今夜くらいは
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12月24日は言わずもがなクリスマス・イヴだ。
人々が浮かれ、賑わい、とにかく騒がしい1日だ。
しかし王国騎士団にとっては普段と変わらない日だ。
いや、変わらないわけではない。
むしろ人々が安心して楽しく過ごすことができるように、彼らの警備はさらに強固なものになる。
「クリスマスと書いて『警備強化期間』と読む」という笑えないジョークが作られたくらいだ。
特に騎士団上層部の者――メタナイトやソード、ブレイドのように人の上に立つような者なら尚更だ。
しかしそれは毎年のことで今更のことだから、特に不満もない。
……いや、本当はほんの少しだけ残念に思っていたが、お互いあえて口には出さなかった。
二人とも仕事に対して責任とプライドを持っていたからだ。
ソードとブレイドがいつものそれよりも警戒しながら村をパトロールをしていると、ワドルドゥ隊長が彼らを呼びとめた。
どうやら、デデデ大王が彼らを呼んでいるらしい。
普段騎士団はメタナイトが取り仕切っているというのに、珍しいことだ。
そんな疑問を抱えながら二人は王座の間へ行った。
「御呼びでしょうか、陛下」
「お前達を呼んだのは他でもない。
お前達にチョコレートシティの警備を命ずるぞい!」
「チョコレートシティ、ですか……?」
チョコレートシティとは、ププビレッジの隣にある街だ。
プププランド……否、ポップスターいちの大都会で、常に多くの人で賑わっている。
「しかし、クリスマスにププビレッジを離れるのは……」
「クリスマスだからこそ、チョコシティをお前達に頼みたいぞい」
都会なだけあって、街が普段よりもさらに人が溢れることは容易に予想がつく。
そんなときにもし魔獣が現れたら、大変な騒ぎになるだろう。
パニックになった人々をまとめるのは相当な困難が伴う。
「そういう時にも冷静に動けるお前らに行ってほしいぞい」
「なるほど……かしこまりました」
理由も納得のいくものだから特に異存はない。
敬礼をして退出しようとしたが、デデデは彼らを引きとめた。
「ちょっと待つぞい、話はそれだけじゃないぞい」
「何でしょうか」
「警備に行くにあたっていくつか命令があるぞい。
まず、武装解除をしてワシが用意した服を着るぞい!」
その言葉に二人は「え?」と戸惑ったような表情を浮かべた。
彼の言っていることが理解できなかった。
普段警備をするときは、いかなる場合にも備えて重装備でいる。
武装解除をして警備をしろということはほとんどないだろう。
「それは……きちんとした警備になるのでしょうか?」
ソードの疑問も尤もだ。
ブレイドも同調するように頷く。
デデデは大げさに肩をすくめると「わかってないな」とでも言いたいかのように溜め息をついた。
「考えてみるぞい、せっかくのクリスマスなのにゴツイ鎧を着たやつが歩いていたら……ちょっとアレだろ?」
「……あっ、たしかにそうですね」
言われてみればそうだ。
人々がお洒落をして街を行き交う中で、鎧の二人組が歩く――雰囲気ぶち壊しにも程があるだろう。
それに一般人からしてみれば、剣は物騒なものだ。
大切な人といる時間に、そういう類のものは見たくないだろう。
「まぁ、短剣とか小型の銃なら持ち歩いても良いと思う。
明らかに武器持ってるとかはできれば避けてほしいぞい。
それと同様に明らかに『警備してます』というオーラは出さないことぞい」
「それも皆様の雰囲気を壊さないためですね」
警備をしているのを見て安心感を覚える人ももちろんいるだろうが、逆に警戒してしまう人がいるかもしれない。
ブレイドの言葉に、デデデはうんうんと頷いた。
「お前ら二人なら、あのリア充だらけの空気の中に入っても違和感ないだろ?」
男二人に行かせるのは流石に酷だと思うぞい……というデデデの言葉に、二人は苦笑しながら頷いた。
なるほど、そういった意味でもこの二人向けの任務である。
「難しいとは思うが、一般人に交じってさり気なくパトロールをするぞい」
「承知いたしました。
私達が守るべくは、皆様の身の安全だけではありませんからね……」
