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燃え盛る炎。
多く連なった木々もまた、炎の前にはどうにも抵抗のしようがないのだろか。
清閑に佇んでいたその村の影はもうない。
家々も、木々も、全てが轟々と炎に包まれている。
それは本当に突然の事だった。
地の精霊との契約を済ませ、ロイドたちが神殿を出た瞬間、天を割ったような雷がオゼットの方へと落ちていくのをロイドたちが見たのは。
急いで駆けつけてみれば、やはりそれは直撃した後で。
「…ひどい」
変わり果てた故郷。
それを目前にして、プレセアが絞り出すように呟く。
「プレセア…」
その小さな肩にそっと手を置いて声を掛けるロイド。
その後ろでジーニアスがもどかしそうに自分の拳を握っていた。
「見て!」
突然、声を上げたコレットの指差した先。
村の真ん中で倒れている少年に、今正に崩れかけた家屋の一部が倒れようとしている。
急いで駆け寄っていくロイド達。
しかしその後ろで、動こうとしないシュアに、顔を見合わせるしいなとゼロスの3人だけは村の入り口に取り残された。
「シュア?」
「…私、この光景、見たことがある…」
「デジャヴ…ってやつか?夢で見たとかじゃねぇの?」
「…どう、なんだろ…」
ただひたすらに辺りを見回して、探る頭にシンクロするような光景が広がる。
燃え盛る木々や家々。
逃げ惑い、死んでいく人々。
そしてその光景を、傍観するしか出来ない自分。
負の感情で満ち足りたその空間を、作り出したのは自分であると。
その自分は、自分自身を責め続けている。
「それか、きっと…記憶」
「…あぁ、そうかもしれないよ!」
「けどよ、テセアラでここ最近、そんな事件は無かったぜ?」
ゼロスの言葉に思わず彼を振り返るが、そっか…と呟くしか出来ないシュアは、再びその惨事を見回してため息を吐いた。
「私たちも行こっか」
そして少年を助けたロイドたちを追って、3人もまた火の手の回っていないプレセアの家の方へと駆けつけていった。
「一体何があったんだ」
ゆっくりと目を覚まし、起き上がる少年。
辺りを見回して、問いかけるロイドにも脅えたように一歩距離を置いた。
そして、ゆっくりと紡がれるその経緯。
「…よく、分かりません。突然雷が襲ってきて、天使様が村を襲ってきたんです」
「くそっ、クルシスか!」
俯いたまま話す少年の前で、声を荒げるロイド。
それにまた少しだけ後ずさる少年に、見かねたゼロスが声を掛けた。
「しっかしよく無事だったなぁ。生き残りはお前だけなのか?名前は?」
「僕はミトス…といいます。村の外れに一人で暮らしてたから…」
「ミトス!英雄ミトスと同じ名前だ!」
答える少年のその名前に感激したロイドを、珍しいことではないと、リフィルは呆れた様に諭す。
そしてその後ろで、ジーニアスだけは訝しげに彼の事を見つめ続けた。
「あれ。もしかしたら…君ハーフエルフじゃないの」
結局、悟ったようにジーニアスがそう言ったのは、それからあまり経っていない時だった。
「!ぼ、僕は…」
ハーフエルフだなんて、分かった人間が何をしてくるか。
今度は完全に脅えてしまったミトスに、リフィルは自分達の正体を明かし、それに少しだけ驚いたようにしたミトスもそこで初めて、しっかりと顔を上げてリフィルとジーニアスを見つめた。
「…そっちの女の人」
それから、視線を動かしたミトスはじっとシュアを見据える。
「…私?」
「あなたは…?僕たちと同じじゃない。でも、マナが…」
ちらほらと、仲間たちが自分に振り向くのがシュアには分かった。
そしてそれがまた、辛い。
不審であったり、訝しげに思っているんだろう。
自分はマナ、そのもの。
そう言ったら、仲間たちはどんな反応をするだろうか。
そっと、リフィルが口を開いた。
「彼女は記憶が無いの。だから自分でも…」
「色んなマナが混ざってる…。ハ-フエルフよりも正体が分からないのに…?」
ずき。
僅かに悲鳴を上げる自分の感情。
そんなシュアの後ろで、ゼロスもしいなも訝しげにはしながらも、その言葉がまるで不快であるかのように眉間に深く皺を刻んだ。
