甘い魔法にご注意を
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どうしてこうなった?
「グリル~構って~?
ボクのこと好きなんでしょ~?」
マルクはソファに座るボクちんの隣からぎゅうっと抱きつき、ほっぺを擦り付けてきた。
固まるボクちんのほっぺに何度もキスをして、また擦り付ける。
らしくないセリフを紡ぐのはいつもより高い猫撫で声で、もしここにマホロアがいたら絶対にお腹を抱えて大笑いしていただろう。
……どうしてこうなった!?
「ねえグリル~?どうしたのサ~?」
「マ、マルク……?」
どうしたのサ?はこっちのセリフだよ。
呼びかける声も若干震えてしまう。
今までに見たことがないくらいに甘えっぷりだ。
お酒を飲みすぎた時もたまーに甘えてくれるけど、ここまでデレデレなのは初めて。
珍しいものを見られてラッキーだと思う反面、後の事を考えるとちょっと怖い。
くっついてくれるのは正直嬉しかったりするけど、ボクちんたち体格差が結構あるから、こう全力でもたれかかってこられるとちょっと重たい……。
ボクちん自身も混乱しているし、お互い落ち着くためにも少し離れないと……!
「ごめんマルク、ちょっとだけ放してくれないかな?」
「こっち向いて?」
人の話を聞いちゃいない。
しかも恥ずかしくて背けていた顔を、無理矢理マルクの方に向けられた。
吐息のかかる距離で瞳を覗き込まれれば、冷静になろうとする気持ちがいとも容易くかき混ぜられる。
「……本当に可愛い」
そう囁くマルクの瞳は、蕩けそうな桃色に染まっていた。
***
時は少し前に遡る。
「マルク!見て見て!」
「ゲッ、何その汚い本……」
露骨に顔を顰めるマルクに、ちょっとだけムカッとした。
この本はボクちんのおうちの古い倉庫から出てきたものだ、汚いとは失礼な!
……まぁたしかに年代物なのか表紙は色褪せてるし、紙はボロボロでいろんなところに茶色いシミができている。
だからこそ、こういう本には面白い魔術が書いてあったりするんだ!
本のページを開いて見せると、マルクの眉間に深いシワが寄った。
「……なにこれ」
「これね、なんと“惚れ魔法”!」
「ハァ!?惚れ魔法!?」
目を剥いて素っ頓狂な声を上げるマルク。
それもそのはず、惚れ魔法をはじめとする「人の気持ち」や「心」を変化させてしまう魔法は、存在しない魔法かあっても禁術とされているから。
ボクちんたち魔法使いは、簡単な魔法なら魔法陣や詠唱なしで使える。
もちろん持っている魔力の量とか得意分野にもよるけどね。
でも人の心を変える魔法は、陣や呪文を使わずにできるようなものじゃない。
その術を学校では教わらないし、普通に手に入れられる本にも載っていない。
だからそんな魔法は“存在しない”とされているし、あったとしても危険すぎるから“禁術”と抹消される。
だからこうやって文章として残っているものはすごく珍しくて、見ているだけでワクワクする!
「ちょっとやってみようよ!」
「えー……?」
とはいっても魔力持ちは、自覚アリナシはともかく精神にプロテクトがかかってることが多いから、こうやって術があっても成功するかは別の話。
特にマルクはボクちんより強い……っていうか、相当強い魔法使いだ。
だから多分失敗しちゃうだろうけど、せっかく見つけたんだからやってみたい。
「ボクちんせっかく頑張って古代文字読んだんだよ?
魔法の勉強に付き合ってよー!」
好奇心も本物だけど、もしも成功したら「好き」とか言ってくれるかも?と期待しているのは秘密。
ちゃんと好きでいてくれているのはわかってるけど、普段あんまり愛情表現してくれないんだもん。
たまにはボクちんにデレるマルクを見てみたい。
「いやそれはすごいけどサ……。
代償魔法とかの危険なヤツだったらどうするのサ?」
「ウィズに見てもらったけどその辺は平気そうだって」
そう答えると、マルクは忌々しそうに「あの変態余計なことを……」と呟いた。
そういえばあのときのウィズ、やけに楽しそうだったな。
「レア物を見せてくれてありがとうございマス!」って言ってたから、やっぱりこういうのって珍しいのかな?
「えー?なに?もしかしてボクちんの魔法が怖いの?」
「んなわけないだろ?
だいたい惚れ魔法って、ボクはもう……」
露骨な煽りに反応するかなと思っていたけど、そこまでで言葉を切り、なぜか顔を赤く染めた。
そして急に頭を振って、短く呻く。
どうしたんだろう……?
