もうビンは空っぽだよ
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「あああもうやだああああぁぁぁ!!」
カバンを放り出して、ベッドに飛び込む。
おひさまの香りがふわりと香って、それが余計に虚しくて逃げるようにごろんと仰向けになった。
「……ただいま、マルク」
何もないところにそう呼びかける。
するとまるで魔法のように空間が揺らいで裂けて、そこから紫色の綺麗な男の人が現れた。
光に透ける薄紫の髪に、この世で一番綺麗なアメジストを嵌め込んだような瞳。
本来なら有り得ない色彩を持つ、この常識の外に居る存在――マルクは、私の守護霊なんだそうで。
よくわからないけど、私は守られるべき選ばれし存在なんだって。
守護霊というよりかは魔法使い?ピエロ?みたいな風貌の彼は、物心ついたころから私の傍で見守ってくれている不思議な存在だ。
見守って……うん、そのはずなんだけど。
黙ってれば美男子の唇の端は、もう今にも笑い出しそうにプルプルと震えていた。
「ねえ、なにか言いたいことあるなら言ってよ」
「ククッ……言っていいの?ほんとに言っていいのサ?」
「別にいいもん大体わかってるし」
「まぁーたフラれたなぁ」
「うッ……」
自分からふっかけておいて、いざズバリと言われるとグサリと言葉が胸に刺さる。
そう、私はついさっき彼氏にフラれたのだ。
告白されて、OKして、初めてのデートだった。
めいいっぱいオシャレをして髪型も気合を入れて。
楽しませるような会話と、気遣いもちゃんと忘れずにして。
完璧だったはずなのに、何故か彼の顔が段々と曇っていって……そして突然告げられた「サヨナラ」。
「『思ってたのと違った』ってなんなの!?
あんたの理想なんて知ったこっちゃない!
“今回は”ゲーム好きだって隠してたのに!」
……そう、これでフラれるのはなんと10回目!記念すべき大台!いやそんな記念あってたまるか!
クッションをボスボスと殴りながらドロドロに濁った心の中のものを全部ぶち撒ける。
自分で言うのもなんだけど、私はそこそこモテる。
だから彼氏は割と簡単にできるんだけど……ビックリするほど長続きしない。
失恋RTA走者かなにか?ってくらい爆速でフラれる。
一番長続きした人(一週間)でやっと手を繋いだくらい。
人数の割に恋愛経験が薄すぎる。
この前初めての彼氏ができた友達はもう「キスしちゃった♡」とか言ってるのに!
「なんで!?
いいと思ったから告ってきたんでしょうになーにが『思ってたのと違った』だよバーカバーカ!
彼女になると急にハードル上がるの!?
その前は『他に好きな人ができた』!
じゃあなんで告ってきた!?バカなの!?」
「まあ、その程度の男だったってことサ」
「その前はちょっと続いたと思ったら『勉強に集中したい』って!
これも振るときの常套句じゃん!」
「いやそれはマジだった」
「えっ」
「……あっヤべッ」
マルクが慌てて口を覆う。
なんでそんなこと知ってるの?と同時にひとつの可能性に思い当たる。
彼が不思議な術……魔法?を使えることはわかっている。
それで何をどこまでできるかは知らないけど、もしかして……?
「……怒らないから教えて?なんかした?」
「もう怒ってるのサ、ステイステイ。
ボクは守護霊としての役目を果たしただけだぜ?」
それはもうほとんど答えだよね!?
