酒は飲んでも飲まれるな
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プププランドでは特に酒の年齢制限が設けられていない。
さまざまな種族が共存する国において画一的な制限を作るのは妥当ではないだろう、ということらしい。
たしかに魔力を持つ者と持たざる者ではアルコール耐性とかいろいろ違うだろうから納得だ。
とはいえ「基準年齢」というものはあって、特に破っても罰則はないけど、一応お酒は20歳からにしましょうね、ということになっている。
俺とブレイドは、だいたい20歳になった。
故郷とは暦が違うところに来てしまったからあくまで感覚に過ぎないが……。
見た目はもう大人だし、こんな事を言うのも何だがそれなりの肩書きだってある。
平たく言うと、もうアルコールを摂取しても咎められないだろう。
「……だからって、いくらなんでも買いすぎじゃないか?」
ブレイドは呆れた声でそう言った。
俺らの目の前には缶ビールや缶チューハイ、冷酒のカップや小さなワインボトル、もう何の酒かもよくわからないオシャレな瓶等が並んでいた。
俺達がアルコールの類を解禁したとなれば、きっと団の飲み会でも勧められることにだろう。
もちろん断ったからといって「俺の酒が飲めないのか!」などと怒るような人はいないが、せっかくの厚意ならばできれば受け入れたいものだ。
だから試しに飲んでみよう、自分の好みや相性を把握しておくのも大切だ……というのは正直なところただの建前で、ただ単純に酒というものを飲んでみたいだけだった。
タゴ殿のコンビニで買い物をしながら、改めて大人になったんだなと不思議な高揚感を覚えたものだ。
……そのノリで気になったものを片っ端から籠に入れた結果がコレだ。
でも、俺だけが責められるいわれはない。
「せっかくだから色々試してみようぜって言ったのブレイドじゃないか」
俺の指摘にブレイドはウッと息を詰まらせた。
そう、隣にいた彼女も「アレなんだ?」「美味しそうだ」「それも買ってみようぜ」とノリノリだったのだ。
多分お互い酒飲む前から酔ってたんだな、うん。
「いやそうだけど……そうだけど……!
ここまで増えてると思わなかったんだよ!」
「卿が夜勤なのは誤算だったな……」
まあ、どうにかなるだろう。
今夜全て消費しなくてはならないものでもないし。
ちなみに卿が帰ってくるまで我慢するという選択肢は無かった。
仮にそんな思慮があれば、そもそも机の上がこんな惨状にはなっていないはずだ。
「んで、何からいってみる?」
もう待ちきれない、といった表情でブレイドが俺の顔を見る。かわいい。
ほら、やっぱりノリノリじゃないかと言いたくなるがきっと拗ねるから言わないでおこう。
実際問題、これだけ種類があるとどれから試してみるか悩みそうになるが……実は俺の中ではもう決まっていた。
きっとブレイドも同じ気持ちだろうと思いながら「ブレイドは?」と問うと、彼女もこちらを見透かすようにニヤリと笑った。
「そりゃアレしかないだろ?」
「「とりあえずビール!」」
声が重なって、二人で笑う。
ああ、やっぱりそうだったんだと嬉しくなった。
「とりあえずビール」は、なんとなく言ってみたかった台詞だった。
団の飲み会の時も、酒を飲む人はなぜか皆口を揃えてそう言うのだ。
きっとさぞかし美味いのだろう――そんなことを思いながらお互いグラスに注ぐ。
金色の液体に白い泡は子どもの頃から見ていた、大人の象徴みたいなものだ。
「それじゃ、初めての酒……乾杯!」
「乾杯!」
カチリとグラスを鳴らし、好奇心半分不安半分で口に含む。
冷たさと炭酸の刺激が口内を満たし――そのまま吹き出しそうになった。
何とか耐えて飲み込み、大人たちとは明らかに違う息を吐いた。
「うげ……苦い……!」
苦い!とにかく苦い!なんなら泡まで苦い!
なんだこれは!?思っていたのと違う!
勝手に幻想を抱いてた俺も良くなかったのかもしれないが、期待を裏切られた気分だ!
