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「ランプキン、絵のモデルになってくれないかしら?」
「また突然ですね……まぁ、いいですが……」
ドロシアに問われた彼は曖昧に頷いた。
時折、絵のモデルを頼まれることがあった。
普段は快く受けていたが――この日は何故か嫌な予感がしていた。
断らなくてはならない、そんな気がしたが、頼まれたことを無下に断るのも忍びない。
だから気のせいだと思いながらも承諾したが……。
「じゃあ脱いでくれる?」
「えっ」
「だから脱いで」
「何故、ですか?何を描くのですか?」
「ヌード」
許可したことを心の底から後悔した。
まさか本当にその予感が当たるとは思わなかった――否、思いたくなかった。
答えに窮し、思わず眼を逸らしてしまう。
「恥ずかしがることはないわ。
全裸が嫌なら靴下とリボンタイならつけていても良いわよ」
「そっちの方がよっぽど恥ずかしいのですがそれは」
「何か勘違いしてるようだけど、あくまでもこれは芸術よ?
後で描いた絵を見ながらいろいろCPを妄想したり仲間と盛り上がったり同人誌描くようなことは決してしないから大丈夫よ」
「台詞の大部分が大丈夫じゃない要素で占められている気がするのですが」
「良いから早く脱ぎなさい話はそれからよ!」
ドロシアがランプキンを押し倒そうとした。
一見色っぽいシーンを想像するかもしれないが、生憎色気は無かった。
彼女は本気で剥こうとしていた……下手な魔獣が裸足で逃げ出すほどに目が本気である。
彼が女性相手に手荒な真似をできないのをわかっていてやっているのだろう。
しかしこのままではいろんな意味で危ない。
ドロシアには悪いが少し強引に……と思い始めていた時だ。
「ちょっと待ったああああああ!!」
ウィズが扉を突き破ってきた。
その黄色い瞳には珍しく怒りの感情が浮かんでいる。
「なーにしてるんデスか?ん?」
「あらやだ、わたくしは純粋な気持ちでランプキンのヌードを描きたいだけなのに」
「アートと言えばなんでも許されると思ったら大間違いデスからね!
本人の意志も無視して!」
思わぬ救世主の登場だった。
ランプキンはホッと胸を撫で下ろす。
ウィズはドロシアにビシッと指を突きつけた。
「それに描くならミーとセットでしょ常識的に考えて!」
前言撤回、更なる脅威にしかならない。
そう認識したランプキンの表情がフッと消える。
次の瞬間、ウィズに大量のカボチャが降り注いだ。
「誰得ですか……」
そう言い捨てて部屋を出る。
大きく溜め息をついた後、夕飯の支度に取りかかるためにキッチンへ向かったのであった。
***
「……はぁ」
ランプキンは食卓を見て溜め息をついた。
本来、彼は自分の分の食事だけ用意すれば済むはずだ。
同居しているウィズもドロシアも食事を必要としない身体のため、彼は好きな時間に食事できるはずだった。
「ラン、ご飯まだ~?」
「待ちくたびれたわ」
しかし二人は当然の如く食卓につき、あまつさえフォークとスプーンを既に握っていた。
二人は食事が必要ないだけであって、できないわけではないのである。
時折……それどころか頻繁に料理をねだっていた。
「今日の夕飯なんなのサ?」
「ランプキンの料理だったら失敗作デモ喜んで食べるヨォ!」
「……でしたら三角コーナーのニンジンの皮でも食べててください」
ランプキンは冷たい声で言い捨てる。
なんとマルク、マホロア、グリルまで食卓についていた。
彼自身も含めると合計六人、普段の六倍である。
いくら料理が得意&好きということがあっても、限度というものがある。
「ボクちんもランプキンの料理久々に食べたいなぁ……駄目?」
「あざといグリル超あざとグフッ」
グリルは上目遣いでランプキンをじっと見つめた。
マルクの頭上に堅そうなブロックが落ちていったのは見なかったことにしておこう。
ランプキンは一瞬言葉に詰まり、根負けしたように小さく溜め息をついた。
「……まったく、仕方がありませんね。
もう少し待っていなさい」
「やったぁ!