「どうしたの?」
「……っ、いや、なんでもないのサ!
やれるもんならやってみやがれ!」
「えっなんかさっきと言ってること違うよ!?」
唐突な心境の変化にビックリだけど、相手になってくれるらしいからいいのかな?
まぁどうせ不発に終わるだろう、と思いながらボクちんは用意していた魔法陣を書いた紙を広げ、呪文の詠唱を始めた。
***
……だからこの状況は、ボクちんの自業自得なんだ。
でも、それでもね。
「グーリールー?」
まさかこんなことになるとは思わなかったんだよ。
マルクは相変わらずほっぺへのキスとスリスリを繰り返している。
「惚れ魔法」だからこんな風に露骨に甘えてくれてるのだろうけど、ちょっとこれはやりすぎな気がしないでもない。
早く解いた方がいいとは思うけど、実は解除魔法は一度読んだだけで覚えてない。
とりあえず見てみなきゃと思って本に手を伸ばそうとすると、手を掴まれてそのままグイッと引っ張られた。
「ひゃっ!」
マルクも背中からソファに倒れ込んだから、ボクちんが押し倒すような形になってしまった。
慌てて起き上がろうとしたけど、強引に唇を塞がれる。
離せないように後頭部を押さえられて、舌が入って来て、しかもそれはいつもよりも熱くて。
普段だったら息継ぎさせてくれるのに、今日はそんな余裕すら与えてくれない。
しばらくしてやっと解放されたけど、身体からはすっかり力が抜けていてマルクに覆いかぶさった体勢のまま動けなかった。
彼は荒い呼吸を繰り返すボクちんの頭を撫で、耳元に口を寄せた。
「グリル……」
熱を感じる声にゾクリと身体を震わせていると、突然浮遊感を感じ、次の瞬間には背中から床に落ちていた。
二人の位置が入れ替わり、今度はボクちんがマルクを見上げる番。
逆光で表情は見えないけど、瞳だけはやけにギラギラとしていた。
「……美味そう」
首筋に吐息を感じ、チクリと痛みが走る。
噛み付かれたのとは多分違う感覚だけど、何をされたのかまではわからない。
でも何かをされたということはわかる。
「まる、く!」
文句を言ってやろうと思ったけど、ボクちんを見下ろす桃色がさっきよりも深くなっていて怯んでしまった。
まずい、これは悪化(?)している……!
瞳はまるで獲物に狙いを定める狼のようで、正直少し怖い。
そのはずなのに、ちょっとかっこよくも見えて。
マルクの荒い呼吸音が鼓膜を震わせ、ボクちんの心音がそれに重なっていく。
「グリル……いい?」
ボクちんの答えを待たず、マルクの手が服の裾から入り込んできた。
指先がするりとお腹を撫で、そのまま奥に進もうとする。
触れられたところから身体に電流みたいなものが走った。
それと同時に、どこからかバチッ!と大きな静電気みたいな音が鳴る。
何事かと思っていると、彼の身体から急に力が抜け、おでこが床に叩きつけられた。
「だっ、大丈夫!?」
「っぶねー……」
むくりと起き上がるマルクの瞳は元の色に戻っていた(ただ相当痛かったのか涙が浮かんでいる)。
一瞬何が起こったのかわからなかったけど、多分効果が切れた……のかな?
ホッとして立ち上がると、安心して気が抜けたのか一瞬クラリと目眩がした。
でも今は、マルクの身体に異常が残っていないかを確かめなきゃ。
一応、ボクちんがかけた魔法のせいでこうなっちゃったんだから……と彼の周りを一周する。
うん、特に傷とかはなさそうかな?
「身体変じゃない?平気?」
「あー……うん、一応は。
あと残念だけど、これ惚れ魔法じゃないのサ」
「え?」
惚れ魔法じゃないならあのマルクのデレデレっぷりは何だったの?
そう問うとマルクは一度口をつぐみ、躊躇うように視線を彷徨わせた。
でもボクちんがジッと待っていると諦めたのか、渋々口を割った。
「……催淫魔法か強制発情魔法。
しかもめちゃくちゃ強いヤツ」
「さ、さいいん!?はつじょう!?」
つまり、え、えっちなやつってこと!?
ボクちんそんなものをマルクにかけちゃってたの!?
ていうかボクちんのご先祖様、こんな魔法開発してなにをしようとしていたの!?