俺には「とりあえずビール」はできないのか!?
「嫌いではない、が……大人たちはなんでこれを美味しそうに飲むんだ?」
不思議そうな顔をしながらもブレイドはビールを飲めている。
そこはかとない悔しさを感じるもののちょっと飲めそうにないと涙目になっていると、彼女はクスリと笑ってレモンが描かれた紺色の缶を差し出してきた。
「それ俺が後で飲んでやるから、これ試してみようぜ」
「スマン……」
新しいグラスにそれを注ぐと、どこか懐かしい甘い香りがした。
ハチミツとレモンの缶チューハイはここ最近の人気商品らしい。
さっきのビールより飲みやすい……それどころか、ジュースと言われたらそのまま信じてしまいそうだ。
「俺コレ好き、めっちゃ美味い!」
「ソード甘いの好きだもんな」
「うっせ」
俺にはビールよりこういう方が性に合うのかもしれない。
ま、まあこういうものから少しずつ慣れていくことだ大切だ。
鍛錬だってそうだ、まずは基礎から学ぶのだから……と自分を納得させながら何気なくブレイドを見ると、違和感を覚えた。
「ん?ブレイドちょっと顔赤くないか?
もう酔ってるのか?」
なんとなく頬が赤くなっている気がする。
といっても俺だから気が付く程度だが。
だがブレイドは眉を顰め、首を傾げた。
「んー、自分じゃそんな感じしないけど……」
「そ、そうか」
本人がそう言うならそうなんだろう。
ブレイドに限って酔い潰れるってことはなさそうだしな。
「明日非番だし多少やらかしても大丈夫だろ」
「それもそうだな」
「それじゃ、次はワインな!
これもみんな美味しそうに飲んでたし」
「……ビールの二の舞にならないか?」
「ワイン飲めたらカッコイイよな!」「わかる、なんかオシャレ」と軽率に買ってみたが、今思うとどう考えても酒初心者のそれではなかった気がする。
……結論、飲めなくはなかった。
だがさっきのはちみつレモンの方が断然美味しい。
もっとぶどうジュースに近いものだとばかり思っていたが、思いの外渋くて酸っぱかった。
喉を焼く衝撃も鼻に抜けるアルコール臭もさっきのものとは比べ物にならなくて、ぶどうからコレが出来るのかと思うと妙な感心をしてしまった。
さすがにブレイドも得意ではなかったのか、チビチビと飲んでいる。
半分以上ボトルに残った分は、卿に押し付け……ではなくて譲ることにしよう。
「……タゴ殿がもっと飲みやすそうなものを仕入れてくれるって言ってたし、また今度挑戦してみるか」
「そうだな……ワインっていろいろあるらしいしな。
濡れた犬の香とかなめし皮の香とか」
「飲み物に対する表現としてどうなんだろうなそれ」
「濡れた犬……チリドックを川に沈めたときの香か……なるほど勝利の美酒」
「ブレイドやっぱお前酔ってないか?」
そんな冗談を交わしつつ、今度はお猪口に冷酒を注いだ。
透明のそれの香は今までのもので一番「酒!」と自己主張をしていて、鼻から酔ってしまいそうになる。
「あー……これ結構クるな」
もちろん今までの積み重ねもあるだろうが、身体に入った瞬間に全身がアルコールに包まれたような、まさに“酔い”という感覚に陥った。
冷たいものを飲んでいるはずなのに、身体はどんどん熱くなっていく。
「俺、意外と冷酒はいけるかも」
口に合ったのか、ブレイドはお猪口に入っていたのを一気にあおった。
いい飲みっぷりだが流石にぎょっとしてしまう。
「ちょ、ブレイドペース早くないか?
