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朝日が怖かった。
寝られるのは片方だけ。
相棒が寝ている間中、俺は夜の闇に身を潜め息を殺して獣の気配を探る。
手は剣の柄にかけたまま……あっちがどうしているかはわからないけど、少なくとも俺はそうだった。
でも、多分あっちも同じ事をしていたと思う。
油断していたら簡単に魔獣の餌になってしまうから。
今夜も俺は相棒の夜を護っていた。
ぼんやりとした月明かりが翠の髪を照らしている。
警戒するのに慣れ過ぎた身体はほとんど動いていない。
ちゃんと休めているのか不安になるほどだ。
最近は飯も満足に食えてないし……そんな事を考え出すと心臓が急に締め付けられる。
少し痩けた頬がやけに蒼白い気がして、俺はソードの頬にそっと触れた。
「……よかった」
指先に温かさを感じて胸を撫で下ろした。
夜は、闇は、純粋に脅威だった。
……それでも俺は朝日の方が怖かった。
朝日が昇っても頬が蒼白いままだったらどうしよう。
暖かい陽が射しても身体が冷たかったらどうしよう。
その瞳が永遠に開かなかったらどうしよう。
陽光に照らされた絶望的な光景が脳裏に浮かぶ。
打ち消そうとすればするほど考えてしまい、息が詰まり、身体が震える。
朝日が怖かった。
お前が起きない朝を迎えるのが何よりも怖かった。
***
僅かに白んできた空の下、ププビレッジの丘は初日の出を見に来た大勢の人で賑わっていた。
酒を飲んで盛り上がる大人や眠い目を擦る子ども、肩を寄せ合う夫婦……誰もが皆日が昇るのを今か今かと待ちわびている。
たまたま休暇が重なった俺達もその中にいた。
……本当はあんまり乗り気では無かったが。
まあ、せっかくの機会だし、縁起物だし。
「そろそろか?」
冷えた指先を擦り合わせながら隣を見やる……が、そこには誰もいなかった。
辺りを見渡してみても彼の姿はどこにもなかった。
ドグンと心臓が鳴り、身体が勝手に震え出す。
思わず声を上げそうになった瞬間、人々を掻き分けてこちらに手を振るソードが見えて膝から崩れ落ちそうになった。
「いやー混んでた混んでた」
「どこ行ってたんだ!」と口を開きかけたと同時に、ソードは湯気が立つ紙コップをひとつ差し出す。
面食らった俺に、彼は呑気に笑った。
「甘酒、温まるぞ」
そんなことを言われてしまえば怒る気も失せて、素直に礼を言ってコップを受け取り一口飲む。
優しい甘さが冷えた身体に染み渡り、緊張感が解けていくのを感じた。
まだ夜明け前で冷えるから気を利かせてくれたのだろう。
それは嬉しいしありがたい、ありがたいが。
「……だからって急にいなくなること無いだろ」
「え?俺は……いや、悪かったな。
ブレイドが震えてたからつい」
「う……」
そう言われると弱い。
というか俺、そんなに震えていたか?
