甘い香りに誘われて
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甘い香りに誘われて、私はドアから部屋を覗く。
すると触れてもいないのに、小さく音を立ててドアが勝手に開いた。
顔を上げると、部屋の中からランプキンさんが優しい笑顔で私を見ていた。
「……そんなところにいないでこちらへおいで、リリーさん」
覗いていたのが知られていたことが恥ずかしかったけど、この甘い香りと彼のお誘いには勝てない。
ちょこちょこと部屋の中に入り、指し示されたリビングのソファに腰かけた。
「いつもタイミングがいいですね、ちょうど焼けましたよ」
実は狙っている――なんて口が裂けても言えない。
紅茶と一緒に切り分けられたパイが出された。
綺麗なオレンジ色をしているそれは、カボチャだ。
金のフォークで一口食べてみると、カボチャの自然な甘みとシナモンの風味が口の中に広がった。
「……おいしいです」
ゆるく泡立てられた生クリームと一緒に食べると、更に美味しい。
自然と笑顔になっていた。
ふと気が付くと、ランプキンさんは私の向かいのソファに座ってティーカップを傾けていた。
優しく微笑みながら私を見ている。
こうして彼のお菓子をいただくのが、最近の日課になっていた。
お菓子を貰えるのももちろんだけど、一番の目的は彼に会うこと。
二人で過ごす時間はすごくドキドキして、心地良くて……少しだけ胸が苦しくなる。
もっと近づきたいけれど、そうしたらこの関係さえ壊れてしまう気がしてしまって。
だから私は踏み出せない。
今のところ少なくとも嫌われてはいないし、関係はなかなか良好だと思う。
それでもいい、と思っているはずだった。
しかしいつものこととはいえ、食べているところを見られるのは少し気になることだ。
黙っているとどうにかなりそうで、慌てて話題を探す。
「ラ、ランプキンさんって、本当にカボチャがお好きなんですね……」
「ええ、大好きですよ」
ふわりと笑って答えられた言葉。
まるでそれが自分に向けられたもののようで、どぎまぎしてしまう。
……そうであってほしい、という願望ももちろんあるのだけれど。
最初は少しの時間一緒にいるだけで幸せだったのに、段々と私は強欲になってきている。
好かれたいとか、愛されたいとか。
少しでもいいから自分をよく見せたかったり。
だから服装も彼が好みそうなものにしてみたり、髪形やメイクにもいちいち気合いが入る。
そしてなによりも……最初の頃よりも私は緊張していた。
「誰も取って食べたりはしませんから、もっとくつろいでいただいてもいいのですよ?」
それすらも見透かされていて、顔から火がでそうになる。
きっと彼は私の想いにも気付いているだろう。
でも、彼が私をどういうつもりで誘ってくれているのか全く分からない。
ランプキンさんの考えていることはいまいち分かりづらい。
だからこそこの時間はこんなにも幸せで、苦しい。
「……まあ、貴女が食べられたいというなら話は別ですが」
口に含んでいたパイが変なところに入りそうになって、慌てて紅茶で流し込んだ。
茶葉の香りにこだわっているらしいけど、そんなもの感じる余裕なんて全くなかった。
「か、からかわないでください!」
多分私の顔は真っ赤だったに違いない。
ランプキンさんは楽しそうに笑いながら、紅茶のおかわりを注いでくれた。
……そういえば普段は彼も私と一緒に食べるのに、今日は紅茶を飲んでいるだけだ。
「ランプキンさんは食べないのですか?」
「ええ、私は他におやつがあるので」
他にも何か作ってあるのかな?