「身体に作用する系ならボクがかかったのも納得がいくのサ。
いや、別にキミが弱いってわけじゃなくてボクが強すぎるからで……ってグリル!?」
目を見開いたマルクがボクちんの肩をガッと掴む。
たったそれだけなのに、身体にまた変な痺れが走った。
足から力が抜けその場にへなへなと座り込んでしまう。
「その目……まさか、キミ」
「まるく、なんか身体、へんだよ……!」
全身が異常に熱くて、常に痺れているような変な感覚がする。
身体を動かして服が擦れるだけで、その痺れが大きくなる。
息も勝手に荒くなって、頭もクラクラして。
もしかしてこれは……と思いながらおそるおそる部屋の鏡を見てみると、案の定ボクちんの瞳はさっきのマルクと同じ桃色に染まっていた。
「伝染るなんて書いてなかったのにー!」
「……タチ悪すぎだろ。
ボク他人の回復は守備範囲外なんだよな……。
マホロアなら?いやこんな状況見られたら……ランプキンは殺されるし……そもそもこんなグリル誰にも……」
後半は何を言っているのかわからなかったけど、彼は一度大きなため息をつくとおもむろにボクちんの本を手に取った。
開きっぱなしになっていたページに目を通し、眉根を寄せる。
「解読魔法で読めるか……?
ちょっと待ってろ、これ読んで解除魔法やってやるのサ」
真剣に本を読む姿がいつもより何倍もかっこよくみえる。
マルクを見ていると心臓が破裂しそうで、触れたくて触れたくてたまらなくなる。
でも触れるって何?
ぎゅっとしてほしい?頭を撫でてほしい?キスしてほしい?
それも全部そうだよ、全部正解。
でもそれだけなの?
マルクを、マルクと、ボクちんは?
どうしたいの?どうなりたいの?
頭がぼーっとして、わけがわからなくなる。
「……もう、むり」
思考がまとまらないまま身体は勝手に動く。
油断しているマルクをソファに突き飛ばして、そのまま首筋に噛み付いた。
「な、何するのサ!?」
声を荒らげたマルクが、ボクちんの顔を見て息を呑んだ。
怒りから困惑、そしてほんの少しの恐怖が表情を埋めていく。
「そんな顔もできるんだ?」微かに残った頭の冷静な部分でそう考えながら、マルクの唇に噛み付いた。
甘い魔法にご注意を
(二人共もう、逃げられない)
NEXT
→あとがき
「グリル~構って~?
ボクのこと好きなんでしょ~?」
マルクはソファに座るボクちんの隣からぎゅうっと抱きつき、ほっぺを擦り付けてきた。
固まるボクちんのほっぺに何度もキスをして、また擦り付ける。
らしくないセリフを紡ぐのはいつもより高い猫撫で声で、もしここにマホロアがいたら絶対にお腹を抱えて大笑いしていただろう。
……どうしてこうなった!?
「ねえグリル~?どうしたのサ~?」
「マ、マルク……?」
どうしたのサ?はこっちのセリフだよ。
呼びかける声も若干震えてしまう。
今までに見たことがないくらいに甘えっぷりだ。
お酒を飲みすぎた時もたまーに甘えてくれるけど、ここまでデレデレなのは初めて。
珍しいものを見られてラッキーだと思う反面、後の事を考えるとちょっと怖い。
くっついてくれるのは正直嬉しかったりするけど、ボクちんたち体格差が結構あるから、こう全力でもたれかかってこられるとちょっと重たい……。
ボクちん自身も混乱しているし、お互い落ち着くためにも少し離れないと……!
「ごめんマルク、ちょっとだけ放してくれないかな?」
「こっち向いて?」
人の話を聞いちゃいない。
しかも恥ずかしくて背けていた顔を、無理矢理マルクの方に向けられた。
吐息のかかる距離で瞳を覗き込まれれば、冷静になろうとする気持ちがいとも容易くかき混ぜられる。
「……本当に可愛い」
そう囁くマルクの瞳は、蕩けそうな桃色に染まっていた。
***
時は少し前に遡る。
「マルク!見て見て!」
「ゲッ、何その汚い本……」
露骨に顔を顰めるマルクに、ちょっとだけムカッとした。
この本はボクちんのおうちの古い倉庫から出てきたものだ、汚いとは失礼な!
……まぁたしかに年代物なのか表紙は色褪せてるし、紙はボロボロでいろんなところに茶色いシミができている。
だからこそ、こういう本には面白い魔術が書いてあったりするんだ!
