恋人以上家族未満
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少し肌寒くなった夕闇の頃。
薄暗がりに佇む人物が二人。
男性――ウィズはスッと女性の腰を抱き寄せ、女性の額に口付けを落とす。
「ちょっ……!」
真っ赤になった女性……ダークマインドは咄嗟にウィズから離れようとする。
彼はそれを阻んで腕の中に抱き寄せた。
悔しそうな表情を浮かべるマインドだが、抵抗はしない。
「……仕返しよ」
マインドは少し背伸びをすると、ウィズの頬にキスをした。
ウィズは柔らかく笑うと、彼女の髪をさらりと梳く。
「マインド様……可愛いデス……」
ウィズは彼女の額にもう一度口付けた。
口付けは額から目蓋、頬に移り唇の端へと、だんだんと唇に近づいていく。
「もう、くすぐったい……」
「マインド様……」
甘さを孕んだ琥珀色の瞳と黄色い瞳が見つめあい、どちらからともなくそっと閉じられた。
二人の唇が、少しずつ距離を縮めていく。
それは長いような短いような、甘美な夢のような一時で。
そしてまさに重なろうとした瞬間、
「帰ったぞー!」
最悪な……いや、ある意味では素晴らしいタイミングでダークメタナイトが扉を開けた。
二人はバネじかけのおもちゃのように慌てて飛びのき、不自然に眼を逸らした。
「おっ、おかえりなさいマセ!」
「おかえり!今日は早かったのね!
ごっ、ごめん夕飯これからつくるから!」
マインドは早口にそう言うと、逃げるようにキッチンへと飛んで行った。
ウィズも「て、手伝いマス!」とそれに続く。
ダークに続いて部屋に入ったシャドーは、彼に呆れた視線を向けた。
「……ねぇダーク、わざとでしょ?」
「フン、なんのことだ?」
そらとぼけているダークに、シャドーは大きく溜息をついた。
「邪魔しないであげなよ。
マインドって、ダークマター族ではまだ女の子って言っても良いくらいなんだよ?
見守ってあげようよ」
「……わかってはいる、が……」
いたたまれなくなって、ダークはシャドーから目を逸らす。
シャドーの言い分もわかっていた。
一方シャドーも、ダークの気持ちを理解していた。
彼らにとって彼女は、大切な母親的存在。
幸せになってほしい気持ちも、自分たちから離れていってしまうような寂しさも両方持ち合わせているからこそ、複雑なのである。
「まぁ、からかうのはとっても楽しいけどね!」
「……それもどうかと思うが」
シャドーとダークがキッチンへ向かうと、マインドとウィズはキッチンで何かを作っていた。
今日は何にするの、とシャドーが聞くと、ハンバーグよと答える声が返って来た。
「ウィズ、包丁とって」
「ハイ」
マインドが玉ねぎを刻んでいる間、ウィズは付け合せのためのニンジンを洗い、ピーラーで皮をむき始めた。
その手つきはずいぶん手馴れている。
彼女らの様子を、シャドーはニヤニヤと笑いながら、ダークは少し不満そうに眺めていた。
「?どうしたのシャドー、そんなにニヤニヤして」
「えっとね、なんかそうしてると夫婦みたいだなと思って!」
笑顔で答えるシャドー。
次の瞬間、ダンッ、と不自然な音がした。
その場にいた全員がしんと静まり返る。
沈黙が重い。
「あ、切れた」
一番最初に声を出したのは、マインドであった。
その声で我に返ったのか、シャドーが叫んだ。
「うああああああああマインド血!血出てるううううううう!!!!!!」
マインドの指からはダラダラと血が流れていた。
相当深く切ったらしい。
しかしマインドはさして慌てた様子もなく、冷静に状況を把握していた。
「マインド様っ……!?
いくらなんでももう少しリアクションを……!」
「ごめんなさいごめんなさいボクが変なこと言ったから!」
「きゅ、救急車!救急車を呼べ!117番!」
「落ち着いて!大丈夫だからね!
救急車は要らない上に117番は時報よ!」
「そうだよダーク!177!177だよ!」
「177は天気予報だからね!!