何となくばつが悪くなってしまい、ぽやぽやと白い水面に視線を落としてそれをもう一口飲み込む。
……うん、寒い日の甘酒ってこんなに美味しいんだな。
「みんな見て見て!明るくなって来たよ!」
どこからか少女の弾んだ声が聞こえてきて顔を上げると、柔らかな光が空と海を少しずつ染め始めていた。
だんだんと燃えてくる美しい空は、始まりのようにも終わりのようにも見える。
「めでたいめでたい」「綺麗ですねぇ」「早く早く!」等村人がさらに盛り上がっている中、俺たちは示し合わせた訳ように無言のまま見守っていた。
ふとソードの方に目を向けると、怖いぐらいに真剣に見つめていた。
どうしたのだろう、そんなに見逃したくないのだろうか?と不思議には思ったが、なんとなく俺も真剣に見なきゃいけない気になって空に向き直る。
しかしやっぱり気になってもう一度ソードを見てみると、その目は真剣というよりかは怯えのように見えて――咄嗟にその手を握ると、彼は心底驚いたように俺の方を向いた。
「……手が冷たかったからだ」
そっぽを向いてそう言うと、ソードは笑いを噛み殺しながら繋いだ俺の手諸共自分のコートのポケットに突っ込んだ。
顔が熱くなり文句を言いかけるが、彼の表情が和らいでいたのを見て口を噤む。
外でこういうことをするのは恥ずかしいのだが、今日は寒いから仕方がない……そう自分に言い聞かせてされるがままに。
「あっソドブレ尊い……」「今のはブレソドでは?」「ありがたやありがたや」「早起きした甲斐があったわね」「とりあえず拝も」
……なんか、冷やかしの声が聞こえた気がするけど無視しておこう。
***
「ちゃんと明けたな」
赤い光が辺り一面に広がった瞬間、ソードは満足そうな、安心したような溜息をついてそう呟いた。
その横顔は晴れやかで、あの強ばった顔はなんだったのだろうとすら思えてくる。
「ちゃんとってなんだよ?」
「はは、それもそうだよな……明けない夜は無いんだよな」
少し歪んだ彼の表情を見てハッとする。
もしかして、ソードも?
お前も俺と同じ想いを抱いていた?
朝日に脅えた日があったのか?
……口に出して問わずとも、もはや答えは明白だった。
「うん、今年もいい年になりそうだ」
「……ソードにとっていい年ってなんだ?」
「んー……怪我とか病気はしたくないし、平和なのがいいけど……」
そこまで言うとソードは俺の方に向き直った。
温かな光が彼に降り注ぎ、その頬を赤く染めている。
細められた翠色の瞳は、ほんのり濡れて輝いていた。
「ブレイドの隣にずっといられたら、それが一番だな」
「ブレイドは?」と悪戯っぽく返されたのを「さあな」とはぐらかし、また前を向く。
……少し涙が出そうになったのは、朝日が眩しかったせいだ。
そう心の中で呟いて、優しい朝を告げる光を見つめ続けた。
寝られるのは片方だけ。
相棒が寝ている間中、俺は夜の闇に身を潜め息を殺して獣の気配を探る。
手は剣の柄にかけたまま……あっちがどうしているかはわからないけど、少なくとも俺はそうだった。
でも、多分あっちも同じ事をしていたと思う。
油断していたら簡単に魔獣の餌になってしまうから。
今夜も俺は相棒の夜を護っていた。
ぼんやりとした月明かりが翠の髪を照らしている。
警戒するのに慣れ過ぎた身体はほとんど動いていない。
ちゃんと休めているのか不安になるほどだ。
最近は飯も満足に食えてないし……そんな事を考え出すと心臓が急に締め付けられる。
少し痩けた頬がやけに蒼白い気がして、俺はソードの頬にそっと触れた。
「……よかった」
指先に温かさを感じて胸を撫で下ろした。
夜は、闇は、純粋に脅威だった。
……それでも俺は朝日の方が怖かった。
朝日が昇っても頬が蒼白いままだったらどうしよう。
暖かい陽が射しても身体が冷たかったらどうしよう。
その瞳が永遠に開かなかったらどうしよう。
陽光に照らされた絶望的な光景が脳裏に浮かぶ。
打ち消そうとすればするほど考えてしまい、息が詰まり、身体が震える。
朝日が怖かった。
お前が起きない朝を迎えるのが何よりも怖かった。
***
僅かに白んできた空の下、ププビレッジの丘は初日の出を見に来た大勢の人で賑わっていた。
酒を飲んで盛り上がる大人や眠い目を擦る子ども、肩を寄せ合う夫婦……誰もが皆日が昇るのを今か今かと待ちわびている。
たまたま休暇が重なった俺達もその中にいた。
……本当はあんまり乗り気では無かったが。
まあ、せっかくの機会だし、縁起物だし。
「そろそろか?」
冷えた指先を擦り合わせながら隣を見やる……が、そこには誰もいなかった。
辺りを見渡してみても彼の姿はどこにもなかった。
ドグンと心臓が鳴り、身体が勝手に震え出す。
思わず声を上げそうになった瞬間、人々を掻き分けてこちらに手を振るソードが見えて膝から崩れ落ちそうになった。
「いやー混んでた混んでた」
「どこ行ってたんだ!」と口を開きかけたと同時に、ソードは湯気が立つ紙コップをひとつ差し出す。
面食らった俺に、彼は呑気に笑った。
「甘酒、温まるぞ」
そんなことを言われてしまえば怒る気も失せて、素直に礼を言ってコップを受け取り一口飲む。
優しい甘さが冷えた身体に染み渡り、緊張感が解けていくのを感じた。
まだ夜明け前で冷えるから気を利かせてくれたのだろう。
それは嬉しいしありがたい、ありがたいが。
「……だからって急にいなくなること無いだろ」
「え?俺は……いや、悪かったな。
ブレイドが震えてたからつい」
「う……」
そう言われると弱い。
というか俺、そんなに震えていたか?
