緋の刃 -ブレイド-
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……おっと、すまない。
少しぼんやりしてしまっていた。
気付かなくて済まないな。
ああ、書類はそこに置いておいてくれ、お疲れ様。
……ん?いや、体調が悪いわけではない。
少し昔のことを思い出していたんだ。
心配してくれてありがとうな。
ん、何だ?
お前、俺の過去に興味があるのか?
……物好きだな。
そうだな……たまには昔話でもしてみようか。
といっても、そんなに面白くないと思うぞ……。
俺は、今までに故郷を二度失っている。
……ほら、そんなに楽しい話ではないだろう?
いや……気持ちの整理はついているから話すことに問題はない。
……そうか、なら続けよう。
元々俺は、鍛冶屋兼地主の一人娘として生まれたんだ。
そのときの俺はまだ、“ブレイド”じゃなかった。
実は他に本名があるが――それは秘密。
先祖に凄い人がいたとかいないとかで、俺の家系は当主が代々“ブレイド”を名乗ってきたという。
不思議だろ?
その名を継ぐのは原則として男だけ。
どうしてものときは娘が婿をもらう、って寸法だったんだと。
その場合は娘が“ブレイド”になるって。
まぁ、前例はなかったらしいがな。
だが父や母は、俺を“ブレイド”にさせたくなかったんだ。
もちろん愛されなかったというわけではない。
両親は俺に惜しみない愛情を注いでくれた。
思い出補正抜きにしても愛されていたと思う。
……ただ困ったことに、彼らは俺が女の子らしい女の子に育つことを願っていたんだ。
当時はフリルやらリボンやらがついた服を着せられたし、礼儀作法や言葉遣いも厳しく躾けられた。
……お、そんな風に思っててくれたのか。
確かに躾のおかげで、公式な場での立ち振る舞いには自信がある。
まぁフリルやらヒラヒラやらはまっぴらごめんだがな。
ハハッ、今の俺からじゃ考えられないだろう?
でも肝心の俺は武道に興味があったし、あのまま弟が生まれなかったら“ブレイド”の名を継ぎたかった。
物心ついたころから強い父に憧れていた。
でも誰一人、俺に武道は教えてくれなかった。
女という理由で、だ。
それに立場上は「オジョウサマ」だったからなぁ……全然見えないだろう?
……我慢するな、笑え。
……あー、でも簡単な護身術だけは教わったな。
本当にいざって時にだけ程度に。
それ以外はすべて独学だ。
父の剣技を見よう見まねで真似て、剣技の文献を読み漁った。
身体も鍛えたし、元々身体が柔らかかったから自己流の技も編み出した。
当時の年齢からみればそれなりのレベルに達していたと自負している。
そんな俺が“ブレイド”になったきっかけ、それが故郷の襲撃だった。
ある日、空から大量の爆弾が降ってきたんだよ。
そりゃあもう壮観だった。
きっとあれはあの永い永い銀河戦争の余波だったのだろうな。
戦争は戦争を呼ぶから……。
俺の国は参加していなかったはずだが、あの戦争にそんな常識は通用しない。
銀河戦士団が崩壊した後は、魔獣が好き勝手にしていたからな……。
武装をしていなかった俺の国は簡単に破壊された。
まず爆発の衝撃で何人も死んで、生き残った人たちも食料目当てでやってきた魔獣に虐殺された。
……ああ、見ての通り俺は生きている。
俺と母を逃がすために、父が犠牲になったんだ。
別れる寸前に、父は剣をくれた。
父が使ってた、そして代々“ブレイド”が受け継いできたもの。
祖先の双剣の片割れだとか。
……よくわかったな。
そうだ、それがこの剣だよ。
何度か鍛え直したりしているから形は少し変わってしまったけど……。
やっぱりいい剣みたいで、初めて見せたときはあの卿ですら驚いたんだ。
そんな重要な剣を子に渡す、これの意味が解るか?
