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※ソドブレの過去のお話
※最後だけ現代に繋がります
※過去編・長編読んだ後の方がわかりやすいです
「本当にいいの?」
そう問われた私は静かに頷いた。
母は諦めるように溜め息をつくと、唇をきつく引き結んだ。
ハサミを持つその手は、少し震えているように見える。
鈍く冷たく光るそれは私の髪に入り、ジャキンと音を立てた。
「髪は女の命」と誰かが言っていた。
ならば、私――否、俺はそれを殺してしまおう。
弱い俺を守るためにいくつもの命が消えていった。
あの時の俺がもっと強ければ、父の首は落ちなかったかもしれない。
そのときの光景が今も目に焼き付いて離れない。
弱い自分のせいで、誰かを喪うのはもうたくさんだ。
だから強くなりたいし、強く在らねばならない。
もう、護られる弱い女ではいられない。
父から名を継いだとき、そう決意したのだ。
ジャキンとハサミの音が聞こえる度に、髪がはらはらと零れ落ちていく度に、心が凍っていくのを感じる。
床に散った赤い髪は、どこか血のように見えた。
「……できたわよ」
鏡の中には、見慣れぬ姿。
随分と軽くなったように感じる頭とは裏腹に、心は重く沈んだままだった。
***
「はい、そこまでー」
その辺に落ちていた枝を剣のように突きつけると、クラスメイトの三対の瞳はいとも容易く臆病に揺れた。
ただ立ち去ろうとまではしない……コイツらにも一応プライドというものがあるらしい。
相手をしてやってもいいけど、それこそ弱い者イジメになるからあまり気乗りしない。
「……それとも俺と遊ぶか?」
意識的に殺気を放って威圧すれば、ビクッと身体を震わせた3人は弾かれたように駆けて行った。
このやり取りもう何回やってるんだ?
いい加減、学習すればいいのに……アイツらも、コイツも。
「ほら、帰るぞ」
地面に蹲った小柄な友達――ソードに手を差し伸べる。
俺を見上げる翠の目からは涙がポロポロと流れていて、しゃくりあげる姿はいっそ俺よりも女の子だ。
実際女の子のように華奢で色白なコイツは、クラスメイトの格好の餌食でしょっちゅう泣かされている。
そんなコイツを助けに行くのが、いつの間にか俺の日課になっていた。
初めてあった日、ボス猿に唆されて襲いかかってきたときはできるやつかもと思っていたのに……。
でもどこか放っておけなくて、つい構ってしまう。
「ふぇぇぇん!ブレイド~!」
「ああもう、泣くなよ」
なんとか宥めて、ソードが泣き止んだ頃にはすっかり日が傾いていた。
まだ少し涙目のソードの手を引いて、少し意識的にゆっくりと歩く。
ふと視線を感じて振り返ると、ソードが俺の顔……というよりかは、頭の方をじっと見ていた。
「何かついてるか?」
「ううん。フレイドの髪、きれいな色だなって」
「はっ?お前何言って……」
「ほら、あれみたい!」
ソードが指差す方を振り返り、思わず息を呑んだ。
燃えるような太陽が深緑の山に沈みかけている。
空どころか世界ごと赤く染め上げようとする姿は恐ろしいくらいに美しく、力強く、しかしどこか物悲しくも見える。
「ぼくね、ブレイドの色好きだよ!」
キラキラとした、真っ直ぐな瞳でそう言った。
ソードには俺の色がこんな風に見えているのか?
そう思うとなんとなく胸の奥がジンと熱くなった。
くすぐったいような、落ち着かないような……でも決して不愉快ではない、不思議な感覚。
いったいこれは、何だろう……?
