視界が徐々に薄れていく。体のいろんな場所が酷く痛むが、その痛みに声をあげる気力もない。さっきまでたくさん流れていた真っ赤な血も、もう出し切ったのか勢いが収まっていく。

きっと私は死ぬんだ。



「あれぇ、轢き逃げかな？可哀想に。」

あまり心のこもっていなさそうな高めの声が聞こえる。罰当たりな奴め、なんてのんきなことを頭に浮かべた。

「......死ぬのか？」

さっきの声とは対象的な底から響くような低い声が尋ねる。それが私に尋ねているのか、もう一人の声に尋ねているのか、よくわからない。

「まあ死ぬだろうね。『人間』は脆いから。」

ホント罰当たりな奴。でも実際彼の言う通だ。

「......生きたいか？」

低い声が再び尋ねる。今度は私に言っているんだとはっきりわかった。私は痛みに耐えながら消え入りそうな声で答えた。

「わ、かんない、かな......」
「なら......」

声がよく聞こえない。たぶんもう死ぬんだろう。



突然、視界を黒いものが覆う。少しして、唇から何かしょっぱいものが流れ込んできた。高い方の声が何か騒いでいたようだけど、その言葉は私には届かない。
間もなく、私は眠りにつくよう気を失った。その時は死んだんだろうと思っていたけど、違った。



辿り着いたのは、死からいちばん遠い所。