gula~暴食~
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「ふう……久しぶりに帰って来たな。」
青の騎士……メタナイトがため息とともにそう漏らした。
彼はしばらく部下も連れていかずに一人で修行の旅に出てた。
そのためププビレッジに足を踏み入れるのは、かなり久しぶりだったのだ。
随分長い間旅をしてきたような感覚があった。
様々な世界に行ってみたが、やはりここの空気が一番落ち着く、と人知れず微笑んだ。
しかし村を歩いていると、彼は大きな違和感を感じ始めた。
「ここは、こんなに静かなところだったか……?」
村がやけに静かすぎたのだ。
普段ならば遊びまわる子供の声や、大人たちの井戸端会議の声が聞こえてくるはずだったのに。
今聞こえるのは彼自身の足音と風の音のみ。
……いや、静かどころの話ではない、彼は村に入ってから誰の姿も見かけなかった。
まるで、全員どこかへこつぜんと消えてしまったかのように……。
旅に出る前はたくさんの野菜が実っていた畑は荒廃しきっていて、何一つ植えられていない。
ふわふわもこもこの牧場の羊もいなくなっている。
人どころか他の生物の気配すら全く感じ得なかった。
一歩一歩進む度に、メタナイトはどんどん不審感を募らせていく。
が、そんな気持ちも愛しい彼女の声が聞こえた途端に消え失せた。
「あーっ、メタだーっ!!」
振り返ると、ボルドー色のワンピースを着たカービィがメタナイトの方へ駆け寄ってきた。
そしてそのままがばっと抱きつく。
驚きと同時に愛しさが込み上げ、久しぶりの抱擁に暫く我を忘れてしまう。
が、ここは公衆の面前だということを思い出したのか、ハッとした表情でカービィを離した。
「だ、誰かに見られたりしていないだろうか?」
焦ってキョロキョロと周りを見渡すメタナイトに、カービィは可愛らしくくすくす笑った。
「大丈夫だよ~そんなこと気にしないで。
もう、誰もいないんだから。」
「……は?」
にわかには何を言っているのか理解できなかった。
「だから、もうここにはボクら以外誰もいないんだよ?」
にこにこと笑うカービィ。
その笑みはひどく愛らしいのに、どこか不吉なものを感じさせるものだった。
「何故……?」
震える声。
本能的に何故かはわかっていた。
彼女が着ているボルドー色のワンピースは、よく見るとまだらな部分がある。
黒っぽく変化しているところも見受けられた。
「あのね……
ボクが、全部食べちゃった。」
メタナイトは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
信じたくない、だが周りに生物の気配はない。
否定できる根拠が何処にもない。
「ソード、ブレイド……陛下は……?」
彼の頭に咄嗟に思い浮かんだ大切な人たち。
どうか彼らだけでも、と祈る気持ちも虚しく、彼女はあまりにも残酷な一言を告げる。
「うん、ごめんね?」
その言葉は、彼の全身から一切の力を抜いてしまうのに十分な効果をもたらした。
一見会話が噛み合っていないようだが、彼女の言わんとすることは、容易に理解できてしまった。
ガクン、とその場に座り込んでしまう。
ガタガタと震え、信じられない……否、信じたくない気持ちで目の前の愛する女性を見つめる。
カービィは相変わらず愛嬌のある笑みを浮かべている。
「どうして……どうしてそんなことを!?」
やっとのことで声を絞り出すが、その声は震えて嗄れていた。
メタナイトには彼女の行動を理解できなかった。
否、理解したくなかったの方が近かったのかもしれない。
「メタは、ボクを置いていったよね?」
カービィは笑みを崩し、幼子のようにしくしくと泣き始めた。
そう、彼は修行の旅に出る際に彼女を置いていったのだ。
「ボクは寂しかった。
でも我慢しなきゃて思ったんだ。
メタは今頑張ってるんだから。
でもね、ある日すごく怖くなったの。
みんな、メタみたいにボクを置いてどこかへ行っちゃうんじゃないかって思ったんだ。
そしたらボク、すごくお腹がすいちゃって……気づいたらみんな食べちゃったの。」
だからキミが悪いんだ!!とカービィは泣きじゃくりながらメタナイトを責め立てる。
責められた彼は真っ青な顔で彼女を見つめた。
普段ならば、それは理屈的におかしいと理解できたはずだ。
しかし状況が状況な故、うまく頭が働かない。
彼は旅立つ日のことを思い返していた。
行かないで、と泣きじゃくるカービィ。
なだめるフームたち。
すまない、と告げて歩みだした自分自身。
彼は強くなりたかった。
彼女が本当は闘いたくないというのを知っていた。
彼は強くなりたかった。
一人でもこの星の平和を守れるようになりたかった。
だから彼は強くなるために、修行の旅に出た。
彼女が、もう闘わなくて済むように。
彼女が、倒した者の姿を見て嘆かないように。
でもそれが、裏目に出たなんて……
(私が置いていったから
私が彼女を置いていったから
寂しがらせたから
だからみんな、死んだ?)
