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チン、とエレベーターの到着を告げる音が響く。
「シュアは、この旅終わったらどうすんのよ」
少し先に見える未来。
二つの世界を分断すれば、もう何も世界の心配をする必要の無い、ごく普通の日常が訪れる。
一緒に乗っていたゼロスと共に希望した4階へと降りると、シュアの後ろですぐにその扉は自動で閉まった。
「うーん…どっちに残るか、によるよね」
分断される二つの世界。
シルヴァラントとテセアラ、その行き来が出来なくなるということは、どちらかを選ばなければいけないということ。
そしてそれを考えるため、一行はそれぞれがそれぞれの場所で自分の考えを纏める為の時間を設けていた。
テセアラ組のしいな、ゼロス、リーガル、プレセア、そしてシュア。
しいなは里に戻り、プレセアは荒れ果てたオゼットへ。
リーガルはアルタミラ、そして帰れないゼロスと帰る場所の分からないシュアもまた、リーガルの計らいで訪れていたのがこのアルタミラホテルだった。
「ゼロスは?どうするの?」
4階、エレベーターホール。
大きな窓から、暗くなり始めてライトアップされたアルタミラの街を見下ろしながら、シュアはゼロスに問いかける。
「俺様は…やっぱシルヴァラントか。そうすりゃ神子からもようやく解放される」
「解、放…?」
けれどそこでハッとしたようにゼロスは口を閉ざす。
シュアには極力話さないようにしていた神子のこと。
しかしシュアはそんなゼロスにも疑問に思うでもなく、困ったように小さく笑みを浮かべていた。
「…神子のこと、ゼロスは話そうとしないよね。コレットのことは分かったの。衰退世界の神子は自分自身が天使になることで世界を救う。でも…」
そのまま言葉を切って自分を見上げたシュアに、ゼロスは少し遠く、町並みを見つめて細く息を吐いた。
そろそろ言ってもいい頃かもしれない。
シュアはゼロスをゼロスだとしか思っていないし、今更自分の立場を告げたところで何も変わりやしないだろう。
それは確信でもなければ、ただ淡い期待のようなものなのだけれど。
「繁栄世界…テセアラだからっつーよりは、繁栄すりゃ嫌でもこうなるのかも知れねぇな。マーテル教の普及したこの世界で、神子は自然と王位継承権を持つんだ。当然俺様も、例外じゃない」
「ゼロスが…?継承権?」
「そっ。王位だぜ?柄じゃねーっつーかなんつーか」
でっひゃっひゃ、といつものように笑うそのゼロスの裏に、けれどいつものような明るさは感じられない。
最も、シュアにとってはいつもだって同じようなものだとは、思えていたのだけれど。
「俺様の命を狙う教皇。あいつだけじゃない、大人たちはどーもそれに対する執着が強くてな、裏じゃ気にいらなくて蔑む。表じゃ散々と持ち上げる。権力の奪い合いなら勝手にやりゃいーのによ、俺様は全く興味ねぇんだから」
自嘲気味に笑うゼロスのそのずっと奥。
こんなことを嘆いてもどうにもならないと思っていた。
実際ならなかっただろう。だから文句を言ったことは無い。
誰かに話すなんて余計に、無駄な事だと。
「神子でさえなきゃ、俺はんな事にも巻き込まれないで普通の男で暮らしてたんだよ。神子なんて…禄でもない、いーご身分だ」
「ゼロス…」
「ま、俺様はそれを華麗にこなしてきたわけだけどー」
目の前の大きな窓に、いつもより、少し弱弱しいゼロスの笑顔が映る。
それを横目に見ながら、シュアは以前のゼロスの言葉を思い出していた。
『それでも、俺は…羨ましいけどな』
本人は聞こえていなかったと思っているだろう。
けれど確かにそう呟いていた。記憶を失う事が羨ましいと。
そんな彼の言葉の意味を、シュアはようやく理解することができた。
