ハジマリ
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「……また来たの?」
カービィは面倒臭そうに、目の前の人物……ダークマターと対峙していた。
「ああ、我が貴様に勝つまで何度でも決闘を申し込む」
「懲りないね、キミも。
もしかしてドМなの?」
「違う!我はただ貴様に勝ちたいだけだ!」
あらぬ疑いをかけられ、マターは恨めしそうにカービィを睨みつけた。
実際、何度も何度もカービィに挑んでは、その度に返り討ちにされていた。
「無理だと思うよー、ボク強いもん」
「諦めなければきっと勝てる。
我はそう信じているのだ!」
「……そのひたむきさを何か他に活かそうよ……」
力説するダークマターと呆れ返るカービィ。
こんな会話の応酬ももうすでに日常茶飯事と化していた。
本来は敵同士のはずなのに、こうして慣れ合ってしまっている……妙な関係だった。
「ね、今日は本気で行くよ?」
「いつも手加減しているのか……?」
「あ、いや、そうじゃないけど」
「手加減などするな!
それじゃあ勝負の意味がない!」
「わかった、わかったから!
……あ、ごめん今武器持ってない」
すると、マターはどこからともなく剣を取りだし、彼女に差し出した。
カービィは目をぱちくりさせ、マターの顔を凝視している。
「……こんなこともあろうかと剣を持って来た」
「用意周到だね」
「武器がない奴に剣を振れと?
試合とは正々堂々やるものだろう?」
「……ホントになんでキミ暗黒物質なの?」
カービィは苦笑しながらマターから渡された剣をコピーした。
白銀色の剣が彼女の手に収まる。
「……じゃ、始めようか」
「ああ」
サッとその場の空気が変わる。
一種の和やかささえ感じられていたものから、一気にピリピリとした雰囲気へ――それは彼らの闘いの始まりの合図だった。
刃がぶつかり合う鋭い音が響く。
が、マターは少しの違和感を感じていた。
心なしかカービィの動きが普段よりも鈍いのである。
しかし深く考えずに、都合がいいと剣を振るい続けた。
マターが間合いを詰めたとき、カービィの体勢が崩れた。
その隙を見逃すはずもなく、マターは薄く笑う。
「今回は我の勝ちだな!」
彼がとどめの一撃を仕掛けようとした瞬間。
カービィの手から剣が落ち、身体が不自然に傾いた。
そのまま地面に吸い込まれていくように倒れていく。
「なっ……!」
マターは咄嗟に剣を放り出して彼女を受け止めた。
彼女は全身から力を失い、ぐったりとしていた。
運動していたことを差し引いても、呼吸が尋常ではないほどに荒れている。
「お、おい!どうした!?」
マターが軽く頬を叩いてみたが、彼女は反応しなかった。
どうやら気を失っているらしい。
「まさか……っ」
マターは一つの予想に思い至り、彼女の額に掌を当てると舌打ちをした。
カービィの額は酷く熱かったのである。
「どうしたら……」
この様子では早急に休ませた方が良いだろう。
しかし、彼は彼女の家を知らなかった。
「……あいつなら」
マターは電話を出すと、何処かへとかけ始めた。
相手はなかなか出ない。
苛立ちながら待っていると、数回のコール音の後に繋がった。
『もしもし?どうしたの?』
彼が電話をかけたのはゼロツーだった。
彼女は意外とカービィとうまくやっているから、知っているだろうと踏んだのだ。
電話の向こう側はやけに騒がしい。
しかしそんなことを気にしている余裕はない。
「ゼロツー、突然変なことを聞くがカービィの家を知らないか?」
『い、いきなりね……知ってるけどどうして?