前代“ブレイド”が俺に名を託し、俺が今代の“ブレイド”になったんだ。
俺は母さんを守りながらひたすら走ったよ。
実戦は初めてだったし怖かったし緊張したけど、やるしかなかった。
だって、母さんを守れるのはもう俺しかいなかったから。
父さんの代わりに母さんを守らなきゃって、その一心で闘った。
それから俺たちは、親戚がいるという遠方の地へ向かったんだ――俺は男として。
誰かを守るなら貧弱な女じゃ駄目だと思いこんでいたから、男として俺は生まれ変わった。
母さんはもう何も言わなかった。
俺のやりたいようにやらせてくれたよ。
……本当は不安でいっぱいだった。
親戚がいるとはいえ新しい土地で、その親戚とも疎遠だったし。
それでも頑張るしかないからどうにかしなきゃって必死だった。
そこで初めてソードと出会った。
……そうだ、親戚だ。
遠いとはいえ一応繋がっているらしい。
ソードが自分の家系のことを話したがらなかったから後でわかったことなんだがな……。
俺は名を冠すことに誇りを持っていたけど、アイツは嫌がっていたみたいだしな。
出会った頃のソードはチビだしモヤシだし気が弱くて泣き虫だったけど、いい目をしていた。
ちょっとした事件があってね、そのときに絶対育てれば伸びるって確信した。
そうしたら本当にぐんぐん成長してさ、驚いたよ。
何故かソードの親にもお礼言われたっけな。
「俺も負けられないな」って、お互いがいい感じに刺激し合ってたんじゃないかな。
本当に楽しかったよ。
でもそれから何年かしてからだ……。
ソードの……そして俺の二つ目の故郷も破壊された。
その日はすごくいい天気で、絶好のレジャー日和だった。
だから俺と母さんとソードの家族で出かける予定だったんだが……俺はどうしても行きたくなかったんだ。
外に出ようとすると、どうしようもなく体が震えた。
何かが漠然と怖くて怖くて、泣きじゃくった。
自分でも何故ここまで嫌なのかわかっていなかった。
理論的な説明ができるはずもない。
母さんは俺を叱った。
ソードの親も困っていた。
普段は俺それなりにいい子ちゃんだったからな、驚いたんだろ。
でもソードは、ソードだけは真っ直ぐに俺を見てくれていた。
「そうだな、ブレイドがそこまで言うなら、俺も今日は外に行かない」
……そう言いながら、俺の頭をあやすように撫でてくれたんだ。
あのときはまだ俺より全然小っちゃかったくせに。
生意気だよな。
でもやっぱりあの頃から……あっ、いや、なんでもない……っ!
コホン、その日は結局、適当に二人で家の中で遊ぶことにしたんだ。
意外とインドアでも遊ぶぞ、俺ら。
チェスとかは今でも時々やるしな。
で、ちょうど昼御飯を食べているときだな、急に地震が起きたんだ。
慌ててテーブルに飛び込むと、爆発音が聞こえてきたんだ。
なんだ?と思ってたら、ものすごい風圧が俺らの身を襲った。
その時のことはあまりよく覚えていないが、ソードが俺の方に手を伸ばしていたのは覚えている。
意識を失って目覚めたらそこは真っ暗で、全身が重たかった。
瓦礫に埋もれていたんだ。
幸い呼吸はできたから、二人で頑張って這い上がった。
普段から鍛えていたぶん、力があってよかったよ。
火事場の馬鹿力もあったんだろうけどな。
それで必死こいて起き上がった俺らの目の前に広がっていたのは、一度見たことがある光景――いや、それ以上に酷かった。
残骸すらほとんどなかった。
焼け野原だよ、焼け野原。
「ああ、またか」と思った。
嫌な予感がしていたときはあんなに怯えていたのに、いざこうなってみると意外にも冷静で居られた。
……周りには俺ら以外人っ子ひとりいなかったよ、生きているな人はな。
いっそ、俺も死にたかった。
「母さんを守る」っている父さんとの約束は守れなかったし。
もっとちゃんと止めればよかったって後悔した。
それでも冷静ぶって、自分をなんとか保っていた。
俺がそんなこと思ってる隣でソードはわんわん泣いていて、その姿に物凄く苛立った。
変な話だけど、羨ましかったんだろうな。
悲しい出来事と受け止めて、素直に泣くことができるソードのことが。
俺はいろいろゴチャゴチャに考えすぎて、素直に泣くことすらできなかったんだ。
「みんな死んだんだ!
