月夜にオレは君を想う
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チューリン族の寿命は短い。
ドクは異例な存在で(といってもオレも彼の正確な年齢は把握していない)、本来は爺さんにすらなれない人だって多いらしい。
特に、先祖返りしたオレのように強い力を持っていると、長生きができない――そう幼い頃どこかで聞いたことがあるが、定かではない。
ドクも知らないというし、今となっては確認する手立てはない。
それを知るような者たちも、今はもういないのだから。
といっても、様々な種族がひしめき合うポップスターではどうだっていい気もする。
平均寿命がいくつとか、種族によって全然違うようだ。
人によっては千年単位で生きるとかなんとか。
時間の流れ方すらもオレが住んでいた世界とはどこか違う。
特に今育ち盛りなはずのスピンを見ているとそう思う。
……まさか身長が止まったわけではあるまい。
そもそも、母星を出て時間の流れ方が違う世界を渡り歩いた時点で、時の流れも何もないのかもしれないけどな。
とまあ、今は色々と特別な状況に身を置いてるわけだが。
特にカービィ……彼女達は更に特別だ。
あのメタナイトは相当歳を食っていた。
薄々はそうだとは思ってはいたが、まさかあんな桁外れな歳だとは思わなかった。
それであの見た目は詐欺だ。
いくつだったかなんて、口に出すのも憚られる。
まぁ、彼奴のことはどうでもいい。
ただオレの中に凄まじい衝撃が残っただけに過ぎないのだから。
だが、同種のメタナイトがそうである以上は彼女にも同じ事が言えるだろう。
現時点は若者――むしろ、少女に分類される彼女は、この先途方もなく長い時を過ごすことになるのだろう。
そう思うと、息が吸いづらくなる。
……オレは、いつから死ぬのが怖くなったのだろうか。
彼女に出会う前は、自分の死は何とも思わなかった。
オレは利用される為に生まれ、人を利用して生きる。
そうなるように決められていたし、その運命を甘受していた。
今更、死それ自体に恐怖など感じない。
何度も死線をくぐり抜けてきたせいで慣れてしまった。
それよりも、カービィを一人残してしまう方が辛かった。
オレをあんなにも愛してくれていることを理解しているからこそ、もしオレが死んだらどれ程悲しむのか……そう思うと辛くて仕方がなかった。
***
果てた後特有の気だるさと若干の解放感を感じながら、オレはベッドに倒れこんだ。
身体にはまだ幾分熱が残っていて、少しシーツが冷たく感じた。
ゆっくり息を吸いながら、荒れた呼吸を整える。
隣に横たわるカービィの頭をそっと撫でながらふと窓の方を見てみると、カーテンが少し開いていた。
隙間からちょうど月が見える。
青白い月は綺麗だが、どこか冷たさを感じる。
「……何見てるの?」
しばらく月を見つめていると、彼女がか細い声で問いかけてきた。
まだ起きていたのか、静かだから既に寝ていると思っていた。
部屋は暗く彼女の顔は見えない。
「カービィも見るか?」
カーテンを少し開くと、射し込んだ銀の月明かりが彼女の顔を照らしだした。
いつもより肌が透き通って見えて、整いかけていた鼓動がまた少し速度を増す。
月の光を吸い込んだ青い瞳も相まって、どこか神秘的にすら思えてくる。
「……月が綺麗だな」
ポロリ、と言葉が溢れた。
この言葉に込められた意味を、きっとキミは知らない。
あの汚くて美しい国の人でも、知らない人は多いらしいから。
「なんか、ボク、幸せすぎて今死んじゃってもいいかも……」
囁くようなその言葉が、オレの心を掻き乱した。
《愛してる》そう言われた気がしてしまった。
不覚にも頬が熱くなっていく。
だが彼女が知るはずもない。
これこそ、あっちの世界の人間ですら知らない人が多いのだから。
これは単なる自惚れだ。
それでも、暗に込められた意味でなくとも、その言葉の意味のままでも嬉しさを感じずに入られなかった。
いっそオレが死んだら、キミが後を追ってくれたら……そんなことさえ思ってしまうオレは、狂っているのだろうか。
ああそうだ、今夜は月が綺麗だから、きっとオレも少しおかしくなっているのだろう。
思考が上手く纏まらず、たまらずカービィを強く抱き寄せた。
彼女の柔らかさや体温を感じると、幾分心が安らぐ。
「それは嫌だな。
どんなに美しかろうと、一人で見る月は寂しい。
……いや、違うな」
彼女の頭を撫でる。
指先に触れるサラサラの髪が心地よかった。
「キミといるから、月は綺麗なんだ」
カービィは顔を上げてオレの方を見た。
銀の光を反射する海を思わせるその瞳に、吸い込まれそうな錯覚に陥る。
ふと――昔誰かに読んでもらった“かぐや姫”を思い出した。
竹取の翁が輝く竹から少女を見つけるお話だ。
たしかあれのラストシーンは……。
『かぐや姫は月に昇っていってしまいました。』
ああそうだ、姫は月世界にいってしまったんだ……。
それも、地上での記憶を全て忘れる薬を飲んで。
そんなことを思い出していたからか、不意に腕の中の温かさが消えてしまう気がして。
つい抱き締める腕に力がこもってしまう。
まるで、存在を確かめるかのように。
自分がいなくなったときのことは考えていたけど、その逆は……?
