Sweet Sweet
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2月14日と言えばバレンタインデーだ。
バレンタインデーとは、甘くて苦い菓子に想いを込めて意中の相手に渡す特別な日だ。
最近では友達や家族間で贈り合うこともあるらしいが、何かしらの気持ち――親愛の気持ちや感謝の気持を込めて渡す点には変わりないだろう。
まあ、実際はチョコレート業界の思惑に乗せられているだけなのだろうが。
それでも経済は活発化するし、人々のモチベーションも上がるのならばそれも良いだろう。
(一部凹んでいる男性がいることにはあえて触れない)
それはともかく。
今年のそれは、俺とブレイドが付き合ってから初めて迎えるバレンタインだ。
……別に期待しているわけではない。
それに、卿か陛下の嫌がらせなのかその日にもみっちりと訓練が入っている。
そんな甘い雰囲気を期待できるような状況ではない。
……いや、別に期待しているわけではない。
そもそも俺らの中でバレンタインといえば、どちらの方が多くチョコレートをもらえるかのイベントだった。
俺達は仕事柄、村人からチョコをもらうことも多い。
もちろん義理だということはわかってはいるが。
……だから別に期待しているわけじゃない!
そりゃ、欲しいか欲しくないか聞かれたらめちゃくちゃ欲しい、それは認める。
だがアイツはそういうタイプじゃないし、欲しいと言ってもらうのもなんか虚しいし……。
だから!期待してるわけじゃないってば!
***
バレンタイン当日の任務帰り。
待ち構えていた女性陣に、チョコレートと思しき箱を差し出された。
「ソードさん、これどうぞ!」
「いつも国の平和を守ってくれてありがとうございます!」
その笑みに深い意味は無く、純粋に騎士として慕ってくれているのだろう。
俗に言う“義理チョコ”だ。
去年までは躊躇いなく受け取っていた。
だが、今年からは少し事情が違う。
「あ……お気持ちはありがたいですが……しかし……」
受け取ろうとした手をそのまま止め、ちらりと横を見る。
ブレイドは俺が他の人からチョコレートをもらって、怒ったりしないだろうか?
一応俺彼氏だし……。
が、俺が見た光景は
「ブレイド様……!
これ、受け取ってください!」
「ありがとう、いただきます」
「いっ、いつも応援してます!
これからも頑張ってください……!」
「そう言ってもらえると頑張れるよ、ありがとう」
熱っぽい視線をブレイドに向けながらチョコレートを差し出す少女らと、王子様のような笑顔で受け取る彼女の姿だった。
何を隠そうブレイドは、女性と判明する前から女性から人気があった。
中性的な見た目と騎士道精神の組み合わせが、どうやらウケが良いらしい。
ちなみに俺以上に人気がある。
……少し嫉妬しているのは否めない。
やけに女性の扱いが上手いとは前々から思っていたが、本人が女性だと考えると合点がいく。
ちなみに女性とわかってからは、違う意味でモテているような気もする……そう、百合的な意味で……。
まあそれはともかく、笑顔で受け取っているブレイドに苛立ちを覚えてしまったわけで。
理不尽だとわかっていても、胸にはモヤモヤとしたものが立ち込めていく。
「ソード様?」
「ああ、なんでもないよ。
ありがとう」
別に気にすることもないか、と俺も素直に受け取ってしまった。
***
あれから一度部屋に戻ってチョコを入れるための袋を持ってきた。
経験上、抱えきれないほどいただけるのは承知していたからだ。
案の定、袋が満杯になるほどのチョコをいただいた。
今にも底が抜けてしまいそうだ。
正直、食べきれる自信がない……。
「毎年この日は大漁だな」
ブレイドはクスリと笑った。
意外にも甘いもの好きな彼女だ、純粋にチョコが嬉しいのだろう。
「こんなに食べて鼻血が出なければ良いが」
「知ってるか?
それって科学的根拠は無いらしいぞ」
「そうなのか?」
「あ、でもやっぱり微妙に関係あるんだっけな……血管を拡張させる物質?があるらしい。
他にも諸説があるって話」
「そういや体にいいって話も聞くよな」
何とも色気のない会話である。
何が嬉しくてチョコレートの効能の話なんてしているのだろうか……。
そう溜め息をついてしまいそうになったとき、不意に目の前に何かが差し出された。
「あー………やるよ」
ぶっきらぼうに差し出される箱。
緋色のリボンは彼女の瞳の色。
彼女の頬もまた緋い。
一瞬、何を見せられているのかわからなかった。
声も出せず、固まってしまう。
「要らないのか?」
「いやいやいや要るに決まってるだろ!