「皆様の充実した1日を守るべく、私達は尽力いたします」
二人は晴れやかにそう宣言した。
***
その日の夜、チョコレートシティ。
予想通りというか、予想以上に街は混み合っていた。
そのほとんどがカップル客だ。
時折独り身の人が、肩身狭そうに通り過ぎていくのが悲しい。
「寒……」
そう呟く声も、白い息となる。
12月も下旬となり、寒さはどんどん厳しくなっていた。
手袋をしているはずなのに、指先はジンジンと悴んでいく。
「……というか、陛下はなぜこの服をチョイスした……?」
「いや、俺は陛下に感謝の気持ちでいっぱいだ」
ブレイドはそう言うソードの顔を恨めしそうに睨みつける。
彼女は赤色の上品なワンピースドレスの上に、黒いケープを羽織っていた。
最初にデデデ大王からそれを渡された時は、頑なに受け取ろうとしなかった。
こんな女性らしいものを着られるか、こんなの似合うわけないと喚いていたのを二人がかりでなんとか説得したのだ。
しかし最大の決め手が、布が特殊加工されかなり安全性が高いと聞いたということのあたり、やはり彼女らしい。
理由はともあれ、その服装はひどく可愛らしかった。
しかも何故かフームが張りきってメイクやヘアアレンジを施してしまったから、普段の彼女とは思えないほどに可視的な女性らしさを備えた
彼女がそこにいた。
「でもそれ、似合ってるぞ」
ソードはそう言いながら、前触れもなくブレイドの手を握った。
彼女は不満そうに眉間に皺を寄せ、彼を見上げる。
しかしその頬は、少しだけ紅潮していた。
それは決してメイクのせいだけではないだろう。
「おい、任務中だぞ」
「今日は特別任務だろう?
手くらいは繋いでいた方が自然だと思う」
たしかに周りを見渡してみると、ほとんどのカップルは手を繋いでいた。
中には腕を組んだり、大胆にも腰に手を回しているカップルもいる。
何とも暑苦しいこと極まりないが、本人たちは自分たちの世界に浸っているのだろう。
「……そうだな」
素直に握り返すと、ソードは満足そうに笑った。
手袋越しにもかかわらず、お互いの体温を感じられる気がしていた。
***
その日の夜、チョコレートシティ。
予想通りというか、予想以上に街は混み合っていた。
そのほとんどがカップル客だ。
時折独り身の人が、肩身狭そうに通り過ぎていくのが悲しい。
「寒……」
そう呟く声も、白い息となる。
12月も下旬となり、寒さはどんどん厳しくなっていた。
手袋をしているはずなのに、指先はジンジンと悴んでいく。
「……というか、陛下はなぜこの服をチョイスした……?」
「いや、俺は陛下に感謝の気持ちでいっぱいだ」
ブレイドはそう言うソードの顔を恨めしそうに睨みつける。
彼女は赤色の上品なワンピースドレスの上に、黒いケープを羽織っていた。
最初にデデデ大王からそれを渡された時は、頑なに受け取ろうとしなかった。
こんな女性らしいものを着られるか、こんなの似合うわけないと喚いていたのを二人がかりでなんとか説得したのだ。
しかし最大の決め手が、布が特殊加工されかなり安全性が高いと聞いたということのあたり、やはり彼女らしい。
理由はともあれ、その服装はひどく可愛らしかった。
しかも何故かフームが張りきってメイクやヘアアレンジを施してしまったから、普段の彼女とは思えないほどに可視的な女性らしさを備えた
彼女がそこにいた。
「でもそれ、似合ってるぞ」
ソードはそう言いながら、前触れもなくブレイドの手を握った。
彼女は不満そうに眉間に皺を寄せ、彼を見上げる。
しかしその頬は、少しだけ紅潮していた。
それは決してメイクのせいだけではないだろう。
「おい、任務中だぞ」
「今日は特別任務だろう?
手くらいは繋いでいた方が自然だと思う」
たしかに周りを見渡してみると、ほとんどのカップルは手を繋いでいた。
中には腕を組んだり、大胆にも腰に手を回しているカップルもいる。
何とも暑苦しいこと極まりないが、本人たちは自分たちの世界に浸っているのだろう。
「……そうだな」
素直に握り返すと、ソードは満足そうに笑った。
手袋越しにもかかわらず、お互いの体温を感じられる気がしていた。
「なんかこうしてると、デートみたいだな」
「コラ、あくまでもこれは任務だぞ!
