ira~憤怒~
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どうしてなのサ。
どうしてキミはボクの気持ちに気づいてくれないのサ。
どうしてこんなにも大好きなのに届かないのサ。
どうしてキミはアイツばっかり見てるのサ。
ボクの方がずっと前からキミのそばにいるのに……。
アイツなんかより、ボクの方がずっとキミのことが大好きなのに……。
アイツに向けられるあの甘い視線は、ボクに向けられることはない。
所詮ボクは、単なる遊び相手。
苦しい、苦しい、胸が裂けてしまいそうなのサ。
カービィがアイツと一緒にいるのを見るたびに、カービィがアイツに笑いかけるのを見るたびに、自分の中に黒い感情がどんどん積み重なっていくのがわかる……。
……いっそ、カービィを閉じ込めてボクだけのモノにしてしまおうか?
毎日アイツの目の届かないところで、愛でて眺めて……ボクしか見えないようにしてしまおうか?
あぁ、カービィが欲しいのサ。
そのキラキラと輝く瞳が欲しい。
その桃色に染まる頬が欲しい。
その暖かい温もりが欲しい。
そのすべすべの肌が欲しい。
その愛らしい唇が欲しい。
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
カービィのすべてが欲しい。
全部全部、ボクのモノにしたい。
カービィを殺してでもボクのモノにしたい。
***
まったく……いったいカービィはいつになったらボクの方を見てくれるのサ?
恥ずかしい気持ちもわからなくもないけど、いい加減素直にならないと、ボク怒っちゃうのサ。
あ、そうか、カービィが素直になれないのは、アイツがカービィにくっついているからなのサ。
カービィがボクを見てくれないのは、アイツのせいなんだ。
……アイツが邪魔なのサ。
カービィはとっても優しいから……好意を持ってくれる人を無下にはできないのサ。
そんな優しいカービィがボクは好きなのだけど、いい加減ボクも我慢が限界なのサ。
手癖の悪いあの泥棒ネズミがボクのカービィに触れただなんて、考えただけでも恐ろしい!!
早く助けてあげなければ、ボクのカービィの身体がドロドロ爛れて腐っていってしまう!!
可哀想だ!そんなこと耐えられない!
ボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィそんな奴と笑うなよボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのボクの可愛いカービィボクのボクのボクのボクの方を見て。
そうだ、イイコトを思いついたのサ……。
アイツ殺してしまおう。
そうすれば、カービィもアイツの呪縛から逃れて幸せになれるし、ボクもカービィとずっと一緒にいられる。
みんなみんな、幸せなのサ!
***
「団長ー!!
団長にお手紙が来てるッスよー!!」
良く晴れたある日のこと。
スピンが一通の手紙を持って、ドロッチェとストロンの元へ駆けてきた。
「ああ、ありがとう。
マルクからか……。
珍しい、なんだろうか?」
不思議に思ったドロッチェが、その場で封を開ける。
『ドロッチェへ
大切な話があるのサ。
だから、森に来てほしいのサ。』
簡素な文面だった。
余りにも簡潔過ぎて真意を掴みかねない。
読み終わったドロッチェは下を向いて、わなわなと震えていた。
どうした?とストロンが彼の肩に手を置こうとしたとき、急にガバッと顔を上げた。
「まさか、マルクはオレのことを……!?
