insurmountable wall
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「ゼロツー」
ゼロが後ろからぎゅっとゼロツーを抱き締めた。
不意の出来事に驚いたのか、ゼロツーの肩がビクンと動いた。
「兄さん、離して」
ゼロツーは身じろぐが、離さない。
むしろ、抱え込むようにもっと強く抱きしめてしまう。
「良いだろう?
これくらい……兄妹なのだから。」
その言葉を聞くと、ゼロツーは固まった。
一瞬の押し黙った後、しょうがないわね……と苦笑する。
「おまえは、本当に可愛らしいなぁ。」
「ありがとう。」
「愛している。」
「……ありがとう。」
沈黙が降りた。
ゼロはゼロツーの頭に顔を埋め、瞳を閉じている。
その光景はまさに恋人同士のようだ。
不意に、ゼロツーが彼の腕をすり抜けた。
油断しきっていたゼロは、止めることができなかった。
「……どこに行くんだ?」
「ちょっとお買い物に。
夕飯の材料を買うのよ。」
「俺も行く」
「駄目よ、まだ仕事残っているでしょう?」
ゼロツーは机の上に目をやる。
そこには、書類が堆く山積みになっていた。
……ダークマター一族のボスであるゼロは、それなりに苦労もしているのである。
断られて、しゅんとしてしまうゼロ。
ゼロツーはクスリと微笑みながら彼の頭を撫でた。
……これでは、どちらが歳上なのかわからない。
「今日は、兄さんの好きなもの作ってあげるから。
何がいい?」
「パエリア」
「わかったわ。
じゃあ、できたら呼ぶからしっかりお仕事するのよ。」
ゼロツーの手がゼロの頭から離れる。
そのままそれをひらひらと振り、部屋から出ていった。
***
ゼロツーが出ていった後、俺は一人先程の行為を思い返していた。
腕にはまだ、彼女の感覚が残っていた。
撫でられた頭には、柔らかな手の感覚が残っていた。
そしてまぶたの裏には、愛らしい微笑みが――……。
俺はゼロツーのことを一人の女性として愛している。
だが、ゼロツーは俺のことを兄として見ている。
実際に血は繋がってはいない。
というか、基本的に“ダークマター”と“他の物質”が結び付いて誕生する暗黒物質族に兄弟の概念はない。
(例外として分裂して発生した双子や三つ子はいるが。)
……こんなことを考えている場合ではないな。
ゼロツーが帰ってくる前に、これら資料の山を処理しなければならない。
せめて半分はどうにかしたい。
とりあえず机の上の書類に目を通す。
産まれたばかりのダークマター族の赤子の資料だ。
ふと思い出されたのは、俺によく似た白髪の赤子。
まだ何も映さないはずのつぶらな黒い瞳は、真っ直ぐに俺をとらえ――ニッコリと笑ったのだ。
「……産まれたばかりのゼロツー、可愛かったな……」
こんなときまで彼女を思い出すなんて、どれだけ俺は彼女に溺れているのだろうか。
自分の愚かさに苦笑が漏れた。
こんなにも狂おしく、愛していると知ったら、彼女はどんな反応をするだろうか?
いっそのこと、一線を越えてしまいたいと思う時もある。
兄としてでなく、一人の男として愛しているんだ、と伝えたかった。
兄じゃなくて、男として見てほしかった。
……それなのに、兄妹の関係が崩れてしまうのが怖かった。
だからさっきも抵抗された時に「兄妹なのだから」と言った。
こういう風に言えばゼロツーが抵抗できなくなると知っていながら……いや、知っていたからこそそう言ったのだろうか?
和やかな、“兄妹”という関係を続けていれば、ずっと傍にいれるのではないか……?
伝えたい、でも伝えたくない。
矛盾する気持ちが、俺の心の中でグルグルと渦巻く。
苦しくなった俺は……目の前の書類を引き裂いた。
***
兄さんの部屋から出た後、あたしは大きな溜め息をついた。
後ろから抱き締められた感触、体温がまだ残っている。
何よりも、『愛している』という兄さんの声が、耳にこびりついていた。
でも兄さんの『愛している』は、恋愛的な意味ではない。
あくまでも、あたしのことは妹だと思っている。
あたしが抵抗した時に『兄妹なのだから』と言ったのが何よりの証拠。
妹は、兄の傍にいることを許される。
だからあたしは、“妹”として振る舞おうと決めた。
どうせ叶わないのなら、せめて妹として、傍にいたかった。
いっそのことあたしの本当の気持ちを伝えてみようかと思ったことも、ないことはない。
そうしたら、兄さんは応えてくれるのかな?
……そんなわけない。
兄さんを困らせてしまうだけ。
だったら、伝えない。
永遠にあたしの気持ちは隠し通す。
……でも、さっきみたいなことをされると、期待してしまう。
もしかしたら女の子として見てくれてるんじゃないかって。
『兄妹なのだから』という言葉も、本当は建前なんじゃ……って思ってしまう。
そんなはずないのにね。
期待するだけ無駄なのにね。
いつの間にか、頬には涙が伝っていた。
嗚咽が漏れそうになるのを必死に堪えた。
部屋の中には兄さんがいる。
もしあたしが泣いているのを知られてしまったら、兄さんは心配してしまう。
部屋の中からビリ、と何かを破るような音がしてハッとした。
兄さんが要らない書類でも破ったのだろう。
……あたしも買い物行かなきゃ。
兄さんはきっと、夕飯を楽しみに待ってくれてる。
今だって一生懸命お仕事をしているんだから、美味しいご飯を作ってあげなきゃ……。
せめて、料理には愛情を込めても赦されるよね?
