ドロッチェ団の場合
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「そろそろ……来る頃か?」
ドクは化学式を解いていた手を休め、ふぅっと一息ついた。
煙草に手が伸びそうなのを堪えながら疲れた首をぐるりと回す。
タイミングを見計らったかのようにコンコンと扉がノックされた。
「おいで、空いてるアルよ」
そう応えると勢いよく扉が開き、魔女やお化けやら何やらに仮装したチューリンたちがわらわらと入ってきた。
「どくー!
とりっく・おあ・とりーと!」
両手にお菓子を抱えた子供たちは口を揃えて言った。
……そう、今日は10月31日、ハロウィーンだ。
既に持っているお菓子は、城の住人あたりからもらったのだろう。
チューリンたちはこうして毎年、団員達にお菓子をねだるのだ。
彼らは諸事情で永遠に子ども……成長できない身体だ。
普段はその事が不満だが、こんな時にはここぞとばかりに子どもの特権を発揮するちゃっかり者でもある。
瞳は期待にキラキラと輝いていている。
ドクは「やれやれ、毎年すごい出費だ」と毒づくが、その表情はひどく柔らかい。
彼がパチンと指を鳴らすと、たくさんのお菓子が現れた。
チョコレートやケーキ、キャンディなど、子供の大好きなお菓子は一通り揃っている。
うわぁぁぁい!とチューリンたちから歓喜の声が上がった。
「Happy Halloween!
ホラ、いっぱいあるから好きなだけ食べるヨロシ。
今日は特別アル!
ただし、ケンカはしちゃだめアルよ!」
「やったー!」「どくだいすきー!」とお菓子へと飛びつく。
わいわいとお菓子を食べる彼らを、慈しむように目を細めて見ている(ぐるぐる眼鏡をしているから傍目にはわからないが)彼は、チューリンたちの本当のおじいさんのようだった。
「……で、スピンはいつまでそこにいるつもりアル?
恥ずかしがらずに入ってくるヨロシ」
彼はチューリン達から視線を外し、開け放たれたままのドアに向かって声をかけた。
「……気付いてたんだ?」
「お前のことなんてお見通しアルよ?」
少し頬を赤く染めたスピンが、決まり悪そうに部屋の中に入ってきた。
「そんな物欲しそうな目で見なくても、菓子が食べたいのならそう言えばいいアルよ」
「べっ、別にそんなんじゃ……」
「じゃあいらないアルか~残念アル~。
吾輩おまえも食べてくれるかと思ってたのになぁ~」
ドクがわざとらしくそう言えば、スピンの頬に更に朱が刺す。
しばらくもごもごと何かを言っているようだったが、
「……と、Trick or Treat、ッス……」
と、やっとのことで呟いた。
「Happy Halloween.
好きなだけ食うアルよ」
スピンはヘヘッと笑うと、チューリンたちに交じって、お菓子を食べ始めた。
「なんだかんだで、まだ子供アルね……」
いくら年齢よりしっかりしていても、いくらサングラスをかけてカッコつけていても、いくら大人ぶっていても、まだスピンは子どもだ。
彼にしてみれば子ども扱いはされたくないのだろうが、ドクにとってはまだまだ子どもなのだ。
歳を重ねるにつれて恥ずかしくもなっているようだが、なんだかんだで毎年こうやってスピンも参加していた。
チューリンたちも、スピンがやって来て喜んでいる。
「すぴんにいもいっしょにたべよー!」と言ってお菓子を分け合う姿は、本当の兄弟のようだ。
「ハロウィーンって、いいアルな……」
「フッ、そうだな……。
スピンも変に大人ぶらずに、ああしてれば可愛いのに」
「やっぱドロッチェもそう思うアルか?
……って、お前らいつの間に帰ってきたアルか!?」
いつの間にか部屋にはドロッチェとストロンもいた。
しかもドロッチェはドクの椅子に座って踏ん反り返り、紅茶を飲んでいる。
ストロンは何故か赤い布に包まっている。
「まったく……ドアを開けっぱなしにしておくなんて、不用心にも程があるぞ?
泥棒にでも入られたらどうするんだ?」
「いや、もう入られてるというか、我輩たちが泥棒というか……」
「そんな細かいことは気にするなよ、なぁストロン」
「ああ」
「まったく細かくない気がするのは気のせいアルか……?