どうしよう……オレがカッコよすぎるあまり、無自覚に男まで誘惑していたなんて……。
嗚呼、オレはなんて罪な男なんだ……!!」
スピンとストロンは呆然と口を開け、ドロッチェを見つめた。
それに気づかない彼は「神よ、美しすぎるこの私を許したまえ!!」などと訳のわからないことを叫んでいる。
端から見たらただの変人だ。
道行く人の視線が痛い。
「とりあえず落ち着け、ドロッチェ」
ストロンがドロッチェの頭をバシッと叩く。
スピンはそんな二人を見て、笑いを堪えていた。
「さっきまでのは冗談として…いったい何だろうか?」
結構強めに叩かれて若干涙目なドロッチェが二人にも手紙を見せる。
それを覗き込んだストロンもスピンもうーんと唸ってしまった。
正直、そんなに改まって話すようなことの心当たりが全く無かった。
もし何かあるなら城に呼び出すであろうが、わざわざ森いう人目のないところを指定するのだから、よっぽど人目を憚る内容なのだろう。
ある意味では愛の告白が一番妥当に思えてきてしまうほどだ。
「フッ……まぁ行けばわかるだろう。
じゃ、行ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
「気を付けてッスー!!」
ドロッチェは赤いマントを翻し、左手をひらひらと振って歩き始めた。
ストロンとスピンも、手を振って彼を見送る。
が、ふとストロンが手をあげた状態で固まった。
「どうしたんスか?」
様子がおかしいと気付いたスピンが尋ねると、彼は不思議そうな顔をしてこう言った。
「……なんか、アイツがいなくなってしまうような気がした……」
「え?そんなわけないじゃないッスか!」
「そうだよ、な」
まさかな……と呟くと、妙な胸騒ぎから目を背けてアジトへ戻っていった。
その後、ドロッチェが森の入り口に着いたとき、マルクはすでにそこにいた。
「悪い、待たせたか?」
「ああ……大丈夫なのサ……散々待ったしね」
「は……?」
最初から彼の言っていることは矛盾していて、思わず言葉に詰まってしまった。
マルクの雰囲気もいつもとどこか違う。
いつものふざけたような表情でもなく、悪戯を企んでいる表情でもなく……何か、思い詰めているような顔だった。
マルクは黙って歩き始めた。
なんとなく察したドロッチェもその後について行く。
しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。
「で、話って何だ?
愛の告白ならお断りだぞ」
妙な薄気味悪さを感じながらも、冗談めかしてそういう。
しかしマルクは笑わなかった。
その代わり怒りの籠った目で、彼のことを睨んだ。
「……カービィと別れて」
「は?」
驚いたドロッチェは思わず声を上ずらせた。
マルクはキッとドロッチェを睨み、じりじりと彼ににじり寄る。
「聞こえなかった?
カービィと別れてって言ったのサ。」
一瞬、冗談かと思ったドロッチェだったが、マルクの目は本気だった。
「何言ってるんだ?
別れるわけないじゃ……」
言い切る前に嫌な予感が脳裏を過ぎり、彼は咄嗟に後ろに飛びのいた。
刹那、鋭利な刃先が彼の居たところ――しかも首の辺りを横切る。
もしかわしていなかったら、今頃彼の首は綺麗に跳ねられていただろう。
少しだけ切られてしまったマントの切れ端が、赤い薔薇の花弁のように宙を舞った。
「……チッ」
「……ッマルク、何のつもりだ……!?」
心臓がバクバク脈打っていた。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
目の前の彼は、手をあの羽の形をした刃に変えた。
陽光を浴びた刃が不吉に煌めき、ドロッチェは息を呑んだ。
マルクが動いたと同時に、ドロッチェも動いた。
先程よりも大きな花弁が舞いあがる。
「おまえが邪魔なのサ!!
おまえさえいなければカービィはボクのモノだったのサ!!
この泥棒鼠がぁぁぁぁぁ!!」
マルクは叫びながら再び斬りかかった。
ドロッチェはトリプルスターを取り出し、それを受け止めた。
バチッと大きな火花が上がる。
マルクは一瞬顔をしかめたが、すぐにまた連続で斬りかかり始めた。
「ちょ、おまっ……落ち着け!!」
ドロッチェは猛攻を受け止めながらはなんとか落ち着かせようと試みるが、マルクの耳には何も届いていないらしい。
それどころか、ますます怒りのボルテージが上がっていく始末。
「仕方ない、かくなるうえは……!!」
彼は間合いを取り、トリプルスターを振るった。
飛び出した星の弾丸がマルクの身体を掠める。
マルクの顔が忌々しそうに歪み、眼光がさらに鋭くなった。
「……その汚い手でカービィに触れたのは万死に値するけど素直に渡してくれたら命くらいは助けてやっても良かったんだけどな」
「さっきからお前は何様のつもりなんだよ!
