翠の剣 -ソード-
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お、今日もお疲れ様。
どうした?俺に聞きたいことがあるって?
なんだ、答えられる限りなら何でも答えるぞ。
……え?
「どうしたらソードさんみたいに強くなれるか?」って?
言っておくが、なにも俺だって最初から強かったわけじゃないぞ。
むしろ今のお前よりも全然弱かった。
……そんなに驚くことか?
そうだな……たまには少しくらい、過去の話をしようか。
実は俺は俗に言う、お坊ちゃんの生まれだった。
家は広大な土地を持っていたし、こう見えても血筋も地元で名を知らない人がいないくらいの名門だった。
俺の祖先は高名な騎士だったらしい。
え?やっぱり血筋も強さに関係あるんじゃないかって?
どうなんだろうな、そこまではわからない。
とはいえ、俺んちは資産家って感じだったな。
名前の如く剣を振ってる人なんていなかったなぁ……。
代々名前と剣は伝わっていたけれど、お飾りみたいなモンだったし。
実際言葉通り客間に飾られてたし。
一時期は一族内で内争が起こったとか。
もう剣なんて物騒なもの捨てようという考えと、伝統は受け継ぐべきだという考え。
前者は俺の家の、後者はブレイドの家のルーツだな。
……ああ、そうだ。
一応遠い親戚同士に当たるんだぞ。
考えの違いから何代か前に二つに分かれたらしい。
……話を戻して、そんな生まれの俺に対しては大人たちも多少は態度が変わるわけだ。
それがクラスメートたちには気に入らなかったんだろう。
肝心の俺本人は女子よりも小さくて、しかももやしっ子だった。
体力も全くないし運動音痴で、まぁ一応勉強はできる方だったけどそれが余計に奴らの神経を逆撫でしたんだろうな。
奴らにとっては格好の獲物だった。
物的被害とかはなかったが、しょっちゅうからかわれたりしていたな……。
「やーいやーい!」みたいな感じか?
しかもあの時の俺はいじめられているのが恥ずかしくて、誰にも相談できなかったんだ。
それで余計に加速したんだろう。
それが変わったきっかけが、ブレイドとの出会いだった。
まだ俺が学校に通っていたころ、ブレイドが俺の学校に転校してきたんだ。
お前も知ってると思うけど、俺、初めて会ったときからずっとブレイドの事男だと思っていたんだ。
……なんだその軽蔑するような目は、当時は本当に男にしか見えなかったんだよ。
今は何処からどう見ても綺麗で最高の美女だがな!
……だからなんだその軽蔑するような目は。
まぁ話を戻して……正直最初はブレイドの事が怖かった。
今のブレイドをそのまま縮小すればだいたいあってる。
すらっと背が高くて身体も引き締まっていて、カッコいいんだけど纏っている雰囲気が怖かった。
大人っぽい、って感じだった。
異国人ということもあったんだろうけど……。
それに当時の彼女は、どこか人を避けているようだった。
後から聞いた話では前の国でいろいろあって意気消沈していただけらしいけど。
……あ、このあたりの話は聞きたいなら本人から聞いてくれ。
俺が話していい内容じゃないだろうし。
でもアイツ、話すかなぁ?
お前が想像している以上に壮絶な過去があるからな、ブレイド。
無理に聞き出すのはやめてやってな。
また話が脱線したな……。
ブレイドはスポーツも得意だから体育の時間なんかは黄色い歓声がよく上がっていた。
あ、目に浮かぶだろ?
