月夜にキミは何を思う?
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「……」
情事のあと、ボクらは裸のままでベッドに寝転んでいた。
果てた熱は簡単には冷めず、まだ身体の芯は少し疼いている。
でもそれと同時に、心が安らいで落ち着くような感覚がした。
少し眠い、このまま寝てしまおうか……。
眠りに落ちるか落ちないかの瀬戸際、ふとドロッチェの方を見てみると、ボクの向こう側……カーテンの隙間から何かを見ているのに気が付いた。
「……何見てるの?」
「カービィも見るか?」
ドロッチェはおもむろに起き上がって手を伸ばし、カーテンを少し開けた。
眩しいくらいの月明かりが、部屋の中に差し込んでくる。
月明かりに照らされ露わになった均整の取れたその肢体に、思わずドキッとしてしまう。
カーテンの隙間から空を見上げ、ボクはあっと声を漏らしてしまった。
窓の向こう、空高くに昇っていたのは、青白くて大きな満月だった。
薄雲がそれをほんの少し隠しているのが、余計に美しさを引き立てている。
あまりの美しさに、ボクは言葉が何も出なかった。
「……月が綺麗だな。」
――愛している
そう言われた気がした。
月を見つめるその黄金の瞳は、どこか甘い蜂蜜を連想させる。
月明かりに照らされながら言う表情があまりにも綺麗で、ちょっと憎らしい。
でもそれ以上にその声が、視線が、ひどく甘く優しいのに胸が震えた。
彼が言ったのは、月を見た感想だ。
それにもかかわらず、ボクは唐突にドロッチェに愛されているなぁ、幸せだなぁ、と心の底から思わずにはいられなかった。
何故だかはわからない。
でも、自分が今いかに幸せかに気付けるということは何よりの幸福で。
それに気づかせてくれた大好きな人と一緒にこうしているのが本当に幸せで。
なんだか胸がいっぱいになって、何故か泣きそうになってしまった。
「なんか、ボク、今死んじゃってもいいかも……」
知らず知らずの内に、唇から言葉が零れていた。
自分でもこんな言葉が出るなんて思いもしなかった。
それでも、このまま幸せなまま逝くのもいいかもしれない……。
そう思ってしまうほどに、今が幸せだった。
ボクの言葉を聞いた彼は目を見開いて息をのみ――何故か一瞬だけ、顔を赤くした。
だがボクがその理由を尋ねるより前に、すぐにあの甘い笑顔に戻った。
そのままボクを抱き寄せた。
壊れ物を扱うように、優しく、優しく……。
お互い一糸纏わぬ姿だから、直に体温が伝わってくる。
少し汗ばんだその熱い身体に包まれるのがすごく心地好い。
触れたところからボクの身体全体に、彼の温かさが拡がっていくような感覚がした。
ドロッチェの胸に擦り寄ると、彼のどくんどくんという心音が聞こえてきて、ボクの意識を柔らかく静寂へと導いていく。
それは何よりもボクの心を落ち着かせると同時に、高揚させた。
鎮静、高揚。
一見矛盾しているようだけど、たしかにそうだったんだ。
「それは嫌だな。
どんなに美しかろうと、一人で見る月は寂しい。
……いや、違うな。」
ドロッチェはボクの頭を優しく撫でた。
その優しい手つきからも、彼のボクへの愛情がこれでもかというほど伝わってきて、なんだか胸の奥がくすぐったくなる。
「キミといるから、月は綺麗なんだ。」
いつもより幾分低めな低音が、ボクの鼓膜を震わす。
キザだな、とかツッコもうと思ったのに、なにも言葉が出てこなかった。
そっと彼の胸に押し当てた耳を離し、見上げるようにその顔を見つめると、彼は少し抱き締める力を強めた。
その表情は、どこか儚さを感じさせる。
痛くはないけど普段の彼に似つかわしくないその行動と表情に、少し違和感を覚えた。
「……どうしたの?」
「キミが、月に昇っていってしまいそうだと思った。」
吹いた。
いきなりそんなこと言われたら吹くしかないでしょ?
「なに言ってるの……」
「……どうしてだろうな、月はこんなにも綺麗で……更にカービィがあまりにも、それこそ月に勝るほどに美しいからか?
そう、竹取のかぐや姫のように……」
遠い異国のそのお話――小さい頃にフームに絵本を読み聞かせてもらった覚えがある。
その絵本のお姫様、月に昇ってしまった“かぐや姫”はすごく綺麗で可愛かった。
それをボクと重ね合わせて……そう思うと、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
なんてキザなんだ。
なんでこんな恥ずかしいことを素面で言えるんだ。
言われたこっちが恥ずかしくてしかたがないよ!