思わずクッションを投擲したけど、彼は難なくそれを受け止めた。
そのままクッションはフワフワと浮かび、私の手元に戻って来る。
「なんで邪魔するの!?守護霊なら恋愛運上げてよー!」
「バーカ守護霊だからろくでもない男から守ってやってるのサ。
アイツなんかキナ臭い感じしたし」
「う……」
確かにあの人ちょっとチャラかったしな……と数刻前に元彼と化した男のことを思い返す。
私のことを好きというか、モテる私と付き合うことに価値を見出しているような素振りもあったような気がするし……。
でも告白されたときは「この人なら!」って思ったんだけどな……。
うじうじと膝を抱えていると、不意に甘い香りが鼻腔を擽ってきて顔を上げた。
「ほら、これでも飲むのサ」
そう差し出してきたのは可愛いマグカップに入ったココア。
ちょっと意地を張りそうになったけど、そこにポンッとホイップクリームまで乗ってきたからにはもう逆らえない。
素直に受け取って飲むと、ちょうどいい温さのそれがじわりと胸に染み込んだ。
流石、飴と鞭の使い方がお上手でらっしゃる。
でも、今欲しい“飴”はこっちじゃなくて……。
「ねぇマルク、私今とっても悲しいの」
「見りゃわかる」
「……アレは?」
「はいはい、アレね。手ェ出して」
マグカップをサイドボードに置いて手を差し出す。
そこにポンと出てきたのは緑色の飴玉。
宝石みたいな綺麗なそれを口に入れると、ちょっぴりひんやりしていてなんとも言えない甘さが口に広がった。
私が悲しい時や辛い時、マルクはいつもこうやって魔法の飴をくれる。
パパやママに叱られたとき、友達と喧嘩したとき、テストの点が悪かったとき……フラれちゃったとき。
「これ本当においしい、好き」
舌で大事に転がしながらそう言えば、身体がじんわり温かくなる。
なにか力がみなぎってくるような感じ。
口当たりはひんやりなのに不思議。
前に材料が何か聞いたら「魔法なのサ」と答えられて明らかにはぐらかされたと思ったけど、あながち間違っていないのかもしれない。
「キミさぁ、ちゃんと相手見て付き合えよ。
告白されて即OKするもんじゃないのサ」
「うっさい!」
ド正論なのは頭ではわかるけど、フラレたばかりの心にはちとキツい。
私がこんなに彼氏を作るのに必死なのにも一応理由があるし。
「……本当は、私に好きな人ができればいいんだろうけど」
「追われるより追う方がいいって?アテはあるのサ?」
「ないから今困ってるんだよ?」
嘘。本当はもういるんだ。
でも絶対に叶わないからもう諦めてる。
「ふぅん」
その追いたい相手は、眼の前で神妙な顔をしている。
そんな顔にすら胸がドキドキしてしまう。
……そう、私は自分の守護霊に恋してた。
自分でもバカなの?なんで?って思うけど逆に考えてみてほしい。
子どもの頃からこんなハイスペックインチキオバケが傍にいれば恋しない方がおかしいでしょ!?
とんだ初恋泥棒だよ!
「いい人、いないかなぁ……」
死んでる?相手の時点で叶うわけがない。始まる前からバッドエンド確定鬱ゲーか。
それに、マルクは私が大人に……具体的には、18歳になったらいなくなるんだって。
いつだったかそんなことを言い出してビックリしたよ。
守護霊なら一生守ってほしいんだけど、まあそういう決まりなら仕方ない。
だからそれ以降の身の振り方を考えなきゃなんだろうけど……このまま初恋を引き摺ったら、他の人を好きになれる自信が無い。
だから18歳までに、絶対に理想の彼氏を作る!
笑ってマルクとお別れするんだ!
***
「18歳だね、誕生日おめでとう」
マルクの言葉を、引き攣った笑みで受け止める。
結局、独り身のままでした。
あれからまた色んな人とお付合いはしたけど案の定上手くいかなかった。
相変わらずフラれてばっかりだったし。
……ううん、実は一人だけいい感じの人がいた。
本当にいい人だったんだ、珍しくマルクも何も言ってこなかったし。
真面目で、ちゃんと私自身をしっかり見てくれて……でも私の方がダメだったんだ。
自然に彼とマルクを比較している自分に気付いて、絶望して、罪悪感に苛んで……初めて自分からお別れした。
さよならを告げた私に、マルクは複雑な表情で飴玉をくれたっけ。
「本当に良かったのか?多分、アイツなら幸せにしてくれたと思う」なんて言って。
私も正直そう思ったよ。
それでも、愚かな私はあなたを愛さずにはいられなかった。
私を見てほしいと願わずにいられなかった。
叶わないとわかっていても、想いは年を増すごとに積み重なって。
こんなところまで来てしまった。
だから私は決意したんだ。
「さて、前も話したけどボクがキミを守るのはもう終わりだ」
「……まだ大人じゃないもん」
「ううん、キミはもう大人だ。
自分で自分の人生を選択できるのサ」
18歳、タイムリミット、ゲームオーバー。
覚悟はしていたつもりだけど、胸が張り裂けそうに痛い。
サヨナラなんか聞きたくない!と咄嗟に耳を塞ごうとした。
「待って!キミには選択肢があるのサ」
予想外の言葉にぽかんとする私に、彼がスッと手を差し出す。
その彼の手のひらに乗っているのは飴玉だった。
でもそれはいつものものと違う。
「ボクとさよならするか、この飴を食べるか」
飴玉は紫色をしていた。
まるでよく磨かれた宝石のようなそれは私を見つめる瞳と同じ色。
その瞬間、私の中で全てが繋がった。
私がなぜ選ばれし存在なのか。
なぜマルクが私に飴玉を与え続けていたのか。
飴玉は何でできているのか。
そして私という存在が、マルクにとって何だったのか。
「でもこれを食べたらキミは」
マルクが言い終わる前に、その飴を奪って口に入れる。
いつもより甘くて、少し苦い。
舌先に感じるのはこの胸を射るそれより鮮烈な痛み。
きっと彼の、私じゃない誰かに向けた積年の想いの味。
「待て!話は最後まで聞けッ!」
「『キミはキミじゃなくなる』とでも言うつもり?」
それでも構わない。
あなたの望むならば、私の全てを捧げよう。
あなたがくれるものならば、毒でも喜んで飲み干そう。
あなたが私じゃない人を見つめていても、私はあなたを愛してる。
「もう、決めてたの」
『二度とあなたに会えなくなるならば、いっそ死んでしまおう』
利用されたと理解してもなお、その気持ちは変わらなかった。
マルクの瞳が驚愕に見開かれて、そこに私が映っていた。
ああ今、この瞬間だけは!たしかに私だけを見てくれた!