で、お前たちはなんでまたこんな時間に帰って来たアル?」
ドクに問われると、待ってましたと言わんばかりにドロッチェの金の瞳が輝いた。
紅茶のティーカップを机の上に置き、キィと椅子の音を立てて立ち上がる。
「フッ……何しに来た、とは野暮な質問だ」
「ハロウィーンときたら目的はただ一つ」
「「Trick or Treat?」」
「……はい?」
「いきなり何を言い出すんだ、こやつらは」と言葉を失うドク。
「フッ……ちゃんと仮装もしてきたんだ。
ドラキュラだ、カッコいいだろう?」
たしかにドロッチェは普段の真っ赤なマントとは違う黒いマントを羽織り、違うデザインのスーツを着ていた。
くるっと華麗なターンをキめ、ドヤ顔で見せつけてくる。
彼の美しい顔立ちと相まって、たしかに似合ってはいる、ドロッチェは。
……問題はストロンだ。
彼は何故か、赤と黒が基調のゴスロリを着ていた。
「ド、ドロッチェ、それは……?」
「イイだろこのマント、いつものはベルベッドだからベロアにしてみたんだ」
「いや、おまえじゃなくて……。
ストロンはいったい……?」
「ああストロンか!
いや、最初はオレと同じのを着る予定だったんだけど、サイズが合わなくて……」
よくあることだ、と内心で呟くドク。
ストロンは横幅が豊かなため、こういうことがたびたびあるのだ。
服もだいたいオーダーメイドになるため、経理担当のスピンが日々嘆いている。
「どうしようかと思っていたら、いきなりマルクがくれたんだ。
意外と似合ってるよな!」
「ああ、たまにはいいものだな」
絶対それマルクの悪戯だ……とドクは思ったが、あえて言わないことにした。
ふんだんにレースがあしらわれたゴスロリは、致命的に似合っていない。
しかし異様にテンションの高い彼らに水を差すのは、流石に憚られる。
……それにしてもこの二人、ノリノリである。
ドクは軽く頭痛を覚え始めていた。
「ところで……ハロウィーンとは、子供がお菓子をもらいに来るイベントアルよ?
だからお前らはこっち側の人間だよな?
お前たちは今年いくつの設定だか知ってるアルか?」
「永遠の18しゃい」
「黙れ、20代前半アル、立派な大人アル」
バッサリと言い捨てるドクに、容赦など見当たらない。
ドロッチェは一瞬ムッとして、すぐにまた例のドヤ顔に戻った。
「フッ……身体は歳をとろうとも、心は少年のままなのさ」
「いいこと言ってるようだけど、全然言ってないアルね」
「菓子を寄越せ、さもなくばじいちゃんの煙草を全部ココアシガレットにする」
「やめて」
「団長命令だ」
「だが断る。
そんなことに団長命令使うな。
どうしてそんなに菓子を欲しがるアル……」
挙げ句の果てには団長命令まで下す始末。
ドクはやれやれ、と肩をすくめる。
「それはでちゅね」
一人の赤髪の少年がてちてちと駆け寄ってきた。
口の周りがチョコやクリームでデコレーションされているが、全く気にしていない様子だ。
「ふたりはね、どくがはろうぃーんしてくれないのが、さみしかったんでちゅよー♪」
「バッ……ちょ……!何言い出すんだ!」
ボッと火を噴いたかのように、ドロッチェの顔が真っ赤に染まった。
ストロンは後ろを向いてしまう。
少年は楽しそうに、無邪気に笑って続けた。
「どろっちぇが、『おとなになってから、おれたちだけはろうぃーんしてもらってない~』って、わいんのんでたときにいってたでちゅ~」
ああああ、と変な奇声を上げるドロッチェ。
しかしドクは「ふむ……」と唸りながら、いつからか彼らにはしなくなったものだと考え込む。
ドクはドロッチェとストロンが小さいころからずっと、彼らの成長を見守っていた。
成長して大人になるのはもちろん嬉しいが、どこか寂しい気持ちもあった。
だからこそ彼にとっては、2人がそう思ってくれていたことが嬉しかった。
「……全く……いつまでたっても、仕方ない子どもアルね」
「う、うるさい」
恥ずかしそうにそっぽを向く様子がなんだか昔の彼らにそっくりで、懐かしさがこみ上げてくる。
ドクは二人の背中をポン、と叩く。
「まだまだ菓子はある、みんなで一緒に食べるヨロシ」
ドクがそう言うと、二人は恥ずかしそうにも本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。
いつもより、幾分子どもっぽい笑顔だ。
みんなでお菓子を食べていると、甘い香りでもしたのだろうか、カービィやマルクやブンたちが『ボク達にもちょうだい!!』と入ってきた。
いつのまにかまるでパーティー会場のようになっていて、部屋は笑い声で満ちていた。
(こんな老いぼれになってからも、こんなに幸せでいられるとは……。
このまま、永遠にみんなが幸せであるように……。)
Happy Halloween ~joy~
(来年のハロウィンも笑顔で過ごせますように。)
ドクは化学式を解いていた手を休め、ふぅっと一息ついた。
煙草に手が伸びそうなのを堪えながら疲れた首をぐるりと回す。
タイミングを見計らったかのようにコンコンと扉がノックされた。
「おいで、空いてるアルよ」
そう応えると勢いよく扉が開き、魔女やお化けやら何やらに仮装したチューリンたちがわらわらと入ってきた。
「どくー!