「連れていく人なんていないよ。」と照れてぶっきらぼうに答えると、ドロッチェはクスリと笑う。
照れてるのを見透かされているようで、ボクが少し頬を膨らませると彼はいつもの笑みを浮かべた。
「フッ、ふと思っただけだ。
連れて行かせるわけがない。
オレが許さないからな。」
「デスヨネー」
「……だが、もしそうなったらオレはあの翁のように、ただ泣くだけにはいかないだろうな。
月まで追いかけて、きっと連れ戻してしまう。」
「……ボクがキミを忘れてしまっても?」
かぐや姫は薬を飲んで、地上のことは全て忘れてしまった。
そう問いかけると、ドロッチェは大きく頷いた。
「きっと思い出させてみせる。
もし思い出せなくとも、また惚れさせてみせるさ。」
「そうだね。
それにもし薬を飲んでキミのことを忘れても……きっとボクはまた、キミに恋をする。」
「そうしてまた、始まるのか?」
「うん!
たとえ離れ離れになっても、忘れちゃっても、生まれ変わっても……ボクらは絶対また出会って、恋をする。
そんな気がするんだ。」
我ながらボクは半分寝ぼけていると思う。
だから理論的な説明なんかできないし、根拠なんてもちろんあるわけない。
それでも、ボクはそう信じていた。
ドロッチェは一瞬固まった……ように見えた。
違和感を問うより先に彼が再びボクを強く抱き寄せた。
「そうだよな。
オレたちなら、絶対。」
呟くその声は、やけに透明で。
背中はほんの小さく震えている気がした。
「……ドロッチェ?」
「そろそろ寝ようか。」
ドロッチェがカーテンを閉めると同時に部屋が暗くなった。
それと同時に僕の目蓋も重みを増していく。
元々眠たかったから、そろそろ限界なのかな。
ドロッチェが「おやすみ、カービィ」と言っているのがどこか遠くに聞こえた。
その声はなんだか寂しそうで少し彼が気がかりだったけど……ボクは夢の世界へと堕ちていった。
月夜にキミは
何を思う?
彼は、いったい何を思っていたのだろう……
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→あとがき
情事のあと、ボクらは裸のままでベッドに寝転んでいた。
果てた熱は簡単には冷めず、まだ身体の芯は少し疼いている。
でもそれと同時に、心が安らいで落ち着くような感覚がした。
少し眠い、このまま寝てしまおうか……。
眠りに落ちるか落ちないかの瀬戸際、ふとドロッチェの方を見てみると、ボクの向こう側……カーテンの隙間から何かを見ているのに気が付いた。
「……何見てるの?」
「カービィも見るか?」
ドロッチェはおもむろに起き上がって手を伸ばし、カーテンを少し開けた。
眩しいくらいの月明かりが、部屋の中に差し込んでくる。
月明かりに照らされ露わになった均整の取れたその肢体に、思わずドキッとしてしまう。
カーテンの隙間から空を見上げ、ボクはあっと声を漏らしてしまった。
窓の向こう、空高くに昇っていたのは、青白くて大きな満月だった。
薄雲がそれをほんの少し隠しているのが、余計に美しさを引き立てている。
あまりの美しさに、ボクは言葉が何も出なかった。
「……月が綺麗だな。」
――愛している
そう言われた気がした。
月を見つめるその黄金の瞳は、どこか甘い蜂蜜を連想させる。
月明かりに照らされながら言う表情があまりにも綺麗で、ちょっと憎らしい。
でもそれ以上にその声が、視線が、ひどく甘く優しいのに胸が震えた。
彼が言ったのは、月を見た感想だ。
それにもかかわらず、ボクは唐突にドロッチェに愛されているなぁ、幸せだなぁ、と心の底から思わずにはいられなかった。
何故だかはわからない。
でも、自分が今いかに幸せかに気付けるということは何よりの幸福で。
それに気づかせてくれた大好きな人と一緒にこうしているのが本当に幸せで。
なんだか胸がいっぱいになって、何故か泣きそうになってしまった。
「なんか、ボク、今死んじゃってもいいかも……」
知らず知らずの内に、唇から言葉が零れていた。
自分でもこんな言葉が出るなんて思いもしなかった。
それでも、このまま幸せなまま逝くのもいいかもしれない……。
そう思ってしまうほどに、今が幸せだった。
ボクの言葉を聞いた彼は目を見開いて息をのみ――何故か一瞬だけ、顔を赤くした。
だがボクがその理由を尋ねるより前に、すぐにあの甘い笑顔に戻った。