胸に溢れ出す歓喜ごと飴玉を噛み砕き、嚥下した。
「うっ……がっ……」
「ッ、大丈夫か!?」
胸が燃えるように熱い。
いろんな景色が私の頭の中に渦巻く。
それはまるで極彩色の万華鏡。
立っているのか座っているのか、ここが地面なのか空中なのかはたまた水中なのかすらわからない。
星が瞬いていた。
波の音がした。
風が吹いていた。
雪が舞っていた。
土の匂いがした。
誰かが泣いていた。
花が咲いて、枯れて、また咲いて。
そこはあきれかえるほど平和な世界で、暖かな陽の光が降り注いで、柔らかく空が歪んで。
あなたの瞳、普段は2色なんだね。
ルビーとサファイアがこちらを見つめて、柔らかに細められて。
知らないけど知っている。
初めてなのに覚えている。
私の中の何かが暴れている。
きっと、マルクが本当に守りたかった存在。
私が選ばれた存在の証。
私が18年勝てなかった相手。
出してあげればマルクの望みは叶って、私は消えるだろう。
「それでいい」と目を瞑りとろけるような闇に漂っていると、段々と眠くなっていく。
眠るように死ねるならありがたいなぁとボンヤリ考えていると、不意に頬を撫でられてつい再び目を開けてしまった。
もう、起きないつもりだったのに。
「……あなたは」
眼の前にあったのは無数の緑の光。
それは私の胸から伸びていて、段々と人の形になっていく。
そして“彼女”はふにゃりと笑った。
「そっか、私は……」
知っている、私はこの人を知っている。
涙が溢れそうになるのを必死に耐える。
なんで今まで気付かなかったんだろう。
私が私じゃなくなるわけなんてなかったんだ。
「あなたはわたし、わたしはあなた」
そう自覚した瞬間、身体中に不思議な力……ううん、あの懐かしい魔力がみなぎってきた。
手のひらから目が眩むような光が溢れ、そのまま柔らかに温かく全身を包み、“私”と“ボクちん”がひとつになる。
「一緒に行こう」
そう言ったのはどっちからだったか。
ううん、どっちでもいいんだ、同じだから。
スッと手を上げると、まるで一気にカーテンを開けたように視界が開ける。
そこに広がるのは18年間見慣れた景色で、さっきまでと同じ場所に立っていることを理解した。
“私”はここにいて、“ボクちん”もここにいる。
消えたくなかったし、殺したくもなかった私達にとって最高の結果だろう。
でもマルクにとってはどうだろう?と一抹の不安を覚え彼の方を見て、それが杞憂だったことを理解する。
「……ただいま、マルク」
きっと顔は見られたくないだろう。
だからその胸に飛び込んで、初めてで懐かしいその体温に身を委ねた。
***
キミがいなくなったあの日から、ボクの世界から色が消えた。
墓前には色とりどりの花。
それを供えている間だけは、心が安らかでいられる気がした。
いくつもの花に宿る思い出をなぞり、喜ぶキミの笑顔の幻を求めて。
供えるだけじゃ飽き足らず周りにも植えてみたら、いつの間にか花畑になった。
ちょっとした観光スポットになっていたらしい。
花畑で踊るキミの幻影を何度も創っては壊した。
どうやってもキミにはなり得なかった。
ちょっとしたホラースポットになっていたらしい。
何度も花が変わったある日、一斉に枯れた。
他人は嘆き悲しみボクを慰めた。
あのマホロアでさえ腫れ物に触れるように接してきた。
ちょっと気持ち悪かった。
でもボクはなにも悲しくなかった。
直感があったんだ、キミが蘇ったって。
それからずっとキミを探した。
他人はボクがいよいよおかしくなったって思ったみたいだけど、そんなことどうでもよかった。
ひと目でいいから会いたかった。
幾つもの世界を超えて、ようやくキミと同じ魂を見付けたとき、ボクがどんなに嬉しかったかわかる?