何となくばつが悪くなってしまい、ぽやぽやと白い水面に視線を落としてそれをもう一口飲み込む。
……うん、寒い日の甘酒ってこんなに美味しいんだな。
「みんな見て見て!明るくなって来たよ!」
どこからか少女の弾んだ声が聞こえてきて顔を上げると、柔らかな光が空と海を少しずつ染め始めていた。
だんだんと燃えてくる美しい空は、始まりのようにも終わりのようにも見える。
「めでたいめでたい」「綺麗ですねぇ」「早く早く!」等村人がさらに盛り上がっている中、俺たちは示し合わせた訳ように無言のまま見守っていた。
ふとソードの方に目を向けると、怖いぐらいに真剣に見つめていた。
どうしたのだろう、そんなに見逃したくないのだろうか?と不思議には思ったが、なんとなく俺も真剣に見なきゃいけない気になって空に向き直る。
しかしやっぱり気になってもう一度ソードを見てみると、その目は真剣というよりかは怯えのように見えて――咄嗟にその手を握ると、彼は心底驚いたように俺の方を向いた。
「……手が冷たかったからだ」
そっぽを向いてそう言うと、ソードは笑いを噛み殺しながら繋いだ俺の手諸共自分のコートのポケットに突っ込んだ。
顔が熱くなり文句を言いかけるが、彼の表情が和らいでいたのを見て口を噤む。
外でこういうことをするのは恥ずかしいのだが、今日は寒いから仕方がない……そう自分に言い聞かせてされるがままに。
「あっソドブレ尊い……」「今のはブレソドでは?」「ありがたやありがたや」「早起きした甲斐があったわね」「とりあえず拝も」
……なんか、冷やかしの声が聞こえた気がするけど無視しておこう。
***
「ちゃんと明けたな」
赤い光が辺り一面に広がった瞬間、ソードは満足そうな、安心したような溜息をついてそう呟いた。
その横顔は晴れやかで、あの強ばった顔はなんだったのだろうとすら思えてくる。
「ちゃんとってなんだよ?」
「はは、それもそうだよな……明けない夜は無いんだよな」
少し歪んだ彼の表情を見てハッとする。
もしかして、ソードも?
お前も俺と同じ想いを抱いていた?
朝日に脅えた日があったのか?
……口に出して問わずとも、もはや答えは明白だった。
「うん、今年もいい年になりそうだ」
「……ソードにとっていい年ってなんだ?」
「んー……怪我とか病気はしたくないし、平和なのがいいけど……」
そこまで言うとソードは俺の方に向き直った。
温かな光が彼に降り注ぎ、その頬を赤く染めている。
細められた翠色の瞳は、ほんのり濡れて輝いていた。
「ブレイドの隣にずっといられたら、それが一番だな」
「ブレイドは?」と悪戯っぽく返されたのを「さあな」とはぐらかし、また前を向く。
……少し涙が出そうになったのは、朝日が眩しかったせいだ。
そう心の中で呟いて、優しい朝を告げる光を見つめ続けた。