繋がる想い
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バレンタインデーから、ちょうど一月経った。
実はあれからマルクとは一度も会っていない。
ちょうど片方がいない日に片方がいる、みたいな感じだったみたい。
……タイミングが悪すぎるよ。
ボクちんも試験とか課題とかあってなかなかパレスに行けなかったし、マルクもお仕事が忙しかったとか。
普段はサボってるのにどうしたものか、とマホロアは苦笑していた。
まぁ、そんなわけでボクちんの決死の行動は華麗にスルーされていたのかと思っていたけれども。
3月13日……つまり昨日、マルクから電話がかかってきたんだ。
「……あのサ、ちゃんと明日空けてある?」
「う、うん!」
3月14日の意味を知ったときは、心臓が止まりそうだった。
ポップスターでは“ホワイトデー”というものかあって、バレンタインにチョコをもらった男の人がお返しをする日らしい。
その日を空けろと言うことは、何かお返しをくれるのかな。
一応アレをバレンタインのプレゼントだと認識してもらえただけよかったのかな。
そんなことを考えながらグルグルと過ごした一ヶ月間だった。
「ならよかった。
じゃあ10時にあの公園でいい?」
「うん!」
それじゃ、と電話を切る。
携帯を握る手は手汗が酷くて、いかに自分が緊張していたのかを思い知らされて更に恥ずかしくなった。
あの公園――ボクらが出会った始まりの場所。
そこで会うのは久しぶりだ。
特に深い意味はないんだろうけど、やっぱりちょっとドキッてしちゃう。
もちろんなかなか寝付けなかった。
明日のことを思うとドキドキが止まらなくて。
何度も何度もベッドの中でコロコロ転がって、危うく何度かベッドから落ちかけて、何十匹も羊を数えて、ようやく寝つけたんだ。 結局寝坊とまではいかなかったけど、予定よりちょっと遅くなっちゃった。
元々余裕を持って起きる予定だったから大丈夫だけど。
久々に会うし、服にもいつもより気合いが入る。
裾がレースになっているお気に入りのキュロットを履いて、お気に入りの若草色のカーディガンを羽織って。
髪もしっかりブラッシングすれば、準備万端!
まだ時間に余裕はあるけれど、ちょっと早めに行って気持ちを落ち着けようと外に出てみる。
外に出るとまたほんの少し冷えてたけど、空は綺麗な青色で安心した。
天気の心配はないみたい。
そんなことを思いながら公園に行ってみると、もう既にマルクがいて驚いてしまった。
「ご、ごめん、待たせちゃった?」
「いや、今来たばかりなのサ。
ていうかまだ時間になってないし」
そう言われ時計を見てみたら、針はまだ10分前を差していた。
お互い早めに着いちゃったんだねと言うと、マルクはボクちんに右手を差し出した。
「つかまって」
一瞬ドキッとしちゃったけどすぐに意図を察した。
手を掴むと、ふわりと浮遊感を覚えて目の前の風景が変わった。
テレポート自体は慣れてるけど着地点が意外過ぎて驚いてしまった。
「ふえぇ……!すごい!ホントにおっきい!」
目の前に広がっていたのは、ポップスターに最近出来たというテーマパークだった。
「ここ行きたいって言ってただろ?」
そういえばそんなことを言ったような言ってないような。
多分チラシを見たときに何気なく漏らした一言だったのだろうけど、覚えていてくれたなんて。
それが嬉しくて堪らなかった。
「さ、行こうぜ」
チケット代は当たり前のように払ってくれた。
もちろん出そうとしたけど「気にすんな」と言って取り合ってくれない。
園内は人がいっぱいいたけれど、みんな楽しそうに笑っていて。
さっきまでの緊張なんてどこにいったのか、既にボクちんの頭はどれに乗りたいかで頭がいっぱいだった。
「どれ乗りたい?」
「全部!全部!でもまずはジェットコースター!」
広告によると、ここはジェットコースターとかの絶叫系が豊富なんだとか。
さっきから聞こえてくる乗客の歓声がすごく楽しそうで(一部本気で悲鳴な気もするけど)すぐにでも乗りたくてうずうずしていた。
「ジェットコースターにも色々とあるぞ?
……まあ、とりあえずアレ乗るのサ」
「うんっ!」
一番手近なそれに並ぶ。
ちなみにボクちんたちは空を飛べるけど、ジェットコースターも大好き!
自分の意思に関係無く振り回されるのも、それはそれで楽しいんだ。
程なくして順番が回ってきて、ボクらは大いに楽しんだ。
「次あれ!あれ乗る!」
「その次はあっちな!」
片っ端から乗り込んで、次々に制覇していった。
お互いに絶叫マシーンは好きだから、お互いノリノリだった。
「うわああああ!!」
「ひゃあああああっ!!」
絶叫系は思いっきり叫ぶし、シューティングゲームは本気で闘うし、コーヒーカップは本気で回す。
多分少しくらい「キャーこわーい!」みたいなこと言った方が可愛いのかな?