ちっちゃな手をこっちに伸ばして、ふにゃりと笑う赤子。
姿形は変わっても、その笑い方は変わらないんだね。
……ひと目で満足なんかできるわけなかった。
どんな手を使ってでも取り戻すことにした。
キミが遺したあらゆるモノから魔力を抽出して、甘い甘いキャンディを作った。
あの魂の中にキミはそのまま眠っていた。
だから魔力を触媒に起こしてあげることにした。
一気に与えると多分、身体が保たないだろうから大人になるまで少しずつ。
……今思うと、成功する保証も無いのによくそんなことができたなと思う。
でも、あのときのボクはそうするしか無かった。
守護霊だなんて笑えるよね。
いつかキミが還る大事な器だと、あの子の人格を殺そうとしたくせに。
幼いあの子は喜んで食べてくれた。
あまりにも素直に食べるもんだから却って心配になって。
終わりの時まではちゃんと守ってやんなきゃな、なんて思ったりして。
18年はボクにとってはあまりにも短くて、でもあの子に情が移るのには十分だった。
子どもの頃から見守っていたからこそ揺れた。
……キミの事も子どもの頃から知ってるから尚更かな?
もしかしたら有り得たかもしれないヒトとしての幸せ。
ボク以外とも育めたかもしれない幸せ。
あの子として生まれ落ちたキミにはその方が良いのかな、なんて思ったりした。
キミはボクと生きて後悔してないと言ってくれたし、その言葉が嘘だったとは思わない……。
ボクだってボクなりにキミのことを幸せにできたつもり、だけど……。
キミにとってほんとうに最善だったかどうかは今でもわからないんだ。
誰よりも大切で、幸せていてほしくて。
「かつて自分のために捨てさせたものをもう一度捨てさせるのか?」という問いに自信を持って頷けなくなったのは、あの子がいろんな人の好意を受け取り始めた頃だった。
かといって、このままあの子の守護霊でい続けるのは無理だなと悟ってもいた。
無理矢理にでも自分のものにしてしまう自信があった。
18年のタイムリミットが違う意味を帯びた。
お祝いという名目で渡す計画だったキャンディ。
ボクの魔力で作った情念の塊。
キミを呼び覚まし、あの子を殺す劇薬。
あの子を殺してキミを得るか。
キミを逃がしてあの子を守るか。
本音を言えば、キミに会いたくて堪らなかったよ。
でもあの子に死んでほしくない自分にも気付いてしまって、キミの幸せの形もわからなくなってしまった。
欲望のままに行動するには、キミの事が大切すぎた。
……それで昔も怒られたっけ。
「なんでいつも傍若無人なのにボクちんにだけはそう変に気を遣うの?」とか。
キミ関連じゃなきゃ好き勝手やれるのにね。
一番欲しくて大事なものにだけ、ボクはいつも臆病なんだ。
だからもう何が正解なのかわからなくなってしまった最低なボクは……選択の責任をあの子に押し付けた。
その結果あの子が死んでも、現世でボクと生きなくても、あの子が選んだのだと無理矢理飲み込もう。
与えた魔力を回収して来世にまた願えばいい。
嫌だと悲鳴を上げる心と暴走しそうになる欲望をなけなしの理性で捻じ伏せて、今日という日を迎えた。
それでも説明すべきことは説明するつもりだったんだけど、あの子は何もかも悟った上で手を伸ばした。
キャンディを口に放るという単純な行為。
そこに滲む強い覚悟を、心の底から尊いと思ったんだ。
だからあの子が完全に消えなかったのは本当に幸いだった。
違う人格だったはずの2人は、互いに受け入れ合って緩やかにひとつにまとまったらしい。
そんなことできるとは思わなかったけど、あの2人ならたしかに……と納得できる部分もある。
2人にはしこたま叱られた。
あの子を騙したとか利用したとか、その辺で怒られるのは元々覚悟していたけど。
「マルクはほんっっっと肝心なところで臆病だよね」とか「私が今更他の人と幸せになれると思う!?」とか「実際ボクちんを手離して耐えられるの?おまえにそんな理性があるなら最初からこんなことしない」とかいろんな方向から散々な言われようだった。