禄でもない。そんな記憶なら忘れてしまいたいと思うほどの生活。
隠し事の多い人だとは思っていた。神子の事にしろ、自分の感情にしろ。
いつも歯がゆくて、今にもその喉から何かが溢れてきそうなのに、彼のその喉から言葉が出ることはなくて。
表情に滲み出る事さえ許してやっていない。ようやく話してくれた今でさえ、感情など半分も出していないのだろう。
そしてそれでも話してくれたのが、シュアには無性に嬉しかった。
自分が彼を信じきっている分、彼もまた自分を信じてくれたのだろうかと思える。
そしてそんな彼を、出来るなら自分で解放してあげたいとも。
「…じゃぁさ、逃げちゃおうよ」
「…は?」
しばらくぶりに発せられた彼女の言葉がそれであることに、思わずゼロスの口からはそんな間の抜けた声が零れた。
「メルトキオを出て、誰も知らない…どこか森の奥。髪も切って、地味に変装して…静かに暮らそっか」
そして振り返ったシュアは、そんなゼロスに向かってにっこりと微笑んだ。
あぁ、でもシルヴァラントに行くんだっけ…そう、すぐに零して。
「じゃぁゼロスは逃げないで戦って、自分の自由を勝ち取るんだね。神子が特別じゃなくなった世界で。それがテセアラじゃなくても」
もはや独り言のように、アルタミラの町を見下ろしながら、そう紡ぐシュア。
そしてゼロスはそんなシュアの横顔を見つめながら、何も言うことが出来なかった。
今まで、こんなことを言う人なんて、ゼロスは出会ったことがなかったから。
逃げちゃえばいい。どこかに。
そう言い捨てるのでさえなく、どこかに逃げようと、言ってくる人間。
「逃げちゃおうか、暮らそっかって…シュアも一緒に、暮らしてくれんだ?」
「…あれ?あ…こ、言葉の文って言うか…」
それだけ親身に考えてくれたのだろう。
共に居ようとしてくれるんだろうか。
どこまでもお人好しで、人の事なのに自分のその意思はとても固くて。
そんな彼女は、確かに自分の記憶以外に会っているはずがないのに…
どこか、帰ってきたのだと、その両手を広げたくなるようで。
「…大歓迎」
しどろもどろになって顔を赤くするシュアに、ゼロスはそう零しながら小さく笑みを浮かべた。
俯き、あれこれ言葉を探っていたシュアが顔を上げる。
そんな瞬間。
ドクン。
強く胸を打つような熱い感情が自分を襲う。
そうしてそのまま、シュアはゼロスのその表情から目を離す事が出来なかった。
今までとは違う、笑顔。
顔こそ整っているとは思っていたけれど、そんなシュアのずっとずっと想像以上の、端正な顔立ちを引き立たせる様な綺麗な微笑み。
影がどこかに取っ払われたように、純粋で。
見事にそれが自分の心臓を鷲掴みするのを、はっきりと感じる。
こんな表情も、できるんだ…。
そう、シュアも感嘆するような表情が、けれどすぐに不思議そうなそれへと変えられた。
自分を微動だにせず見つめるシュアの顔を覗き込みながら。
「…シュア?」
「あ…え?」
「…何、俺様に見とれちゃってた?」
「ち、違う違う!そんなわけないでしょ!」
見とれていた。
図星を突かれて思わずシュアの声が裏返る。
そしてそれを聞いて笑うゼロスはもう、その表情にやはり少しだけ…いつものようにおちゃらけたそれを含ませていた。
「…で、シュアはどーすんのよ」
ふと、唐突に引き戻された、話題。
それがゼロスの口から放たれると、シュアは小さく肩を竦めて溜息を吐く。
「私は…まだ、迷ってる」
「ふぅん?」
「記憶、探さなきゃって…。でも、シルヴァラントに行ったら、二度とこちらには戻れない。記憶も探せない。でも、シルヴァラントに行って、みんなと最後に戦いたい…」
高鳴ったままの鼓動が中々引かないのを感じながら、シュアはそう零して胸元の指輪をその手にぎゅっと握った。
これの事だって分かっていない。