奇襲でもするつもり?』
「……おまえは我をなんだと思っているのだ……」
『でも意外ね、とっくに知ってるかと思ったわ。
あなたたち仲良いし』
「よくない」
『あたしには仲良く見えるわよ』
「よくない!そんなことどうでもいいから早く教えろ!」
『……あなたねぇ……いくら家族だからって人の個人情報は簡単に教えられないわよ?』
「……暗黒物質の台詞じゃないな」
このまま無駄話に付き合っている余裕はないと判断したマターは、ゼロツーに大まかな事情を説明した。
『ふうん……じゃあ教えるしかないわね。
ホントはあたしも行ってあげたいけれど、今ちょっとアレなのよね……』
「どうかしたのか?」
『実はね……あーっ!コラ!ミラったらやめなさい!ダークゼロも落ち着いて!机投げちゃ駄目!』
向こうが騒がしいのはこれが原因か……と溜め息をつくマター。
どうせミラクルマターがダークゼロをおちょくったりしたのだろう。
きっと今部屋は大惨事になっているに違いない。
……まぁ、彼らにとってみれば日常茶飯事ではあるが。
「……大体の事情は察した」
『こっちが落ち着いたらおかゆでも作りに行ってあげようか?』
「病人に危険物を与えてどうする」
『……そんなこというと教えてあげない』
「悪かったから早く教えろ」
いよいよマターの声のドスが効いてきた。
ゼロツーはクスクス笑いながらカービィの家の場所を教えた。
「……ありがとう」
『いーえ。
聞いたからにはしっかり送ってあげるのよー』
ゼロツーはやけにクスクスと笑っている。
それにマターは疑問を感じながらも、電話を切りカービィを抱き上げると彼女の家へと運び込んだ。
冷凍庫から氷を拝借して氷枕を作り、彼女をそこに寝かしつけた。
更に空調を適温に整えしっかり肩まで布団をかけるなど、おかんっぷりを遺憾なく発揮する。
「……そうだ、何か作っておこうか……」
冷蔵庫や戸棚を物色し、リンゴと蜂蜜を見つけた。
リンゴはちょうど食べごろのようで、美味しそうに赤く色づいていた。
「たしかアイツ、リンゴ好きだったよな……」
リンゴの擦りおろしに蜂蜜、ベタな組み合わせではあるがきっと好きだろう……そう考えながら半分ほどすりおろしたところで、彼はふと我に返った。
「……って、我はなぜこんなことを?」
敵同士なのに、とマターは苦渋の表情を浮かべた。
こんな情けをかけてやる必要などない。
敵なのだから、放っておけばよかったのだ。
更にいうならばあの時止めを刺しても良かったはずだった。
だが彼にはそれができなかった。
思いつくことすらなかった。
どうして助けた?と自問してみても答えは見つからない。
気付いた時には、もう彼女を抱き留めていたのだ。
「……ああ、くそっ」
考えることを放棄し、リンゴを擦りおろす。
半ばやけくそに蜂蜜をかけた。
「そういえば……少し暖かすぎるか?」
マターはエアコンのリモコンを手に取り、少し設定温度をを下げた。
操作音のせいか、カービィが覚醒の気配を見せる。
「ん……」
「カービィ……?」
「ま、たー……?
ボク、どうした……?」
「我と闘っているときに突然倒れた」
「運んでくれたの……?
ボクの家知ってたっけ……?」
「……ゼロツーに聞いた」
「あ、そうなんだ……ありがとう」
カービィが弱々しく微笑むと、マターも小さく頷いた。
いつもは見ることのできない彼女の弱った姿に、マターの心臓がとくん、と跳ねた。
「……あれ?
なんかいいにおいする……」
「貴様鼻いいな」
マターは半ば呆れたように笑った。
リンゴの匂いなのか蜂蜜の匂いなのか、とりあえず流石カービィである。
「あー……リンゴ擦りおろしたんだが」
食うか?と言おうとしたところで、この行動はどう考えても怪しまれるいうことに気付いた。
何度も言うが彼らは敵同士で、こういう風に看病をするような仲ではないのだ。
疑われても仕方がない、断られるだろう……と心中で自嘲的な笑みを浮かべた。
「うん、もらう「食うのか!?」
予想外の答えにマターは目を剥き、一方カービィはきょとんとしていた。
「え、だってせっかく作ってくれたんでしょ?
ちょうどお腹もすいてきたし」
「……貴様、毒入れられているとか思わないのか?」
「そんなこと思わないよ。
だって、今のマターすっごく優しい目してるもん」
「……っ」
マターをジッと見つめるカービィ。
彼はその視線から逃げるように、キッチンへ蜂蜜リンゴを取りに行った。
「……ほら、食え」
「わーい、いただきまーす!」
カービィが美味しそうに頬張るのを、マターは珍しいものを見るかのような目で見ていた。
いや、実際珍しいことなのだが。
「すっごくおいしいよ!