本のページを開いて見せると、マルクの眉間に深いシワが寄った。
「……なにこれ」
「これね、なんと“惚れ魔法”!」
「ハァ!?惚れ魔法!?」
目を剥いて素っ頓狂な声を上げるマルク。
それもそのはず、惚れ魔法をはじめとする「人の気持ち」や「心」を変化させてしまう魔法は、存在しない魔法かあっても禁術とされているから。
ボクちんたち魔法使いは、簡単な魔法なら魔法陣や詠唱なしで使える。
もちろん持っている魔力の量とか得意分野にもよるけどね。
でも人の心を変える魔法は、陣や呪文を使わずにできるようなものじゃない。
その術を学校では教わらないし、普通に手に入れられる本にも載っていない。
だからそんな魔法は“存在しない”とされているし、あったとしても危険すぎるから“禁術”と抹消される。
だからこうやって文章として残っているものはすごく珍しくて、見ているだけでワクワクする!
「ちょっとやってみようよ!」
「えー……?」
とはいっても魔力持ちは、自覚アリナシはともかく精神にプロテクトがかかってることが多いから、こうやって術があっても成功するかは別の話。
特にマルクはボクちんより強い……っていうか、相当強い魔法使いだ。
だから多分失敗しちゃうだろうけど、せっかく見つけたんだからやってみたい。
「ボクちんせっかく頑張って古代文字読んだんだよ?
魔法の勉強に付き合ってよー!」
好奇心も本物だけど、もしも成功したら「好き」とか言ってくれるかも?と期待しているのは秘密。
ちゃんと好きでいてくれているのはわかってるけど、普段あんまり愛情表現してくれないんだもん。
たまにはボクちんにデレるマルクを見てみたい。
「いやそれはすごいけどサ……。
代償魔法とかの危険なヤツだったらどうするのサ?」
「ウィズに見てもらったけどその辺は平気そうだって」
そう答えると、マルクは忌々しそうに「あの変態余計なことを……」と呟いた。
そういえばあのときのウィズ、やけに楽しそうだったな。
「レア物を見せてくれてありがとうございマス!」って言ってたから、やっぱりこういうのって珍しいのかな?
「えー?なに?もしかしてボクちんの魔法が怖いの?」
「んなわけないだろ?
だいたい惚れ魔法って、ボクはもう……」
露骨な煽りに反応するかなと思っていたけど、そこまでで言葉を切り、なぜか顔を赤く染めた。
そして急に頭を振って、短く呻く。
どうしたんだろう……?
「どうしたの?」
「……っ、いや、なんでもないのサ!
やれるもんならやってみやがれ!」
「えっなんかさっきと言ってること違うよ!?」
唐突な心境の変化にビックリだけど、相手になってくれるらしいからいいのかな?
まぁどうせ不発に終わるだろう、と思いながらボクちんは用意していた魔法陣を書いた紙を広げ、呪文の詠唱を始めた。
***
……だからこの状況は、ボクちんの自業自得なんだ。
でも、それでもね。
「グーリールー?」
まさかこんなことになるとは思わなかったんだよ。
マルクは相変わらずほっぺへのキスとスリスリを繰り返している。
「惚れ魔法」だからこんな風に露骨に甘えてくれてるのだろうけど、ちょっとこれはやりすぎな気がしないでもない。
早く解いた方がいいとは思うけど、実は解除魔法は一度読んだだけで覚えてない。
とりあえず見てみなきゃと思って本に手を伸ばそうとすると、手を掴まれてそのままグイッと引っ張られた。
「ひゃっ!」
マルクも背中からソファに倒れ込んだから、ボクちんが押し倒すような形になってしまった。
慌てて起き上がろうとしたけど、強引に唇を塞がれる。
離せないように後頭部を押さえられて、舌が入って来て、しかもそれはいつもよりも熱くて。
普段だったら息継ぎさせてくれるのに、今日はそんな余裕すら与えてくれない。
しばらくしてやっと解放されたけど、身体からはすっかり力が抜けていてマルクに覆いかぶさった体勢のまま動けなかった。
彼は荒い呼吸を繰り返すボクちんの頭を撫で、耳元に口を寄せた。
「グリル……」
熱を感じる声にゾクリと身体を震わせていると、突然浮遊感を感じ、次の瞬間には背中から床に落ちていた。
二人の位置が入れ替わり、今度はボクちんがマルクを見上げる番。
逆光で表情は見えないけど、瞳だけはやけにギラギラとしていた。
「……美味そう」
首筋に吐息を感じ、チクリと痛みが走る。
噛み付かれたのとは多分違う感覚だけど、何をされたのかまではわからない。
でも何かをされたということはわかる。
「まる、く!」
文句を言ってやろうと思ったけど、ボクちんを見下ろす桃色がさっきよりも深くなっていて怯んでしまった。
まずい、これは悪化(?)している……!