雑誌とかにもよく載ってるし。
わかってはいてもつい我慢できなくて、本気で楽しんでいた。
あ、でも唯一お化け屋敷だけは抵抗したんだけどね。
別に狙ったとかじゃなくて……正直、怖いのはあんまり得意じゃないんだよね……。
「嫌!絶対嫌!」
「まぁまぁ、入ってみるのサ!」
嫌がるボクちんを引き摺る姿はいっそ爽やかだった。
なのにいざ入ってみたらマルクの方が怖がっていた。
「べ、別に怖くなんてないのサ」ていうマルクがちょっとだけ可愛かったからよしとしよう。
「ふぁー、さっきのもすごかったねぇ!」
「三回転はちょっとビビったのサ」
あれからまたジェットコースターの連続で、流石にちょっと疲れたからベンチに座って休憩していた。
アイスも買ってもらってご機嫌。
バニラが濃厚で更に上機嫌。
ふと気が付くと、自分の分は既に平らげたマルクがボクの顔をじーっと見ていた。
「ど、どうしたの?
ボクちんの顔に何かついてる?」
「い、いや、なんでも」
マルクはサッと眼を逸らす。
あんまりにも不自然だったからもう一度問い詰めようとしたけど、突然「マルク殿にグリル殿?」と声をかけらてそれは叶わなかった。
「え?」
声のした方を見ると、一組のカップルがいた。
ボクちんに似た色の瞳を持つ男の人と、炎に似た色の瞳を持つ女の人――王国騎士団のソードさんにブレイドさんだ。
そういえばこの二人は付き合っているんだっけ。
マルクが一役買ったとか買ってないとか聞いたことがあるよ。
詳しくは長編を読んでみてね!
「ほら、やっぱりマルク殿たちだ」
「二人ともこんにちは」
ブレイドさん、なんだか雰囲気違うね。
いつもより女性らしいというか、柔らかいというか。
「こんにちはー!」
「ヘイヘーイ、二人はデートなのサ?」
「え、えっと!こっここここれはパトロールで……!」
「いや~デ ー トなんですよ。
今日はせっかくのホワイトデーですし。
バレンタインにそれはそれは美味しいお菓子を貰ったので、ねぇ?」
ソードさんデートどんだけ強調するし。
二人の意見は正反対だけど、多分ソードさんが正しいんだろうな。
だってブレイドさんあんなに真っ赤だもん。
ブレイドさんの方を見るソードさんの目はちょっとだけ意地悪だったけど、すっごく優しかった。
彼女のこと、大好きなんだろうなぁ。
……ちょっと羨ましい、なんて思っちゃったりね。
「そういや有休申請してたね」
「どっかのサボり魔のマルク殿と違いますから」
「失礼だな!今日はちゃんと有休とった!」
「珍しいですね。
というかよく申請通りましたよね、普段の行いがアレなのに」
今日のためにわざわざ休み取ってくれたんだ……。
そう思うと嬉しくて、なんだか胸がくすぐったい。
「……何故かデデデには呆られて驚かれて誉められた。わけわかんね」
「呆れたのはともかく、驚かれたのと誉めたのはアレでしょうね。
デートのときはちゃんと筋を通すのだと感心されたのでしょう」
ソードさんの言葉に、思わず耳を疑ってしまった。
そして顔が熱を帯びていく。
何か言わなきゃいけないのに、声が引っ掛かって出てこない。
それを隠すように慌ててアイスをかき込んで、口の周りに着いたのを拭った。
……あれ、これ結構前から付いてたんじゃないかな?
アハハ、全くマルクはあの時付いていたのに黙っていたんだね!酷いなもう!
そして今もだんまりだね!
なんでキミまで黙るのかな!?
……ボク達二人が黙り込んじゃったからか、ソードさんがおろおろし始めた。
「あ、あれ?私何か変なこと……」
「……なぁソード、俺そろそろまた乗り物乗りたいなー」
ブレイドさんは何かを察してくれたみたいだけど、それが余計に恥ずかしかった。
ソードさんはデレデレしながらブレイドさんに引きずられていく。
あの人が王国を守ってるって信じられない……まぁそんなどうでもいい感想は所謂現実逃避というもの。
残されたボクらに、重い沈黙が降りた。
口を開こうとしても何を言えばいいのかわからない。
「……ほら、またなんか乗るのサ!」
「う、うん!」
慌てて立ち上がったからか椅子ががたんがたんと音を立てる。
そういえば言われるがままここに来たはいいけど、マルクにとって今日って何なんだろう?