「メタはこんなボクなんかもう嫌いだよねでもこうするしかなかったんだ一人は嫌なんだ一人にはされたくないんだみんなで一緒にいたかったんだみんなメタみたいにボクを置いていっちゃうかもしれないそんなの嫌だよ嫌だよ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だボクの中にいてほしかったんだだって食べればずっと一緒にいられるでしょ?離れないでしょ?はなれられないでしょ?ぼくはみんなといっしょにいたかったのただそれだけなのだからみんなたべたのそしたらだれもいなくなっちゃったううんちがう、ぼくのなかにみんないてくれてるでもだれもぼくとおしゃべりしてくれないよあそんでくれないよどうしてどうしてどうしてみんなぼくをおいてくのさみしいよさみしいよひとりはいやだそばにいてよおねがいおねがいおねがい」
「っ、カービィ!!」
延々と呪詛を吐き続けるように言葉を紡ぐ彼女を、メタナイトは震える足を奮い立たせて抱き締めた。
そして自分の罪深さを嘆き、涙を流した。
彼女のしてしまったことは、決して許されることではない大罪だ。
それでも、彼は
「これからは私がそばにいる。
だから、もうこんなことはやめなさい……」
彼女のそばにいようと決めた。
供に罪を償おうと決めた。
彼女への憎しみも少なからずある。
だが、自責の念の方が強かった。
なにより……こんなことになっても、メタナイトは彼女への愛情を捨てられなかった。
カービィはメタナイトの首に腕を回し、抱き返した。
「ありがとう、ありがとう……」
嘘のように泣き止み、震える声でお礼を言う彼女を、優しく宥めるメタナイト。
が、彼女の生暖かい吐息が首筋にかかると、何故か突き飛ばしてしまいたい衝動にかられた。
そんな思いを振り払いながら、これからどうしようか、と思案する。
この村にはもう住むことはできない。
唐突にチクリと針のようなもので刺される小さな痛みが走った。
なんだ?と疑問に思うと同時に、足から力が抜け崩れ落ちてしまう。
カービィは脱力したメタナイトを支えると、聖女のように微笑んだ。
「ありがとう……めた……ぼく、すごくうれしいよ……」
その笑顔は甘い、だがそれ以上に危うい。
「ずっと、ぼくのそばにいてくれるんだね……」
そして彼女は、
メタナイトの首筋に噛み付いた。
「ぐあっ……!?」
ぶちりと皮膚を食い破られ、感じたことのないほどの痛みが彼を襲う。
それは、まるで燃え上がるように熱い。
首筋からおびただしい量の血が溢れだした。
しかし、血の勢いはすぐに止み、痛みもギリギリ意識を保っていられるほどの鈍いものへと変化した。
「な……?」
自分の身に起こったことが理解できず、困惑するメタナイト。
普通は首筋を食い破られて、朧気ながらも意識を保っていられるわけがない。
出血量だってもっともっとあるはずだ。
彼女は皮膚を伝う血を舐めとると、続いて腕に噛みついた。
混濁する視界の中の彼女は、歪んだ笑みを浮かべた。
「なぜ、だっ……」
メタナイトの問いかけに、カービィは不自然な程に首をかしげた。
「だって……いっしょにいてくれるんでしょ?