村の女の子がキャーキャー言ってるのそのまんまな感じだな……。
それに引き替え当時の俺は本当に貧弱だった。
ブレイドとは全く遠い世界の人間だった。
あ、いや、親戚同士ってことは後から知ったんだ。
親同士は知ってたみたいだがな。
それなのにブレイドは、何故か俺と友達になってくれたんだ。
あっちも知らなかったのにな。
俺はブレイドが羨ましかった。
強くてかっこいいブレイドに憧れていたんだ。
劣等感に悩む時期もあったけど、それよりも近づきたいって気持ちが強かった。
だから身体を鍛え始めたんだ。
とりあえず体力を付けようって安直すぎる考え。
それでも結構効果あったぞ。
あんまり風邪ひかなくなったし、喘息の発作も無くなった。
そうしたらブレイドもいろいろ教えてくれてさ。
自分で言うのもなんだけど、俺、どんどん強くなってた。
元々の屑レベルからだから余計に強くなったように感じたのもあるだろうけど。
ブレイドとの出会いで、人生が変わった。
引っ込み思案だった性格も少しずつ直ってきてたからか、学校も楽しかった。
自然といじめられることも無くなったしな。
身体を動かすのも楽しくなったし。
俺の家とブレイドの家は家族ぐるみの付き合いをしていた。
ブレイドに父さんはいなかったけど、母さんが凄く優しい人で、俺の母親と姉妹みたいに仲良しだった。
俺の父親もブレイドのことを大切にしていた。
分裂から世代が経ってたからもう確執もなかったしな。
……今思うと、父さんはブレイドの性別の事知ってたのかもしれないな。
昔はブレイドの故郷の話とかがあって異様に優しくしていたのかと思っていたけど。
よくハイキングに出かけたりしていたな……。
バーベキューとかもした。
あと俺の伯父がブレイドの母さんにアタックしてたっけな。
最初はツンツンしてたけど、だんだんデレていく過程がまさにブレイドの母さん。
それでもブレイドの母さんは夫のことを愛し続けていて、伯父もそれをわかってた。
無理強いはしてなかったな……。
まぁそんなことがあって、遊ぶときは伯父もよく一緒にいた。
俺もブレイドも伯父が好きだったし。
あの二人がくっつけばいいのになーとか子供心に思ってた。
そんなある日、二家族+伯父で出かけようとしていた。
だがブレイドがどうしても行きたくないってごねたんだ。
外に出たくないって聞かなくて、そんなこと言うの初めてで、正直どうしたらいいのかわからなかった。
でもブレイドがそう言うなら何かあるんだろうな、って思ったんだ。
もし何も無くてもまた次の機会に行けばいいし。
ブレイドは止めたけど、母親たちは行ってしまった。
きっとアイツは嫌な予感がしてたんだろうな。
その日、俺の故郷は魔獣達に襲われた。
突然、大きな地震が起きたんだ。
その後に爆音が聞こえてきた。
ブレイドは真っ青になって、動けなくなってた。
……過去を思い出していたんだろうな。
俺は咄嗟に固まったブレイドに抱き付いた。
単に俺が怖くて抱き付いたのか、それとも他の意味があったのか……実は今でもよくわかってなかったりするんだ。
とにかく夢中になって一緒に机の下に潜り込んだ。
上から天井が落ちてきたときはもう死ぬかと思った。
瓦礫の下から這い出て、目を疑ったさ。
見事なまでに破壊されていたんだ。
一瞬で瓦礫の山になった。
信じられなかった。
俺の家はそれなりにでかかったし、作りも頑丈だった。
それの天井が落ちるくらいの地震と爆撃だ、他の家とかがどうなったか想像できるだろう?
惨状とか地獄絵図とか、そんな言葉じゃ言い表しきれない。
アレ以上のものを、俺は未だに見たことがないよ。
俺はただただ泣く事しかできなかった。
でもブレイドは泣いてなかった。
「みんな死んだんだ!
泣いてもしょうがないだろ!」
こう叫んだだけだ。
冷たいと思うか?
でもな、泣いていたんだ。
涙は流してなかったけど、泣いてた。
あの表情が未だに忘れられなくて、今でもブレイドに泣かれると弱いんだよな。
……ああ、泣くぞ?
お前はブレイドをなんだと思ってるんだ?
ブレイドが泣かなかった理由?
……さっきは言えないって言ったけど、これだけは言っとく。
ブレイドにとっては“二回目”だった。
絶対誰にも言うなよ。
ハハ、そうだな。
アレ以上キツくされたら流石に身体が持たないよな。
とにかく彼女は泣く事すらできなかったんだ。
そのあと俺なにか言ったと思うんだけど、実は覚えてないんだよな……。
謝ったのかな?