もらう!ください!頼むから!」
引っ込めようとする彼女の腕を、慌てて掴む。
我ながら滑稽なほど必死だ。
「……そんなに欲しいならくれてやらんこともない」
こちらを見ないまま突き出されたそれを、壊れ物のように大切に受け取った。
まさか、用意してくれているとは思わなかった。
「ありがとうな」
お礼を言うと、ブレイドはプイとそっぽを向いてしまう。
どうやら相当照れているらしい。
「べ、別にお前のために作ったわけじゃないんだからな!
「ええええええこれ手作りなのか!?」
「カービィ殿たちに無理矢理誘われて付き合いで……っ
で、でも捨てるのはもったいないからあげるってだけなんだからなっ!」
もらうだけでも嬉しいのに、まさか手作りとは……。
かつて「おおさじいっぱい!」とか言ってたブレイドがチョコを……。
こうは言っているが、俺のために作ってくれたのはどう見ても明らかで。
それがどうしようもなく嬉しい。
胸が甘く締め付けられ、今すぐにでも彼女を抱き締めたくなるのをグッと堪えた。
一応公衆の面前だからな。
自重しないと……ああいやしかし……。
「あーもう、ほら帰るぞ!
日が暮れるだろ!」
「ちょっ、待てよブレイド!」
邪なことを考えている俺を置いてずんずん歩いていってしまう。
追いかけようとすると「あ、ブレイド!」と、聞き慣れたカービィ殿の声がした。
彼女は何故か肩を震わせて固まった。
「か、かぁびぃ、どの……?」
挙動不審なブレイドに構わず、カービィ殿はこちらに駆け寄ってくる。
俺の手元にある箱を見ると嬉しそうな表情を浮かべた。
「よかった、無事に渡せたみたいだね!」
「!?ちょっ、かーびっ」
「ブレイド、すっごく一生懸命だったんだよー?
キミに見せてあげたかったくらい」
ニコニコニヤニヤと笑うカービィ殿の横で、ブレイドはこれ以上ないくらいに真っ赤になっていた。
「カ、カービィ殿、それ以上は……!」
「できあがったとき、ほんっっっとうに嬉しそうだったんだよー!
『喜んでくれるかな……』なんてもうこっちが妬けちゃうくらいに」
「うあああああああああっ!!」
ブレイドが慌ててカービィ殿の口を塞いだが時すでに遅し。
俺はハッキリと聞いてしまっていた。
「モゴモゴ……そんな恥ずかしがらなくたっていいじゃん」
「で、ですが……!」
カービィ殿はひらりとブレイドの拘束から逃れ、悪戯っぽい目で俺の顔をジッと見つめた。
「ねぇソード?