とりっく・おあ・とりーと!」
両手にお菓子を抱えた子供たちは口を揃えて言った。
……そう、今日は10月31日、ハロウィーンだ。
既に持っているお菓子は、城の住人あたりからもらったのだろう。
チューリンたちはこうして毎年、団員達にお菓子をねだるのだ。
彼らは諸事情で永遠に子ども……成長できない身体だ。
普段はその事が不満だが、こんな時にはここぞとばかりに子どもの特権を発揮するちゃっかり者でもある。
瞳は期待にキラキラと輝いていている。
ドクは「やれやれ、毎年すごい出費だ」と毒づくが、その表情はひどく柔らかい。
彼がパチンと指を鳴らすと、たくさんのお菓子が現れた。
チョコレートやケーキ、キャンディなど、子供の大好きなお菓子は一通り揃っている。
うわぁぁぁい!とチューリンたちから歓喜の声が上がった。
「Happy Halloween!
ホラ、いっぱいあるから好きなだけ食べるヨロシ。
今日は特別アル!
ただし、ケンカはしちゃだめアルよ!」
「やったー!」「どくだいすきー!」とお菓子へと飛びつく。
わいわいとお菓子を食べる彼らを、慈しむように目を細めて見ている(ぐるぐる眼鏡をしているから傍目にはわからないが)彼は、チューリンたちの本当のおじいさんのようだった。
「……で、スピンはいつまでそこにいるつもりアル?
恥ずかしがらずに入ってくるヨロシ」
彼はチューリン達から視線を外し、開け放たれたままのドアに向かって声をかけた。
「……気付いてたんだ?」
「お前のことなんてお見通しアルよ?」
少し頬を赤く染めたスピンが、決まり悪そうに部屋の中に入ってきた。
「そんな物欲しそうな目で見なくても、菓子が食べたいのならそう言えばいいアルよ」
「べっ、別にそんなんじゃ……」
「じゃあいらないアルか~残念アル~。
吾輩おまえも食べてくれるかと思ってたのになぁ~」
ドクがわざとらしくそう言えば、スピンの頬に更に朱が刺す。
しばらくもごもごと何かを言っているようだったが、
「……と、Trick or Treat、ッス……」
と、やっとのことで呟いた。
「Happy Halloween.
好きなだけ食うアルよ」
スピンはヘヘッと笑うと、チューリンたちに交じって、お菓子を食べ始めた。
「なんだかんだで、まだ子供アルね……」
いくら年齢よりしっかりしていても、いくらサングラスをかけてカッコつけていても、いくら大人ぶっていても、まだスピンは子どもだ。
彼にしてみれば子ども扱いはされたくないのだろうが、ドクにとってはまだまだ子どもなのだ。
歳を重ねるにつれて恥ずかしくもなっているようだが、なんだかんだで毎年こうやってスピンも参加していた。
チューリンたちも、スピンがやって来て喜んでいる。
「すぴんにいもいっしょにたべよー!」と言ってお菓子を分け合う姿は、本当の兄弟のようだ。
「ハロウィーンって、いいアルな……」
「フッ、そうだな……。
スピンも変に大人ぶらずに、ああしてれば可愛いのに」
「やっぱドロッチェもそう思うアルか?
……って、お前らいつの間に帰ってきたアルか!?」
いつの間にか部屋にはドロッチェとストロンもいた。
しかもドロッチェはドクの椅子に座って踏ん反り返り、紅茶を飲んでいる。
ストロンは何故か赤い布に包まっている。
「まったく……ドアを開けっぱなしにしておくなんて、不用心にも程があるぞ?
泥棒にでも入られたらどうするんだ?」
「いや、もう入られてるというか、我輩たちが泥棒というか……」
「そんな細かいことは気にするなよ、なぁストロン」
「ああ」
「まったく細かくない気がするのは気のせいアルか……?