必ず手がかりではあるのだろう。それでもシュアがこれについて、無理してでも探そうという気には不思議とならなかった。
誰かが見守ってくれているような、不思議な安心感。
この指輪があるからこそ、逆にそれが探し出す気さえ掻き消していくような。
それはユアンのマナに似て。
けれど、彼はおそらく指輪の人物ではないのだろう。シュアの問いかけにも、やはり心当たりはないようだったから。
「でも、それより…」
「ん?」
そう呟いて、ちらっと、ゼロスに送った視線。
すぐにゼロスが振り向いて、シュアは慌ててその視線を元に戻す。
「不安…かな。皆のことしか知らない、この世界で生きていくのは」
ロイドも、コレットもしいなも。きっとジーニアスもリフィルも。
そして本人がこう言うのだから、ゼロスも。
二度と会えなくなる。プレセアやリーガルも行くのなら、自分の知っている仲間たちは居なくなってしまう。
綺麗なあの笑顔だって…見られなくなる。
それはものすごく…ずき、と自分のどこかが痛むように、シュアにとっては想像しただけで目も逸らしたくなることだった。
ゼロスとももう二度と、会えなくなる。
…永遠の別れなんて、死ぬときだけで十分なのに。
「あ…」
「ん?どうした?」
何も言えずに居たゼロスが、思わずふと声を上げたシュアに振り向いた。
その視線の先で、どこでもない一点を見つめたまま、眉根を寄せているシュア。
前にも感じたこの感情が、今は酷く自分の中で響いていく。
死に急ぐように、自分を犠牲にしたボータ。
人が死ぬところ、永遠の別れだなんて、もう見たくないと。
人が死ぬのはもう散々だと思う気持ち。
別れへの深い悲しみ。ある種の死への執着。
もしかしたら…。
そう、あるひとつの考えを頭に過ぎらせながら、シュアは指輪を握ったままの掌を開いて、その指輪をじっと見つめた。
この人は、もうきっとこの世にいないんじゃないだろうか…
瞬間。
それはまるで悟ったとでも言うように。キン、と額を射抜かれたように弾ける記憶。
そして弾けた記憶はシュアの中にその光景を蘇らせた。
――横たわる青年。
まるでゼロスのような、紅い髪。
けれど彼のようなウェーブはかからず、短い髪が重力に従って地に流れている。
彼自身の、その血と、同じように。
そして段々と血の気を失っていく顔色に似つかわしくない、穏やかな表情を浮かべて。
微動だにせず、茂る草葉の上で横たわっている。
彼がルビだと、シュアには考えるでもなく分かってしまった。
根拠はない。分かってしまったものは仕方がない。彼の記憶が、戻ったのだから。
次に浮かぶ光景。
森の中、ポツンと静かに佇む家のその裏で、同じく静かに、寂しげに佇む墓石。
これがどこなのか。今は分かる。
そして自分はここに行かなければならない。
思い立ったシュアには、もう他の事など考える余裕もなかった。
明日にはロイドたちはこの世界を離れ、自分の居場所にシルヴァラントを望んだ者たちもまた、この世界から居なくなることも。
そしてそれほどに、これが自分にとって大事なものだということを悟る暇もないほどに。
「…ごめん、ゼロス」
「は…?シュア?」
「私、ちょっと出掛けてくるね」
唐突に言ったシュアが徐に、急ぐようにエレベーターのボタンを連打して、すぐに開いた扉から乗り込んでいく。
その中から、再び焦ったようにボタンを連打する音。
そしてその扉はすぐに閉ざされると、シュアを入り口のある1階へと運んでいった。
そんな突然の事に、驚くゼロスが聞き返す暇などなく。
エレベーターを見つめたまま、ゼロスは尋ねる事も出来なかった言葉を、1人、ボソリと呟く。
「…なんで謝んだよ?」
小さく響く、ガランとしたエレベーターホール。
ゼロスの背後に見えるアルタミラの街はもう、完全にライトアップを済ませた、夜のネオンに彩られていた。
Next.