それにはブレイドの気持ちがいーっぱい詰まってるんだから、ちゃあんと味わって食べなきゃダメだよ?」
「カ、カービィ殿おおおおおおおおっ!!」
「あははっ、じゃあね!」
そのまま何処かへ走り去っていってしまった。
……彼女は本当にいい性格をしていると思う、いろんな意味で。
ブレイドがこちらには目もくれず足早に進んでいくのを追いかけ、横に並ぶ。
「……で、カービィ殿はああ言っていたわけだが」
「な、なんだよ」
「ブレイド、俺のために作ってくれたんだろ?」
「……そうだよ」
相変わらずこちらを見てくれないけど認めてくれた。
俺のためなのはもうわかりきっていたけれど、ちゃんと認めてくれたのが嬉しい。
それだけでもう、何もかもが満足だった。
なんだかんだ言い訳しても、本当はブレイドから欲しかったんだ。
だからさっきも苛立ってしまった……大人げなかったな。
しかも一生懸命に作ってくれていたなんて……。
そう思うと今俺の手にあるものは、どんな高級チョコレートとも比べ物にならない一等品だった。
「……なんか食べるの勿体無いな。
大事に取っておきたいくらいだ」
「腐るだろ」
速攻でツッコまれた。
まぁ、正論だろう。
「……お前に食べてもらうために作ったんだ……だから、ちゃんと食べろ……」
「なッ……!」
唐突なデレに心臓がドクンと大きく脈打った。
歩む足も思わず止まってしまう。
「っ……本当そういうのさぁ……」
「何だ?」
ブレイドはきょとんとしている。
自分がどれ程の爆弾発言をしたのか全く気付いていないのだろう。
危うくこの往来で抱き締めてしまうところだったというのに。
……そういう天然なところも含めて、俺は彼女に魅入られているわけだが。
まあいい、恥ずかしいから話を変えよう……と止まった足を慌てて動かしながら、他の話題を探す。
「俺、コレがあれば十分だったのに」
自然とさっきまで考えていたことが口に出ていた。
あの時はカッとなっていたが、今はあてつけがましく受け取ったことを少し後悔している。
こんな風に用意してくれていたなら、あんなことをしなければよかった。
ブレイドは神妙な顔つきで、俺の顔を見つめた。
「本当はな……ちょっとだけ嫌だった」
「?何がだ?」
「ソードがチョコ受け取ってるの」
え、と再び足が止まる。
ブレイドの顔が少し悲しそうにも見えて、ズキンと胸が痛む。
だがブレイドはそんな素振り全く見せていなかった……と思う。
「いや、ブレイドも受け取ってただろ?」
「……俺、一応女だぞ?
だから確実に義理だろう?」
いや、見ている限りではそうでもない気もするのだが。
そういえばあの女の子ら、俺にはチョコくれなかったな……。
それどころか睨まれたような……いやいや、深く考えるのはやめよう。
まあ、当の本人にしてみれば義理にしか思えないのだろう。
たしかによく考えれば、女であるブレイドが受け取るのと男である俺が受け取るのでは、たとえ義理でも少し事情が違う。
ということは、ブレイドはもしかして……?
「嫉妬してくれていたのか?」
「ち、違っ!
ただちょっとモヤモヤして嫌だっただけだ!!」
「あのなブレイド、それを世間では嫉妬と呼ぶんだ」
「そ、そんなのじゃない!
だって、俺、仕方がないってこともわかっているつもりだ……。
皆純粋に俺達のことを騎士として慕ってくれていて、その気持ちを無下に扱う訳にはいかないだろ?
でも実際に受け取ってるの見るとなんか苦しくて……ああもう自分でも何が言いたいのかわからなっ……」
身体が勝手に動いていた。
彼女を抱き寄せて口付ける。
俺はもう2回我慢した。
そんな可愛いことを言うブレイドが悪い。
唇を離すと、彼女はあわあわしながら周りに人がいないか確認し、俺を恨めしそうに睨んだ。
「きゅ、急にこういうことするな!
ビックリするだろ……っ!?」
「ごめんな。
今年もらったものを捨てるわけにはいかないけど、もう来年からは受け取らない」
「会話の繋がりが意味不明な上に、別にそういう意味で言ったわけじゃ……!」
「じゃあ言い方を変える。
……ブレイドの以外は要らない」
「!!」
これが俺の本心だった。
少しでもブレイドが嫌な思いをするのならば、他の人のは要らない。
たった一人、愛する人からのチョコレートを貰えたら十分だった。
さっきこれ以上ないほどに赤いと思っていたが、彼女は更に赤くなっていた。
実はかなり俺も恥ずかしかったりするのだが。
唇を尖らせ、目を泳がせるのは彼女が照れているときの癖。
その仕草も可愛くて大好きだ。
「……来年も作るとは限らないぞ。
で、でもっ……気が向いたらまた、作ってやらないこともない……」
「じゃあ期待してる。
……その前にホワイトデーだな。
有給とってどこか行こうか?」
「……ん」
ふわりと和らいだ顔で笑うブレイド。
あの時の営業スマイルとは違う、俺だけに見せる柔らかな表情。
ああ、この胸を満たすこの気持ちは、きっとどんな菓子にも比べ物にならないほどに甘いのだろう。
ただ一つ、このチョコレートを除いては。
そのままポスッと俺の胸に頭を押し付ける彼女が愛おしくて、俺はもう一度強く抱きしめた。
sweet sweet
(ブレイドはなにを作ってくれたのだろう?)