ソードさんにはデートに見えていたのかな。
そう思うと恥ずかしくて仕方がない。
そんなことを考えながら歩いていると、身体がぐらりと大きく傾いた。
「あっ」
ヤバい、転ぶ……!と思った瞬間、腕を掴まれ強い力で引き寄せられた。
今度は後ろに倒れそうになるけど、ポスッと軽い音を立てて背中が何かにぶつかった。
「あっぶねー、ちゃんと前見ろよ」
「ご、ごめん、あり、がと」
よく見るとボクちんの足元に小石があった。
考え事に没頭しすぎて、足元が疎かになっていたみたい。
転びそうになったことよりも、こうして抱き留められたことの方が遥かにドキドキしていた。
背中から溶けてしまいそうで、思わず身じろいでしまう。
別にこうされてたことが嫌なわけじゃなくて、むしろ嬉しかったけどあまりにも恥ずかしい。
「っ、あ、ごめんなのサ」
マルクはそっとボクちんの身体を離した。
嫌だと思われちゃったのかな、そんなんじゃないのに。
掴んでいた腕を離したかと思うと、今度はボクちんの手を取った。
「ふ、ぇ?」
「……キミ危なっかしいから、こうしておけば転ばないだろ?」
「う、うん……ありがとう……」
ぶっきらぼうに言い捨ててるけど、ボクちんの心配してくれたんだ……。
それにしても手汗とかが心配、変な汗が出てきちゃいそう。
でもマルクの手は大きくて温かくて、離したくなかった。
それからまたいくつか乗り物に乗ったけれども、移動するたびにボクちん達は手を繋いだ。
当たり前のように差し出されたその手を、ボクちんは上部だけ当たり前のように取って。
内心は全ッ然当たり前じゃなかったけどね!
流石に少しは慣れたのか最初よりは落ち着いていられたけど、それでも緊張しちゃう。
繋がった手からドキドキが伝わってしまいそうで恥ずかしくて仕方ないのに、それでもやっぱり離したくない。
ずっとずっと手を繋いでいたい。
恋心は複雑って言うけれど、本当なんだね。
そんなことを思いながら過ごすうちに、少しずつ日が傾き始めていた。
小さい子を連れた人たちは「そろそろ帰ろうか」なんて話している。
ボクちんたちもそろそろ帰るのかな。
……ちょっと寂しいなぁ。
「もうこんな時間なのサ?」
「早いね~」
「じゃ、最後にアレでも乗るか」
マルクが見上げた先を見ると、そこにあったのは観覧車だった。
大きくて目立つそれを、ボクちんはあえて避け続けていた。
思わずドキンと心臓が跳ねる。
「う、うん!」
最後に観覧車は定番だし、断るのも不自然だし、彼に手を引かれるままついて行き観覧車に乗り込む。
地との距離が離れていくにつれて、空との距離が縮まっていく。
密室に二人っきりっていうシチュエーションに緊張せずにはいられなかったけど、そこはなんとか誤魔化すしかないだろう。
「見て!夕陽綺麗だよ!」
「ん、そだね」
せっかく普通っぽく話しかけたのに、答えるマルクはどこかぼんやりしていた。
流石に今日一日歩き回ってはしゃぎ回ったから疲れてるのかな。
「ねぇマルク、今日は本当にありがと!
すっごく楽しかったよ!」
ボクちんのためにお休みまで取ってくれたんだ。
結局デートなのかデートじゃなかったのかは考え始めると頭が沸騰しちゃいそうになるから置いておいて、それだけでも本当に嬉しかった。
「なら良かったのサ」
「マルクは楽しかった?」
「もちろん!」
そう言ってくれてよかった!
ボクちんだけが楽しんでいたとしたら申し訳ないもんね。
「あとこれ、やるよ」
どこから取り出したのか、突然差し出されたのは手のひらサイズの小さなプレゼントボックスだった。
赤と青のリボンが綺麗。
「この前のお返し。
……アレ美味しかったのサ、ありがとう」
なるほど、これがホワイトデーのお返しか。
やっぱり本気にはしてもらえなかったんだなーと思うと少し胸が痛んだけど、同時にちょっとだけ安心していた。
だって、これならこの先気まずくなることもなさそうでしょ?
また兄妹みたいでいられる、それだけでも十分嬉しかった。
お礼を言って受け取ったはいいけど、中身の見当が付かなかった。
この大きさじゃお菓子、とかじゃなさそうだし。
今すぐ開けたくなって、うずうずしちゃう。
「開けてもいい?」
「いいけど……」
はやる気持ちを抑えながら、綺麗な緑の包装紙を破らないように丁寧に開けていく。
箱を開けてみると、そこには小さなペンダントが入っていた。
トップが可愛い花の形をしていて、真ん中には綺麗な緑色の石が埋め込まれている。
「すっごい綺麗!ありがとう!」
そう言えばマルクからこういったものを貰うのは初めてな気がする。
取り出して翳してみれば、石が橙色の陽光を反射してすっごく綺麗。
「えへへ~早速付けてみようかな?」
「じゃあ付けようか?」
「うん!お願い!」
自分でつけるのはちょっと苦手だから、お言葉に甘えてペンダントをマルクに渡して背を向けた。
観覧車は、ちょうど後少しでてっぺんに着くくらいだ。
夕陽がすごく綺麗で、思わず見とれてしまう。
チェーンが首に触れて、ちょっぴりくすぐったかった。
「はぅっ……」
うなじに触られると、なんだか電撃のようなものが流れた。
変な声が出ちゃってちょっと恥ずかしい。
マルクも驚いたのか、ピタッと固まってしまった。
「あ、ごめんね!大丈夫だよ!」
慌ててそう言ったけど、彼は全く動かない。
「……ッで、キミは……ッ!」
低く呻くようなその声に「え?」と聞き返そうとすると、突然後ろから抱き締められた。
本当に心臓が止まるかと思った。
ドッドッドッと心臓がマラソンを走り終えた直後並み、ううん、それ以上に激しく動いている。
「マ、マルク?あの、どした、の?」
「……グリル、ボクのこと好き?」
「えっ?