そんな小言さえ嬉しくて滂沱の涙を流し続けるボクを抱き締め「でも、ボクちんと私のことを真剣に考えてくれたんだね」なんて言うから、余計に止まらなくなった。
そうだ、ボクはキミに幸せになってほしくて、らしくないことを考えて、らしくないことを悩んだ。
「ねぇ、ちゃんと今回“も”幸せにしてよね」
疲れて眠りに落ちる寸前にそう言ったキミの言葉が、きっと答えだ。
ボクはこれから先も一生、キミのことを諦められない。
何度生まれ変わっても見つけ出すだろう。
きっとまたこうやって悩んでしまうだろう。
その時に少しでも自信持って迎えに行けるように。
またボクと生きたいと思ってもらえるように。
今はこの子を全力で幸せにしよう。
そんなことを想いながら、さっき言いそびれた返事を呟く。
「おかえり、グリル」
安らかな寝息を立てる少女は、幸せそうに笑んでいた。
もうビンはからっぽだよ
「もう1つくらい食べたい……」「また来世な」
→あとがき
カバンを放り出して、ベッドに飛び込む。
おひさまの香りがふわりと香って、それが余計に虚しくて逃げるようにごろんと仰向けになった。
「……ただいま、マルク」
何もないところにそう呼びかける。
するとまるで魔法のように空間が揺らいで裂けて、そこから紫色の綺麗な男の人が現れた。
光に透ける薄紫の髪に、この世で一番綺麗なアメジストを嵌め込んだような瞳。
本来なら有り得ない色彩を持つ、この常識の外に居る存在――マルクは、私の守護霊なんだそうで。
よくわからないけど、私は守られるべき選ばれし存在なんだって。
守護霊というよりかは魔法使い?ピエロ?みたいな風貌の彼は、物心ついたころから私の傍で見守ってくれている不思議な存在だ。
見守って……うん、そのはずなんだけど。
黙ってれば美男子の唇の端は、もう今にも笑い出しそうにプルプルと震えていた。
「ねえ、なにか言いたいことあるなら言ってよ」
「ククッ……言っていいの?ほんとに言っていいのサ?」
「別にいいもん大体わかってるし」
「まぁーたフラれたなぁ」
「うッ……」
自分からふっかけておいて、いざズバリと言われるとグサリと言葉が胸に刺さる。
そう、私はついさっき彼氏にフラれたのだ。
告白されて、OKして、初めてのデートだった。
めいいっぱいオシャレをして髪型も気合を入れて。
楽しませるような会話と、気遣いもちゃんと忘れずにして。
完璧だったはずなのに、何故か彼の顔が段々と曇っていって……そして突然告げられた「サヨナラ」。
「『思ってたのと違った』ってなんなの!?
あんたの理想なんて知ったこっちゃない!
“今回は”ゲーム好きだって隠してたのに!」
……そう、これでフラれるのはなんと10回目!記念すべき大台!いやそんな記念あってたまるか!
クッションをボスボスと殴りながらドロドロに濁った心の中のものを全部ぶち撒ける。
自分で言うのもなんだけど、私はそこそこモテる。
だから彼氏は割と簡単にできるんだけど……ビックリするほど長続きしない。
失恋RTA走者かなにか?ってくらい爆速でフラれる。
一番長続きした人(一週間)でやっと手を繋いだくらい。
人数の割に恋愛経験が薄すぎる。
この前初めての彼氏ができた友達はもう「キスしちゃった♡」とか言ってるのに!
「なんで!?
いいと思ったから告ってきたんでしょうになーにが『思ってたのと違った』だよバーカバーカ!
彼女になると急にハードル上がるの!?
その前は『他に好きな人ができた』!
じゃあなんで告ってきた!?バカなの!?」
「まあ、その程度の男だったってことサ」
「その前はちょっと続いたと思ったら『勉強に集中したい』って!
これも振るときの常套句じゃん!」
「いやそれはマジだった」
「えっ」
「……あっヤべッ」
マルクが慌てて口を覆う。
なんでそんなこと知ってるの?と同時にひとつの可能性に思い当たる。
彼が不思議な術……魔法?を使えることはわかっている。
それで何をどこまでできるかは知らないけど、もしかして……?
「……怒らないから教えて?なんかした?」
「もう怒ってるのサ、ステイステイ。
ボクは守護霊としての役目を果たしただけだぜ?」
それはもうほとんど答えだよね!?