泣いてもしょうがないだろ!」
……そうソードに怒鳴った後、すぐに後悔した。
ソードの反応が普通の反応なんだ。
居た家が崩れて、焼け野原のような光景が広がっていて。
身体も痛いし、見渡す限りじゃ生きてるのは俺たちだけで。
まだまだ俺達は子ども……今の半分ちょいくらいだったし、本来なら泣くなという方が無理だろう。
おかしいのは俺の方。
俺の言葉は単なる八つ当たりにしかすぎなかった。
すぐ謝ろうと口を開こうとしたんだが、その前にソードの方が先に口を開いた。
その時、ソードなんて言ったと思う?
「ごめんね、でも、ブレイドが生きてて、ホントによかった」
……こう言ったんだよ。
涙と鼻水でグッチャグチャで、でも本当に本当に、ほんの少しだけ笑って。
それを聞いて、よくわかんないけどなんとなく救われたんだ。
俺が生きてて良かったって言ってくれる人がいて、それがただ嬉しかった。
失った世界の中に、一つだけ確かな存在が残っていてくれたんだ。
あのソードの表情は、今でも忘れられないんだ。
時々ふとソードがその時に似た表情をしてると、何とも言えない気持ちになるんだ……。
それからの生活は、酷いモンだった。
まだ子どもで仕事もできない……というか、働き口が無かったんだよなぁ……。
だから俺たちは盗賊になった。
まさに世紀末、生きるか死ぬかの瀬戸際。
……例えばドロッチェ団は盗賊だが、命がかかっているわけではないだろう?
こう言ってはなんだが、相手を選ぶ余裕がある。
実際あの人たちは弱者には絶対に手出ししないし、むしろ弱気を助ける義賊だろう?
でも俺たちはそんなもの無かった。
ああ、女子供は俺らが手出しする以前にまず生き残っていなかったよ。
やっぱり真っ先に狙われるからな、あの辺は。
でももし生き残っていたら、容赦無く襲っていたんだろうな。
で、俺らよりガタイのいいヤツらを襲って奪って。
……流石に殺しはしなかったけど。
お陰で子鬼がでるとか噂されたりしてたな。
とはいえ魔獣にも襲われたりしたし、今生きてるのが正直不思議で仕方がない。
そんな生活をしているとき、卿に出会ったんだ。
ちょうど間が悪くて、卿はチリドッグという魔獣から逃げている所だった。
……情けない話だけど、そのときチリドッグに怯んじまったんだ。
今まで相手していた魔獣とは明らかに格が違う。
あんなに腰が抜けたのは人生で初めてだった。
……でもあのときな、ソードが俺を守ろうとしてくれたんだ。
チリドッグは俺の方を向いてて、今にも襲い掛かってきそうだった。
ソードは気を逸らすために、アイツに襲い掛かってくれた。
まあ、失敗して卿に助けられたんだがな。
……なんだ、何をニヤニヤしているんだ?
え、「ブレイドさん嬉しそう」って……な、何を言っているんだ!
あのときは本当に悔しかったんだぞ!
でもそこで俺は、まだまだ未熟なんだと思い知らされた。
盗賊時代は向かうところ敵無しだったから、調子に乗ってたんだ。
だからこそ俺らは、卿について行こうと決めたんだ。
身体を張って俺たちを守ってくれた卿に、一生仕えようと決意したんだ。
それからここに着いて、いろいろあって今に至るって感じだな。
正直、最初の故郷が壊されなかったらソードとも卿とも出会えなかったんだよな……。
そう思うといろいろ複雑だな……。
運命の奇異さというか、なんというか。
人生何が起こるのかなんてわかんないもんなんだよな。
……はは、そうだな。
だからお前も頑張れよ。
応援してるし、協力は惜しまない。
何かあったら何でも相談してくれ。
……まず、何をすればいいかって?
とりあえずは……この報告書、ここが間違ってるから直してもらおうか?