えええぇっぇえっ!?」
まさかここで聞かれるとは思わなくて、思わず叫んでしまった。
ゴンドラの中いっぱいにボクちんの声が反響する。
耳がキーンってしたけど生憎今はそんなことに構っている暇も余裕ない。
「な、なんで今そういうこと聞くの!?」
「良いから答えろっ!」
いきなりすぎてわけがわからない。
マルクの表情はわからないけど、窓に映るボクちんの顔は本当に真っ赤だった。
「」顔から火が出そう」ってまさにこの状況を指すのだろう。
でもこんなふうに追い詰められてしまったのならば。
もうここは、腹を括るしかない!
「……好きだよっ!」
半ばやけくそみたいに叫んだ。
叫んでスッキリしたかと言うとそうでもなく、更に恥ずかしさが襲ってきただけだ。
死んじゃいそうなんだけど大丈夫なのだろうか、ボクちん。
マルクは何も言わない。
だから余計に居た堪れないんだけど早く何でもいいから言ってくれない?
何も言わない代わりに何故か、半ば強制的にマルクの方に向かされた。
これなんてイジメ?
ああ、今すぐここから逃げ出したい。
もしここから飛び降りても飛ぶかクッション作るかすれば死なないよね?
そんな良からぬことを悶々と考えていると、マルクがボクちんの顔を軽く持ち上げた。
もちろん彼の顔を見られるはずもなく、頑なに目を逸らしてしまう。
「こっち向いて」
「やだ、恥ずかしい!」
「……じゃあ目閉じて」
「え?え?」
「いいから」
訳も分からず、促されるままに目をつぶった。
観覧車、夕陽、目を閉じる――まるでこの前友達から借りた漫画みたいだ。
現実味が無い、夢みたいにふわふわ話だった覚えがある。
たしかあのお話の結末は……と考えていると、唇に何かが触れた。
思わず目を開けてしまう。
目の前にいたのは、マルクだった。
あんまり驚いたから、瞬きすらできなかった。
そのまま彼はゆっくりと離れ――目を開いた彼は、ボクちんが目を開けてるのに酷く驚いたようだった。
「閉じろって言ったろ?」
「……ちょ、待って、状況がわからないんだけど」
「わかれよ、バカ」
恋愛経験なんてないボクちんだって、流石にここまでされたらわかる。
もうそこまで子どもじゃない、と思いたい。
でももしボクちんが一人で盛り上がってるだけだとしたら?
マルクがボクちんをからかっているだけだとしたら?
いつものようなイタズラで、さっきの行為には特別な意味なんて無いのだとしたら?
「ボ、ボクちん子どもだから、ちゃんと言ってくれなきゃわかんない……っ!」
それが怖くて、キミの口から確かな言葉が欲しかった。
ボクちんと同じ気持ちなんだって、言ってほしかった。
子どもってのを盾に使うのはズルいよね、わかってる。
それでもボクちんは他でもないキミの口から、証が欲しかったんだ。
マルクは一瞬目を泳がせたのち、真っ直ぐにボクちんを見つめた。
まるで射抜かれるような、そんな感覚に陥る。
「……ボクもキミが好き、だからボクの彼女になって」
彼の言葉がすとんと心に堕ちていくのを感じた。
その表情は今までで見た中で一番真剣で、真っ直ぐで。
魔法にかかったみたいに目を逸らせないのに、その二色の瞳はゆらゆらと滲んでいく。
「な、泣くなよ!」
そう言われてからボクちんは泣いているんだと気づいた。
嬉し泣きって本当にあるんだね。
途端に恥ずかしくなって、とりあえず落ち着かせようとちゃんと座った。
彼も隣に座ってきて、ゴンドラがガタンと揺れる。
「なになに?泣くほど嬉しかったのサ?」
「だ、だって、信じらんないもん……。
ホ、ホントに好き?ボクちんでいいの?」
「好きじゃなかったらこんなことしないのサ」
あやすようにボクちんの頭を撫でるその手がいつもより優しくて、もっと涙が溢れてしまいそうになる。
マルクは割と本気で焦っているようだった。
ボクちんも泣き止みたいのは山々なんだけど、涙腺が完全に壊れちゃってる。
どうしたら止まるかなんて自分でもわかんないよ。
「あーもう、じゃあどうしたら泣き止むのサ?」
「ひっく……じゃ、じゃあ、もう一回キスして?」
自分でも大胆だなーとは思ったけど。
じっと見上げながらそう言えば、マルクも予想外だったのか恥ずかしそうに頬を染めていた。
それがちょっと嬉しい。
恥ずかしいのはボクちんだけじゃないんだなぁって。
「……ガキ」
そっと顔を寄せられ、もう一度重なる唇。
全身が熱くて心臓なんて破裂しちゃいそうで。
でもさっきまでとは全然違う。
ああ、これが幸せなんだなぁって漠然と考えていた。
繋がる想い
あのとき頑張って、本当に良かった!