今の天気知っても何もならないからね!!」
「快晴だそうだ!」
「やったね!」
「かけたの!?ねえかけたの!?」
パニックになる二人と律儀にツッコミを入れるマインドをよそに、ウィズは彼女の手を取った。
「ウィズ?触ると血が……」
彼はそのまま、マインドの指先をパクリと咥えた。
「ちょ……っ!?」
3人とも見事に固まった。
指先を柔らかな舌が這い、マインドはぴくりと身体を震わせた。
流れていた血を舐めとり、そっと口を離す。
新たに血が流れ出す前に、ウィズは一瞬だけ真剣な表情になった。
「θεραπε・α」
赤色の光がポウ、とマインドの指に灯る。
そしてその光が消えたとき、彼女の傷はすっかりと無くなっていた。
「治った……だと……」
「簡単な治癒魔法デスよ」
「あ、ありがとう……」
いえいえ、とウィズは笑うと、再びピーラーを動かし始める。
マインドもそれに続いて、一度手を洗うと再び包丁を動かし始めた。
ハプニングもあったが、ハンバーグは美味しく仕上がった。
当たり前のように4人で食卓を囲むと、ダークはウィズを睨みつける。
「……なぜ貴様がいる?」
「ヘヘッ、細かいことを気にしちゃ駄目デスよ」
ダークは苛立ちを隠そうともしない。
一方ウィズは笑顔で答えているものの、目がどこか真剣みを帯びている。
どこの嫁姑戦争であろうか。
まあまあ、とシャドーがダークを宥め、さっそく食べ始めた。
柔らかくジューシーなそれは、満足のいく仕上がりであった。
「あれ、今日のニンジン甘い?」
シャドーは不思議そうな顔をしながら付け合せのニンジンを頬張った。
「ああそれ、ウィズが作ってくれたやつよ。
キャロットグラッセね」
「まぁ、ミーもランに教わっただけなのデスが」
「えー!でもすごーい!
すっごくおいしいよ!
ウィズっていいお父さんになりそう」
「パパと呼んでくれてもいいのデスよ?
そうなりたいくらいデスから」
「それって……!」
「ちょっ、何言って……!」
爆弾発言にシャドーは目を輝かせ、マインドは目を見開き、ダークは飲んでいた茶を噴いた。
「ちょ、ちょっとなにやってるのよ、大丈夫?」
マインドは布巾をダークに手渡した。
ダークは「すまない……」と低く呟くと噴いた茶を拭く。
「パパ~!
……うーん、でもダディの方が似合うかな?」
「好きに呼んでくれて構いマセンよ!」
「ねえねえ、ダークはどっちがいい?」
シャドーがダークに話を振ると、彼はくわっと目を見開いて机をダンッと叩き、椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がった。
そしてウィズをびしっと指差し、屹然と言い放つ。
「……俺は認めないからな!
こんな変態が父親とか絶ッ対嫌だ!」
「大丈夫、ダークも満遍なく変態だから」
シャドーの冷静過ぎるツッコミに、今度はウィズがお茶に咽た。
そのまま激しく咳き込んでしまう。
「ちょ、ちょっとなにやってるのよ、大丈夫?」
またもやマインドが、ウィズの背中を甲斐甲斐しく叩いた。
「す、すみま、せ、ゲホッ」
「あらら、これじゃあお父さんというよりは息子かしら?」
呆れたように言うマインド。
しかし、その瞳に愛おしさが滲んでいるのを、シャドーとダークはしっかりと見ていた。
食事が終わり後片付けも済み、シャドーとダークは自室に戻った。
マインドとウィズはリビングのソファでくつろいでいる。
「……さっき、シャドーさんに夫婦みたいって言われたとき、動揺してマシタよね?」
「だって、急にあんなこと言われたから……」
「……ミーは思ってマスよ」
「何が?」
「あの子たちのファザーになりたいって」
「な……っ!」
彼の言わんとする意味を察し、マインドの頬がじわじわと赤くなっていく。
そんな彼女を、ウィズは愛おしむように見つめた。
「今度、御挨拶に向かわなければ……この場合はダークマターさんがお義母さんで、ゼロさんがお義父さんでいいのデショウか?」
割烹着を着たダークマターとスーツを着たゼロを想像し、照れたのも忘れてマインドは噴き出す。
そのままお腹を抱えて笑い始めた。
「ちょっと、変なの想像させないでよ……!