オレは、どうやって生きていけばいいのだろうか。
「……どうしたの?」
怪訝な声にハッとした。
そうだ、いなくなるわけがない。
カービィはちゃんとここに……オレの腕の中にいるんだ。
少なくとも、今は。
「キミが、月に昇っていってしまいそうだと思った」
不安を隠すようにそう答えると、カービィが吹き出した。
面白いと思ってくれたのだろうか……いや、それでいいんだ。
笑ってくれるなら、それでいい。
「なに言ってるの……」
「……どうしてだろうな、月はこんなにも綺麗で……更にカービィがあまりにも、それこそ月に勝るほどに美しいからか?
そう、竹取のかぐや姫のように……」
彼女は月光下でもわかるほど真っ赤に顔を染めた。
「連れていく人なんていないよ。」と照れてぶっきらぼうに言うのが可愛くて、笑いが漏れてしまう。
連れて行きたい人なんてきっと掃いて捨てるほどいるだろうに。
相変わらずこの姫は自分の魅力を理解していないようだ。
まぁ、そういうところも彼女の魅力なんだがな。
笑われたのが気に入らなかったのか、プクッと頬を膨らませる……そんな表情でさえ、いとおしい。
「フッ、ふと思っただけだ。
連れて行かせるわけがない。
オレが許さないからな」
「デスヨネー」
「……だが、もしそうなったらオレはあの翁のように、ただ泣くだけにはいかないだろうな。
月まで追いかけて、きっと連れ戻してしまう」
「……ボクがキミを忘れてしまっても?」
感情すらも失ったかぐや姫は、振り返ることなく空へ昇っていった……。
小さな胸の痛みを無理やり飲み込んで、オレはわざと大きく頷いた。
「きっと思い出させてみせる。
もし思い出せなくとも、また惚れさせてみせるさ」
「そうだね。
それにもし薬を飲んでキミのことを忘れても……きっとボクはまた、キミに恋をする」
「……そうしてまた、始まるのか?」
「うん!