思わずクッションを投擲したけど、彼は難なくそれを受け止めた。
そのままクッションはフワフワと浮かび、私の手元に戻って来る。
「なんで邪魔するの!?守護霊なら恋愛運上げてよー!」
「バーカ守護霊だからろくでもない男から守ってやってるのサ。
アイツなんかキナ臭い感じしたし」
「う……」
確かにあの人ちょっとチャラかったしな……と数刻前に元彼と化した男のことを思い返す。
私のことを好きというか、モテる私と付き合うことに価値を見出しているような素振りもあったような気がするし……。
でも告白されたときは「この人なら!」って思ったんだけどな……。
うじうじと膝を抱えていると、不意に甘い香りが鼻腔を擽ってきて顔を上げた。
「ほら、これでも飲むのサ」
そう差し出してきたのは可愛いマグカップに入ったココア。
ちょっと意地を張りそうになったけど、そこにポンッとホイップクリームまで乗ってきたからにはもう逆らえない。
素直に受け取って飲むと、ちょうどいい温さのそれがじわりと胸に染み込んだ。
流石、飴と鞭の使い方がお上手でらっしゃる。
でも、今欲しい“飴”はこっちじゃなくて……。
「ねぇマルク、私今とっても悲しいの」
「見りゃわかる」
「……アレは?」
「はいはい、アレね。手ェ出して」
マグカップをサイドボードに置いて手を差し出す。
そこにポンと出てきたのは緑色の飴玉。
宝石みたいな綺麗なそれを口に入れると、ちょっぴりひんやりしていてなんとも言えない甘さが口に広がった。
私が悲しい時や辛い時、マルクはいつもこうやって魔法の飴をくれる。
パパやママに叱られたとき、友達と喧嘩したとき、テストの点が悪かったとき……フラれちゃったとき。
「これ本当においしい、好き」
舌で大事に転がしながらそう言えば、身体がじんわり温かくなる。
なにか力がみなぎってくるような感じ。
口当たりはひんやりなのに不思議。
前に材料が何か聞いたら「魔法なのサ」と答えられて明らかにはぐらかされたと思ったけど、あながち間違っていないのかもしれない。
「キミさぁ、ちゃんと相手見て付き合えよ。
告白されて即OKするもんじゃないのサ」
「うっさい!」
ド正論なのは頭ではわかるけど、フラレたばかりの心にはちとキツい。
私がこんなに彼氏を作るのに必死なのにも一応理由があるし。
「……本当は、私に好きな人ができればいいんだろうけど」
「追われるより追う方がいいって?アテはあるのサ?」
「ないから今困ってるんだよ?」
嘘。本当はもういるんだ。
でも絶対に叶わないからもう諦めてる。
「ふぅん」
その追いたい相手は、眼の前で神妙な顔をしている。
そんな顔にすら胸がドキドキしてしまう。
……そう、私は自分の守護霊に恋してた。
自分でもバカなの?なんで?って思うけど逆に考えてみてほしい。
子どもの頃からこんなハイスペックインチキオバケが傍にいれば恋しない方がおかしいでしょ!?
とんだ初恋泥棒だよ!
「いい人、いないかなぁ……」
死んでる?相手の時点で叶うわけがない。始まる前からバッドエンド確定鬱ゲーか。
それに、マルクは私が大人に……具体的には、18歳になったらいなくなるんだって。
いつだったかそんなことを言い出してビックリしたよ。
守護霊なら一生守ってほしいんだけど、まあそういう決まりなら仕方ない。
だからそれ以降の身の振り方を考えなきゃなんだろうけど……このまま初恋を引き摺ったら、他の人を好きになれる自信が無い。
だから18歳までに、絶対に理想の彼氏を作る!
笑ってマルクとお別れするんだ!
***
「18歳だね、誕生日おめでとう」
マルクの言葉を、引き攣った笑みで受け止める。
結局、独り身のままでした。
あれからまた色んな人とお付合いはしたけど案の定上手くいかなかった。
相変わらずフラれてばっかりだったし。
……ううん、実は一人だけいい感じの人がいた。
本当にいい人だったんだ、珍しくマルクも何も言ってこなかったし。
真面目で、ちゃんと私自身をしっかり見てくれて……でも私の方がダメだったんだ。
自然に彼とマルクを比較している自分に気付いて、絶望して、罪悪感に苛んで……初めて自分からお別れした。
さよならを告げた私に、マルクは複雑な表情で飴玉をくれたっけ。
「本当に良かったのか?多分、アイツなら幸せにしてくれたと思う」なんて言って。
私も正直そう思ったよ。
それでも、愚かな私はあなたを愛さずにはいられなかった。
私を見てほしいと願わずにいられなかった。
叶わないとわかっていても、想いは年を増すごとに積み重なって。
こんなところまで来てしまった。
だから私は決意したんだ。
「さて、前も話したけどボクがキミを守るのはもう終わりだ」
「……まだ大人じゃないもん」
「ううん、キミはもう大人だ。
自分で自分の人生を選択できるのサ」
18歳、タイムリミット、ゲームオーバー。
覚悟はしていたつもりだけど、胸が張り裂けそうに痛い。
サヨナラなんか聞きたくない!と咄嗟に耳を塞ごうとした。
「待って!キミには選択肢があるのサ」
予想外の言葉にぽかんとする私に、彼がスッと手を差し出す。
その彼の手のひらに乗っているのは飴玉だった。
でもそれはいつものものと違う。
「ボクとさよならするか、この飴を食べるか」
飴玉は紫色をしていた。
まるでよく磨かれた宝石のようなそれは私を見つめる瞳と同じ色。
その瞬間、私の中で全てが繋がった。
私がなぜ選ばれし存在なのか。
なぜマルクが私に飴玉を与え続けていたのか。
飴玉は何でできているのか。
そして私という存在が、マルクにとって何だったのか。
「でもこれを食べたらキミは」
マルクが言い終わる前に、その飴を奪って口に入れる。
いつもより甘くて、少し苦い。
舌先に感じるのはこの胸を射るそれより鮮烈な痛み。
きっと彼の、私じゃない誰かに向けた積年の想いの味。
「待て!話は最後まで聞けッ!」
「『キミはキミじゃなくなる』とでも言うつもり?」
それでも構わない。
あなたの望むならば、私の全てを捧げよう。
あなたがくれるものならば、毒でも喜んで飲み干そう。
あなたが私じゃない人を見つめていても、私はあなたを愛してる。
「もう、決めてたの」
『二度とあなたに会えなくなるならば、いっそ死んでしまおう』
利用されたと理解してもなお、その気持ちは変わらなかった。
マルクの瞳が驚愕に見開かれて、そこに私が映っていた。
ああ今、この瞬間だけは!たしかに私だけを見てくれた!
