1章
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大広間の賑やかなざわめきの中、アラン・セシールはスリザリンのテーブルに座りながら、無意識にグリフィンドールの方を見やった。そこには、ひときわ明るい笑顔で女の子たちに囲まれているシリウス・ブラックの姿があった。
シリウスは、まるで太陽のように周囲を照らしていた。彼の周りにはいつも笑い声が絶えず、誰もがその自由さと魅力に惹きつけられていた。アランの胸の奥が、きゅうっと痛む。あの笑顔は、もう自分だけのものではない。幼い頃、二人で過ごした静かな時間や、そっと交わした秘密の約束が、遠い夢のように思える。
アランはそっと目を伏せ、手元のカップを指でなぞった。思い出そうとするたび、幼い日の記憶が少しずつ霞んでいくような気がした。夏の日差しの下でシリウスと駆け回ったこと、夜の庭で星を数えたこと、秘密の手紙をやりとりしたこと――どれも、心の奥で色褪せていく。
「あの頃のシリウスは、私だけを見てくれていたのに……」
そんな思いが胸を締め付ける。今のシリウスは、誰にでも優しくて、誰にでも笑いかける。アランの存在は、彼の世界のほんの一部に過ぎなくなってしまったのかもしれない。
ふと、笑い声が大広間に響く。シリウスが誰かの肩に手を置き、楽しげに話している。その姿を見つめるたび、アランは自分がどんどん遠ざかっていくような気がして、どうしようもなく寂しくなった。
「忘れたくない。あの頃のシリウスも、私自身も……」
アランはそっと胸に手を当てる。鼓動の音だけが、今を生きている証だった。けれど、心の奥底では、失われていくものへの哀しみが、静かに波紋のように広がっていた。
食事の味も、友人たちの会話も、今日はなぜか遠く感じる。アランはもう一度だけシリウスの姿を目で追い、そっとため息をついた。幼き日の記憶が、これ以上薄れてしまわないようにと、心の中で必死に願いながら。
アランは、家族から届いた手紙を何度も読み返していた。シリウスがグリフィンドールに入ったことで、当然セシール家とブラック家の婚約は白紙になるものだと、どこかで信じていた。けれど現実は、まるで流れる水のように自然に、弟レギュラスとの婚約が決まってしまった。
心がついていかない。アランの胸の中には、重く冷たいものが沈んでいた。家族や周囲は「これで良かった」と安堵している。だが、アランの心はただ混乱し、どう受け止めればいいのか分からなかった。
レギュラスは優しい。彼の気遣いも、静かな微笑みも、アランには痛いほど伝わってくる。けれど、心はまだシリウスを思い続けている。幼い頃、太陽のように笑って「俺たちは死ぬまで一緒だ」と言ってくれたあの人。今も、アランの胸の奥にはその約束が生きていた。
「どうして、こんなに簡単に決まってしまうの……?」
アランは窓辺に立ち尽くし、夜の闇に問いかける。シリウスの姿を思い浮かべるたび、胸が締め付けられる。家の期待も、レギュラスの優しさも、今はただ重くのしかかるだけだった。
自分の気持ちが置き去りにされたまま、現実だけが先へと進んでいく。アランは、まだ終わらせたくない想いを抱えながら、静かに涙をこぼすしかなかった。
ホグワーツの静かな夜、アラン・セシールはベッドの上で膝を抱えていた。カーテンの隙間から差し込む月明かりが、彼女の髪に淡く影を落とす。手元には、婚約が決まったことを知らせる家からの手紙がまだ残っている。
アランの心は、どうしようもなくシリウスに向かっていた。グリフィンドールの塔のどこかで、彼は今、何を思っているのだろう。ブラック家とセシール家の婚約が続いたまま、相手が弟のレギュラスに変わったことを、シリウスはどう受け止めているのだろう。
「寂しいって、少しでも思ってくれているのかな……」