コレ結構強いぞ!?」
「んー、無色透明だし実質水だろ」
「いや完全に酔ってるな?もうやめとけ」
無茶苦茶な理論を展開しだしたらもうアウトだろう、ともう一杯注ごうとしていた彼女のお猪口を咄嗟に取り上げた。
これ以上飲ませたらまずい気がする。
ブレイドは不満そうに俺を睨んだ……が、いつもなら部下たちが縮み上がる(たまに俺も)眼光に全く迫力が無い。
むしろ可愛いとすら言えるくらいで、思わず笑いが漏れてしまった。
「む……生意気だぞ!」
彼女は俺の腕を掴み、そのまま強く引っ張った。
可愛さに完全に油断していた俺はなすがままに引き寄せられ……そのまま唇が重なった。
「んむゥ!?」
間抜けな声を出してそのまま硬直した。
こんな風に彼女からキスをしてくることなんてなかったから。
いつも受身で、時たましてくれるときもほんの一瞬軽くするだけで、それも真っ赤になってすぐそっぽを向いてしまう。
それはそれで可愛いが、今日のこれは明らかにおかしい!
「ちょっ、ぶれっ……!?」
下唇を舌先で撫でられれば、ほぼ条件反射で口を開けてしまう。
いつもより熱い舌が入り込んできて、酒がふわりと香った。
ただでさえ早くなっていた胸の鼓動は更に早くなり、それに反比例するように思考は鈍く遅くなっていく。
普段と立場が逆転し、ほんの少しの悔しさとそれ以上の忘我が更に身体を熱くして――力はとっくに入らなくなっていた。
ようやく唇が離れたときには、ソファに押し倒されていた。
甘い重みが俺に乗り、いつもより少し高い体温に緩やかに包みこまれる。
「ぶれ、ど、酔ってるだろ……」
「んー?よくわかんない」
するり、と彼女の指先が俺の頬を撫でた。
それだけで身体がゾクリと痺れる。
声や口調がいつもより女の子のそれで、もしかしたらこっちが本当の彼女なのか?と錯覚しそうになる。
……しかし表情は今までに見たことない、緩み切ったものだった。
そのくせ熱を孕む緋色の瞳はどこか獣じみていて、思わず息が止まりそうになる。
あ、これ放っておくと確実に喰われるな、と直感した。
「そーどっ」
ものすごく可愛い顔で俺の名を呼び、ものすごい力で腕を押さえつけてくる。
さすが俺のブレイド、酒を飲んでもその力は健在で相棒としてとても誇らしいが今だけはその力を発揮しないでいただきたい。
「ブレイド、あのな?」
「んー?なあに?」
へにゃ、と笑いかけられて再び固まった。
可愛すぎるだろという気持ちとどうすればいいんだという困惑とカメラが手元に無い悔しさと暴発しそうな下半身と折れそうな腕。
それら全てが混じりあった結果、全部ブレイドに委ねる事にした。
もうどうにでもなれ、悪い気はしないというかぶっちゃけ大歓迎だし。
俺だって酔ってるから思考まとまらないのに煽ってきたのはブレイドだろ?
あ、でもやっぱり腕折るのだけは勘弁してくれ……などと思っていると、不意に腕が楽になった。
あれ、と思っていると彼女の身体が倒れ込んできた。
「ブレイド!?大丈夫か!?ブレッ……」
「……むにゃ」
まさか急性アルコール中毒!?と慌てて抱き起こしたのだが、彼女はとても安らかな寝息を立てていた。
さっきとは違う意味で身体から力が抜けてしまう。
「寝落ちかよ……」
ああ、ヒヤヒヤした。
そして同時に理解した。
「ブレイド、酒弱いんだな……」
……本当に意外だが。
こんな風になるとは予想外だったし、ある意味今夜試しに飲んでおいて良かったのかもしれない。
外では飲ませないほうがいいと事前にわかったのだから。
さっきのが俺限定に発揮されるならまあいい、むしろたまに見たいくらいだ。
だが、他の男には絶対に見られたくない。
卿にだって見せたくない。
……ブレイドは俺だけのものだ。
「俺も酔ってるのか?」
見えない敵に沸き起こる嫉妬に心がひりつき、無性に喉の渇きを感じた。
机の上のぬるい缶ビールをグッとあおる。
「うげ」
やっぱり、苦い。