特にマター似合わなすぎる!似合わないにも程があるっ!」
「その前に、ダークくんに認めてもらわなきゃデスけどね」
ダークは終始ウィズのことを警戒していた。
彼にとってはマインドは母親的存在であるのだから、それも仕方ないのだろう。
マザコンなどとは絶対に言ってはいけない。
「……あの子も悪い子じゃないのよ。
だから気を悪くしないで」
「わかってマスよ、あれくらい可愛いもんデス。
それに彼はユーの息子デスからね、悪い子のわけがありまセン」
「フフ、自慢の息子よ。
まあ、今日のキャロットグラッセ、あの子も美味しそうに食べていたし。
その内認めてくれるわよ」
「そうデスよね!ミー頑張りマス!
……で、さっきから周りの反応ばかり話してマスが」
ニコニコしていたウィズの表情が、不意に真剣なそれに変わる。
姿勢を正すと、ソファのスプリングが小さく軋んだ。
「ユー自身はどう思ってますか?」
マインドは一瞬言葉に詰まる。
みるみるうちに顔は赤く染まり、視線を泳がせる。
「……かっ、家事手伝ってくれるなら、考えるわ」
これが彼女の精一杯の返答だった。
本当はマインドもウィズがそう思ってくれていたことが嬉しかった。
しかし見た目より本当は幼い彼女にまだ結婚なんて実感がわかなくて。
しかも照れていたからか、少しぶっきらぼうな言い方になってしまう。
そういうところもすべてひっくるめて愛しているからこそ、ウィズも心底嬉しそうに笑った。
「ヘヘッ、じゃあもっと料理のレパートリー増やしマスね!
明日からランと作りまショウか……」
楽しそうに明日からの予定を立てるウィズ。
ふとマインドは料理中のことを思い出した。
「それにしてもウィズって料理上手いのね、驚いたわ」
彼の包丁の扱いなどは目を見張るものがあった。
正直、あまり料理ができそうに見えないから余計に驚いたのもあるが。
指摘され、彼は少し照れ臭そうに笑った。
「まあ、ランに会う前は自分でやってマシたから。
……今はまかせっきりデスが」
「魔法ではやらないの?」
「魔法だけに頼っちゃ駄目なんデス。
もしかしたら魔力は有限かもしれマセンから……。
魔法にばっかり頼ってると、もし尽きたとき無能になってしまうデショ?
だから日常的なことはなるべく魔法を使わないようにしてるのデス」
彼ら魔法使いはまだ謎が多く、自分たちですらよくわかっていない。
魔力が尽きるという可能性も十分に考えられるのだ。
きちんと考えて生活しているんだ……とマインドは感心した。
「じゃあ怪我の治療も?」
「まあ基本的には。
重症の時は使いマスがね。
死んじゃったら元も子もありマセンから」
「……それなのにさっきは治してくれたのね」
「そりゃあ、マインド様の為デスからねぇ」
「……ありがとう」
はにかみながら彼女がお礼を言うと、ウィズの顔が赤く染まった。
「ウィズ赤くなってる、可愛い」
「や、やめてくだサイ!