そのままボクを抱き寄せた。
壊れ物を扱うように、優しく、優しく……。
お互い一糸纏わぬ姿だから、直に体温が伝わってくる。
少し汗ばんだその熱い身体に包まれるのがすごく心地好い。
触れたところからボクの身体全体に、彼の温かさが拡がっていくような感覚がした。
ドロッチェの胸に擦り寄ると、彼のどくんどくんという心音が聞こえてきて、ボクの意識を柔らかく静寂へと導いていく。
それは何よりもボクの心を落ち着かせると同時に、高揚させた。
鎮静、高揚。
一見矛盾しているようだけど、たしかにそうだったんだ。
「それは嫌だな。
どんなに美しかろうと、一人で見る月は寂しい。
……いや、違うな。」
ドロッチェはボクの頭を優しく撫でた。
その優しい手つきからも、彼のボクへの愛情がこれでもかというほど伝わってきて、なんだか胸の奥がくすぐったくなる。
「キミといるから、月は綺麗なんだ。」
いつもより幾分低めな低音が、ボクの鼓膜を震わす。
キザだな、とかツッコもうと思ったのに、なにも言葉が出てこなかった。
そっと彼の胸に押し当てた耳を離し、見上げるようにその顔を見つめると、彼は少し抱き締める力を強めた。
その表情は、どこか儚さを感じさせる。
痛くはないけど普段の彼に似つかわしくないその行動と表情に、少し違和感を覚えた。
「……どうしたの?」
「キミが、月に昇っていってしまいそうだと思った。」
吹いた。
いきなりそんなこと言われたら吹くしかないでしょ?
「なに言ってるの……」
「……どうしてだろうな、月はこんなにも綺麗で……更にカービィがあまりにも、それこそ月に勝るほどに美しいからか?
そう、竹取のかぐや姫のように……」
遠い異国のそのお話――小さい頃にフームに絵本を読み聞かせてもらった覚えがある。
その絵本のお姫様、月に昇ってしまった“かぐや姫”はすごく綺麗で可愛かった。
それをボクと重ね合わせて……そう思うと、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
なんてキザなんだ。
なんでこんな恥ずかしいことを素面で言えるんだ。
言われたこっちが恥ずかしくてしかたがないよ!
「連れていく人なんていないよ。」と照れてぶっきらぼうに答えると、ドロッチェはクスリと笑う。
照れてるのを見透かされているようで、ボクが少し頬を膨らませると彼はいつもの笑みを浮かべた。
「フッ、ふと思っただけだ。
連れて行かせるわけがない。
オレが許さないからな。」
「デスヨネー」
「……だが、もしそうなったらオレはあの翁のように、ただ泣くだけにはいかないだろうな。
月まで追いかけて、きっと連れ戻してしまう。」
「……ボクがキミを忘れてしまっても?」
かぐや姫は薬を飲んで、地上のことは全て忘れてしまった。
そう問いかけると、ドロッチェは大きく頷いた。
「きっと思い出させてみせる。
もし思い出せなくとも、また惚れさせてみせるさ。」
「そうだね。
それにもし薬を飲んでキミのことを忘れても……きっとボクはまた、キミに恋をする。」
「そうしてまた、始まるのか?」
「うん!
たとえ離れ離れになっても、忘れちゃっても、生まれ変わっても……ボクらは絶対また出会って、恋をする。
そんな気がするんだ。」
我ながらボクは半分寝ぼけていると思う。
だから理論的な説明なんかできないし、根拠なんてもちろんあるわけない。
それでも、ボクはそう信じていた。
ドロッチェは一瞬固まった……ように見えた。
違和感を問うより先に彼が再びボクを強く抱き寄せた。
「そうだよな。
オレたちなら、絶対。」
呟くその声は、やけに透明で。
背中はほんの小さく震えている気がした。
「……ドロッチェ?」
「そろそろ寝ようか。」
ドロッチェがカーテンを閉めると同時に部屋が暗くなった。
それと同時に僕の目蓋も重みを増していく。
元々眠たかったから、そろそろ限界なのかな。
ドロッチェが「おやすみ、カービィ」と言っているのがどこか遠くに聞こえた。
その声はなんだか寂しそうで少し彼が気がかりだったけど……ボクは夢の世界へと堕ちていった。
月夜にキミは
何を思う?
彼は、いったい何を思っていたのだろう……
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