そんな浮かれた気持ちで良いと思ってるのか?」
「それはわかってる……でも、こんなに綺麗なんだぞ」
街はイルミネーションで輝いている。
数多の色彩の光が街を彩っていた。
そこはまるで夢のような世界で、思わず仕事だということを忘れてしまいそうになる。
「たとえ仕事でも、ブレイドとこうしていられて幸せなんだよ、俺は」
「そ、それはっ……俺だってそうだ、バカ」
きゅっと彼の手を握りながらそう言えば、ソードの表情が緩む。
「なんだよ……」とブレイドは唇を尖らせるが、彼は上機嫌に「なんでもない」と返すのみ。
「い、言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」
「んー?
周りから見たらきっと俺達、一般のカップル客なんだろうなって思ってさ」
「……まぁ、そう見せかせるのも仕事の一つだからな」
「だからもう少しくらいいちゃついても良いと思うんだが」
「お前の理論はおかしい」
軽口を叩きあいながら街を歩く。
周りの安全を確かめながら――それでも、多少気分が浮かれてしまうのを抑えることは難しかった。
見事な光の造形を見つけては、しばし立ち止まってしまうこともままあった。
しばらくそんな風に街を歩いていると、ふとソードが「あっ」と声を漏らした。
急いで時計を見て、それからすぐに安堵したような息を吐く。
「もうすぐ7時か」
「じゃあレストラン行かなきゃだな」
危ない危ない、と二人は苦笑した。
景色に気を取られ過ぎて、思わず時間が経つのを忘れてしまっていたらしい。
彼らはデデデ大王からの命令で、警備のために王国御用達のとあるレストランに立ち寄れと言われていた。
相当込み合うだろうから異常が無いか確認してほしいらしい。
その理屈はわかる。
しかし、彼らにとっては大きな問題があった。
「……あそこ、入りづらいんだよなぁ……」
それは、そこがかなりの高級レストランだということだった。
高級なだけあって料理は絶品だが、とても鎧や彼らの持つようなカジュアルな私服で入れるような雰囲気ではない。
会合などで仕方なく行くときは常に正装で行くような店だ。
もちろんプライベートでは一度も入ったことはない。
そんなことを話しているうちに、レストランの前に着いてしまった。
もう見た目からして、高級な雰囲気が醸し出されている。
「おいソード、本当に入るのか?」
「……これも宿命だ」
二人は意を決して店の中に入る。
ふわり、と食欲をそそられる香りが漂ってきた。
上品な老紳士……この店のオーナーが、柔らかな笑みを浮かべながら彼らを出迎える。
「いらっしゃいませ、こんばんは。
7時予約のフォスター様ですな」
ちなみにフォスターはソードの苗字である。
もちろん彼は予約などした覚えはない。
二人は思わず顔を見合わせた。
「いえ、私達は警備の者ですが……」
彼らが控えめにそう言うと、オーナーは何故か目元を和ませた。
「なるほど、貴方らも大王様の粋なサプライズですな。
ではこちらへどうぞ。
あ、代金はもう頂いているのでご安心してくだされ」
一息にそこまで言うと彼はさっさと歩き始めてしまう。
事情がよく呑み込めないままついて行くと、夜景がよく見える席に案内された。
おそらくはこの店でも1、2を争う良い席だろう。
混乱しながらも席に着くと、テーブルの上に翡翠色のカードと緋色のカードが置いてあるのに気付いた。
ブレイドは徐に緋色のカードをめくり、目を見開いた。
しかしその表情は、すぐに柔らかな笑みに彩られた。
「なんだ?」
「……陛下に嵌められたな」
ブレイドはソードにカードを見せる。
ソードは驚いた顔をして翡翠色のカードをめくり、彼女と同じように笑みを浮かべた。
『今日くらいは楽しんで来い』
カードにはそう書いてあった。
簡潔ではあるが、彼の気持ちがきちんと伝わってくる。
おそらく普通に休暇を与えても、彼らが遠慮すると思ったのだろう。
だからこそ「警備」という建前を与えるというまどろっこしい手段を使ったのだ。
ここまで来てしまえば、クリスマスデートはもう既成事実のようなものだ。
ある意味諦めもつくだろう。
それとも、単に彼が素直になれなかっただけなのか。
真偽の程は不明だが、どの道デデデ大王が彼らを気遣ったのは確かなことらしい。
更に。
「あれ、ソードにブレイド?」