あ、じゃあボクちんもお手伝いしていいかな?」
「もちろんですよ、ありがとうございます」
「女子力アピール……!
じゃあわたくしも手伝いを」
「いやいやドロシアは是非ここで待機を!
そうデスね、テーブルを拭いておいたらランも喜びマスよ!」
「はいそりゃあもう!
是非、ドロシアにお願いしたいです!
貴女の力でテーブルを塵一つない綺麗な姿に!」
「そ、そうかしら?
そんなに推されるならわたくしがやるしかないわね!」
ドロシアはノリノリで布巾を濡らしに行った。
それを見送りながら残された5人は大きく溜め息をついた。
「危なかったのサ……」
「だね……」
「台所がDie所になるところでした……」
「ダレが上手いコト言えと……」
ドロシアをキッチンに立たせるか否で、食事必要組の安否に関わるのだから必死である。
「ドロシアを台所に立たせてはならない」という暗黙のルールができていた。
***
「御馳走様でした」
「御粗末さまでした」
意外にも夕飯時は平和だったりする。
あまりにおいたが過ぎるとナイフが飛んでくるとか来ないとか。
おかわりを巡って一悶着あったものの、その程度ならご愛敬。
美味しそうに喜んで食べてもらえるのは、やはり作った彼も嬉しいらしい。
しかし本当の闘いは、夕飯が終わってから始まる。
ランプキンが最後の鍋を洗い終わったその瞬間、戦いの火蓋が切られた。
先手必勝――そう判断したマルクはW○iリモコンを握り、ランプキンに突き出した。
「ランプキン!ス○ブラやるのサ!」
「貴方強いから嫌です!」
即答である。
じゃあマリカでも!と言おうとしたが、間髪入れずにマホロアが後ろからランプキンに抱き付いてしまった。
「ランプキンはボクとローアで旅するんだよネェ!」
「……それって今夜中に帰ってこれるますか?」
「帰すハズないダロォ?」
「マホランって誰得でもないわよ」
「おい、ランに手出ししたらタダじゃおきマセンからね」
「ウィズやめて!真顔怖い!」
「ランプキン関わるとウィズ怖いのサ……」
……非常に騒がしい。
とりあえず何だかんだでスマ○ラをやることになった。
四人までしかできないため、順番だ。
「うわあああ吹っ飛んだああ!!」
「……しんでしまうとは なさけない」
「ドロシア、それ別ゲーですから」
「ヒィィグリルこっち来ないでェェェ!!」
「おいグリル!なんだよその動き!
ボクの知ってるピ○チュウじゃない!」
「これくらい普通だよ?」
……結局騒がしい。
チートかTAS並みの動きをするグリルには誰も勝てなかったという。
お風呂のときも勿論一悶着あった。
流石に女性組は参戦しなかったものの、男三人が誰がランプキンと一緒に入るかで揉めに揉めた。
そもそも何故一緒に入るということが前提になっているのか。
本人がさっさと入ってきてしまったため案外すぐに収まったが……。
しかし彼らには最後の闘いが残っていた。
……誰が彼と添い寝できるかの闘いだ。
これまた誰かが添い寝することが前提になっている。
「ボクが子守唄歌ってアゲルヨォ!」
「寝顔をスケッチしたいわ!」
「キミの寝顔を見守りたいのサ」
「ミーと熱い夜を!」
皆思い思いの主張をする。
もうそろそろお前ら永遠の眠りにつかせてやろうかとランプキンが良からぬことを思い始めたころ、ふとパジャマの裾を軽く引っ張られた感覚がした。
見てみると、グリルが彼のパジャマの裾を小さく掴んでいた。
「あ、あの、ね?
ボクちん、怖い夢見ちゃったの……。
だから、今夜一緒に寝てくれないかな……?」
潤んだ瞳で見上げる彼女に、ランプキンは一瞬たじろいだ。
一人だけ違った方向からねだられて、動揺してしまう。
グリルは「ダメ……?」と小さく小首を傾げた。
「あざといヨォ!あざとグリル!」
「ボクですらそんなこと言われたことないのに!
じゃあボクも一緒に寝たい!真ん中で!」
「やだ!