軽く拳を握って、答える術もなく俯いてしまったシュア。
沈黙はながれ、仲間の誰もが彼女を傷つけてしまっていることを悟る。
「ミトス!」
そうして、慌ててミトスに呼び掛けたジーニアスに、ミトスは弾かれた様にジーニアスを見つめた。
「僕も姉さんもシュアも、みんなこの人たちの仲間なんだ。君を差別したりしない。だから…」
「…えぇ。彼女は、自分を危険にさらしてまでハーフエルフの私たちを助けてくれた人よ」
「……」
一度俯いたミトスが、顔を上げる。
静かに、困ったようにミトスを見つめるシュアを、見つめ返す。
「…ごめんなさい。僕、ひどいこと言いましたよね。これじゃぁ…僕たちを差別する人と同じだ…」
「ミトス…」
「ごめんなさい」
そしてすぐにシュアは、そうでない笑顔で大丈夫だよ、と微笑んで見せた。
ミトスの反応が自然なのかもしれないと、悟ったから。
もしここで正体を明かしても、結果は一緒だろう。
しいなやゼロスの自分を見る視線にも気が付かずに、シュアは段々と自分が仲間たちから離れていくような、そんな気がしていた。
過呼吸、あるいは酸素不足。
そんな感覚から来るような僅かな怠惰感が、自分の頭を巡っているような、更なる感覚。
テセアラよりもマナの薄いシルヴァラントは、初めの内こそなれないその空間。
シュアにとっては酸素が足りないも同然のそんな世界だった。
異界の扉を通ってきたそこは、ロイド達にとっては故郷。ゼロス達にとってはまさに異界。
そして、もはや衰退世界の象徴とも言える人間牧場もまた、テセアラ組にとって始めて訪れる場所である。
鳴り響くサイレン。
今正に倒したばかりの、ハーフエルフであった…怪物ロディルは、その作動させた自爆システムの上でもはや動きもしない。
あと数分でこの人間牧場も粉々になるだろう。
どうしようもなく困惑しているロイドたちの居る管制室に、ふと響いた機械音。
と同時に脇の扉が開いて、そこからレネゲードの中でも代表格、一度テセアラベースでも戦ったユアンの部下ボータが、何人かの部下と共に姿を現した。
「ボータ!自爆装置が…!」
「分かっている!お前たちはすぐにそこの地上ゲートから脱出しろ!」
言われたロイドが辺りを見回して、すぐに見つけたその場所に仲間を呼びながら、自分もまた他のフロアへと登っていく。
そして相変わらず最後尾のシュアもまた、同じく続こうとした時。
「ユアン様を…頼むぞ」
「え…?」
振り返った先で、真剣にこちらを見つめるボータ。
思わず足を止めたシュアに前を行っていたゼロスが引き返して、すぐにボータは再び機械へとその視線を落とした。
なにを?どうして?
自分は?どうしてそんな事を人に…私に頼むの?
「シュア!早くしろ!」
「う、ん…」
呼び掛けられて仕方なくも、すぐあとについて自分も上のフロアへと上った。
そして最後に振り返ったときには、やはりボータは懇願するように、何かを祈るように、じっとシュアを見つめている。
直後。
‐ウィン。
淡白に響く機械音。
同時に、今正にシュアが上ってきたばかりの扉が、自動で瞬時に閉ざされる。
さっきまで居た室の見える透明のウィンドウを思わず見つめると、顔を上げたボータは、もうシュアを見ることもせずにしっかりとこちらに向かって立ち尽くしていた。
扉はもう、開かない。
どんなに仲間たちが攻撃を加えても、ウィンドウも壊れてくれやしない。
まさか…
そう、シュアが悟ったときにはもう遅い。
彼らの足元から水は迫って、無情にもウィンドウにはもう一枚の壁がかかって見えなくなった。
あぁ、だから頼むって…
自分が、もう戻れないことを悟っていたから。
「みんな!後ろ…!」
叫ぶリフィルの通りに誰もが振り向けば、そこにあった檻からは何体もの飛竜が飛び掛ってくる。
やりきれない思いを無理やり捻りつぶしながら、仲間たちはいっせいに、それぞれの武器を構えた。
無機質な空間。
ひんやりとした廊下。
静かなその空間に、いくつもの足音だけがひたひたと響いている。
しっかりしなければ。
ボータの遺志。
なぜ、自分に伝えたのかシュアには未だに分からない。
もちろん、ただ単に、最後尾だったからかもしれない。
けれど、とにかくもユアンの前でこんな顔をしていては、いけないんだ。