NEXT
→あとがき
実はあれからマルクとは一度も会っていない。
ちょうど片方がいない日に片方がいる、みたいな感じだったみたい。
……タイミングが悪すぎるよ。
ボクちんも試験とか課題とかあってなかなかパレスに行けなかったし、マルクもお仕事が忙しかったとか。
普段はサボってるのにどうしたものか、とマホロアは苦笑していた。
まぁ、そんなわけでボクちんの決死の行動は華麗にスルーされていたのかと思っていたけれども。
3月13日……つまり昨日、マルクから電話がかかってきたんだ。
「……あのサ、ちゃんと明日空けてある?」
「う、うん!」
3月14日の意味を知ったときは、心臓が止まりそうだった。
ポップスターでは“ホワイトデー”というものかあって、バレンタインにチョコをもらった男の人がお返しをする日らしい。
その日を空けろと言うことは、何かお返しをくれるのかな。
一応アレをバレンタインのプレゼントだと認識してもらえただけよかったのかな。
そんなことを考えながらグルグルと過ごした一ヶ月間だった。
「ならよかった。
じゃあ10時にあの公園でいい?」
「うん!」
それじゃ、と電話を切る。
携帯を握る手は手汗が酷くて、いかに自分が緊張していたのかを思い知らされて更に恥ずかしくなった。
あの公園――ボクらが出会った始まりの場所。
そこで会うのは久しぶりだ。
特に深い意味はないんだろうけど、やっぱりちょっとドキッてしちゃう。
もちろんなかなか寝付けなかった。
明日のことを思うとドキドキが止まらなくて。
何度も何度もベッドの中でコロコロ転がって、危うく何度かベッドから落ちかけて、何十匹も羊を数えて、ようやく寝つけたんだ。 結局寝坊とまではいかなかったけど、予定よりちょっと遅くなっちゃった。
元々余裕を持って起きる予定だったから大丈夫だけど。
久々に会うし、服にもいつもより気合いが入る。
裾がレースになっているお気に入りのキュロットを履いて、お気に入りの若草色のカーディガンを羽織って。
髪もしっかりブラッシングすれば、準備万端!
まだ時間に余裕はあるけれど、ちょっと早めに行って気持ちを落ち着けようと外に出てみる。
外に出るとまたほんの少し冷えてたけど、空は綺麗な青色で安心した。
天気の心配はないみたい。
そんなことを思いながら公園に行ってみると、もう既にマルクがいて驚いてしまった。
「ご、ごめん、待たせちゃった?」
「いや、今来たばかりなのサ。
ていうかまだ時間になってないし」
そう言われ時計を見てみたら、針はまだ10分前を差していた。
お互い早めに着いちゃったんだねと言うと、マルクはボクちんに右手を差し出した。
「つかまって」
一瞬ドキッとしちゃったけどすぐに意図を察した。
手を掴むと、ふわりと浮遊感を覚えて目の前の風景が変わった。
テレポート自体は慣れてるけど着地点が意外過ぎて驚いてしまった。
「ふえぇ……!すごい!ホントにおっきい!」
目の前に広がっていたのは、ポップスターに最近出来たというテーマパークだった。
「ここ行きたいって言ってただろ?」
そういえばそんなことを言ったような言ってないような。
多分チラシを見たときに何気なく漏らした一言だったのだろうけど、覚えていてくれたなんて。
それが嬉しくて堪らなかった。
「さ、行こうぜ」
チケット代は当たり前のように払ってくれた。
もちろん出そうとしたけど「気にすんな」と言って取り合ってくれない。
園内は人がいっぱいいたけれど、みんな楽しそうに笑っていて。
さっきまでの緊張なんてどこにいったのか、既にボクちんの頭はどれに乗りたいかで頭がいっぱいだった。
「どれ乗りたい?」
「全部!全部!でもまずはジェットコースター!」
広告によると、ここはジェットコースターとかの絶叫系が豊富なんだとか。
さっきから聞こえてくる乗客の歓声がすごく楽しそうで(一部本気で悲鳴な気もするけど)すぐにでも乗りたくてうずうずしていた。
「ジェットコースターにも色々とあるぞ?
……まあ、とりあえずアレ乗るのサ」
「うんっ!」
一番手近なそれに並ぶ。
ちなみにボクちんたちは空を飛べるけど、ジェットコースターも大好き!
自分の意思に関係無く振り回されるのも、それはそれで楽しいんだ。
程なくして順番が回ってきて、ボクらは大いに楽しんだ。
「次あれ!あれ乗る!」
「その次はあっちな!」
片っ端から乗り込んで、次々に制覇していった。
お互いに絶叫マシーンは好きだから、お互いノリノリだった。
「うわああああ!!」
「ひゃあああああっ!!」
絶叫系は思いっきり叫ぶし、シューティングゲームは本気で闘うし、コーヒーカップは本気で回す。
多分少しくらい「キャーこわーい!」みたいなこと言った方が可愛いのかな?