そんな感じはしないけど……。
「それに今は、貴女を見ている方がよっぽど楽しいですね。
リリーさんはいつもすごく美味しそうに食べてくれますから、私としても嬉しいのですよ」
優しさのにじむ瞳で見つめられて、更に鼓動が速くなる。
正直、お菓子の味なんてわからなくなってしまっていた。
最後の一口を、パクリと口に入れる。
良く味わってから嚥下して、私は両手を合わせた。
「御馳走様でした」
「お粗末様でした」
ランプキンさんが食べ終わった皿を下げてくれるのを横目に見ながら、残った紅茶を飲む。
ようやくゆっくりと茶葉の香りや味を楽しむことができた。
これを飲み終わったら帰ろう。
いつもはもう少し居てお話したりするけど、このままの心境じゃドキドキして仕方がない。
見つめ合うと素直におしゃべりできなくなってしまう。
早く帰って心を落ち着けたいとさえ思った。
でも帰りたくない気持ちもあって。
少しでも長く彼の傍に居たい気持ちもあって。
相反する二つの気持ちが、私の心を満たす。
二つに引き裂かれた心を抱きながら、半分くらい残った紅茶の水面に視線を落とした。
「リリー」
呼び捨てで名前を呼ばれ、ドキンと心臓が跳ねる。
何事かと思ってバッと顔をあげると、彼の顔が目前に迫っていた。
驚きの余り逆にドキドキなんてものは消え去り、やけに冷静に「わーやっぱりランプキンさんって美形だなー綺麗だなー」などと考えていると、何か唇に柔らかいものが触れた。
「んむっ……!?」
離れてからも、感触は残ったままだった。
キスされた、そう気付いたのはそれからおよそ5秒後。
でも信じられなかった。
白昼夢かもしくは彼の魔法だったのでは、とすら思ってしまう。
混乱とする私を見ながら、ランプキンさんは苦笑していた。
「……キスするときは、目を閉じなさい」
いつもより幾分低い声で囁きながら、私の頬にそっと手を添える。
再び彼の顔が迫ってきて、更に混乱してしまった。
「……っ」
触れた瞬間、反射的に目を閉じていた。
唇を割り開き熱いモノが口内に入ってきて、歯列や上顎をなぞる。
更に深く入ってきたそれは、私の舌をも絡め取った。
「ん……」
なんとか応えようとしても、どうすればいいのかわからない。
考える余裕なんて全くなかった。
注がれる熱に、さっきのパイよりも甘く私の思考も身体も溶かされてしまう。
沈んでいるような、浮かび上がるような……夢のような感覚に陥る。
その感覚が少しだけ怖くなって、彼の服をキュッと掴んだ。
私の気持ちを察したのか、ランプキンさんは私の頭を優しく撫でてくれる。
その手付きがあんまり優しくて、少しだけ安心した。
しかしその手は私の肩にかかり――ゆっくりと押し始めた。
そのまま体重がかけられて、背中からソファへと沈んでいく。
唇が離れてからおそるおそる目を開けると、天井を背景にランプキンさんが私を見下ろしていた。
橙色の瞳が、妖しく揺らめいている。
「リリー」
名を呼ばれ、また口付けられる。
曖昧になっていく意識の中で、私の服のリボンが引き抜かれたのを感じた。
その行動の意味を悟り、全身が熱くなっていく。
彼の手が服のボタンにかかり――そのまま離れていった。
「あ……」
「やめないで」
そう言いたいくらいだけど、それはさすがに恥ずかしすぎた。
口をつぐむ私の頬に、スル、と細い指がなめらかに滑った。
「そんなに物欲しそうな顔をして……ですが」
もう何度目かわからない口付けを交わす。
しかしそれはあっさりと離れ、彼の身体も私の上から退いた。
「残念ながら……タイムオーバーですね」
バタバタと足音が聞こえてきた。
どうやら誰かが来てしまったらしい。
私は慌てて飛び起きた。
「ランプキン!来てやったのサ!」
「お腹空いたヨォ!」
ガチャッと扉が勢いよく開いて、マホロアとマルクが部屋の中に飛び込んできた。
そうか、この子たちもおやつをたかりに来ているのか。
「あ、リリー!
オヤツたかりに来たノォ?」
「ちがっ……!」
「キミは馬鹿なのサ?
リリーはランプキンに……」
「わーっ!わーっ!」
マルクなんでそんなに鋭いの!?
そしてなんでマホロアもそんなに納得した顔してるの!?