だから、たべていいんでしょ?」
カービィは露になったピンク色の肉に赤い舌を這わした。
違う、それは違う。
そう言いたくてももう声が出ない。
意味を成さないうめき声が出るだけだ。
「これからめたとぼくはね、ほんとうにひとつになるんだよ――…」
キラキラと目を輝かせ朗々と語る姿は無邪気な子供のようで、どこか幼少期の彼女を彷彿とさせた。
「めたはね、いちばんおいしいだろうからゆっくりたべたいの。
でもそうすると、ちがいっぱいこぼれちゃうでしょ?」
だからおくすりをつかったんだよ…と、メタナイトの頬を撫でた。
触れられた部分から皮膚が粟立ち、逃げ出したくなる。
だが逃げようにも身体が痺れていて動けない。
心の中は後悔でいっぱいだった。
カービィは更に笑みを深め、そして……………
***
彼女は、1つだけ嘘をついていた。
たしかに最初は、寂しくてみんなで一緒にいたくて手を出した。
一人目に食べたのは幼馴染みの少女。
彼女の肉にかじりつき、血を啜った瞬間にカービィは雷に打たれたような衝撃を受けた。
その味は酷く美味であった。
これまでに味わったことの無いほどに美味かった。
今までコピーするために“吸収”していたのとは明らかに違う“捕食”。
空腹を満たすために人を“食べる”という満足感と背徳感。
彼女はその甘美な世界に魅せられてしまった。
それからというもの、今までの食事では満足できなくなってしまった。
今まで当たり前に食べていたものが、不味く感じるようになってしまったのだ。
カービィは欲望を満たすために村人を次々に捕らえ、食らうようになった。
年老いた者は奥深いこくのある味わいがして、幼い者は甘く感じた。
必死に止めようとした道化師がいた。
説得を試みた盗賊もいた。
最期の最期まで、自らの死を恐れずに彼女を止めようとした王がいた。
しかし、彼女は誰にも耳を傾けることをせず、残さず食べてしまった。
その結果、彼女の周りからは誰もいなくなってしまった。
それでも彼女の腹は満たされない。
思い浮かんだのは愛する彼の姿。
『大好きな仲間がこんなにも美味いのならば、
たったひとり愛する彼の血肉はどれだけ美味いのだろうか――。』
そればかりを考えるようになったのだ。
それから彼女は、彼を待ち続けた。
どんなに空腹になっても、そこから動かずに。
ひたすらに彼を待ち続けた。
すべては、彼の味を知るために。
それの答えが、ようやく今出たのだ。
「おいしかったぁ」
カービィは満足そうに笑った。
溢れんばかりの笑みを浮かべ、その場にクルクルと回る。
満足そうに口周りについた血を乱暴に手の甲で拭い、それも舐めとった。
今、彼女の周りからは本当に誰もいなくなってしまった。
食べるものなどとっくに尽きてしまっている。
メタナイトの味は満足のいくものだったが、今の彼女にしてみれば圧倒的に量が足りていなかった。
彼女の腹は満たされない。
食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食欲だけが彼女の脳内を埋め尽くす。
喉の乾きにも似た渇望、いや、実際に喉が乾いているのだろうか。
カービィは何かを求めるように虚空に手を伸ばし……ハッと目を見開いた。
視界に入ったのは自らの右手。
白い手はメタナイトの血で赤く染まっている。
それをしばらくじっと見つめ……唇を歪め、ニッコリと笑った。
ああ、まだたべたりないよ(最後の食事は……)
next
→あとがき、続き
青の騎士……メタナイトがため息とともにそう漏らした。
彼はしばらく部下も連れていかずに一人で修行の旅に出てた。
そのためププビレッジに足を踏み入れるのは、かなり久しぶりだったのだ。
随分長い間旅をしてきたような感覚があった。
様々な世界に行ってみたが、やはりここの空気が一番落ち着く、と人知れず微笑んだ。
しかし村を歩いていると、彼は大きな違和感を感じ始めた。
「ここは、こんなに静かなところだったか……?」
村がやけに静かすぎたのだ。
普段ならば遊びまわる子供の声や、大人たちの井戸端会議の声が聞こえてくるはずだったのに。
今聞こえるのは彼自身の足音と風の音のみ。
