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一部を残し、荒れ果ててしまったオゼット。
風はその灰を運び、その独特の匂いもまた、少し離れたこの場所まで流れ届いてくる。
オゼットから、その周囲の森を数十分ほど歩けば着くような森の中。
災害の影響の、全く無いと言っていい場所。
そこには穏やかに時間の流れる、少し開けた空間が広がっていた。
サク、と自分の靴が枯葉を踏む音を感じながら、シュアはその空間へとゆっくり足を踏み入れる。
途端、耳元で。ヴン…と何かが消えては現れる音。
しかし見回してもその目に何も映らないことが分かって、シュアは気にせずにそのまま歩みを進めることにした。
清閑に佇む一軒家。
その周囲には何も無いが、足音が今までの乾いたそれと違うことに気が付いて、周囲を見回す。
灰が、無い。全くといっていいほど、黒いそれらが見受けられない。
そして枯葉さえも、無い。草葉は一つも枯れることなく、そこに元気なまま存在し続けている。
不思議に思ったところで、結局答えは出ないのだろう。
訝しげに、警戒するように、シュアはゆっくりとその一軒家へと近づき、扉を開ける事もせずにその裏へと回った。
そしてすぐに捉える、小さな墓石。
微かに蘇った記憶と同じように、家の裏で静かに、寂しげに佇んでいるそれへとそっと近寄って膝を折る。
全く風化していない、その墓石の表面。
細々と掘られたその文字を、シュアはゆっくりとその人差し指の腹でなぞった。
「ルビナス・アルメリア…」
これが、彼のフルネーム。
だから、ルビ、なんだね。
今の自分には知り合ってさえ居ないその相手の墓石に、心の中でボソリと語りかける。
ようやく、たどり着いた。
記憶が一つだけ、埋まった。
「ありがとう…」
どんな人かも知らない、貴方だけど。
胸元から取り出した指輪を握って、シュアは祈るようにしながらそう呟く。
さぁ、今度は自分の番だ。
思い出させてくれた彼の代わりに。
次は、自分が思い出さなくちゃいけない。
それが、指輪を持つ自分のやるべきことだ。
仲間たちは、すごく大好きだし、感謝もしてる。
しいなとはもっともっと思い出を作りたかった。
ゼロスにも…すごく感謝をしたい。彼が居たから、今の自分が居る。
でも、自分はそんな彼らと居るべきではない。異端な自分は、居ていい存在ですらないのかもしれない。
世界のことも大切だし、皆のことも大切ではあるけれど。
それに、自分にはもっと大切な何かがある気がする。
彼の事を忘れたままではいけない、気がするのだ。
「ゼロス…ごめん」
静かに暮らそっか。
そう言ったのは、確かに自分からだったのに。
私は、貴方とは一緒に行けないみたい。
死者にとって、忘れられることはどれほど怖いことなのだろう。
想像しか出来ない、彼の気持ちを私は汲み取ることが出来ているんだろうか。
「ごめんね、ゼロス」
ここに本人は居ないというのに。
シュアはもう一度そう、ゼロスの事を思い浮かべると、ゆっくりと立ち上がって墓石に背を向けた。
そして自分の乗ってきたレアバードの方へと、その眉根に皺を寄せたまま、ゆっくりと歩みを進めていった。
「え、行かないって…」
「ごめん。折角…みんな行くってなってたところなのに」
仲間たちを前に、腰を折って頭を下げる。
一晩明けたら集合しようと約束していた森の中で、シュアは仲間たちの視線が強く自分に集まっていることを痛いほど感じていた。
誰もがシルヴァラントから戻れない事になったとしても、最後まで付き合うと決心していた。
仲間たちは、自分以外、みんなが。
それをここまで来て外れる、なんて。
根性無しと思われるだろうか。薄情だと、思われるだろうか。
それでもシュアにはテセアラを離れるわけにはいかない理由がある。
こうして、頭を下げることくらいしか出来ないけれど。
「私は…テセアラに戻らない訳にはいかないの。全てが終わっても、テセアラに戻れなきゃ意味がない…だから、ごめん」
「シュア…!理由くらい…!」
「記憶を、どうしても取り戻さなきゃならなくなったの。だから…」
説明をすると長くなるのだろう。
急に記憶の一部が戻った理由は、自分にも分からないのだし。