カービィは自分の意志でオレを選んでくれた!
カービィはお前のものじゃない!」
マルクの動きが止まった。
ブルブルと震え、俯いてしまう。
ようやくわかってくれたかとドロッチェがホッとしたとき、ブシュッとと音を立てて血が噴き出た。
「うわああああああ!!」
ドロッチェは悲鳴をあげながら己の腕を抑えた。
血が白い手袋をみるみるうちに染めていく。
咄嗟にマントを引きちぎり、強く結んだが対して効果は無かった。
「てめぇ……!」
「ブッ殺してやる!!」
静かだったはずの森に怒声が響く。
太陽が傾きかけたころ、遂にドロッチェが地に膝を付いた。
幾つもの傷口からは、おびただしいほどの血が滴っている。
彼の左腕は、最早ほとんど機能しないほどに損傷してしまっていた。
トリプルスターを握り締める右手も、ほとんど力が入らなくなっていた。
「クク……白いスーツに、紅い血が良く映えてるのサ……」
マルクは自分の手に付いたドロッチェの血を舐めとりながらそう言う。
そんな彼はたしかに血を流しながらも、そこまでの重傷ではなかった。
……マルクは最初からドロッチェを殺す気でいたから容赦をしなかったが、ドロッチェには、彼と闘うのに抵抗や躊躇いがあったのだろう。
マルクは、カービィにとって大切な友達だったから。
だからできる限り危害を加えたくなかったし、叶うことなら穏便に済ませたかった。
逃げることも考えたが、もしカービィに被害が及ぶと思うと逃げられなかった。
しかしマルクは戦闘に特化した魔力を持っていて、ドロッチェ自身はそこまで戦闘に特化しているわけではない。
差し違えるのを覚悟で本気を出しても、マルクには敵わなかった。
彼の視界の中で、マルクは本当に楽しくて楽しくて仕方がないように笑っていた。
「そろそろ楽にしてあげるのサ……バイバイ」
マルクは腕の刃を閃かせ、彼の首元に最後の一撃を加えた。
裂傷から血が吹き出し、辺りを染める。
「……さて、ボクを待ってるカービィの元へ行かなきゃなのサ……」
マルクが歩き出そうすると、何かに引っ張られるような感覚がした。
「ま………て……」
流石のマルクも息を呑まずにはいられなかった。
虫の息のドロッチェが、マルクのズボンの裾を掴んでいた。
「しぶとい鼠なのサ。
とっとと死ねばいいものを……」
マルクは苦々しげに呟くとドロッチェを蹴とばした。
それでも彼はマルクに手を伸ばす。
「おまえ……そんなこ……し………こう…い……。
カ……ビ………」
手が力をなくし、地面にパタリ、と倒れた。
遂にドロッチェは息絶えてしまった。
マルクはそんなドロッチェを冷たく見つめていた、が。
「あはっ、あはははっ、」
彼の口元から笑みが零れ堕ちた。
血にまみれながら、唇を歪め目を見開き獣じみた笑みを浮かべる姿は壊れたピエロのよう。
「殺しちゃったぁぁぁーーーーーー!!!!!」
マルクは叫び、狂ったように大爆笑した。
声帯の限界を超えるほどの笑い声が、暗くなりかかった丘に響く。
しばらくしてようやく笑い終えたマルクは"イイコトを思いついた"と呟いた。
鼻歌を歌いながらドロッチェの亡骸をズタ袋に入れて、引き摺って行った。
憤怒は人を狂わせる
(ボクを怒らせたキミが悪いのサ!)