「シュアは、この旅終わったらどうすんのよ」
少し先に見える未来。
二つの世界を分断すれば、もう何も世界の心配をする必要の無い、ごく普通の日常が訪れる。
一緒に乗っていたゼロスと共に希望した4階へと降りると、シュアの後ろですぐにその扉は自動で閉まった。
「うーん…どっちに残るか、によるよね」
分断される二つの世界。
シルヴァラントとテセアラ、その行き来が出来なくなるということは、どちらかを選ばなければいけないということ。
そしてそれを考えるため、一行はそれぞれがそれぞれの場所で自分の考えを纏める為の時間を設けていた。
テセアラ組のしいな、ゼロス、リーガル、プレセア、そしてシュア。
しいなは里に戻り、プレセアは荒れ果てたオゼットへ。
リーガルはアルタミラ、そして帰れないゼロスと帰る場所の分からないシュアもまた、リーガルの計らいで訪れていたのがこのアルタミラホテルだった。
「ゼロスは?どうするの?」
4階、エレベーターホール。
大きな窓から、暗くなり始めてライトアップされたアルタミラの街を見下ろしながら、シュアはゼロスに問いかける。
「俺様は…やっぱシルヴァラントか。そうすりゃ神子からもようやく解放される」
「解、放…?」
けれどそこでハッとしたようにゼロスは口を閉ざす。
シュアには極力話さないようにしていた神子のこと。
しかしシュアはそんなゼロスにも疑問に思うでもなく、困ったように小さく笑みを浮かべていた。
「…神子のこと、ゼロスは話そうとしないよね。コレットのことは分かったの。衰退世界の神子は自分自身が天使になることで世界を救う。でも…」
そのまま言葉を切って自分を見上げたシュアに、ゼロスは少し遠く、町並みを見つめて細く息を吐いた。
そろそろ言ってもいい頃かもしれない。
シュアはゼロスをゼロスだとしか思っていないし、今更自分の立場を告げたところで何も変わりやしないだろう。
それは確信でもなければ、ただ淡い期待のようなものなのだけれど。
「繁栄世界…テセアラだからっつーよりは、繁栄すりゃ嫌でもこうなるのかも知れねぇな。マーテル教の普及したこの世界で、神子は自然と王位継承権を持つんだ。当然俺様も、例外じゃない」
「ゼロスが…?継承権?」
「そっ。王位だぜ?柄じゃねーっつーかなんつーか」
でっひゃっひゃ、といつものように笑うそのゼロスの裏に、けれどいつものような明るさは感じられない。
最も、シュアにとってはいつもだって同じようなものだとは、思えていたのだけれど。
「俺様の命を狙う教皇。あいつだけじゃない、大人たちはどーもそれに対する執着が強くてな、裏じゃ気にいらなくて蔑む。表じゃ散々と持ち上げる。権力の奪い合いなら勝手にやりゃいーのによ、俺様は全く興味ねぇんだから」
自嘲気味に笑うゼロスのそのずっと奥。
こんなことを嘆いてもどうにもならないと思っていた。
実際ならなかっただろう。だから文句を言ったことは無い。
誰かに話すなんて余計に、無駄な事だと。
「神子でさえなきゃ、俺はんな事にも巻き込まれないで普通の男で暮らしてたんだよ。神子なんて…禄でもない、いーご身分だ」
「ゼロス…」
「ま、俺様はそれを華麗にこなしてきたわけだけどー」
目の前の大きな窓に、いつもより、少し弱弱しいゼロスの笑顔が映る。
それを横目に見ながら、シュアは以前のゼロスの言葉を思い出していた。
『それでも、俺は…羨ましいけどな』
本人は聞こえていなかったと思っているだろう。
けれど確かにそう呟いていた。記憶を失う事が羨ましいと。
そんな彼の言葉の意味を、シュアはようやく理解することができた。
禄でもない。そんな記憶なら忘れてしまいたいと思うほどの生活。
隠し事の多い人だとは思っていた。神子の事にしろ、自分の感情にしろ。