それじゃあボクちんがランプキンの隣じゃない!ボクが真ん中!」
「……ソレ、ランプキンが真ん中に行けばイイんじゃ?」
「そしたらマルクが隣じゃないもん!」
「そしたらグリルが隣じゃないのサ!」
見事にハモッた後、二人は顔を見合わせて真っ赤になった。
さらにプイッとそっぽを向く。
「もう貴方たち二人が一緒に寝ればいいのでは……」とランプキンは溜め息をついた。
「じゃあボクはランプキンの掛け布団になるヨォ!」
「じゃあわたくしは膝枕を」
「そしてミーは敷布団になりマスね!」
「物凄い悪夢を見そうというかもうこの状況が悪夢というか……。
とりあえずドロシア、貴女はもう少し恥じらいを持ちましょう。
マホロア、貴方は私を圧死させたいのですか?
ウィズは……うん、論外」
「酷ッ!?」
最早自業自得の域である。
それでも尚皆自分といや自分がと彼を取り合っている。
「……いい加減にしなさい!」
遂に彼の堪忍袋の緒が切れた。
彼の手から閃光が炸裂したかと思うと、5人は床に倒れ伏した。
「zzz……」
「ムニャ……」
彼らは微かな寝息を立てながら眠っていた。
彼らをそれぞれの部屋に転送し、やっとランプキンは自分の部屋に戻ることができた。
***
「……はぁ」
ようやく訪れた静寂に、ランプキンは大きく溜め息をついた。
今日1日だけで何度溜め息をついたことか、最早数えることができない。
身体は既に疲れ切っていて、目蓋が今にも落ちてしまいそうだった。
ベッドに浅く腰かけて、目を瞑ってまだ少し湿った髪を掻き上げる。
「……大分お疲れのようデスね?」
「ええ、疲れましたよ……本当に」
まったくなんであの人たちは……と言いかけて、彼ははたと違和感を覚えた。
今いるはずの無い者の声がしたのである。
嫌な予感がして目を開けてみると、ウィズが当然のごとく彼の前に立っていた。
しかも満面の笑みで、である。
「……なんで貴方、そこにいるんですか」
「へへ、ミーをナメちゃ駄目デスよ?」
大方、催眠術を相殺したのであろう。
付き合いが長いからこそ、予備動作も予測可能なのだろう。
おまけに勝手に部屋に侵入してきているが、今更何も言う気もにもならなかった。
文句も注意もだいたい無駄だということもわかりきっている。
ウィズはサイドテーブルのランプ以外の照明を落として、これまた当然のように彼の隣に腰掛けた。
「ヘヘ、ランはモテモテデスね!」
「……あまり嬉しくないのですが。
まぁ、仲が悪いよりかはいいのでしょうね……」
「ちょっとジェラシー感じちゃいマスけどね。
だからミーはこういう時間が好き」
そう言いながらランプキンの肩に甘えるようにもたれかかる。
寄り掛かられた彼は一瞬だけ眉を顰めたが、苦笑したのちに彼の髪を撫で始めた。
心地良いのかうっとりと目を細めるウィズの顔を覗き込むと、不意にどこか意地の悪い笑みを浮かべた。
「こうしている間、もしかして他の人のことを考えてるとは思わないのですか?」
その笑みとは裏腹に甘く優しく囁くけば、ウィズの表情が切なそうに歪められた。
ギュッと唇を噛み締めて視線を逸らす。
「……ランの意地悪……不安だから考えないようにしてるのに」
「おや、信用ありませんねぇ」
残念なことです、と笑う姿はとてもではないが残念に思っているようには見えない。
実際、ウィズも彼のことを信じていないというわけではないのである。
「ランがその気じゃなくても、周りが心配なのデス」
「そうですか?」
「そりゃあもう。
ドロシアは虎視眈々と狙ってるし」
「それはあくまでも絵のモデルですよ……私はちょっと遠慮したいのですが」
「マホロアだって思いっきりランのこと狙ってる!」
「あれもおふざけですよ……おふざけだといいな」
「グリルのことはランも扱いに困ってた!」
「下手に泣かせるのもマルクが怖いですし。
そもそも私はロリコンではありませんよ」
「でもでもだって……!」
いつまでも不平不満を言い続ける煩いその口を、ランプキンは自らの唇で塞いだ。