アランはそっと呟く。もし、シリウスが自分のことを思い出して、胸の奥が少しでも痛むのなら――その想いだけが、今の自分を支えている気がした。
でも、シリウスは自由を選んだ。家のしがらみや純血主義を捨てて、自分の信じる道を歩き始めた。もしかしたら、アランとの婚約も「切り捨てるべきもの」として、もう心の中で整理してしまったのかもしれない。
「シリウスは、私のことなんてもう……」
不安が胸を締め付ける。けれど、アランはどうしても願わずにはいられなかった。自分の存在が、シリウスにとって後ろ髪を引くものであってほしい。ほんの少しでも、彼の心のどこかに残っていてほしい。
アランは窓の外に目を向けた。遠くグリフィンドールの塔に灯る明かりを見つめながら、そっと目を閉じる。シリウスの笑顔や声、幼い日の思い出が、静かに心に浮かんできた。
「シリウス、あなたは今、どんな気持ちでいるの……?」
夜の静けさの中、アランの小さな願いだけが、そっと月に溶けていった。
アランは、ベッドのカーテンを引き寄せて小さな明かりを灯し、手のひらに収まる一枚の魔法写真をそっと取り出した。写真の中では、幼い自分とシリウス、そしてレギュラスが並んで笑っている。三人の顔は、時折ふざけて動き、くすくすと笑い合っているようだった。
シリウスの笑顔は、やっぱり太陽みたいだった。明るくて、あたたかくて、どこまでも自由で。写真の中の彼は、アランの肩に腕を回し、満面の笑みで何かを話しかけている。あの時、シリウスは言った。
「俺たちは死ぬまで一緒だ。」
その言葉を聞いた瞬間、アランは胸がぽっと熱くなったのを覚えている。シリウスの声も、笑い声も、あの約束も、今でも鮮明に心の奥に残っている。
けれど、現実のシリウスは、もうこんなに遠い。グリフィンドールの塔で、別の友人たちと笑い合う彼の姿を思い出すたび、アランの手の中の魔法写真が、まるで別の世界のもののように感じられた。
「ねぇ、シリウス――まだ、あの約束、覚えているの?」
心の中でそっと問いかけてみる。けれど、答えは返ってこない。写真の中のシリウスは、変わらず太陽のように笑い続けているだけだ。
アランは写真を胸に当て、静かに目を閉じた。遠い日の約束が、今も自分の中で生きていることを確かめるように。シリウスの笑顔が、どんなに遠く離れても、ずっと自分の心を照らし続けていることを信じたくて。
夜の静けさの中、アランの願いと寂しさだけが、そっと揺れていた。
レギュラスは、アランとの婚約が正式に決まったという知らせを受け取った瞬間、胸の奥で静かに、しかし確かに歓喜が膨らんでいくのを感じていた。これまでずっと、彼女の隣に立つのは兄シリウスだと、誰もが思っていた。レギュラス自身も、そうなる運命だと諦めていた。なにより、アランが兄に向ける眼差しの温度を、レギュラスは幼い頃から痛いほど知っていたからだ。
あの夏の日、三人で遊んだ庭で、シリウスがアランに向かって「俺たちは死ぬまで一緒だ」と笑いながら言った言葉。あの約束は、幼いレギュラスの心に深く突き刺さり、ずっと抜けなかった。自分には決して届かない場所に、アランの心があることを、子どもながらに悟っていた。
だが、運命は思いがけず動いた。兄がグリフィンドールに入り、家の伝統を裏切ったことで、ブラック家とセシール家の婚約話は一度は宙に浮いた。そして、気が付けばその席には自分が座っていた。アランとの婚約が「流れるように」決まったのは、家の都合でしかなかったかもしれない。それでも、レギュラスは心の底でずっとこの瞬間を望んでいた。
兄の家への裏切りは、決して許せない。だが、アランのことだけは――兄が家を捨ててくれたことに、むしろ感謝したいとさえ思ってしまう。自分がずっと憧れ、手を伸ばし続けてきた少女が、ようやく自分の隣に来る。その現実に、レギュラスは戸惑いながらも、密やかな喜びを噛みしめていた。