ブレイドに聞いても教えてくれないし……微妙に笑ってるからよっぽど的外れのこと言ったのか?
怒らせるようなことは流石に言ってない……とは思いたいな。
そのあとは、ブレイドと二人で協力して生きてきた。
食べるものがないどころか、身の安全の確保も難しかった。
少しでも油断すれば格好の魔獣のエサだからな。
魔獣?その辺にゴロゴロいたぞ。
銀河戦争の脱走兵とかじゃないか?
あのときは世界がカオスだったしな。
……あ、そうか、だから普通じゃないのか。
そんな世の中だったから、どちらかが寝る時はどちらかが絶対起きていたし、どちらかが水浴びするときはどちらかが周りを警戒していた。
……こういうこともあったブレイドの性別を知ることもなかったんだよな。
だから仕方がなかったんだよ!
お前だってまさか女の子だと思わなかっただろう!?
現れた魔獣バッタバッタ薙ぎ倒していくし!
俺なんか数えられないくらい助けられたからな……。
実戦なんかしたことなかったから、最初のうちはブレイドにまかっせっきりだったし……。
でも慣れは怖いな、剣を振るうのに躊躇いが無くなるんだ。
数えきれない盗みもしたし、カツアゲは日常茶飯事だったかな……。
卿に出会ったのもそれがきっかけだったしな……。
……そうだ、カツアゲしようとしたんだよ、卿を。
今思うとなんて恐ろしいことをしたんだろうな。
命知らずにも程がある。
今やれって言われても絶対にできない。
ちょうどその時、魔獣……チリドッグに襲われた。
俺らは人を襲う時に、どうしても剣だけは使いたくなかった。
それが仇となって、チリドックに追い詰められた。
チリドッグがブレイドに襲い掛かろうとしたとき、俺は咄嗟に動いた。
それでかっこよくブレイドを救出――できればカッコよかったんだけどな。
見事に返り討ちにされたよ。
ああ、我慢しなくていい、存分に笑え。
当時は笑い事じゃなかったけどな……卿に助けてもらえなかったら多分死んでたんだろうな。
あの卿ですら手こずる魔獣だ。
卿に助けてもらって、頼み込んで弟子入りをしたんだ。
俺は強くなったと思い込んでいたけど、全然なってなかった。
あの人の元でもっと強くなりたいと思ったんだ。
それからここに辿り着いて、卿の部下として働くようになった。
安定した地位も手に入れられて、俺は本当に幸運だと思う。
俺はブレイドに会って、世界が変わったんだ。
彼女がいたから俺の世界は広がったし、あんなことがあっても生きて来られた。
結局、ブレイドがいたことが俺の強さの理由かな。
ああ、精神的な支え、守りたいという気持ち……これらは人を強くする。
大切になればなるほど、強くなって守りたい気持ちも強くなっていくんだ。
ブレイドは強いけど、弱い所もあるんだ。
……だからお前は彼女をなんだと思っているんだ?
まぁ、俺が上手くカバーできてるって思えばいいのかな?
俺が守りたいのは結局あの子。
彼女との日常を何よりも守りたいんだ。
王国騎士団としてどうなんだろうな。
最終的に国の為になってればいいかな、なんてな。
ブレイドと、彼女と過ごすこの国を守るために俺はもっともっと強くなりたいんだ。
……当然だろう?俺はまだまだ未熟者だ。
目標か……そうだな、少しでも卿に近づきたいと思っている。
はは、そうだな……確かに卿はチートレベルの強さだ。
星の戦士の時点で俺達とは世界が違う。
まず身体の構造がまるで違うしな。
……俺達はそんな強い身体を持ってないし、マルク殿やドロッチェ殿みたいに魔法だって使えない。
だからって何もできないのか?
それは違うだろう?
この剣一本で守れるものだってあるんだ。
俺は、更なる高みを目指したいんだ。
もっともっと強くなりたい。
これが限界なんてありえない。
まだいけると思いたいし、越えてみせる。
お、そうだな。
何かわからないこととかあったらいつでも来いよ?
あとこれから午後の訓練だからな、遅れるなよ?