蜂蜜多めでボク好み~」
「そ、そうか」
やけくそでかけたら自然に量が増えただけなのが、カービィは気に入ったらしい。
病人とは思えないスピードでそれを食べきってしまった。
「ごちそうさまでした」
「ああ、じゃあ薬を飲んで早く寝ろ。
あとかなり汗をかいたようだから目覚めたらシャワーを浴びた方が良い。
だがフラフラするようならやめておけ、風呂場で倒れたら大変だからな。
水もすぐ飲めるようにここに置いておくから水分補給をしっかりするように。
あとは……」
注意をつらつらと言い続けるマターに、カービィはクスリと笑う。
「心配してくれるんだ?」
喋り続けていたマターの動きが一瞬止まり、ほんの少しだけ赤くなった。
カービィから視線をそらし、意味もなく窓の外へと目を向けた。
「……別に、心配しているわけではない。
貴様に早く治してもらわないとちゃんと決着をつけられないからな」
「だったら、ずっと治らなくていいかなぁ」
「何馬鹿なことを言っている。
風邪は万病の元というだろう?
まだ風邪で治まるうちに早く治せ!」
「……うん、治ったらまた相手してあげる!」
「せいぜい錆びるなよ。
……では、我は帰る」
マターが帰ろうと背中を見せると、カービィは彼の服の裾をとっさに掴んだ。
「……なんだ?」
「そ、その、えっと…今日は、ありがと」
少しはにかみながらたどたどしく言うカービィに、マターもまた少し赤くなった。
「……ああ、お大事に」
カービィの家を出ると、彼は空を見上げた。
もう太陽は少し沈みかかっていて、空もリンゴのように赤く染まっていた。
風も少し出てきていて、空気も心なしかひんやりしている。
カービィは大丈夫だろうか、と考えてからまたハッとした。
「……そうだ、別に……我は、早く決着をつけたいから……」
だから助けたし、情けもかけたにすぎない……誰に言うでもなく呟く。
ドキドキと高鳴る心音は聞こえないふりをして、ただただ風の音を感じていた。
彼が自分自身の想いに自覚するのは
もう少し先の話……?
NEXT
→あとがき
カービィは面倒臭そうに、目の前の人物……ダークマターと対峙していた。
「ああ、我が貴様に勝つまで何度でも決闘を申し込む」
「懲りないね、キミも。
もしかしてドМなの?」
「違う!我はただ貴様に勝ちたいだけだ!」
あらぬ疑いをかけられ、マターは恨めしそうにカービィを睨みつけた。
実際、何度も何度もカービィに挑んでは、その度に返り討ちにされていた。
「無理だと思うよー、ボク強いもん」
「諦めなければきっと勝てる。
我はそう信じているのだ!」
「……そのひたむきさを何か他に活かそうよ……」
力説するダークマターと呆れ返るカービィ。
こんな会話の応酬ももうすでに日常茶飯事と化していた。
本来は敵同士のはずなのに、こうして慣れ合ってしまっている……妙な関係だった。
「ね、今日は本気で行くよ?」
「いつも手加減しているのか……?」
「あ、いや、そうじゃないけど」
「手加減などするな!
それじゃあ勝負の意味がない!」
「わかった、わかったから!
……あ、ごめん今武器持ってない」
すると、マターはどこからともなく剣を取りだし、彼女に差し出した。
カービィは目をぱちくりさせ、マターの顔を凝視している。
「……こんなこともあろうかと剣を持って来た」
「用意周到だね」
「武器がない奴に剣を振れと?
