、あんなにも安らかな顔をしたままで。
窓の外に目を向けたまま答えるシュアの横顔を見つめたまま返したミトスの声色に、シュアは何を気づく事も無いほど、ただルビナスの事ばかりに考えを巡らせていた。
「もう、起きなきゃ。行こう?」
「…はい」
そう、シュアが改めてミトスに声を掛けるまで、数分。
ベッドから降りてそうほほ笑んだシュアに、ミトスは笑い返して数秒、シュアの後ろで唇をきつく結ぶ。
いつもの広間に顔を出すと、もうとっくに起きていたアルテスタがこちらを振り返った。
「おぉ、ようやく起きおったか」
「はい。なんか、ゆっくり寝ちゃってすみません」
「構わんさ。お前さんたちはいつもバタバタと飛び回っておったからな。疲れていたんじゃろう」
「…そうですね」
仲間たち。
最後の精霊、光の精霊と契約を済ませて、世界を2つに切り離すためにシルヴァラントに向かった。
そうだ、あれだけの地震…きっと契約は済ませたんだろう。
脳裏にふと、一昨日のゼロスの笑顔が蘇る。
もう会えないんだね。もう会えないけど…私は…気がつけば、ゼロスのことを想ってる。
もしかしたら…好きだったのかな。
みんな、好きだけど…なにか、もっと特別に。
だってゼロスが笑うと、私まで嬉しくなった。
コンコン、
ふいに、固い扉を叩くノックの音がして、その場の全員が振り返る。
「誰じゃ?」
ゆっくりとアルテスタが迎えに出て、その扉を開く。
「!お前さん達…!」
そしてそう言ったアルテスタが一歩後ずさった向こうに、シュアは近く懐かしい仲間たちの姿を見た。
全員が家の中に招き入れられてもなお、シュアはしばらくの間信じられない光景に呆然としていた。
そんな仲間に、ロイドたちはただただ苦笑を浮かべている。
あんなに大げさな別れをした割に、たったの1日で再会するのだから無理もない。
今はしいなでさえ、シュアと再会できたにもかかわらず抱擁を交わすでもなく苦笑いを浮かべている。
「お前さん達がこうしてテセアラに戻ってきたということは、世界は…」
黙ったままのロイドたちに顔を顰めたアルテスタがそう切り出すと、すぐにロイドもまた真剣な表情に切り替えて言葉を返す。
「あぁ…実は」
精霊と契約をする所から説明を始めたロイドにはっとして、シュアもただその説明に聞き入った。
妙な自覚を持ってしまったせいだろうか、その間もシュアは一度として、ゼロスの顔を直視することはできなかった。
「そうか…コレットの病じゃが、おそらく永続天使性無機結晶症じゃろう」
「えいぞくてんし…?」
「百万人に一人という輝石の拒絶反応じゃ。しかし治療法ははるか昔に失われたと聞いておる。古代大戦時代の資料を見ればあるいは…」
簡単ないきさつとコレットの病を話した後で、ふとアルテスタはそう零した。
よく分からないといった反応を返したロイドに、アルテスタが説明を補なう。
「たしかサイバックにミトスの足跡を中心にした資料館があったな」
理解するだけで精一杯のシュアの横でリーガルがそう言うと、今まで黙っていたミトスがふいに口を開いた。
「そうだね…。そうみたい。ボク…知ってるよ、そこ。ボクでよければ、案内するよ」
「…まぁ、資料館なら安全かな。いいぜ、一緒に行こう」
ロイドが頷くなり、ミトスとジーニアスは嬉しそうに目を合わせる。
そしてその言葉を耳にしたシュアは、ふ、と視線を落として開きかけた口を一度閉ざした。
自分も、行きたい。
一緒に行こうと、自分にも声を掛けてほしい。
なにも迷うことはなくて、大切な仲間たちに、何も返せていない自分が出来ることは一つ。
恐る恐る、口を開いたシュアは、すぐに出発しようと背を向けていた仲間たちの背中に声を掛ける。
「…あの」
ぴたりと足を止めたロイドを筆頭に、皆が足を止めてシュアを振り返った。
「私も…ついていっていいかな」
ロイドは、振り返らない。
みんなの視線はロイドに移されて、ただロイドの返事だけを待っている。
「…何言ってんだよ。早く、行こうぜ」
ふいに、そんな言葉が確かに耳に届いて、シュアはその目を見開いた。
答えたロイドは少しだけ、照れくさそうにシュアの方を振り返る。
「…う、うん!」
そしてすぐさま仲間の輪に駆け寄っていったシュアを、しいなやコレットが囲んで一行はアルテスタの家を慌ただしく後にしていった。
「ロイド君たら格好つけちゃってー」
「う、うるさいなー!一回やってみたかったんだよ!」
笑い声の絶えないその輪をほほ笑ましそうに眺めながら、アルテスタはゆっくりと開きっぱなしにされた扉を閉めた。
いつもの光景が戻ってきたなと、自分はただこの家で一行の帰りを待つだけだった。
Next.