……いや、静かどころの話ではない、彼は村に入ってから誰の姿も見かけなかった。
まるで、全員どこかへこつぜんと消えてしまったかのように……。
旅に出る前はたくさんの野菜が実っていた畑は荒廃しきっていて、何一つ植えられていない。
ふわふわもこもこの牧場の羊もいなくなっている。
人どころか他の生物の気配すら全く感じ得なかった。
一歩一歩進む度に、メタナイトはどんどん不審感を募らせていく。
が、そんな気持ちも愛しい彼女の声が聞こえた途端に消え失せた。
「あーっ、メタだーっ!!」
振り返ると、ボルドー色のワンピースを着たカービィがメタナイトの方へ駆け寄ってきた。
そしてそのままがばっと抱きつく。
驚きと同時に愛しさが込み上げ、久しぶりの抱擁に暫く我を忘れてしまう。
が、ここは公衆の面前だということを思い出したのか、ハッとした表情でカービィを離した。
「だ、誰かに見られたりしていないだろうか?」
焦ってキョロキョロと周りを見渡すメタナイトに、カービィは可愛らしくくすくす笑った。
「大丈夫だよ~そんなこと気にしないで。
もう、誰もいないんだから。」
「……は?」
にわかには何を言っているのか理解できなかった。
「だから、もうここにはボクら以外誰もいないんだよ?」
にこにこと笑うカービィ。
その笑みはひどく愛らしいのに、どこか不吉なものを感じさせるものだった。
「何故……?」
震える声。
本能的に何故かはわかっていた。
彼女が着ているボルドー色のワンピースは、よく見るとまだらな部分がある。
黒っぽく変化しているところも見受けられた。
「あのね……
ボクが、全部食べちゃった。」
メタナイトは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
信じたくない、だが周りに生物の気配はない。
否定できる根拠が何処にもない。
「ソード、ブレイド……陛下は……?」
彼の頭に咄嗟に思い浮かんだ大切な人たち。
どうか彼らだけでも、と祈る気持ちも虚しく、彼女はあまりにも残酷な一言を告げる。
「うん、ごめんね?」
その言葉は、彼の全身から一切の力を抜いてしまうのに十分な効果をもたらした。
一見会話が噛み合っていないようだが、彼女の言わんとすることは、容易に理解できてしまった。
ガクン、とその場に座り込んでしまう。
ガタガタと震え、信じられない……否、信じたくない気持ちで目の前の愛する女性を見つめる。
カービィは相変わらず愛嬌のある笑みを浮かべている。
「どうして……どうしてそんなことを!?」
やっとのことで声を絞り出すが、その声は震えて嗄れていた。
メタナイトには彼女の行動を理解できなかった。
否、理解したくなかったの方が近かったのかもしれない。
「メタは、ボクを置いていったよね?」
カービィは笑みを崩し、幼子のようにしくしくと泣き始めた。
そう、彼は修行の旅に出る際に彼女を置いていったのだ。
「ボクは寂しかった。
でも我慢しなきゃて思ったんだ。
メタは今頑張ってるんだから。
でもね、ある日すごく怖くなったの。
みんな、メタみたいにボクを置いてどこかへ行っちゃうんじゃないかって思ったんだ。
そしたらボク、すごくお腹がすいちゃって……気づいたらみんな食べちゃったの。」
だからキミが悪いんだ!!とカービィは泣きじゃくりながらメタナイトを責め立てる。
責められた彼は真っ青な顔で彼女を見つめた。
普段ならば、それは理屈的におかしいと理解できたはずだ。
しかし状況が状況な故、うまく頭が働かない。
彼は旅立つ日のことを思い返していた。
行かないで、と泣きじゃくるカービィ。
なだめるフームたち。
すまない、と告げて歩みだした自分自身。
彼は強くなりたかった。
彼女が本当は闘いたくないというのを知っていた。
彼は強くなりたかった。
一人でもこの星の平和を守れるようになりたかった。
だから彼は強くなるために、修行の旅に出た。
彼女が、もう闘わなくて済むように。
彼女が、倒した者の姿を見て嘆かないように。
でもそれが、裏目に出たなんて……
(私が置いていったから
私が彼女を置いていったから
寂しがらせたから
だからみんな、死んだ?)