試合とは正々堂々やるものだろう?」
「……ホントになんでキミ暗黒物質なの?」
カービィは苦笑しながらマターから渡された剣をコピーした。
白銀色の剣が彼女の手に収まる。
「……じゃ、始めようか」
「ああ」
サッとその場の空気が変わる。
一種の和やかささえ感じられていたものから、一気にピリピリとした雰囲気へ――それは彼らの闘いの始まりの合図だった。
刃がぶつかり合う鋭い音が響く。
が、マターは少しの違和感を感じていた。
心なしかカービィの動きが普段よりも鈍いのである。
しかし深く考えずに、都合がいいと剣を振るい続けた。
マターが間合いを詰めたとき、カービィの体勢が崩れた。
その隙を見逃すはずもなく、マターは薄く笑う。
「今回は我の勝ちだな!」
彼がとどめの一撃を仕掛けようとした瞬間。
カービィの手から剣が落ち、身体が不自然に傾いた。
そのまま地面に吸い込まれていくように倒れていく。
「なっ……!」
マターは咄嗟に剣を放り出して彼女を受け止めた。
彼女は全身から力を失い、ぐったりとしていた。
運動していたことを差し引いても、呼吸が尋常ではないほどに荒れている。
「お、おい!どうした!?」
マターが軽く頬を叩いてみたが、彼女は反応しなかった。
どうやら気を失っているらしい。
「まさか……っ」
マターは一つの予想に思い至り、彼女の額に掌を当てると舌打ちをした。
カービィの額は酷く熱かったのである。
「どうしたら……」
この様子では早急に休ませた方が良いだろう。
しかし、彼は彼女の家を知らなかった。
「……あいつなら」
マターは電話を出すと、何処かへとかけ始めた。
相手はなかなか出ない。
苛立ちながら待っていると、数回のコール音の後に繋がった。
『もしもし?どうしたの?』
彼が電話をかけたのはゼロツーだった。
彼女は意外とカービィとうまくやっているから、知っているだろうと踏んだのだ。
電話の向こう側はやけに騒がしい。
しかしそんなことを気にしている余裕はない。
「ゼロツー、突然変なことを聞くがカービィの家を知らないか?」
『い、いきなりね……知ってるけどどうして?
奇襲でもするつもり?』
「……おまえは我をなんだと思っているのだ……」
『でも意外ね、とっくに知ってるかと思ったわ。
あなたたち仲良いし』
「よくない」
『あたしには仲良く見えるわよ』
「よくない!そんなことどうでもいいから早く教えろ!」
『……あなたねぇ……いくら家族だからって人の個人情報は簡単に教えられないわよ?』
「……暗黒物質の台詞じゃないな」
このまま無駄話に付き合っている余裕はないと判断したマターは、ゼロツーに大まかな事情を説明した。
『ふうん……じゃあ教えるしかないわね。
ホントはあたしも行ってあげたいけれど、今ちょっとアレなのよね……』
「どうかしたのか?」
『実はね……あーっ!コラ!ミラったらやめなさい!ダークゼロも落ち着いて!机投げちゃ駄目!』
向こうが騒がしいのはこれが原因か……と溜め息をつくマター。
どうせミラクルマターがダークゼロをおちょくったりしたのだろう。
きっと今部屋は大惨事になっているに違いない。
……まぁ、彼らにとってみれば日常茶飯事ではあるが。
「……大体の事情は察した」
『こっちが落ち着いたらおかゆでも作りに行ってあげようか?』
「病人に危険物を与えてどうする」
『……そんなこというと教えてあげない』
「悪かったから早く教えろ」
いよいよマターの声のドスが効いてきた。
ゼロツーはクスクス笑いながらカービィの家の場所を教えた。
「……ありがとう」
『いーえ。
聞いたからにはしっかり送ってあげるのよー』
ゼロツーはやけにクスクスと笑っている。
それにマターは疑問を感じながらも、電話を切りカービィを抱き上げると彼女の家へと運び込んだ。
冷凍庫から氷を拝借して氷枕を作り、彼女をそこに寝かしつけた。
更に空調を適温に整えしっかり肩まで布団をかけるなど、おかんっぷりを遺憾なく発揮する。
「……そうだ、何か作っておこうか……」
冷蔵庫や戸棚を物色し、リンゴと蜂蜜を見つけた。
リンゴはちょうど食べごろのようで、美味しそうに赤く色づいていた。
「たしかアイツ、リンゴ好きだったよな……」
リンゴの擦りおろしに蜂蜜、ベタな組み合わせではあるがきっと好きだろう……そう考えながら半分ほどすりおろしたところで、彼はふと我に返った。
「……って、我はなぜこんなことを?」
敵同士なのに、とマターは苦渋の表情を浮かべた。
こんな情けをかけてやる必要などない。
敵なのだから、放っておけばよかったのだ。
更にいうならばあの時止めを刺しても良かったはずだった。
だが彼にはそれができなかった。
思いつくことすらなかった。
どうして助けた?と自問してみても答えは見つからない。
気付いた時には、もう彼女を抱き留めていたのだ。
「……ああ、くそっ」
考えることを放棄し、リンゴを擦りおろす。
半ばやけくそに蜂蜜をかけた。
「そういえば……少し暖かすぎるか?」
マターはエアコンのリモコンを手に取り、少し設定温度をを下げた。
操作音のせいか、カービィが覚醒の気配を見せる。
「ん……」
「カービィ……?」
「ま、たー……?