聞き覚えのある声に振り向き、更に見覚えのありすぎる顔ぶれを見て二人は固まってしまった。
「……そなたらもか」
「メタナイト卿!?カービィ殿!?」
なんとそこにいたのはメタナイトとカービィだった。
カービィは可愛らしい白いワンピースドレスを着ていて、メタナイトも武装解除している。
「なぜここに?」と聞きかけて、一つの予想に行きついた。
それに応えるかのようにメタナイトが苦笑した。
「私は一人で警備を命じられていたが……待ち構えたカービィにこれを渡されたんだ」
メタナイトは藍色のカードを、カービィは桃色のカードをそれぞれ差し出した。
前者には『たまには遊んで来い』と書いてあり、後者には『お土産よろしく』と書いてある。
後者はともかく、前者はソードたちが受け取ったのと同じような内容だ。
つまり、言いたいことも同じことだろう。
「……陛下もなかなか粋なことをしてくれる」
ため息交じりの苦笑、しかしどこか嬉しそうだった。
しかしこれで、指揮官三人組は全員休みをもらっているということになる。
「でもなんだか申し訳ないですね……私達の分の負担が、他の皆さんにかかっていると思うと……」
クリスマスは警備強化期間。
その期間に騎士団の上位三人が抜けるのは、かなり痛手なのでは……その懸念を消し去るかのように、カービィは頭を振った。
「いや、アックスとかメイスとかメチャクチャ張り切ってたよ?
『ワンナイト総帥!』『今夜はわしが王都の指揮官だス!』ってイキイキしてた。
むしろ会えたら楽しんできてくださいって伝えろって言われた始末」
……どうやら心配は要らないらしい。
微妙に寂しい気もするが、士気が下がっていないということを聞いて二人は胸を撫で下ろした。
「それに二人はいつも一生懸命頑張ってるでしょ?
だから今日は、思いっきり楽しんじゃいなよ!」
「それで、また明日から頑張ればいいんだよ!」と満面の笑みを浮かべるカービィ。
何処までもポジティブな彼女の言葉に、二人はつられるように頷いた。
ちなみにメタナイトはその隣で何故か得意そうな顔をしていた。
***
「完全にプライベート扱いだな……」
グラスのワインを揺らしながら呟くブレイドのに、ソードは大きく頷いた。
ちなみにカービィとメタナイトは既に夜の町に繰り出していた。
彼らもこれから食事と思いきや、ソードとブレイドが来る前に済ませていたらしい。
もしかしたらメタナイトもいないと知って村のことが心配にならないように、鉢合わせしないようにしていたつもりなのかもしれない。
「……そういえば、ソードのカードにはなんて?」
「ん、ああ、全く同じ内容だ」
「そうか」
たしかに彼のカードにも同じことが書かれていた。
しかし彼のものには続きがあった。
ブレイドにわからないように、もう一度それを読んでみる。
『今夜は帰ってこなくても大丈夫だ。
だが、明日の午後からは本当に警備に当たってもらう。
だから身体が使い物にならなくなるような無茶はするなよ。』
彼の言わんとすることを察し、ソードは顔が熱くなっていくのを感じいた。
既にそういうことをいたすことが前提になっているのはどういうことですかと全力でツッコみたいが、実際どうなのかと聞かれたら否定はできない。
その様子を不審に思ったのか、ブレイドが眉を顰める。
「どうした、ソード?」
「いや、なんでもない」
流石にこれを彼女に見せるわけにはいかないだろう。
変に意識してガチガチになるのが容易に予想つく。
だから彼はカードをそっと財布にしまい込んだ。
するとブレイドが、不意に目を伏せた。
長い睫毛が緋色の瞳に影を作る。
「……ソードの気持ちはわかるけど、俺は今日だけは楽しもうと思うんだ」
彼女はソードがまだ不安に思っていると思ったのだろう。
その心配は全くの的外れではあるが、彼は黙ったままその言葉を聞いていた。
「ブレイドにしては珍しいな」
「陛下の心遣いを無下にするのもどうかと思うしな。
それに、カービィ殿の言う通り、明日からもまた頑張ろうと思うんだ」
楽しそうなブレイドの様子に、彼の表情も自然と緩む。
「ああ……今夜は楽しもうな、思いっきり」
食べ終わったらもう一度イルミネーションを見に行こう。
ソードがそう言えば、ブレイドは花の咲くような笑みを浮かべて頷いた。
Merry Christmas!