「……ふーん、そっか」
顔が熱いのは夕日のせいだ。
そう自分に言い聞かせて、素っ気なく返事をした。
***
髪を櫛で丁寧に梳き、いつものように一つに結ぼうと手でまとめていると、不意にいつか見た夕日を思い出して手を止めた。
「……あぁ、あのときからか」
そう呟いて手を離す。
サラリと肩から背に零れる緋色は、あの頃から随分伸びた。
俺はつい最近まで、男として生きていた。
周囲の人はもちろん、一番大切な人まで騙して。
髪が長いと女と思われる確率は当然上がる……つまり、嘘を知られるリスクが高くなるのは明らかだ。
それでもなぜか伸ばし続けていた。
自分でも矛盾を感じていたが、その理由を今更になって理解した。
「……ちゃんと、生きてたんだな」
あの日殺したはずの、鏡の中の“私”にそう話しかける。
たまには髪をおろしてみようか。
今日は一応、初デートとやらなんだから。
※最後だけ現代に繋がります
※過去編・長編読んだ後の方がわかりやすいです
「本当にいいの?」
そう問われた私は静かに頷いた。
母は諦めるように溜め息をつくと、唇をきつく引き結んだ。
ハサミを持つその手は、少し震えているように見える。
鈍く冷たく光るそれは私の髪に入り、ジャキンと音を立てた。
「髪は女の命」と誰かが言っていた。
ならば、私――否、俺はそれを殺してしまおう。
弱い俺を守るためにいくつもの命が消えていった。
あの時の俺がもっと強ければ、父の首は落ちなかったかもしれない。
そのときの光景が今も目に焼き付いて離れない。
弱い自分のせいで、誰かを喪うのはもうたくさんだ。
だから強くなりたいし、強く在らねばならない。
もう、護られる弱い女ではいられない。
父から名を継いだとき、そう決意したのだ。
ジャキンとハサミの音が聞こえる度に、髪がはらはらと零れ落ちていく度に、心が凍っていくのを感じる。
床に散った赤い髪は、どこか血のように見えた。
「……できたわよ」
鏡の中には、見慣れぬ姿。
随分と軽くなったように感じる頭とは裏腹に、心は重く沈んだままだった。
***
「はい、そこまでー」
その辺に落ちていた枝を剣のように突きつけると、クラスメイトの三対の瞳はいとも容易く臆病に揺れた。
ただ立ち去ろうとまではしない……コイツらにも一応プライドというものがあるらしい。
相手をしてやってもいいけど、それこそ弱い者イジメになるからあまり気乗りしない。
「……それとも俺と遊ぶか?」
意識的に殺気を放って威圧すれば、ビクッと身体を震わせた3人は弾かれたように駆けて行った。
このやり取りもう何回やってるんだ?
いい加減、学習すればいいのに……アイツらも、コイツも。
「ほら、帰るぞ」
地面に蹲った小柄な友達――ソードに手を差し伸べる。
俺を見上げる翠の目からは涙がポロポロと流れていて、しゃくりあげる姿はいっそ俺よりも女の子だ。
実際女の子のように華奢で色白なコイツは、クラスメイトの格好の餌食でしょっちゅう泣かされている。
そんなコイツを助けに行くのが、いつの間にか俺の日課になっていた。
初めてあった日、ボス猿に唆されて襲いかかってきたときはできるやつかもと思っていたのに……。
でもどこか放っておけなくて、つい構ってしまう。
「ふぇぇぇん!ブレイド~!」
「ああもう、泣くなよ」
なんとか宥めて、ソードが泣き止んだ頃にはすっかり日が傾いていた。
まだ少し涙目のソードの手を引いて、少し意識的にゆっくりと歩く。
ふと視線を感じて振り返ると、ソードが俺の顔……というよりかは、頭の方をじっと見ていた。
「何かついてるか?」
「ううん。フレイドの髪、きれいな色だなって」
「はっ?お前何言って……」
「ほら、あれみたい!」
ソードが指差す方を振り返り、思わず息を呑んだ。
燃えるような太陽が深緑の山に沈みかけている。
空どころか世界ごと赤く染め上げようとする姿は恐ろしいくらいに美しく、力強く、しかしどこか物悲しくも見える。
「ぼくね、ブレイドの色好きだよ!」
キラキラとした、真っ直ぐな瞳でそう言った。
ソードには俺の色がこんな風に見えているのか?
そう思うとなんとなく胸の奥がジンと熱くなった。
くすぐったいような、落ち着かないような……でも決して不愉快ではない、不思議な感覚。
いったいこれは、何だろう……?
「……ふーん、そっか」
顔が熱いのは夕日のせいだ。
そう自分に言い聞かせて、素っ気なく返事をした。
***
髪を櫛で丁寧に梳き、いつものように一つに結ぼうと手でまとめていると、不意にいつか見た夕日を思い出して手を止めた。
「……あぁ、あのときからか」
そう呟いて手を離す。
サラリと肩から背に零れる緋色は、あの頃から随分伸びた。
俺はつい最近まで、男として生きていた。
周囲の人はもちろん、一番大切な人まで騙して。
髪が長いと女と思われる確率は当然上がる……つまり、嘘を知られるリスクが高くなるのは明らかだ。
それでもなぜか伸ばし続けていた。
自分でも矛盾を感じていたが、その理由を今更になって理解した。
「……ちゃんと、生きてたんだな」
あの日殺したはずの、鏡の中の“私”にそう話しかける。
たまには髪をおろしてみようか。
今日は一応、初デートとやらなんだから。