私ってそんなにわかりやすいのかな……。
「……二人とも、まずは手を洗ってきなさい。
オヤツはそれからです」
「はーい」
二人は洗面所へ手を洗いに行く。
ランプキンさんがちらりとこっちを見たけど、まともに顔を見れるわけがなくて、バッと顔を背けてしまった。
クス、と笑う声が聞こえる。
「とんだ邪魔が入ってしまいましたね……」
そう言いながらポケットに隠した私のリボンを取り出すのが視界の端に見えた。
あ、と思わず手を伸ばしかける。
すると彼は反対側の手で私の手を掴み、甲に軽く口付けた。
「……続きは今宵……頂きますよ?」
そのままスッと耳元に口を寄せ、「拒否権はありません」と囁く。
真っ赤になって固まる私をクスリと笑うと、額に軽く口付けを落とした。
甘い香りに誘われて
誘われた私は、どうやら食べられてしまうらしい
next
→あとがき
すると触れてもいないのに、小さく音を立ててドアが勝手に開いた。
顔を上げると、部屋の中からランプキンさんが優しい笑顔で私を見ていた。
「……そんなところにいないでこちらへおいで、リリーさん」
覗いていたのが知られていたことが恥ずかしかったけど、この甘い香りと彼のお誘いには勝てない。
ちょこちょこと部屋の中に入り、指し示されたリビングのソファに腰かけた。
「いつもタイミングがいいですね、ちょうど焼けましたよ」
実は狙っている――なんて口が裂けても言えない。
紅茶と一緒に切り分けられたパイが出された。
綺麗なオレンジ色をしているそれは、カボチャだ。
金のフォークで一口食べてみると、カボチャの自然な甘みとシナモンの風味が口の中に広がった。
「……おいしいです」
ゆるく泡立てられた生クリームと一緒に食べると、更に美味しい。
自然と笑顔になっていた。
ふと気が付くと、ランプキンさんは私の向かいのソファに座ってティーカップを傾けていた。
優しく微笑みながら私を見ている。
こうして彼のお菓子をいただくのが、最近の日課になっていた。
お菓子を貰えるのももちろんだけど、一番の目的は彼に会うこと。
二人で過ごす時間はすごくドキドキして、心地良くて……少しだけ胸が苦しくなる。
もっと近づきたいけれど、そうしたらこの関係さえ壊れてしまう気がしてしまって。
だから私は踏み出せない。
今のところ少なくとも嫌われてはいないし、関係はなかなか良好だと思う。
それでもいい、と思っているはずだった。
しかしいつものこととはいえ、食べているところを見られるのは少し気になることだ。
黙っているとどうにかなりそうで、慌てて話題を探す。
「ラ、ランプキンさんって、本当にカボチャがお好きなんですね……」
「ええ、大好きですよ」
ふわりと笑って答えられた言葉。
まるでそれが自分に向けられたもののようで、どぎまぎしてしまう。
……そうであってほしい、という願望ももちろんあるのだけれど。
最初は少しの時間一緒にいるだけで幸せだったのに、段々と私は強欲になってきている。
好かれたいとか、愛されたいとか。
少しでもいいから自分をよく見せたかったり。
だから服装も彼が好みそうなものにしてみたり、髪形やメイクにもいちいち気合いが入る。
そしてなによりも……最初の頃よりも私は緊張していた。
「誰も取って食べたりはしませんから、もっとくつろいでいただいてもいいのですよ?」
それすらも見透かされていて、顔から火がでそうになる。
きっと彼は私の想いにも気付いているだろう。
でも、彼が私をどういうつもりで誘ってくれているのか全く分からない。
ランプキンさんの考えていることはいまいち分かりづらい。
だからこそこの時間はこんなにも幸せで、苦しい。
「……まあ、貴女が食べられたいというなら話は別ですが」
口に含んでいたパイが変なところに入りそうになって、慌てて紅茶で流し込んだ。
茶葉の香りにこだわっているらしいけど、そんなもの感じる余裕なんて全くなかった。
「か、からかわないでください!」
多分私の顔は真っ赤だったに違いない。
ランプキンさんは楽しそうに笑いながら、紅茶のおかわりを注いでくれた。
……そういえば普段は彼も私と一緒に食べるのに、今日は紅茶を飲んでいるだけだ。
「ランプキンさんは食べないのですか?」
「ええ、私は他におやつがあるので」
他にも何か作ってあるのかな?