可愛いと言われても嬉しくないデス!」
「フフッ、だって可愛いんだもの」
マインドがほっぺを軽く突くと、ウィズは少し拗ねたような表情を浮かべた。
クスリと笑い、ウィズに甘えるように寄り添う。
「……こういうのも、いいわね」
ウィズの腕に自分の腕を絡め、ぎゅっと抱きしめた。
豊満な胸が腕にもろに押し当てられ、ウィズは慌ててふためき更に真っ赤になった。
「マ、マッ、マインド様、胸、胸がっ」
「……ねぇ」
少し蜜を孕んだ声に、ウィズは息を呑む。
沈黙が降りるが言葉は続かない――否、あえて続けない。
マインドは誘惑するように妖艶な視線を投げかけた。
口でなく、その瞳で語るように。
それに引き寄せられるように、ウィズは彼女の方へとスッと顔を寄せた。
「……さっきの続き、してもいいデスか?」
「……来るなら来なさい」
二つの唇が、ゆっくりと重なる。
恋人以上家族未満
その瞬間を、シャドーとダークは薄く開けた扉の隙間からしっかりと見ていた。
NEXT
→あとがき
薄暗がりに佇む人物が二人。
男性――ウィズはスッと女性の腰を抱き寄せ、女性の額に口付けを落とす。
「ちょっ……!」
真っ赤になった女性……ダークマインドは咄嗟にウィズから離れようとする。
彼はそれを阻んで腕の中に抱き寄せた。
悔しそうな表情を浮かべるマインドだが、抵抗はしない。
「……仕返しよ」
マインドは少し背伸びをすると、ウィズの頬にキスをした。
ウィズは柔らかく笑うと、彼女の髪をさらりと梳く。
「マインド様……可愛いデス……」
ウィズは彼女の額にもう一度口付けた。
口付けは額から目蓋、頬に移り唇の端へと、だんだんと唇に近づいていく。
「もう、くすぐったい……」
「マインド様……」
甘さを孕んだ琥珀色の瞳と黄色い瞳が見つめあい、どちらからともなくそっと閉じられた。
二人の唇が、少しずつ距離を縮めていく。
それは長いような短いような、甘美な夢のような一時で。
そしてまさに重なろうとした瞬間、
「帰ったぞー!」
最悪な……いや、ある意味では素晴らしいタイミングでダークメタナイトが扉を開けた。
二人はバネじかけのおもちゃのように慌てて飛びのき、不自然に眼を逸らした。
「おっ、おかえりなさいマセ!」
「おかえり!今日は早かったのね!
ごっ、ごめん夕飯これからつくるから!」
マインドは早口にそう言うと、逃げるようにキッチンへと飛んで行った。
ウィズも「て、手伝いマス!」とそれに続く。
ダークに続いて部屋に入ったシャドーは、彼に呆れた視線を向けた。
「……ねぇダーク、わざとでしょ?」
「フン、なんのことだ?」
そらとぼけているダークに、シャドーは大きく溜息をついた。
「邪魔しないであげなよ。
マインドって、ダークマター族ではまだ女の子って言っても良いくらいなんだよ?
見守ってあげようよ」
「……わかってはいる、が……」
いたたまれなくなって、ダークはシャドーから目を逸らす。
シャドーの言い分もわかっていた。
一方シャドーも、ダークの気持ちを理解していた。
彼らにとって彼女は、大切な母親的存在。
幸せになってほしい気持ちも、自分たちから離れていってしまうような寂しさも両方持ち合わせているからこそ、複雑なのである。
「まぁ、からかうのはとっても楽しいけどね!」
「……それもどうかと思うが」
シャドーとダークがキッチンへ向かうと、マインドとウィズはキッチンで何かを作っていた。
今日は何にするの、とシャドーが聞くと、ハンバーグよと答える声が返って来た。
「ウィズ、包丁とって」
「ハイ」
マインドが玉ねぎを刻んでいる間、ウィズは付け合せのためのニンジンを洗い、ピーラーで皮をむき始めた。
その手つきはずいぶん手馴れている。
彼女らの様子を、シャドーはニヤニヤと笑いながら、ダークは少し不満そうに眺めていた。
「?どうしたのシャドー、そんなにニヤニヤして」
「えっとね、なんかそうしてると夫婦みたいだなと思って!」
笑顔で答えるシャドー。
次の瞬間、ダンッ、と不自然な音がした。
その場にいた全員がしんと静まり返る。
沈黙が重い。
「あ、切れた」
一番最初に声を出したのは、マインドであった。
その声で我に返ったのか、シャドーが叫んだ。
「うああああああああマインド血!血出てるううううううう!!!!!!」
マインドの指からはダラダラと血が流れていた。
相当深く切ったらしい。
しかしマインドはさして慌てた様子もなく、冷静に状況を把握していた。
「マインド様っ……!?
いくらなんでももう少しリアクションを……!」
「ごめんなさいごめんなさいボクが変なこと言ったから!」
「きゅ、救急車!救急車を呼べ!117番!」
「落ち着いて!大丈夫だからね!
救急車は要らない上に117番は時報よ!」
「そうだよダーク!177!177だよ!」
「177は天気予報だからね!!