いつも歯がゆくて、今にもその喉から何かが溢れてきそうなのに、彼のその喉から言葉が出ることはなくて。
表情に滲み出る事さえ許してやっていない。ようやく話してくれた今でさえ、感情など半分も出していないのだろう。
そしてそれでも話してくれたのが、シュアには無性に嬉しかった。
自分が彼を信じきっている分、彼もまた自分を信じてくれたのだろうかと思える。
そしてそんな彼を、出来るなら自分で解放してあげたいとも。
「…じゃぁさ、逃げちゃおうよ」
「…は?」
しばらくぶりに発せられた彼女の言葉がそれであることに、思わずゼロスの口からはそんな間の抜けた声が零れた。
「メルトキオを出て、誰も知らない…どこか森の奥。髪も切って、地味に変装して…静かに暮らそっか」
そして振り返ったシュアは、そんなゼロスに向かってにっこりと微笑んだ。
あぁ、でもシルヴァラントに行くんだっけ…そう、すぐに零して。
「じゃぁゼロスは逃げないで戦って、自分の自由を勝ち取るんだね。神子が特別じゃなくなった世界で。それがテセアラじゃなくても」
もはや独り言のように、アルタミラの町を見下ろしながら、そう紡ぐシュア。
そしてゼロスはそんなシュアの横顔を見つめながら、何も言うことが出来なかった。
今まで、こんなことを言う人なんて、ゼロスは出会ったことがなかったから。
逃げちゃえばいい。どこかに。
そう言い捨てるのでさえなく、どこかに逃げようと、言ってくる人間。
「逃げちゃおうか、暮らそっかって…シュアも一緒に、暮らしてくれんだ?」
「…あれ?あ…こ、言葉の文って言うか…」
それだけ親身に考えてくれたのだろう。
共に居ようとしてくれるんだろうか。
どこまでもお人好しで、人の事なのに自分のその意思はとても固くて。
そんな彼女は、確かに自分の記憶以外に会っているはずがないのに…
どこか、帰ってきたのだと、その両手を広げたくなるようで。
「…大歓迎」
しどろもどろになって顔を赤くするシュアに、ゼロスはそう零しながら小さく笑みを浮かべた。
俯き、あれこれ言葉を探っていたシュアが顔を上げる。
そんな瞬間。
ドクン。
強く胸を打つような熱い感情が自分を襲う。
そうしてそのまま、シュアはゼロスのその表情から目を離す事が出来なかった。
今までとは違う、笑顔。
顔こそ整っているとは思っていたけれど、そんなシュアのずっとずっと想像以上の、端正な顔立ちを引き立たせる様な綺麗な微笑み。
影がどこかに取っ払われたように、純粋で。
見事にそれが自分の心臓を鷲掴みするのを、はっきりと感じる。
こんな表情も、できるんだ…。
そう、シュアも感嘆するような表情が、けれどすぐに不思議そうなそれへと変えられた。
自分を微動だにせず見つめるシュアの顔を覗き込みながら。
「…シュア?」
「あ…え?」
「…何、俺様に見とれちゃってた?」
「ち、違う違う!そんなわけないでしょ!」
見とれていた。
図星を突かれて思わずシュアの声が裏返る。
そしてそれを聞いて笑うゼロスはもう、その表情にやはり少しだけ…いつものようにおちゃらけたそれを含ませていた。
「…で、シュアはどーすんのよ」
ふと、唐突に引き戻された、話題。
それがゼロスの口から放たれると、シュアは小さく肩を竦めて溜息を吐く。
「私は…まだ、迷ってる」
「ふぅん?」
「記憶、探さなきゃって…。でも、シルヴァラントに行ったら、二度とこちらには戻れない。記憶も探せない。でも、シルヴァラントに行って、みんなと最後に戦いたい…」
高鳴ったままの鼓動が中々引かないのを感じながら、シュアはそう零して胸元の指輪をその手にぎゅっと握った。
これの事だって分かっていない。
必ず手がかりではあるのだろう。それでもシュアがこれについて、無理してでも探そうという気には不思議とならなかった。