ウィン。
機械音さえも切なく響いて、どこか萎れたようになってしまったロイド達一行は、シルヴァラントベース、ユアンの私室へと足を踏み込んでいく。
そしてユアンといえば、まるで自分たちが来るのを分かっていたかのように、デスクの向こうで背を向けたままに立ち尽くしていた。
「…来たか」
「ユアンさん…ボータさんが…」
「…死んだのか」
コレットの言葉を補うようにロイドが頷く。
「あぁ…。最期に任務を果たしたって俺たちに伝えてくれって」
「そうか…では空間転移装置を作動させよう。好きに世界を行き来するがいい」
「それだけかよ!」
それでも淡々と、相変わらず背を向けたままでそう放ったユアンに、すぐさまそう噛み付いたのはロイドだった。
誰もがその気持ちは分かる。けれどリーガルとゼロスが何とか宥めると、すぐにロイドは渋々と自分の暴言を謝罪する。
それでも納得のいかなそうにしているのは、ロイドだけではなかった。
ゼロスに促されロイドが部屋を後にすると、仲間たちもまたそれに続いていく。
何も言うことは出来ないし、転移装置を使えるのなら、もうここに用は無い。
けれどシュアだけは、動こうともせずにそこに立ち尽くしてじっと、ユアンの背中を見つめていた。
「…まだ何かあるのか」
当然、気付いたのだろう。
声を掛けられて、シュアは臆するでもなくユアンに3歩、近づいていく。
「頼まれたんです。ボータさんに、貴方の事を」
「私の事…だと?」
「“ユアン様を頼むぞ”と。そう、言われたんです」
「…そうか。…それで、用件はそれだけか?」
「…貴方はどうして私の事を知っているんですか?」
はっとしたように振り向くユアンの、それは思わずだったのだろうか。
すぐにシュアから視線を逸らして、横を向いてしまったユアンは腕を組んだままに小さく「さぁな」と呟いた。
「…私、記憶が無いんです。どうして…隠すんですか?」
「知る必要のあることなら、否応無しにも分かる事だ。人に聞くのではなく、自分で見つけるのだな」
「ユアンさ…」
「シュア?」
呼び掛けたシュアを遮る様に、仲間たちが去り、また自動的に閉まっていた扉が開いて、ゼロスがそこから顔を出す。
「…何、やってんの?」
「ゼロスこそ。わざわざ戻ってきてくれたの?」
「あ、あぁ。ロイド君たちもう入り口に着いてる頃だぜ?」
「そっか、ごめん。今行く」
すぐにゼロスが退室して、シュアも入り口の方まで歩みを進める。
そして振り返る、いまだ変わらず腕を組んだままのユアンは。
やはりシュアにとって、どこか気になるのだ。
記憶を引き出してくれる。決して、ただの敵ではない人物。
優しいような、暖かいような。自分に送られてきたマナは、確かにそんな感じで溢れていて。
「…葉形の、痣」
「…なんだ?」
「いいえ…」
カマをかけるように発した言葉にも、ユアンには心当たりが無さそうに、シュアを見返す。
彼じゃぁ、無い。
名前こそ違うけれど、ルビという人物ではないかと思えるくらい。
彼はどこか懐かしくて、心地よい。マナだけで、十分に伝わってくるのに。
「もう…魔術を使っても眩暈が起こらないんです。あなたのおかげで、もう大丈夫です」
ドア口に手を掛けて、言ったシュアにもユアンはやはり何も答えない。
そしてその言葉どおり、先の人間牧場で飛竜と戦ったときにも、もうシュアに眩暈は起こらなかった。
ユアンの言ったとおり、自分の事を理解したから。
自分自身のマナを大量に消費して、魔術を使うことがなくなったから。
そしてもう、倒れて仲間たちに迷惑をかけることも、ない。
「ユアンさん…ありがとうございました」
最後に、こっちを見ることもないユアンに微笑みかけて、シュアはようやくその部屋を後にした。
一人、残されて静まり返った私室に、ユアンはそっとため息を吐く。
「ユアンさん、か…」
ボソッと響くでもなく呟いた言葉を、その本人である彼以外の誰かが聞くことは無い。
「本当にお節介だな、ボータ…」
ようやく振り向いた入り口に、もうシュアの姿は無かったけれど。
ユアンはじっとその扉を見つめ、誰にも見せることの無い、そっと緩めた表情を浮かべていた。
Next.