NEXT
→あとがき
バレンタインデーとは、甘くて苦い菓子に想いを込めて意中の相手に渡す特別な日だ。
最近では友達や家族間で贈り合うこともあるらしいが、何かしらの気持ち――親愛の気持ちや感謝の気持を込めて渡す点には変わりないだろう。
まあ、実際はチョコレート業界の思惑に乗せられているだけなのだろうが。
それでも経済は活発化するし、人々のモチベーションも上がるのならばそれも良いだろう。
(一部凹んでいる男性がいることにはあえて触れない)
それはともかく。
今年のそれは、俺とブレイドが付き合ってから初めて迎えるバレンタインだ。
……別に期待しているわけではない。
それに、卿か陛下の嫌がらせなのかその日にもみっちりと訓練が入っている。
そんな甘い雰囲気を期待できるような状況ではない。
……いや、別に期待しているわけではない。
そもそも俺らの中でバレンタインといえば、どちらの方が多くチョコレートをもらえるかのイベントだった。
俺達は仕事柄、村人からチョコをもらうことも多い。
もちろん義理だということはわかってはいるが。
……だから別に期待しているわけじゃない!
そりゃ、欲しいか欲しくないか聞かれたらめちゃくちゃ欲しい、それは認める。
だがアイツはそういうタイプじゃないし、欲しいと言ってもらうのもなんか虚しいし……。
だから!期待してるわけじゃないってば!
***
バレンタイン当日の任務帰り。
待ち構えていた女性陣に、チョコレートと思しき箱を差し出された。
「ソードさん、これどうぞ!」
「いつも国の平和を守ってくれてありがとうございます!」
その笑みに深い意味は無く、純粋に騎士として慕ってくれているのだろう。
俗に言う“義理チョコ”だ。
去年までは躊躇いなく受け取っていた。
だが、今年からは少し事情が違う。
「あ……お気持ちはありがたいですが……しかし……」
受け取ろうとした手をそのまま止め、ちらりと横を見る。
ブレイドは俺が他の人からチョコレートをもらって、怒ったりしないだろうか?
一応俺彼氏だし……。
が、俺が見た光景は
「ブレイド様……!
これ、受け取ってください!」
「ありがとう、いただきます」
「いっ、いつも応援してます!
これからも頑張ってください……!」
「そう言ってもらえると頑張れるよ、ありがとう」
熱っぽい視線をブレイドに向けながらチョコレートを差し出す少女らと、王子様のような笑顔で受け取る彼女の姿だった。
何を隠そうブレイドは、女性と判明する前から女性から人気があった。
中性的な見た目と騎士道精神の組み合わせが、どうやらウケが良いらしい。
ちなみに俺以上に人気がある。
……少し嫉妬しているのは否めない。
やけに女性の扱いが上手いとは前々から思っていたが、本人が女性だと考えると合点がいく。
ちなみに女性とわかってからは、違う意味でモテているような気もする……そう、百合的な意味で……。
まあそれはともかく、笑顔で受け取っているブレイドに苛立ちを覚えてしまったわけで。
理不尽だとわかっていても、胸にはモヤモヤとしたものが立ち込めていく。
「ソード様?」
「ああ、なんでもないよ。
ありがとう」
別に気にすることもないか、と俺も素直に受け取ってしまった。
***
あれから一度部屋に戻ってチョコを入れるための袋を持ってきた。
経験上、抱えきれないほどいただけるのは承知していたからだ。
案の定、袋が満杯になるほどのチョコをいただいた。
今にも底が抜けてしまいそうだ。
正直、食べきれる自信がない……。
「毎年この日は大漁だな」
ブレイドはクスリと笑った。
意外にも甘いもの好きな彼女だ、純粋にチョコが嬉しいのだろう。
「こんなに食べて鼻血が出なければ良いが」
「知ってるか?
それって科学的根拠は無いらしいぞ」
「そうなのか?」
「あ、でもやっぱり微妙に関係あるんだっけな……血管を拡張させる物質?があるらしい。
他にも諸説があるって話」
「そういや体にいいって話も聞くよな」
何とも色気のない会話である。
何が嬉しくてチョコレートの効能の話なんてしているのだろうか……。
そう溜め息をついてしまいそうになったとき、不意に目の前に何かが差し出された。
「あー………やるよ」
ぶっきらぼうに差し出される箱。
緋色のリボンは彼女の瞳の色。
彼女の頬もまた緋い。
一瞬、何を見せられているのかわからなかった。
声も出せず、固まってしまう。
「要らないのか?」
「いやいやいや要るに決まってるだろ!