雑誌とかにもよく載ってるし。
わかってはいてもつい我慢できなくて、本気で楽しんでいた。
あ、でも唯一お化け屋敷だけは抵抗したんだけどね。
別に狙ったとかじゃなくて……正直、怖いのはあんまり得意じゃないんだよね……。
「嫌!絶対嫌!」
「まぁまぁ、入ってみるのサ!」
嫌がるボクちんを引き摺る姿はいっそ爽やかだった。
なのにいざ入ってみたらマルクの方が怖がっていた。
「べ、別に怖くなんてないのサ」ていうマルクがちょっとだけ可愛かったからよしとしよう。
「ふぁー、さっきのもすごかったねぇ!」
「三回転はちょっとビビったのサ」
あれからまたジェットコースターの連続で、流石にちょっと疲れたからベンチに座って休憩していた。
アイスも買ってもらってご機嫌。
バニラが濃厚で更に上機嫌。
ふと気が付くと、自分の分は既に平らげたマルクがボクの顔をじーっと見ていた。
「ど、どうしたの?
ボクちんの顔に何かついてる?」
「い、いや、なんでも」
マルクはサッと眼を逸らす。
あんまりにも不自然だったからもう一度問い詰めようとしたけど、突然「マルク殿にグリル殿?」と声をかけらてそれは叶わなかった。
「え?」
声のした方を見ると、一組のカップルがいた。
ボクちんに似た色の瞳を持つ男の人と、炎に似た色の瞳を持つ女の人――王国騎士団のソードさんにブレイドさんだ。
そういえばこの二人は付き合っているんだっけ。
マルクが一役買ったとか買ってないとか聞いたことがあるよ。
詳しくは長編を読んでみてね!
「ほら、やっぱりマルク殿たちだ」
「二人ともこんにちは」
ブレイドさん、なんだか雰囲気違うね。
いつもより女性らしいというか、柔らかいというか。
「こんにちはー!」
「ヘイヘーイ、二人はデートなのサ?」
「え、えっと!こっここここれはパトロールで……!」
「いや~デ ー トなんですよ。
今日はせっかくのホワイトデーですし。
バレンタインにそれはそれは美味しいお菓子を貰ったので、ねぇ?」
ソードさんデートどんだけ強調するし。
二人の意見は正反対だけど、多分ソードさんが正しいんだろうな。
だってブレイドさんあんなに真っ赤だもん。
ブレイドさんの方を見るソードさんの目はちょっとだけ意地悪だったけど、すっごく優しかった。
彼女のこと、大好きなんだろうなぁ。
……ちょっと羨ましい、なんて思っちゃったりね。
「そういや有休申請してたね」
「どっかのサボり魔のマルク殿と違いますから」
「失礼だな!今日はちゃんと有休とった!」
「珍しいですね。
というかよく申請通りましたよね、普段の行いがアレなのに」
今日のためにわざわざ休み取ってくれたんだ……。
そう思うと嬉しくて、なんだか胸がくすぐったい。
「……何故かデデデには呆られて驚かれて誉められた。わけわかんね」
「呆れたのはともかく、驚かれたのと誉めたのはアレでしょうね。
デートのときはちゃんと筋を通すのだと感心されたのでしょう」
ソードさんの言葉に、思わず耳を疑ってしまった。
そして顔が熱を帯びていく。
何か言わなきゃいけないのに、声が引っ掛かって出てこない。
それを隠すように慌ててアイスをかき込んで、口の周りに着いたのを拭った。
……あれ、これ結構前から付いてたんじゃないかな?
アハハ、全くマルクはあの時付いていたのに黙っていたんだね!酷いなもう!
そして今もだんまりだね!
なんでキミまで黙るのかな!?
……ボク達二人が黙り込んじゃったからか、ソードさんがおろおろし始めた。
「あ、あれ?私何か変なこと……」
「……なぁソード、俺そろそろまた乗り物乗りたいなー」
ブレイドさんは何かを察してくれたみたいだけど、それが余計に恥ずかしかった。
ソードさんはデレデレしながらブレイドさんに引きずられていく。
あの人が王国を守ってるって信じられない……まぁそんなどうでもいい感想は所謂現実逃避というもの。
残されたボクらに、重い沈黙が降りた。
口を開こうとしても何を言えばいいのかわからない。
「……ほら、またなんか乗るのサ!」
「う、うん!」
慌てて立ち上がったからか椅子ががたんがたんと音を立てる。
そういえば言われるがままここに来たはいいけど、マルクにとって今日って何なんだろう?