けれど、アランの心がまだ兄を向いていることも、痛いほど分かっている。彼女の微かな視線の揺れ、沈黙の合間に漂う寂しさ。レギュラスはそれを見逃さない。だからこそ、彼女の心がいつか自分に向く日を、焦らず静かに待とうと決めていた。
「今はまだ、君の心がどこにあってもいい。君の隣にいられるだけで、十分なんだ。」
レギュラスはそう自分に言い聞かせ、アランのためにできる限りの優しさを注ごうと誓った。兄への複雑な感情と、叶ったはずの恋の痛み。その狭間で、彼は静かに微笑んだ。
スリザリンの長いテーブルの一角。朝の光が大広間の高い窓から差し込み、銀と緑の装飾が静かに輝いている。アラン・セシールは、翡翠色の瞳を伏せたまま、手元のカップをそっと揺らしていた。その隣に、レギュラス・ブラックが静かに歩み寄る。
「アラン、隣いいですか?」
レギュラスの声は控えめだが、どこか誇らしげでもあった。アランは一瞬だけ顔を上げ、微かに微笑む。
「ええ、どうぞ。」
レギュラスは丁寧に腰を下ろし、アランの隣に座る。スリザリンのテーブルは、純血名家の子女や子息が集う場所。中でもアラン・セシールは、その美貌と気品で一目置かれる存在だった。セシール家は古くから続く純潔の名家。婚約の話は、ブラック家同様に数えきれないほど舞い込んでいた。だが、どちらも血筋を重んじる家柄ゆえ、最も高貴な一族同士での婚姻が望まれたのだ。
レギュラスは、隣に座るアランの横顔をそっと見つめる。彼女の翡翠の瞳――その美しさに、幼い頃から心を奪われてきた。その瞳が今もなお、遠くグリフィンドールの方を追いかけていることを、レギュラスは痛いほど知っている。
アランの指先が、無意識にテーブルクロスの端をなぞる。レギュラスは、彼女の心の揺れを感じ取りながらも、そっと声をかける。
「……朝食は、ちゃんと食べてる?」
「ええ、ありがとう。レギュラスこそ。」
短い会話の合間に、二人の間に静かな時間が流れる。レギュラスは、アランの隣に座れることだけで、胸の奥に小さな満足感を覚えていた。けれど同時に、その翡翠の瞳が自分ではなく、兄シリウスを追い続けている現実も、痛みとして残る。
それでも、今はただ、アランの隣にいられることが嬉しかった。彼女の心がいつか自分に向く日を、レギュラスは静かに願いながら、そっと微笑んだ。
スリザリンの朝の大広間は、冷ややかな静けさと高貴な緊張感に包まれていた。深い緑と銀の装飾が並ぶ長いテーブルの一角で、アランとレギュラスは隣同士に座っていた。周囲では純血名家の生徒たちが低い声で談笑しているが、二人の間だけは、静かで繊細な空気が流れている。
「アラン、授業に遅れます」とレギュラスがそっと声をかける。
「ええ、急ぎましょう」とアランは静かに応じ、カップを置いて立ち上がる。
レギュラスは、できる限りアランのそばにいることを選んでいた。彼女の中にいるシリウスの影を、自分の存在で少しでも覆い隠せるのではないか――そんな思いが、彼の胸の奥に静かに息づいていた。同じスリザリンの寮生であること、そして婚約者という立場。かつては兄シリウスが独占していたアランの隣を、今は自分が堂々と歩ける。それはレギュラスにとって、密かな誇りであり、ささやかな幸福だった。
大理石の床を踏みしめて並んで歩くとき、レギュラスはアランの横顔をそっと盗み見る。翡翠色の瞳はどこか遠くを見つめているが、その隣に自分がいるという事実が、彼の心を満たしていた。
スリザリンの生徒たちは、野心や誇りを胸に秘めている。レギュラスもまた、欲しいものを手に入れるために静かに努力を重ねてきた。だが今は、ただアランの隣にいること――それだけが、彼の一番の願いだった。
廊下を歩く二人の間に、言葉はほとんどない。それでも、レギュラスはこの沈黙すら愛おしく感じていた。アランの心がまだ兄を追い続けていることを知りながらも、彼女の隣に立つことができる今を、何よりも誇らしく思っていた。