で、お前たちはなんでまたこんな時間に帰って来たアル?」
ドクに問われると、待ってましたと言わんばかりにドロッチェの金の瞳が輝いた。
紅茶のティーカップを机の上に置き、キィと椅子の音を立てて立ち上がる。
「フッ……何しに来た、とは野暮な質問だ」
「ハロウィーンときたら目的はただ一つ」
「「Trick or Treat?」」
「……はい?」
「いきなり何を言い出すんだ、こやつらは」と言葉を失うドク。
「フッ……ちゃんと仮装もしてきたんだ。
ドラキュラだ、カッコいいだろう?」
たしかにドロッチェは普段の真っ赤なマントとは違う黒いマントを羽織り、違うデザインのスーツを着ていた。
くるっと華麗なターンをキめ、ドヤ顔で見せつけてくる。
彼の美しい顔立ちと相まって、たしかに似合ってはいる、ドロッチェは。
……問題はストロンだ。
彼は何故か、赤と黒が基調のゴスロリを着ていた。
「ド、ドロッチェ、それは……?」
「イイだろこのマント、いつものはベルベッドだからベロアにしてみたんだ」
「いや、おまえじゃなくて……。
ストロンはいったい……?」
「ああストロンか!
いや、最初はオレと同じのを着る予定だったんだけど、サイズが合わなくて……」
よくあることだ、と内心で呟くドク。
ストロンは横幅が豊かなため、こういうことがたびたびあるのだ。
服もだいたいオーダーメイドになるため、経理担当のスピンが日々嘆いている。
「どうしようかと思っていたら、いきなりマルクがくれたんだ。
意外と似合ってるよな!」
「ああ、たまにはいいものだな」
絶対それマルクの悪戯だ……とドクは思ったが、あえて言わないことにした。
ふんだんにレースがあしらわれたゴスロリは、致命的に似合っていない。
しかし異様にテンションの高い彼らに水を差すのは、流石に憚られる。
……それにしてもこの二人、ノリノリである。
ドクは軽く頭痛を覚え始めていた。
「ところで……ハロウィーンとは、子供がお菓子をもらいに来るイベントアルよ?
だからお前らはこっち側の人間だよな?
お前たちは今年いくつの設定だか知ってるアルか?」
「永遠の18しゃい」
「黙れ、20代前半アル、立派な大人アル」
バッサリと言い捨てるドクに、容赦など見当たらない。
ドロッチェは一瞬ムッとして、すぐにまた例のドヤ顔に戻った。
「フッ……身体は歳をとろうとも、心は少年のままなのさ」
「いいこと言ってるようだけど、全然言ってないアルね」
「菓子を寄越せ、さもなくばじいちゃんの煙草を全部ココアシガレットにする」
「やめて」
「団長命令だ」
「だが断る。
そんなことに団長命令使うな。
どうしてそんなに菓子を欲しがるアル……」
挙げ句の果てには団長命令まで下す始末。
ドクはやれやれ、と肩をすくめる。
「それはでちゅね」
一人の赤髪の少年がてちてちと駆け寄ってきた。
口の周りがチョコやクリームでデコレーションされているが、全く気にしていない様子だ。
「ふたりはね、どくがはろうぃーんしてくれないのが、さみしかったんでちゅよー♪」
「バッ……ちょ……!何言い出すんだ!」
ボッと火を噴いたかのように、ドロッチェの顔が真っ赤に染まった。
ストロンは後ろを向いてしまう。
少年は楽しそうに、無邪気に笑って続けた。
「どろっちぇが、『おとなになってから、おれたちだけはろうぃーんしてもらってない~』って、わいんのんでたときにいってたでちゅ~」
ああああ、と変な奇声を上げるドロッチェ。
しかしドクは「ふむ……」と唸りながら、いつからか彼らにはしなくなったものだと考え込む。
ドクはドロッチェとストロンが小さいころからずっと、彼らの成長を見守っていた。
成長して大人になるのはもちろん嬉しいが、どこか寂しい気持ちもあった。
だからこそ彼にとっては、2人がそう思ってくれていたことが嬉しかった。
「……全く……いつまでたっても、仕方ない子どもアルね」
「う、うるさい」
恥ずかしそうにそっぽを向く様子がなんだか昔の彼らにそっくりで、懐かしさがこみ上げてくる。
ドクは二人の背中をポン、と叩く。
「まだまだ菓子はある、みんなで一緒に食べるヨロシ」
ドクがそう言うと、二人は恥ずかしそうにも本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。
いつもより、幾分子どもっぽい笑顔だ。
みんなでお菓子を食べていると、甘い香りでもしたのだろうか、カービィやマルクやブンたちが『ボク達にもちょうだい!!』と入ってきた。
いつのまにかまるでパーティー会場のようになっていて、部屋は笑い声で満ちていた。
(こんな老いぼれになってからも、こんなに幸せでいられるとは……。
このまま、永遠にみんなが幸せであるように……。)
Happy Halloween ~joy~
(来年のハロウィンも笑顔で過ごせますように。)
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