多く連なった木々もまた、炎の前にはどうにも抵抗のしようがないのだろか。
清閑に佇んでいたその村の影はもうない。
家々も、木々も、全てが轟々と炎に包まれている。
それは本当に突然の事だった。
地の精霊との契約を済ませ、ロイドたちが神殿を出た瞬間、天を割ったような雷がオゼットの方へと落ちていくのをロイドたちが見たのは。
急いで駆けつけてみれば、やはりそれは直撃した後で。
「…ひどい」
変わり果てた故郷。
それを目前にして、プレセアが絞り出すように呟く。
「プレセア…」
その小さな肩にそっと手を置いて声を掛けるロイド。
その後ろでジーニアスがもどかしそうに自分の拳を握っていた。
「見て!」
突然、声を上げたコレットの指差した先。
村の真ん中で倒れている少年に、今正に崩れかけた家屋の一部が倒れようとしている。
急いで駆け寄っていくロイド達。
しかしその後ろで、動こうとしないシュアに、顔を見合わせるしいなとゼロスの3人だけは村の入り口に取り残された。
「シュア?」
「…私、この光景、見たことがある…」
「デジャヴ…ってやつか?夢で見たとかじゃねぇの?」
「…どう、なんだろ…」
ただひたすらに辺りを見回して、探る頭にシンクロするような光景が広がる。
燃え盛る木々や家々。
逃げ惑い、死んでいく人々。
そしてその光景を、傍観するしか出来ない自分。
負の感情で満ち足りたその空間を、作り出したのは自分であると。
その自分は、自分自身を責め続けている。
「それか、きっと…記憶」
「…あぁ、そうかもしれないよ!」
「けどよ、テセアラでここ最近、そんな事件は無かったぜ?」
ゼロスの言葉に思わず彼を振り返るが、そっか…と呟くしか出来ないシュアは、再びその惨事を見回してため息を吐いた。
「私たちも行こっか」
そして少年を助けたロイドたちを追って、3人もまた火の手の回っていないプレセアの家の方へと駆けつけていった。
「一体何があったんだ」
ゆっくりと目を覚まし、起き上がる少年。
辺りを見回して、問いかけるロイドにも脅えたように一歩距離を置いた。
そして、ゆっくりと紡がれるその経緯。
「…よく、分かりません。突然雷が襲ってきて、天使様が村を襲ってきたんです」
「くそっ、クルシスか!」
俯いたまま話す少年の前で、声を荒げるロイド。
それにまた少しだけ後ずさる少年に、見かねたゼロスが声を掛けた。
「しっかしよく無事だったなぁ。生き残りはお前だけなのか?名前は?」
「僕はミトス…といいます。村の外れに一人で暮らしてたから…」
「ミトス!英雄ミトスと同じ名前だ!」
答える少年のその名前に感激したロイドを、珍しいことではないと、リフィルは呆れた様に諭す。
そしてその後ろで、ジーニアスだけは訝しげに彼の事を見つめ続けた。
「あれ。もしかしたら…君ハーフエルフじゃないの」
結局、悟ったようにジーニアスがそう言ったのは、それからあまり経っていない時だった。
「!ぼ、僕は…」
ハーフエルフだなんて、分かった人間が何をしてくるか。
今度は完全に脅えてしまったミトスに、リフィルは自分達の正体を明かし、それに少しだけ驚いたようにしたミトスもそこで初めて、しっかりと顔を上げてリフィルとジーニアスを見つめた。
「…そっちの女の人」
それから、視線を動かしたミトスはじっとシュアを見据える。
「…私?」
「あなたは…?僕たちと同じじゃない。でも、マナが…」
ちらほらと、仲間たちが自分に振り向くのがシュアには分かった。
そしてそれがまた、辛い。
不審であったり、訝しげに思っているんだろう。
自分はマナ、そのもの。
そう言ったら、仲間たちはどんな反応をするだろうか。
そっと、リフィルが口を開いた。
「彼女は記憶が無いの。だから自分でも…」
「色んなマナが混ざってる…。ハ-フエルフよりも正体が分からないのに…?」
ずき。
僅かに悲鳴を上げる自分の感情。
そんなシュアの後ろで、ゼロスもしいなも訝しげにはしながらも、その言葉がまるで不快であるかのように眉間に深く皺を刻んだ。
軽く拳を握って、答える術もなく俯いてしまったシュア。
沈黙はながれ、仲間の誰もが彼女を傷つけてしまっていることを悟る。