一瞬喚いたのち大人しくなったところで、ゆっくりと離れる。
「……仮に他の人に好意を寄せられても、こんなことする相手は一人で十分ですよ」
ため息交じりのその言葉に、ウィズの瞳が小さく揺れる。
頬を染めるとそれを隠すかのようにランプキンの胸に顔を埋めた。
「ラン、大好き」
「はいはい」
ウィズがそっと顔を上げた。
二つの視線がかち合うと、どちらからともなく再び唇を重ねた。
ウィズはおずおずと、しかし積極的に舌を入れる。
いつもよりは幾分積極的だが、これくらいはランプキンの予想の範疇だ。
絡めとり、むしろ彼の方から深くまで入り込む。
「……ッ、ん」
十分に堪能したのち、そっと離れればウィズの表情は既に蕩けていて。
熱に浮かされた黄色い瞳を、わずかに熱を帯びた橙の瞳が見つめた。
「……これで満足しましたか?」
ウィズはその問いには答えず、彼の身体を強引に押し倒した。
腕を掴み、ベッドに押し付け、逃げられないようにしてしまう。
彼の意外な行動に、ランプキンは一瞬だけ不満そうに眉根を寄せた。
「足りマセン……こんなんじゃ……不安にさせた責任、ちゃんと取って……」
少し掠れた声でそう囁くと、掴んだ手に力を込めた。
ランプキンは彼を押し退けようとするが、彼も退かない。
「疲れているのですが……」
「ランが悪いんデスよ?」
「それはそれは、すみませんねぇ……」
全く悪びれもしない様子にウィズの眉間に皺が寄る。
その一瞬の隙を逃さず、ランプキンはウィズを突き飛ばした。
ふぇ?と仰向けに転がった彼を、そのまま少し乱暴に組み敷く。
そして驚きを隠せない彼を見下ろしながら、色気たっぷりの笑みを浮かべた。
「満足させるならばこっちじゃないと、ね」
Satisfaction
(「せいぜい私のことも満足させてくださいよ」
「が、頑張りマス……」)
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「また突然ですね……まぁ、いいですが……」
ドロシアに問われた彼は曖昧に頷いた。
時折、絵のモデルを頼まれることがあった。
普段は快く受けていたが――この日は何故か嫌な予感がしていた。
断らなくてはならない、そんな気がしたが、頼まれたことを無下に断るのも忍びない。
だから気のせいだと思いながらも承諾したが……。
「じゃあ脱いでくれる?」
「えっ」
「だから脱いで」
「何故、ですか?何を描くのですか?」
「ヌード」
許可したことを心の底から後悔した。
まさか本当にその予感が当たるとは思わなかった――否、思いたくなかった。
答えに窮し、思わず眼を逸らしてしまう。
「恥ずかしがることはないわ。
全裸が嫌なら靴下とリボンタイならつけていても良いわよ」
「そっちの方がよっぽど恥ずかしいのですがそれは」
「何か勘違いしてるようだけど、あくまでもこれは芸術よ?
後で描いた絵を見ながらいろいろCPを妄想したり仲間と盛り上がったり同人誌描くようなことは決してしないから大丈夫よ」
「台詞の大部分が大丈夫じゃない要素で占められている気がするのですが」
「良いから早く脱ぎなさい話はそれからよ!」
ドロシアがランプキンを押し倒そうとした。
一見色っぽいシーンを想像するかもしれないが、生憎色気は無かった。
彼女は本気で剥こうとしていた……下手な魔獣が裸足で逃げ出すほどに目が本気である。
彼が女性相手に手荒な真似をできないのをわかっていてやっているのだろう。
しかしこのままではいろんな意味で危ない。
ドロシアには悪いが少し強引に……と思い始めていた時だ。
「ちょっと待ったああああああ!!」
ウィズが扉を突き破ってきた。
その黄色い瞳には珍しく怒りの感情が浮かんでいる。
「なーにしてるんデスか?ん?」
「あらやだ、わたくしは純粋な気持ちでランプキンのヌードを描きたいだけなのに」
「アートと言えばなんでも許されると思ったら大間違いデスからね!