それでもさっきよりは飲めるようになった気がした。
酒は飲んでも呑まれるな
(お酒はほどほどにしましょう)
NEXT
→あとがき
さまざまな種族が共存する国において画一的な制限を作るのは妥当ではないだろう、ということらしい。
たしかに魔力を持つ者と持たざる者ではアルコール耐性とかいろいろ違うだろうから納得だ。
とはいえ「基準年齢」というものはあって、特に破っても罰則はないけど、一応お酒は20歳からにしましょうね、ということになっている。
俺とブレイドは、だいたい20歳になった。
故郷とは暦が違うところに来てしまったからあくまで感覚に過ぎないが……。
見た目はもう大人だし、こんな事を言うのも何だがそれなりの肩書きだってある。
平たく言うと、もうアルコールを摂取しても咎められないだろう。
「……だからって、いくらなんでも買いすぎじゃないか?」
ブレイドは呆れた声でそう言った。
俺らの目の前には缶ビールや缶チューハイ、冷酒のカップや小さなワインボトル、もう何の酒かもよくわからないオシャレな瓶等が並んでいた。
俺達がアルコールの類を解禁したとなれば、きっと団の飲み会でも勧められることにだろう。
もちろん断ったからといって「俺の酒が飲めないのか!」などと怒るような人はいないが、せっかくの厚意ならばできれば受け入れたいものだ。
だから試しに飲んでみよう、自分の好みや相性を把握しておくのも大切だ……というのは正直なところただの建前で、ただ単純に酒というものを飲んでみたいだけだった。
タゴ殿のコンビニで買い物をしながら、改めて大人になったんだなと不思議な高揚感を覚えたものだ。
……そのノリで気になったものを片っ端から籠に入れた結果がコレだ。
でも、俺だけが責められるいわれはない。
「せっかくだから色々試してみようぜって言ったのブレイドじゃないか」
俺の指摘にブレイドはウッと息を詰まらせた。
そう、隣にいた彼女も「アレなんだ?」「美味しそうだ」「それも買ってみようぜ」とノリノリだったのだ。
多分お互い酒飲む前から酔ってたんだな、うん。
「いやそうだけど……そうだけど……!
ここまで増えてると思わなかったんだよ!」
「卿が夜勤なのは誤算だったな……」
まあ、どうにかなるだろう。
今夜全て消費しなくてはならないものでもないし。
ちなみに卿が帰ってくるまで我慢するという選択肢は無かった。
仮にそんな思慮があれば、そもそも机の上がこんな惨状にはなっていないはずだ。
「んで、何からいってみる?」
もう待ちきれない、といった表情でブレイドが俺の顔を見る。かわいい。
ほら、やっぱりノリノリじゃないかと言いたくなるがきっと拗ねるから言わないでおこう。
実際問題、これだけ種類があるとどれから試してみるか悩みそうになるが……実は俺の中ではもう決まっていた。
きっとブレイドも同じ気持ちだろうと思いながら「ブレイドは?」と問うと、彼女もこちらを見透かすようにニヤリと笑った。
「そりゃアレしかないだろ?」
「「とりあえずビール!」」
声が重なって、二人で笑う。
ああ、やっぱりそうだったんだと嬉しくなった。
「とりあえずビール」は、なんとなく言ってみたかった台詞だった。
団の飲み会の時も、酒を飲む人はなぜか皆口を揃えてそう言うのだ。
きっとさぞかし美味いのだろう――そんなことを思いながらお互いグラスに注ぐ。
金色の液体に白い泡は子どもの頃から見ていた、大人の象徴みたいなものだ。
「それじゃ、初めての酒……乾杯!」
「乾杯!」
カチリとグラスを鳴らし、好奇心半分不安半分で口に含む。
冷たさと炭酸の刺激が口内を満たし――そのまま吹き出しそうになった。
何とか耐えて飲み込み、大人たちとは明らかに違う息を吐いた。
「うげ……苦い……!」
苦い!とにかく苦い!なんなら泡まで苦い!
なんだこれは!?思っていたのと違う!
勝手に幻想を抱いてた俺も良くなかったのかもしれないが、期待を裏切られた気分だ!