ただ、今は分かったと言って自分が頭を下げている間にどうか出発して欲しい。
仲間の顔を、見ることが出来ない。
最初で最後の、自分の拠り所となってくれた仲間たち。
もう、決心している今の内でなければ、どんどん離れるのが寂しくなってしまう。
昨日一日、みんなと離れていたのだから。
それがこれから毎日、続くというだけのこと。
「ありがとう…みんな。元気で、いてください」
「シュア…!」
「しいな。シュアの、決めたことだ」
何かをこらえるように、低く吐き出されたロイドの言葉が今はすごく救いになる。
分かってくれてありがとう。引き止められたら、その分だけどんどん悲しくなる。
「ありがとう…しいな、いつも仲良くしてくれて」
「ありがとう、ゼロス。…私を、拾ってくれて」
「シュア…」
「ゼロスが居なかったら、今の私は無かったね。だから、前にも言った通り…私は誰よりもゼロスの事、信用してたよ」
未だ視線の先には草葉の茂る地面。
頭を上げられないまま、シュアは今までの時間を思い出しては言葉を零していく。
「ジーニアス、リフィルさん。私は自分が人間じゃないかもしれないから、2人と仲良くしてたわけじゃありません。それだけは…覚えといてください…」
「コレット。もっと…話したかったね。もっともっとコレットの事知りたかった」
「プレセア。プレセアのこと…大好きな人、ちゃんといるんだから。気付いて、あげてね」
「リーガルさん。みんなのこと、お願いします。こんなに個性的なパーティー、大変かも…しれないけど!」
「それから…ロイド。分かってくれて、ありがとう。いつまでも、そんなロイドで…みんなを引っ張ってってね」
「シュア…」
「ありがとう。みんな、元気で!」
ずっと下を向いたままなのだから。
早く、早く出発して欲しい。
もうしばらくこのままでいたら、下を向いたままで居たら、
さすがに涙が零れてしまいそうだ。
「シュア…」
皆が離れていく、草葉の鳴った足音。
そこに紛れ込んで聞こえたのは、低く切ない男の声。
はっとして思わず顔を上げた先に、思った通りのゼロスの顔があって、シュアは思わず顔を逸らした。
どうしてそうしたかなんて、本人にもすぐには理解できないまま。
「…ごめん」
「謝んなよ。記憶、ねぇんだもんな…あんまりに本人が能天気だから、忘れてた」
「…うん、でも、」
「…でも?」
「この記憶だけは無くさない。また、いつか…きっと、会える日まで」
「……俺も、忘れねぇよ」
「ゼロス…」
「なんか、お前のこと、忘れらんねぇ気がする」
その言葉だけで十分だ。
心から、精一杯に微笑んだシュアに、苦笑いでしかないゼロスの微笑み。
そしてそれから何も言うことは無く、仲間たちに合流したゼロスもその場を出発した。
飛び立つ仲間たちの姿を、ただ焼き付けるようにシュアは見つめ続ける。
風が、森を抜ける。
流されそうになる雫を、シュアは自分の服の袖でしっかりと拭った。
深い深い森の中。
再び訪れたルビナスの一軒家で、シュアは湿らせたボロ布でゴシゴシと床を磨き続けていた。
ギシギシと鳴る木製の床。ささくれ立った木の壁。
おそらくこの辺の木を刈って作られたのだろう。
埃も積もらず蜘蛛の巣があるわけでもない、相変わらず不思議な家ではあったものの、シュアはとりあえずこの家に住めたなら、と必死で床から磨きにかかる。
ふと、
グラッ…!
大きく身体を揺さぶる衝撃。
ハッと思わず周りを見回すが、特に危険と思える食器や花瓶は全く揺れていない。
地震の割に地響きだけが轟々と響いて、食器のぶつかり合う音も、机が揺れる音も聞こえない。
自分の身体だけが暫くの間大きく揺れて、ようやく地震の治まる頃には、シュアはただただ家中を見回すことしか出来なかった。
「どうして…揺れないの?」
手に取ることも出来る。自分の力で皿自体の山を揺らせば食器も揺れる。
けれど、地震でそれは起きなかった。
何か、不思議な力がこの家が荒れるのを防いでいるように。
いや、そうだそれよりも。
大きな地震。という事は、仲間たちは最後の精霊との契約を終えたのだろうか。
世界が二つに分かれた衝撃?
もう、これで仲間たちと会うことも…きっと、無い。
「そうだ…」
ミトス。ミトスやアルテスタ達は無事だろうか?