今の天気知っても何もならないからね!!」
「快晴だそうだ!」
「やったね!」
「かけたの!?ねえかけたの!?」
パニックになる二人と律儀にツッコミを入れるマインドをよそに、ウィズは彼女の手を取った。
「ウィズ?触ると血が……」
彼はそのまま、マインドの指先をパクリと咥えた。
「ちょ……っ!?」
3人とも見事に固まった。
指先を柔らかな舌が這い、マインドはぴくりと身体を震わせた。
流れていた血を舐めとり、そっと口を離す。
新たに血が流れ出す前に、ウィズは一瞬だけ真剣な表情になった。
「θεραπε・α」
赤色の光がポウ、とマインドの指に灯る。
そしてその光が消えたとき、彼女の傷はすっかりと無くなっていた。
「治った……だと……」
「簡単な治癒魔法デスよ」
「あ、ありがとう……」
いえいえ、とウィズは笑うと、再びピーラーを動かし始める。
マインドもそれに続いて、一度手を洗うと再び包丁を動かし始めた。
ハプニングもあったが、ハンバーグは美味しく仕上がった。
当たり前のように4人で食卓を囲むと、ダークはウィズを睨みつける。
「……なぜ貴様がいる?」
「ヘヘッ、細かいことを気にしちゃ駄目デスよ」
ダークは苛立ちを隠そうともしない。
一方ウィズは笑顔で答えているものの、目がどこか真剣みを帯びている。
どこの嫁姑戦争であろうか。
まあまあ、とシャドーがダークを宥め、さっそく食べ始めた。
柔らかくジューシーなそれは、満足のいく仕上がりであった。
「あれ、今日のニンジン甘い?」
シャドーは不思議そうな顔をしながら付け合せのニンジンを頬張った。
「ああそれ、ウィズが作ってくれたやつよ。
キャロットグラッセね」
「まぁ、ミーもランに教わっただけなのデスが」
「えー!でもすごーい!
すっごくおいしいよ!
ウィズっていいお父さんになりそう」
「パパと呼んでくれてもいいのデスよ?
そうなりたいくらいデスから」
「それって……!」
「ちょっ、何言って……!」
爆弾発言にシャドーは目を輝かせ、マインドは目を見開き、ダークは飲んでいた茶を噴いた。
「ちょ、ちょっとなにやってるのよ、大丈夫?」
マインドは布巾をダークに手渡した。
ダークは「すまない……」と低く呟くと噴いた茶を拭く。
「パパ~!
……うーん、でもダディの方が似合うかな?」
「好きに呼んでくれて構いマセンよ!」
「ねえねえ、ダークはどっちがいい?」
シャドーがダークに話を振ると、彼はくわっと目を見開いて机をダンッと叩き、椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がった。
そしてウィズをびしっと指差し、屹然と言い放つ。
「……俺は認めないからな!
こんな変態が父親とか絶ッ対嫌だ!」
「大丈夫、ダークも満遍なく変態だから」
シャドーの冷静過ぎるツッコミに、今度はウィズがお茶に咽た。
そのまま激しく咳き込んでしまう。
「ちょ、ちょっとなにやってるのよ、大丈夫?」
またもやマインドが、ウィズの背中を甲斐甲斐しく叩いた。
「す、すみま、せ、ゲホッ」
「あらら、これじゃあお父さんというよりは息子かしら?」
呆れたように言うマインド。
しかし、その瞳に愛おしさが滲んでいるのを、シャドーとダークはしっかりと見ていた。
食事が終わり後片付けも済み、シャドーとダークは自室に戻った。
マインドとウィズはリビングのソファでくつろいでいる。
「……さっき、シャドーさんに夫婦みたいって言われたとき、動揺してマシタよね?」
「だって、急にあんなこと言われたから……」
「……ミーは思ってマスよ」
「何が?」
「あの子たちのファザーになりたいって」
「な……っ!」
彼の言わんとする意味を察し、マインドの頬がじわじわと赤くなっていく。
そんな彼女を、ウィズは愛おしむように見つめた。
「今度、御挨拶に向かわなければ……この場合はダークマターさんがお義母さんで、ゼロさんがお義父さんでいいのデショウか?」
割烹着を着たダークマターとスーツを着たゼロを想像し、照れたのも忘れてマインドは噴き出す。
そのままお腹を抱えて笑い始めた。
「ちょっと、変なの想像させないでよ……!