「ミトス!」
そうして、慌ててミトスに呼び掛けたジーニアスに、ミトスは弾かれた様にジーニアスを見つめた。
「僕も姉さんもシュアも、みんなこの人たちの仲間なんだ。君を差別したりしない。だから…」
「…えぇ。彼女は、自分を危険にさらしてまでハーフエルフの私たちを助けてくれた人よ」
「……」
一度俯いたミトスが、顔を上げる。
静かに、困ったようにミトスを見つめるシュアを、見つめ返す。
「…ごめんなさい。僕、ひどいこと言いましたよね。これじゃぁ…僕たちを差別する人と同じだ…」
「ミトス…」
「ごめんなさい」
そしてすぐにシュアは、そうでない笑顔で大丈夫だよ、と微笑んで見せた。
ミトスの反応が自然なのかもしれないと、悟ったから。
もしここで正体を明かしても、結果は一緒だろう。
しいなやゼロスの自分を見る視線にも気が付かずに、シュアは段々と自分が仲間たちから離れていくような、そんな気がしていた。
過呼吸、あるいは酸素不足。
そんな感覚から来るような僅かな怠惰感が、自分の頭を巡っているような、更なる感覚。
テセアラよりもマナの薄いシルヴァラントは、初めの内こそなれないその空間。
シュアにとっては酸素が足りないも同然のそんな世界だった。
異界の扉を通ってきたそこは、ロイド達にとっては故郷。ゼロス達にとってはまさに異界。
そして、もはや衰退世界の象徴とも言える人間牧場もまた、テセアラ組にとって始めて訪れる場所である。
鳴り響くサイレン。
今正に倒したばかりの、ハーフエルフであった…怪物ロディルは、その作動させた自爆システムの上でもはや動きもしない。
あと数分でこの人間牧場も粉々になるだろう。
どうしようもなく困惑しているロイドたちの居る管制室に、ふと響いた機械音。
と同時に脇の扉が開いて、そこからレネゲードの中でも代表格、一度テセアラベースでも戦ったユアンの部下ボータが、何人かの部下と共に姿を現した。
「ボータ!自爆装置が…!」
「分かっている!お前たちはすぐにそこの地上ゲートから脱出しろ!」
言われたロイドが辺りを見回して、すぐに見つけたその場所に仲間を呼びながら、自分もまた他のフロアへと登っていく。
そして相変わらず最後尾のシュアもまた、同じく続こうとした時。
「ユアン様を…頼むぞ」
「え…?」
振り返った先で、真剣にこちらを見つめるボータ。
思わず足を止めたシュアに前を行っていたゼロスが引き返して、すぐにボータは再び機械へとその視線を落とした。
なにを?どうして?
自分は?どうしてそんな事を人に…私に頼むの?
「シュア!早くしろ!」
「う、ん…」
呼び掛けられて仕方なくも、すぐあとについて自分も上のフロアへと上った。
そして最後に振り返ったときには、やはりボータは懇願するように、何かを祈るように、じっとシュアを見つめている。
直後。
‐ウィン。
淡白に響く機械音。
同時に、今正にシュアが上ってきたばかりの扉が、自動で瞬時に閉ざされる。
さっきまで居た室の見える透明のウィンドウを思わず見つめると、顔を上げたボータは、もうシュアを見ることもせずにしっかりとこちらに向かって立ち尽くしていた。
扉はもう、開かない。
どんなに仲間たちが攻撃を加えても、ウィンドウも壊れてくれやしない。
まさか…
そう、シュアが悟ったときにはもう遅い。
彼らの足元から水は迫って、無情にもウィンドウにはもう一枚の壁がかかって見えなくなった。
あぁ、だから頼むって…
自分が、もう戻れないことを悟っていたから。
「みんな!後ろ…!」
叫ぶリフィルの通りに誰もが振り向けば、そこにあった檻からは何体もの飛竜が飛び掛ってくる。
やりきれない思いを無理やり捻りつぶしながら、仲間たちはいっせいに、それぞれの武器を構えた。
無機質な空間。
ひんやりとした廊下。
静かなその空間に、いくつもの足音だけがひたひたと響いている。
しっかりしなければ。
ボータの遺志。
なぜ、自分に伝えたのかシュアには未だに分からない。
もちろん、ただ単に、最後尾だったからかもしれない。
けれど、とにかくもユアンの前でこんな顔をしていては、いけないんだ。
ウィン。