どうしてキミはボクの気持ちに気づいてくれないのサ。
どうしてこんなにも大好きなのに届かないのサ。
どうしてキミはアイツばっかり見てるのサ。
ボクの方がずっと前からキミのそばにいるのに……。
アイツなんかより、ボクの方がずっとキミのことが大好きなのに……。
アイツに向けられるあの甘い視線は、ボクに向けられることはない。
所詮ボクは、単なる遊び相手。
苦しい、苦しい、胸が裂けてしまいそうなのサ。
カービィがアイツと一緒にいるのを見るたびに、カービィがアイツに笑いかけるのを見るたびに、自分の中に黒い感情がどんどん積み重なっていくのがわかる……。
……いっそ、カービィを閉じ込めてボクだけのモノにしてしまおうか?
毎日アイツの目の届かないところで、愛でて眺めて……ボクしか見えないようにしてしまおうか?
あぁ、カービィが欲しいのサ。
そのキラキラと輝く瞳が欲しい。
その桃色に染まる頬が欲しい。
その暖かい温もりが欲しい。
そのすべすべの肌が欲しい。
その愛らしい唇が欲しい。
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
カービィのすべてが欲しい。
全部全部、ボクのモノにしたい。
カービィを殺してでもボクのモノにしたい。
***
まったく……いったいカービィはいつになったらボクの方を見てくれるのサ?
恥ずかしい気持ちもわからなくもないけど、いい加減素直にならないと、ボク怒っちゃうのサ。
あ、そうか、カービィが素直になれないのは、アイツがカービィにくっついているからなのサ。
カービィがボクを見てくれないのは、アイツのせいなんだ。
……アイツが邪魔なのサ。
カービィはとっても優しいから……好意を持ってくれる人を無下にはできないのサ。
そんな優しいカービィがボクは好きなのだけど、いい加減ボクも我慢が限界なのサ。
手癖の悪いあの泥棒ネズミがボクのカービィに触れただなんて、考えただけでも恐ろしい!!
早く助けてあげなければ、ボクのカービィの身体がドロドロ爛れて腐っていってしまう!!
可哀想だ!そんなこと耐えられない!
ボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィそんな奴と笑うなよボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのカービィボクのボクの可愛いカービィボクのボクのボクのボクの方を見て。
そうだ、イイコトを思いついたのサ……。
アイツ殺してしまおう。
そうすれば、カービィもアイツの呪縛から逃れて幸せになれるし、ボクもカービィとずっと一緒にいられる。
みんなみんな、幸せなのサ!
***
「団長ー!!
団長にお手紙が来てるッスよー!!」
良く晴れたある日のこと。
スピンが一通の手紙を持って、ドロッチェとストロンの元へ駆けてきた。
「ああ、ありがとう。
マルクからか……。
珍しい、なんだろうか?」
不思議に思ったドロッチェが、その場で封を開ける。
『ドロッチェへ
大切な話があるのサ。
だから、森に来てほしいのサ。』
簡素な文面だった。
余りにも簡潔過ぎて真意を掴みかねない。
読み終わったドロッチェは下を向いて、わなわなと震えていた。
どうした?とストロンが彼の肩に手を置こうとしたとき、急にガバッと顔を上げた。
「まさか、マルクはオレのことを……!?