もらう!ください!頼むから!」
引っ込めようとする彼女の腕を、慌てて掴む。
我ながら滑稽なほど必死だ。
「……そんなに欲しいならくれてやらんこともない」
こちらを見ないまま突き出されたそれを、壊れ物のように大切に受け取った。
まさか、用意してくれているとは思わなかった。
「ありがとうな」
お礼を言うと、ブレイドはプイとそっぽを向いてしまう。
どうやら相当照れているらしい。
「べ、別にお前のために作ったわけじゃないんだからな!
「ええええええこれ手作りなのか!?」
「カービィ殿たちに無理矢理誘われて付き合いで……っ
で、でも捨てるのはもったいないからあげるってだけなんだからなっ!」
もらうだけでも嬉しいのに、まさか手作りとは……。
かつて「おおさじいっぱい!」とか言ってたブレイドがチョコを……。
こうは言っているが、俺のために作ってくれたのはどう見ても明らかで。
それがどうしようもなく嬉しい。
胸が甘く締め付けられ、今すぐにでも彼女を抱き締めたくなるのをグッと堪えた。
一応公衆の面前だからな。
自重しないと……ああいやしかし……。
「あーもう、ほら帰るぞ!
日が暮れるだろ!」
「ちょっ、待てよブレイド!」
邪なことを考えている俺を置いてずんずん歩いていってしまう。
追いかけようとすると「あ、ブレイド!」と、聞き慣れたカービィ殿の声がした。
彼女は何故か肩を震わせて固まった。
「か、かぁびぃ、どの……?」
挙動不審なブレイドに構わず、カービィ殿はこちらに駆け寄ってくる。
俺の手元にある箱を見ると嬉しそうな表情を浮かべた。
「よかった、無事に渡せたみたいだね!」
「!?ちょっ、かーびっ」
「ブレイド、すっごく一生懸命だったんだよー?
キミに見せてあげたかったくらい」
ニコニコニヤニヤと笑うカービィ殿の横で、ブレイドはこれ以上ないくらいに真っ赤になっていた。
「カ、カービィ殿、それ以上は……!」
「できあがったとき、ほんっっっとうに嬉しそうだったんだよー!
『喜んでくれるかな……』なんてもうこっちが妬けちゃうくらいに」
「うあああああああああっ!!」
ブレイドが慌ててカービィ殿の口を塞いだが時すでに遅し。
俺はハッキリと聞いてしまっていた。
「モゴモゴ……そんな恥ずかしがらなくたっていいじゃん」
「で、ですが……!」
カービィ殿はひらりとブレイドの拘束から逃れ、悪戯っぽい目で俺の顔をジッと見つめた。
「ねぇソード?