ボク、どうした……?」
「我と闘っているときに突然倒れた」
「運んでくれたの……?
ボクの家知ってたっけ……?」
「……ゼロツーに聞いた」
「あ、そうなんだ……ありがとう」
カービィが弱々しく微笑むと、マターも小さく頷いた。
いつもは見ることのできない彼女の弱った姿に、マターの心臓がとくん、と跳ねた。
「……あれ?
なんかいいにおいする……」
「貴様鼻いいな」
マターは半ば呆れたように笑った。
リンゴの匂いなのか蜂蜜の匂いなのか、とりあえず流石カービィである。
「あー……リンゴ擦りおろしたんだが」
食うか?と言おうとしたところで、この行動はどう考えても怪しまれるいうことに気付いた。
何度も言うが彼らは敵同士で、こういう風に看病をするような仲ではないのだ。
疑われても仕方がない、断られるだろう……と心中で自嘲的な笑みを浮かべた。
「うん、もらう「食うのか!?」
予想外の答えにマターは目を剥き、一方カービィはきょとんとしていた。
「え、だってせっかく作ってくれたんでしょ?
ちょうどお腹もすいてきたし」
「……貴様、毒入れられているとか思わないのか?」
「そんなこと思わないよ。
だって、今のマターすっごく優しい目してるもん」
「……っ」
マターをジッと見つめるカービィ。
彼はその視線から逃げるように、キッチンへ蜂蜜リンゴを取りに行った。
「……ほら、食え」
「わーい、いただきまーす!」
カービィが美味しそうに頬張るのを、マターは珍しいものを見るかのような目で見ていた。
いや、実際珍しいことなのだが。
「すっごくおいしいよ!
蜂蜜多めでボク好み~」
「そ、そうか」
やけくそでかけたら自然に量が増えただけなのが、カービィは気に入ったらしい。
病人とは思えないスピードでそれを食べきってしまった。
「ごちそうさまでした」
「ああ、じゃあ薬を飲んで早く寝ろ。
あとかなり汗をかいたようだから目覚めたらシャワーを浴びた方が良い。
だがフラフラするようならやめておけ、風呂場で倒れたら大変だからな。
水もすぐ飲めるようにここに置いておくから水分補給をしっかりするように。
あとは……」
注意をつらつらと言い続けるマターに、カービィはクスリと笑う。
「心配してくれるんだ?」
喋り続けていたマターの動きが一瞬止まり、ほんの少しだけ赤くなった。
カービィから視線をそらし、意味もなく窓の外へと目を向けた。
「……別に、心配しているわけではない。
貴様に早く治してもらわないとちゃんと決着をつけられないからな」
「だったら、ずっと治らなくていいかなぁ」
「何馬鹿なことを言っている。
風邪は万病の元というだろう?
まだ風邪で治まるうちに早く治せ!」
「……うん、治ったらまた相手してあげる!」
「せいぜい錆びるなよ。
……では、我は帰る」
マターが帰ろうと背中を見せると、カービィは彼の服の裾をとっさに掴んだ。
「……なんだ?」
「そ、その、えっと…今日は、ありがと」
少しはにかみながらたどたどしく言うカービィに、マターもまた少し赤くなった。
「……ああ、お大事に」
カービィの家を出ると、彼は空を見上げた。
もう太陽は少し沈みかかっていて、空もリンゴのように赤く染まっていた。
風も少し出てきていて、空気も心なしかひんやりしている。
カービィは大丈夫だろうか、と考えてからまたハッとした。
「……そうだ、別に……我は、早く決着をつけたいから……」
だから助けたし、情けもかけたにすぎない……誰に言うでもなく呟く。
ドキドキと高鳴る心音は聞こえないふりをして、ただただ風の音を感じていた。
彼が自分自身の想いに自覚するのは
もう少し先の話……?
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