どうしよう……オレがカッコよすぎるあまり、無自覚に男まで誘惑していたなんて……。
嗚呼、オレはなんて罪な男なんだ……!!」
スピンとストロンは呆然と口を開け、ドロッチェを見つめた。
それに気づかない彼は「神よ、美しすぎるこの私を許したまえ!!」などと訳のわからないことを叫んでいる。
端から見たらただの変人だ。
道行く人の視線が痛い。
「とりあえず落ち着け、ドロッチェ」
ストロンがドロッチェの頭をバシッと叩く。
スピンはそんな二人を見て、笑いを堪えていた。
「さっきまでのは冗談として…いったい何だろうか?」
結構強めに叩かれて若干涙目なドロッチェが二人にも手紙を見せる。
それを覗き込んだストロンもスピンもうーんと唸ってしまった。
正直、そんなに改まって話すようなことの心当たりが全く無かった。
もし何かあるなら城に呼び出すであろうが、わざわざ森いう人目のないところを指定するのだから、よっぽど人目を憚る内容なのだろう。
ある意味では愛の告白が一番妥当に思えてきてしまうほどだ。
「フッ……まぁ行けばわかるだろう。
じゃ、行ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
「気を付けてッスー!!」
ドロッチェは赤いマントを翻し、左手をひらひらと振って歩き始めた。
ストロンとスピンも、手を振って彼を見送る。
が、ふとストロンが手をあげた状態で固まった。
「どうしたんスか?」
様子がおかしいと気付いたスピンが尋ねると、彼は不思議そうな顔をしてこう言った。
「……なんか、アイツがいなくなってしまうような気がした……」
「え?そんなわけないじゃないッスか!」
「そうだよ、な」
まさかな……と呟くと、妙な胸騒ぎから目を背けてアジトへ戻っていった。
その後、ドロッチェが森の入り口に着いたとき、マルクはすでにそこにいた。
「悪い、待たせたか?」
「ああ……大丈夫なのサ……散々待ったしね」
「は……?」
最初から彼の言っていることは矛盾していて、思わず言葉に詰まってしまった。
マルクの雰囲気もいつもとどこか違う。
いつものふざけたような表情でもなく、悪戯を企んでいる表情でもなく……何か、思い詰めているような顔だった。
マルクは黙って歩き始めた。
なんとなく察したドロッチェもその後について行く。
しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。
「で、話って何だ?
愛の告白ならお断りだぞ」
妙な薄気味悪さを感じながらも、冗談めかしてそういう。
しかしマルクは笑わなかった。
その代わり怒りの籠った目で、彼のことを睨んだ。
「……カービィと別れて」
「は?」
驚いたドロッチェは思わず声を上ずらせた。
マルクはキッとドロッチェを睨み、じりじりと彼ににじり寄る。
「聞こえなかった?
カービィと別れてって言ったのサ。」
一瞬、冗談かと思ったドロッチェだったが、マルクの目は本気だった。
「何言ってるんだ?
別れるわけないじゃ……」
言い切る前に嫌な予感が脳裏を過ぎり、彼は咄嗟に後ろに飛びのいた。
刹那、鋭利な刃先が彼の居たところ――しかも首の辺りを横切る。
もしかわしていなかったら、今頃彼の首は綺麗に跳ねられていただろう。
少しだけ切られてしまったマントの切れ端が、赤い薔薇の花弁のように宙を舞った。
「……チッ」
「……ッマルク、何のつもりだ……!?」
心臓がバクバク脈打っていた。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
目の前の彼は、手をあの羽の形をした刃に変えた。
陽光を浴びた刃が不吉に煌めき、ドロッチェは息を呑んだ。
マルクが動いたと同時に、ドロッチェも動いた。
先程よりも大きな花弁が舞いあがる。
「おまえが邪魔なのサ!!
おまえさえいなければカービィはボクのモノだったのサ!!
この泥棒鼠がぁぁぁぁぁ!!」
マルクは叫びながら再び斬りかかった。
ドロッチェはトリプルスターを取り出し、それを受け止めた。
バチッと大きな火花が上がる。
マルクは一瞬顔をしかめたが、すぐにまた連続で斬りかかり始めた。
「ちょ、おまっ……落ち着け!!」
ドロッチェは猛攻を受け止めながらはなんとか落ち着かせようと試みるが、マルクの耳には何も届いていないらしい。
それどころか、ますます怒りのボルテージが上がっていく始末。
「仕方ない、かくなるうえは……!!」
彼は間合いを取り、トリプルスターを振るった。
飛び出した星の弾丸がマルクの身体を掠める。
マルクの顔が忌々しそうに歪み、眼光がさらに鋭くなった。
「……その汚い手でカービィに触れたのは万死に値するけど素直に渡してくれたら命くらいは助けてやっても良かったんだけどな」
「さっきからお前は何様のつもりなんだよ!