そんな感じはしないけど……。
「それに今は、貴女を見ている方がよっぽど楽しいですね。
リリーさんはいつもすごく美味しそうに食べてくれますから、私としても嬉しいのですよ」
優しさのにじむ瞳で見つめられて、更に鼓動が速くなる。
正直、お菓子の味なんてわからなくなってしまっていた。
最後の一口を、パクリと口に入れる。
良く味わってから嚥下して、私は両手を合わせた。
「御馳走様でした」
「お粗末様でした」
ランプキンさんが食べ終わった皿を下げてくれるのを横目に見ながら、残った紅茶を飲む。
ようやくゆっくりと茶葉の香りや味を楽しむことができた。
これを飲み終わったら帰ろう。
いつもはもう少し居てお話したりするけど、このままの心境じゃドキドキして仕方がない。
見つめ合うと素直におしゃべりできなくなってしまう。
早く帰って心を落ち着けたいとさえ思った。
でも帰りたくない気持ちもあって。
少しでも長く彼の傍に居たい気持ちもあって。
相反する二つの気持ちが、私の心を満たす。
二つに引き裂かれた心を抱きながら、半分くらい残った紅茶の水面に視線を落とした。
「リリー」
呼び捨てで名前を呼ばれ、ドキンと心臓が跳ねる。
何事かと思ってバッと顔をあげると、彼の顔が目前に迫っていた。
驚きの余り逆にドキドキなんてものは消え去り、やけに冷静に「わーやっぱりランプキンさんって美形だなー綺麗だなー」などと考えていると、何か唇に柔らかいものが触れた。
「んむっ……!?」
離れてからも、感触は残ったままだった。
キスされた、そう気付いたのはそれからおよそ5秒後。
でも信じられなかった。
白昼夢かもしくは彼の魔法だったのでは、とすら思ってしまう。
混乱とする私を見ながら、ランプキンさんは苦笑していた。
「……キスするときは、目を閉じなさい」
いつもより幾分低い声で囁きながら、私の頬にそっと手を添える。
再び彼の顔が迫ってきて、更に混乱してしまった。
「……っ」
触れた瞬間、反射的に目を閉じていた。
唇を割り開き熱いモノが口内に入ってきて、歯列や上顎をなぞる。
更に深く入ってきたそれは、私の舌をも絡め取った。
「ん……」
なんとか応えようとしても、どうすればいいのかわからない。
考える余裕なんて全くなかった。
注がれる熱に、さっきのパイよりも甘く私の思考も身体も溶かされてしまう。
沈んでいるような、浮かび上がるような……夢のような感覚に陥る。
その感覚が少しだけ怖くなって、彼の服をキュッと掴んだ。
私の気持ちを察したのか、ランプキンさんは私の頭を優しく撫でてくれる。
その手付きがあんまり優しくて、少しだけ安心した。
しかしその手は私の肩にかかり――ゆっくりと押し始めた。
そのまま体重がかけられて、背中からソファへと沈んでいく。
唇が離れてからおそるおそる目を開けると、天井を背景にランプキンさんが私を見下ろしていた。
橙色の瞳が、妖しく揺らめいている。
「リリー」
名を呼ばれ、また口付けられる。
曖昧になっていく意識の中で、私の服のリボンが引き抜かれたのを感じた。
その行動の意味を悟り、全身が熱くなっていく。
彼の手が服のボタンにかかり――そのまま離れていった。
「あ……」
「やめないで」
そう言いたいくらいだけど、それはさすがに恥ずかしすぎた。
口をつぐむ私の頬に、スル、と細い指がなめらかに滑った。
「そんなに物欲しそうな顔をして……ですが」
もう何度目かわからない口付けを交わす。
しかしそれはあっさりと離れ、彼の身体も私の上から退いた。
「残念ながら……タイムオーバーですね」
バタバタと足音が聞こえてきた。
どうやら誰かが来てしまったらしい。
私は慌てて飛び起きた。
「ランプキン!来てやったのサ!」
「お腹空いたヨォ!」
ガチャッと扉が勢いよく開いて、マホロアとマルクが部屋の中に飛び込んできた。
そうか、この子たちもおやつをたかりに来ているのか。
「あ、リリー!
オヤツたかりに来たノォ?」
「ちがっ……!」
「キミは馬鹿なのサ?
リリーはランプキンに……」
「わーっ!わーっ!」
マルクなんでそんなに鋭いの!?
そしてなんでマホロアもそんなに納得した顔してるの!?
私ってそんなにわかりやすいのかな……。
「……二人とも、まずは手を洗ってきなさい。
オヤツはそれからです」
「はーい」
二人は洗面所へ手を洗いに行く。
ランプキンさんがちらりとこっちを見たけど、まともに顔を見れるわけがなくて、バッと顔を背けてしまった。
クス、と笑う声が聞こえる。
「とんだ邪魔が入ってしまいましたね……」
そう言いながらポケットに隠した私のリボンを取り出すのが視界の端に見えた。
あ、と思わず手を伸ばしかける。
すると彼は反対側の手で私の手を掴み、甲に軽く口付けた。
「……続きは今宵……頂きますよ?」
そのままスッと耳元に口を寄せ、「拒否権はありません」と囁く。
真っ赤になって固まる私をクスリと笑うと、額に軽く口付けを落とした。
甘い香りに誘われて
誘われた私は、どうやら食べられてしまうらしい
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→あとがき
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