スリザリンの冷たい石壁に朝の光が差し込む中、レギュラスはそっと歩幅を合わせ、アランの歩みに寄り添った。彼の中で静かに芽生える希望と誇りが、緑の寮服の下で密やかに輝いていた。
シリウスは、まるで太陽のように周囲を照らしていた。彼の周りにはいつも笑い声が絶えず、誰もがその自由さと魅力に惹きつけられていた。アランの胸の奥が、きゅうっと痛む。あの笑顔は、もう自分だけのものではない。幼い頃、二人で過ごした静かな時間や、そっと交わした秘密の約束が、遠い夢のように思える。
アランはそっと目を伏せ、手元のカップを指でなぞった。思い出そうとするたび、幼い日の記憶が少しずつ霞んでいくような気がした。夏の日差しの下でシリウスと駆け回ったこと、夜の庭で星を数えたこと、秘密の手紙をやりとりしたこと――どれも、心の奥で色褪せていく。
「あの頃のシリウスは、私だけを見てくれていたのに……」
そんな思いが胸を締め付ける。今のシリウスは、誰にでも優しくて、誰にでも笑いかける。アランの存在は、彼の世界のほんの一部に過ぎなくなってしまったのかもしれない。
ふと、笑い声が大広間に響く。シリウスが誰かの肩に手を置き、楽しげに話している。その姿を見つめるたび、アランは自分がどんどん遠ざかっていくような気がして、どうしようもなく寂しくなった。
「忘れたくない。あの頃のシリウスも、私自身も……」
アランはそっと胸に手を当てる。鼓動の音だけが、今を生きている証だった。けれど、心の奥底では、失われていくものへの哀しみが、静かに波紋のように広がっていた。
食事の味も、友人たちの会話も、今日はなぜか遠く感じる。アランはもう一度だけシリウスの姿を目で追い、そっとため息をついた。幼き日の記憶が、これ以上薄れてしまわないようにと、心の中で必死に願いながら。
アランは、家族から届いた手紙を何度も読み返していた。シリウスがグリフィンドールに入ったことで、当然セシール家とブラック家の婚約は白紙になるものだと、どこかで信じていた。けれど現実は、まるで流れる水のように自然に、弟レギュラスとの婚約が決まってしまった。
心がついていかない。アランの胸の中には、重く冷たいものが沈んでいた。家族や周囲は「これで良かった」と安堵している。だが、アランの心はただ混乱し、どう受け止めればいいのか分からなかった。
レギュラスは優しい。彼の気遣いも、静かな微笑みも、アランには痛いほど伝わってくる。けれど、心はまだシリウスを思い続けている。幼い頃、太陽のように笑って「俺たちは死ぬまで一緒だ」と言ってくれたあの人。今も、アランの胸の奥にはその約束が生きていた。
「どうして、こんなに簡単に決まってしまうの……?」
アランは窓辺に立ち尽くし、夜の闇に問いかける。シリウスの姿を思い浮かべるたび、胸が締め付けられる。家の期待も、レギュラスの優しさも、今はただ重くのしかかるだけだった。
自分の気持ちが置き去りにされたまま、現実だけが先へと進んでいく。アランは、まだ終わらせたくない想いを抱えながら、静かに涙をこぼすしかなかった。
ホグワーツの静かな夜、アラン・セシールはベッドの上で膝を抱えていた。カーテンの隙間から差し込む月明かりが、彼女の髪に淡く影を落とす。手元には、婚約が決まったことを知らせる家からの手紙がまだ残っている。
アランの心は、どうしようもなくシリウスに向かっていた。グリフィンドールの塔のどこかで、彼は今、何を思っているのだろう。ブラック家とセシール家の婚約が続いたまま、相手が弟のレギュラスに変わったことを、シリウスはどう受け止めているのだろう。
「寂しいって、少しでも思ってくれているのかな……」
アランはそっと呟く。もし、シリウスが自分のことを思い出して、胸の奥が少しでも痛むのなら――その想いだけが、今の自分を支えている気がした。
でも、シリウスは自由を選んだ。家のしがらみや純血主義を捨てて、自分の信じる道を歩き始めた。もしかしたら、アランとの婚約も「切り捨てるべきもの」として、もう心の中で整理してしまったのかもしれない。