胸に溢れ出す歓喜ごと飴玉を噛み砕き、嚥下した。
「うっ……がっ……」
「ッ、大丈夫か!?」
胸が燃えるように熱い。
いろんな景色が私の頭の中に渦巻く。
それはまるで極彩色の万華鏡。
立っているのか座っているのか、ここが地面なのか空中なのかはたまた水中なのかすらわからない。
星が瞬いていた。
波の音がした。
風が吹いていた。
雪が舞っていた。
土の匂いがした。
誰かが泣いていた。
花が咲いて、枯れて、また咲いて。
そこはあきれかえるほど平和な世界で、暖かな陽の光が降り注いで、柔らかく空が歪んで。
あなたの瞳、普段は2色なんだね。
ルビーとサファイアがこちらを見つめて、柔らかに細められて。
知らないけど知っている。
初めてなのに覚えている。
私の中の何かが暴れている。
きっと、マルクが本当に守りたかった存在。
私が選ばれた存在の証。
私が18年勝てなかった相手。
出してあげればマルクの望みは叶って、私は消えるだろう。
「それでいい」と目を瞑りとろけるような闇に漂っていると、段々と眠くなっていく。
眠るように死ねるならありがたいなぁとボンヤリ考えていると、不意に頬を撫でられてつい再び目を開けてしまった。
もう、起きないつもりだったのに。
「……あなたは」
眼の前にあったのは無数の緑の光。
それは私の胸から伸びていて、段々と人の形になっていく。
そして“彼女”はふにゃりと笑った。
「そっか、私は……」
知っている、私はこの人を知っている。
涙が溢れそうになるのを必死に耐える。
なんで今まで気付かなかったんだろう。
私が私じゃなくなるわけなんてなかったんだ。
「あなたはわたし、わたしはあなた」
そう自覚した瞬間、身体中に不思議な力……ううん、あの懐かしい魔力がみなぎってきた。
手のひらから目が眩むような光が溢れ、そのまま柔らかに温かく全身を包み、“私”と“ボクちん”がひとつになる。
「一緒に行こう」
そう言ったのはどっちからだったか。
ううん、どっちでもいいんだ、同じだから。
スッと手を上げると、まるで一気にカーテンを開けたように視界が開ける。
そこに広がるのは18年間見慣れた景色で、さっきまでと同じ場所に立っていることを理解した。
“私”はここにいて、“ボクちん”もここにいる。
消えたくなかったし、殺したくもなかった私達にとって最高の結果だろう。
でもマルクにとってはどうだろう?と一抹の不安を覚え彼の方を見て、それが杞憂だったことを理解する。
「……ただいま、マルク」
きっと顔は見られたくないだろう。
だからその胸に飛び込んで、初めてで懐かしいその体温に身を委ねた。
***
キミがいなくなったあの日から、ボクの世界から色が消えた。
墓前には色とりどりの花。
それを供えている間だけは、心が安らかでいられる気がした。
いくつもの花に宿る思い出をなぞり、喜ぶキミの笑顔の幻を求めて。
供えるだけじゃ飽き足らず周りにも植えてみたら、いつの間にか花畑になった。
ちょっとした観光スポットになっていたらしい。
花畑で踊るキミの幻影を何度も創っては壊した。
どうやってもキミにはなり得なかった。
ちょっとしたホラースポットになっていたらしい。
何度も花が変わったある日、一斉に枯れた。
他人は嘆き悲しみボクを慰めた。
あのマホロアでさえ腫れ物に触れるように接してきた。
ちょっと気持ち悪かった。
でもボクはなにも悲しくなかった。
直感があったんだ、キミが蘇ったって。
それからずっとキミを探した。
他人はボクがいよいよおかしくなったって思ったみたいだけど、そんなことどうでもよかった。
ひと目でいいから会いたかった。
幾つもの世界を超えて、ようやくキミと同じ魂を見付けたとき、ボクがどんなに嬉しかったかわかる?
