言葉にするということ
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「修平って彼女とかいるの?」
「……は?」
どうやら私は会話を切り出すのが下手らしい。この間抜けな切り返しをされるのは二度目だ。なるべくそれとなく、たいして興味はないけれど聞いてみただけですよという体にするつもりだったのだが、やはり唐突すぎたみたいだ。
月満さんに相談して得られた答えは「例えば相手に恋人がいたらそりゃもう事故で間違いないんじゃないか?」というものだった。事故とはいえ恋人のいる人とキスというのはなかなかに恐ろしい話だが、一理ある。
「いませんけど」
「……そう」
修平の至って簡潔な回答にできる限りの素っ気なさを装って相槌をうつ。恋人がいなかったことにホッとすれば良いのか、事故なのかハッキリしなかったことに落胆すればいいのかもうよくわからない。
「そういう貴女はどうなんですか」
「え?」
「最近月満さんと一緒にいるところをよく見かけますが」
「ちょっと待って、なんでそこで月満さんが出てくるの?修平、なんか怒ってる?」
何が気に障ったのか、修平の口調にはどこかトゲがある。それに普段私に対しては本を読んだりパソコンをさわったり、とにかく平気で余所見をしながら会話するというのに、今はじーっと私を睨みつけている。
「そんなことはありません」
「じゃあなんでそんなこと言い出すの?私恋人とかいないし」
「そうですか?貴女はそういったことには慣れているのかと思ったのですが」
「えぇ、なんでそうなるの」
自慢じゃないが、私はこの歳にしては恋愛経験は貧弱な方である。現にどういう意味なのかよくわからないキスをして三日三晩悩み続けていますだなんて口が裂けても言えない。
「違うのならそれでいいです」
修平はこの会話は終わりだとでもいうようにそれだけ言い放つ。そのことに何故だかすごく泣きたい気持ちになった。
きっとあれは事故だったんだ。そもそも修平が私にキスする意味がない。今だって私に対してこんなに冷たいのに、何を勘違いしてたんだろう。
「全然よくない。恋愛ごとに慣れてるとか、そんなわけないじゃん。むしろ慣れてるのは修平の方なんじゃないの?」
「は?」
「この前事故でき、きす……したことだって全然気にしてないみたいだったし!」
「……気にしてないのは貴女のほうでしょう?」
「あれからずっとめちゃくちゃ気にしてますけど!?」
だんだん口調が速くなっていく私に、修平が目を丸くしている。自爆だ。頭に血が上って、我ながら盛大に自爆している。
言いたいことを吐き出して少し正気に戻った私は恐る恐る修平の顔色を伺う。なんと彼の顔は真っ赤だった。怒っているわけではない。これは、たぶん、
「あの、とりあえずひとつ誤解があります」
「なに、誤解って」
「……事故じゃありません」
「え?」
「あのキスは、事故じゃありません」
一度冷静になったはずの頭が再び熱をあげる。
「……事故じゃないの」
「不慮の事故でしたら備えくらいしています」
事故チューへの備えってなんだ。マウスウォッシュとか出されたら流石に泣く。
心の中でそんなツッコミを入れてみるが、頭は早く続きをと促してくる。期待をしているのだ。
「じゃあ、あれって……」
「俺がしたくてしました。いや、元々はそんなつもりはなかったんですが、その……」
貴女の顔があまりにも近くにあって
そう言った修平の顔が見たこともないほど真っ赤だ。と言っても、私も大概似たようなものだろう。
「修平って私のこと好きなの?」
「それは言わなくてはいけないことですか」
「言わないとわからない」
バツが悪そうに目をそらす。それから聞こえない声で唸って、いつもの冷静な瞳とは違うそれで私に向き直った。
「俺は貴女のことが好きです」
「そう、なんだ」
「この前のことで気づかれていると思ってました」
「気づいてなかった」
「でしょうね。平気で恋人はいるのかと聞いてくるぐらいですから」
「それは、その、ごめん……」
今度は私が修平から目をそらして、うつむく。私が黙っている間、修平がじっと私のことを見ているのが嫌でもわかった。これだけ修平に言わせたのだ。私も何か言わなくては。
「あのね、嫌じゃなかったと思う、この前の、キス。それなのに謝られて、ずっとモヤモヤしてた。だからその、たぶん私」
必死に言葉を繋いで、そこまで言って修平の方を見るために顔を上げる。