「シリウスは、私のことなんてもう……」
不安が胸を締め付ける。けれど、アランはどうしても願わずにはいられなかった。自分の存在が、シリウスにとって後ろ髪を引くものであってほしい。ほんの少しでも、彼の心のどこかに残っていてほしい。
アランは窓の外に目を向けた。遠くグリフィンドールの塔に灯る明かりを見つめながら、そっと目を閉じる。シリウスの笑顔や声、幼い日の思い出が、静かに心に浮かんできた。
「シリウス、あなたは今、どんな気持ちでいるの……?」
夜の静けさの中、アランの小さな願いだけが、そっと月に溶けていった。
アランは、ベッドのカーテンを引き寄せて小さな明かりを灯し、手のひらに収まる一枚の魔法写真をそっと取り出した。写真の中では、幼い自分とシリウス、そしてレギュラスが並んで笑っている。三人の顔は、時折ふざけて動き、くすくすと笑い合っているようだった。
シリウスの笑顔は、やっぱり太陽みたいだった。明るくて、あたたかくて、どこまでも自由で。写真の中の彼は、アランの肩に腕を回し、満面の笑みで何かを話しかけている。あの時、シリウスは言った。
「俺たちは死ぬまで一緒だ。」
その言葉を聞いた瞬間、アランは胸がぽっと熱くなったのを覚えている。シリウスの声も、笑い声も、あの約束も、今でも鮮明に心の奥に残っている。
けれど、現実のシリウスは、もうこんなに遠い。グリフィンドールの塔で、別の友人たちと笑い合う彼の姿を思い出すたび、アランの手の中の魔法写真が、まるで別の世界のもののように感じられた。
「ねぇ、シリウス――まだ、あの約束、覚えているの?」
心の中でそっと問いかけてみる。けれど、答えは返ってこない。写真の中のシリウスは、変わらず太陽のように笑い続けているだけだ。
アランは写真を胸に当て、静かに目を閉じた。遠い日の約束が、今も自分の中で生きていることを確かめるように。シリウスの笑顔が、どんなに遠く離れても、ずっと自分の心を照らし続けていることを信じたくて。
夜の静けさの中、アランの願いと寂しさだけが、そっと揺れていた。
レギュラスは、アランとの婚約が正式に決まったという知らせを受け取った瞬間、胸の奥で静かに、しかし確かに歓喜が膨らんでいくのを感じていた。これまでずっと、彼女の隣に立つのは兄シリウスだと、誰もが思っていた。レギュラス自身も、そうなる運命だと諦めていた。なにより、アランが兄に向ける眼差しの温度を、レギュラスは幼い頃から痛いほど知っていたからだ。
あの夏の日、三人で遊んだ庭で、シリウスがアランに向かって「俺たちは死ぬまで一緒だ」と笑いながら言った言葉。あの約束は、幼いレギュラスの心に深く突き刺さり、ずっと抜けなかった。自分には決して届かない場所に、アランの心があることを、子どもながらに悟っていた。
だが、運命は思いがけず動いた。兄がグリフィンドールに入り、家の伝統を裏切ったことで、ブラック家とセシール家の婚約話は一度は宙に浮いた。そして、気が付けばその席には自分が座っていた。アランとの婚約が「流れるように」決まったのは、家の都合でしかなかったかもしれない。それでも、レギュラスは心の底でずっとこの瞬間を望んでいた。
兄の家への裏切りは、決して許せない。だが、アランのことだけは――兄が家を捨ててくれたことに、むしろ感謝したいとさえ思ってしまう。自分がずっと憧れ、手を伸ばし続けてきた少女が、ようやく自分の隣に来る。その現実に、レギュラスは戸惑いながらも、密やかな喜びを噛みしめていた。
けれど、アランの心がまだ兄を向いていることも、痛いほど分かっている。彼女の微かな視線の揺れ、沈黙の合間に漂う寂しさ。レギュラスはそれを見逃さない。だからこそ、彼女の心がいつか自分に向く日を、焦らず静かに待とうと決めていた。
「今はまだ、君の心がどこにあってもいい。君の隣にいられるだけで、十分なんだ。」