カービィは自分の意志でオレを選んでくれた!
カービィはお前のものじゃない!」
マルクの動きが止まった。
ブルブルと震え、俯いてしまう。
ようやくわかってくれたかとドロッチェがホッとしたとき、ブシュッとと音を立てて血が噴き出た。
「うわああああああ!!」
ドロッチェは悲鳴をあげながら己の腕を抑えた。
血が白い手袋をみるみるうちに染めていく。
咄嗟にマントを引きちぎり、強く結んだが対して効果は無かった。
「てめぇ……!」
「ブッ殺してやる!!」
静かだったはずの森に怒声が響く。
太陽が傾きかけたころ、遂にドロッチェが地に膝を付いた。
幾つもの傷口からは、おびただしいほどの血が滴っている。
彼の左腕は、最早ほとんど機能しないほどに損傷してしまっていた。
トリプルスターを握り締める右手も、ほとんど力が入らなくなっていた。
「クク……白いスーツに、紅い血が良く映えてるのサ……」
マルクは自分の手に付いたドロッチェの血を舐めとりながらそう言う。
そんな彼はたしかに血を流しながらも、そこまでの重傷ではなかった。
……マルクは最初からドロッチェを殺す気でいたから容赦をしなかったが、ドロッチェには、彼と闘うのに抵抗や躊躇いがあったのだろう。
マルクは、カービィにとって大切な友達だったから。
だからできる限り危害を加えたくなかったし、叶うことなら穏便に済ませたかった。
逃げることも考えたが、もしカービィに被害が及ぶと思うと逃げられなかった。
しかしマルクは戦闘に特化した魔力を持っていて、ドロッチェ自身はそこまで戦闘に特化しているわけではない。
差し違えるのを覚悟で本気を出しても、マルクには敵わなかった。
彼の視界の中で、マルクは本当に楽しくて楽しくて仕方がないように笑っていた。
「そろそろ楽にしてあげるのサ……バイバイ」
マルクは腕の刃を閃かせ、彼の首元に最後の一撃を加えた。
裂傷から血が吹き出し、辺りを染める。
「……さて、ボクを待ってるカービィの元へ行かなきゃなのサ……」
マルクが歩き出そうすると、何かに引っ張られるような感覚がした。
「ま………て……」
流石のマルクも息を呑まずにはいられなかった。
虫の息のドロッチェが、マルクのズボンの裾を掴んでいた。
「しぶとい鼠なのサ。
とっとと死ねばいいものを……」
マルクは苦々しげに呟くとドロッチェを蹴とばした。
それでも彼はマルクに手を伸ばす。
「おまえ……そんなこ……し………こう…い……。
カ……ビ………」
手が力をなくし、地面にパタリ、と倒れた。
遂にドロッチェは息絶えてしまった。
マルクはそんなドロッチェを冷たく見つめていた、が。
「あはっ、あはははっ、」
彼の口元から笑みが零れ堕ちた。
血にまみれながら、唇を歪め目を見開き獣じみた笑みを浮かべる姿は壊れたピエロのよう。
「殺しちゃったぁぁぁーーーーーー!!!!!」
マルクは叫び、狂ったように大爆笑した。
声帯の限界を超えるほどの笑い声が、暗くなりかかった丘に響く。
しばらくしてようやく笑い終えたマルクは"イイコトを思いついた"と呟いた。
鼻歌を歌いながらドロッチェの亡骸をズタ袋に入れて、引き摺って行った。
憤怒は人を狂わせる
(ボクを怒らせたキミが悪いのサ!)