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(この壁は、決して超えてはならない)
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→あとがき
ゼロが後ろからぎゅっとゼロツーを抱き締めた。
不意の出来事に驚いたのか、ゼロツーの肩がビクンと動いた。
「兄さん、離して」
ゼロツーは身じろぐが、離さない。
むしろ、抱え込むようにもっと強く抱きしめてしまう。
「良いだろう?
これくらい……兄妹なのだから。」
その言葉を聞くと、ゼロツーは固まった。
一瞬の押し黙った後、しょうがないわね……と苦笑する。
「おまえは、本当に可愛らしいなぁ。」
「ありがとう。」
「愛している。」
「……ありがとう。」
沈黙が降りた。
ゼロはゼロツーの頭に顔を埋め、瞳を閉じている。
その光景はまさに恋人同士のようだ。
不意に、ゼロツーが彼の腕をすり抜けた。
油断しきっていたゼロは、止めることができなかった。
「……どこに行くんだ?」
「ちょっとお買い物に。
夕飯の材料を買うのよ。」
「俺も行く」
「駄目よ、まだ仕事残っているでしょう?」
ゼロツーは机の上に目をやる。
そこには、書類が堆く山積みになっていた。
……ダークマター一族のボスであるゼロは、それなりに苦労もしているのである。
断られて、しゅんとしてしまうゼロ。
ゼロツーはクスリと微笑みながら彼の頭を撫でた。
……これでは、どちらが歳上なのかわからない。
「今日は、兄さんの好きなもの作ってあげるから。
何がいい?」
「パエリア」
「わかったわ。
じゃあ、できたら呼ぶからしっかりお仕事するのよ。」
ゼロツーの手がゼロの頭から離れる。
そのままそれをひらひらと振り、部屋から出ていった。
***
ゼロツーが出ていった後、俺は一人先程の行為を思い返していた。
腕にはまだ、彼女の感覚が残っていた。
撫でられた頭には、柔らかな手の感覚が残っていた。
そしてまぶたの裏には、愛らしい微笑みが――……。
俺はゼロツーのことを一人の女性として愛している。
だが、ゼロツーは俺のことを兄として見ている。
実際に血は繋がってはいない。
というか、基本的に“ダークマター”と“他の物質”が結び付いて誕生する暗黒物質族に兄弟の概念はない。
(例外として分裂して発生した双子や三つ子はいるが。)
……こんなことを考えている場合ではないな。
ゼロツーが帰ってくる前に、これら資料の山を処理しなければならない。
せめて半分はどうにかしたい。
とりあえず机の上の書類に目を通す。
産まれたばかりのダークマター族の赤子の資料だ。
ふと思い出されたのは、俺によく似た白髪の赤子。
まだ何も映さないはずのつぶらな黒い瞳は、真っ直ぐに俺をとらえ――ニッコリと笑ったのだ。
「……産まれたばかりのゼロツー、可愛かったな……」
こんなときまで彼女を思い出すなんて、どれだけ俺は彼女に溺れているのだろうか。
自分の愚かさに苦笑が漏れた。
こんなにも狂おしく、愛していると知ったら、彼女はどんな反応をするだろうか?
いっそのこと、一線を越えてしまいたいと思う時もある。
兄としてでなく、一人の男として愛しているんだ、と伝えたかった。
兄じゃなくて、男として見てほしかった。
……それなのに、兄妹の関係が崩れてしまうのが怖かった。
だからさっきも抵抗された時に「兄妹なのだから」と言った。
こういう風に言えばゼロツーが抵抗できなくなると知っていながら……いや、知っていたからこそそう言ったのだろうか?
和やかな、“兄妹”という関係を続けていれば、ずっと傍にいれるのではないか……?
伝えたい、でも伝えたくない。
矛盾する気持ちが、俺の心の中でグルグルと渦巻く。
苦しくなった俺は……目の前の書類を引き裂いた。
***
兄さんの部屋から出た後、あたしは大きな溜め息をついた。
後ろから抱き締められた感触、体温がまだ残っている。
何よりも、『愛している』という兄さんの声が、耳にこびりついていた。
でも兄さんの『愛している』は、恋愛的な意味ではない。
あくまでも、あたしのことは妹だと思っている。
あたしが抵抗した時に『兄妹なのだから』と言ったのが何よりの証拠。
妹は、兄の傍にいることを許される。
だからあたしは、“妹”として振る舞おうと決めた。
どうせ叶わないのなら、せめて妹として、傍にいたかった。
いっそのことあたしの本当の気持ちを伝えてみようかと思ったことも、ないことはない。
そうしたら、兄さんは応えてくれるのかな?
……そんなわけない。
兄さんを困らせてしまうだけ。
だったら、伝えない。
永遠にあたしの気持ちは隠し通す。
……でも、さっきみたいなことをされると、期待してしまう。
もしかしたら女の子として見てくれてるんじゃないかって。
『兄妹なのだから』という言葉も、本当は建前なんじゃ……って思ってしまう。
そんなはずないのにね。
期待するだけ無駄なのにね。
いつの間にか、頬には涙が伝っていた。
嗚咽が漏れそうになるのを必死に堪えた。
部屋の中には兄さんがいる。
もしあたしが泣いているのを知られてしまったら、兄さんは心配してしまう。
部屋の中からビリ、と何かを破るような音がしてハッとした。
兄さんが要らない書類でも破ったのだろう。
……あたしも買い物行かなきゃ。
兄さんはきっと、夕飯を楽しみに待ってくれてる。
今だって一生懸命お仕事をしているんだから、美味しいご飯を作ってあげなきゃ……。
せめて、料理には愛情を込めても赦されるよね?
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(この壁は、決して超えてはならない)
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→あとがき
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