心地の良いそれに身体を預けながらも、はっきりと覚醒してしまった意識にシュアはゆっくりと目蓋を開く。
見慣れた、一軒家。
いや、見慣れたはずがないのに、そんな感覚がするのだ。
だってこの家は、昨日初めて見た彼の、ルビナスの家。
視界ははっきりとしているのに、ほんの一段階色を薄くしたようなぼんやりとした景色。
ぐるりと視界を回して、そこでようやく部屋の端に置かれた木製のベッドに誰かがいる事に気が付いた。
その誰か、は二人の人物。
なにも羽織っていない上半身だけを掛け布団から出して、こちらには全く気が付いていないように談笑している。
か、とシュアは自分の頬が熱く赤くなっていくのを感じた。
その二人も、紛れも無く見慣れた人物だったから。
自分と、この家の持ち主の彼。自分は少し幼いように見えるけれど、それでも確かに自分であるその少女は、つまり彼…ルビナスと、そういう関係だったという事だろうか。
「ルビ、これ…なに?」
全体的に色素の薄い、幼い自分がそう、自分の胸元を指しながら彼に声を掛ける。
「なにって、キスマーク」
「キスマーク?」
「んーだなぁ…俺のモノって、証?」
「!!」
「お、顔真っ赤」
彼の言うとおり顔を目に見えて赤くした自分を見て、彼が楽しそうに笑う。
その、表情を。
初めて見たはずの、いや初めて見たシュアは、捉えると同時にぎゅっと心臓を掴まれたような苦しさに陥るのが分かった。
頬が、濡れていく。
自分の意思にはないのに、目から次々と涙が溢れていく。
ただ初めてじっくりと見た彼が、笑っている“だけ”なのに。
ただ、その笑顔はつい最近、どこかで見たような気がするだけなのに。
「…しも、」
「…シュア?」
「私も…つける」
内気…だったのだろうか。
ぼそりとそう呟いた幼い自分が、自分の脇腹にある大きめの痣に触れる。
はっとして、シュアは自分の脇腹に触れた。
同じ痣は、今も自分のそこにある。疑っていたわけではないけれど、確かに彼女は自分なんだと思い知らされる。
そして目線先の自分は、自分に触れるのとは逆の手で、ルビナスの同じ位置に掌を触れた。
「シュア?くすぐった…」
「これで、ルビは…私のもの…?」
そっと、彼女がその手を退けたその場所には。
彼女も、自分も持っているものと同じ、大き目の痣がはっきりと残されている。
写した?自分と同じ痣を…どうやって?