たとえ離れ離れになっても、忘れちゃっても、生まれ変わっても……ボクらは絶対また出会って、恋をする。
そんな気がするんだ」
「生まれ変わっても」の言葉に胸を衝かれた。
彼女は今かなり寝ぼけている。
証拠なんてないし、具体的な根拠もない。
「なんとなく」で「曖昧」な言葉。
それでも、その言葉が本当に嬉しかった。
凝り固まっていたものが、ゆっくりと柔らかに解けていくのを感じていた。
「そうだよな。
オレたちなら、絶対」
不覚にも声が震えた。
こみ上げてくるものを抑えながら、オレはまた少しだけ彼女の抱き締める腕に力を込めた。
「……ドロッチェ?」
「そろそろ寝ようか」
カーテンを閉めれば再び部屋には闇が立ち込める。
それでももう、何も怖くなかった。
「おやすみ、カービィ」
正直先のことはわからない。
だが、少なくとも死が二人を分かつまでは絶対に離れない。
今オレがやれることは、この腕の中に居てくれる愛しい彼女を、全力で幸せにするだけなんだ。
彼女の規則正しい寝息を聞きながら、そんな風に思った。
月夜に俺は君を想う
想うのは、キミのこと
NEXT
→あとがき
ドクは異例な存在で(といってもオレも彼の正確な年齢は把握していない)、本来は爺さんにすらなれない人だって多いらしい。
特に、先祖返りしたオレのように強い力を持っていると、長生きができない――そう幼い頃どこかで聞いたことがあるが、定かではない。
ドクも知らないというし、今となっては確認する手立てはない。
それを知るような者たちも、今はもういないのだから。
といっても、様々な種族がひしめき合うポップスターではどうだっていい気もする。
平均寿命がいくつとか、種族によって全然違うようだ。
人によっては千年単位で生きるとかなんとか。
時間の流れ方すらもオレが住んでいた世界とはどこか違う。
特に今育ち盛りなはずのスピンを見ているとそう思う。
……まさか身長が止まったわけではあるまい。
そもそも、母星を出て時間の流れ方が違う世界を渡り歩いた時点で、時の流れも何もないのかもしれないけどな。
とまあ、今は色々と特別な状況に身を置いてるわけだが。
特にカービィ……彼女達は更に特別だ。
あのメタナイトは相当歳を食っていた。
薄々はそうだとは思ってはいたが、まさかあんな桁外れな歳だとは思わなかった。
それであの見た目は詐欺だ。
いくつだったかなんて、口に出すのも憚られる。
まぁ、彼奴のことはどうでもいい。
ただオレの中に凄まじい衝撃が残っただけに過ぎないのだから。
だが、同種のメタナイトがそうである以上は彼女にも同じ事が言えるだろう。
現時点は若者――むしろ、少女に分類される彼女は、この先途方もなく長い時を過ごすことになるのだろう。
そう思うと、息が吸いづらくなる。
……オレは、いつから死ぬのが怖くなったのだろうか。
彼女に出会う前は、自分の死は何とも思わなかった。
オレは利用される為に生まれ、人を利用して生きる。
そうなるように決められていたし、その運命を甘受していた。
今更、死それ自体に恐怖など感じない。
何度も死線をくぐり抜けてきたせいで慣れてしまった。
それよりも、カービィを一人残してしまう方が辛かった。
オレをあんなにも愛してくれていることを理解しているからこそ、もしオレが死んだらどれ程悲しむのか……そう思うと辛くて仕方がなかった。
***
果てた後特有の気だるさと若干の解放感を感じながら、オレはベッドに倒れこんだ。
身体にはまだ幾分熱が残っていて、少しシーツが冷たく感じた。
ゆっくり息を吸いながら、荒れた呼吸を整える。
隣に横たわるカービィの頭をそっと撫でながらふと窓の方を見てみると、カーテンが少し開いていた。
隙間からちょうど月が見える。
青白い月は綺麗だが、どこか冷たさを感じる。
「……何見てるの?」
しばらく月を見つめていると、彼女がか細い声で問いかけてきた。
まだ起きていたのか、静かだから既に寝ていると思っていた。
部屋は暗く彼女の顔は見えない。
「カービィも見るか?」
カーテンを少し開くと、射し込んだ銀の月明かりが彼女の顔を照らしだした。
いつもより肌が透き通って見えて、整いかけていた鼓動がまた少し速度を増す。
月の光を吸い込んだ青い瞳も相まって、どこか神秘的にすら思えてくる。
「……月が綺麗だな」
ポロリ、と言葉が溢れた。
この言葉に込められた意味を、きっとキミは知らない。
あの汚くて美しい国の人でも、知らない人は多いらしいから。
「なんか、ボク、幸せすぎて今死んじゃってもいいかも……」
囁くようなその言葉が、オレの心を掻き乱した。
《愛してる》そう言われた気がしてしまった。
不覚にも頬が熱くなっていく。
だが彼女が知るはずもない。
これこそ、あっちの世界の人間ですら知らない人が多いのだから。
これは単なる自惚れだ。
それでも、暗に込められた意味でなくとも、その言葉の意味のままでも嬉しさを感じずに入られなかった。
いっそオレが死んだら、キミが後を追ってくれたら……そんなことさえ思ってしまうオレは、狂っているのだろうか。
ああそうだ、今夜は月が綺麗だから、きっとオレも少しおかしくなっているのだろう。
思考が上手く纏まらず、たまらずカービィを強く抱き寄せた。
彼女の柔らかさや体温を感じると、幾分心が安らぐ。
「それは嫌だな。
どんなに美しかろうと、一人で見る月は寂しい。
……いや、違うな」
彼女の頭を撫でる。
指先に触れるサラサラの髪が心地よかった。
「キミといるから、月は綺麗なんだ」
カービィは顔を上げてオレの方を見た。
銀の光を反射する海を思わせるその瞳に、吸い込まれそうな錯覚に陥る。
ふと――昔誰かに読んでもらった“かぐや姫”を思い出した。
竹取の翁が輝く竹から少女を見つけるお話だ。
たしかあれのラストシーンは……。
『かぐや姫は月に昇っていってしまいました。』
ああそうだ、姫は月世界にいってしまったんだ……。
それも、地上での記憶を全て忘れる薬を飲んで。
そんなことを思い出していたからか、不意に腕の中の温かさが消えてしまう気がして。
つい抱き締める腕に力がこもってしまう。
まるで、存在を確かめるかのように。
自分がいなくなったときのことは考えていたけど、その逆は……?