本人の意志も無視して!」
思わぬ救世主の登場だった。
ランプキンはホッと胸を撫で下ろす。
ウィズはドロシアにビシッと指を突きつけた。
「それに描くならミーとセットでしょ常識的に考えて!」
前言撤回、更なる脅威にしかならない。
そう認識したランプキンの表情がフッと消える。
次の瞬間、ウィズに大量のカボチャが降り注いだ。
「誰得ですか……」
そう言い捨てて部屋を出る。
大きく溜め息をついた後、夕飯の支度に取りかかるためにキッチンへ向かったのであった。
***
「……はぁ」
ランプキンは食卓を見て溜め息をついた。
本来、彼は自分の分の食事だけ用意すれば済むはずだ。
同居しているウィズもドロシアも食事を必要としない身体のため、彼は好きな時間に食事できるはずだった。
「ラン、ご飯まだ~?」
「待ちくたびれたわ」
しかし二人は当然の如く食卓につき、あまつさえフォークとスプーンを既に握っていた。
二人は食事が必要ないだけであって、できないわけではないのである。
時折……それどころか頻繁に料理をねだっていた。
「今日の夕飯なんなのサ?」
「ランプキンの料理だったら失敗作デモ喜んで食べるヨォ!」
「……でしたら三角コーナーのニンジンの皮でも食べててください」
ランプキンは冷たい声で言い捨てる。
なんとマルク、マホロア、グリルまで食卓についていた。
彼自身も含めると合計六人、普段の六倍である。
いくら料理が得意&好きということがあっても、限度というものがある。
「ボクちんもランプキンの料理久々に食べたいなぁ……駄目?」
「あざといグリル超あざとグフッ」
グリルは上目遣いでランプキンをじっと見つめた。
マルクの頭上に堅そうなブロックが落ちていったのは見なかったことにしておこう。
ランプキンは一瞬言葉に詰まり、根負けしたように小さく溜め息をついた。
「……まったく、仕方がありませんね。
もう少し待っていなさい」
「やったぁ!
あ、じゃあボクちんもお手伝いしていいかな?」
「もちろんですよ、ありがとうございます」
「女子力アピール……!
じゃあわたくしも手伝いを」
「いやいやドロシアは是非ここで待機を!
そうデスね、テーブルを拭いておいたらランも喜びマスよ!」
「はいそりゃあもう!
是非、ドロシアにお願いしたいです!
貴女の力でテーブルを塵一つない綺麗な姿に!」
「そ、そうかしら?
そんなに推されるならわたくしがやるしかないわね!」
ドロシアはノリノリで布巾を濡らしに行った。
それを見送りながら残された5人は大きく溜め息をついた。
「危なかったのサ……」
「だね……」
「台所がDie所になるところでした……」
「ダレが上手いコト言えと……」
ドロシアをキッチンに立たせるか否で、食事必要組の安否に関わるのだから必死である。
「ドロシアを台所に立たせてはならない」という暗黙のルールができていた。
***
「御馳走様でした」
「御粗末さまでした」
意外にも夕飯時は平和だったりする。
あまりにおいたが過ぎるとナイフが飛んでくるとか来ないとか。
おかわりを巡って一悶着あったものの、その程度ならご愛敬。
美味しそうに喜んで食べてもらえるのは、やはり作った彼も嬉しいらしい。
しかし本当の闘いは、夕飯が終わってから始まる。
ランプキンが最後の鍋を洗い終わったその瞬間、戦いの火蓋が切られた。
先手必勝――そう判断したマルクはW○iリモコンを握り、ランプキンに突き出した。
「ランプキン!ス○ブラやるのサ!」
「貴方強いから嫌です!」
即答である。
じゃあマリカでも!と言おうとしたが、間髪入れずにマホロアが後ろからランプキンに抱き付いてしまった。
「ランプキンはボクとローアで旅するんだよネェ!」
「……それって今夜中に帰ってこれるますか?」
「帰すハズないダロォ?」
「マホランって誰得でもないわよ」
「おい、ランに手出ししたらタダじゃおきマセンからね」
「ウィズやめて!真顔怖い!」
「ランプキン関わるとウィズ怖いのサ……」
……非常に騒がしい。
とりあえず何だかんだでスマ○ラをやることになった。
四人までしかできないため、順番だ。
「うわあああ吹っ飛んだああ!!」
「……しんでしまうとは なさけない」
「ドロシア、それ別ゲーですから」
「ヒィィグリルこっち来ないでェェェ!!」
「おいグリル!なんだよその動き!