それにはブレイドの気持ちがいーっぱい詰まってるんだから、ちゃあんと味わって食べなきゃダメだよ?」
「カ、カービィ殿おおおおおおおおっ!!」
「あははっ、じゃあね!」
そのまま何処かへ走り去っていってしまった。
……彼女は本当にいい性格をしていると思う、いろんな意味で。
ブレイドがこちらには目もくれず足早に進んでいくのを追いかけ、横に並ぶ。
「……で、カービィ殿はああ言っていたわけだが」
「な、なんだよ」
「ブレイド、俺のために作ってくれたんだろ?」
「……そうだよ」
相変わらずこちらを見てくれないけど認めてくれた。
俺のためなのはもうわかりきっていたけれど、ちゃんと認めてくれたのが嬉しい。
それだけでもう、何もかもが満足だった。
なんだかんだ言い訳しても、本当はブレイドから欲しかったんだ。
だからさっきも苛立ってしまった……大人げなかったな。
しかも一生懸命に作ってくれていたなんて……。
そう思うと今俺の手にあるものは、どんな高級チョコレートとも比べ物にならない一等品だった。
「……なんか食べるの勿体無いな。
大事に取っておきたいくらいだ」
「腐るだろ」
速攻でツッコまれた。
まぁ、正論だろう。
「……お前に食べてもらうために作ったんだ……だから、ちゃんと食べろ……」
「なッ……!」
唐突なデレに心臓がドクンと大きく脈打った。
歩む足も思わず止まってしまう。
「っ……本当そういうのさぁ……」
「何だ?」
ブレイドはきょとんとしている。
自分がどれ程の爆弾発言をしたのか全く気付いていないのだろう。
危うくこの往来で抱き締めてしまうところだったというのに。
……そういう天然なところも含めて、俺は彼女に魅入られているわけだが。
まあいい、恥ずかしいから話を変えよう……と止まった足を慌てて動かしながら、他の話題を探す。
「俺、コレがあれば十分だったのに」
自然とさっきまで考えていたことが口に出ていた。
あの時はカッとなっていたが、今はあてつけがましく受け取ったことを少し後悔している。
こんな風に用意してくれていたなら、あんなことをしなければよかった。
ブレイドは神妙な顔つきで、俺の顔を見つめた。
「本当はな……ちょっとだけ嫌だった」
「?何がだ?」
「ソードがチョコ受け取ってるの」
え、と再び足が止まる。
ブレイドの顔が少し悲しそうにも見えて、ズキンと胸が痛む。
だがブレイドはそんな素振り全く見せていなかった……と思う。
「いや、ブレイドも受け取ってただろ?」
「……俺、一応女だぞ?
だから確実に義理だろう?」
いや、見ている限りではそうでもない気もするのだが。
そういえばあの女の子ら、俺にはチョコくれなかったな……。
それどころか睨まれたような……いやいや、深く考えるのはやめよう。
まあ、当の本人にしてみれば義理にしか思えないのだろう。
たしかによく考えれば、女であるブレイドが受け取るのと男である俺が受け取るのでは、たとえ義理でも少し事情が違う。
ということは、ブレイドはもしかして……?
「嫉妬してくれていたのか?」
「ち、違っ!
ただちょっとモヤモヤして嫌だっただけだ!!」
「あのなブレイド、それを世間では嫉妬と呼ぶんだ」
「そ、そんなのじゃない!
だって、俺、仕方がないってこともわかっているつもりだ……。
皆純粋に俺達のことを騎士として慕ってくれていて、その気持ちを無下に扱う訳にはいかないだろ?
でも実際に受け取ってるの見るとなんか苦しくて……ああもう自分でも何が言いたいのかわからなっ……」
身体が勝手に動いていた。
彼女を抱き寄せて口付ける。
俺はもう2回我慢した。
そんな可愛いことを言うブレイドが悪い。
唇を離すと、彼女はあわあわしながら周りに人がいないか確認し、俺を恨めしそうに睨んだ。
「きゅ、急にこういうことするな!
ビックリするだろ……っ!?」
「ごめんな。
今年もらったものを捨てるわけにはいかないけど、もう来年からは受け取らない」
「会話の繋がりが意味不明な上に、別にそういう意味で言ったわけじゃ……!」
「じゃあ言い方を変える。
……ブレイドの以外は要らない」
「!!」
これが俺の本心だった。
少しでもブレイドが嫌な思いをするのならば、他の人のは要らない。
たった一人、愛する人からのチョコレートを貰えたら十分だった。
さっきこれ以上ないほどに赤いと思っていたが、彼女は更に赤くなっていた。
実はかなり俺も恥ずかしかったりするのだが。
唇を尖らせ、目を泳がせるのは彼女が照れているときの癖。
その仕草も可愛くて大好きだ。
「……来年も作るとは限らないぞ。
で、でもっ……気が向いたらまた、作ってやらないこともない……」
「じゃあ期待してる。
……その前にホワイトデーだな。
有給とってどこか行こうか?」
「……ん」
ふわりと和らいだ顔で笑うブレイド。
あの時の営業スマイルとは違う、俺だけに見せる柔らかな表情。
ああ、この胸を満たすこの気持ちは、きっとどんな菓子にも比べ物にならないほどに甘いのだろう。
ただ一つ、このチョコレートを除いては。
そのままポスッと俺の胸に頭を押し付ける彼女が愛おしくて、俺はもう一度強く抱きしめた。
sweet sweet
(ブレイドはなにを作ってくれたのだろう?)
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