レギュラスはそう自分に言い聞かせ、アランのためにできる限りの優しさを注ごうと誓った。兄への複雑な感情と、叶ったはずの恋の痛み。その狭間で、彼は静かに微笑んだ。
スリザリンの長いテーブルの一角。朝の光が大広間の高い窓から差し込み、銀と緑の装飾が静かに輝いている。アラン・セシールは、翡翠色の瞳を伏せたまま、手元のカップをそっと揺らしていた。その隣に、レギュラス・ブラックが静かに歩み寄る。
「アラン、隣いいですか?」
レギュラスの声は控えめだが、どこか誇らしげでもあった。アランは一瞬だけ顔を上げ、微かに微笑む。
「ええ、どうぞ。」
レギュラスは丁寧に腰を下ろし、アランの隣に座る。スリザリンのテーブルは、純血名家の子女や子息が集う場所。中でもアラン・セシールは、その美貌と気品で一目置かれる存在だった。セシール家は古くから続く純潔の名家。婚約の話は、ブラック家同様に数えきれないほど舞い込んでいた。だが、どちらも血筋を重んじる家柄ゆえ、最も高貴な一族同士での婚姻が望まれたのだ。
レギュラスは、隣に座るアランの横顔をそっと見つめる。彼女の翡翠の瞳――その美しさに、幼い頃から心を奪われてきた。その瞳が今もなお、遠くグリフィンドールの方を追いかけていることを、レギュラスは痛いほど知っている。
アランの指先が、無意識にテーブルクロスの端をなぞる。レギュラスは、彼女の心の揺れを感じ取りながらも、そっと声をかける。
「……朝食は、ちゃんと食べてる?」
「ええ、ありがとう。レギュラスこそ。」
短い会話の合間に、二人の間に静かな時間が流れる。レギュラスは、アランの隣に座れることだけで、胸の奥に小さな満足感を覚えていた。けれど同時に、その翡翠の瞳が自分ではなく、兄シリウスを追い続けている現実も、痛みとして残る。
それでも、今はただ、アランの隣にいられることが嬉しかった。彼女の心がいつか自分に向く日を、レギュラスは静かに願いながら、そっと微笑んだ。
スリザリンの朝の大広間は、冷ややかな静けさと高貴な緊張感に包まれていた。深い緑と銀の装飾が並ぶ長いテーブルの一角で、アランとレギュラスは隣同士に座っていた。周囲では純血名家の生徒たちが低い声で談笑しているが、二人の間だけは、静かで繊細な空気が流れている。
「アラン、授業に遅れます」とレギュラスがそっと声をかける。
「ええ、急ぎましょう」とアランは静かに応じ、カップを置いて立ち上がる。
レギュラスは、できる限りアランのそばにいることを選んでいた。彼女の中にいるシリウスの影を、自分の存在で少しでも覆い隠せるのではないか――そんな思いが、彼の胸の奥に静かに息づいていた。同じスリザリンの寮生であること、そして婚約者という立場。かつては兄シリウスが独占していたアランの隣を、今は自分が堂々と歩ける。それはレギュラスにとって、密かな誇りであり、ささやかな幸福だった。
大理石の床を踏みしめて並んで歩くとき、レギュラスはアランの横顔をそっと盗み見る。翡翠色の瞳はどこか遠くを見つめているが、その隣に自分がいるという事実が、彼の心を満たしていた。
スリザリンの生徒たちは、野心や誇りを胸に秘めている。レギュラスもまた、欲しいものを手に入れるために静かに努力を重ねてきた。だが今は、ただアランの隣にいること――それだけが、彼の一番の願いだった。
廊下を歩く二人の間に、言葉はほとんどない。それでも、レギュラスはこの沈黙すら愛おしく感じていた。アランの心がまだ兄を追い続けていることを知りながらも、彼女の隣に立つことができる今を、何よりも誇らしく思っていた。
スリザリンの冷たい石壁に朝の光が差し込む中、レギュラスはそっと歩幅を合わせ、アランの歩みに寄り添った。彼の中で静かに芽生える希望と誇りが、緑の寮服の下で密やかに輝いていた。
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