(聖夜に幸あれ)
→next
あとがき
人々が浮かれ、賑わい、とにかく騒がしい1日だ。
しかし王国騎士団にとっては普段と変わらない日だ。
いや、変わらないわけではない。
むしろ人々が安心して楽しく過ごすことができるように、彼らの警備はさらに強固なものになる。
「クリスマスと書いて『警備強化期間』と読む」という笑えないジョークが作られたくらいだ。
特に騎士団上層部の者――メタナイトやソード、ブレイドのように人の上に立つような者なら尚更だ。
しかしそれは毎年のことで今更のことだから、特に不満もない。
……いや、本当はほんの少しだけ残念に思っていたが、お互いあえて口には出さなかった。
二人とも仕事に対して責任とプライドを持っていたからだ。
ソードとブレイドがいつものそれよりも警戒しながら村をパトロールをしていると、ワドルドゥ隊長が彼らを呼びとめた。
どうやら、デデデ大王が彼らを呼んでいるらしい。
普段騎士団はメタナイトが取り仕切っているというのに、珍しいことだ。
そんな疑問を抱えながら二人は王座の間へ行った。
「御呼びでしょうか、陛下」
「お前達を呼んだのは他でもない。
お前達にチョコレートシティの警備を命ずるぞい!」
「チョコレートシティ、ですか……?」
チョコレートシティとは、ププビレッジの隣にある街だ。
プププランド……否、ポップスターいちの大都会で、常に多くの人で賑わっている。
「しかし、クリスマスにププビレッジを離れるのは……」
「クリスマスだからこそ、チョコシティをお前達に頼みたいぞい」
都会なだけあって、街が普段よりもさらに人が溢れることは容易に予想がつく。
そんなときにもし魔獣が現れたら、大変な騒ぎになるだろう。
パニックになった人々をまとめるのは相当な困難が伴う。
「そういう時にも冷静に動けるお前らに行ってほしいぞい」
「なるほど……かしこまりました」
理由も納得のいくものだから特に異存はない。
敬礼をして退出しようとしたが、デデデは彼らを引きとめた。
「ちょっと待つぞい、話はそれだけじゃないぞい」
「何でしょうか」
「警備に行くにあたっていくつか命令があるぞい。
まず、武装解除をしてワシが用意した服を着るぞい!」
その言葉に二人は「え?」と戸惑ったような表情を浮かべた。
彼の言っていることが理解できなかった。
普段警備をするときは、いかなる場合にも備えて重装備でいる。
武装解除をして警備をしろということはほとんどないだろう。
「それは……きちんとした警備になるのでしょうか?」
ソードの疑問も尤もだ。
ブレイドも同調するように頷く。
デデデは大げさに肩をすくめると「わかってないな」とでも言いたいかのように溜め息をついた。
「考えてみるぞい、せっかくのクリスマスなのにゴツイ鎧を着たやつが歩いていたら……ちょっとアレだろ?」
「……あっ、たしかにそうですね」
言われてみればそうだ。
人々がお洒落をして街を行き交う中で、鎧の二人組が歩く――雰囲気ぶち壊しにも程があるだろう。
それに一般人からしてみれば、剣は物騒なものだ。
大切な人といる時間に、そういう類のものは見たくないだろう。
「まぁ、短剣とか小型の銃なら持ち歩いても良いと思う。
明らかに武器持ってるとかはできれば避けてほしいぞい。
それと同様に明らかに『警備してます』というオーラは出さないことぞい」
「それも皆様の雰囲気を壊さないためですね」
警備をしているのを見て安心感を覚える人ももちろんいるだろうが、逆に警戒してしまう人がいるかもしれない。
ブレイドの言葉に、デデデはうんうんと頷いた。
「お前ら二人なら、あのリア充だらけの空気の中に入っても違和感ないだろ?」
男二人に行かせるのは流石に酷だと思うぞい……というデデデの言葉に、二人は苦笑しながら頷いた。
なるほど、そういった意味でもこの二人向けの任務である。
「難しいとは思うが、一般人に交じってさり気なくパトロールをするぞい」
「承知いたしました。
私達が守るべくは、皆様の身の安全だけではありませんからね……」
「皆様の充実した1日を守るべく、私達は尽力いたします」
二人は晴れやかにそう宣言した。