NEXT
→あとがき
どうした?俺に聞きたいことがあるって?
なんだ、答えられる限りなら何でも答えるぞ。
……え?
「どうしたらソードさんみたいに強くなれるか?」って?
言っておくが、なにも俺だって最初から強かったわけじゃないぞ。
むしろ今のお前よりも全然弱かった。
……そんなに驚くことか?
そうだな……たまには少しくらい、過去の話をしようか。
実は俺は俗に言う、お坊ちゃんの生まれだった。
家は広大な土地を持っていたし、こう見えても血筋も地元で名を知らない人がいないくらいの名門だった。
俺の祖先は高名な騎士だったらしい。
え?やっぱり血筋も強さに関係あるんじゃないかって?
どうなんだろうな、そこまではわからない。
とはいえ、俺んちは資産家って感じだったな。
名前の如く剣を振ってる人なんていなかったなぁ……。
代々名前と剣は伝わっていたけれど、お飾りみたいなモンだったし。
実際言葉通り客間に飾られてたし。
一時期は一族内で内争が起こったとか。
もう剣なんて物騒なもの捨てようという考えと、伝統は受け継ぐべきだという考え。
前者は俺の家の、後者はブレイドの家のルーツだな。
……ああ、そうだ。
一応遠い親戚同士に当たるんだぞ。
考えの違いから何代か前に二つに分かれたらしい。
……話を戻して、そんな生まれの俺に対しては大人たちも多少は態度が変わるわけだ。
それがクラスメートたちには気に入らなかったんだろう。
肝心の俺本人は女子よりも小さくて、しかももやしっ子だった。
体力も全くないし運動音痴で、まぁ一応勉強はできる方だったけどそれが余計に奴らの神経を逆撫でしたんだろうな。
奴らにとっては格好の獲物だった。
物的被害とかはなかったが、しょっちゅうからかわれたりしていたな……。
「やーいやーい!」みたいな感じか?
しかもあの時の俺はいじめられているのが恥ずかしくて、誰にも相談できなかったんだ。
それで余計に加速したんだろう。
それが変わったきっかけが、ブレイドとの出会いだった。
まだ俺が学校に通っていたころ、ブレイドが俺の学校に転校してきたんだ。
お前も知ってると思うけど、俺、初めて会ったときからずっとブレイドの事男だと思っていたんだ。
……なんだその軽蔑するような目は、当時は本当に男にしか見えなかったんだよ。
今は何処からどう見ても綺麗で最高の美女だがな!
……だからなんだその軽蔑するような目は。
まぁ話を戻して……正直最初はブレイドの事が怖かった。
今のブレイドをそのまま縮小すればだいたいあってる。
すらっと背が高くて身体も引き締まっていて、カッコいいんだけど纏っている雰囲気が怖かった。
大人っぽい、って感じだった。
異国人ということもあったんだろうけど……。
それに当時の彼女は、どこか人を避けているようだった。
後から聞いた話では前の国でいろいろあって意気消沈していただけらしいけど。
……あ、このあたりの話は聞きたいなら本人から聞いてくれ。
俺が話していい内容じゃないだろうし。
でもアイツ、話すかなぁ?
お前が想像している以上に壮絶な過去があるからな、ブレイド。
無理に聞き出すのはやめてやってな。
また話が脱線したな……。
ブレイドはスポーツも得意だから体育の時間なんかは黄色い歓声がよく上がっていた。
あ、目に浮かぶだろ?