誰かが見守ってくれているような、不思議な安心感。
この指輪があるからこそ、逆にそれが探し出す気さえ掻き消していくような。
それはユアンのマナに似て。
けれど、彼はおそらく指輪の人物ではないのだろう。シュアの問いかけにも、やはり心当たりはないようだったから。
「でも、それより…」
「ん?」
そう呟いて、ちらっと、ゼロスに送った視線。
すぐにゼロスが振り向いて、シュアは慌ててその視線を元に戻す。
「不安…かな。皆のことしか知らない、この世界で生きていくのは」
ロイドも、コレットもしいなも。きっとジーニアスもリフィルも。
そして本人がこう言うのだから、ゼロスも。
二度と会えなくなる。プレセアやリーガルも行くのなら、自分の知っている仲間たちは居なくなってしまう。
綺麗なあの笑顔だって…見られなくなる。
それはものすごく…ずき、と自分のどこかが痛むように、シュアにとっては想像しただけで目も逸らしたくなることだった。
ゼロスとももう二度と、会えなくなる。
…永遠の別れなんて、死ぬときだけで十分なのに。
「あ…」
「ん?どうした?」
何も言えずに居たゼロスが、思わずふと声を上げたシュアに振り向いた。
その視線の先で、どこでもない一点を見つめたまま、眉根を寄せているシュア。
前にも感じたこの感情が、今は酷く自分の中で響いていく。
死に急ぐように、自分を犠牲にしたボータ。
人が死ぬところ、永遠の別れだなんて、もう見たくないと。
人が死ぬのはもう散々だと思う気持ち。
別れへの深い悲しみ。ある種の死への執着。
もしかしたら…。
そう、あるひとつの考えを頭に過ぎらせながら、シュアは指輪を握ったままの掌を開いて、その指輪をじっと見つめた。
この人は、もうきっとこの世にいないんじゃないだろうか…
瞬間。
それはまるで悟ったとでも言うように。キン、と額を射抜かれたように弾ける記憶。
そして弾けた記憶はシュアの中にその光景を蘇らせた。
――横たわる青年。
まるでゼロスのような、紅い髪。
けれど彼のようなウェーブはかからず、短い髪が重力に従って地に流れている。
彼自身の、その血と、同じように。
そして段々と血の気を失っていく顔色に似つかわしくない、穏やかな表情を浮かべて。
微動だにせず、茂る草葉の上で横たわっている。
彼がルビだと、シュアには考えるでもなく分かってしまった。
根拠はない。分かってしまったものは仕方がない。彼の記憶が、戻ったのだから。
次に浮かぶ光景。
森の中、ポツンと静かに佇む家のその裏で、同じく静かに、寂しげに佇む墓石。
これがどこなのか。今は分かる。
そして自分はここに行かなければならない。
思い立ったシュアには、もう他の事など考える余裕もなかった。
明日にはロイドたちはこの世界を離れ、自分の居場所にシルヴァラントを望んだ者たちもまた、この世界から居なくなることも。
そしてそれほどに、これが自分にとって大事なものだということを悟る暇もないほどに。
「…ごめん、ゼロス」
「は…?シュア?」
「私、ちょっと出掛けてくるね」
唐突に言ったシュアが徐に、急ぐようにエレベーターのボタンを連打して、すぐに開いた扉から乗り込んでいく。
その中から、再び焦ったようにボタンを連打する音。
そしてその扉はすぐに閉ざされると、シュアを入り口のある1階へと運んでいった。
そんな突然の事に、驚くゼロスが聞き返す暇などなく。
エレベーターを見つめたまま、ゼロスは尋ねる事も出来なかった言葉を、1人、ボソリと呟く。
「…なんで謝んだよ?」
小さく響く、ガランとしたエレベーターホール。
ゼロスの背後に見えるアルタミラの街はもう、完全にライトアップを済ませた、夜のネオンに彩られていた。
Next.