***
その日の夜、チョコレートシティ。
予想通りというか、予想以上に街は混み合っていた。
そのほとんどがカップル客だ。
時折独り身の人が、肩身狭そうに通り過ぎていくのが悲しい。
「寒……」
そう呟く声も、白い息となる。
12月も下旬となり、寒さはどんどん厳しくなっていた。
手袋をしているはずなのに、指先はジンジンと悴んでいく。
「……というか、陛下はなぜこの服をチョイスした……?」
「いや、俺は陛下に感謝の気持ちでいっぱいだ」
ブレイドはそう言うソードの顔を恨めしそうに睨みつける。
彼女は赤色の上品なワンピースドレスの上に、黒いケープを羽織っていた。
最初にデデデ大王からそれを渡された時は、頑なに受け取ろうとしなかった。
こんな女性らしいものを着られるか、こんなの似合うわけないと喚いていたのを二人がかりでなんとか説得したのだ。
しかし最大の決め手が、布が特殊加工されかなり安全性が高いと聞いたということのあたり、やはり彼女らしい。
理由はともあれ、その服装はひどく可愛らしかった。
しかも何故かフームが張りきってメイクやヘアアレンジを施してしまったから、普段の彼女とは思えないほどに可視的な女性らしさを備えた
彼女がそこにいた。
「でもそれ、似合ってるぞ」
ソードはそう言いながら、前触れもなくブレイドの手を握った。
彼女は不満そうに眉間に皺を寄せ、彼を見上げる。
しかしその頬は、少しだけ紅潮していた。
それは決してメイクのせいだけではないだろう。
「おい、任務中だぞ」
「今日は特別任務だろう?
手くらいは繋いでいた方が自然だと思う」
たしかに周りを見渡してみると、ほとんどのカップルは手を繋いでいた。
中には腕を組んだり、大胆にも腰に手を回しているカップルもいる。
何とも暑苦しいこと極まりないが、本人たちは自分たちの世界に浸っているのだろう。
「……そうだな」
素直に握り返すと、ソードは満足そうに笑った。
手袋越しにもかかわらず、お互いの体温を感じられる気がしていた。
***
その日の夜、チョコレートシティ。
予想通りというか、予想以上に街は混み合っていた。
そのほとんどがカップル客だ。
時折独り身の人が、肩身狭そうに通り過ぎていくのが悲しい。
「寒……」
そう呟く声も、白い息となる。
12月も下旬となり、寒さはどんどん厳しくなっていた。
手袋をしているはずなのに、指先はジンジンと悴んでいく。
「……というか、陛下はなぜこの服をチョイスした……?」
「いや、俺は陛下に感謝の気持ちでいっぱいだ」
ブレイドはそう言うソードの顔を恨めしそうに睨みつける。
彼女は赤色の上品なワンピースドレスの上に、黒いケープを羽織っていた。
最初にデデデ大王からそれを渡された時は、頑なに受け取ろうとしなかった。
こんな女性らしいものを着られるか、こんなの似合うわけないと喚いていたのを二人がかりでなんとか説得したのだ。
しかし最大の決め手が、布が特殊加工されかなり安全性が高いと聞いたということのあたり、やはり彼女らしい。
理由はともあれ、その服装はひどく可愛らしかった。
しかも何故かフームが張りきってメイクやヘアアレンジを施してしまったから、普段の彼女とは思えないほどに可視的な女性らしさを備えた
彼女がそこにいた。
「でもそれ、似合ってるぞ」
ソードはそう言いながら、前触れもなくブレイドの手を握った。
彼女は不満そうに眉間に皺を寄せ、彼を見上げる。
しかしその頬は、少しだけ紅潮していた。
それは決してメイクのせいだけではないだろう。
「おい、任務中だぞ」
「今日は特別任務だろう?
手くらいは繋いでいた方が自然だと思う」
たしかに周りを見渡してみると、ほとんどのカップルは手を繋いでいた。
中には腕を組んだり、大胆にも腰に手を回しているカップルもいる。
何とも暑苦しいこと極まりないが、本人たちは自分たちの世界に浸っているのだろう。
「……そうだな」
素直に握り返すと、ソードは満足そうに笑った。
手袋越しにもかかわらず、お互いの体温を感じられる気がしていた。
「なんかこうしてると、デートみたいだな」
「コラ、あくまでもこれは任務だぞ!