瞳はまるで獲物に狙いを定める狼のようで、正直少し怖い。
そのはずなのに、ちょっとかっこよくも見えて。
マルクの荒い呼吸音が鼓膜を震わせ、ボクちんの心音がそれに重なっていく。
「グリル……いい?」
ボクちんの答えを待たず、マルクの手が服の裾から入り込んできた。
指先がするりとお腹を撫で、そのまま奥に進もうとする。
触れられたところから身体に電流みたいなものが走った。
それと同時に、どこからかバチッ!と大きな静電気みたいな音が鳴る。
何事かと思っていると、彼の身体から急に力が抜け、おでこが床に叩きつけられた。
「だっ、大丈夫!?」
「っぶねー……」
むくりと起き上がるマルクの瞳は元の色に戻っていた(ただ相当痛かったのか涙が浮かんでいる)。
一瞬何が起こったのかわからなかったけど、多分効果が切れた……のかな?
ホッとして立ち上がると、安心して気が抜けたのか一瞬クラリと目眩がした。
でも今は、マルクの身体に異常が残っていないかを確かめなきゃ。
一応、ボクちんがかけた魔法のせいでこうなっちゃったんだから……と彼の周りを一周する。
うん、特に傷とかはなさそうかな?
「身体変じゃない?平気?」
「あー……うん、一応は。
あと残念だけど、これ惚れ魔法じゃないのサ」
「え?」
惚れ魔法じゃないならあのマルクのデレデレっぷりは何だったの?
そう問うとマルクは一度口をつぐみ、躊躇うように視線を彷徨わせた。
でもボクちんがジッと待っていると諦めたのか、渋々口を割った。
「……催淫魔法か強制発情魔法。
しかもめちゃくちゃ強いヤツ」
「さ、さいいん!?はつじょう!?」
つまり、え、えっちなやつってこと!?
ボクちんそんなものをマルクにかけちゃってたの!?
ていうかボクちんのご先祖様、こんな魔法開発してなにをしようとしていたの!?
「身体に作用する系ならボクがかかったのも納得がいくのサ。
いや、別にキミが弱いってわけじゃなくてボクが強すぎるからで……ってグリル!?」
目を見開いたマルクがボクちんの肩をガッと掴む。
たったそれだけなのに、身体にまた変な痺れが走った。
足から力が抜けその場にへなへなと座り込んでしまう。
「その目……まさか、キミ」
「まるく、なんか身体、へんだよ……!」
全身が異常に熱くて、常に痺れているような変な感覚がする。
身体を動かして服が擦れるだけで、その痺れが大きくなる。
息も勝手に荒くなって、頭もクラクラして。
もしかしてこれは……と思いながらおそるおそる部屋の鏡を見てみると、案の定ボクちんの瞳はさっきのマルクと同じ桃色に染まっていた。
「伝染るなんて書いてなかったのにー!」
「……タチ悪すぎだろ。
ボク他人の回復は守備範囲外なんだよな……。
マホロアなら?いやこんな状況見られたら……ランプキンは殺されるし……そもそもこんなグリル誰にも……」
後半は何を言っているのかわからなかったけど、彼は一度大きなため息をつくとおもむろにボクちんの本を手に取った。
開きっぱなしになっていたページに目を通し、眉根を寄せる。
「解読魔法で読めるか……?
ちょっと待ってろ、これ読んで解除魔法やってやるのサ」
真剣に本を読む姿がいつもより何倍もかっこよくみえる。
マルクを見ていると心臓が破裂しそうで、触れたくて触れたくてたまらなくなる。
でも触れるって何?
ぎゅっとしてほしい?頭を撫でてほしい?キスしてほしい?
それも全部そうだよ、全部正解。
でもそれだけなの?
マルクを、マルクと、ボクちんは?
どうしたいの?どうなりたいの?
頭がぼーっとして、わけがわからなくなる。
「……もう、むり」
思考がまとまらないまま身体は勝手に動く。
油断しているマルクをソファに突き飛ばして、そのまま首筋に噛み付いた。
「な、何するのサ!?」
声を荒らげたマルクが、ボクちんの顔を見て息を呑んだ。
怒りから困惑、そしてほんの少しの恐怖が表情を埋めていく。
「そんな顔もできるんだ?」微かに残った頭の冷静な部分でそう考えながら、マルクの唇に噛み付いた。
甘い魔法にご注意を
(二人共もう、逃げられない)
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