ボクの知ってるピ○チュウじゃない!」
「これくらい普通だよ?」
……結局騒がしい。
チートかTAS並みの動きをするグリルには誰も勝てなかったという。
お風呂のときも勿論一悶着あった。
流石に女性組は参戦しなかったものの、男三人が誰がランプキンと一緒に入るかで揉めに揉めた。
そもそも何故一緒に入るということが前提になっているのか。
本人がさっさと入ってきてしまったため案外すぐに収まったが……。
しかし彼らには最後の闘いが残っていた。
……誰が彼と添い寝できるかの闘いだ。
これまた誰かが添い寝することが前提になっている。
「ボクが子守唄歌ってアゲルヨォ!」
「寝顔をスケッチしたいわ!」
「キミの寝顔を見守りたいのサ」
「ミーと熱い夜を!」
皆思い思いの主張をする。
もうそろそろお前ら永遠の眠りにつかせてやろうかとランプキンが良からぬことを思い始めたころ、ふとパジャマの裾を軽く引っ張られた感覚がした。
見てみると、グリルが彼のパジャマの裾を小さく掴んでいた。
「あ、あの、ね?
ボクちん、怖い夢見ちゃったの……。
だから、今夜一緒に寝てくれないかな……?」
潤んだ瞳で見上げる彼女に、ランプキンは一瞬たじろいだ。
一人だけ違った方向からねだられて、動揺してしまう。
グリルは「ダメ……?」と小さく小首を傾げた。
「あざといヨォ!あざとグリル!」
「ボクですらそんなこと言われたことないのに!
じゃあボクも一緒に寝たい!真ん中で!」
「やだ!
それじゃあボクちんがランプキンの隣じゃない!ボクが真ん中!」
「……ソレ、ランプキンが真ん中に行けばイイんじゃ?」
「そしたらマルクが隣じゃないもん!」
「そしたらグリルが隣じゃないのサ!」
見事にハモッた後、二人は顔を見合わせて真っ赤になった。
さらにプイッとそっぽを向く。
「もう貴方たち二人が一緒に寝ればいいのでは……」とランプキンは溜め息をついた。
「じゃあボクはランプキンの掛け布団になるヨォ!」
「じゃあわたくしは膝枕を」
「そしてミーは敷布団になりマスね!」
「物凄い悪夢を見そうというかもうこの状況が悪夢というか……。
とりあえずドロシア、貴女はもう少し恥じらいを持ちましょう。
マホロア、貴方は私を圧死させたいのですか?
ウィズは……うん、論外」
「酷ッ!?」
最早自業自得の域である。
それでも尚皆自分といや自分がと彼を取り合っている。
「……いい加減にしなさい!」
遂に彼の堪忍袋の緒が切れた。
彼の手から閃光が炸裂したかと思うと、5人は床に倒れ伏した。
「zzz……」
「ムニャ……」
彼らは微かな寝息を立てながら眠っていた。
彼らをそれぞれの部屋に転送し、やっとランプキンは自分の部屋に戻ることができた。
***
「……はぁ」
ようやく訪れた静寂に、ランプキンは大きく溜め息をついた。
今日1日だけで何度溜め息をついたことか、最早数えることができない。
身体は既に疲れ切っていて、目蓋が今にも落ちてしまいそうだった。
ベッドに浅く腰かけて、目を瞑ってまだ少し湿った髪を掻き上げる。
「……大分お疲れのようデスね?」
「ええ、疲れましたよ……本当に」
まったくなんであの人たちは……と言いかけて、彼ははたと違和感を覚えた。
今いるはずの無い者の声がしたのである。
嫌な予感がして目を開けてみると、ウィズが当然のごとく彼の前に立っていた。
しかも満面の笑みで、である。
「……なんで貴方、そこにいるんですか」
「へへ、ミーをナメちゃ駄目デスよ?」
大方、催眠術を相殺したのであろう。
付き合いが長いからこそ、予備動作も予測可能なのだろう。
おまけに勝手に部屋に侵入してきているが、今更何も言う気もにもならなかった。
文句も注意もだいたい無駄だということもわかりきっている。