少しぼんやりしてしまっていた。
気付かなくて済まないな。
ああ、書類はそこに置いておいてくれ、お疲れ様。
……ん?いや、体調が悪いわけではない。
少し昔のことを思い出していたんだ。
心配してくれてありがとうな。
ん、何だ?
お前、俺の過去に興味があるのか?
……物好きだな。
そうだな……たまには昔話でもしてみようか。
といっても、そんなに面白くないと思うぞ……。
俺は、今までに故郷を二度失っている。
……ほら、そんなに楽しい話ではないだろう?
いや……気持ちの整理はついているから話すことに問題はない。
……そうか、なら続けよう。
元々俺は、鍛冶屋兼地主の一人娘として生まれたんだ。
そのときの俺はまだ、“ブレイド”じゃなかった。
実は他に本名があるが――それは秘密。
先祖に凄い人がいたとかいないとかで、俺の家系は当主が代々“ブレイド”を名乗ってきたという。
不思議だろ?
その名を継ぐのは原則として男だけ。
どうしてものときは娘が婿をもらう、って寸法だったんだと。
その場合は娘が“ブレイド”になるって。
まぁ、前例はなかったらしいがな。
だが父や母は、俺を“ブレイド”にさせたくなかったんだ。
もちろん愛されなかったというわけではない。
両親は俺に惜しみない愛情を注いでくれた。
思い出補正抜きにしても愛されていたと思う。
……ただ困ったことに、彼らは俺が女の子らしい女の子に育つことを願っていたんだ。
当時はフリルやらリボンやらがついた服を着せられたし、礼儀作法や言葉遣いも厳しく躾けられた。
……お、そんな風に思っててくれたのか。
確かに躾のおかげで、公式な場での立ち振る舞いには自信がある。
まぁフリルやらヒラヒラやらはまっぴらごめんだがな。
ハハッ、今の俺からじゃ考えられないだろう?
でも肝心の俺は武道に興味があったし、あのまま弟が生まれなかったら“ブレイド”の名を継ぎたかった。
物心ついたころから強い父に憧れていた。
でも誰一人、俺に武道は教えてくれなかった。
女という理由で、だ。
それに立場上は「オジョウサマ」だったからなぁ……全然見えないだろう?
……我慢するな、笑え。
……あー、でも簡単な護身術だけは教わったな。
本当にいざって時にだけ程度に。
それ以外はすべて独学だ。
父の剣技を見よう見まねで真似て、剣技の文献を読み漁った。
身体も鍛えたし、元々身体が柔らかかったから自己流の技も編み出した。
当時の年齢からみればそれなりのレベルに達していたと自負している。
そんな俺が“ブレイド”になったきっかけ、それが故郷の襲撃だった。
ある日、空から大量の爆弾が降ってきたんだよ。
そりゃあもう壮観だった。
きっとあれはあの永い永い銀河戦争の余波だったのだろうな。
戦争は戦争を呼ぶから……。
俺の国は参加していなかったはずだが、あの戦争にそんな常識は通用しない。
銀河戦士団が崩壊した後は、魔獣が好き勝手にしていたからな……。
武装をしていなかった俺の国は簡単に破壊された。
まず爆発の衝撃で何人も死んで、生き残った人たちも食料目当てでやってきた魔獣に虐殺された。
……ああ、見ての通り俺は生きている。
俺と母を逃がすために、父が犠牲になったんだ。
別れる寸前に、父は剣をくれた。
父が使ってた、そして代々“ブレイド”が受け継いできたもの。
祖先の双剣の片割れだとか。
……よくわかったな。
そうだ、それがこの剣だよ。
何度か鍛え直したりしているから形は少し変わってしまったけど……。
やっぱりいい剣みたいで、初めて見せたときはあの卿ですら驚いたんだ。
そんな重要な剣を子に渡す、これの意味が解るか?