ソードさんにはデートに見えていたのかな。
そう思うと恥ずかしくて仕方がない。
そんなことを考えながら歩いていると、身体がぐらりと大きく傾いた。
「あっ」
ヤバい、転ぶ……!と思った瞬間、腕を掴まれ強い力で引き寄せられた。
今度は後ろに倒れそうになるけど、ポスッと軽い音を立てて背中が何かにぶつかった。
「あっぶねー、ちゃんと前見ろよ」
「ご、ごめん、あり、がと」
よく見るとボクちんの足元に小石があった。
考え事に没頭しすぎて、足元が疎かになっていたみたい。
転びそうになったことよりも、こうして抱き留められたことの方が遥かにドキドキしていた。
背中から溶けてしまいそうで、思わず身じろいでしまう。
別にこうされてたことが嫌なわけじゃなくて、むしろ嬉しかったけどあまりにも恥ずかしい。
「っ、あ、ごめんなのサ」
マルクはそっとボクちんの身体を離した。
嫌だと思われちゃったのかな、そんなんじゃないのに。
掴んでいた腕を離したかと思うと、今度はボクちんの手を取った。
「ふ、ぇ?」
「……キミ危なっかしいから、こうしておけば転ばないだろ?」
「う、うん……ありがとう……」
ぶっきらぼうに言い捨ててるけど、ボクちんの心配してくれたんだ……。
それにしても手汗とかが心配、変な汗が出てきちゃいそう。
でもマルクの手は大きくて温かくて、離したくなかった。
それからまたいくつか乗り物に乗ったけれども、移動するたびにボクちん達は手を繋いだ。
当たり前のように差し出されたその手を、ボクちんは上部だけ当たり前のように取って。
内心は全ッ然当たり前じゃなかったけどね!
流石に少しは慣れたのか最初よりは落ち着いていられたけど、それでも緊張しちゃう。
繋がった手からドキドキが伝わってしまいそうで恥ずかしくて仕方ないのに、それでもやっぱり離したくない。
ずっとずっと手を繋いでいたい。
恋心は複雑って言うけれど、本当なんだね。
そんなことを思いながら過ごすうちに、少しずつ日が傾き始めていた。
小さい子を連れた人たちは「そろそろ帰ろうか」なんて話している。
ボクちんたちもそろそろ帰るのかな。
……ちょっと寂しいなぁ。
「もうこんな時間なのサ?」
「早いね~」
「じゃ、最後にアレでも乗るか」
マルクが見上げた先を見ると、そこにあったのは観覧車だった。
大きくて目立つそれを、ボクちんはあえて避け続けていた。
思わずドキンと心臓が跳ねる。
「う、うん!」
最後に観覧車は定番だし、断るのも不自然だし、彼に手を引かれるままついて行き観覧車に乗り込む。
地との距離が離れていくにつれて、空との距離が縮まっていく。
密室に二人っきりっていうシチュエーションに緊張せずにはいられなかったけど、そこはなんとか誤魔化すしかないだろう。
「見て!夕陽綺麗だよ!」
「ん、そだね」
せっかく普通っぽく話しかけたのに、答えるマルクはどこかぼんやりしていた。
流石に今日一日歩き回ってはしゃぎ回ったから疲れてるのかな。
「ねぇマルク、今日は本当にありがと!
すっごく楽しかったよ!」
ボクちんのためにお休みまで取ってくれたんだ。
結局デートなのかデートじゃなかったのかは考え始めると頭が沸騰しちゃいそうになるから置いておいて、それだけでも本当に嬉しかった。
「なら良かったのサ」
「マルクは楽しかった?」
「もちろん!」
そう言ってくれてよかった!
ボクちんだけが楽しんでいたとしたら申し訳ないもんね。
「あとこれ、やるよ」
どこから取り出したのか、突然差し出されたのは手のひらサイズの小さなプレゼントボックスだった。
赤と青のリボンが綺麗。
「この前のお返し。
……アレ美味しかったのサ、ありがとう」
なるほど、これがホワイトデーのお返しか。
やっぱり本気にはしてもらえなかったんだなーと思うと少し胸が痛んだけど、同時にちょっとだけ安心していた。
だって、これならこの先気まずくなることもなさそうでしょ?
また兄妹みたいでいられる、それだけでも十分嬉しかった。
お礼を言って受け取ったはいいけど、中身の見当が付かなかった。
この大きさじゃお菓子、とかじゃなさそうだし。
今すぐ開けたくなって、うずうずしちゃう。
「開けてもいい?」
「いいけど……」
はやる気持ちを抑えながら、綺麗な緑の包装紙を破らないように丁寧に開けていく。
箱を開けてみると、そこには小さなペンダントが入っていた。
トップが可愛い花の形をしていて、真ん中には綺麗な緑色の石が埋め込まれている。
「すっごい綺麗!ありがとう!」
そう言えばマルクからこういったものを貰うのは初めてな気がする。
取り出して翳してみれば、石が橙色の陽光を反射してすっごく綺麗。
「えへへ~早速付けてみようかな?」
「じゃあ付けようか?」
「うん!お願い!」
自分でつけるのはちょっと苦手だから、お言葉に甘えてペンダントをマルクに渡して背を向けた。
観覧車は、ちょうど後少しでてっぺんに着くくらいだ。
夕陽がすごく綺麗で、思わず見とれてしまう。
チェーンが首に触れて、ちょっぴりくすぐったかった。
「はぅっ……」
うなじに触られると、なんだか電撃のようなものが流れた。
変な声が出ちゃってちょっと恥ずかしい。
マルクも驚いたのか、ピタッと固まってしまった。
「あ、ごめんね!大丈夫だよ!」
慌ててそう言ったけど、彼は全く動かない。
「……ッで、キミは……ッ!」
低く呻くようなその声に「え?」と聞き返そうとすると、突然後ろから抱き締められた。
本当に心臓が止まるかと思った。
ドッドッドッと心臓がマラソンを走り終えた直後並み、ううん、それ以上に激しく動いている。
「マ、マルク?あの、どした、の?」
「……グリル、ボクのこと好き?」
「えっ?