「メタはこんなボクなんかもう嫌いだよねでもこうするしかなかったんだ一人は嫌なんだ一人にはされたくないんだみんなで一緒にいたかったんだみんなメタみたいにボクを置いていっちゃうかもしれないそんなの嫌だよ嫌だよ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だボクの中にいてほしかったんだだって食べればずっと一緒にいられるでしょ?離れないでしょ?はなれられないでしょ?ぼくはみんなといっしょにいたかったのただそれだけなのだからみんなたべたのそしたらだれもいなくなっちゃったううんちがう、ぼくのなかにみんないてくれてるでもだれもぼくとおしゃべりしてくれないよあそんでくれないよどうしてどうしてどうしてみんなぼくをおいてくのさみしいよさみしいよひとりはいやだそばにいてよおねがいおねがいおねがい」
「っ、カービィ!!」
延々と呪詛を吐き続けるように言葉を紡ぐ彼女を、メタナイトは震える足を奮い立たせて抱き締めた。
そして自分の罪深さを嘆き、涙を流した。
彼女のしてしまったことは、決して許されることではない大罪だ。
それでも、彼は
「これからは私がそばにいる。
だから、もうこんなことはやめなさい……」
彼女のそばにいようと決めた。
供に罪を償おうと決めた。
彼女への憎しみも少なからずある。
だが、自責の念の方が強かった。
なにより……こんなことになっても、メタナイトは彼女への愛情を捨てられなかった。
カービィはメタナイトの首に腕を回し、抱き返した。
「ありがとう、ありがとう……」
嘘のように泣き止み、震える声でお礼を言う彼女を、優しく宥めるメタナイト。
が、彼女の生暖かい吐息が首筋にかかると、何故か突き飛ばしてしまいたい衝動にかられた。
そんな思いを振り払いながら、これからどうしようか、と思案する。
この村にはもう住むことはできない。
唐突にチクリと針のようなもので刺される小さな痛みが走った。
なんだ?と疑問に思うと同時に、足から力が抜け崩れ落ちてしまう。
カービィは脱力したメタナイトを支えると、聖女のように微笑んだ。
「ありがとう……めた……ぼく、すごくうれしいよ……」
その笑顔は甘い、だがそれ以上に危うい。
「ずっと、ぼくのそばにいてくれるんだね……」
そして彼女は、
メタナイトの首筋に噛み付いた。
「ぐあっ……!?」
ぶちりと皮膚を食い破られ、感じたことのないほどの痛みが彼を襲う。
それは、まるで燃え上がるように熱い。
首筋からおびただしい量の血が溢れだした。
しかし、血の勢いはすぐに止み、痛みもギリギリ意識を保っていられるほどの鈍いものへと変化した。
「な……?」
自分の身に起こったことが理解できず、困惑するメタナイト。
普通は首筋を食い破られて、朧気ながらも意識を保っていられるわけがない。
出血量だってもっともっとあるはずだ。
彼女は皮膚を伝う血を舐めとると、続いて腕に噛みついた。
混濁する視界の中の彼女は、歪んだ笑みを浮かべた。
「なぜ、だっ……」
メタナイトの問いかけに、カービィは不自然な程に首をかしげた。
「だって……いっしょにいてくれるんでしょ?