オレは、どうやって生きていけばいいのだろうか。
「……どうしたの?」
怪訝な声にハッとした。
そうだ、いなくなるわけがない。
カービィはちゃんとここに……オレの腕の中にいるんだ。
少なくとも、今は。
「キミが、月に昇っていってしまいそうだと思った」
不安を隠すようにそう答えると、カービィが吹き出した。
面白いと思ってくれたのだろうか……いや、それでいいんだ。
笑ってくれるなら、それでいい。
「なに言ってるの……」
「……どうしてだろうな、月はこんなにも綺麗で……更にカービィがあまりにも、それこそ月に勝るほどに美しいからか?
そう、竹取のかぐや姫のように……」
彼女は月光下でもわかるほど真っ赤に顔を染めた。
「連れていく人なんていないよ。」と照れてぶっきらぼうに言うのが可愛くて、笑いが漏れてしまう。
連れて行きたい人なんてきっと掃いて捨てるほどいるだろうに。
相変わらずこの姫は自分の魅力を理解していないようだ。
まぁ、そういうところも彼女の魅力なんだがな。
笑われたのが気に入らなかったのか、プクッと頬を膨らませる……そんな表情でさえ、いとおしい。
「フッ、ふと思っただけだ。
連れて行かせるわけがない。
オレが許さないからな」
「デスヨネー」
「……だが、もしそうなったらオレはあの翁のように、ただ泣くだけにはいかないだろうな。
月まで追いかけて、きっと連れ戻してしまう」
「……ボクがキミを忘れてしまっても?」
感情すらも失ったかぐや姫は、振り返ることなく空へ昇っていった……。
小さな胸の痛みを無理やり飲み込んで、オレはわざと大きく頷いた。
「きっと思い出させてみせる。
もし思い出せなくとも、また惚れさせてみせるさ」
「そうだね。
それにもし薬を飲んでキミのことを忘れても……きっとボクはまた、キミに恋をする」
「……そうしてまた、始まるのか?」
「うん!
たとえ離れ離れになっても、忘れちゃっても、生まれ変わっても……ボクらは絶対また出会って、恋をする。
そんな気がするんだ」
「生まれ変わっても」の言葉に胸を衝かれた。
彼女は今かなり寝ぼけている。
証拠なんてないし、具体的な根拠もない。
「なんとなく」で「曖昧」な言葉。
それでも、その言葉が本当に嬉しかった。
凝り固まっていたものが、ゆっくりと柔らかに解けていくのを感じていた。
「そうだよな。
オレたちなら、絶対」
不覚にも声が震えた。
こみ上げてくるものを抑えながら、オレはまた少しだけ彼女の抱き締める腕に力を込めた。
「……ドロッチェ?」
「そろそろ寝ようか」
カーテンを閉めれば再び部屋には闇が立ち込める。
それでももう、何も怖くなかった。
「おやすみ、カービィ」
正直先のことはわからない。
だが、少なくとも死が二人を分かつまでは絶対に離れない。
今オレがやれることは、この腕の中に居てくれる愛しい彼女を、全力で幸せにするだけなんだ。
彼女の規則正しい寝息を聞きながら、そんな風に思った。
月夜に俺は君を想う
想うのは、キミのこと
NEXT
→あとがき
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