沢山の思考が飛び交う中で、ボロ布をシンクへと放り投げたシュアはすぐさまその古びた家を飛び出した。
コンコン。
「シュアです。入ります」
入り口の外には、大きな岩が落ちていた。
家自体は崩れていないアルテスタの家に着くなり、シュアは家主の返事を待つでもなく扉を開く。
そこには、声こそ掛けたものの、突然の侵入者に当然驚きこちらを振り返ったアルテスタが立っていた。
今しがた、どこかに行こうと歩いていた様子なのが分かる。
「なんだ、お前さんか」
「アルテスタさん、地震…平気でしたか?大きかったので…」
「あぁ、わしは…じゃがミトスがな、タバサを庇って怪我をしおった…」
アルテスタが行こうとしていたのは寝室なのだろう。
その手には、薬と包帯を持っている。
シュアはその言葉を聞くや否や、すぐに寝室へと飛び込んでいった。
奥のベッドで、タバサに付き添われたままミトスが横になっている。
「ミトス…!」
すぐに脇へと避けたタバサの隣に立って、シュアは懸命にファーストエイドを唱えた。
ミトスにもしものことがあったら、シルヴァラントに行った仲間に申し訳が立たない。ジーニアスもすごく悲しむだろう。
五回ほどシュアがファーストエイドを唱え終えた頃になって、ゆっくりと、ミトスはその目蓋を開く。
「ミトス!」
「…シュア…さん」
「タバサ、庇ったんだって?」
「どうして…ここに?」
「私は…行かなかったの。私だけ…なんだけど」
「どうして…」
だんだんと意識も口調もはっきりしたように問いかけてくるミトスに、苦笑いしか出来ないシュアもはっきりと言葉を返す。
「探さなきゃいけない記憶があるから」
「…そう。それが、どんなに辛い記憶だったとしても?」
「…え?」
「…ごめんなさい。もしもの話だから…」
一瞬だけ、いつものミトスの声ではないくらい、低い声で。
どこか遠くを見つめながら言うミトスにゾクッとした。
「…もう少し、寝てて。今は身体、治そう」
「はい」
素直に目蓋を閉じるミトスは、もういつものミトスだったけれど。
辛い記憶、それはもう有り得ない可能性ではないことを、その時シュアは再び確認せざるをえなかった。
Next.
風はその灰を運び、その独特の匂いもまた、少し離れたこの場所まで流れ届いてくる。
オゼットから、その周囲の森を数十分ほど歩けば着くような森の中。
災害の影響の、全く無いと言っていい場所。
そこには穏やかに時間の流れる、少し開けた空間が広がっていた。
サク、と自分の靴が枯葉を踏む音を感じながら、シュアはその空間へとゆっくり足を踏み入れる。
途端、耳元で。ヴン…と何かが消えては現れる音。
しかし見回してもその目に何も映らないことが分かって、シュアは気にせずにそのまま歩みを進めることにした。
清閑に佇む一軒家。
その周囲には何も無いが、足音が今までの乾いたそれと違うことに気が付いて、周囲を見回す。
灰が、無い。全くといっていいほど、黒いそれらが見受けられない。
そして枯葉さえも、無い。草葉は一つも枯れることなく、そこに元気なまま存在し続けている。
不思議に思ったところで、結局答えは出ないのだろう。
訝しげに、警戒するように、シュアはゆっくりとその一軒家へと近づき、扉を開ける事もせずにその裏へと回った。
そしてすぐに捉える、小さな墓石。
微かに蘇った記憶と同じように、家の裏で静かに、寂しげに佇んでいるそれへとそっと近寄って膝を折る。
全く風化していない、その墓石の表面。
細々と掘られたその文字を、シュアはゆっくりとその人差し指の腹でなぞった。
「ルビナス・アルメリア…」
これが、彼のフルネーム。
だから、ルビ、なんだね。
今の自分には知り合ってさえ居ないその相手の墓石に、心の中でボソリと語りかける。
ようやく、たどり着いた。
記憶が一つだけ、埋まった。
「ありがとう…」
どんな人かも知らない、貴方だけど。
胸元から取り出した指輪を握って、シュアは祈るようにしながらそう呟く。
さぁ、今度は自分の番だ。
思い出させてくれた彼の代わりに。
次は、自分が思い出さなくちゃいけない。
それが、指輪を持つ自分のやるべきことだ。
仲間たちは、すごく大好きだし、感謝もしてる。
しいなとはもっともっと思い出を作りたかった。
ゼロスにも…すごく感謝をしたい。彼が居たから、今の自分が居る。
でも、自分はそんな彼らと居るべきではない。異端な自分は、居ていい存在ですらないのかもしれない。
世界のことも大切だし、皆のことも大切ではあるけれど。
それに、自分にはもっと大切な何かがある気がする。
彼の事を忘れたままではいけない、気がするのだ。
「ゼロス…ごめん」
静かに暮らそっか。
そう言ったのは、確かに自分からだったのに。
私は、貴方とは一緒に行けないみたい。
死者にとって、忘れられることはどれほど怖いことなのだろう。