村の女の子がキャーキャー言ってるのそのまんまな感じだな……。
それに引き替え当時の俺は本当に貧弱だった。
ブレイドとは全く遠い世界の人間だった。
あ、いや、親戚同士ってことは後から知ったんだ。
親同士は知ってたみたいだがな。
それなのにブレイドは、何故か俺と友達になってくれたんだ。
あっちも知らなかったのにな。
俺はブレイドが羨ましかった。
強くてかっこいいブレイドに憧れていたんだ。
劣等感に悩む時期もあったけど、それよりも近づきたいって気持ちが強かった。
だから身体を鍛え始めたんだ。
とりあえず体力を付けようって安直すぎる考え。
それでも結構効果あったぞ。
あんまり風邪ひかなくなったし、喘息の発作も無くなった。
そうしたらブレイドもいろいろ教えてくれてさ。
自分で言うのもなんだけど、俺、どんどん強くなってた。
元々の屑レベルからだから余計に強くなったように感じたのもあるだろうけど。
ブレイドとの出会いで、人生が変わった。
引っ込み思案だった性格も少しずつ直ってきてたからか、学校も楽しかった。
自然といじめられることも無くなったしな。
身体を動かすのも楽しくなったし。
俺の家とブレイドの家は家族ぐるみの付き合いをしていた。
ブレイドに父さんはいなかったけど、母さんが凄く優しい人で、俺の母親と姉妹みたいに仲良しだった。
俺の父親もブレイドのことを大切にしていた。
分裂から世代が経ってたからもう確執もなかったしな。
……今思うと、父さんはブレイドの性別の事知ってたのかもしれないな。
昔はブレイドの故郷の話とかがあって異様に優しくしていたのかと思っていたけど。
よくハイキングに出かけたりしていたな……。
バーベキューとかもした。
あと俺の伯父がブレイドの母さんにアタックしてたっけな。
最初はツンツンしてたけど、だんだんデレていく過程がまさにブレイドの母さん。
それでもブレイドの母さんは夫のことを愛し続けていて、伯父もそれをわかってた。
無理強いはしてなかったな……。
まぁそんなことがあって、遊ぶときは伯父もよく一緒にいた。
俺もブレイドも伯父が好きだったし。
あの二人がくっつけばいいのになーとか子供心に思ってた。
そんなある日、二家族+伯父で出かけようとしていた。
だがブレイドがどうしても行きたくないってごねたんだ。
外に出たくないって聞かなくて、そんなこと言うの初めてで、正直どうしたらいいのかわからなかった。
でもブレイドがそう言うなら何かあるんだろうな、って思ったんだ。
もし何も無くてもまた次の機会に行けばいいし。
ブレイドは止めたけど、母親たちは行ってしまった。
きっとアイツは嫌な予感がしてたんだろうな。
その日、俺の故郷は魔獣達に襲われた。
突然、大きな地震が起きたんだ。
その後に爆音が聞こえてきた。
ブレイドは真っ青になって、動けなくなってた。
……過去を思い出していたんだろうな。
俺は咄嗟に固まったブレイドに抱き付いた。
単に俺が怖くて抱き付いたのか、それとも他の意味があったのか……実は今でもよくわかってなかったりするんだ。
とにかく夢中になって一緒に机の下に潜り込んだ。
上から天井が落ちてきたときはもう死ぬかと思った。
瓦礫の下から這い出て、目を疑ったさ。
見事なまでに破壊されていたんだ。
一瞬で瓦礫の山になった。
信じられなかった。
俺の家はそれなりにでかかったし、作りも頑丈だった。
それの天井が落ちるくらいの地震と爆撃だ、他の家とかがどうなったか想像できるだろう?
惨状とか地獄絵図とか、そんな言葉じゃ言い表しきれない。
アレ以上のものを、俺は未だに見たことがないよ。
俺はただただ泣く事しかできなかった。
でもブレイドは泣いてなかった。
「みんな死んだんだ!
泣いてもしょうがないだろ!」
こう叫んだだけだ。
冷たいと思うか?
でもな、泣いていたんだ。
涙は流してなかったけど、泣いてた。
あの表情が未だに忘れられなくて、今でもブレイドに泣かれると弱いんだよな。
……ああ、泣くぞ?
お前はブレイドをなんだと思ってるんだ?
ブレイドが泣かなかった理由?
……さっきは言えないって言ったけど、これだけは言っとく。
ブレイドにとっては“二回目”だった。
絶対誰にも言うなよ。
ハハ、そうだな。
アレ以上キツくされたら流石に身体が持たないよな。
とにかく彼女は泣く事すらできなかったんだ。
そのあと俺なにか言ったと思うんだけど、実は覚えてないんだよな……。
謝ったのかな?