えええぇっぇえっ!?」
まさかここで聞かれるとは思わなくて、思わず叫んでしまった。
ゴンドラの中いっぱいにボクちんの声が反響する。
耳がキーンってしたけど生憎今はそんなことに構っている暇も余裕ない。
「な、なんで今そういうこと聞くの!?」
「良いから答えろっ!」
いきなりすぎてわけがわからない。
マルクの表情はわからないけど、窓に映るボクちんの顔は本当に真っ赤だった。
「」顔から火が出そう」ってまさにこの状況を指すのだろう。
でもこんなふうに追い詰められてしまったのならば。
もうここは、腹を括るしかない!
「……好きだよっ!」
半ばやけくそみたいに叫んだ。
叫んでスッキリしたかと言うとそうでもなく、更に恥ずかしさが襲ってきただけだ。
死んじゃいそうなんだけど大丈夫なのだろうか、ボクちん。
マルクは何も言わない。
だから余計に居た堪れないんだけど早く何でもいいから言ってくれない?
何も言わない代わりに何故か、半ば強制的にマルクの方に向かされた。
これなんてイジメ?
ああ、今すぐここから逃げ出したい。
もしここから飛び降りても飛ぶかクッション作るかすれば死なないよね?
そんな良からぬことを悶々と考えていると、マルクがボクちんの顔を軽く持ち上げた。
もちろん彼の顔を見られるはずもなく、頑なに目を逸らしてしまう。
「こっち向いて」
「やだ、恥ずかしい!」
「……じゃあ目閉じて」
「え?え?」
「いいから」
訳も分からず、促されるままに目をつぶった。
観覧車、夕陽、目を閉じる――まるでこの前友達から借りた漫画みたいだ。
現実味が無い、夢みたいにふわふわ話だった覚えがある。
たしかあのお話の結末は……と考えていると、唇に何かが触れた。
思わず目を開けてしまう。
目の前にいたのは、マルクだった。
あんまり驚いたから、瞬きすらできなかった。
そのまま彼はゆっくりと離れ――目を開いた彼は、ボクちんが目を開けてるのに酷く驚いたようだった。
「閉じろって言ったろ?」
「……ちょ、待って、状況がわからないんだけど」
「わかれよ、バカ」
恋愛経験なんてないボクちんだって、流石にここまでされたらわかる。
もうそこまで子どもじゃない、と思いたい。
でももしボクちんが一人で盛り上がってるだけだとしたら?
マルクがボクちんをからかっているだけだとしたら?
いつものようなイタズラで、さっきの行為には特別な意味なんて無いのだとしたら?
「ボ、ボクちん子どもだから、ちゃんと言ってくれなきゃわかんない……っ!」
それが怖くて、キミの口から確かな言葉が欲しかった。
ボクちんと同じ気持ちなんだって、言ってほしかった。
子どもってのを盾に使うのはズルいよね、わかってる。
それでもボクちんは他でもないキミの口から、証が欲しかったんだ。
マルクは一瞬目を泳がせたのち、真っ直ぐにボクちんを見つめた。
まるで射抜かれるような、そんな感覚に陥る。
「……ボクもキミが好き、だからボクの彼女になって」
彼の言葉がすとんと心に堕ちていくのを感じた。
その表情は今までで見た中で一番真剣で、真っ直ぐで。
魔法にかかったみたいに目を逸らせないのに、その二色の瞳はゆらゆらと滲んでいく。
「な、泣くなよ!」
そう言われてからボクちんは泣いているんだと気づいた。
嬉し泣きって本当にあるんだね。
途端に恥ずかしくなって、とりあえず落ち着かせようとちゃんと座った。
彼も隣に座ってきて、ゴンドラがガタンと揺れる。
「なになに?泣くほど嬉しかったのサ?」
「だ、だって、信じらんないもん……。
ホ、ホントに好き?ボクちんでいいの?」
「好きじゃなかったらこんなことしないのサ」
あやすようにボクちんの頭を撫でるその手がいつもより優しくて、もっと涙が溢れてしまいそうになる。
マルクは割と本気で焦っているようだった。
ボクちんも泣き止みたいのは山々なんだけど、涙腺が完全に壊れちゃってる。
どうしたら止まるかなんて自分でもわかんないよ。
「あーもう、じゃあどうしたら泣き止むのサ?」
「ひっく……じゃ、じゃあ、もう一回キスして?」
自分でも大胆だなーとは思ったけど。
じっと見上げながらそう言えば、マルクも予想外だったのか恥ずかしそうに頬を染めていた。
それがちょっと嬉しい。
恥ずかしいのはボクちんだけじゃないんだなぁって。
「……ガキ」
そっと顔を寄せられ、もう一度重なる唇。
全身が熱くて心臓なんて破裂しちゃいそうで。
でもさっきまでとは全然違う。
ああ、これが幸せなんだなぁって漠然と考えていた。
繋がる想い
あのとき頑張って、本当に良かった!
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