前代“ブレイド”が俺に名を託し、俺が今代の“ブレイド”になったんだ。
俺は母さんを守りながらひたすら走ったよ。
実戦は初めてだったし怖かったし緊張したけど、やるしかなかった。
だって、母さんを守れるのはもう俺しかいなかったから。
父さんの代わりに母さんを守らなきゃって、その一心で闘った。
それから俺たちは、親戚がいるという遠方の地へ向かったんだ――俺は男として。
誰かを守るなら貧弱な女じゃ駄目だと思いこんでいたから、男として俺は生まれ変わった。
母さんはもう何も言わなかった。
俺のやりたいようにやらせてくれたよ。
……本当は不安でいっぱいだった。
親戚がいるとはいえ新しい土地で、その親戚とも疎遠だったし。
それでも頑張るしかないからどうにかしなきゃって必死だった。
そこで初めてソードと出会った。
……そうだ、親戚だ。
遠いとはいえ一応繋がっているらしい。
ソードが自分の家系のことを話したがらなかったから後でわかったことなんだがな……。
俺は名を冠すことに誇りを持っていたけど、アイツは嫌がっていたみたいだしな。
出会った頃のソードはチビだしモヤシだし気が弱くて泣き虫だったけど、いい目をしていた。
ちょっとした事件があってね、そのときに絶対育てれば伸びるって確信した。
そうしたら本当にぐんぐん成長してさ、驚いたよ。
何故かソードの親にもお礼言われたっけな。
「俺も負けられないな」って、お互いがいい感じに刺激し合ってたんじゃないかな。
本当に楽しかったよ。
でもそれから何年かしてからだ……。
ソードの……そして俺の二つ目の故郷も破壊された。
その日はすごくいい天気で、絶好のレジャー日和だった。
だから俺と母さんとソードの家族で出かける予定だったんだが……俺はどうしても行きたくなかったんだ。
外に出ようとすると、どうしようもなく体が震えた。
何かが漠然と怖くて怖くて、泣きじゃくった。
自分でも何故ここまで嫌なのかわかっていなかった。
理論的な説明ができるはずもない。
母さんは俺を叱った。
ソードの親も困っていた。
普段は俺それなりにいい子ちゃんだったからな、驚いたんだろ。
でもソードは、ソードだけは真っ直ぐに俺を見てくれていた。
「そうだな、ブレイドがそこまで言うなら、俺も今日は外に行かない」
……そう言いながら、俺の頭をあやすように撫でてくれたんだ。
あのときはまだ俺より全然小っちゃかったくせに。
生意気だよな。
でもやっぱりあの頃から……あっ、いや、なんでもない……っ!
コホン、その日は結局、適当に二人で家の中で遊ぶことにしたんだ。
意外とインドアでも遊ぶぞ、俺ら。
チェスとかは今でも時々やるしな。
で、ちょうど昼御飯を食べているときだな、急に地震が起きたんだ。
慌ててテーブルに飛び込むと、爆発音が聞こえてきたんだ。
なんだ?と思ってたら、ものすごい風圧が俺らの身を襲った。
その時のことはあまりよく覚えていないが、ソードが俺の方に手を伸ばしていたのは覚えている。
意識を失って目覚めたらそこは真っ暗で、全身が重たかった。
瓦礫に埋もれていたんだ。
幸い呼吸はできたから、二人で頑張って這い上がった。
普段から鍛えていたぶん、力があってよかったよ。
火事場の馬鹿力もあったんだろうけどな。
それで必死こいて起き上がった俺らの目の前に広がっていたのは、一度見たことがある光景――いや、それ以上に酷かった。
残骸すらほとんどなかった。
焼け野原だよ、焼け野原。
「ああ、またか」と思った。
嫌な予感がしていたときはあんなに怯えていたのに、いざこうなってみると意外にも冷静で居られた。
……周りには俺ら以外人っ子ひとりいなかったよ、生きているな人はな。
いっそ、俺も死にたかった。
「母さんを守る」っている父さんとの約束は守れなかったし。
もっとちゃんと止めればよかったって後悔した。
それでも冷静ぶって、自分をなんとか保っていた。
俺がそんなこと思ってる隣でソードはわんわん泣いていて、その姿に物凄く苛立った。
変な話だけど、羨ましかったんだろうな。
悲しい出来事と受け止めて、素直に泣くことができるソードのことが。
俺はいろいろゴチャゴチャに考えすぎて、素直に泣くことすらできなかったんだ。
「みんな死んだんだ!