そんな浮かれた気持ちで良いと思ってるのか?」
「それはわかってる……でも、こんなに綺麗なんだぞ」
街はイルミネーションで輝いている。
数多の色彩の光が街を彩っていた。
そこはまるで夢のような世界で、思わず仕事だということを忘れてしまいそうになる。
「たとえ仕事でも、ブレイドとこうしていられて幸せなんだよ、俺は」
「そ、それはっ……俺だってそうだ、バカ」
きゅっと彼の手を握りながらそう言えば、ソードの表情が緩む。
「なんだよ……」とブレイドは唇を尖らせるが、彼は上機嫌に「なんでもない」と返すのみ。
「い、言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」
「んー?
周りから見たらきっと俺達、一般のカップル客なんだろうなって思ってさ」
「……まぁ、そう見せかせるのも仕事の一つだからな」
「だからもう少しくらいいちゃついても良いと思うんだが」
「お前の理論はおかしい」
軽口を叩きあいながら街を歩く。
周りの安全を確かめながら――それでも、多少気分が浮かれてしまうのを抑えることは難しかった。
見事な光の造形を見つけては、しばし立ち止まってしまうこともままあった。
しばらくそんな風に街を歩いていると、ふとソードが「あっ」と声を漏らした。
急いで時計を見て、それからすぐに安堵したような息を吐く。
「もうすぐ7時か」
「じゃあレストラン行かなきゃだな」
危ない危ない、と二人は苦笑した。
景色に気を取られ過ぎて、思わず時間が経つのを忘れてしまっていたらしい。
彼らはデデデ大王からの命令で、警備のために王国御用達のとあるレストランに立ち寄れと言われていた。
相当込み合うだろうから異常が無いか確認してほしいらしい。
その理屈はわかる。
しかし、彼らにとっては大きな問題があった。
「……あそこ、入りづらいんだよなぁ……」
それは、そこがかなりの高級レストランだということだった。
高級なだけあって料理は絶品だが、とても鎧や彼らの持つようなカジュアルな私服で入れるような雰囲気ではない。
会合などで仕方なく行くときは常に正装で行くような店だ。
もちろんプライベートでは一度も入ったことはない。
そんなことを話しているうちに、レストランの前に着いてしまった。
もう見た目からして、高級な雰囲気が醸し出されている。
「おいソード、本当に入るのか?」
「……これも宿命だ」
二人は意を決して店の中に入る。
ふわり、と食欲をそそられる香りが漂ってきた。
上品な老紳士……この店のオーナーが、柔らかな笑みを浮かべながら彼らを出迎える。
「いらっしゃいませ、こんばんは。
7時予約のフォスター様ですな」
ちなみにフォスターはソードの苗字である。
もちろん彼は予約などした覚えはない。
二人は思わず顔を見合わせた。
「いえ、私達は警備の者ですが……」
彼らが控えめにそう言うと、オーナーは何故か目元を和ませた。
「なるほど、貴方らも大王様の粋なサプライズですな。
ではこちらへどうぞ。
あ、代金はもう頂いているのでご安心してくだされ」
一息にそこまで言うと彼はさっさと歩き始めてしまう。
事情がよく呑み込めないままついて行くと、夜景がよく見える席に案内された。
おそらくはこの店でも1、2を争う良い席だろう。
混乱しながらも席に着くと、テーブルの上に翡翠色のカードと緋色のカードが置いてあるのに気付いた。
ブレイドは徐に緋色のカードをめくり、目を見開いた。
しかしその表情は、すぐに柔らかな笑みに彩られた。
「なんだ?」
「……陛下に嵌められたな」
ブレイドはソードにカードを見せる。
ソードは驚いた顔をして翡翠色のカードをめくり、彼女と同じように笑みを浮かべた。
『今日くらいは楽しんで来い』
カードにはそう書いてあった。
簡潔ではあるが、彼の気持ちがきちんと伝わってくる。
おそらく普通に休暇を与えても、彼らが遠慮すると思ったのだろう。
だからこそ「警備」という建前を与えるというまどろっこしい手段を使ったのだ。
ここまで来てしまえば、クリスマスデートはもう既成事実のようなものだ。
ある意味諦めもつくだろう。
それとも、単に彼が素直になれなかっただけなのか。
真偽の程は不明だが、どの道デデデ大王が彼らを気遣ったのは確かなことらしい。
更に。
「あれ、ソードにブレイド?」
聞き覚えのある声に振り向き、更に見覚えのありすぎる顔ぶれを見て二人は固まってしまった。
「……そなたらもか」