ちっちゃな手をこっちに伸ばして、ふにゃりと笑う赤子。
姿形は変わっても、その笑い方は変わらないんだね。
……ひと目で満足なんかできるわけなかった。
どんな手を使ってでも取り戻すことにした。
キミが遺したあらゆるモノから魔力を抽出して、甘い甘いキャンディを作った。
あの魂の中にキミはそのまま眠っていた。
だから魔力を触媒に起こしてあげることにした。
一気に与えると多分、身体が保たないだろうから大人になるまで少しずつ。
……今思うと、成功する保証も無いのによくそんなことができたなと思う。
でも、あのときのボクはそうするしか無かった。
守護霊だなんて笑えるよね。
いつかキミが還る大事な器だと、あの子の人格を殺そうとしたくせに。
幼いあの子は喜んで食べてくれた。
あまりにも素直に食べるもんだから却って心配になって。
終わりの時まではちゃんと守ってやんなきゃな、なんて思ったりして。
18年はボクにとってはあまりにも短くて、でもあの子に情が移るのには十分だった。
子どもの頃から見守っていたからこそ揺れた。
……キミの事も子どもの頃から知ってるから尚更かな?
もしかしたら有り得たかもしれないヒトとしての幸せ。
ボク以外とも育めたかもしれない幸せ。
あの子として生まれ落ちたキミにはその方が良いのかな、なんて思ったりした。
キミはボクと生きて後悔してないと言ってくれたし、その言葉が嘘だったとは思わない……。
ボクだってボクなりにキミのことを幸せにできたつもり、だけど……。
キミにとってほんとうに最善だったかどうかは今でもわからないんだ。
誰よりも大切で、幸せていてほしくて。
「かつて自分のために捨てさせたものをもう一度捨てさせるのか?」という問いに自信を持って頷けなくなったのは、あの子がいろんな人の好意を受け取り始めた頃だった。
かといって、このままあの子の守護霊でい続けるのは無理だなと悟ってもいた。
無理矢理にでも自分のものにしてしまう自信があった。
18年のタイムリミットが違う意味を帯びた。
お祝いという名目で渡す計画だったキャンディ。
ボクの魔力で作った情念の塊。
キミを呼び覚まし、あの子を殺す劇薬。
あの子を殺してキミを得るか。
キミを逃がしてあの子を守るか。
本音を言えば、キミに会いたくて堪らなかったよ。
でもあの子に死んでほしくない自分にも気付いてしまって、キミの幸せの形もわからなくなってしまった。
欲望のままに行動するには、キミの事が大切すぎた。
……それで昔も怒られたっけ。
「なんでいつも傍若無人なのにボクちんにだけはそう変に気を遣うの?」とか。
キミ関連じゃなきゃ好き勝手やれるのにね。
一番欲しくて大事なものにだけ、ボクはいつも臆病なんだ。
だからもう何が正解なのかわからなくなってしまった最低なボクは……選択の責任をあの子に押し付けた。
その結果あの子が死んでも、現世でボクと生きなくても、あの子が選んだのだと無理矢理飲み込もう。
与えた魔力を回収して来世にまた願えばいい。
嫌だと悲鳴を上げる心と暴走しそうになる欲望をなけなしの理性で捻じ伏せて、今日という日を迎えた。
それでも説明すべきことは説明するつもりだったんだけど、あの子は何もかも悟った上で手を伸ばした。
キャンディを口に放るという単純な行為。
そこに滲む強い覚悟を、心の底から尊いと思ったんだ。
だからあの子が完全に消えなかったのは本当に幸いだった。
違う人格だったはずの2人は、互いに受け入れ合って緩やかにひとつにまとまったらしい。
そんなことできるとは思わなかったけど、あの2人ならたしかに……と納得できる部分もある。
2人にはしこたま叱られた。
あの子を騙したとか利用したとか、その辺で怒られるのは元々覚悟していたけど。
「マルクはほんっっっと肝心なところで臆病だよね」とか「私が今更他の人と幸せになれると思う!?」とか「実際ボクちんを手離して耐えられるの?おまえにそんな理性があるなら最初からこんなことしない」とかいろんな方向から散々な言われようだった。
そんな小言さえ嬉しくて滂沱の涙を流し続けるボクを抱き締め「でも、ボクちんと私のことを真剣に考えてくれたんだね」なんて言うから、余計に止まらなくなった。
そうだ、ボクはキミに幸せになってほしくて、らしくないことを考えて、らしくないことを悩んだ。
「ねぇ、ちゃんと今回“も”幸せにしてよね」
疲れて眠りに落ちる寸前にそう言ったキミの言葉が、きっと答えだ。
ボクはこれから先も一生、キミのことを諦められない。
何度生まれ変わっても見つけ出すだろう。
きっとまたこうやって悩んでしまうだろう。
その時に少しでも自信持って迎えに行けるように。
またボクと生きたいと思ってもらえるように。
今はこの子を全力で幸せにしよう。
そんなことを想いながら、さっき言いそびれた返事を呟く。
「おかえり、グリル」
安らかな寝息を立てる少女は、幸せそうに笑んでいた。
もうビンはからっぽだよ
「もう1つくらい食べたい……」「また来世な」
→あとがき