不意に唇が触れた。
「……は?」
どうやら私は会話を切り出すのが下手らしい。この間抜けな切り返しをされるのは二度目だ。なるべくそれとなく、たいして興味はないけれど聞いてみただけですよという体にするつもりだったのだが、やはり唐突すぎたみたいだ。
月満さんに相談して得られた答えは「例えば相手に恋人がいたらそりゃもう事故で間違いないんじゃないか?」というものだった。事故とはいえ恋人のいる人とキスというのはなかなかに恐ろしい話だが、一理ある。
「いませんけど」
「……そう」
修平の至って簡潔な回答にできる限りの素っ気なさを装って相槌をうつ。恋人がいなかったことにホッとすれば良いのか、事故なのかハッキリしなかったことに落胆すればいいのかもうよくわからない。
「そういう貴女はどうなんですか」
「え?」
「最近月満さんと一緒にいるところをよく見かけますが」
「ちょっと待って、なんでそこで月満さんが出てくるの?修平、なんか怒ってる?」
何が気に障ったのか、修平の口調にはどこかトゲがある。それに普段私に対しては本を読んだりパソコンをさわったり、とにかく平気で余所見をしながら会話するというのに、今はじーっと私を睨みつけている。
「そんなことはありません」
「じゃあなんでそんなこと言い出すの?私恋人とかいないし」
「そうですか?貴女はそういったことには慣れているのかと思ったのですが」
「えぇ、なんでそうなるの」
自慢じゃないが、私はこの歳にしては恋愛経験は貧弱な方である。現にどういう意味なのかよくわからないキスをして三日三晩悩み続けていますだなんて口が裂けても言えない。
「違うのならそれでいいです」
修平はこの会話は終わりだとでもいうようにそれだけ言い放つ。そのことに何故だかすごく泣きたい気持ちになった。
きっとあれは事故だったんだ。そもそも修平が私にキスする意味がない。今だって私に対してこんなに冷たいのに、何を勘違いしてたんだろう。
「全然よくない。恋愛ごとに慣れてるとか、そんなわけないじゃん。むしろ慣れてるのは修平の方なんじゃないの?」
「は?」
「この前事故でき、きす……したことだって全然気にしてないみたいだったし!」
「……気にしてないのは貴女のほうでしょう?」
「あれからずっとめちゃくちゃ気にしてますけど!?」
だんだん口調が速くなっていく私に、修平が目を丸くしている。自爆だ。頭に血が上って、我ながら盛大に自爆している。
言いたいことを吐き出して少し正気に戻った私は恐る恐る修平の顔色を伺う。なんと彼の顔は真っ赤だった。怒っているわけではない。これは、たぶん、
「あの、とりあえずひとつ誤解があります」
「なに、誤解って」
「……事故じゃありません」
「え?」
「あのキスは、事故じゃありません」
一度冷静になったはずの頭が再び熱をあげる。
「……事故じゃないの」
「不慮の事故でしたら備えくらいしています」
事故チューへの備えってなんだ。マウスウォッシュとか出されたら流石に泣く。
心の中でそんなツッコミを入れてみるが、頭は早く続きをと促してくる。期待をしているのだ。
「じゃあ、あれって……」
「俺がしたくてしました。いや、元々はそんなつもりはなかったんですが、その……」
貴女の顔があまりにも近くにあって
そう言った修平の顔が見たこともないほど真っ赤だ。と言っても、私も大概似たようなものだろう。
「修平って私のこと好きなの?」
「それは言わなくてはいけないことですか」
「言わないとわからない」
バツが悪そうに目をそらす。それから聞こえない声で唸って、いつもの冷静な瞳とは違うそれで私に向き直った。
「俺は貴女のことが好きです」
「そう、なんだ」
「この前のことで気づかれていると思ってました」
「気づいてなかった」
「でしょうね。平気で恋人はいるのかと聞いてくるぐらいですから」
「それは、その、ごめん……」
今度は私が修平から目をそらして、うつむく。私が黙っている間、修平がじっと私のことを見ているのが嫌でもわかった。これだけ修平に言わせたのだ。私も何か言わなくては。
「あのね、嫌じゃなかったと思う、この前の、キス。それなのに謝られて、ずっとモヤモヤしてた。だからその、たぶん私」
必死に言葉を繋いで、そこまで言って修平の方を見るために顔を上げる。
不意に唇が触れた。
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