ウィズはサイドテーブルのランプ以外の照明を落として、これまた当然のように彼の隣に腰掛けた。
「ヘヘ、ランはモテモテデスね!」
「……あまり嬉しくないのですが。
まぁ、仲が悪いよりかはいいのでしょうね……」
「ちょっとジェラシー感じちゃいマスけどね。
だからミーはこういう時間が好き」
そう言いながらランプキンの肩に甘えるようにもたれかかる。
寄り掛かられた彼は一瞬だけ眉を顰めたが、苦笑したのちに彼の髪を撫で始めた。
心地良いのかうっとりと目を細めるウィズの顔を覗き込むと、不意にどこか意地の悪い笑みを浮かべた。
「こうしている間、もしかして他の人のことを考えてるとは思わないのですか?」
その笑みとは裏腹に甘く優しく囁くけば、ウィズの表情が切なそうに歪められた。
ギュッと唇を噛み締めて視線を逸らす。
「……ランの意地悪……不安だから考えないようにしてるのに」
「おや、信用ありませんねぇ」
残念なことです、と笑う姿はとてもではないが残念に思っているようには見えない。
実際、ウィズも彼のことを信じていないというわけではないのである。
「ランがその気じゃなくても、周りが心配なのデス」
「そうですか?」
「そりゃあもう。
ドロシアは虎視眈々と狙ってるし」
「それはあくまでも絵のモデルですよ……私はちょっと遠慮したいのですが」
「マホロアだって思いっきりランのこと狙ってる!」
「あれもおふざけですよ……おふざけだといいな」
「グリルのことはランも扱いに困ってた!」
「下手に泣かせるのもマルクが怖いですし。
そもそも私はロリコンではありませんよ」
「でもでもだって……!」
いつまでも不平不満を言い続ける煩いその口を、ランプキンは自らの唇で塞いだ。
一瞬喚いたのち大人しくなったところで、ゆっくりと離れる。
「……仮に他の人に好意を寄せられても、こんなことする相手は一人で十分ですよ」
ため息交じりのその言葉に、ウィズの瞳が小さく揺れる。
頬を染めるとそれを隠すかのようにランプキンの胸に顔を埋めた。
「ラン、大好き」
「はいはい」
ウィズがそっと顔を上げた。
二つの視線がかち合うと、どちらからともなく再び唇を重ねた。
ウィズはおずおずと、しかし積極的に舌を入れる。
いつもよりは幾分積極的だが、これくらいはランプキンの予想の範疇だ。
絡めとり、むしろ彼の方から深くまで入り込む。
「……ッ、ん」
十分に堪能したのち、そっと離れればウィズの表情は既に蕩けていて。
熱に浮かされた黄色い瞳を、わずかに熱を帯びた橙の瞳が見つめた。
「……これで満足しましたか?」
ウィズはその問いには答えず、彼の身体を強引に押し倒した。
腕を掴み、ベッドに押し付け、逃げられないようにしてしまう。
彼の意外な行動に、ランプキンは一瞬だけ不満そうに眉根を寄せた。
「足りマセン……こんなんじゃ……不安にさせた責任、ちゃんと取って……」
少し掠れた声でそう囁くと、掴んだ手に力を込めた。
ランプキンは彼を押し退けようとするが、彼も退かない。
「疲れているのですが……」
「ランが悪いんデスよ?」
「それはそれは、すみませんねぇ……」
全く悪びれもしない様子にウィズの眉間に皺が寄る。
その一瞬の隙を逃さず、ランプキンはウィズを突き飛ばした。
ふぇ?と仰向けに転がった彼を、そのまま少し乱暴に組み敷く。
そして驚きを隠せない彼を見下ろしながら、色気たっぷりの笑みを浮かべた。
「満足させるならばこっちじゃないと、ね」
Satisfaction
(「せいぜい私のことも満足させてくださいよ」
「が、頑張りマス……」)
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