俺には「とりあえずビール」はできないのか!?
「嫌いではない、が……大人たちはなんでこれを美味しそうに飲むんだ?」
不思議そうな顔をしながらもブレイドはビールを飲めている。
そこはかとない悔しさを感じるもののちょっと飲めそうにないと涙目になっていると、彼女はクスリと笑ってレモンが描かれた紺色の缶を差し出してきた。
「それ俺が後で飲んでやるから、これ試してみようぜ」
「スマン……」
新しいグラスにそれを注ぐと、どこか懐かしい甘い香りがした。
ハチミツとレモンの缶チューハイはここ最近の人気商品らしい。
さっきのビールより飲みやすい……それどころか、ジュースと言われたらそのまま信じてしまいそうだ。
「俺コレ好き、めっちゃ美味い!」
「ソード甘いの好きだもんな」
「うっせ」
俺にはビールよりこういう方が性に合うのかもしれない。
ま、まあこういうものから少しずつ慣れていくことだ大切だ。
鍛錬だってそうだ、まずは基礎から学ぶのだから……と自分を納得させながら何気なくブレイドを見ると、違和感を覚えた。
「ん?ブレイドちょっと顔赤くないか?
もう酔ってるのか?」
なんとなく頬が赤くなっている気がする。
といっても俺だから気が付く程度だが。
だがブレイドは眉を顰め、首を傾げた。
「んー、自分じゃそんな感じしないけど……」
「そ、そうか」
本人がそう言うならそうなんだろう。
ブレイドに限って酔い潰れるってことはなさそうだしな。
「明日非番だし多少やらかしても大丈夫だろ」
「それもそうだな」
「それじゃ、次はワインな!
これもみんな美味しそうに飲んでたし」
「……ビールの二の舞にならないか?」
「ワイン飲めたらカッコイイよな!」「わかる、なんかオシャレ」と軽率に買ってみたが、今思うとどう考えても酒初心者のそれではなかった気がする。
……結論、飲めなくはなかった。
だがさっきのはちみつレモンの方が断然美味しい。
もっとぶどうジュースに近いものだとばかり思っていたが、思いの外渋くて酸っぱかった。
喉を焼く衝撃も鼻に抜けるアルコール臭もさっきのものとは比べ物にならなくて、ぶどうからコレが出来るのかと思うと妙な感心をしてしまった。
さすがにブレイドも得意ではなかったのか、チビチビと飲んでいる。
半分以上ボトルに残った分は、卿に押し付け……ではなくて譲ることにしよう。
「……タゴ殿がもっと飲みやすそうなものを仕入れてくれるって言ってたし、また今度挑戦してみるか」
「そうだな……ワインっていろいろあるらしいしな。
濡れた犬の香とかなめし皮の香とか」
「飲み物に対する表現としてどうなんだろうなそれ」
「濡れた犬……チリドックを川に沈めたときの香か……なるほど勝利の美酒」
「ブレイドやっぱお前酔ってないか?」
そんな冗談を交わしつつ、今度はお猪口に冷酒を注いだ。
透明のそれの香は今までのもので一番「酒!」と自己主張をしていて、鼻から酔ってしまいそうになる。
「あー……これ結構クるな」
もちろん今までの積み重ねもあるだろうが、身体に入った瞬間に全身がアルコールに包まれたような、まさに“酔い”という感覚に陥った。
冷たいものを飲んでいるはずなのに、身体はどんどん熱くなっていく。
「俺、意外と冷酒はいけるかも」
口に合ったのか、ブレイドはお猪口に入っていたのを一気にあおった。
いい飲みっぷりだが流石にぎょっとしてしまう。
「ちょ、ブレイドペース早くないか?