想像しか出来ない、彼の気持ちを私は汲み取ることが出来ているんだろうか。
「ごめんね、ゼロス」
ここに本人は居ないというのに。
シュアはもう一度そう、ゼロスの事を思い浮かべると、ゆっくりと立ち上がって墓石に背を向けた。
そして自分の乗ってきたレアバードの方へと、その眉根に皺を寄せたまま、ゆっくりと歩みを進めていった。
「え、行かないって…」
「ごめん。折角…みんな行くってなってたところなのに」
仲間たちを前に、腰を折って頭を下げる。
一晩明けたら集合しようと約束していた森の中で、シュアは仲間たちの視線が強く自分に集まっていることを痛いほど感じていた。
誰もがシルヴァラントから戻れない事になったとしても、最後まで付き合うと決心していた。
仲間たちは、自分以外、みんなが。
それをここまで来て外れる、なんて。
根性無しと思われるだろうか。薄情だと、思われるだろうか。
それでもシュアにはテセアラを離れるわけにはいかない理由がある。
こうして、頭を下げることくらいしか出来ないけれど。
「私は…テセアラに戻らない訳にはいかないの。全てが終わっても、テセアラに戻れなきゃ意味がない…だから、ごめん」
「シュア…!理由くらい…!」
「記憶を、どうしても取り戻さなきゃならなくなったの。だから…」
説明をすると長くなるのだろう。
急に記憶の一部が戻った理由は、自分にも分からないのだし。
ただ、今は分かったと言って自分が頭を下げている間にどうか出発して欲しい。
仲間の顔を、見ることが出来ない。
最初で最後の、自分の拠り所となってくれた仲間たち。
もう、決心している今の内でなければ、どんどん離れるのが寂しくなってしまう。
昨日一日、みんなと離れていたのだから。
それがこれから毎日、続くというだけのこと。
「ありがとう…みんな。元気で、いてください」
「シュア…!」
「しいな。シュアの、決めたことだ」
何かをこらえるように、低く吐き出されたロイドの言葉が今はすごく救いになる。
分かってくれてありがとう。引き止められたら、その分だけどんどん悲しくなる。
「ありがとう…しいな、いつも仲良くしてくれて」
「ありがとう、ゼロス。…私を、拾ってくれて」
「シュア…」
「ゼロスが居なかったら、今の私は無かったね。だから、前にも言った通り…私は誰よりもゼロスの事、信用してたよ」
未だ視線の先には草葉の茂る地面。
頭を上げられないまま、シュアは今までの時間を思い出しては言葉を零していく。
「ジーニアス、リフィルさん。私は自分が人間じゃないかもしれないから、2人と仲良くしてたわけじゃありません。それだけは…覚えといてください…」
「コレット。もっと…話したかったね。もっともっとコレットの事知りたかった」
「プレセア。プレセアのこと…大好きな人、ちゃんといるんだから。気付いて、あげてね」
「リーガルさん。みんなのこと、お願いします。こんなに個性的なパーティー、大変かも…しれないけど!」
「それから…ロイド。分かってくれて、ありがとう。いつまでも、そんなロイドで…みんなを引っ張ってってね」
「シュア…」
「ありがとう。みんな、元気で!」
ずっと下を向いたままなのだから。
早く、早く出発して欲しい。
もうしばらくこのままでいたら、下を向いたままで居たら、
さすがに涙が零れてしまいそうだ。
「シュア…」
皆が離れていく、草葉の鳴った足音。
そこに紛れ込んで聞こえたのは、低く切ない男の声。
はっとして思わず顔を上げた先に、思った通りのゼロスの顔があって、シュアは思わず顔を逸らした。
どうしてそうしたかなんて、本人にもすぐには理解できないまま。
「…ごめん」
「謝んなよ。記憶、ねぇんだもんな…あんまりに本人が能天気だから、忘れてた」
「…うん、でも、」
「…でも?」
「この記憶だけは無くさない。また、いつか…きっと、会える日まで」
「……俺も、忘れねぇよ」
「ゼロス…」
「なんか、お前のこと、忘れらんねぇ気がする」
その言葉だけで十分だ。
心から、精一杯に微笑んだシュアに、苦笑いでしかないゼロスの微笑み。
そしてそれから何も言うことは無く、仲間たちに合流したゼロスもその場を出発した。
飛び立つ仲間たちの姿を、ただ焼き付けるようにシュアは見つめ続ける。
風が、森を抜ける。
流されそうになる雫を、シュアは自分の服の袖でしっかりと拭った。
深い深い森の中。
再び訪れたルビナスの一軒家で、シュアは湿らせたボロ布でゴシゴシと床を磨き続けていた。
ギシギシと鳴る木製の床。ささくれ立った木の壁。
おそらくこの辺の木を刈って作られたのだろう。
埃も積もらず蜘蛛の巣があるわけでもない、相変わらず不思議な家ではあったものの、シュアはとりあえずこの家に住めたなら、と必死で床から磨きにかかる。
ふと、
グラッ…!