ここに来てからずっと驚くしか出来ないシュアは、それでももはや動揺する事も無く、二人の様子を黙って見守っている。
決して邪魔してはいけない、壊してはいけないもののように。
そしてその先、驚いて幼い自分を見つめるルビナスの視線の先で、自分は顔を真っ赤にして彼の次の反応を待っている。
「…可愛い事、言ってくれちゃって」
「…!」
「照れんなよ」
「照れてない!」
「ったく…自分でつけてそれか?お揃いの葉型の模様。中々洒落てると思うよ」
宥めるでもなくそれでも呆れたように、優しく言い聞かせるようにそう言う彼に益々顔を赤くする幼い自分。
なんて幸せそうなんだろう。いやそれよりも、この光景はシュアも前に見た事があった。
記憶が戻ったわけじゃない。確か、ミズホの里で、ゼロスとの会話の最中に思い出された光景…。
ということは、この光景は全て自分の記憶、という事でいいんだろうか。
まだ生きていた頃の、ルビナス。そしてその隣にはほんの少し幼い自分。
「お揃いの葉型の模様。中々洒落たこと思いつくな」
「…気に入った?」
「気に入った!」
どれくらい前かは分からない。それでもかつての自分は、こんな時間の中を生きていた。
「ずっと…消えないから」
「そうなのか?」
「うん。何があっても…会えるように」
何があるんだよ。
そう笑ったルビナスに、記憶の中の自分はぐしゃぐしゃと頭を撫でられている。
それでもその“何”は起きてしまったんだろう。
そして会えるようにと繋ぎとめたはずの彼にはもう、会えない。
何も知らずに笑い合う二人を、シュアは今はもう涙を流す事も無く黙って見つめていた。
視界はぐらぐらと揺れて更に色を淡くしていく。
一時の夢に区切りを付けるように、シュアはそっと目を瞑った。
意識がまた、飲み込まれていく。
そして次に目を覚ましたときにはきっと、もう彼に会えることもない今の自分の朝が来る…。
僅かな眩しさに、シュアはそっと目蓋を上げた。
妙なマナを少しも感じる事の無い普通の朝が、今はなんだかやけに爽やかなそれに感じる。
「あ、シュアさん。起きた?」
「!ミトス…」
急に脇から聞こえた声に驚きながらも振り返れば、ベッド脇に立ったミトスがこちらを見下ろしている。
「ごめんなさい、なかなか起きてこないから…」
「ううん。ミトス、もう身体は平気なの?」
「はい。シュアさんのおかげで…僕に何度も魔法唱えてくれて…だから余計に心配で」
「…大丈夫。それぐらいでね、もう倒れたりしないの」
少しだけ眉を吊り下げるミトスにそう言い聞かせるようにしながらも、シュアはユアンの顔を思い出していた。
そう、彼のおかげで今はこんなにも元気だ。
彼の事も、まだよく分からないまま…もっと知りたい事はいろいろあったのだけれど。
彼は今、どちらにいるのだろう。…テセアラに、いてくれているだろうか。
「そう…それならいいんだ」
「ごめん、今…」
「もうお昼前だよ。いい夢でも、見てたの?」
お昼前…なんて長い時間、自分は眠りについてしまったんだろう。
にっこりと微笑んでそう言ってくるミトスから視線を外して、慌てて目を向けた窓の外ではもう、確かに差す日は短くなっている。
「夢…。そうだね、そうかもしれない…」
「そう…それは、良かった」
いや、いい夢…なのだろうか、あれは。
どうして急に記憶が、夢として自分の中に戻ってくる事になったのかは分からない。
けれどその記憶は確かにとても幸せそうで、甘くて…無防備で儚い。
だってその幸せはすぐに終わりを迎えてしまったんだ。
未来を信じていた恋人たちも裂かれてしまった。彼の死に、よって。
どうして彼は、死んでしまったのだろう。
その瞬間を見つめている記憶がある、自分の目の前で。
自身の流す血に似つかわしくないほど、あんなにも安らかな顔をしたままで。
窓の外に目を向けたまま答えるシュアの横顔を見つめたまま返したミトスの声色に、シュアは何を気づく事も無いほど、ただルビナスの事ばかりに考えを巡らせていた。
「もう、起きなきゃ。行こう?」
「…はい」
そう、シュアが改めてミトスに声を掛けるまで、数分。
ベッドから降りてそうほほ笑んだシュアに、ミトスは笑い返して数秒、シュアの後ろで唇をきつく結ぶ。