コレ結構強いぞ!?」
「んー、無色透明だし実質水だろ」
「いや完全に酔ってるな?もうやめとけ」
無茶苦茶な理論を展開しだしたらもうアウトだろう、ともう一杯注ごうとしていた彼女のお猪口を咄嗟に取り上げた。
これ以上飲ませたらまずい気がする。
ブレイドは不満そうに俺を睨んだ……が、いつもなら部下たちが縮み上がる(たまに俺も)眼光に全く迫力が無い。
むしろ可愛いとすら言えるくらいで、思わず笑いが漏れてしまった。
「む……生意気だぞ!」
彼女は俺の腕を掴み、そのまま強く引っ張った。
可愛さに完全に油断していた俺はなすがままに引き寄せられ……そのまま唇が重なった。
「んむゥ!?」
間抜けな声を出してそのまま硬直した。
こんな風に彼女からキスをしてくることなんてなかったから。
いつも受身で、時たましてくれるときもほんの一瞬軽くするだけで、それも真っ赤になってすぐそっぽを向いてしまう。
それはそれで可愛いが、今日のこれは明らかにおかしい!
「ちょっ、ぶれっ……!?」
下唇を舌先で撫でられれば、ほぼ条件反射で口を開けてしまう。
いつもより熱い舌が入り込んできて、酒がふわりと香った。
ただでさえ早くなっていた胸の鼓動は更に早くなり、それに反比例するように思考は鈍く遅くなっていく。
普段と立場が逆転し、ほんの少しの悔しさとそれ以上の忘我が更に身体を熱くして――力はとっくに入らなくなっていた。
ようやく唇が離れたときには、ソファに押し倒されていた。
甘い重みが俺に乗り、いつもより少し高い体温に緩やかに包みこまれる。
「ぶれ、ど、酔ってるだろ……」
「んー?よくわかんない」
するり、と彼女の指先が俺の頬を撫でた。
それだけで身体がゾクリと痺れる。
声や口調がいつもより女の子のそれで、もしかしたらこっちが本当の彼女なのか?と錯覚しそうになる。
……しかし表情は今までに見たことない、緩み切ったものだった。
そのくせ熱を孕む緋色の瞳はどこか獣じみていて、思わず息が止まりそうになる。
あ、これ放っておくと確実に喰われるな、と直感した。
「そーどっ」
ものすごく可愛い顔で俺の名を呼び、ものすごい力で腕を押さえつけてくる。
さすが俺のブレイド、酒を飲んでもその力は健在で相棒としてとても誇らしいが今だけはその力を発揮しないでいただきたい。
「ブレイド、あのな?」
「んー?なあに?」
へにゃ、と笑いかけられて再び固まった。
可愛すぎるだろという気持ちとどうすればいいんだという困惑とカメラが手元に無い悔しさと暴発しそうな下半身と折れそうな腕。
それら全てが混じりあった結果、全部ブレイドに委ねる事にした。
もうどうにでもなれ、悪い気はしないというかぶっちゃけ大歓迎だし。
俺だって酔ってるから思考まとまらないのに煽ってきたのはブレイドだろ?
あ、でもやっぱり腕折るのだけは勘弁してくれ……などと思っていると、不意に腕が楽になった。
あれ、と思っていると彼女の身体が倒れ込んできた。
「ブレイド!?大丈夫か!?ブレッ……」
「……むにゃ」
まさか急性アルコール中毒!?と慌てて抱き起こしたのだが、彼女はとても安らかな寝息を立てていた。
さっきとは違う意味で身体から力が抜けてしまう。
「寝落ちかよ……」
ああ、ヒヤヒヤした。
そして同時に理解した。
「ブレイド、酒弱いんだな……」
……本当に意外だが。
こんな風になるとは予想外だったし、ある意味今夜試しに飲んでおいて良かったのかもしれない。
外では飲ませないほうがいいと事前にわかったのだから。
さっきのが俺限定に発揮されるならまあいい、むしろたまに見たいくらいだ。
だが、他の男には絶対に見られたくない。
卿にだって見せたくない。
……ブレイドは俺だけのものだ。
「俺も酔ってるのか?」
見えない敵に沸き起こる嫉妬に心がひりつき、無性に喉の渇きを感じた。
机の上のぬるい缶ビールをグッとあおる。
「うげ」
やっぱり、苦い。
それでもさっきよりは飲めるようになった気がした。
酒は飲んでも呑まれるな
(お酒はほどほどにしましょう)
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