だから、たべていいんでしょ?」
カービィは露になったピンク色の肉に赤い舌を這わした。
違う、それは違う。
そう言いたくてももう声が出ない。
意味を成さないうめき声が出るだけだ。
「これからめたとぼくはね、ほんとうにひとつになるんだよ――…」
キラキラと目を輝かせ朗々と語る姿は無邪気な子供のようで、どこか幼少期の彼女を彷彿とさせた。
「めたはね、いちばんおいしいだろうからゆっくりたべたいの。
でもそうすると、ちがいっぱいこぼれちゃうでしょ?」
だからおくすりをつかったんだよ…と、メタナイトの頬を撫でた。
触れられた部分から皮膚が粟立ち、逃げ出したくなる。
だが逃げようにも身体が痺れていて動けない。
心の中は後悔でいっぱいだった。
カービィは更に笑みを深め、そして……………
***
彼女は、1つだけ嘘をついていた。
たしかに最初は、寂しくてみんなで一緒にいたくて手を出した。
一人目に食べたのは幼馴染みの少女。
彼女の肉にかじりつき、血を啜った瞬間にカービィは雷に打たれたような衝撃を受けた。
その味は酷く美味であった。
これまでに味わったことの無いほどに美味かった。
今までコピーするために“吸収”していたのとは明らかに違う“捕食”。
空腹を満たすために人を“食べる”という満足感と背徳感。
彼女はその甘美な世界に魅せられてしまった。
それからというもの、今までの食事では満足できなくなってしまった。
今まで当たり前に食べていたものが、不味く感じるようになってしまったのだ。
カービィは欲望を満たすために村人を次々に捕らえ、食らうようになった。
年老いた者は奥深いこくのある味わいがして、幼い者は甘く感じた。
必死に止めようとした道化師がいた。
説得を試みた盗賊もいた。
最期の最期まで、自らの死を恐れずに彼女を止めようとした王がいた。
しかし、彼女は誰にも耳を傾けることをせず、残さず食べてしまった。
その結果、彼女の周りからは誰もいなくなってしまった。
それでも彼女の腹は満たされない。
思い浮かんだのは愛する彼の姿。
『大好きな仲間がこんなにも美味いのならば、
たったひとり愛する彼の血肉はどれだけ美味いのだろうか――。』
そればかりを考えるようになったのだ。
それから彼女は、彼を待ち続けた。
どんなに空腹になっても、そこから動かずに。
ひたすらに彼を待ち続けた。
すべては、彼の味を知るために。
それの答えが、ようやく今出たのだ。
「おいしかったぁ」
カービィは満足そうに笑った。
溢れんばかりの笑みを浮かべ、その場にクルクルと回る。
満足そうに口周りについた血を乱暴に手の甲で拭い、それも舐めとった。
今、彼女の周りからは本当に誰もいなくなってしまった。
食べるものなどとっくに尽きてしまっている。
メタナイトの味は満足のいくものだったが、今の彼女にしてみれば圧倒的に量が足りていなかった。
彼女の腹は満たされない。
食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食欲だけが彼女の脳内を埋め尽くす。
喉の乾きにも似た渇望、いや、実際に喉が乾いているのだろうか。
カービィは何かを求めるように虚空に手を伸ばし……ハッと目を見開いた。
視界に入ったのは自らの右手。
白い手はメタナイトの血で赤く染まっている。
それをしばらくじっと見つめ……唇を歪め、ニッコリと笑った。
ああ、まだたべたりないよ(最後の食事は……)
next
→あとがき、続き