大きく身体を揺さぶる衝撃。
ハッと思わず周りを見回すが、特に危険と思える食器や花瓶は全く揺れていない。
地震の割に地響きだけが轟々と響いて、食器のぶつかり合う音も、机が揺れる音も聞こえない。
自分の身体だけが暫くの間大きく揺れて、ようやく地震の治まる頃には、シュアはただただ家中を見回すことしか出来なかった。
「どうして…揺れないの?」
手に取ることも出来る。自分の力で皿自体の山を揺らせば食器も揺れる。
けれど、地震でそれは起きなかった。
何か、不思議な力がこの家が荒れるのを防いでいるように。
いや、そうだそれよりも。
大きな地震。という事は、仲間たちは最後の精霊との契約を終えたのだろうか。
世界が二つに分かれた衝撃?
もう、これで仲間たちと会うことも…きっと、無い。
「そうだ…」
ミトス。ミトスやアルテスタ達は無事だろうか?
沢山の思考が飛び交う中で、ボロ布をシンクへと放り投げたシュアはすぐさまその古びた家を飛び出した。
コンコン。
「シュアです。入ります」
入り口の外には、大きな岩が落ちていた。
家自体は崩れていないアルテスタの家に着くなり、シュアは家主の返事を待つでもなく扉を開く。
そこには、声こそ掛けたものの、突然の侵入者に当然驚きこちらを振り返ったアルテスタが立っていた。
今しがた、どこかに行こうと歩いていた様子なのが分かる。
「なんだ、お前さんか」
「アルテスタさん、地震…平気でしたか?大きかったので…」
「あぁ、わしは…じゃがミトスがな、タバサを庇って怪我をしおった…」
アルテスタが行こうとしていたのは寝室なのだろう。
その手には、薬と包帯を持っている。
シュアはその言葉を聞くや否や、すぐに寝室へと飛び込んでいった。
奥のベッドで、タバサに付き添われたままミトスが横になっている。
「ミトス…!」
すぐに脇へと避けたタバサの隣に立って、シュアは懸命にファーストエイドを唱えた。
ミトスにもしものことがあったら、シルヴァラントに行った仲間に申し訳が立たない。ジーニアスもすごく悲しむだろう。
五回ほどシュアがファーストエイドを唱え終えた頃になって、ゆっくりと、ミトスはその目蓋を開く。
「ミトス!」
「…シュア…さん」
「タバサ、庇ったんだって?」
「どうして…ここに?」
「私は…行かなかったの。私だけ…なんだけど」
「どうして…」
だんだんと意識も口調もはっきりしたように問いかけてくるミトスに、苦笑いしか出来ないシュアもはっきりと言葉を返す。
「探さなきゃいけない記憶があるから」
「…そう。それが、どんなに辛い記憶だったとしても?」
「…え?」
「…ごめんなさい。もしもの話だから…」
一瞬だけ、いつものミトスの声ではないくらい、低い声で。
どこか遠くを見つめながら言うミトスにゾクッとした。
「…もう少し、寝てて。今は身体、治そう」
「はい」
素直に目蓋を閉じるミトスは、もういつものミトスだったけれど。
辛い記憶、それはもう有り得ない可能性ではないことを、その時シュアは再び確認せざるをえなかった。
Next.