機械音さえも切なく響いて、どこか萎れたようになってしまったロイド達一行は、シルヴァラントベース、ユアンの私室へと足を踏み込んでいく。
そしてユアンといえば、まるで自分たちが来るのを分かっていたかのように、デスクの向こうで背を向けたままに立ち尽くしていた。
「…来たか」
「ユアンさん…ボータさんが…」
「…死んだのか」
コレットの言葉を補うようにロイドが頷く。
「あぁ…。最期に任務を果たしたって俺たちに伝えてくれって」
「そうか…では空間転移装置を作動させよう。好きに世界を行き来するがいい」
「それだけかよ!」
それでも淡々と、相変わらず背を向けたままでそう放ったユアンに、すぐさまそう噛み付いたのはロイドだった。
誰もがその気持ちは分かる。けれどリーガルとゼロスが何とか宥めると、すぐにロイドは渋々と自分の暴言を謝罪する。
それでも納得のいかなそうにしているのは、ロイドだけではなかった。
ゼロスに促されロイドが部屋を後にすると、仲間たちもまたそれに続いていく。
何も言うことは出来ないし、転移装置を使えるのなら、もうここに用は無い。
けれどシュアだけは、動こうともせずにそこに立ち尽くしてじっと、ユアンの背中を見つめていた。
「…まだ何かあるのか」
当然、気付いたのだろう。
声を掛けられて、シュアは臆するでもなくユアンに3歩、近づいていく。
「頼まれたんです。ボータさんに、貴方の事を」
「私の事…だと?」
「“ユアン様を頼むぞ”と。そう、言われたんです」
「…そうか。…それで、用件はそれだけか?」
「…貴方はどうして私の事を知っているんですか?」
はっとしたように振り向くユアンの、それは思わずだったのだろうか。
すぐにシュアから視線を逸らして、横を向いてしまったユアンは腕を組んだままに小さく「さぁな」と呟いた。
「…私、記憶が無いんです。どうして…隠すんですか?」
「知る必要のあることなら、否応無しにも分かる事だ。人に聞くのではなく、自分で見つけるのだな」
「ユアンさ…」
「シュア?」
呼び掛けたシュアを遮る様に、仲間たちが去り、また自動的に閉まっていた扉が開いて、ゼロスがそこから顔を出す。
「…何、やってんの?」
「ゼロスこそ。わざわざ戻ってきてくれたの?」
「あ、あぁ。ロイド君たちもう入り口に着いてる頃だぜ?」
「そっか、ごめん。今行く」
すぐにゼロスが退室して、シュアも入り口の方まで歩みを進める。
そして振り返る、いまだ変わらず腕を組んだままのユアンは。
やはりシュアにとって、どこか気になるのだ。
記憶を引き出してくれる。決して、ただの敵ではない人物。
優しいような、暖かいような。自分に送られてきたマナは、確かにそんな感じで溢れていて。
「…葉形の、痣」
「…なんだ?」
「いいえ…」
カマをかけるように発した言葉にも、ユアンには心当たりが無さそうに、シュアを見返す。
彼じゃぁ、無い。
名前こそ違うけれど、ルビという人物ではないかと思えるくらい。
彼はどこか懐かしくて、心地よい。マナだけで、十分に伝わってくるのに。
「もう…魔術を使っても眩暈が起こらないんです。あなたのおかげで、もう大丈夫です」
ドア口に手を掛けて、言ったシュアにもユアンはやはり何も答えない。
そしてその言葉どおり、先の人間牧場で飛竜と戦ったときにも、もうシュアに眩暈は起こらなかった。
ユアンの言ったとおり、自分の事を理解したから。
自分自身のマナを大量に消費して、魔術を使うことがなくなったから。
そしてもう、倒れて仲間たちに迷惑をかけることも、ない。
「ユアンさん…ありがとうございました」
最後に、こっちを見ることもないユアンに微笑みかけて、シュアはようやくその部屋を後にした。
一人、残されて静まり返った私室に、ユアンはそっとため息を吐く。
「ユアンさん、か…」
ボソッと響くでもなく呟いた言葉を、その本人である彼以外の誰かが聞くことは無い。
「本当にお節介だな、ボータ…」
ようやく振り向いた入り口に、もうシュアの姿は無かったけれど。
ユアンはじっとその扉を見つめ、誰にも見せることの無い、そっと緩めた表情を浮かべていた。
Next.