「メタナイト卿!?カービィ殿!?」
なんとそこにいたのはメタナイトとカービィだった。
カービィは可愛らしい白いワンピースドレスを着ていて、メタナイトも武装解除している。
「なぜここに?」と聞きかけて、一つの予想に行きついた。
それに応えるかのようにメタナイトが苦笑した。
「私は一人で警備を命じられていたが……待ち構えたカービィにこれを渡されたんだ」
メタナイトは藍色のカードを、カービィは桃色のカードをそれぞれ差し出した。
前者には『たまには遊んで来い』と書いてあり、後者には『お土産よろしく』と書いてある。
後者はともかく、前者はソードたちが受け取ったのと同じような内容だ。
つまり、言いたいことも同じことだろう。
「……陛下もなかなか粋なことをしてくれる」
ため息交じりの苦笑、しかしどこか嬉しそうだった。
しかしこれで、指揮官三人組は全員休みをもらっているということになる。
「でもなんだか申し訳ないですね……私達の分の負担が、他の皆さんにかかっていると思うと……」
クリスマスは警備強化期間。
その期間に騎士団の上位三人が抜けるのは、かなり痛手なのでは……その懸念を消し去るかのように、カービィは頭を振った。
「いや、アックスとかメイスとかメチャクチャ張り切ってたよ?
『ワンナイト総帥!』『今夜はわしが王都の指揮官だス!』ってイキイキしてた。
むしろ会えたら楽しんできてくださいって伝えろって言われた始末」
……どうやら心配は要らないらしい。
微妙に寂しい気もするが、士気が下がっていないということを聞いて二人は胸を撫で下ろした。
「それに二人はいつも一生懸命頑張ってるでしょ?
だから今日は、思いっきり楽しんじゃいなよ!」
「それで、また明日から頑張ればいいんだよ!」と満面の笑みを浮かべるカービィ。
何処までもポジティブな彼女の言葉に、二人はつられるように頷いた。
ちなみにメタナイトはその隣で何故か得意そうな顔をしていた。
***
「完全にプライベート扱いだな……」
グラスのワインを揺らしながら呟くブレイドのに、ソードは大きく頷いた。
ちなみにカービィとメタナイトは既に夜の町に繰り出していた。
彼らもこれから食事と思いきや、ソードとブレイドが来る前に済ませていたらしい。
もしかしたらメタナイトもいないと知って村のことが心配にならないように、鉢合わせしないようにしていたつもりなのかもしれない。
「……そういえば、ソードのカードにはなんて?」
「ん、ああ、全く同じ内容だ」
「そうか」
たしかに彼のカードにも同じことが書かれていた。
しかし彼のものには続きがあった。
ブレイドにわからないように、もう一度それを読んでみる。
『今夜は帰ってこなくても大丈夫だ。
だが、明日の午後からは本当に警備に当たってもらう。
だから身体が使い物にならなくなるような無茶はするなよ。』
彼の言わんとすることを察し、ソードは顔が熱くなっていくのを感じいた。
既にそういうことをいたすことが前提になっているのはどういうことですかと全力でツッコみたいが、実際どうなのかと聞かれたら否定はできない。
その様子を不審に思ったのか、ブレイドが眉を顰める。
「どうした、ソード?」
「いや、なんでもない」
流石にこれを彼女に見せるわけにはいかないだろう。
変に意識してガチガチになるのが容易に予想つく。
だから彼はカードをそっと財布にしまい込んだ。
するとブレイドが、不意に目を伏せた。
長い睫毛が緋色の瞳に影を作る。
「……ソードの気持ちはわかるけど、俺は今日だけは楽しもうと思うんだ」
彼女はソードがまだ不安に思っていると思ったのだろう。
その心配は全くの的外れではあるが、彼は黙ったままその言葉を聞いていた。
「ブレイドにしては珍しいな」
「陛下の心遣いを無下にするのもどうかと思うしな。
それに、カービィ殿の言う通り、明日からもまた頑張ろうと思うんだ」
楽しそうなブレイドの様子に、彼の表情も自然と緩む。
「ああ……今夜は楽しもうな、思いっきり」
食べ終わったらもう一度イルミネーションを見に行こう。
ソードがそう言えば、ブレイドは花の咲くような笑みを浮かべて頷いた。
Merry Christmas!
(聖夜に幸あれ)
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あとがき
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