いつもの広間に顔を出すと、もうとっくに起きていたアルテスタがこちらを振り返った。
「おぉ、ようやく起きおったか」
「はい。なんか、ゆっくり寝ちゃってすみません」
「構わんさ。お前さんたちはいつもバタバタと飛び回っておったからな。疲れていたんじゃろう」
「…そうですね」
仲間たち。
最後の精霊、光の精霊と契約を済ませて、世界を2つに切り離すためにシルヴァラントに向かった。
そうだ、あれだけの地震…きっと契約は済ませたんだろう。
脳裏にふと、一昨日のゼロスの笑顔が蘇る。
もう会えないんだね。もう会えないけど…私は…気がつけば、ゼロスのことを想ってる。
もしかしたら…好きだったのかな。
みんな、好きだけど…なにか、もっと特別に。
だってゼロスが笑うと、私まで嬉しくなった。
コンコン、
ふいに、固い扉を叩くノックの音がして、その場の全員が振り返る。
「誰じゃ?」
ゆっくりとアルテスタが迎えに出て、その扉を開く。
「!お前さん達…!」
そしてそう言ったアルテスタが一歩後ずさった向こうに、シュアは近く懐かしい仲間たちの姿を見た。
全員が家の中に招き入れられてもなお、シュアはしばらくの間信じられない光景に呆然としていた。
そんな仲間に、ロイドたちはただただ苦笑を浮かべている。
あんなに大げさな別れをした割に、たったの1日で再会するのだから無理もない。
今はしいなでさえ、シュアと再会できたにもかかわらず抱擁を交わすでもなく苦笑いを浮かべている。
「お前さん達がこうしてテセアラに戻ってきたということは、世界は…」
黙ったままのロイドたちに顔を顰めたアルテスタがそう切り出すと、すぐにロイドもまた真剣な表情に切り替えて言葉を返す。
「あぁ…実は」
精霊と契約をする所から説明を始めたロイドにはっとして、シュアもただその説明に聞き入った。
妙な自覚を持ってしまったせいだろうか、その間もシュアは一度として、ゼロスの顔を直視することはできなかった。
「そうか…コレットの病じゃが、おそらく永続天使性無機結晶症じゃろう」
「えいぞくてんし…?」
「百万人に一人という輝石の拒絶反応じゃ。しかし治療法ははるか昔に失われたと聞いておる。古代大戦時代の資料を見ればあるいは…」
簡単ないきさつとコレットの病を話した後で、ふとアルテスタはそう零した。
よく分からないといった反応を返したロイドに、アルテスタが説明を補なう。
「たしかサイバックにミトスの足跡を中心にした資料館があったな」
理解するだけで精一杯のシュアの横でリーガルがそう言うと、今まで黙っていたミトスがふいに口を開いた。
「そうだね…。そうみたい。ボク…知ってるよ、そこ。ボクでよければ、案内するよ」
「…まぁ、資料館なら安全かな。いいぜ、一緒に行こう」
ロイドが頷くなり、ミトスとジーニアスは嬉しそうに目を合わせる。
そしてその言葉を耳にしたシュアは、ふ、と視線を落として開きかけた口を一度閉ざした。
自分も、行きたい。
一緒に行こうと、自分にも声を掛けてほしい。
なにも迷うことはなくて、大切な仲間たちに、何も返せていない自分が出来ることは一つ。
恐る恐る、口を開いたシュアは、すぐに出発しようと背を向けていた仲間たちの背中に声を掛ける。
「…あの」
ぴたりと足を止めたロイドを筆頭に、皆が足を止めてシュアを振り返った。
「私も…ついていっていいかな」
ロイドは、振り返らない。
みんなの視線はロイドに移されて、ただロイドの返事だけを待っている。
「…何言ってんだよ。早く、行こうぜ」
ふいに、そんな言葉が確かに耳に届いて、シュアはその目を見開いた。
答えたロイドは少しだけ、照れくさそうにシュアの方を振り返る。
「…う、うん!」
そしてすぐさま仲間の輪に駆け寄っていったシュアを、しいなやコレットが囲んで一行はアルテスタの家を慌ただしく後にしていった。
「ロイド君たら格好つけちゃってー」
「う、うるさいなー!一回やってみたかったんだよ!」
笑い声の絶えないその輪をほほ笑ましそうに眺めながら、アルテスタはゆっくりと開きっぱなしにされた扉を閉めた。
いつもの光景が戻ってきたなと、自分はただこの家で一行の帰りを待つだけだった。
Next.