ブレイドに聞いても教えてくれないし……微妙に笑ってるからよっぽど的外れのこと言ったのか?
怒らせるようなことは流石に言ってない……とは思いたいな。
そのあとは、ブレイドと二人で協力して生きてきた。
食べるものがないどころか、身の安全の確保も難しかった。
少しでも油断すれば格好の魔獣のエサだからな。
魔獣?その辺にゴロゴロいたぞ。
銀河戦争の脱走兵とかじゃないか?
あのときは世界がカオスだったしな。
……あ、そうか、だから普通じゃないのか。
そんな世の中だったから、どちらかが寝る時はどちらかが絶対起きていたし、どちらかが水浴びするときはどちらかが周りを警戒していた。
……こういうこともあったブレイドの性別を知ることもなかったんだよな。
だから仕方がなかったんだよ!
お前だってまさか女の子だと思わなかっただろう!?
現れた魔獣バッタバッタ薙ぎ倒していくし!
俺なんか数えられないくらい助けられたからな……。
実戦なんかしたことなかったから、最初のうちはブレイドにまかっせっきりだったし……。
でも慣れは怖いな、剣を振るうのに躊躇いが無くなるんだ。
数えきれない盗みもしたし、カツアゲは日常茶飯事だったかな……。
卿に出会ったのもそれがきっかけだったしな……。
……そうだ、カツアゲしようとしたんだよ、卿を。
今思うとなんて恐ろしいことをしたんだろうな。
命知らずにも程がある。
今やれって言われても絶対にできない。
ちょうどその時、魔獣……チリドッグに襲われた。
俺らは人を襲う時に、どうしても剣だけは使いたくなかった。
それが仇となって、チリドックに追い詰められた。
チリドッグがブレイドに襲い掛かろうとしたとき、俺は咄嗟に動いた。
それでかっこよくブレイドを救出――できればカッコよかったんだけどな。
見事に返り討ちにされたよ。
ああ、我慢しなくていい、存分に笑え。
当時は笑い事じゃなかったけどな……卿に助けてもらえなかったら多分死んでたんだろうな。
あの卿ですら手こずる魔獣だ。
卿に助けてもらって、頼み込んで弟子入りをしたんだ。
俺は強くなったと思い込んでいたけど、全然なってなかった。
あの人の元でもっと強くなりたいと思ったんだ。
それからここに辿り着いて、卿の部下として働くようになった。
安定した地位も手に入れられて、俺は本当に幸運だと思う。
俺はブレイドに会って、世界が変わったんだ。
彼女がいたから俺の世界は広がったし、あんなことがあっても生きて来られた。
結局、ブレイドがいたことが俺の強さの理由かな。
ああ、精神的な支え、守りたいという気持ち……これらは人を強くする。
大切になればなるほど、強くなって守りたい気持ちも強くなっていくんだ。
ブレイドは強いけど、弱い所もあるんだ。
……だからお前は彼女をなんだと思っているんだ?
まぁ、俺が上手くカバーできてるって思えばいいのかな?
俺が守りたいのは結局あの子。
彼女との日常を何よりも守りたいんだ。
王国騎士団としてどうなんだろうな。
最終的に国の為になってればいいかな、なんてな。
ブレイドと、彼女と過ごすこの国を守るために俺はもっともっと強くなりたいんだ。
……当然だろう?俺はまだまだ未熟者だ。
目標か……そうだな、少しでも卿に近づきたいと思っている。
はは、そうだな……確かに卿はチートレベルの強さだ。
星の戦士の時点で俺達とは世界が違う。
まず身体の構造がまるで違うしな。
……俺達はそんな強い身体を持ってないし、マルク殿やドロッチェ殿みたいに魔法だって使えない。
だからって何もできないのか?
それは違うだろう?
この剣一本で守れるものだってあるんだ。
俺は、更なる高みを目指したいんだ。
もっともっと強くなりたい。
これが限界なんてありえない。
まだいけると思いたいし、越えてみせる。
お、そうだな。
何かわからないこととかあったらいつでも来いよ?
あとこれから午後の訓練だからな、遅れるなよ?
NEXT
→あとがき