泣いてもしょうがないだろ!」
……そうソードに怒鳴った後、すぐに後悔した。
ソードの反応が普通の反応なんだ。
居た家が崩れて、焼け野原のような光景が広がっていて。
身体も痛いし、見渡す限りじゃ生きてるのは俺たちだけで。
まだまだ俺達は子ども……今の半分ちょいくらいだったし、本来なら泣くなという方が無理だろう。
おかしいのは俺の方。
俺の言葉は単なる八つ当たりにしかすぎなかった。
すぐ謝ろうと口を開こうとしたんだが、その前にソードの方が先に口を開いた。
その時、ソードなんて言ったと思う?
「ごめんね、でも、ブレイドが生きてて、ホントによかった」
……こう言ったんだよ。
涙と鼻水でグッチャグチャで、でも本当に本当に、ほんの少しだけ笑って。
それを聞いて、よくわかんないけどなんとなく救われたんだ。
俺が生きてて良かったって言ってくれる人がいて、それがただ嬉しかった。
失った世界の中に、一つだけ確かな存在が残っていてくれたんだ。
あのソードの表情は、今でも忘れられないんだ。
時々ふとソードがその時に似た表情をしてると、何とも言えない気持ちになるんだ……。
それからの生活は、酷いモンだった。
まだ子どもで仕事もできない……というか、働き口が無かったんだよなぁ……。
だから俺たちは盗賊になった。
まさに世紀末、生きるか死ぬかの瀬戸際。
……例えばドロッチェ団は盗賊だが、命がかかっているわけではないだろう?
こう言ってはなんだが、相手を選ぶ余裕がある。
実際あの人たちは弱者には絶対に手出ししないし、むしろ弱気を助ける義賊だろう?
でも俺たちはそんなもの無かった。
ああ、女子供は俺らが手出しする以前にまず生き残っていなかったよ。
やっぱり真っ先に狙われるからな、あの辺は。
でももし生き残っていたら、容赦無く襲っていたんだろうな。
で、俺らよりガタイのいいヤツらを襲って奪って。
……流石に殺しはしなかったけど。
お陰で子鬼がでるとか噂されたりしてたな。
とはいえ魔獣にも襲われたりしたし、今生きてるのが正直不思議で仕方がない。
そんな生活をしているとき、卿に出会ったんだ。
ちょうど間が悪くて、卿はチリドッグという魔獣から逃げている所だった。
……情けない話だけど、そのときチリドッグに怯んじまったんだ。
今まで相手していた魔獣とは明らかに格が違う。
あんなに腰が抜けたのは人生で初めてだった。
……でもあのときな、ソードが俺を守ろうとしてくれたんだ。
チリドッグは俺の方を向いてて、今にも襲い掛かってきそうだった。
ソードは気を逸らすために、アイツに襲い掛かってくれた。
まあ、失敗して卿に助けられたんだがな。
……なんだ、何をニヤニヤしているんだ?
え、「ブレイドさん嬉しそう」って……な、何を言っているんだ!
あのときは本当に悔しかったんだぞ!
でもそこで俺は、まだまだ未熟なんだと思い知らされた。
盗賊時代は向かうところ敵無しだったから、調子に乗ってたんだ。
だからこそ俺らは、卿について行こうと決めたんだ。
身体を張って俺たちを守ってくれた卿に、一生仕えようと決意したんだ。
それからここに着いて、いろいろあって今に至るって感じだな。
正直、最初の故郷が壊されなかったらソードとも卿とも出会えなかったんだよな……。
そう思うといろいろ複雑だな……。
運命の奇異さというか、なんというか。
人生何が起こるのかなんてわかんないもんなんだよな。
……はは、そうだな。
だからお前も頑張れよ。
応援してるし、協力は惜しまない。
何かあったら何でも相談してくれ。
……まず、何をすればいいかって?
とりあえずは……この報告書、ここが間違ってるから直してもらおうか?