特にマター似合わなすぎる!似合わないにも程があるっ!」
「その前に、ダークくんに認めてもらわなきゃデスけどね」
ダークは終始ウィズのことを警戒していた。
彼にとってはマインドは母親的存在であるのだから、それも仕方ないのだろう。
マザコンなどとは絶対に言ってはいけない。
「……あの子も悪い子じゃないのよ。
だから気を悪くしないで」
「わかってマスよ、あれくらい可愛いもんデス。
それに彼はユーの息子デスからね、悪い子のわけがありまセン」
「フフ、自慢の息子よ。
まあ、今日のキャロットグラッセ、あの子も美味しそうに食べていたし。
その内認めてくれるわよ」
「そうデスよね!ミー頑張りマス!
……で、さっきから周りの反応ばかり話してマスが」
ニコニコしていたウィズの表情が、不意に真剣なそれに変わる。
姿勢を正すと、ソファのスプリングが小さく軋んだ。
「ユー自身はどう思ってますか?」
マインドは一瞬言葉に詰まる。
みるみるうちに顔は赤く染まり、視線を泳がせる。
「……かっ、家事手伝ってくれるなら、考えるわ」
これが彼女の精一杯の返答だった。
本当はマインドもウィズがそう思ってくれていたことが嬉しかった。
しかし見た目より本当は幼い彼女にまだ結婚なんて実感がわかなくて。
しかも照れていたからか、少しぶっきらぼうな言い方になってしまう。
そういうところもすべてひっくるめて愛しているからこそ、ウィズも心底嬉しそうに笑った。
「ヘヘッ、じゃあもっと料理のレパートリー増やしマスね!
明日からランと作りまショウか……」
楽しそうに明日からの予定を立てるウィズ。
ふとマインドは料理中のことを思い出した。
「それにしてもウィズって料理上手いのね、驚いたわ」
彼の包丁の扱いなどは目を見張るものがあった。
正直、あまり料理ができそうに見えないから余計に驚いたのもあるが。
指摘され、彼は少し照れ臭そうに笑った。
「まあ、ランに会う前は自分でやってマシたから。
……今はまかせっきりデスが」
「魔法ではやらないの?」
「魔法だけに頼っちゃ駄目なんデス。
もしかしたら魔力は有限かもしれマセンから……。
魔法にばっかり頼ってると、もし尽きたとき無能になってしまうデショ?
だから日常的なことはなるべく魔法を使わないようにしてるのデス」
彼ら魔法使いはまだ謎が多く、自分たちですらよくわかっていない。
魔力が尽きるという可能性も十分に考えられるのだ。
きちんと考えて生活しているんだ……とマインドは感心した。
「じゃあ怪我の治療も?」
「まあ基本的には。
重症の時は使いマスがね。
死んじゃったら元も子もありマセンから」
「……それなのにさっきは治してくれたのね」
「そりゃあ、マインド様の為デスからねぇ」
「……ありがとう」
はにかみながら彼女がお礼を言うと、ウィズの顔が赤く染まった。
「ウィズ赤くなってる、可愛い」
「や、やめてくだサイ!
可愛いと言われても嬉しくないデス!」
「フフッ、だって可愛いんだもの」
マインドがほっぺを軽く突くと、ウィズは少し拗ねたような表情を浮かべた。
クスリと笑い、ウィズに甘えるように寄り添う。
「……こういうのも、いいわね」
ウィズの腕に自分の腕を絡め、ぎゅっと抱きしめた。
豊満な胸が腕にもろに押し当てられ、ウィズは慌ててふためき更に真っ赤になった。
「マ、マッ、マインド様、胸、胸がっ」
「……ねぇ」
少し蜜を孕んだ声に、ウィズは息を呑む。
沈黙が降りるが言葉は続かない――否、あえて続けない。
マインドは誘惑するように妖艶な視線を投げかけた。
口でなく、その瞳で語るように。
それに引き寄せられるように、ウィズは彼女の方へとスッと顔を寄せた。
「……さっきの続き、してもいいデスか?」
「……来るなら来なさい」
二つの唇が、ゆっくりと重なる。
恋人以上家族未満
その瞬間を、シャドーとダークは薄く開けた扉の隙間からしっかりと見ていた。
NEXT
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